日産婦内視鏡学会第 29 巻第 1 号 2013 November 原著 初期子宮体癌に対する腹腔鏡下根治手術 - 複数術者による feasibility と予後の検討 - 新潟大学医歯学総合病院産科婦人科 1) 2) 県立がんセンター新潟病院婦人科 安達聡介 1) 八幡哲郎 1) 工藤梨沙 1) 山岸葉子 1) 山脇芳 1) 須田一暁 1) 田村亮 1) 茅原誠 1) 石黒竜也 1) 南川高廣 1) 萬歳千秋 1) 西野幸治 1) 西川伸道 1) 加嶋克則 2) 1) 榎本隆之 Laparoscopic Surgery for Patients with Early Stage Endometrial Cancer Sosuke Adachi 1), Tetsuro Yahata 1), Risa Kudo 1), Yoko Yamagishi 1), Kaoru Yamawaki 1), Kazuaki Suda 1), Ryo Tamura 1), Makoto Chihara 1), Tatsuya Ishiguro 1), Takahiro Minamikawa 1), Chiaki Banzai 1), Koji Nishino 1), Nobumichi Nishikawa 1), Katsunori Kashima 2), Takayuki Enomoto 1) Department of Obstetrics and Gynecology, Niigata University Medical & Dental Hospital 1), Department of Gynecology, Niigata Cancer Center Hospital 2) Abstract Laparoscopy has been widely proposed as an alternative to a laparotomy for the treatment of early stage endometrial cancer. The purpose of this study was to assess the efficacy, safety, and prognosis of laparoscopic surgery. We retrospectively analyzed the results of laparoscopic surgery for patients with early stage endometrial cancer at the Department of Obstetrics and Gynecology, Niigata University Medical & Dental Hospital between 2003 and 2011. A total of 44 patients underwent laparoscopic surgery by three different surgeons. Blood loss and number of lymph nodes removed were not statistically significant between surgeons. Although a significant difference in surgery time (P = 0.0017) was initially observed between surgeons, this difference became insignificant as the surgeons gained experience. With increasing surgeons experience, laparoscopic surgery is useful for the treatment of early stage endometrial cancer. Key Words: laparoscopic hysterectomy, endometrial cancer, feasibility 緒言 近年の腹腔鏡下手術の進歩に伴い 子宮体癌に対して腹腔鏡下手術が適用される症例が多くなってきている 当科では2003 年より初期子宮体癌に対する腹腔鏡下根治手術を開始し 2008 年に 初期子宮体癌に対する腹腔鏡下根治手術 を先進医療として申請し同年 8 月に承認されている 現在までに40 例以上の初期子宮体癌症例に対して腹腔鏡下手術を施行している 今回 複数の術者による本術式の feasibilityについて 後方視的に解析を行った 対象 方法 2003 年から2011 年の間に新潟大学医歯学総合病院産科婦人科にて腹腔鏡下子宮体癌根治術を施行し 1 年以上の観察期間を有する44 例を対象とした 当科における腹腔鏡下手術の適応は 術前の画像および組織診断においてFIGO 進行期分類 (FIGO2008)IA 期 ( 筋層浸潤 1/2 未満 ) 高分化または中分化型類内膜腺癌症例である 術前進行度は内診 超音波検査 MRI CTにて診断している 組織診断に関して 術前に全例での内膜全面掻爬検査の施行はしていない また 患者には 313
