米国メイシーズのオムニ チャネルリテイリング -店頭-ネット連携商品表示の定点 観測調査での発見と示唆- Vol.2 No.14 宮副謙司 青山学院大学 日本マーケティング学会ワーキングペーパー Vol.2 No.14 発行: 2016年06月21日 更新: 2016年06月22日

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米国メイシーズのオムニ チャネルリテイリング -店頭-ネット連携商品表示の定点 観測調査での発見と示唆- Vol.2 No.4 宮副謙司 青山学院大学 発行: 206年06月2日 更新: 206年06月22日

米国メイシーズのオムニチャネルリテイリング -店頭-ネット連携商品表示の定点観測調査での発見と示唆Omni-channel retailing in USA Macy's -Discovery and suggestion by a-storefront observation of O to O marketing- 206 年 6 月 宮副謙司 青山学院大学

分類 ケース 米国メイシーズのオムニチャネルリテイリング -店頭-ネット連携商品表示の定点観測調査での発見と示唆Omni-channel retailing in USA Macy's -Discovery and suggestion by a-storefront observation of O to O marketing- 要約 オムニチャネルリテイリングの先進事例とされる米国百貨店 メイシーズ について そ の中でも目視できる取り組みである 店頭で顧客をネットへ誘導する カスタマーフェイバ リット と名付けられた店頭 ネット連携販売商品の POP 表示に着目し店頭調査を行った その結果 POP は婦人服 紳士服 子供服 婦人雑貨 家庭用品 家具など対象店舗の すべての商品部門に 合計 5 拠点 206 年 4 月時点 が設置されている 対象店舗 売 場面積 22,854 /6,93 坪 の フロア当たり約 20 拠点の展開という換算になる その商 品部門別には婦人服 婦人雑貨といった婦人関連で 66. を占める 商品アイテム別では 婦人靴 下着 タオルなど事前仮説の通り①サイズや色について店頭品揃えをネットで補完 する ②リアル店舗で実際に触れ品質 機能を確認できる商品が確実に選定されている しかし一方で POP 設置展開の月別推移を観ると 調査期間中同一の 定番商品 は 7 ア イテム 全体の 8 に留まり 各月の 重点商品 季節商品 PB など が次々と変化し て店頭訴求されており 小売業としての MD 戦略と運営が前提にあってこそ店頭もオムニ チャネルリテイリングも強化されるということが明らかになった キーワード オムニチャネルリテイリング O to O マーケティング 重点商品 店舗機能 1 研究の背景 - オムニチャネルリテイリングの定義 オムニチャネルリテイリング は 消費者がリアル店舗で見た商品をネットで詳しく調 べて購入決済し家への配送で商品を受け取ったり 逆にネットで探索した商品をリアル店 舗にて実際に目で見てサイズを確かめて購入するプロセスであったり 消費者の様々な購 買プロセスに沿って小売業が複数のチャネルを適宜活かしながら一貫した流れで顧客対応 する販売形態である i 図- のように 縦軸に小売業の販売チャネル 横軸に消費者の購 買プロセスを置いてみると その基本的な概念が説明される ii 2

オムニチャネルリテイリングという用語は 全米小売業協会 National Retail Federation, 略称 NRF の団体である ARTS The Association for Retail Technology Standards が 20 年にこのテーマについてレポートを発表し それ以降 小売業界に実務的に広まった と言われる 山本,205 学術的な研究論文では オムニチャネル について 実店 舗と十分な情報を得られるオンラインショッピング体験の利点とを融合する統合的な販売 経験 Rigby,20 や シームレスなショッピング経験と組み合わせて実店舗とオンラ インチャネルの両方を利用すること Lazaris and Vrechopoulos, 204 と定義しており 日本でも近藤 205 が すべてのチャネルを統合し消費者にシームレスなショッピング 経験を提供するマーケティング手法 と整理している 本稿では 小売業の販売活動についての オムニチャネルリテイリング を 図- に基づ いて 小売業が 店舗 ネットなど顧客と関係するチャネルを複数に持ち 顧客の商品探索 選択 購入 受取など購買プロセスに応じて各チャネルの役割を適宜活かしながら 顧客に とっては一連の購買プロセスとなるよう連携させて商品を販売すること と定義する iii -2 オムニチャネルリテイリングが活発化する背景と現状数値 小売業がオムニチャネルリテイリングを活発に取り組み始めた背景には いくつかの側 面があげられる 第一に PC タブレット 電話端末 商品管理 決済システムなど利用可能の技術 ICT の進展があげられる 購買プロセスごとに見ていくと ①商品探索プロセスではネット PC あるいはスマートフォン からリアル店舗 売場 へ あるいはリアル店舗 売場 からネ 3

