The Japanese Journal of Pediatric Hematology/Oncology vol. 54(2): , 2017 Aflac-TOMODACHI 小林正悟 * 福島県立医科大学附属病院小児腫瘍科 Training Abroad Report of TOM

Similar documents
診療科 血液内科 ( 専門医取得コース ) 到達目標 血液悪性腫瘍 出血性疾患 凝固異常症の診断から治療管理を含めた血液疾患一般臨床を豊富に経験し 血液専門医取得を目指す 研修日数 週 4 日 6 ヶ月 ~12 ヶ月 期間定員対象評価実技診療知識 1 年若干名専門医取得前の医師業務内容やサマリの確認

2 2

総合診療

2009年8月17日

The Japanese Journal of Pediatric Hematology/Oncology vol. 53(2): , TOMODACHI-Aflac 佐野弘純 * 社会医療法人北楡会札幌北楡病院小児思春期科 Wonderful Experience as

為化比較試験の結果が出ています ただ この Disease management というのは その国の医療事情にかなり依存したプログラム構成をしなくてはいけないということから わが国でも独自の Disease management プログラムの開発が必要ではないかということで 今回開発を試みました

がんの診療の流れ この図は がんの 受診 から 経過観察 への流れです 大まかでも 流れがみえると心にゆとりが生まれます ゆとりは 医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう あなたらしく過ごすためにお役立てください がんの疑い 体調がおかしいな と思ったまま 放っておかないでください な

Slide 1

TOHOKU UNIVERSITY HOSPITAL 今回はすこし長文です このミニコラムを読んでいただいているみなさんにとって 救命救急センターは 文字どおり 命 を救うところ という印象が強いことと思います もちろん われわれ救急医と看護師は 患者さんの救命を第一に考え どんな絶望の状況でも 他

査を実施し 必要に応じ適切な措置を講ずること (2) 本品の警告 効能 効果 性能 用法 用量及び使用方法は以下のとお りであるので 特段の留意をお願いすること なお その他の使用上の注意については 添付文書を参照されたいこと 警告 1 本品投与後に重篤な有害事象の発現が認められていること 及び本品

環境 体制整備 4 チェック項目意見 事業所評価 生活空間は 清潔で 心地よく過ごせる環境になっているか また 子ども達の活動に合わせた空間となっているか クーラーの設定温度がもう少し下がればなおよいと思いました 蒸し暑く感じました お迎え時に見学させて頂きますが とても清潔だと思

1. はじめに近畿ブロック ( 福井県 滋賀県 京都府 奈良県 和歌山県 ) で指定を受けた小児がん拠点病院 ( 以下 拠点病院 ) は 京都府立医科大学附属病院 京都大学医学部附属病院 立こども病院 大阪市立総合医療センター 立母子保健総合医療センターの 5 施設 ( 順不同 ) であり 全国 7

< A815B B83578D E9197BF5F906697C38B40945C F92F18B9F91CC90A72E786C73>

H1

PowerPoint プレゼンテーション

001


はじめに この 成人 T 細胞白血病リンパ腫 (ATLL) の治療日記 は を服用される患者さんが 服用状況 体調の変化 検査結果の経過などを記録するための冊子です は 催奇形性があり サリドマイドの同類薬です は 胎児 ( お腹の赤ちゃん ) に障害を起こす可能性があります 生まれてくる赤ちゃんに

助成研究演題 - 平成 23 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 重症心不全の集学的治療確立のための QOL 研究 東京大学医学系研究科重症心不全治療開発講座客員研究員 ( 助成時 : 東京大学医学部附属病院循環器内科日本学術振興会特別研究員 PD) 加藤尚子 私は 重症心不全の集学的治療確立のた

高齢化率が上昇する中 認定看護師は患者への直接的な看護だけでなく看護職への指導 看護体制づくりなどのさまざまな場面におけるキーパーソンとして 今後もさらなる活躍が期待されます 高齢者の生活を支える主な分野と所属状況は 以下の通りです 脳卒中リハビリテーション看護認定看護師 脳卒中発症直後から 患者の

<835A E E A B83678F578C768C8B89CA E786C7378>


豊川市民病院 バースセンターのご案内 バースセンターとは 豊川市民病院にあるバースセンターとは 医療設備のある病院内でのお産と 助産所のような自然なお産という 両方の良さを兼ね備えたお産のシステムです 部屋は バストイレ付きの畳敷きの部屋で 産後はご家族で過ごすことができます 正常経過の妊婦さんを対

2011 年 11 月 2 日放送 NHCAP の概念 長崎大学病院院長 河野茂 はじめに NHCAP という言葉を 初めて聴いたかたもいらっしゃると思いますが これは Nursing and HealthCare Associated Pneumonia の略で 日本語では 医療 介護関連肺炎 と

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

Microsoft Word - CDDP+VNR患者用パンフレット doc

2017年度患者さん満足度調査結果(入院)

家族の介護負担感や死別後の抑うつ症状 介護について全般的に負担感が大きかった 割合が4 割 患者の死亡後に抑うつ等の高い精神的な負担を抱えるものの割合が2 割弱と 家族の介護負担やその後の精神的な負担が高いことなどが示されました 予備調査の結果から 人生の最終段階における患者や家族の苦痛の緩和が難し

医師等の確保対策に関する行政評価・監視結果報告書 第4-1

その成果に関する報告はありますが 胎児治療に関する診療システムについて詳細に比較検討したものはありません これからの日本の胎児治療において 治療法の臨床応用推進と共に より充実した診療体制の構築と整備は非常に要請の高い課題であると思われます スライド 4 今回の目的です 海外の胎児治療の専門施設にお


減量・コース投与期間短縮の基準


263号6月.indd

PowerPoint プレゼンテーション

<4D F736F F F696E74202D2088A295948D DC58F4994C E956C8FBC814091E F193FB82AA82F18E7396AF8CF68A4A8D758DC0>

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

<4D F736F F D2089BB8A7797C C B B835888E790AC8C7689E6>

虎ノ門医学セミナー


untitled

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

放射線併用全身化学療法 (GC+RT 療法 ) 様の予定表 No.1 月日 経過 達成目標 治療 ( 点滴 内服 ) 検査 処置 活動 安静度 リハビリ 食事 栄養指導 清潔 排泄 / 入院当日 ~ 治療前日 化学療法について理解でき 精神的に安定した状態で治療が