当院倫理委員会で承認されたインフォームドコン セント用紙を用いて説明を行い 同意を得ている 表1 患者背景 3名の術者によりLAVH Laparoscopically assisted vaginal hysterectomy またはLH Laparoscopic hysterectomy またはTLH Total laparoscopic hysterectomy および両側付属器切除 骨盤リ ンパ節生検が行われた 術者の経験年数は 2011 年現在で 術者A 24年 術者B 22年 術者C 18年であった 日本産科婦人科内視鏡学会技術認 定医および日本婦人科腫瘍専門医の資格を有する のは術者Bのみである 手術時にはウテリンマニピュレーターは使用せ ず 子宮体部から経卵管的な腹腔内への癌細胞の 漏出を予防するため 手術開始直後に子宮側の卵 管断端をシールし 両側付属器をシーリングデバ イスで切断している 術中に摘出子宮をマクロで 観察して 筋層浸潤の程度などを観察している 子宮外進展を疑う所見を認める場合には 迅速組 織診を行う方針としている 子宮体癌治療ガイドラインに準じて 術後病理 診断にて再発低リスク群と診断された症例は経過 観察を 再発中リスク群以上と診断された症例に ついては 術後化学療法を施行している 術者による手術時間 出血量 摘出リンパ節数 を比較した 開腹手術移行例や合併症 予後につ いても報告する 統計学的検討は χ二乗検定 One-way factorial ANOVA 多重比較検定 Turkey s Honestly significant difference test を用いた 統計学的有意水準は 5%とした 統計解析にはJMP9 SAS Institute Inc. を用いた 結 果 腹腔鏡下に子宮体癌根治術を施行した44例の患 者 背 景 を 表 1 に 示 す 3 名 の 術 者 A B C によりそれぞれ11例 19例 14例の手術が行われ 図1 腹腔鏡下術式の年次推移 1例 漿液性腺癌 1例 明細胞腺癌 1例であ った いずれの項目も3名の術者間で有意差は認 めなかった 手 術 時 間 は 術 者A B Cに お い て そ れ ぞ れ 202.1±11.9分 平均±標準偏差 179.7±9.1分 233.6±10.6分であり 統計学的に有意差を認めた p=0.017 多重比較検定では術者B-C間で有意 差を認めた p=0.0011 この術者間差を年字別 た 平均年齢 BMI 分娩歴 未産 経産 のい ずれの項目も3群間で有意差は認めなかった 子宮全摘術の内訳はLAVH 36例 LH 3例 に比較すると 図2 腹腔鏡手術開始初期の 2003-2007年に認めていた有意差 p=0.0121 は 2008-2011年には認めなかった TLH 5例であり 術者間で有意差は認めなか った 各術式の年次推移を図1に示す 当科では 腹腔鏡手術導入初期はLAVHを行っていたが 近 出血量はそれぞれ207.8±62.5ml 221.2±48.8ml 297.8±59.8mlであり 出血多量により開腹に切り 替えた症例を有する術者B Cにおいて多い傾向 年はTLHが主となっている 臨床背景を表2に示す 手術進行期 FIGO2008 はIA期 41例 うち腹腔洗浄細胞診陽性 2例 にあったが有意差は認めなかった 摘出リンパ節数についても 4.7±1.8個 7.1± 1.3個 2.9±1.5個であり有意差は認めなかった IB期 2例 II期 1例であった 永久病理診断 は類内膜腺癌Grade1 41例 類内膜腺癌Grade2 開腹への移行は3例に認めた 表3 2例は 骨盤内に強固な癒着を認めた症例で開腹に移行 314 日本産科婦人科内視鏡学会29-1.indb 314 2014/01/06 9:46:24
し それぞれ出血量も3245ml, 825mlと多くなっ た 1例は気腹時に著明な腸管拡張を認め 視野 確保困難と判断した症例であった 術後の観察期間は12-108ヵ月 中央値46ヵ月 であるが全例生存し 術後に漿液性腺癌IB期と 診断した1例のみに術後25ヶ月で腟断端再発を認 めた 表3 再発後放射線療法を行い 現在術 後42ヶ月 無病生存である 重傷な術中 術後合 併症を発症した症例は認めていない 図2 表2 術者別手術時間 経験症例数の増加と共に 術者間の手術時間差は小さくなっ てきている 臨床背景 表3 開腹手術移行例 再発例 315 日本産科婦人科内視鏡学会29-1.indb 315 2014/01/06 9:46:27