ットへ顧客を誘導する O to O: Online to Offline/ Offline to Online と呼ばれる手法が語 られる ②商品選択では 試着 がリアル店舗でしか体験できないこととしてネットにない リアル店舗の強みとされる その一方で先端的な VR 仮想現実 システムを活用した 試着システムの開発 導入が試みられている ③決済では金融と連携した電子決済システム Fintech の技術開発が進み ④商品入手 受取では 受取ボックスを街中や CVS に設置 したり リアル店舗で受け取るようにしたりする ピックアップ あるいは コレクト と 呼ばれる仕組みや高度なロジスティックスシステムが整備され始めている iv 第二に 消費者のオンライン購買の進化があげられる PC タブレット スマートフォ ンの利用普及や それらの端末を活用したオンライン購買自体の浸透 さらに商品探索 選 択 購入 受取など購買プロセスに応じて店舗とオンラインを使い分ける能動的な購買行動 ショールーミングなど も顕在化している v 実際の購買データでも 日本の消費者向け電子商取引 EC の市場規模 物販系分野 サービス分野 デジタル分野合計 は 205 年に 3.8 兆円で前年比 07.6 伸長した vi 物販において EC の浸透を示す EC 化率 は 205 年に 4.75 に達し 200 年の 2.84 から大幅に上昇した 業種別に 205 年の EC 売上をみると EC 比率が高いのは 生活家 電 PC 事務用品 文房具 書籍 映像音楽ソフト EC 売上伸長が高いのは 食品 飲料 衣類 服装雑貨 などとなっている 一般に ①書籍 DVD 文房具など商品名 品番で確実に特定できる商品は早くからネット購買が進み ②サイズ カラーなど幅広い品 揃えのニーズが高い商品は店頭在庫をネットで補完し 下着 靴 ニットなど ②ネット で商品選択しても感触などをリアルに確かめる必要がある商品 家庭用品 タオルなど は オムニチャネルリテイリングに適しているといえる また物販分野におけるスマートフォ ン経由での購買の比率は 205 年に 27.4 に達している vii 第三には 小売業側の都合として 価格対応 大量販売を強みとする大手小売業との競合 への対抗や 商品分野を拡大し成長する アマゾン への対抗が位置づけられる 日本では 宅配便など商品配送 物流インフラの制度的な充実がオンラインリテイリングを促進して いるとの見方もある ちなみに アマゾンの業績 205 年 2 月期 は 売上高,070 億ド ル 前年比 20.4 約 2 兆 3000 億円 となっている viii その中で米国 アマゾン ドットコム は 売上は 500 億ドル 前年比 22.6 の伸長 204 年 米国小売業ラン キング 204 年 で第 0 位の規模になっている 第 4 位メイシーズ 280 億ドル 前年 比 00.6 や 第 20 位コールズ 90 億ドル 00.0 などの百貨店企業を上回る ix -3 米国百貨店にみるオムニチャネルリテイリング 米国百貨店はオムニチャネルリテイリングに積極的に取り組んでおり O to O リ アル店舗からネットへの誘導及びネットからリアル店舗への誘導 が盛んで 売場在庫 サイズ カラーなど の補完としてもネット活用している そしてその取り組みを店舗 4

店頭でもしっかりと顧客に向け告知 訴求している コールズ など店舗にネット端末 を設置し商品探索 選択を店頭でもネットでもできるようにしている企業も見られる その中で メイシーズ は 百貨店業界で売上トップの企業で オムニチャネルリテイリ ングを企業戦略の柱とすることを 20 年から強く打ち出し取り組んでいる 特に ① カ スタマーフェイバリット という名称で対象商品を特定し 店舗の売場に POPxで掲示して 顧客に重点商品としてアピールし販売するとともに 自社のネット販売サイトへも誘導す る 写真- 参照 ②シーズンファッションやライフスタイルのテーマでの重点商品をカタ ログで紹介 店頭で VMD ビジュアルマーチャンダイジング 展開し販売 さらにオンラ インでも販売するという統合的な営業戦略 ③オンライン注文商品を店頭で受け取る拠点 の設定などに取り組んでいる とりわけ第一の取り組みは 業界として先駆的で店頭でよく 目立つ活発な展開として注目される 写真- メイシーズ カスタマーフェイバリット 店頭での展開 206 年 4 月 米国ポートランド ダウンタウン店 著者撮影 本稿では 米国小売業でも積極的にオムニチャネルリテイリングに取り組み 他の企業に ない独自の展開を進めているメイシーズに着目し なかでも カスタマーフェイバリット 商品に関して その店頭展開を数か月の期間をかけて調査した この店頭からネットへの誘 導機能 O to O は 図- に示すように オムニチャネルリテイリングの一部ではあるが その取り組みを客観的に目視できる調査対象である また今後 オムニチャネルリテイリン グが前提となる時代における 小売店舗のあり方を考える意味でも意義があると考える 5

