激変星の進化問題について 最近の話題 ver. 2009 植村 090706@ 雑誌会
今日の話 激変星の進化問題とはなにか 特に Period minimum 問題 について Period minimum 問題について最近の研究 Gansicke, et al., 2009, astro-ph/0905.3476
激変星の進化問題とは何か レビューとしては King 1988, QJRAS, 29, 1 が秀逸
激変星の軌道周期分布 特徴 Period gap : 2-3 時間の間に天体が少ない Period minimum : 80 分の最少周期が存在する 何故このような分布をとるのか 激変星 ( というか低質量連星系 ) の進化で説明できる (e.g. Paczynski 1981)
連星進化理論 半分離型連星の進化は 即ち質量輸送に伴う角運動量のやりとりで決まる ここでは簡単のため 質量と角運動量が保存する条件で連星の進化を考える (King 1988) 今 星 2 がロッシュローブを満たしているとする ケプラーの第三法則より この式を対数とって微分すると 連星系全体がもつ角運動量 この式に L1 点までの距離の近似式 これらの式が意味することは q=m2/m1>5/6 の時 ( ほぼ M2>M1 の時 ): 質量輸送するとロッシュローブが小さくなり さらにガスが押し出されて質量輸送が進む その結果 暴走的な質量輸送が続き 連星間距離は縮む (spiral-in) q=m2/m1<5/6 の時 ( ほぼ M2<M1 の時 ): 質量輸送するとロッシュローブが大きくなり 質量輸送が止まる 従って この条件下で安定した質量輸送を保つためには 星が ( 例えば巨星になって ) 膨張するか もしくは連星系全体から角運動量を抜く必要がある q<5/6 の場合で単独星として進化していないケースは 激変星など多くみられる この時の角運動量抜き取り機構としては重力波放出と magnetic braking が有力とされている 重力波の場合 Landau & Lifschitz (1958) より を使うと L1 点までの距離の近似式と 主系列星の質量半径関係を使うと それぞれ さらにその星が主系列星の場合 ( 質量ー半径の関係を利用 ) Magnetic braking は 星に付随した磁場が星の自転に伴い表面の角運動量を遠方へ運ぶもので 定量的な見積もりには星の磁場活動 = ダイナモ理論の理解が必要となる Verbunt & Zwaan (1981) は近似式として以下を与えている
激変星の進化は定性的にこう説明できる Period gap までは magnetic braking period gap 以降は gravitational radiation が効く 伴星が縮退すると 質量輸送に伴って半径が大きくなる 進化は逆方向へ
激変星進化は要するに 単独星の進化 連星系からの角運動量抜き取り で決まる ( 共通外層のフェーズでない限り わりと単純 )
連星の population synthesis で観測され る分布を再現しよう! 例 :Barker & Kolb, 2003
全然説明できない Period minimum 周辺の問題 観測される値 ~80 分 理論値 ~70 分 (period minimum 問題 ) どうやっても差を埋められない と問題に ほとんどの系は period minimum を通過しているはずで 分布は period minimum 付近に集中するはずである (period spike 問題 ) 当初は一般相対論を疑う声も 現在は重力波以外の角運動量抜き取りを考えるのが主流
別の角運動量抜き取りや その他の効果を考えてみよう e.g. Willems et al., 2005, ApJ, 635, 1263 Circumbinary disk による角運動量抜き取り 新星爆発による質量放出の効果 短周期で激変星になった系の効果
かなり合う
観測サンプルと理論の比較 ファインチューニングで合ってしまった ( 面白くもなんともない ) でも 比較に使われる観測サンプルは様々なサーベイや発見プロセスで見つかったものの混合 矮新星は毎年新しい天体がアウトバーストしているのが発見される 分布の形が年々変わっていく population synthesis で説明しようとしてるものは何なのか
Period minimum について 最近の研究 Gansicke, et al., 2009, astro-ph/0905.3476 SDSS で同定された CV だけで軌道周期分布を議論する
SDSS CV とは何か SDSS (Sloan Digital Sky Survey) Apache Point Observatory 2.5-m 専用望遠鏡で 撮像と分光のサーベイ 357,000,000 個の天体カタログ 限界等級 r=22.2 SDSS CV の selection (Szkody et al. 2002) 色から QSO 候補天体が選別 優先的にスペクトルが撮られる CV は QSO の色と似ている スペクトルがよく撮られている QSO 候補天体から QSO でないスペクトルのものを CV とする Redshfit=0, 幅の広い水素 & ヘリウム輝線
SDSS CV サンプル だいたい半分の CV 候補天体で follow-up 観測が終了した 92 天体を新 CV として発見 +45 天体の既知天体 =137 サンプル 各 CV 候補天体に対して分光観測して軌道周期 ( 連星であること ) を確定
これがバイアスなしの軌道周期分布だ! Wow! これまで観測されてたのと全然違うやん Period spike がある! 白 : これまでのカタロググレー :SDSS CV 白 :SDSS new CVs グレー :SDSS known CVs
なぜ欲しかった period spike が出てきたのか SDSS CV の内訳 SDSS CV のスペクトル例上 4 つは普通の CV 下 4 つは白色矮星が卓越 新たに見つかった 白色矮星卓越天体 伴星はもちろん 降着円盤由来 (hot spot X 線 含む ) の放射もほぼ見えず 伴星からの質量輸送率が極めて低い = 進化が進んだ系 WZ Sge 型天体 ( 爆発頻度が数十年 ) か もしくは全く矮新星爆発しない天体 絶対等級 Mg=11.6: 暗いので SDSS でようやく大量に見つかった
めでたし めでたし なのか? これまでの矛盾は 物理を知らなかったのではなく 観測のバイアスのせいだったなんて でも SDSS CV に観測バイアスはないのか? フォローアップ観測天体の選択は? まだ機械的に見つかった CV 候補の半分しかできていない 未フォローな 130 個の CV 候補の中で 白色矮星卓越スペクトルをもつ天体の割合は フォローしたサンプルと同程度 選択にバイアスなし フォローアップした天体の中でも 既知天体には period spike がでていない これまでのカタログを再現
そもそものデータ選択はどうか? 濃いグレー : 単独の白色矮星 主系列星薄いグレー :QSO 白丸 黒丸 :SDSS CV 普通の CV と白色矮星卓越 CV 色付き領域に入る天体はそもそも QSO ではないとして ( あまり ) 分光観測されない WD+MS の領域には 軌道周期が長くて かつ 質量輸送率が高いために 伴星の放射が卓越している CV 入る可能性があり それらの割合は過小評価してるかも しかし 連星進化理論上 そのような天体は少ないはず
未解決の問題 Period minimum problem は依然 未解決 SDSS CV の period minimum ~80min 絶対数が理論予測より少ない 星形成率 &population synthesis から予想される CV の density = 5 x 10^-5 pc^3 100pc 以内に ~210 個の CV があるはずで 連星進化理論を信じれば そのうち ~150 個は period minimum 通過後の天体のはず しかし 実際にはせいぜい 30 個 100pc の WZ Sge 型星 ( 白色矮星卓越スペクトル ) が受かっている (V=16.5) ので SDSS で全部見つかっていても不思議でない 理論を信じれば ほとんどの CV は未発見 WZ Sge 型星からさらに進化が進んだ天体は その色やスペクトルの特徴が大きく変わる SDSS CV サンプルから漏れている? ( 著者は理論予想値を疑っている?)