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第6号-2/8)最前線(大矢)

記 者 発 表(予 定)

はじめに

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4 章エネルギーの流れと代謝

Transcription:

科学研究費補助金新学術領域研究 水を主役とした ATP エネルギー変換 第 1 回全体会議 期日 : 平成 21 年 9 月 8 日 ( 火 )-10 日 ( 木 ) 場所 : 大阪ガーデンパレス ( 532-0004 大阪府大阪市淀川区西宮原 1-3-35) http://www.hotelgp-osaka.com/access/index.html, 06-6396-6211 プログラム 9 月 8 日 ( 火 ) 14:00 領域代表挨拶 鈴木誠 ( 東北大 ) 領域研究の概要と運営方針について 全体講演 14:45~15:45 司会 ( 木下正弘京都大 ) ATP のエネルギー論 -オーバービュー- 児玉孝雄 ( 大阪大 ) Coffee break 16:00~17:30 計画 公募メンバーのショートプレゼンテーション ( 各 3 分 ) 要覧に記載順 17:45~18:45 司会 ( 鈴木誠東北大 ) カルシウムポンプによるイオン能動輸送の構造的基盤豊島近 ( 東京大分子生物 ) 9 月 9 日 ( 水 ) 全体講演司会 ( 櫻井実東京工大 ) 9:00~9:45 エネルギー表示法による水 タンパク質複合系の自由エネルギー計算松林伸幸 ( 京都大化研 ) 9:45~10:30 極限環境に適応した蛋白質のエネルギー論的比較研究三本木至宏 ( 広島大 ) 10:30~12:00 計画班ポスター発表 昼食

13:00~14:30 公募班ポスター発表 A01 班 Break 14:45~16:15 公募班ポスター発表 A02 班 Break 16:30~18:00 公募班ポスター発表 A03 班 18:30~ 懇親会楓の間 ( 参加費 6000 円 学生半額 当日徴収 ) 9 月 10 日 9:00~10:30 全体討論 - 共通認識 - ( 司会松林 ) 1:ATP 加水分解反応にかかわる理論と実験上の留意点 ( 話題提供児玉 ) 2:ATP アナログに関する留意点 ( 話題提供児玉 ) 3: 共通手法としての Cosolvent の利用 ( 話題提供岩城 ) 10:30~ 総合討論 ( 司会松林 児玉 ) 目的意識の共有と情報交流の円滑化のために 11:00 閉会のあいさつ 鈴木誠 以上