2 調査 分析の方法 2- 分析視点 メイシーズ店舗での カスタマーフェイバリット 商品 POP 展開を実地調査するに当た って その分析視点は以下の通りである ①メイシーズのオムニチャネルリテイリング対象 商品 とりわけ O to O 対象商品である カスタマーフェイバリット は どのような商 品 商品分野 商品アイテム が選定され どのような形態で POP 掲示が展開されている のか ②店舗規模に対してどのくらいの POP 掲示拠点数で展開されているのか ③POP 掲 示展開について月別 季節別など時系列的な変化があるのかといった観点である 2-2 調査方法 調査方法としては 実際に店舗に出向き 店頭で売場に設定された カスタマーフェイバ リット の POP を目で見て 展開ブランド 設置個所 設置部門を観察する その展開拠 点数を商品部門別に把握し その展開の月別推移を観ることとした 調査対象店舗は 全米の中でも州において商圏 都市圏が独立して確保され 業態が網羅 的に そして集中的に展開しているという点で オレゴン州ポートランド都市圏を選び そ の地域のメイシーズ店舗の中で当該 POP の展開数が最も多いと見受けられるポートラン ド ダウンタウン店 都心のパイオニアコートスクエア前に立地 を対象とした 付属資料 -2 xi 当該店舗 売場面積 22,854 /6,93 坪 で 商品部門として婦人雑貨 紳士服 婦人服 子供服 家庭用品 家具を取り扱う同社として標準的な商品構成の店舗であり 調 査対象にふさわしいと考えた 同店は地下 階から地上 5 階まで 6 フロアが売場となって おり 売場構成は 階 婦人雑貨 婦人靴 ハンドバック 化粧品など 2 階 紳士服 3 階 婦人服 4 階 婦人服 サイズ コート 婦人下着 と子供服 5 階 家庭用品 食器 寝具 調理器具など 地下 階 家具となっている 調査期間は 205 年 2 月から 206 年 4 月の 5 か月間として秋冬シーズン 2 月 月 春夏シーズン 2 月 3 月 4 月 を捉えられるようにした 時期的には百貨店が毎月 の営業展開を変化させ品揃え体制を整備するタイミングが業界通例として下旬であること から 調査時期を毎月下旬の平日午後に設定し店頭調査を行った xii 3 店頭調査を通じて明らかになった事実 ファクトファインディング 3- POP の大きさと告知内容 カスタマーフェイバリット POP は 基本的に正方形 大型 45 45cm 写真-2 と 小型 23 22cm のタイプ 靴売場限定用の縦長サイズ 23 45 がある 6

写真-2 メイシーズ カスタマーフェイバリット POP 206 年 4 月 米国ポートランド ダウンタウン店 著者撮影 POP 掲載内容は POP 中央から右側は 大きくその商品ビジュアルとなっており 衣料 品の場合はモデル着用写真 タオルなどカラー展開商品はそのバリエーション写真が掲載 されている POP 左側は 上部から① カスタマーフェイバリット ロゴ 次いで②スタ イル カラー サイズ在庫が店頭ストック以外にもあることの告知 ③スマホアプリのダウ ンロードを誘導 以上が共通 さらに④注文可能なカラーバリエーション 下側に⑤ブラ ンド名 商品名と⑥その他商品情報 ⑦Web-ID 顧客が検索や注文する際に有効な商品番 号 などの項目が掲載されている これらの項目はすべての POP で共通であり POP のデ ザイン及び掲載情報配置レイアウトもすべて統一されている また商品価格については エブリデイバリュー 常時一定価格 商品の場合は その価 格も POP に表示されている しかしながら それ以外の一般の カスタマーフェイバリッ ト 商品については POP には価格は表示 掲載されていない 3-2 設置方法 カスタマーフェイバリット POP の設置方法は 3 タイプがある 第一に大型 POP と靴 用 POP は専用のプラスチック製の POP 台にそのサイズのポスターを挟み込む形態で 売 場什器の上に立て商品陳列に溶け込む形で設置されている 写真- 第二に小型 POP はハ ンガー什器の側面上部に人目を惹くように設置されている 第三に化粧品売場では小型サ イズをシール化しガラスケース側面に貼り ケース上部には置かない方式になっている 7