02 入職 (1 年目 ) 2 写真 ( 脇さん ) No.1 就活している学生の皆さんへ! 私の場合は 条件がかなり限定的だったため 決めやすかったのですが 病院の特徴と薬剤科がどのような仕事内容なのかをしっかり説明して頂ける病院にしました それは 入職後に望んだ条件ではないのが分かったとしても

Microsoft PowerPoint - 総-1-2  薬剤師の病棟業務.pptx

Microsoft PowerPoint - 薬物療法専門薬剤師制度_症例サマリー例_HP掲載用.pptx

配偶子凍結終了時 妊孕能温存施設より直接 妊孕能温存支援施設 ( がん治療施設 ) へ連絡がん治療担当医の先生へ妊孕能温存施設より妊孕能温存治療の終了報告 治療内容をご連絡します 次回がん治療の為の患者受診日が未定の場合は受診日を御指示下さい 原疾患治療期間中 妊孕能温存施設より患者の方々へ連絡 定

1

3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

習う ということで 教育を受ける側の 意味合いになると思います また 教育者とした場合 その構造は 義 ( 案 ) では この考え方に基づき 教える ことと学ぶことはダイナミックな相互作用 と捉えています 教育する 者 となると思います 看護学教育の定義を これに当てはめると 教授学習過程する者 と

1 8 ぜ 表2 入院時検査成績 2 諺齢 APTT ALP 1471U I Fib 274 LDH 2971U 1 AT3 FDP alb 4 2 BUN 16 Cr K4 O Cl g dl O DLST 許 皇磯 二 図1 入院時胸骨骨髄像 低形成で 異常細胞は認め

人間ドック受診者アンケート報告書 ( 平成 29 年 06 月 27 日 ~ 平成 29 年 07 月 18 日実施 ) 共立蒲原総合病院健康診断センター

ROCKY NOTE 食物アレルギー ( ) 症例目を追加記載 食物アレルギー関連の 2 例をもとに考察 1 例目 30 代男性 アレルギーについて調べてほしいというこ

<955C8E862E657073>


看護部 : 教育理念 目標 目的 理念 看護部理念に基づき組織の中での自分の位置づけを明らかにし 主体的によりよい看護実践ができる看護職員を育成する 目標 看護職員の個々の学習ニーズを尊重し 専門職業人として成長 発達を支援するための教育環境を提供する 目的 1 看護専門職として 質の高いケアを提供

「訪問診療において看護師が同席する意義とメリットについて」

1 がんに対する印象 認識について (1) がんに対する印象 問 1 あなたは, がんについてどのような印象を持っていますか この中から 1 つだけお答えください こわいと思わない( 小計 ) 22.4% 24.6% こわいと思わない 12.1% 13.6% どちらかといえばこわいと思わない 10.

がん登録実務について

4 研修について考慮する事項 1. 研修の対象者 a. 職種横断的な研修か 限定した職種への研修か b. 部署 部門を横断する研修か 部署及び部門別か c. 職種別の研修か 2. 研修内容とプログラム a. 研修の企画においては 対象者や研修内容に応じて開催時刻を考慮する b. 全員への周知が必要な

<4D F736F F F696E74202D208E9197BF B9957B8CA78BA68B6389EF B83678C8B89CA82BD82CE82B188C432>

BLF57E002C_ボシュリフ服薬日記_ indd

5. 乳がん 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専門 乳房切除 乳房温存 乳房再建 冷凍凝固摘出術 1 乳腺 内分泌外科 ( 外科 ) 形成外科 2 2 あり あり なし あり なし なし あり なし なし あり なし なし 6. 脳腫瘍 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専

未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

ども これを用いて 患者さんが来たとき 例えば頭が痛いと言ったときに ではその頭痛の程度はどうかとか あるいは呼吸困難はどの程度かということから 5 段階で緊急度を判定するシステムになっています ポスター 3 ポスター -4 研究方法ですけれども 研究デザインは至ってシンプルです 導入した前後で比較

00

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

wslist01

訪問審査当日の進行表 審査体制区分 1: 主機能のみ < 訪問 2 日目 > 時間 内容 8:50~9:00 10 分程度休憩を入れる可能性があります 9:00~10:30 薬剤部門 臨床検査部門 画像診断部門 地域医療連携室 相談室 リハビリテーション部門 医療機器管理部門 中央滅菌材料部門 =

(Microsoft Word - Weekly\223\307\216\322\203A\203\223\203P\201[\203g\222\262\215\270\214\213\211\312\203\214\203|\201[\203g_No.1_Ver.3.0.doc)

こうすればうまくいく! 薬剤師による処方提案

平成19年度 病院立入検査結果について

Q2 なぜ上記の疾患について服薬指導が大変だと思いますか インフル エンザ その場で吸入をしてもらったほうがいいけれど 時間がかかるのと 熱でぼーっ 一般内科門前薬局 としていると 理解が薄い 患者さんの状態が良くないことが多い上に 吸入薬を中心に 指導が煩雑である から 小児科門前薬局 吸入薬の手

160号1P表紙

DOTS 実施率に関する補足資料 平成 26 年 12 月 25 日 結核研究所対策支援部作成 平成 23 年 5 月に改正された 結核に関する特定感染症予防指針 に DOTS の実施状況は自治体による違いが大きく実施体制の強化が必要であること 院内 DOTS 及び地域 DOTS の実施において医療

H28_クリニカルラダー研修

<4D F736F F F696E74202D E81798E9197BF33817A8FAC8E998B7E8B7D88E397C391CC90A782CC8CBB8FF32E >

下関市立大学広報第71号

審査結果 平成 23 年 4 月 11 日 [ 販 売 名 ] ミオ MIBG-I123 注射液 [ 一 般 名 ] 3-ヨードベンジルグアニジン ( 123 I) 注射液 [ 申請者名 ] 富士フイルム RI ファーマ株式会社 [ 申請年月日 ] 平成 22 年 11 月 11 日 [ 審査結果

3-2 学びの機会 グループワークやプレゼンテーション ディスカッションを取り入れた授業が 8 年間で大きく増加 この8 年間で グループワークなどの協同作業をする授業 ( よく+ある程度あった ) と回答した比率は18.1ポイント プレゼンテーションの機会を取り入れた授業 ( 同 ) は 16.0

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

「             」  説明および同意書

白血病治療の最前線


要望番号 ;Ⅱ-24 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者 ( 該当するものにチェックする ) 学会 ( 学会名 ; 特定非営利活動法人日本臨床腫瘍学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 8 位 ( 全 33 要望中

