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例題 1 表は, 分圧 Pa, 温度 0 および 20 において, 水 1.00L に溶解する二酸化炭素と 窒素の物質量を表している 二酸化炭素窒素 mol mol mol mol 温度, 圧力, 体積を変えられる容器を用意し,

また単分子層吸着量は S をすべて加えればよく N m = S (1.5) となる ここで計算を簡単にするために次のような仮定をする 2 層目以上に吸着した分子の吸着エネルギーは潜熱に等しい したがって Q = Q L ( 2) (1.6) また 2 層目以上では吸着に与える表面固体の影響は小さく


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ଗȨɍɫȮĘർǻ 図 : a)3 次元自由粒子の波数空間におけるエネルギー固有値の分布の様子 b) マクロなサイズの系 L ) における W E) と ΩE) の対応 として与えられる 周期境界条件を満たす波数 kn は kn = πn, L n = 0, ±, ±, 7) となる 長さ L の有限

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I-2 (100 ) (1) y(x) y dy dx y d2 y dx 2 (a) y + 2y 3y = 9e 2x (b) x 2 y 6y = 5x 4 (2) Bernoulli B n (n = 0, 1, 2,...) x e x 1 = n=0 B 0 B 1 B 2 (3) co

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1 2 3 (p,n) (d,n) X X PIXE EMIS 1 57 Cu 59 Zn 2 PAD N 28 Si 36 MeV (d,xn) Tc II (accid) 2 RI C 60 C , ,70 PE

指導計画 評価の具体例 単元の目標 単元 1 化学変化とイオン 化学変化についての観察, 実験を通して, 水溶液の電気伝導性や中和反応について理解するとともに, これらの事物 現象をイオンのモデルと関連づけて見る見方や考え方を養い, 物質や化学変化に対する興味 関心を高め, 身のまわりの物質や事象を

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2009/12/7 物理学コロキウム第 2 気体を用いた荷電粒子検出器 内容 : 1. 研究の目的 2. 気体を用いた荷電粒子検出器 3. 霧箱での α 線の観察 4. 今後の予定 5. まとめ 柴田 陣内研究室 寄林侑正 2009/12/7 1

1. 研究の目的 気体の電離作用を利用した荷電粒子検出器の原理を学ぶ 実際に霧箱とスパークチェンバーを作成する 放射線を観察し 荷電粒子と気体粒子の相互作用について学ぶ 2009/12/7 2

集められたイオンの数 2. 気体を用いた荷電粒子検出器 電圧を印加するもの 電離箱 比例計数管 ガイガーミュラー計数管 スパークチェンバー etc 10 12 10 10 10 8 10 6 10 4 電離箱領域 比例計数管領域 ガイガー ミュラー計数管領域 放電 電圧を印加しないもの 霧箱 泡箱 etc 10 2 N 1 0 250 500 750 1000 電圧 [ V ] N: 放射線入射によって生成されたイオン対の数 2009/12/7 3

電圧を印加するガス検出器 MWPC ( Multi Wire Proportional Chamber ), ドリフトチェンバー ( Drift Chamber ) 荷電粒子の位置を測定するためのガス検出器 y z x 入射粒子 (z 方向 ) ターゲット 荷電粒子 陽極ワイヤー スパークチェンバー ガス原子 電極 正イオン 電離電子 荷電粒子 y 座標がわかる 電子なだれを起こし最終的にスパークを起こす ( x 1,y 1,z 1 ) x 座標がわかる 電極対を重ねることにより荷電粒子の飛跡をスパークとして観測できる V Trigger 20 MΩ SCR ( x 2,y 2,z 2 ) -8 kv R R 20Ω 1000 pf - + Q Q C スパークチェンバー R 4 220 Ω

霧箱 電圧を印加しないガス検出器 1 容器上部に液体アルコールを含ませる アルコール ( 液体 ) 2009/12/7 5

霧箱 電圧を印加しないガス検出器 1 容器上部に液体アルコールを含ませる 2 容器内で右図のように上部と下部に温度差をつける アルコール ( 液体 ) 温度高 温度低 2009/12/7 6

霧箱 電圧を印加しないガス検出器 1 容器上部に液体アルコールを含ませる 2 容器内で右図のように上部と下部に温度差をつける 3 液体アルコールが蒸発していく アルコール ( 液体 ) 温度高 蒸発 温度低 2009/12/7 7

霧箱 電圧を印加しないガス検出器 1 容器上部に液体アルコールを含ませる 2 容器内で右図のように上部と下部に温度差をつける 3 液体アルコールが蒸発していく 4 飽和蒸気圧の高い上部から飽和蒸気圧の低い下部へとアルコール蒸気が拡散していく アルコール ( 液体 ) 温度高 温度低 : アルコール蒸気 2009/12/7 8

霧箱 電圧を印加しないガス検出器 1 容器上部に液体アルコールを含ませる 2 容器内で右図のように上部と下部に温度差をつける 3 液体アルコールが蒸発していく 4 飽和蒸気圧の高い上部から飽和蒸気圧の低い下部へとアルコール蒸気が拡散していく 5 容器内下部で過飽和の層が形成される アルコール ( 液体 ) 温度高 温度低 : アルコール蒸気 2009/12/7 : 過飽和アルコール蒸気 9

霧箱 電圧を印加しないガス検出器 1 容器上部に液体アルコールを含ませる 2 容器内で右図のように上部と下部に温度差をつける 3 液体アルコールが蒸発していく 4 飽和蒸気圧の高い上部から飽和蒸気圧の低い下部へとアルコール蒸気が拡散していく 5 容器内下部で過飽和の層が形成される 6 過飽和の層を荷電粒子が通過した際 電離されて生成したイオンを核として蒸気が凝結する 霧のすじが生成 アルコール ( 液体 ) 温度高 温度低 荷電粒子 2009/12/7 : アルコール蒸気 : 過飽和アルコール蒸気 10

