急性A型大動脈解離術後の残存解離腔の検討

Similar documents
A型大動脈解離に対する弓部置換術の手術成績 -手術手技上の工夫-

背景 急性大動脈解離は致死的な疾患である. 上行大動脈に解離を伴っている急性大動脈解離 Stanford A 型は発症後の致死率が高く, それ故診断後に緊急手術を施行することが一般的であり, 方針として確立されている. 一方上行大動脈に解離を伴わない急性大動脈解離 Stanford B 型の治療方法

単純遮断下に手術を行った胸腹部大動脈瘤の2例

エントリーが発生 真腔と偽腔に解離 図 2 急性大動脈解離 ( 動脈の壁が急にはがれる ) Stanford Classification Type A Type B 図 3 スタンフォード分類 (A 型,B 型 ) (Kouchoukos et al:n Engl J Med 1997) 液が血管

スライド 1

ゼラチン処理woven Dacron人工血管(Gelweave)の臨床使用成

効である 2. 当院におけるステントグラフトの現状 岐阜県総合医療センター循環器内科医長後藤芳章 岐阜県総合医療センターでは 循環器内科で心臓血管治療を担当している 2010 年 9 月より手術開始し 当初は 血管造影室や手術室に実施していたが 2013 年 7 月よりハイブリッド手術室を稼働した

Vol.42 No.10( 2010)

PowerPoint プレゼンテーション

2年経って考える。 TXDはありか?なしか?あってもよしか。 〜ステントグラフト単独治療群約80例と比較する〜

左外側大腿回旋動脈瘤を伴う右破裂性大腿深動脈瘤の1例

大腿動脈穿刺後に生じた仮性動脈瘤手術症例の検討

吻合部動脈瘤を合併した遠隔期Dacron人工血管非吻合部動脈瘤の1例

図 1 血栓閉塞型急性大動脈解離単純 CTにおいて偽腔が三日月状の高濃度域として認められる. 造影 CTでも真腔との交通を認めない. 間, 臨床病型, 合併症, 手術の有無, および予後を検討した. 臨床病型は造影 CTを用いてStanford 分類とDeBakey 分類で行った. 単純 CTにおい

199 5 年 3 月 30 日 ( , Thro 町 bosed 分類した DeBakey 分類 3) (en 町 r と解離の進展範囲から 3 型に分類 ) と S 匂 nford 分類 4) ( 上行大動脈に解離が及 ぶか否かで 2 型に分類 ) がよく用いられるが

歴史

d. 急性大動脈解離の症状多くの場合に 突然 胸部や背部の激しい痛みが起こります まさに 引き裂かれるような 痛みと訴える患者さんもいます また 解離の進展によりさまざまな臓器の血流障害が生じ 多彩な症状を示します ( 大動脈弁逆流 心筋梗塞 心不全 意識障害 腹痛 下肢痛など ) 一方 発症から時


cover

08症例報告4山内.indd

対象 :7 例 ( 性 6 例 女性 1 例 ) 年齢 : 平均 47.1 歳 (30~76 歳 ) 受傷機転 運転中の交通外傷 4 例 不自然な格好で転倒 2 例 車に轢かれた 1 例 全例後方脱臼 : 可及的早期に整復

心疾患患による死亡亡数等 平成 28 年において 全国国で約 20 万人が心疾疾患を原因として死亡しており 死死亡数全体の 15.2% を占占め 死亡順順位の第 2 位であります このうち本県の死亡死亡数は 1,324 人となっています 本県県の死亡率 ( 人口 10 万対 ) は 概概ね全国より高

日本臨床麻酔学会 vol.32

Microsoft Word - 心臓血管外科.doc


暫定心臓血管外科専門医認定申請書

肺気腫の DUAL ENERGY CT像について

循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2010 年度合同研究班報告 ) 4.MRI(magnetic resonance imaging)class Ⅱ a Adamkiewicz 動脈の同定 大動脈解離 ( 急性大動脈解離に対する治療法の選択における推奨 ) 2

“‡Œ{flÇ-Œ{ŁÒ-01

心臓血管外科カリキュラム Ⅰ. 目的と特徴心臓血管外科は心臓 大血管及び末梢血管など循環器系疾患の外科的治療を行う診療科です 循環器は全身の酸素 栄養供給に欠くべからざるシステムであり 生体の恒常性維持において 非常に重要な役割をはたしています その異常は生命にとって致命的な状態となり 様々な疾患