平成 28 年 10 月 17 日 平成 28 年度の認定看護師教育基準カリキュラムから排尿自立指導料の所定の研修として認めら れることとなりました 平成 28 年度研修生から 排泄自立指導料 算定要件 施設基準を満たすことができます 下部尿路機能障害を有する患者に対して 病棟でのケアや多職種チーム

Microsoft Word - <原文>.doc

血液 尿を用いたライソゾーム病のスクリーニング検査法の検討 に関する説明書 一般財団法人脳神経疾患研究所先端医療研究センター 所属長衞藤義勝 この説明書は 血液 尿を用いたライソゾーム病のスクリーニング検査法の検討 の内容について説明したものです この研究についてご理解 ご賛同いただける場合は, 被


京都府がん対策推進条例をここに公布する 平成 23 年 3 月 18 日 京都府知事山田啓二 京都府条例第 7 号 京都府がん対策推進条例 目次 第 1 章 総則 ( 第 1 条 - 第 6 条 ) 第 2 章 がん対策に関する施策 ( 第 7 条 - 第 15 条 ) 第 3 章 がん対策の推進

Microsoft Word 年度シニア 呼吸器内科 2014.docx

2018 年 3 月 15 日 株式会社千早ティー スリー 代表取締役谷口仁志 平成 30 年度診療報酬改定における重症度 医療 看護必要度関連の変更について 拝啓時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます さて 平成 30 年度診療報酬改定における施設基準等が 3 月 5 日に公開され 重症度

Microsoft Word - ① 鏡.docx

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

<4D F736F F F696E74202D208ED089EF959F8E F958B5A8F70985F315F91E630338D E328C8E313393FA8D E >

ンパ浮腫外来業務および乳腺外来業務で全日および半日をそれぞれ週に 2 日に変更する さくら 9 は現状の外来業務として平日の全日に 4 名を助勤しているが これに加え さらに輸血業務として 1 名を助勤し 計 5 名を助勤していきたいと考えている さくら 8 は新たに児童精神科外来業務として全日を週

脂質異常症を診断できる 高尿酸血症を診断できる C. 症状 病態の経験 1. 頻度の高い症状 a 全身倦怠感 b 体重減少 体重増加 c 尿量異常 2. 緊急を要する病態 a 低血糖 b 糖尿性ケトアシドーシス 高浸透圧高血糖症候群 c 甲状腺クリーゼ d 副腎クリーゼ 副腎不全 e 粘液水腫性昏睡

PT51_p69_77.indd

Microsoft Word - 医療学科AP(0613修正マスタ).docx

1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( はい / ) 上記外来の名称 対象となるストーマの種類 7 ストーマ外来の説明が掲載されているページのと は 手入力せずにホームページからコピーしてください 他施設でがんの診療を受けている または 診療を受けていた患者さんを

Transcription:

The Japanese Journal of Pediatric Hematology/Oncology vol. 54(2): 161 168, 2017 Aflac-TOMODACHI 小林正悟 * 福島県立医科大学附属病院小児腫瘍科 Training Abroad Report of TOMODACHI-Aflac Program at Aflac Cancer and Blood Disorders Center, Children s Healthcare of Atlanta Shogo Kobayashi* Fukushima Medical University Hospital, Department of Pediatric Oncology 私は2016 年 8 月から2017 年 1 月の約半年間, TOMODACHI アフラックプログラム によりアメリカジョージア州アトランタ市にある アフラックがん 血液病センター :Aflac Cancer and Blood Disorders Center(Aflac- CBDC) へ留学しました. TOMODACHI アフラックプログラム は, 日本の小児がん治療に携わる医師を米国の小児血液 がん診療の最前線である Aflac-CBDC に派遣し, 米国の臨床現場での経験を日本の小児血液 がんの治療研究に役立てることを目的とする留学助成制度で, 公益財団法人米日カウンシルと在日米国大使館が主導する官民パートナーシップ事業である TOMODACHI イニシアチブ にアフラック (Aflac) が参画する形で設立されました. TOMODACHI イニシアチブ とは, 日米の協力と友情の精神を基盤にその絆を継続し, 教育, 異文化交流などのプログラムを通して次世代のリーダーを育成することを支援する事業で, 東日本大震災に対して行われた米軍の東北地方への災害救助 救援活動である Operation Tomodachi( トモダチ作戦 ) を起源としています. 小児がん診療の経験を積み重ねていく中で, 日本のがんの子供たちに医師という立場で少しでも貢献できるようになりたいと思っていた私は, 自分の学びを深める絶好の機会と考え, 思い切ってこの留学制度に応募しました. 応募当初は小児がん拠点病院でもない地方病院の医師が代表して行っていいものかと躊躇いの気持ちもありましたが, 日本小児血液 がん学会の先生方を含む審査員の方々に選考して頂くことができ, 第 4 回派遣医師として 1 3) 熱い想い doi: 10.11412/jspho.54.161 * 責任著者連絡先 : 960-1295 福島市光が丘一番地福島県立医科大学附属病院小児腫瘍科小林正悟 E-mail: shogo@fmu.ac.jp と強い責任感を背負いながら, 身の引き締まる思いで渡米しました. ここでは, 半年間と短い期間ではあったものの私にとってとても貴重な経験となった米国での研修内容を報告させて頂きたいと思います. Children s Healthcare of Atlanta CHOA Aflac Cancer and Blood disorders Center Aflac- CBDC 1996 年の夏季オリンピック開催地としても世界的な知名度を有するアトランタは, 米国南東部に位置するジョージア州の州都で人口は広域都市圏を含めると約 600 万人を数える. 世界最大級の発着便数を誇る国際ハブ空港を持ち, デルタ航空, コカ コーラ,CNN など多数の大企業が本社を置くアメリカ南部最大の商業 経済の中心地としての役割も担っている. アトランタ小児病院 (Children s Healthcare of Atlanta: CHOA) は Egleston 病院,Scottish Rite 病院,Hughes Spalding 病院の 3 大病院と多くの診療所を抱える巨大な病院組織である. 上記 3 病院は, それぞれエモリー大学のキャンパス内, アトランタ北部にある医療センター, ダウンタウン内のそれぞれ大きな医療施設が集まった病院群の中に位置している.CHOA のロゴマークの付いた看板 ( 写真 1) は病院の近くでなくても, 市内の道路脇, ショッピングセンター, フェスティバル会場など至る所で頻繁に目にすることができる. また,CHOA 内での大きな季節の催し ( 写真 2) は TV のローカルニュースでも報道され,CHOA はまさにアトランタを代表とする顔の一つとなっていた. CHOA には各々の病院に循環器, 呼吸器, 内分泌等を含め多くの科があるが, 血液腫瘍科である Aflac-CBDC は Egleston と Scottish Rite の 2 病院で展開されており, この 2 病院が私の研修拠点となった.Aflac-CBDC はその名前からもお分かり頂けるかもしれないが,Aflac の強力なバッ