学部 3 年生の学生実験で用いた霧箱 使用した気体 : エチレングリコール蒸気 化学式 : C 2 H 4 (OH) 2 融点 : -12.9 沸点 : 197.3 動作温度 : 上部 110~130 くらいに熱する 上部と下部の温度差 60~80 くらい 今回作成した霧箱 使用した気体 : エタノール蒸気 化学式 : C 2 H 5 OH 融点 : -114.3 沸点 : 78.4 動作温度 : 上部 室温 下部 ドライアイス ( 昇華温度 :-78.5 ) に接触させて冷やす 2009/12/7 11

3. 霧箱での α 線の観察 作成した霧箱 8cm 程度 液体のエタノールをスポンジに含ませる ドライアイスの上に置く エタノールを含ませたスポンジテープ 15cm 程度 キャップから吊るした針金 ( 線源を取り付ける ) 1cm 程度 2009/12/7 線源 ( マントル ) 熱伝導を良くするため アルミテープで密封 ドライアイス 12

科学実験教室を準備し 講師を務めました 大学生と学ぶ素粒子物理身近な放射線について知ろう ー霧箱の作成ー 柴田研究室 多摩六都科学館共催第 30 回 2009 年 11 月 8 日 ( 日 ) 中高生約 20 名が参加し ペットボトルで霧箱を作成しました 2009/12/7 13

用いた線源 野外キャンプ等で使われるランタンの芯 ( マントル ) マントル中には 232 Th が含まれる 232 Th 1.405 10 10 y 220 Ra 5.75y α:4.083mev β-:1.325mev 220 Ac 6.15h β-:2.127mev(γ) 228 Th 1.9131y 224 Ra 3.66d α:5.520mev α:5.789mev(γ) :α 崩壊 :β 崩壊 220 Rn 55.6s 216 Po 0.145s 212 Pb 10.64h α:6.405mev(γ) α:6.906mev β-:0.574mev 212 Bi 60.55m (35.94%) α:6.207mev 208 2009/12/7 Tl β-:5.001mev 14 3.083m (64.06%) β-:2.254mev 212 Po 0.298μs 208 Pb stable α:9.784mev

今回使ったマントルを 3 年生の学生実験で用いた霧箱で見てみると 2009/12/7 15

観測された飛跡 トリウム系列からの α 線 空気中に拡散したラドン気体からの α 線 (?) 2009/12/7 16

4. 今後の予定 霧箱 温度勾配や過飽和の度合い等 動作原理を詳しく見る 232 Th 系列に沿った連続的な崩壊を霧箱で確認する 霧箱で宇宙線を確認できるよう調整する スパークチェンバー 電圧を印加する検出器として学び 完成させる 2009/12/7 17

5. まとめ 気体を用いた荷電粒子検出器には電圧を印加するものとしないものがある 電圧を印加するもの MWPC ドリフトチェンバー スパークチェンバーなど 電圧を印加しないもの 霧箱 泡箱など 霧箱の動作を詳しく見ていく スパークチェンバーについて学び 完成させる 2009/12/7 18

2009/12/7 19

飛程 Bethe-Bloch の式荷電粒子が標的物質中で失うエネルギー 飛程 de dx z 4 2 e 2 0 4 V n 2 m mv ln I 荷電粒子がエネルギーを失うまでに標的物質中を走る長さ R( E 0 ) E 0 0 de dx 1 de 2 2009/12/7 20

標準温度圧力の空気中におけるアルファ粒子の 飛程は R( mm) exp[ T( MeV )] 0.05T ( MeV ) 2.85 T( MeV ) T(MeV):α 粒子の運動エネルギー 空気中以外の場合 Bragg-Kleeman 則 R R 1 2 2 1 A A 1 2 3 2 1MeV 4MeV T 4MeV T 15MeV A実効 R( mm) 0.337 R ( mm) 3 air ( kg/ m ) A 実効 L i1 i A i 1 2009/12/7 21

α 線の空気中での飛程 飛程 (mm) 崩壊核 エネルギー (MeV) 飛程 (mm) 232Th 4.083 25.19761482 228Th 5.52 40.54129249 224Ra 5.789 43.72792758 220Rn 6.405 51.38924206 216Po 6.906 57.98978525 212Bi 6.207 48.87173984 212Po 9.784 102.1920468 α 線のエネルギー (MeV) 2009/12/7 22

Bethe-Bloch の式と飛程 (stopping range) の計算 入射 標的 化合物標的での Bethe-Bloch の式は 各元素標的での Bethe-Bloch の式の和として決定される Bethe-Blochの式から 次のように飛程が計算できる ただし E, E 0 はそれぞれ重荷電粒子の標的物質に侵入する前 および後の運動エネルギーである R( E 2009/12/7 de dx 0 ) 和 E 0 0 i i z 2 4 e 2 0 4 de dx V i de dx n i 2 1 i mv ln m I i de 2 化合物標的での Bethe-Bloch の式 ( ただし は各元素の物理量であることを示す ) 重荷電粒子の飛程 R R (cm) 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 0 陽子 入射前の運動エネルギー : E 0 陽子 入射後の運動エネルギー : E R 停止 0 50 100 150 200 標的 陽子 のプラスチック (CH) 中での飛程 R 粒子の入射時の運動エネルギー (MeV) 0 50 100 150 200 250 7