所要時間は約 3 分 時刻新大阪駅発 9:00 ~ 21:00 毎時 00, 20, 40 分

本領域研究のコンセプト

本領域研究の学術的背景 問題提起 アデノシン三リン酸 (ATP) は 加水分解反応 ATP + H 2 O ADP + 無機リン酸 (Pi) の自由エネルギー変化の大きい いわゆる高エネルギーリン酸化合物であり 生物のエネルギー変換全般 ( エネルギー代謝 ) において中心を占め エネルギー通貨 の役割を果たしている すなわち ATP は食物分子の酸化的分解 ( 解糖 呼吸 ) あるいは水の光分解 ( 光合成 ) と共役して産生され (ADP + Pi ATP + H 2 O) エネルギー供給の必要なさまざまな細胞機能に利用される (ATP + H 2 O ADP + Pi) このような ATP の産生 利用系において ATP (ADP + Pi) と直接相互作用するタンパク質 (ATP 駆動タンパク質 ) の構造 機能に関する理解は この 20 年間にわたる分光測定 1 分子観測 操作技術等の発達と X 線回折や NMR による構造の解明によって 飛躍的に深められた ATP が生体活動の エネルギー通貨 である以上 生物のエネルギー変換の分子メカニズムの理解には ATP 加水分解反応における自由エネルギー変化の実体 (ATP のエネルギー ) の理解が不可欠である しかし 最近に至るまで この生体エネルギー論の最も基本的な課題に関して 実験と理論による厳密な検証を受けた分子論は存在しない すなわち ATP 駆動タンパク質の機能解析は ATP 加水分解を現象論的に ( ブラックボックスとして ) とらえたまま進められてきた 国内外の ATP 駆動タンパク質の専門研究者の間でさえ ATP のエネルギーが 自明 であるかのように議論されているのが現状である このため 生物エネルギー変換の分子素過程におけるエネルギー移動のメカニズムは未解決のままである 課題取り組みの基本的戦略 すべての生体分子は水中に存在し 水と相互作用しつつ 他の分子との相互作用によって機能する しかし 従来の生体エネルギー論では 生体分子間相互作用に主眼がおかれ 水は誘電率の高い反応場としての地位しか与えられてこなかった これに対して 本領域では 水と生体分子の相互作用エネルギーの変化が反応系の全自由エネルギー変化に対する寄与を解析の中心において すなわち 水を 主役 として ATP のエネルギーと ATP 駆動タンパク質によるエネルギー変換メカニズムを追求する この視点をサポートする根拠は国内外の研究動向で詳述する ただし このテーマは簡単ではない 分野内の 縦割り で解ける問題ではなく 分野間の 融合 によって挑戦可能な課題である 本提案では 溶液化学 統計物理学 生物化学 生物物理学の研究者を糾合し 溶液理論 水和測定 熱測定 一分子測定による研

究を進め 上記のような観点からの基本概念の見直しと作業仮説の再検討を行い ATP を はじめとする高エネルギーリン酸化合物の熱力学的特性および ATP 駆動タンパク質による エネルギー変換の真の分子論的理解に至る 研究期間内に何をどこまで明らかにしようとするのか 本申請領域では 1)ATP 加水分解に関わる低分子反応物 生成物の水和状態を実験的に明らかにするとともに 各物質の水和自由エネルギーを正確に求める方法を開発 適用し ATP 加水分解の自由エネルギー変化の実体 とくに溶媒和自由エネルギーの寄与を明らかにする 2)ATP 駆動タンパク質とヌクレオチドの相互作用機構について タンパク質とヌクレオチドの結合における熱力学量の変化を実験的に求めるとともに 結合自由エネルギーの計算と大規模系での高精度計算法の開発を行い また自由エネルギーにおけるエントロピー項の寄与を定量的に明らかにする これによりヌクレオチド結合時の自由エネルギー変化の構成をタンパク内部構造変化と溶媒側の寄与に分けてもとめる 3)ATP 駆動タンパク質とヌクレオチドの結合熱と水和状態の変化を実験的に明らかする また 1 分子実験によって 反応中間状態の滞在時間やゆらぎの特性を調べ 変異導入による構造ひずみ 外的負荷 あるいは温度 ADP やリン酸等の濃度変化を与えたときの影響を解析する これらの結果を総合してヌクレオチド タンパク質相互作用のエネルギー変化とタンパク質分子の柔軟性変化の相関を理論的に評価可能なパラメータで表し エネルギー変換過程をシミュレートする これらは全て 水和 ( 自由 ) エネルギー がキーワードとなっており メンバー間の有機的連携により実施する 公募要領の 対象 本提案の新学術領域研究の主眼は これまで独自に展開されてきた溶液化学 統計物理学分野と生物化学 生物物理学の分野を融合し ATP のエネルギーと ATP 駆動タンパク質機能発現における水の役割に焦点を絞った研究の実施である したがって 計画研究では 先駆的理論を展開している溶液化学 統計物理学研究者と ユニークな方法論をもつ生物物理系の実験科学者との間で研究課題を緊密に調整した共同研究を推進する 一方で 中心課題の重さ 深さ 広がりから見て このようなコアプロジェクトだけではカバーしきれない研究課題は多数あると考えられる そこで 本領域の研究戦略を十分に理解し エネルギー論 水和解析を計画の中心においた公募研究を期待する このように 本領域は 単なる高精度 微視化といった量的前進を押し進めるものではなく 2つの分野の融合によるヴァーチャルラボ体制を形成して 新たな方法論を展開して 世界に先駆けて生命科学の基本的命題 ATP のエネルギー の概念を確立するとともに 新しい生体エネルギー変換分子論の創始を目指すものである また 多くの若手がこの問題の重要性を認識し骨太