3-3 設置拠点数 商品部門別 商品カテゴリー別 商品アイテム別 カスタマーフェイバリット POP は対象店舗の地下 階から地上 5 階までの 6 層すべ てのフロアに設置され 206 年 4 月時点で 5 拠点での展開になっている 2 月から 4 月までの 5 か月間でこの対象商品に選定された延べ総数は 25 アイテムに及んだ 商品部門別 ディビジョン別 カスタマーフェイバリット POP 設置について 店舗を構成する部門別 ディビジョ ン別 でみると 婦人服 紳士服 子供服 婦人雑貨 靴 ハンドバック 化粧品 家庭 用品 調理用品 食器 寝具 家具など対象店のすべての商品部門で展開されている xiii 206 年 4 月の拠点数 5 拠点について部門別の内訳を見ると 第一が婦人服 拠点数 43 拠点 で ついで婦人雑貨 33 拠点 紳士服 5 拠点 家庭用品 3 拠点 家具 7 拠点 子供 服 4 拠点という展開になっている またその構成比は婦人服が 37.4 ついで婦人雑貨 28.7 となっており 婦人関連で 66. と 全体の 3 分の 2 を占める 紳士服 3.0 家庭用品.3 家具 6. 子供服 3.5 という構成になっている 2 商品カテゴリー別 売場単位あるいはデパートメント単位 商品カテゴリー別 売場単位あるいはデパートメント単位 で設置 掲示が多いのは 化 粧品 206 年 4 月設置数 2 拠点 婦人靴 8 拠点 ハンドバッグ 6 拠点 婦人ミセ ス洋品 PB ブランド名 スタイル コー Style & Co 6 拠点 寝具 6 拠点 婦人 ニット ブランド名 カレンスコット Karen Scot 5 拠点 婦人アクティブ 5 拠点 婦人下着 5 拠点 などとなっている 3 商品アイテム別 カスタマーフェイバリット 対象と選定され店頭に POP 掲示された商品アイテムは 206 年 4 月時点で 5 アイテムであった 205 年 2 月から 4 カ月の間に POP 掲示され た商品アイテムは 延べ 25 アイテムに及ぶ その中で アイテムで同時期に複数 POP 設置され その設置数が多いのは 5 階家庭用 品部門ハウスリネン売場の マーサ スチュワート バスタオルである この商品はメイシ ーズのプライベートブランド PB であり ①売場壁面のプロパーでの品揃えの場所に通 常サイズの POP ②通路側から顧客に目立つ場所に大型の縦型 POP も配置された さら に③205 年 2 月には売場中央の平場に 3 つ目の POP が設置され POP を複数設置し展 開が強化されている 婦人服では 同じく PB の アルファーニ ALFANI カプリパン ツ スタイル コー STYLE & CO デニムカプリパンツ チャータークラブ CHARTER CLUB T シャツの 3 商品アイテムが 2 拠点で設置され顧客訴求を強めている 8

3-4 設置拠点数の月別推移 カスタマーフェイバリット POP 設置数は 205 年 2 月に 65 拠点であった その後 の月別推移は 206 年 月 72 拠点 2 月 58 拠点 3 月 23 拠点 4 月 5 拠点であった とりわけ 3 月は前月の倍以上に POP 拠点が拡大していることがわかる グラフ- 参照 拠点展開の月別推移を商品部門別に見ていくと 206 年 3 月には 婦人服 婦人雑貨 紳士服 前月 2 月 より大幅に拠点が増加している 特に婦人服が 2 月 20 拠点から 3 月 46 拠点へと 2.3 倍 婦人雑貨が 拠点から 32 拠点へと 2.9 倍へと拡大した POP 拠点数の部門別構成比では 婦人雑貨が 206 年 3 月に家庭用品を抜き 4 月時点ま で婦人服に次ぐ多くの拠点を展開しているが明らかになった グラフ-2 参照 商品カテゴリーの月別推移 第一に 2 月から 月の変化については 家庭用品 主に卓上調理家電 や婦人雑貨カ ジュアルハンドバックの拠点数の増加が著しい 家庭用品設置数は 2 月 6 拠点から 月 拠点へ ハンドバック設置数は 2 月 拠点から 月 5 拠点へと拡大した これは 2 月 までのクリスマス ホリデー商戦が終了し 店頭で強調する重点商品が大きく変わるタイミ ングに新年からの新製品の投入が重なったことが背景にある 第二に 2 月の設置拠点数の減少は 婦人服など衣料品分野の冬物展開が終盤となり 重 点商品の在庫も減少し積極的な訴求を必要としなくなったためと考えられる 9