162 日本小児血液 がん学会雑誌 第 54 巻第 2 号 2017 年 臨床研修プログラム 私の研修プログラムは Afrac-CBDC の総合教育プログラ ムディレクターで fellowship program の責任者でもある Dr. Briones が以下のように設定してくれた 2016 年 8 月 Egleston 病院での造血細胞移植外来研修 9 月 Egleston 病院での造血細胞移植入院病棟研修 10 月 Egleston 病院での血液 腫瘍病棟研修 11 月 Scottish Rite 病院での血液 腫瘍病棟研修 12 月 Egleston 病院 Scottish Rite 病院での血液 腫瘍外 来研修 写真 1 Children s Healthcare of Atlanta at Egleston 2017 年 1 月 臨床研究のまとめと帰国準備 過去の論文 学会発表業績から私が移植や難治性白血病 に関心があるとの判断で 造血細胞移植ユニットや小児 がん病棟での研修期間を長めに設定してくれた また 2016 年 9 月にアトランタ市内で行われた COG の Fall Group Meeting 10 月にジョージア州北部にあるリゾート施設内 で開かれた Aflac-CBDC の Research Meeting 12 月には San Diego で開かれた米国血液学会 ASH に参加する機会も 頂くことができた Children s Healthcare of Atlanta での研修始まる 写真 2 CHOA のマスコットキャラクターと 10 月 21 日は Cape Day 病気と闘い続ける子供たちをヒーローとして称える記念日 で 患児たちに敬意と支援の意を表すため病院スタッフも Cape マント を纏いながら業務にあたっていた 研修が始まりまず圧倒されたのは 病院内の人材やアメ ニティの驚くほどの充実さであった 移植病棟だけでなく 血液 がん病棟は全て広い間取りの個室クリーンルーム で 長期入院の患児は自分の好きなおもちゃをたくさん持 クアップを得て運営されており CHOA 内でも圧倒的な存 ち込み 壁には様々なポスターが張られたり自由にデコ 在感を放っていた Aflac-CBDC への主要な寄付金年額 レーションがなされ 家族もゆったりとしたソファーに寛 1,400 万ドルのうち約 6 割が Aflac からの資金であり 1995 いでいる まるで自分の家で過ごしているようで 回診の 年以来 Aflac の寄付金は現在までに総額 1 億ドル以上に達 ときはそれぞれの家庭に訪問するような錯覚に陥るくらい している 年間 7,000 例以上の小児がん 血液病患者を診 だった ホテルさながらのルームサービスも用意され 電 療し 2015 年の小児造血細胞移植症例は 81 例と米国中で 話一本で家族にも食事が病室まで運び込まれる 患児の もトップクラスの移植数を誇る 神経芽腫に対する MIBG 同胞が幼少で付き添いの母から離れられないような状況 治療実績は延べ 50 例以上 また 2016 年時点で CAR-T 療 では その同胞も患児と同室することが許されていた さ 法を行う世界 21 施設のうちの 1 施設ともなっている U.S. らに衝撃だったのは 集中治療室で人工呼吸管理された News & World Report が発表する Best Hospitals for Pediatric 患者さんの所でさえも 家族が 24 時間付き添えるように Cancer では毎年 10 位以内にランクインするといった実績 なっていたことだ パラメディカルの人材も非常に豊富で も有し 研究費は National Institute of Health NIH からの Child life specialist 牧師 学校教諭 心理療法士 音楽療 約 800 万ドルを含め年間約 1,700 万ドルを獲得しており 法士の他 多数のボランティアの活動により病院全体の医 Children s Oncology Group COG の臨床試験 新規薬剤治 療が支えられていた また それぞれの病棟にはホスピタ 療開発のための phase I 治療等を含め 300 以上の臨床試験 ルドッグがいて患児たちに笑顔を与え 心を癒す 最も清 が行われている 潔に気を遣う血液 小児がん病棟でも複数病室のうち一室