の課題に取り組んでいけるような畑を提供することで 個人レベルの研究を深めつつ両分野のベースの上でこの領域を開拓発展させ 次代を担う人材育成 ( 領域研究の目的の1つ ) を図る ATP 駆動タンパク質は生体内のいたるところで重要な働きをしており その機能発現メカニズムについて一段掘り下げた理解は広範な生物科学の発展に寄与し 当然その知見は工学的にも役立ち バイオテクノロジー ナノテクノロジー 高度メディカル技術 薬学等に波及展開していくものと期待できる 本領域の発展がどのように学術水準の向上 強化につながるか インパクト 波及効果 水溶液系の分子動力学 (MD) 計算は 計算機能力の向上にともない大きなタンパク分子運動を長時間追跡することが可能になってきた ところが古くからコロイド化学等で知られる Hofmeister 系列のような広汎の現象にかかわる水の特性の変化は 計算機実験ではほとんど再現できていない よい水分子モデルがまだ開発されていないことも一因である 本領域研究には低分子イオンの実験的に得られたカオトロピックな水和特性を再現できる水分子モデルの開発も含まれており これまで未解明の多くの水溶液系の問題を解決できるものと期待される また 酵素反応の多くは時間スケールがミリ秒 ~ 秒の特性時間をもっており これをそのまま MD 計算することは現実的に不可能である この領域研究から期待される成果として 低分子からタンパク質まで化学反応前後の自由エネルギー変化の評価法として 従来の MD 計算に比べてはるかに短時間で正確な結果を出す複数の方法を開発する すなわち広範な水溶液中の化学反応の自由エネルギー変化を求めることが可能となり 有機化学 無機化学 生化学の各分野に強力な手法を提供でき それぞれの分野を進展させるものと期待できる これらの方法で酵素タンパクが介在する ATP 加水分解反応の自由エネルギー変化を理解することは 生体エネルギー利用メカニズムの理解やバイオテクノロジーや工学的応用に見通しを与えるものと期待される ミクロな領域におけるエネルギー変換プロセスは 基質と溶媒分子の相互作用 基質やタンパク質の溶媒和状態の変化 溶媒を介した生体分子間相互作用の変化に強く依存している ミクロな領域におけるエネルギー論に裏打ちされた分子論的理解はとりもなおさずマクロな溶液系におけるエネルギー変換の熱力学の現象論から実体論への変換につながる このように ATP 駆動タンパク質の水和 エネルギー相関が解明されると 同タンパク質が直接関与する運動 輸送などの生体基本機能に対する斬新な視点を与え 生命科学の基礎 応用研究の新しい展開につがると考えられる また 水和 脱水和の自由エネルギー変化を活用して 表面の親水 疎水スイッチング等のエネルギー変換デバイス開発に明確な指針を与える これは 人工デバイスのエネルギー供給に対する全く新しい原理の提供であり ナノスケールデバイスの今後の技術展開に大きな影響を与えることが期待される

全体図 タンパク質 -ATP- 水分子集団の統合システムを対象ミクロ構造情報を取り込んだ新段階のエネルギー論の構築 2 結合 ATP の加水分解コンフォメーション変化水和の変化 A03 班 B ATP 駆動タンパク質 G work 変換の分子論 A02 班水和 脱水和 A02 班 1 ATP 結合脱水和構造変化の誘発と伝播 A 溶媒溶質相互作用 hydrolysis G C 3 ADP + Pi 遊離回帰的変化としての水和と構造変化 ATP + H 2 O (hydrated) A01 班 ADP + Pi (hydrated) hydrolysis G = G A + G B + G C