難治性がんオルガノイドを用いたスクリーニング技術による新規抗腫瘍薬の開発 慶應義塾大学薬学部薬物治療学講座 准教授 齋藤義正 2019 年 9 月 3 日 1
胆道がんについて 肝内胆管から十二指腸乳頭に至る胆道に発生する悪性腫瘍 日本人に多く 増加傾向にある ( 日本人がん死亡数の第 6 位 ) 早期発見が難しく 5 年生存率は約 20% と予後も極めて不良である Gemcitabineによる化学療法が胆道がんの標準治療となっているが 多くの症例が治療抵抗性を示し 化学療法による根治はほとんど望めない 2
オルガノイドは生体内の組織と高い類似性を示しており 従来の血清を含む培地で 2 次元培養を行う細胞株よりも薬剤感受性スクリーニングなどに適している この培養技術を用いてマウス正常腸管上皮および Apc min マウス由来の腸管腫瘍から採取した幹細胞がオルガノイド ( 組織構造体 ) を形成することを確認した マウス腸管上皮幹細胞のオルガノイド培養 オルガノイド培養 幹細胞マーカーである LGR5 に着目し R-spondin1 などの幹細胞維持に必須な増殖因子のみを加えた無血清培地を用いてマトリゲル ( 基底膜マトリックス ) 中で行う幹細胞の 3 次元培養 Apc min マウスの腸管腫瘍からの幹細胞の分離 培養 3
胆道 膵臓がん組織からのオルガノイドの樹立 肝内胆管がん 肝外胆管がん 胆嚢がん 膵臓がん 4
長期継代培養 (1 年以上 ) が可能となった胆道 膵臓がんオルガノイドの臨床情報およびドライバー遺伝子変異 1. 肝内胆管がん (70 歳女性 ) 2. 膵臓がん (46 歳女性 ) 3. 肝内胆管がん (80 歳男性 ) 4. 胆嚢がん (41 歳女性 ) 5. 肝内胆管がん (46 歳男性 ) 6. ファーター乳頭部神経内分泌がん (74 歳男性 ) Patient Information and Driver Gene Mutations No. Age Sex Diagnosis Driver gene mutation (amino acid chage) TP53 KRAS TGFBR2 CDKN2A IDH1 CTNNB1 APC SMAD4 1 314 70 F IHCC, adeno, mod R175H G12V 125 FS 2 2T 46 F PDA, poorly H140Y G12D 529FS 3 9T 80 M IHCC, adeno, poor to mod 302 FS R132L 4 21T 41 F GBC, adeno, well G245S G12S S45F 5 26T 46 M IHCC, adeno, mod C242F W15* 6 44T 74 M NEC, poorly Q61R R232* IHCC, intrahepatic cholangiocarcinoma; adeno, adenocarcinoma; well, well differentiated; mod, moderately differentiated; poor, poorly differentiated; GBC, GB cancer; NEC, neuroendocrine carcinoma; PDA, pancreatic ductal adenocarcinoma; FS, frameshift; *, stop colon 5
肝内胆管がん組織からのオルガノイドの樹立 Surgically resected IHCC tissue specimen Primary tissue (HE) Organoid (HE) Organoid (Bright field) Moderately differentiated adenocarcinoma Poorly differentiated adenocarcinoma Moderately differentiated adenocarcinoma Scale bars: 100µm (HE), 1000µm (BF)
肝内胆管がん組織と樹立したオルガノイドの組織学的類似性 中分化型腺がん 低分化型腺がん Primary tissue Organoid H&E CK19 Scale bars: 100mm
肝内胆管がん組織と樹立したオルガノイドの類似性 ( 免疫染色 ) Primary tissue Organoid HE CK7 HE CK7 PAS MUC1 PAS MUC1 Scale bars: 100mm
胆嚢がん由来オルガノイドの形態と免疫染色 Surgically resected GBC tissue specimen HE Primary tissue HE Organoid CK7 CK7 Organoid culture PAS PAS Scale bars: 1000µm Scale bars: 100µm
ファーター乳頭部神経内分泌がん由来オルガノイドの形態と免疫染色 Surgically resected tissue specimen of neuroendocrine carcinoma (NEC) of the ampulla of Vater HE Primary tissue HE Organoid Synaptophysin Synaptophysin Organoid culture Chromogranin A Chromogranin A Scale bars: 1000µm Scale bars: 100µm
1T-Xe 胆道がんオルガノイドを用いた遺伝子発現解析 PLA2G4A CRYM SNX10 HOXB7 HOXA10-AS SKAP2 SOX2 PIR SPINK4 CCND1 BAG1 ONECUT2 MMP1 SLC9B2 ARMCX2 AKR7A3 TUBB6 SLC15A1 SLC28A3 VCAN CD24 SPRR3 DUOXA1 DUOX1 THFSF15 33N 32T 32N 25T 35L 37L 29L 30T 30N 34N 26N 28T Non-cancer organoids 26T 22T CC1 1TP7 1TP32 1TP58 1TP177 3T 19T 36T 9T 24T Cancer organoids 9T-Ti Probability of survival 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 (TCGA-CHOL) p=0.00025 (log-rank test) SOX2 low SOX2 high 0 500 1000 1500 2000 Time since diagnosis (days) SOX2 が胆道がん患者の予後を予測する新たなバイオマーカーの候補となる
