今回の課題 18. 銀行制度 銀行業務の基本を確認する 銀行制度の社会的役割を明らかにする 貨幣資本の社会化 1 2 今回の内容 銀行の役割 銀行と私有財産制 1. 銀行と銀行制度 3 4 これまでは 金融業者は無視 企業間で資金融通が可能 個人金融資産は死蔵 しかし実際は 1. 金融業者が企業間での資金の融通に介在する a. 間接金融の場合は銀行など b. 直接金融の場合も証券会社など 2. 金融業者を通じて個人金融資産も社会的に活用される ここでは銀行という金融業者を考察する 5 6 政治経済学 ( 担当 : 今井祐之 ) 1
銀行とは? = 預金を取り扱う金融機関 1. 社会全体の決済機構を担う 預金は通貨 2. ありとあらゆる経済主体のカネを握る 零細預金者保護の必要性 したがって, 高度の公共性が求められる 銀行業務の基本 貨幣資本の集中 管理 預金という形で社会の貨幣資本を集中 管理し, 振替 両替等の業務を通じて手数料を稼ぐ 信用取扱 後述する信用創造を通じて貸付を行う 7 8 銀行制度とは?(1) 個々の銀行ではなく, 銀行制度が問題になっていることに注意 銀行制度 個別契約ではなく, 一つのシステムとして銀行間関係 ( 特に内国為替 ) が完成している 日本国内でいうと, 全銀システムの中で, 日銀当預の移動で銀行間での決済が完了し, 社会全体の全決済が最終的に完了する 銀行制度とは?(2) 日々の取引のための購買 支払手段も, 突然の支出に備えるための購買 支払準備金も, 一定額が貯まるまで保蔵される蓄蔵貨幣も, 預金形態で銀行制度に集中されている 購買 支払手段や購買 支払準備金は要求払預金で, 中長期的に保蔵される蓄蔵貨幣は定期預金で 9 10 銀行制度とは?(3) 国内金融市場の全体像 基本的に銀行制度内での預金の振替によって貨幣の通流が完結している 企業間決済も労働者への給与支払も ( 行内または ) 他行への振替で完結する たとえ個人等が ATM で現金をおろしても, スーパーで果物を買えば,( スーパーにとって日常的に必要な現金の準備を越える限り ) スーパーから銀行制度に還流する 信用創造によって, 預金には現金の裏付けがない 短期金融市場 ( 貨幣市場 ) 長期信用市場 ( 資本市場 ) インターバンク市場 オープン市場 株式市場 公社債市場 コール市場手形売買市場 CD,CP,TB 公共債市場社債市場 11 12 政治経済学 ( 担当 : 今井祐之 ) 2
貨幣供給に関する学説の対立 2. 市中銀行と信用創造 外生的貨幣供給理論 市場の外部から中央銀行が現金を供給するということを重視する立場 内生的貨幣供給理論 市場の内部で民間企業の資金需要に基づいて, 市中銀行が貸付けるということを通じて預金を創造するということを重視する立場 13 14 銀行がカネを借りたら預金は増える 貸し手が銀行に現金を預金すると, 預金は増える ( 当たり前!) この例では, 預金と同じ額だけ, 銀行の金庫に現金が増える 銀行がカネを貸しても預金は増える 借り手が銀行からカネを借りてもやっぱり預金は増える なぜならば 銀行による貸出は預金で行われるから 資産 負債 資産 負債 現金準備 預金 貸出 預金 15 16 現金準備と預金 預金者の要求に応じて引きおろすことができなければならない ゆえに 全体をとって考えてみると, 現金準備は必要である しかし 預金額と同額の現金準備が必要なわけではない 現金の裏打ちがない預金 現金準備 全預金額 信用創造は預金の創造 信用創造 (Credit Creation または Money Creation) とは, 要求払預金の創造のことである ところで, 要求払預金はすべて通貨として通流することができ, またこの資格で信用貨幣になることができる 従って, 信用創造とは, 要求払預金という信用貨幣の創造である 17 18 政治経済学 ( 担当 : 今井祐之 ) 3
信用乗数 銀行の現金準備を R, 銀行制度の外にある現金通貨を C, 預金通貨を D とすると, マネーストック = C + D この場合に信用乗数は, C + D 信用乗数 = C + R すなわち, マネーストック = 信用乗数 (C + R) 現金準備の実態 市中銀行は中央銀行に当座預金口座 ( 日本の場合には日銀当預 ) を持っている 実際には, 市中銀行の現金準備のかなりの部分は, 札 ではなく, 中央銀行への当座預金である 理想的には, 札 は,ATM とそれを回る現金輸送車の中にある 19 20 銀行は単なる仲介業者ではない (1) 借り手 貸し手を集中 銀行は単なる仲介業者ではない (2) 信用を創造 現金 預金 貸し手 1 貸し手 2 貸し手 n 借り手代表 貸し手代表 借り手 1 借り手 2 借り手 m 信用創造 21 22 中央銀行の役割 3. 中央銀行と金融政策 1. 銀行の銀行 最後の貸し手 現金準備に制約されずにいくらでも貸出可能 2. 統一的発券銀行 現金通貨を発行する唯一の銀行 3. 政府の銀行 政府の出納を管理 23 24 政治経済学 ( 担当 : 今井祐之 ) 4