第三に 3 月は春物投入とともに婦人雑貨 婦人服 紳士服で対象商品の設定が大きく入 れ替わった 婦人服の設置拠点数は 2 月 20 拠点から 3 月 46 拠点へ増加した 特に婦人服 のパンツ デニム アクティブウェアなどが政策的に強化され 206 年 3 月からの MUST HAVE 商品プロモーションでの重点商品として訴求 拠点数が増加したことが全体の拠 点数の増加につながったといえる さらに化粧品の商品設定 掲示が新規に開始されたことで 婦人雑貨の設置拠点数が一段 と増加し 部門別では婦人服に次ぐ 32 拠点に拡大した グラフ- 参照 化粧品は婦人向 けでは基礎化粧品 主要ブランドが アイテムずつ合計 5 アイテム開始 紳士向けでは香 水関係 4 アイテム が選定され POP 拠点が設置された 2 対象商品アイテムの月別推移 カスタマーフェイバリット POP 掲示対象商品についてアイテムレベルでその月別推 移を見ると ファッション商品は 2 月から 3 月にかけて その多くが秋冬商品から春夏商 品へ入れ替わり 対象商品も変わっている 例えば 2 月までは冬物防寒着のダウンウェア に設定があり 一方 2 月から婦人服ではデニムなどのパンツやアクティブウェア トレー ニング着 3 月からパーティドレスの商品設定 掲示が開始された 需要の季節性を踏ま えた重点商品の設定 POP 掲示展開が確実に見られる そのような中で今回調査した 5 か月間継続して対象商品して POP 掲示された商品が 7 アイテムあった その総数 7 アイテムは カスタマーフェイバリット 対象商品 延べ総 数 25 アイテム の中で約 8 にあたる 0

具体的には 家具 6 アイテム 家庭用品 2 アイテム マーサスチュアート バスタオル チャータークラブ バスタオル の他 ファッションでも婦人雑貨 2 アイテム コーチ オリーブローファー ラッキーブランド エミーバレーフラット 紳士服 アイテム ナ イキ スポーツソックス 婦人服 3 アイテム チャータークラブ カーディガン-写真 2 トミーフィルフィガー スポーツシャツ セレブリティピンク ジーンズ 子供服 3 アイテム カーターズ 幼児ボディスーツ エピックスレッズ 女児レギンス ナイキ 男児 T シャツ である これらがメイシーズのマーチャンダイジング MD 政策の中で 重点商品 であり 加 えて オムニチャネルリテイリングの定番商品 ということができる メイシーズのオムニ チャネルリテイリング展開の定番商品とその商品数が 今回の店頭調査で明らかになった 3-5 チラシ広告との連動 メイシーズでは 月に1回程度バーゲンチラシ広告が作成され 郵便ポスト投げ込みや店 頭配布がなされているが その中でも カスタマーフェイバリット 商品が一部掲載されて いる 顧客が来店した際に チラシ広告で見た カスタマーフェイバリット 商品を売場で 見つけ 商品を実際に手に取り 色や品質などを確かめるという流れとなっている またチラシ広告にも掲載商品には Web ID が付与されており その Web ID によっ てチラシ広告からオンラインサイトに誘導がなされていることがわかった すなわち顧客 にとってリアル店舗では視覚的 定性的に そしてオンラインサイトでは数値的 定量的に 自分が関心を持った商品を自分で探索できる仕掛けになっている xiv 4 ファクトファインディングを踏まえた考察 評価 4- POP 設置と売場環境 店頭でオンラインに誘導する カスタマーフェイバリット POP の大きさ 正方形 大 45 45cm 小 23 22cm 婦人靴のみ縦長サイズ 23 45 は ほどよく目立つか大き さであり 売場で目立ちすぎてブランド環境やイメージを損なうことにはなっていなかっ た そうした点を考慮したサイズと見せ方であると評価できる またファッション商品について 店頭 POP のモデル写真も ネットやチラシ広告と同じ モデルが着用する共通仕様 あるいは同様な雰囲気のビジュアルになっており この点でも 顧客にシームレスな オムニチャネル 感を与えている 4-2 価格表示 カスタマーフェイバリット POP には カード会員割引などの対象外で販売価格が常 時一定の エブリデイバリュー 商品以外 商品価格は表示していない POP に固定的に 価格を表示しない 点については メイシーズではネット販売と店舗販売ではセール展開時 期の差異や 当初からの価格設定に差異がある場合があること さらに店頭では 全館ワン