4 TOMODACHI-Aflac 163 がホスピタルドッグの部屋になっており, 専属の飼育員も雇われていた. 朝のカンファランスには医師, 看護師らと共にその飼育員も参加し, 入院患者の病状把握に努めていたのがとても印象的であった. 自宅で飼っているペットも獣医師の許可があれば一部の爬虫類を除いて病室に持ち込んでも良いという規則もあった.CHOA では医療者側の都合で患者さんに対する規制があったり, 面会時間が設けられていたりということはなく, ここは病院で病気を治すところなのだから, 患者さんはわがままを言わずにある程度のことは我慢してください といった発想は全くないようであった. もちろん多額の寄付金や民間の慈善活動に支えられたシステムに依るところが前提にあるものの, 患児と家族の希望と幸福を最大限に実現させることに労を惜しまずに, 病院を築き上げてきた成果がここにはあるのだと思った. 移植外来では, 移植後患者のフォローアップとこれから移植を受ける患者, 家族に対する説明 同意の取得が主であった. 今まで Atlanta 市外の病院で治療を受けていた患児, また CHOA 内で治療を受けていた患児も移植治療が考慮された場合, 移植専門チームにコンサルトされ引き継がれることになる. 造血細胞移植はベネフィットだけでなく様々なリスクも伴う治療法であることから, 最低でも計 3 回のインフォームドコンセントが行われ, 患者の十分な納得のもとに同意が得られるシステムとなっていた. 外来のスタイルは日本と異なり医療者が患児のいる診察室を訪ねて診療をするという形で, 患児は好きなお菓子やジュース, 塗り絵道具など貰い, 好きな TV 番組を見ながら待ち時間や診察時間を過ごしていた. ステロイド抵抗性慢性 GVHD の患者に対しては体外フォトフェレーシスや Ruxolitinib など, まだ日本ではその使用にハードルが高い治療が行われ実際に臨床症状の改善が得られていた. 移植治療に関わらず, この後に研修した血液 腫瘍外来 病棟でも, 新規薬剤を導入したいくつかの臨床試験が行われており, 数年前よりは差が縮まりつつあるものの依然として存在する日米間のドラッグ ラグの現状を直に感じさせられた. 移植病棟は血液 がん病棟と独立し,10 部屋の設備で毎週 1 2 件のペースで移植が行われていた. 同種, 自家移植を含め年間移植件数は約 80 例程度で,1985 年以降 1,000 件を超す小児造血細胞移植例を経験している. その中でも鎌状赤血球症の移植を得意とし, 同疾患に対し世界で最初 に臍帯血移植を成功させた施設でもある. アメリカ南部でアフリカ系アフリカ人の人口が多いことからこの疾患も多い背景があり,CHOA での鎌状赤血球症研究は臨床だけでなく基礎分野でも世界トップクラスの実績を誇っていた. 日本では希少疾患であり出会うことがほとんどない疾患であるため当初はあまり興味がなかったのだが, 移植患者の約 3 割がこの鎌状赤血球症の患者さんであるため必然的に勉強せざるを得なくなった. 英文の教科書でも鎌状赤血球に対する移植に関して詳細な解説がなされているものを見つけることができなかったので, たくさんの疑問点を書き出した後, アテンディングに質問したところ憶え切れないほど沢山の知見を懇切, 丁寧に教えてくれた. 鎌状赤血球症の患者は出血リスクが高いため赤血球, 血小板の輸血基準が通常の移植より高めに設定される. 年齢, Genotype, 失神発作の重症度などにより移植適応が慎重に判断され, 重症度に応じてドナーソース, 前処置なども厳密に分類されていた. これらの知識は恐らく帰国後に役立つものではないかもしれないが, 非腫瘍性疾患に対する造血細胞移植の考え方を整理する上で非常に役立ったと思う. C-reactive protein CRP 移植後, 生着までの好中球減少症期間に頭痛を訴え頭部 CT により副鼻腔 ~ 眼窩に及ぶ蜂巣炎と診断された患児がいた. 勿論, 真菌感染が鑑別になるわけであるが, β-d グルカンやガラクトマンナン抗原は検査しないのか? とアテンディングに質問したところ, 第一に コストの問題 が挙げられ, 確定診断に結びつかない こと, 一度検査するとそれをフォローしなければならない ことなどを理由に検査しないと回答された. 結局のところ, その患者さんは生検により接合菌症と診断された. 米国では感染症の診断 治療に CRP を使用しないというのは日本の臨床医の間でも有名な事実だが, この真菌マーカーの検査をしないという判断と結びつくものがありそうである. もちろんそのときのアテンディングの判断で検査されることもあり, 全く皆無というわけではないが, 造血細胞移植の現場においても私の 2 か月間の研修中に CRP は一度も検査されていなかった. その代わり血液培養は頻繁に採取され, 前述のように臨床症状を有する副鼻腔炎に対しては移植治療以外の患者でも積極的に生検がなされていた. また, 気道炎症状があるときには多種類のウイルス, 細菌抗原を網羅する PCR Panel が用いられていた. 結局のところコストのことよりも確定診断, 病因診断に重きを置いているような印象を持った. 日本ではとりあえず CRP を測定し, それが高いと感染症と決めつけ臨床症状がはっきりしなくとも抗菌薬を開始

164 日本小児血液 がん学会雑誌 第 54 巻第 2 号 2017 年 するという現場にしばしば遭遇する 特に集中治療室 免 疫抑制剤を服用している患者 化学療法を受けている患者 ではこのやり方が頻用されやすい しかし 残念ながら CRP 上昇でもって抗菌薬使用を正当化するようなエビ デンスは皆無であり 逆に CRP が陰性化したから抗菌薬 を中止しても良いというエビデンスもない もちろん CRP を用いた臨床判断については 感染症専門家の間で も長い論争になっているようなので私がこの是非について 論じるつもりはないが CRP をルーチンに検査しないと いうことは無駄な抗菌薬の使用低減に大きな貢献をするこ とは間違いない ルーチンの検査を止める勇気がなけれ ば CRP はあくまでも感染症の診断材料の一つであり 高 くなったので心配だから念のため抗菌薬 といった使用は 避け 患者の全身状態や臨床経過から判断することを心掛 けていくことが肝要であると思われた CHOA でも行われていた顆粒球輸血 前述の接合菌症の患者さんだが 眼窩を巻き込んだ急激 な症状の悪化から顆粒球輸血が計画された 福島医大と同 じ 方 法 で あ る Dexamethasone/GCSF の 前 日 投 与 に よ り ド 写真 3 アフラック血液病がんセンターの Chief を昨年まで務めて いた Professor Emeritus. WG. Woods と 教授職を引退後も Attending Physician として小児がん診療を継続されていた 病棟回診では患 者さん 家族に対する丁寧な挨拶を欠かさない 決して偉ぶるこ とはなく 1 人 1 人の患者さんに対する紳士的な診療態度に非常 に感銘を受けた 1 週間彼と共に回診できたことは幸運であり貴 重な経験となった ナーから顆粒球が採取された ドナーとして血液型一致の 父 姉 そして姉の婚約者までもが選ばれ 好中球生着ま も年間に約 100 例の新規患者の診療を行っている 各々の でに 2 日毎に顆粒球採取 及び患者に対する輸注が行われ 病院で特徴はあるが 1 人のアテンディング 小児血液 た 顆粒球輸血はどのような施設でも行われているわけで がん専門医 に数名の Pediatric Nurse Practitioner PNP ま はなく標準的な治療とは言えないが 私の福島医大でも好 たは Physician Assistant PA 小児血液 がん専門医を目 中球減少期間の重症感染症に対して患者救命のためにしば 指しトレーニングを受けている 1 4 年目のフェロー 血 しば行われる 輸血回数が多く必要なる場合 家族だけで 液 腫瘍領域に限らず各部門をローテーションしているレ なく血液型一致の親戚に協力してもらうケースも少なくな ジデント 研修医 病棟薬剤師 栄養士 そしてソー い 一つの命を救うため 当に医療者と家族 親戚が一致 シャルワーカーが 1 つのチームになって診療するのが基本 団結して立ち向かう場面である 患者は無事に生着し 後 スタイルだ 朝 9 時からのカンファレンスでは毎日 1 時間 遺症は避けられなかったものの幸運にも一命を取り留める 半程度 徹底したディスカッションが行われ その後の回 ことができた 太平洋を越えたこの巨大な小児病院でも 診も全員参加で 1 人 1 人の患児に十分時間をかけて行わ 日本の地方病院と全く同じ光景を目にしたことに何とも言 れていた カンファランスでは 夜勤の担当看護師により えない感動が胸に押し寄せた 当日朝までの患児のバイタルや全身状態が報告された後 PNP PA フェローまたはレジデントがその日の治療方針 血液 腫瘍病棟研修 についてプレゼンテーションを行う アテンディングは方 針の確認または適宜修正を行い フェロー等の教育も同時 小児がん診療医が全ての小児血液 腫瘍疾患を診療しな に行う 写真 3 薬剤師や栄養士も医師と対等に治療方 ければならない日本とはシステムが大きく異なり 白血 針の決定に加わり 各々の専門性を生かし 薬剤の選択 病 リンパ腫部門 造血細胞移植部門以外にも非腫瘍性血 投与方法 栄養計画についてイニシアチブをとる場面も多 液疾患部門 固形腫瘍部門 脳腫瘍部門 血友病 凝固部 くみられた 複数の医療者が知識を総動員し 最善の治療 門 鎌状赤血球部門 長期フォロー 内分泌部門と多チー をめぐって一歩も譲らぬ議論をするオープンさと真摯さ ムに分かれてそれぞれ専門性を活かし最先端の治療を提供 に 医療者の強い信念が感じられた していた High risk 神経芽腫に対する抗 GD2 抗体 ANBL0032 プ Egleston 病院および Scottish Rite 病院には Aflac 血液 が ロトコール による免疫療法では 副作用による疼痛や ん病床として各病院に約 30 の病床があり 白血病だけで 血管漏出症候群に対する支持療法を また 131MIBG 治療で