症例_一ノ瀬先生.indd

超41-3廣岡先生(大動脈末梢動脈)_念*.indd

valiant_captivia_product_catalog

0811-c.doc

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

教育講座 : 大動脈ステントグラフト術における画像診断の活用 腹部動脈瘤の治療であっても 小柄な女性の場合には治療中にデバイスが大動脈弓部を超えることもある もしも大動脈弓部に壁在血栓があると血栓を飛ばす可能性があるので 必ず CT で弓部まで全部撮ることにしている もし弓部に壁在血栓がある場合には

審査報告書 平成 26 年 9 月 11 日 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 承認申請のあった下記の医療機器にかかる医薬品医療機器総合機構での審査結果は 以下のとおりである 記 [ 類 別 ] : 機械器具 07 内臓機能代用器 [ 一般的名称 ] : 大動脈用ステントグラフト [ 販 売 名

心臓血管外科 取得可能専門医 認定医及び到達目標など 専門医 認定医 名称 取得年数最短通常 基本となるもの 外科専門医 5 年目 5 年 ~7 年 心臓血管外科専門医 7 年目 7 年 ~10 年 取得可能なもの 循環器専門医 6 年目 6 年 ~10 年 移植認定医 6 年目 6 年 ~10 年

症例_佐藤先生.indd

“‡Œ{flÇ-…_…C…W…F…X…g-01


急性大動脈解離

Jpn. J. Vas. Sur. 26S: 17SupplS14 (2017)

本文/開催および演題募集のお知らせ

動脈瘤と静脈瘤の体に優しい治療法 ~ステントグラフト内挿術とラジオ波焼灼術~

外傷性胸部大動脈損傷の検討

虎ノ門医学セミナー

帝京大学 CVS セミナー スライドの説明 感染性心内膜炎は 心臓の弁膜の感染症である その結果 菌塊が血中を流れ敗血症を引き起こす危険性と 弁膜が破壊され急性の弁膜症による心不全を発症する危険性がある 治療には 内科治療として抗生物質の投与と薬物による心不全コントロールがあり 外科治療として 菌を

IVR21-4本文.indb

上肢動脈病変を伴った胸郭出口症候群

PowerPoint プレゼンテーション

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

i

Microsoft PowerPoint - komatsu 2

腎動脈が瘤より分枝し腎動脈再建を要した腹部大動脈瘤の3手術例

本文/開催および演題募集のお知らせ

Keywords: 右総頸動脈閉塞を合併した外傷性大動脈解離に対するオープンステントグラフトを用いた上行 弓部 下行大動脈置換術の 1 例 blunt traumatic aortic injury, open stentgraft, occlusion of right common caroti

くろすはーと30 tei

EPSON LP-S7500シリーズ 取扱説明書1 セットアップと使い方編

<924A814092BC8EF72E656339>

Surgical AKI non-cardiac surgery

Behcet病に合併した大動脈瘤の治療経験

心臓カテーテル検査についての説明文

U 開腹手術 があります で行う腎部分切除術の際には 側腹部を約 腎部分切除術 でも切除する方法はほぼ同様ですが 腹部に があります これら 開腹手術 ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術を受けられる方へ 腎腫瘍の治療法 腎腫瘍に対する手術療法には 腎臓全体を摘出するU 腎摘除術 Uと腫瘍とその周囲の腎

上原記念生命科学財団研究報告集, 27 (2013)

C/NC : committed/noncommitted

Transcription:

1996年月 中島ほか 急性A型大動脈解離術後の残存解離腔 解離腔は血栓閉鎖していた また腎動脈分岐部付近の 表 201 前期 後期における術直後の残存解離腔 限局性解離の残存を例に認めた 前期 残存解離状態を時期別にみると(表1) 前期ではN 分類 型 弓部 群 3例,Ra群:12例,Rb群 3例であった なおN 症例数 3 群のうち術前に下行大動脈解離腔が血栓閉鎖していた N群 ものが例あった 一方 後期ではN群:10例, Ra 8 Rb群 大動脈が血栓閉鎖していたのは例であった よって 川b型 型 - 9 4(4) 3(2) Ra群 群 例 Rb群 例であり N群のうち術前に下行 後期 4 11型 弓部 )内は術前に下行大動脈の解離腔が血栓閉鎖して いた症例を示す 術前に下行大動脈解離腔に血流のあった症例は前期で は16例で,後期ではII型を除く7例であった これよ り術後に弓部,下行大動脈起始部にintimal tear を残す 表 N群 Ra群 Rb群の大動脈最大径の変化 確率(Ra群となる確率)を求めると 前期で12/16 N群 Ra群 13 11 Rb群 (75%),後期で1/7(14%)であり前期の方が有意に高 症例数 かった(p 0.05 2 7 : Fisher's exact probability test). Follow-up 術後遠隔期の残存解離 退院後遠隔期に原因不明の突然死でRa群の例を 不変 示す なお大動脈径の有意な変化は術直後のCTと比 拡大 O た 各群の大動脈最大径(解離残存部)の変化を表に 20.1±10.7 C J 失った 遠隔期に新たな再解離を生じた症例はなかっ 45.4±21.6 0 大動脈最大径 縮小 20.2±17.7 9 0 較し5mm以上の差を認めたものとした N群のうち で大動脈拡大傾向を示した症例はなく 不変11例,縮 たと報告している 今回の対象症例では遠隔期に例 小例(0 mm. を失ったがいずれも広範な解離腔が残存した症例で 5mm)であった Ra群ではH例中 9例で拡大傾向(5 18mm)を認め 年拡大率は1.04 死因の詳細は明らかでないものの破裂による可能性は 3.20 mm/年(平均1.92±0.70 否定できない 一方, Svenssonら1 は解離性大動脈瘤 mm/年)であった こ のうち下行大動脈残存解離腔拡大(最大径50 mm, 690例の検討で 術後大動脈破裂には残存解離の有無 年 mm/年) 大動脈弁閉鎖不全症を示した が有意に関連していたと報告している しかし 術後 Marfan症候群の例に対しBentall手術十上行弓部大 残存解離腔の状態の推移について検討した報告は少な 動脈全置換手術を施行した 縮小したものはI例で い 拡大率:3.2 解離腔は完全に血栓閉鎖していた そのほかRa群で 島本ら9 は急性A型解離手術症例18例のうち15 は径の変わらないものがI例であった 一方,Rb群で は拡大傾向を示した症例はなく 例で縮小(5 例に残存解離腔を認め, Illb型残存解離腔となった14 mm. 例ではすべて下行大動脈の拡大傾向 マルファン症 6mm)し 5例で大動脈径の変化を認めなかった 術 例:6士l mm/年 非マルファン症例:2.9±0.8 mm/ 直後に下行大動脈起始部から残存解離を認めた症例が 年 を示したと報告している また 宮本らlo は A 例あったが いずれも下行大動脈上部 中央部まで 型解離術後27例のうち21例に残存解離を認め この の解離腔は血栓閉鎖し, うち下行大動脈に解離が残存した5例に拡大傾向を示 intimal tear以下の解離腔のみ したと報告した.自験例ではintimal tearが大動脈弓部 が残存していた 考 や下行大動脈起始部に残存した症例 Ra群 の11例 察 中9例に拡大傾向を認め 9例の年拡大率の平均値は 急性A型解離の術後遠隔期の予後は残存解離腔の 1.92±0.70mm/年であった Ra群のうちI例のみ大動脈最大径は解離腔の血栓 拡大や破裂に左右されることが多い 大動脈解離術後 の遠隔死亡の原因のうち大動脈瘤の破裂が占める割合 吸収により術後35ヵ月間で17 はDeBakeyら8)は29%, 例では 術直後DSAでre-entryが左腎動脈分岐部付 Haverichら4)は15 であっ 85 mm 縮小した この症