デイセール などセールが様々に企画 実施され 価格がたびたび変動する営業環境になっ ており 現場の運用面を考慮すると現実的な方策と判断される 4-3 設置拠点数 メイシーズのポートランド ダウンタウン店 売場面積 22,854 /6,93 坪 6 フロア に カスタマーフェイバリット POP の設置拠点数は約 20 拠点で フロア約 4,00 /,250 坪 に平均でおおよそ 20 拠点設置されていることになる 付属資料-3 とりわけ売 場内に集中する 階婦人靴 4 階婦人下着などの売場でも特に POP の設置が多いという圧 迫した印象は受けない 婦人靴はこの商品分野だけの縦長形態の POP にしていること 婦 人下着は小型 POP の什器サイド付けとしたことなど 顧客に圧迫感 飽和感を与えない掲 示の工夫が様々になされているためと思われる また 階の設置拠点が全館の 28.7 206 年 4 月 を占めるほど多いことは 商品的に 婦人靴 ハンドバック 化粧品といった商品分野が 階に配置されていることが要因であ る そして同社がオムニチャネルリテイリングに力を入れていることを来店顧客 階通行 顧客 に認識させるという心理的な訴求効果も確実にあると考えられる 4-4 商品特性の特徴 商品特性別にオンラインに誘導する カスタマーフェイバッリット POP 掲載の設置を 観ると まず業界の定説あるいは事前仮説の通り サイズや色のバリエーションが多く 店 頭での商品在庫に限界がある商品 すなわち 婦人靴 婦人ニット 婦人下着などに多くの 設定 掲示がなされている 一方事前の予想に反して サイズや色のニーズが高いと思われ る子供服については設定 掲示が少なかった xv また家具は日本の百貨店では店頭常備の取扱いがほとんどないため事前仮説としてオム ニチャネルリテイリング商材と想定していなかったが メイシーズでは一定数の商品設定 掲示がなされ 意外な印象を得た 第二にブランド及び取引先別では 業界の定説あるいは事前仮説の通り アルファーニ ALFANI インターナショナルコンセプト INC スタイル コー Style & co チ ャータークラブ CHARTER CLUB などメイシーズのプライベートブランド PB に多 く設定 掲示が見られた しかし それ以外で カルバンクライン トミーフィルフィガ ー マイケルコース など有名ブランド デザイナー及び取引先 商品の設定 掲示も数 多くみられた 5 日本の百貨店への示唆 5- 商品について日本の百貨店の取り組みとの違い 第一に 日本で先行的 実験的な取り組みとされる髙島屋の 205 年の取り組みと比較し てみよう 高島屋の取り組みでは 化粧品 香水など アクセサリー 和洋ブランド菓子 2