4 TOMODACHI-Aflac 165 は隔離病室での治療の実際を学ぶことができた. 前者は将来日本でも神経芽腫に対して導入されていく薬剤であり, 後者に関しては私の福島医大でも研究治療が開始される予定であることから, 今後の自身の臨床に役立てることができるという点で非常に意義のある経験となった. また,CAR-T 療法や難治性固形腫瘍に対する Nivolumab と Ipilibumab の併用療法 (ADVL1412: phase I/II) など最新の臨床試験を学ばせてもらったこともまた貴重な経験となったし, 帰国後すぐにでも自施設の医療現場に取り入れることができそうな化学療法の副作用に対する基本的な支持療法などについても大いに学習させてもらった. ガイドライン通り, 第一世代抗ヒスタミン内服薬が嘔気に対する支持療法薬として頻用され, 食欲不振改善目的に Periactin が用いられていた場面もあった. 新薬が次々に開発されていく現代で, 古典的な薬もその用途に応じ有効活用されているようであった. 因みに, 日本ではその特効薬がないとされる妊娠悪阻に対し, 米国では第一世代抗ヒスタミン薬の一種である Diclegis が FDA により承認されている. 米国では小児がん患者であっても入院期間が極度に制限されている. 日本と保険システムが異なり入院医療費が格段に高いためだが, ここ Aflac-CBDC でも例外ではなかった. 悪性腫瘍疾患の場合, 入院で行われるのは治療強度の強い化学療法と HD-MTX や IE 療法などの大量輸液を必要とする化学療法, 発熱性好中球減少症 (FN) を主とする感染症や合併症の治療である. 従って入院患者は ALL よりも AML が多く, 骨肉腫や Ewing 肉腫などの固形腫瘍患者の定期入院が多い.ALL の場合は, 腫瘍崩壊症候群のリスクがなくなれば, 寛解導入療法が始まった数日 ~ 2 週間程度で外来治療に移行され,FN などの合併症がなければ, HD-MTX 治療のために 3 日程度入院する以外は入院治療を要することはほとんどない. したがって悪性血液 腫瘍患者の化学療法は外来中心で行われることになり, インフォームドコンセントを含め診療方針決定の場もほとんどが外来である. 診察室の他にも多くの外来化学療法用のソファーが備えられ, 遠くにダウンタウンを眺望できる窓際で患児たちが化学療法や輸血を受けている光景は非常に印象的であった. 日本ではみられない医療職種が米国には存在する. 特別な資格を要する職種として主に (P)NP と PA が挙げられるが, その他にも日本よりもはるかに多様な医療職種があり, 日本で医師や看護師が担当している仕事は, それぞれ の職種の人が自らの専門性を活かし役割分担している. 患者の状態が安定するとソーシャルワーカーによって速やかに退院調整が行われ, 退院後のケアの問題なども入院中から患者およびその家族と話し合われ, ケア全体がコーディネートされていた. 薬剤師は日本の薬剤師がする仕事以外に, 抗菌薬の量や投与間隔, 各種薬物の相互作用のチェック, 実際の指示出しまで行う.(P)NP と PA は看護師と医師の中間にあたる医療職で, 経験と知識を積んだ特定の分野に関しては, かなりの技能と権限を持っていた. どちらも病院内では医師の監督下で働くが, 処方箋の作成, 薬剤のオーダー, 退院サマリーの作成などが可能で, ほとんどフェローと同等かそれ以上の裁量権があり, 同時にレジデントやフェローらの教育も実質的に担っていた. 骨髄穿刺や腰椎穿刺などの手技は小児集中医療専門医の麻酔下に PNP または PA, ときに 1 ~ 2 年目のフェローにより行われる. 大きなイヤリングとネックレスを身に着けロングブーツを履いた PNP が腰椎穿刺する光景には違和感をおぼえたものの, 熟練した手技でフェローらが行うときよりもずっと安心して見ていられるのは言うまでもない. また,PNP や PA は病棟または外来にずっと固定で働いているため, 交替で勤務する医師らよりもずっと内部の事情に精通していた. 日本ではこの NP や PA の導入に関して医師の間でも反対意見が根強いようだが, 私は大いに賛成である.Aflac-CBDC の医師らは彼女たちの存在により本来医師に求められる臨床決断や患者に対する病状説明, または研究業務に専念できている. 特に日本の大学病院のように医師がブラックな働き方を強いられるようなところで導入されれば, 業務負担の軽減につながるし, 専門的な技能と権限を活かしながら働ける環境があれば医師以外のスタッフのやり甲斐にもつながる. 何よりも, 一人の患者にじつに多くの医療従事者の目が自然に向けられ, 患者へのケアもきめ細かくなるし安全性の向上にもつながる. 医師数を増員する政策も重要だが, 各チームメンバーがそれぞれの専門性を出し合う真の協力体制作りの方がずっと効率的と考えるのは私だけではないと思う. CHOA カルテを読めばその医師の実力がわかる, と言われる. CHOA のような, 誇り高い医師の集まった競争の激しい病院で, カルテ書きが一種の示威手段となるのは当然かもしれないが, フェローやレジデントらの記載は手慣れたもので, 日々のカルテ, 退院サマリーともにすべて一定の様式を厳守し流れるように書き上げてあった. 一見コピペのようにも見えるが患者情報の伝達手段としての伝統的なカルテの形式がルールとして厳然とあるようで, カルテの中で高度な医学的議論をするにも, 必ず基本的な情報をきちん