考察 腹腔鏡手術の進歩により 婦人科良性腫瘍においては術後のQuality Of Lifeおよび整容性の点から腹腔鏡手術が施行される施設が多くなってきた 近年 子宮体癌に対しての腹腔鏡手術に関するエビデンスが多数見られるようになってきた 保険適用とされていないため 標準治療とはなっていないが 本邦では腹腔鏡下子宮体癌手術が 2008 年 8 月に厚生労働省の先進医療制度として承認され 当科も施設承認を受けている 施設承認の初期であったため 申請に伴う手続きに時間を要したものの 申請自体はスムーズに進んだと考えている 子宮体癌に対する腹腔鏡下手術は1992 年に初めて報告され 1) これまでに開腹手術と比較した六つのRCTが行われてきた 2-7) いずれも初期子宮体癌を対象とするTrialで GOG(The Gynecologic Oncology Group) による大規模 RCT(LAP2 study) 5) ではI 期の比率が74.5% を占めている これらのRCTでは 腹腔鏡下手術は開腹手術と比較し 手術時間は長い傾向にあるものの 出血量は有意に少なく また 入院期間は短かいという結果であった 8) 開腹手術への移行率は0~25.8% であり 5) 開腹手術移行のリスク因子は BMI(Body mass index) であった 尿管損傷 腸管損傷などの周術期合併症に関しては有意差は認めなかった Melendezらは 子宮体癌における腹腔鏡下手術では経験症例数の増加と共に 手術時間の短縮と入院期間の短縮 開腹手術移行率の低下を認めると報告し 9) Eltabbakhらは 症例数の増加と共に 手術時間の短縮とリンパ節郭清の個数が多くなると報告している 10) われわれの症例でも 腹腔鏡下手術導入当初に認めていた術者間の手術時間の差は 経験症例数の増加と共に小さくなり 手術時間も短縮してきている 術中操作は原則として 術者と第 1 助手が片側ずつ施行している 第 1 助手は 3 年以上の経験を持つ医師が手術毎に入れ替わっているため 当科での手術時間が比較的長い傾向にある理由と考えられる 当科での摘出リンパ節数は2.9-7.1 個と少ない結果であった 竹島ら 11) によると 臨床進行期 I 期の子宮体癌リンパ節転移好発部位の検討結果では 外腸骨節 7% 閉鎖節 7% 内腸骨節 6% であるとされる 当科でも外腸骨節 閉鎖節を中心とした生検を主に施行しているが 摘出リンパ数 に関しては諸報告と比較し 少ないと考えられる 導入当初と比較して近年は増加傾向にはあるが 今後の課題としたい 腹腔鏡技術トレーニングに関して これまで当科では腹腔鏡下手術シミュレーターを用いての個人でのトレーニングや 内視鏡技術認定医による術中指導が主であった しかし 本県は現在内視鏡技術認定医が2 名しかいない状況となっており 2012 年からは関連病院を含めた腹腔鏡下手術に特化したセミナーの開催 ( エキスパートによる講演 技術指導 ) や技術検定 アニマルラボ等を開始している われわれの症例では術中の合併症は認めなかったが 開腹手術移行例を3 例に認めた 腹腔鏡下子宮摘出術において 尿管損傷や膀胱損傷のリスクが低くなるためには30 例以上の経験が必要とされ 12) 1/3 以上の尿管損傷は TLH 経験数 30 例未満で発生すると報告されている 13) また 前述のように開腹手術移行のリスク因子はBMIとされているが 転移巣 高齢はBMIによる開腹手術移行率を上げる 5) とされている 腹腔鏡下手術の予後に関して LAP2 studyは 2,182 人の予後解析を報告しているが 14) 平均観察期間 59.3ヶ月で 3 年再発率は11.4% と開腹手術 (10.2%) と比較し差はなく 5 年生存率は腹腔鏡手術 開腹手術ともに89.8% と有意差を認めないという結果であった われわれの症例では術後特殊組織型 ( 漿液性腺癌 ) と診断された1 例 (2.3%) のみ再発を認めている これまでの報告からも 開腹手術と同等の予後が担保されるのは現状では I 期 low gradeの類内膜腺癌症例と考えられ 特殊組織型や進行癌症例に対する腹腔鏡下手術の適否に関してはevidenceに乏しく 適応に関しては慎重な判断が必要と考えられる 当科では内視鏡技術認定医 婦人科腫瘍専門医の指導の下 初期子宮体癌症例に対する腹腔鏡下根治手術を重ねてきた 今回 3 人の術者を比較したが 複数の術者によっても経験症例が増えるに伴って手術内容に差はなくなり 安全に行うことが可能であり 予後に関しても開腹手術と変わらない結果が得られた しかしながら 内視鏡技術認定医が不足している現状にも直面している 今後 他科悪性腫瘍領域と同様 婦人科悪性腫瘍に関しても腹腔鏡下手術の適用が広がることが予想される また 悪性腫瘍に対する治療は安全性のみならず oncologic outcomeの検証も必須であると考えられる 日本産科婦人科内視鏡学会技術 316
