「ゲノムインプリント消去には能動的脱メチル化が必要である」【石野史敏教授】

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研究の背景 哺乳類の発生過程では ゲノムワイドな DNA 脱メチル化が1) 受精から着床までの初期発生の時期 2) 始原生殖細胞 (primordial germ cell: PGC) が将来の生殖巣 ( 精巣や卵巣 ) である生殖隆起まで移動し定住する時期で起きます 特に PGC では脱メチル化に伴うインプリント消去後 精子 卵子形成過程でインプリントが再刷込み ( 再成立 ) されるので インプリントは完全に消去 ( 脱メチル化 ) される必要があります ( 図 1) 脱メチル化過程でメチル化シトシン (5mC) は異なる2つの機構で未修飾のシトシン (C) に変換されます 受動的脱メチル化 (passive demethylation) は 5mC が細胞分裂に伴って希釈されていく機構 能動的脱メチル化 (active demethylation) は細胞分裂に依存せず C まで変換する機構ですが 1) 2) の時期にどちらの機構が関与するのか 見解は二転三転していました ( 図 2) 初期発生における卵子に由来する雌性前核は 細胞分裂とともに徐々に希釈される受動的脱メチル化をうけます ( 図 2a) 一方で 精子に由来する雌性前核 PGC におけるゲノムインプリントの消去は能動的脱メチル化の代表例と考えらえていました ( 図 1, 図 2b) しかし 2009 年以降 ゲノム中に 5mC の酸化誘導体であるヒドロキシメチル化シトシン (5hmC) などの存在が確認され この酸化反応を触媒する Tet (ten eleven translocation) 酵素群も哺乳類で同定されたことから それまでの考えは大きく修正されました 5hmC は能動的脱メチル化機構の中間体でもありますが 雄性前核の場合 C から 5hmC への急速な変換後は受動的に希釈されること (Inoue and Zhang Science 2011)( 図 2c) PGC でのゲノムインプリント消去も PGC の細胞分裂速度の速さから考えて受動的脱メチル化を支持する意見が優勢になりました (Hackett et al. Science 2013, Kagiwada et al. EMBO J 2013)( 図 2c) 研究成果の概要 2002 年に同グループは胎仔期の PGC においてインプリント記憶の消去が起きる過程を世界で初めて検出することに成功しています (Lee et al. Development 2002) インプリント消去途中の DNA メチル化パターンがモザイク状を示すことが能動的脱メチル化の関与を示唆する証拠であると考え ( 図 3) 受動的脱メチル化反応に対する阻害剤として DNA 複製阻害剤 ( アフィディコリン ) 能動的脱メチル化の阻害剤として DNA 塩基除去修復に働く Poly(ADP-ribose) polymerase (PARP) 阻害剤 (3-AB) の2つの薬剤の PGC の脱メチル化における効果を生体において測定しました その結果 どちらの薬剤も脱メチル化を阻害することから 両方の機構がこれに関係していることが判りました ( 図 4) 特に DNA 複製を止めた状態でも脱メチル化反応が進むことは ( 図 4) 生体内での PGC のインプリント消去に能動的脱メチル化機構が積極的に関与することを物語っています ( 図 2d) 卵子形成では インプリント消去の開始から短時間で 減数分裂第一分裂に入り そこで個体の性成熟まで細胞分裂が停止します 完全に両親由来のインプリンティング記憶の消去 ( 特に父親由来のインプリント記憶消去 ) がなされないと 次世代の子供の発生に重大な問題を生じると考えられます ( 図 5) その意味で PGC における能動的脱メチル化は ヒトを含めた哺乳類の個体発生において重要な役割を果たしていると言えます 2

図 3 PGC におけるゲノムインプリント ) の消去 図 4 脱メチル化反応に対する阻害剤の効果 図 5 能動的脱メチル化の生物学的意義 研究成果の意義 本研究はゲノムインプリントの消去に能動的 DNA 脱メチル化が関与することを 生体内から分離した PGC をもちいて初めて明らかにする事に成功しました 今回の成果は PGC における真の脱メチル化機構を明らかにしただけでなく 能動的 DNA 脱メチル化の卵子形成における重要性を示したことで 哺乳類の生物学に重要な新局面を拓いたものと言えます 3