金融政策の目的 1. 物価の安定 ( 国内金融政策の本来の目的 ) 2. 為替の安定 ( 国際金融政策の本来の目的 ) 3. その他 経済成長の達成 ( 有効需要増大の現実化 ) インフレをともなう経済成長の達成とインフレの抑制という本来の目的とはしばしば矛盾する 金融政策の手段 1. 手形 債券の売買オペ 2. 貸出調整 3. 法定準備率の上げ下げ 市中銀行の現金準備の最低限 25 26 政策のミックス 金融緩和 ( 通貨供給量の増大 ) 金融引締 ( 通貨供給量の減少 ) 手形 債券買いオペ売りオペ 金融政策の効果 預金通貨を供給するのは市中銀行 貸付資本を需要するのは民間企業 ゆえに政府 日銀による微調整は困難 貸出 増大 減少 法定準備率 低下 上昇 27 28 金利政策についての補足 政策金利 = 金融政策のターゲット現在では, 中央銀行が間接的に誘導する目標金利 通常は銀行間市場で市中銀行同士が貸借し合うコールマネーのオーバーナイトものの金利 伝統的金融政策から 伝統的な金融政策の金融緩和 政策金利の低下が中心 ターゲットは金利 買いオペ 補足的な位置付け 低リスク資産のみ ( 国債等 ) 量的にも制限 例 : 日銀保有国債残高は日銀券発行残高の範囲内に 金融危機 政策金利が事実上のゼロ金利に 政策金利の低下が無力に 29 30 政治経済学 ( 担当 : 今井祐之 ) 5
非伝統的な金融政策へ 非伝統的な金融政策の金融緩和ゼロ金利時代の金融政策 量的緩和が中心に ターゲットはマネーサプライそのもの ( 直接的には市中銀行の日銀当預残高 ) 別枠の基金を設けて大規模化 リスクが高い金融商品 (CP 等 ) の買い入れ 特徴 もはや財政政策との区別が曖昧に CP 社債の買取に至っては個別企業の救済 損失が出たら最終的には国民負担に帰着 31 32 800 700 600 500 400 300 200 100 0 マネーストックの推移 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 現金 預金 日本銀行の Web サイトより年度平均, 単位は兆円 銀行の理論的意義 4. 銀行制度の社会的役割 資本主義を成立させた市場の制限を克服する 1. 流通という制限 流通費用の減少, 流通時間の短縮 2. 私的所有という制限 社会的な総資本の配分 私的な個別資本の集中 33 34 銀行による私企業のモニタリング 個々の企業の情報の管理 2.1 私的な個別資本の集中 これを通じて さまざまな企業の情報の集中 他のすべての私的資本に対して, 社会を代表する 私益の追求による公益の実現 かつ 資本の私的な利益追求行動への公益性の従属 35 36 政治経済学 ( 担当 : 今井祐之 ) 6
私的な個別資本の集中 自己金融ではもちろんのこと, 単なる貸付でも不可能だったような規模で資本蓄積が行われる 原理的に見て, 個別の私的資本は, 貨幣形態において, 社会の隅々からかき集められた, しかも銀行によって創造された, 他人の, しかも社会の資本になっている 資本集中のテコになる 金融市場から見た日本的経営 これまでは メインバンク制 株式の相互的持ち合い 37 38 1. メインバンク制 資本関係がある 比較的に長期的 安定的な取引 ( 貸付 貨幣取扱 ) 比較的に最大額の貸付 これを通じて 経営に対する監視 日常的には役員派遣 危機時には銀行管理 2. 株式の相互的持ち合い 支配動機に基づいて互いの株式を互いに所有 事実上の自己株式取得 テイクオーバーの阻止 1. 個々の会社での経営者支配の完成 2. 各会社間での経営者の協調による経営者支配の体制の確立 39 40 現実資本移動と貨幣資本移動 2.2 社会的な総資本の配分 部門間での資本移動は, 結局のところ, 労働力と生産手段との再配分である しかし, ゼネコン業界から製パン業界に資本が移動するといっても, 生コン車がパンをこねるようになるわけではない 労働力と生産手段との再配分は貨幣資本の再配分によって達成される 41 42 政治経済学 ( 担当 : 今井祐之 ) 7
社会的総資本の配分 銀行制度は社会のすべての資本を貨幣形態 ( 預金形態 ) で集めて運用する これによって 利潤率の均等化を媒介する これによって 資本の部門間移動を媒介する これによって 社会の経済的資源 ( 生産手段 労働力 ) の効率的配分を実現する 株式会社でもいいのでは? 株式の公開 流通を通じて部門間で貨幣資本がスムーズに移動するためには, これはこれでやはり, 預金という形で銀行に社会の貨幣資本が集中されているということを前提する 43 44 政治経済学 ( 担当 : 今井祐之 ) 8