認定医かつ日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医の資格を有する医師を含むチームまたは指導体制のもとでの手術 トレーニングを行い 技術の向上および 治療成績を蓄積することにより 多くの施設で本術式を施行できることが可能になると考えられる 本論文の要旨は第 65 回日本産科婦人科学会学術講演会において発表した by type of approach. Hum Reprod 2001;16:1473 1478. 13)Janssen, P. F., Brölmann, H. A. M. & Huirne, J. A. F. Causes and prevention of laparoscopic ureter injuries: an analysis of 31 cases during laparoscopic hysterectomy in the Netherlands. Surg Endosc 2013;27:946 956. 14)Walker, J. L. et al. Recurrence and survival after random assignment to laparoscopy versus laparotomy for comprehensive surgical staging of uterine cancer: Gynecologic Oncology Group LAP2 Study. J Clin Oncol 2012;30:695 700. 文 献 1)Childers, J. M. & Surwit, E. A.:Combined laparoscopic and vaginal surgery for the management of two cases of stage I endometrial cancer. Gynecol. Oncol 1992;45:46 51. 2)Tozzi, R. et al. Laparoscopy versus laparotomy in endometrial cancer: first analysis of survival of a randomized prospective study. J Minim Invasive Gynecol 2005;12:130 136. 3)Malzoni, M. et al. Total laparoscopic hysterectomy versus abdominal hysterectomy with lymphadenectomy for early-stage endometrial cancer: a prospective randomized study. Gynecol. Oncol 2009;112:126 133. 4)Zullo, F. et al. Laparoscopic surgery vs laparotomy for early stage endometrial cancer: long-term data of a randomized controlled trial. Am J Obstet Gynecol 2009;296:e1 9. 5)Walker, J. L. et al. Laparoscopy compared with laparotomy for comprehensive surgical staging of uterine cancer: Gynecologic Oncology Group Study LAP2. J Clin Oncol 2009;27:5331 5336. 6)Janda, M. et al. Quality of life after total laparoscopic hysterectomy versus total abdominal hysterectomy for stage I endometrial cancer (LACE): a randomised trial. Lancet Oncol 2010;11:772 780. 7)Mourits, M. J. E. et al. Safety of laparoscopy versus laparotomy in early-stage endometrial cancer: a randomised trial. Lancet Oncol 2010;11:763 771. 8) 寺井義人 田中智人 大道正英. 子宮体がんに対する腹腔鏡下手術. 臨婦産 2013;67:491-496. 9)Melendez, T. D. et al. Laparoscopic staging of endometrial cancer: the learning experience. JSLS 1997;1:45 49. 10)Eltabbakh, G. H. Effect of surgeon's experience on the surgical outcome of laparoscopic surgery for women with endometrial cancer. Gynecol Oncol 2000;78:58 61. 11) 竹島信宏他. 子宮体癌骨盤内リンパ節転移に関する研究. 日産婦誌 1994;46:883-888. 12)Mäkinen, J. et al. Morbidity of 10 110 hysterectomies 317