一部の特選ブランド衣料品の 5 分野がオンライン商材として店舗店頭で紹介されていた 髙島屋では これらがオムニチャネルリテイリングの好適品と考えていると思われる また オムニチャネルリテイリングの展開目的としても 立川 柏など郊外店及び地方店の店頭 MD を補完することがあげられ その実験であったと推測される もし日本の百貨店のオム ニチャネルリテイリングの取り組みが 基本的に店舗 MD 補完が主眼であったとすれば オンライン ネットが全国をカバーするチャネルであることを前提に 店舗が立地する地域 では店舗とネットの相互購買を促そうとする米国百貨店とは オムニチャネルリテイリン グのそもそもの発想の起点に差異があるということになろう 第二に 日本の百貨店では取扱縮小分野である 家具 について メイシーズではすべて の店舗でしっかりと売場を展開し さらにオムニチャネルリテイリングを訴求しているこ とは 日本の百貨店にとって 衝撃的な ことかもしれない 日本の百貨店では 家具はも はや見向きもしない商品分野になっているからだ しかし考えてみれば 家具商材は生活の 必需品であり 商品の大きさや素材感 座り心地 寝心地をリアルに実感し試用してみたい とする顧客ニーズが確実にある そうした点をリアルの場を持つという百貨店の強みと変 え ネット購買との違い として生かし確実に顧客に訴求していく戦略もあってよいと思 われる そして このように百貨店が商品選択力や編集力を発揮し 接触 フィッティング機会を 多く持つ特徴を活かしていく差別化戦略は大いに参考になる こうした百貨店の強みを ICT の活用やオムニチャネル商法でより強調し競争優位を追求できる商品分野が 家具インテ リア以外にもまだ存在するのではないだろうか あるいは今後創造できるのかもしれない 5-2 取引先との協働の取り組み 日本の百貨店では オムニチャネルリテイニングは PB や自主開発商品のように自社管 理できる商品分野でしかできない という初期認識を固定的にとらわれている企業も多い しかし 米国百貨店メイシーズの事例を見ていくと メイシーズは百貨店業界のトップとい う市場競争地位の優位性を持っているという与件はあるが ナイキ カルバンクライン など大手取引先とオムニチャネルリテイリング対象商品の設定から運営までの協働が数多 くなされている 日本の百貨店でもオムニチャネルリテイリングの展開可能性を自主仕入管理の商品に限 定せず 重点取引先の豊富な情報やリソースを活用し 取引先と協働で取り組むことをさら に本格的に進めたほうが良いのではないだろうか 5-3 基本は重点商品の展開 オムニチャネルリテイリングで対象とする商品は 小売業として基本である MD 戦略が 起点になっていることが メイシーズの カスタマーフェイバリット 展開からよくわかっ た すなわち季節性や競合を意識した上での月別重点商品の選定から サイズ カラーのバ 3

リエーション揃え 取引先との協働 商品写真撮影とパネル化 関連メディアとの共通発信 売場掲示とネット連動での発信 在庫管理まで小売業として MD の戦略と運営の仕組みの 確立があってこそ オムニチャネルリテイリングに取り組めるということである 5-4 販売以前に広告コミュニケーションからオムニチャネル展開を考える オムニチャネルリテイリングは 小売業の販売チャネル マーケティング戦略にいう 価 値の提供 部分 について複数のチャネルを活用することであることを本稿の冒頭で定義し たが メイシーズの事例を見て参考にするべきは 価値の伝達 部分である広告コミュニ ケーションも店頭 ネット PC 及びスマホ カタログ チラシなどの紙媒体 外商 宅配 などの人手を介する媒体までオムニで企画し顧客に向け発信すべきであり トータルにマ ーケティング マネジメントすることを認識した 商品の選定によって基本の商品コード メイシーズの場合 Web ID コード を付与し カタログやチラシといった広告コミュ ニケーション段階から 販売段階まで共通に管理できるようにして顧客に訴求し 購買につ なぎ プロセスに沿って顧客の商品届けまで対応すべきである そして可能になっているの である すでに 販売チャネルだけのオムニチャネルでなく 広告コミュニケーションも含 めてオムニチャネルなのである オムニチャネルリテイリング に オムニチャネルコミュニケーション を含めて捉え るか あるいは 別として捉え両者を合わせて小売業の オムニチャネルマーケティング と呼んだ方が合理的かはまだ議論があるところだろう しかし この調査をもとに考察したことで 少なくともオムニチャネルリテイリングの 新たな戦略体系の全体像が見えてきたことは確かなことである 図-2 参照 4

5-5 日本の百貨店の販売形態特性からのオムニチャネルリテイリング発展の可能性 O to O 店頭からネットへ あるいはネットから店頭への顧客誘導 は コミュニケ ーション手法の充実によってなされるが そのコミュニケーションが顧客の関心を集め さらに共感を得て 次の購買へ行動が移っていくことが 広告コミュニケーション論で言 われる エンゲージメント 概念である そして企業に対する顧客のエンゲージメント は 顧客の 体験 があれば 一層高まっていくとされる 坂下他,206 そうであれ ば 日本の百貨店は ①店内催事 売場イベントが多い ②専門販売員を含め接客体制が 比較的広く行きわたっている ③外商などさらに人手を介した販売形態も持っている と いった特質があり その点から考えれば 日本の百貨店は人手を介した様々な接点で顧客 のエンゲージメントを高めやすく O to O を促進させ ひいてはオムニチャネルリテイ リングを発展させやすい環境にあるいうことができる 店頭での接客 体験がその当日の店舗での売上実績に直結しなくとも それらによって エンゲージメントされた顧客が後日ネットで購買することにつながるような統合機能を発 揮させ 顧客を自社のオムニチャネルリテイリングから離脱させず確実に収益に結びつか せる可能性も高いということができる 5