図の説明 図 1 ゲノムインプリントのリプログラミングゲノムワイドの脱メチル化は 受精直後の受精卵 (a) と生殖細胞系列の PGC の中で起きます (b) 精子 卵子に刷込まれたゲノムインプリント (c, d) は体細胞系列で一生維持されます ( 細い黒線 ) PGC は はじめは体細胞と同じゲノムインプリントを持っていますが ( 太い黒線 ) 将来の生殖巣( 卵巣や精巣 ) である生殖隆起に定住する前後で消去されます (b) 図 2 DNA 脱メチル化機構の変遷 DNA メチル化は CpG 配列のシトシンの5 位に起こります (5mC) Tet 酵素により酸化されたヒドロキシメチル化シトシン (5hmC) は脱メチル化経路の中間点に存在します 受精後 雌性前核は a 経路を通りますが 雄性前核は 最近 b 経路ではなく c 経路を通ると修正されました PGC のゲノムインプリントに関しても c 経路を取るという考えが優勢でしたが 今回の研究は d 経路 ( 塩基除去修復をもちいた能動的脱メチル化を受ける経路 ) の関与を実証しました 図 3 PGC におけるゲノムインプリントの消去 H19-DMR の場合 PGC における脱メチル化は胎仔期 9.5 日目から 11.5 日目までにほぼ完了します 途中のメチル化パターンには メチル化 ( 黒丸 ) 部分と非メチル化 ( 白丸 ) 部分が1 本の DNA( 左から右への一行 ) に混在したモザイク状模様が見られます 細胞分裂による希釈では説明できず 能動的脱メチル化の関与が示唆されます 図 4 脱メチル化反応に対する阻害剤の効果胎仔期 9.5 日目から半日置きに DNA 複製阻害剤または塩基除去修復阻害剤を母体に投与し 11.25 日目に胎仔から分離した PGC の H19-DMR のメチル化度を調べました コントロール ( 右 ) と比べて塩基除去修復阻害剤 ( 中央 ) の高い阻害効果は能動的脱メチル化の証拠です DNA 複製阻害剤 ( 中央 ) も一部に阻害効果がみられましたが 脱メチル化はかなり進行していることも能動的脱メチル化の関与を示唆します 図 5 能動的脱メチル化の生物学的意義メスの PGC ではゲノムインプリントの消去開始から減数分裂の開始までの細胞分裂の回数は限られます 受動的脱メチル化だけでは幾つかの卵細胞にメチル化 DNA が残り ( 細胞分裂 3 回ならば 2/8 4 回ならば 2/16) 特に 父親型インプリントが残る場合は発生異常の原因となると考えらえます 能動的脱メチル化はゲノムインプリントの完全な消去に必須の機構と考えられます 用語説明 ゲノムインプリント哺乳類発生に重要なエピジェネテック情報の一つで 父親 母親由来ゲノムからのみ発現するインプリント遺伝子の発現制御をおこなう ゲノム刷込みとも言われるこの情報は 哺乳類のライフサイクルで生殖細胞において消去 再成立され次世代に伝わる DNA メチル化 DNA 塩基シトシン (C) がメチル基 (CH 3) で修飾されること 一般には遺伝子の抑制に働く ゲノムインプリントの場合 精子 卵子にメチル化状態が刷込まれ インプリント遺伝子の発現 抑制の両方に機能し 消去の際に脱メチル化される 4

問い合わせ先 < 研究に関すること> 東京医科歯科大学難治疾患研究所 分野エピジェネティクス分野氏名石野史敏 ( イシノフミトシ ) TEL:03-5803-4862 FAX:03-5803- 4863 E-mail:fishino.epgn@mri.tmd.ac.jp < 報道に関すること> 東京医科歯科大学広報部広報課 113-8510 東京都文京区湯島 1-5-45 TEL:03-5803-5833 FAX:03-5803-0272 E-mail:kouhou.adm@tmd.ac.jp 5