胆道がんオルガノイドを用いた既存薬ライブラリーによるスクリーニング 18-5 1.400 1.200 1.000 0.800 0.600 0.400 0.200 0.000 Control A B C D E F G H Control D E F 12
Drug screening with clinically used drugs Plating organoids (1.2 x 10 3 / well) Compounds (0.1 mm) WST assay 339 compounds (clinically used drugs) Fraction viability of control Day 0 4 10 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0 Control a b c d e f g h Control d e f 22 compounds that suppress organoids (fraction viability of control < 0.5) Anticancer agent Antimicrotubule agent Cabazitaxel, Docetaxel, Epothilone B, Vindesine, Vinorelbine Tyrosine kinase inhibitor Afratinib, Dasatinib, Lapatinib Antimetabolite agent Clofarabine, Gemcitabine, Pralatrexate mtor inhibitor Everolimus, Rapamycin Proteasome inhibitor Bortezomib, Carfilzomib Topoisomerase inhibitor Aclarubicin Antitumor antibiotic Mitomycin C DNA methylation inhibitor 5-Aza-2'-deoxycytidine Other Antifungal agent Amorolfine, Fenticonazole HMG-CoA reductase inhibitor Cerivastatin Dopamine D2 receptor agonist Talipexole 13
Fraction viability of control Drug repositioning strategy using cancer organoids 1.4 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 Amorolfine 0.0 0.1 1.0 10 (mm) Fraction viability of control 1.4 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 Fenticonazole 0.0 0.1 1.0 10 (mm) Control Amorolfine Fenticonazole 1T (IHCC) 3T (PDA) 9T (IHCC) 19T (GBC) 24T (IHCC) 36T (NEC) Saito Y et al. Cell Rep. 27, 1265, 2019. これらの既存薬は既に安全性が確認されているため 胆道がんや膵臓がんを最小限の副作用で効率的に抑制する新規予防 治療薬となることが期待される 14
腫瘍オルガノイドバンクの構築による個別化治療の開発 オルガノイド培養による腫瘍の in vitro モデルの構築 凍結保存によるストック作製 遺伝子発現解析ゲノム エピゲノム解析薬剤スクリーニング 外科手術や内視鏡下生検などによる腫瘍組織の採取 新たなバイオマーカーおよび治療薬の開発 最適な治療薬を用いた個別化治療の確立 15
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従来技術とその問題点 現在 胆道 膵臓がんに対する化学療法には 主にゲムシタビンが用いられているが その効果は限定的であり 5 年生存率も極めて不良である 従来の創薬スクリーニングには 血清含有培地で培養を行う 2 次元の細胞株が用いられてきたが 生体内の腫瘍を再現しているとは言い難い 従来の創薬スクリーニングではヒットしなかった化合物も本技術によりヒット化合物となる可能性がある 18
新技術の特徴 従来技術との比較 本技術では オルガノイド培養により胆道 膵臓がんを生体に近い状態で 3 次元培養し スクリーニングを行うことで 難治性がんに対する革新的な創薬が可能になる オルガノイド培養により胆道 膵臓がんを生体に近い状態で培養し 創薬スクリーニングに応用することに成功した 本技術により抗真菌薬が胆道 膵臓がんの新たな治療薬となる可能性を見出している 本技術によりスクリーニングや薬剤感受性試験を行うことで 難治性がんに対する革新的な治療薬が開発されることが期待される 19
想定される用途 胆道 膵臓がんに対する創薬スクリーニング 特に 既存薬ライブラリーを用いたスクリーニングを行うことで ドラッグ リポジショニングが可能になる 新規化合物の胆道 膵臓がんに対する薬剤感受性試験 薬剤投与前後の遺伝子発現などを解析することで 胆道 膵臓がんの新規バイオマーカーの探索などが可能になる 20
実用化に向けた課題 現在 東京大学創薬機構から供与された既存薬ライブラリーを用いた胆道がんオルガノイドのスクリーニングが進行中 今年中に全ての化合物が終了する予定 ヒット化合物の合成 展開 ヒット化合物の in vivo での薬効評価 非臨床 POC の取得 治験への移行を目指す 21
企業への期待 胆道 膵臓がんに対する新薬を開発中の企業 創薬への展開を考えている企業には 本技術の導入が有効と思われる 企業が開発した新規化合物の胆道 膵臓がんオルガノイドに対する薬効評価 企業が所有している化合物ライブラリーを用いた胆道 膵臓がんオルガノイドに対するスクリーニング ヒット化合物の in vivo での薬効評価 非臨床 POC 取得などに関する共同研究 22
本技術に関する知的財産権 出願番号 : 特願 2018-186915( 出願中 ) 発明者 : 齋藤義正 齋藤英胤 杉山優子 村松俊英発明の名称 : 癌治療用医薬組成物出願人 : 学校法人慶應義塾出願日 :2018 年 10 月 01 日 出願番号 : 特願 2018-052795( 出願中 ) 発明者 : 齋藤義正 金井弥栄 村松俊英発明の名称 : 胆道癌オルガノイド又は膵臓癌オルガノイドの培養用培地出願人 : 学校法人慶應義塾出願日 :2018 年 3 月 20 日 23
お問い合わせ先 慶應義塾大学研究連携推進本部 高橋 勇美 TEL 03-5315 - 4368 FAX 03-5315 - 4369 e-mail isami.takahashi@adst.keio.ac.jp 24