166 54 2 2017 と丁寧に抑えてから検討に入っているようであった. そして, カルテには医師 看護師 栄養士 理学療法士 ケースワーカー 学校教諭 牧師により次々と記載がなされる. 医師のカルテは純医学的な冷たい記述になりがちだが, ほかの医療者の記述があることで, みんなで 1 人 1 人の患児を援助しようという温かさ, そして畏敬の念が感じられた. Fall Research conference 2016 10/16 18 の 3 日間, アトランタ市内から車で 2 時間ほど離れたリゾート施設内で研究発表会が開催された. 毎年春と秋の年 2 回, 定期的に催されているそうだが, 泊まり掛けでの会議は今回が初めての試みだったそうで, 幸運なことに私も参加させてもらうことができた. 外部大学教授による招聘講演を皮切りに,2 3 年目のフェロー, 助教等による研究発表が行われた. 同じ CHOA 内で働くフェロー等の研究でも基礎研究から臨床研究まで多岐にわたり, 各々の発表後は専門分野内外の研究者等から有意義な質問やコメントがなされ, 個々人の研究にさらに磨きがかけられていく. フェローシップの 2 3 年目は週 1 2 日程度の外来に加えて, その他の時間は研究に従事できるプログラムであり, 臨床を学ぶだけでなく研究にも取り組める体制がしっかり整っている. さらに感心させられたのは研究内容が聴衆に理解しやすいように工夫された彼らのスライド作製技術とプレゼン能力だ. 専門外の分野でも飽きることなく, のめりこむように聞き入らされる. 彼らは初等教育の頃からプレゼン方法を学んでいるそうだが, 我々日本人医師は少なくとも医学部教育時点でプレゼン技術を体系的かつ徹底的に学ぶ機会が必要だと思った. 多くの日本人医師に十分な英語力とプレゼン能力が備われば, 効率的に我々の研究を世界に発信することが可能となりさらなる日本の医療レベル向上につながるはずだ. 3 日間たっぷり勉強させてもらい頭の中は疲労感でいっぱいになったが, 夕食会で CHOA の医師たちと親睦を深め病棟ではできないようなプライベートな話を聞けたこと, 自由時間にハイキングに出掛け初秋の爽やかな風の匂いを感じながらジョージアの広大な自然を満喫できたことは研修の素晴らしい思い出のうちの 1 つになった. 様々な刺激をもらった臨床見学であったが,2 3 か月過ぎるとそれだけでは何か物足りなさが感じられてくるのは常に忙しく働き回る日本の小児がん臨床医の宿命かもしれない. 臨床見学以外にも, 造血細胞移植または難治性白血病に関連した後方視的研究をやりたいと Dr. Briones に申し 出たところ, 白血病リンパ腫チームに私を紹介してくれた. 研究テーマはチームの医師らと検討を重ね, 最終的に Outcome of children with hypodiploid accounting minimal residual disease at the end of Induction というテーマで Dr. Castellino に指導を受けながら臨床データの解析を行うことになった. 研究に取り掛かる前には,IRB の書類作成, チームカンファランスと IRB での研究計画のプレゼンテーションといった大仕事があった. 特に IRB の書類作成には難渋したが ( 日本語でも解読が難しい資料なのに英語だとなおさら分からない!),Clinical research coordinator の協力も得てなんとかデータ解析に着手することができた. Dr. Castellino は, 笑顔が少なくクールな印象で私は当初緊張しながら接していたが, 忙しい合間にもかかわらず親身に指導してくださり, 直接指導頂いた最後の別れ際にかけられる Good job! には, いつもほっとした気持ちにさせられた. レトロの解析は日本でも何度か経験していたものの, 臨床研究の考え方や進め方について改めて勉強させて頂く幸運な機会となった. 帰国前までの 1 か月間に何とか論文に仕上げ投稿準備にも取り掛かることができた. この成果は是非国際学会でも発表する機会を作りたい. Aflac-CBDC Aflac-CBDC には good teacher が多く, 何度も感銘を受けた. 片手間でいやいやながら教える雰囲気がまだ残る日本の医療現場とは大違いで, 教育をないがしろにする雰囲気はまったくなかった. もちろんアテンディングによりその教育方法に個人差はあるものの, 病棟回診,Tumor board, Fellow core lecture では基礎研究から臨床の最新知見まで幅広い内容が丁寧にフェロー等に教えられていた. 私も研修医の頃に戻ったつもりでフェロー等と一緒にたくさん勉強させてもらった.Fellow core lecture とは, 毎週一回早朝に開かれ担当のフェローが順番に一つの小児血液腫瘍疾患についてスライドにまとめて発表するスタイルで行われる. 教科書に記載されている内容だけでなく最新文献のレビューもされ, 臨床や研究で忙しいのにここまでよく調べられたなあと感心させられる. レクチャーにはAflac- CBDC 内からそのときに主題となる疾患のエキスパートが参加し, フェローのプレゼン途中に時々コメントする形で進められる. ある日のレクチャーで, 参加したエキスパートが余りに口を挟みすぎて, 結局全スライドの半分も進まずに終了時間を迎えてしまったことには苦笑してしまったが, その教育熱心な態度にとても感銘を受けた. また,Aflac-CBDC では毎年 Best Teacher Award が発表される. アテンディングらも医学生, レジデントやフェローらによって評価を受け, 臨床, 研究だけでなく教育病院としての機能をも向上させる仕組みが存在している. 病棟で