日血外会誌 202 文 近にあったが左腎動脈へは真腔と解離腔からの血流を 1) 認めた さらに術直後CTでre-entry付近の解離腔の Svensson, 献 L. G., 一部に血栓が認められており 術後遠隔期に解離腔内 a1. の血流が徐々に低下し 血栓閉塞したものと思われた aneurysms. Improving cal 一方 拡大傾向を示した症例では 解離腔血栓閉鎖し : Dissection results. 5巻号 the E. S., Hess, K. R. et aorta early long-term surgi- 82 IV):24-38, 1990. た例と異なり 腹部主要分枝のいずれかが解離腔か 2) Miller, らのみの血流を受けていたために解離腔の血流が保た れ徐々に拡大していったものと思われた しかし, Rb 群の残存解離腔内の血流はすべて 腹部主要分枝ある determinants for with 3) patients M., 残存解離腔拡大の因子として 1 瘤椎体横径比 術後 dissection : Necessity の最大遺残瘤径/Th6-7椎体横径 が以上 2 解離 ac. 49 : Surg., Acute 重要であることを指摘している われわれの検討から は残存解離腔へ流入するintimal 5) あると思われた al. 急性A型解離症例に対する手術において 超低体温 rysms. 6) 下の循環停止法により成績が向上してきたとする報告 が多くみられる2 12 14.それに伴い,循環停止下に弓部 も検索し確実にintimal 72 Management 7 井上 for Thor- W. C. et a1.: operative 11):22-34, L. G., Surg 208 D. D Speier, A dissections determi- outcome Glower, dissection. tearを検索することの重要性 type Scott, dissection et a1. :Thor- 1990. E. S., Svensson, : Aortic M. acute D. C, chronic for follow-up. Miller, long-term vors. ら流れる主要分枝の有無も拡大傾向に影響する因子で after 580-584, A., nants tearの位置と解離か J., Karck, aneurysms Haverich, mortality 1984. Lass, acic 4) dissections. I):153-164, Heinemann, P. E. et al. : operative 向を示す症例がなかったことは興味深い 土田ら川は 腔が真腔より広い 3 複数のentryを有する などが R. S Over, Independent 70 いは腰動脈へ流入しているものと思われたが 拡大傾 D. C Mitchell, : 254-273, aneu- W. D, et a1, : outcome 31-41, S. et 1988. R. H White, Surg 214: 1985. Coselli,. long-term survi- 1991. 正 解離性大動脈瘤の外科治療 日胸外会 が指摘されている13 14)急性A型解離において弓部に 誌 32 intimal tearを有する頻度としては9 21 4 14 16 と報 8) DeBakey, 告されている 自験例でも急性A型解離手術症例40 例中 7例(17.5%)に弓部のみにintimal : 665-670, S. tear を認め the aorta dred intimal tearがあることを術中に確認し切除した 弓部 Surgery, : Twenty-year twenty-seven 92 : follow-up patients treated E. aneurysms five hun- surgically 11 18-1 1 34 1982. 見た急性A型大動脈解離の治療方針 日胸外会 体温 循環停止法のその他の利点としては 動脈錨子 誌 39 がないので吻合が容易であり また遮断銀子による大 宮本 10) : 647-648, 1991. 巍,山下克彦 術後大動脈造影所見からみ たA型大動脈解離に対する外科治療成績の検討 る12-14 16)一方 問題点としては低体温による出血傾 日胸外会誌 39 : 650-652, 1991. 向や,脳,心筋保護の不明確性が挙げられるが17),われ 11 土田弘毅 解離性大動脈瘤の外科治療 遠隔成 われが経験した症例では術後出血による致命的な合併 績からみた問題点について一 日胸外会誌 36: 症や脳障害は経験しなかった 348-359, 1988. technique 12) Graham, は 術後弓部付近にtearを残存する頻度を減少させ management それに伴い術後残存解離の拡大症例を減少させること pround ができるものと思われた C. H., 9 島本光臣 山崎文郎 植田充宏他 遠隔成績から 大動脈内腔の検索の重要性が再認識させられた 超低 以上 超低体温 循環停止法によるopen E., McCollum, et al. : Dissection た また 例では上行大動脈と弓部大動脈のヵ所に 動脈の損傷や塞栓症を回避できることが指摘されてい M. 1984. Stinnett, D. M.:Operative acute arch dissection using hypothermia circulatory arrest. Thol 3c. S g 44 : 192-198 1987. 13 Boulafendis, Y. 86 J.M. D Bastounis, E Panayiotopoulos, P.et a1.: Acute type A aneu-