4 TOMODACHI-Aflac 167 出会い, 私に対してもとても親切に教えてくれたアテンディングがいた. その人は初発の白血病疑いの患者さんが救急外来に受診した際は, 検査室まで私を連れて行き末梢血スメアを一緒に顕鏡してディスカッションをさせてくれた. 急変患者が MRI 検査をしたときには報告書が出る前に共に放射線科医のところへ直接訪ね, 逸早く所見を聞きに行った. このアテンディングが Best Teacher Award の受賞歴があったことを後になって知る機会があった. 教育される側もしっかり教育者を評価している証拠であろう. 教育される側のニーズを見極め, 教育される側の立場を考えながら教育することの重要性を再認識させられた. 多くの日本人医師が行う基礎研究留学とは違い, 臨床の現場にどっぷりと浸かることができたこの留学は, 半年間という短い期間であったものの大変貴重な経験となった. 日本人医師でも米国の医療に憧れもっと若いころから臨床留学を経験し, またその中にはそのまま米国の臨床を続けていく医師もいる. しかし日本での臨床を十分に経験し実情をよく理解してからこそ経験できた米国医療現場での多くのカルチャーショックの中から得たものは, 日本の小児がん医療のこれからの課題を見極めるという点で, 大いに意義があるものだったと思う. また, 今回の研修では がんばれ, がんばれ と精神力を重視し経験的な医療 教育から抜け出せない日本と, 組織的な制度のもとに医療 教育が行われ科学的に積み重ねていく米国のシステムの差を痛切に感じさせられた. 米国の小児がん医療には日本の大人の医療以上にいくつもの subspecialityがあって, それぞれにできる人がいて, うまく統合されて患児の治療に生かされている. 日本では, 小児がん診療医がいくつもの専門を掛け持ちして走り回っている場合がほとんどである. 忙しさや責任の大きさから, 小児がんを専門とすることに躊躇する新卒医師が多くなっていくことは大きな社会問題へと発展するかもしれない. 日本独自の医局制度の中で発展しつつも, 小児科医局の一部門として扱われ続けてきた点も問題だったかもしれない. また, ジョージア州では人口約 1000 万人に対し,8 9 割以上の小児がん患者が CHOA に集約され, 州内で小児の移植が行われる唯一の施設でもある, それに対し日本はまだ小児がん診療施設の集約が十分に進んでいなく全国で 100 以上, 東京首都圏だけでも 20 以上の施設があり, 多くの小児がん診療医はプライマリーな疾患も診療しなければならない. また我々の施設に至っては採血や点滴の確保, 土日の抗がん剤のミキシングは医師の仕事である. これらの事実を Aflac-CBDC の医師たちに話したところ, 冗談交じりに 日本はとても crazy なところだ と評された. 一方で, 私が医師になるよりずっと前からこの十分に成熟していない日本の医療システムの中で小児がん診療に携わり, 身を粉にして昼夜献身的に働き, 欧米に遜色ない治療成績を成し遂げてくださった先生方や医療関係者の強い責任と情熱に改めて深い尊敬の念を感じるようになった. また, 日本には世界が嫉妬するといわれる国民皆保険制度や, 高額療養費制度, 小児慢性特定疾患治療研究事業等がある. 米国ではオバマケアが導入された後も保険システムは日本のそれとは異なり,Aflac-CBDC の医師たちでさえ CT 検査一つするにも保険会社にお伺いを立てている現場をよく目にした. トランプ政権になり米国の保険制度がどう変わっていくのかも今のところ先行き不透明である. 今後日本は自国の持つ良いシステムは維持しつつ, 効率的な医療システムの構築に社会全体で取り組むことが必要だ. 今までと引き続き小児がん医療の発展が医療者の努力に大きく依存しているような状況が続くのであれば, 本当の 患児のための小児がん医療 を実現するには限界があると思われる. 患者集約化に向けた小児がん拠点病院の強いリーダーシップにも期待したい. 自分で自分を褒めたい. マラソンの有森裕子選手がアトランタ五輪で銅メダルを獲得したときのコメントである.Aflac-CBDC の外来では患児に最後の化学療法が行われると, End-of-Treatment の鐘 を患児自ら鳴らす光景を目にすることができる. そして外来 病棟の壁にはがんと闘ってきた子供たちのたくさんの肖像写真が, それぞれの業績を称えるかのように飾られている.1 人 1 人笑顔を浮かべ, 自信を持った顔つきが印象的だ. 米国での生活を通して, 医療にかかわらず日本は社会全体で子供たちを守っていこうという体制がまだまだ未熟であると実感した. つらく長い治療を乗り越えてきたがんの子供たちが自信をもって自分は頑張ったんだと感じられ, そして胸を張って未来に羽ばたいていくことをアシストできる環境作りが必要だ. 私も今回の経験を活かし, 医師という立場で日本全体の小児がん医療の発展に少しでも貢献できるよう邁進していきたい. 最後に私の海外研修を支えてくださった皆様に厚く御礼申し上げたい. 特に, 私を快く送り出してくださった福島医大小児腫瘍科の菊田敦教授をはじめ, 諸先生方およびスタッフ, 私を選考してくださった日本小児血液 がん学会の先生方, 今回の留学に関してたくさんのアドバイスをくださった Tomodachi プログラム前任の佐野弘純先生, 多くのご尽力を頂いた Aflac 社とそのスタッフの皆様,Aflac- CBDC の Dr. Briones,Dr. Castellino を始め多くのスタッフ ( 写真 4), 米国滞在中に我々家族を助けてくれたエモリー

168 日本小児血液 がん学会雑誌 第 54 巻第 2 号 2017 年 大学の日本人研究者のご家族の皆様 そして渡米当時は英 語もしゃべれなかったのに異国の地まで私についてきてく れた妻と 2 人の子どもたちにこの場をお借りして心から の感謝を捧げたい 文 献 1) 細谷要介 アトランタ小児病院アフラック小児がん 血 液病センター留学報告 第 1 期 Aflac-TOMODACHI プロ グラムに参加して 日本小児血液 がん学会雑誌 51: 172 176, 2014. 2) 大島淳二郎 アトランタ小児病院アフラック小児がん 血液病センター留学報告 TOMODACHI Aflac プログラ ム第 2 回派遣医師として 日本小児血液 がん学会雑 誌 52: 165 171, 2015. 3) 佐野弘純 アトランタ小児病院アフラック小児がん 血 液病センター留学報告 第 3 回 TOMODACHI-Aflac プロ グラムでの素晴らしい経験 日本小児血液 がん学会 雑誌 53: 158 164, 2016. 写真 4 帰国前 小児がんサバイバーセンターの Professor. Meacham 宅で開いて頂いた farewell dinner 本当にたくさんの人の支えが あって 成し遂げられた研修であったと思います 帰国後はこの 恩を返すべく日本の小児がん医療に貢献できるよう頑張っていき たいと思います