参考文献 近藤公彦 205 小売業におけるマルチチャネル化とチャネル統合 国民経済雑誌 第 4 巻第 3 号 pp.46-55 近藤公彦 206 日本型オムニチャネルの特質と理論的課題 日本商業学会第 66 回全 国研究大会報告論集 206 年 第 66 回全国研究大会準備委員会 pp.92-94 宮副謙司 204 2030 年の百貨店-あるべき姿を構想する ストアーズレポート 205 年 月号 pp.28-3 ストアーズ社 坂下玄哲 Viswanathan Vijay Masowska Ewa 206 百貨店における購買行動分 析 日本商業学会第 66 回全国研究大会報告論集 206 年 第 66 回全国研究大会準備委 員会,pp.88-9 山本昭二 205 オムニチャネルの特性と消費者行動 ビジネス アカウンティングレ ビュー 第 6 号 関西学院大学経営戦略研究会 pp.55-67 経済産業省商務情報政策局情報経済課 206 平成 27 年度我が国経済社会の情報化 サ ービス化に係る基盤整備 電子商取引に関する市場調査 報告書 経済産業省 ARTS 20 Mobile Retailing Blueprint V2.0: A Comprehensive Guide for Navigation the Mobile Landscape, NRF. Rigby, Darrel 20 The Future of Shopping, Harvard Business Review, Vol.89, No.2, pp.64-75. Lazaris, Chris and Vrechopoulos, Adam 204 From Multicahnnel to Omnichannel Retailing: Review of the Literature and Calls for Research, Conference Paper: 2nd International Conference on Contemporary Marketing Issues. Macy s inc. 206 205 FACT BOOK Macy s inc. 6

付属資料- メイシーズ カスタマーフェイバリット 商品一覧 205-6 年 部分抜粋 205年206年 2 3 4 5 6 7 8 9 0 2 3 4 5 6 7 8 9 20 2 22 23 24 25 26 27 28 29 30 3 32 33 34 35 36 37 38 39 40 4 42 43 44 45 46 47 48 49 50 5 52 53 54 55 56 57 58 2月 月 2月 3月 4月 カテゴリー 商品 ブランド 取引先 アイテム 商品名 婦人靴 パンプス INC INC PUMPS ZITAH LEATHER PUMPS MICHAEL CORS MICHAEL CORS PULTON MOC AW FULTON MCC SS MICHAEL CORS COACH FLEX MID PUMPS OLIVE LOAFERS LUCKY BRAND CLARKS EMMIE BALLET FLAT BLANCHE ROSA BALLET FLATS CLARKS EASY SPRIT SILLIAN CLOUDS TEPPER SNEAKERS TRAVELTIME SNEAKERS KEDS MICHAEL CORS CHAMPION OXFORD SNEAKERS DAMITA WEDGIE SANDALS ALFANI BANDOLINO BAYA WEDGE SANDALS RIDING BOOTS DOONEY & BOURKE DOONEY & BOURKE NYLON XL CROSSBODY BAG SMALL LEXINGTON SHOPPER KIPLING CALVIN KLEIN CROSSBODY BAG REVERSIBLE TOTE 9 Colors 90372 CALVIN KLEIN CALVIN KLEIN REVERSIBLE TOTE 7 Colors 777760 LEATHER TOTE 8colors CALVIN KLEIN LEATHER TOTE 7colors カジュアル ブーツ ハンドバック カジュアル MEADIUM SELMA SATCHEL AVA SATCHEL MICHAEL CORS COACH TRAVEL CONTINENTAL WALET EDIE SHOULDER BAG PATRICIA NASH VERA BRADLEY TORRI CROSSBODY BAG TRIPLE ZIP CROSSBOBY HANDBAG NINE WEST GIANI BERNINI AVA TOTE SAFFIANO TOTE DELSEY SAMSONITE SHADOW 3 HARDSIDE SPINNER LUGGAGE SPHERE LITE SPINNER LUGGAGE TRAVELPRO WALKABOUT3 SPINNER LUGGAGE HUE HUE 6-PACK SPORT SOCKS PONTE LEGGINS CEJON WOVEN INC MUFFLER WRAP INC CHARTER CLUB PASHIMINA WRAP LEATHER GLOVES 宝飾 TRUMIRACLE TRUMIRACLE DIAMOND EARRINGS DIAMOND RING 時計 MICHAEL CORS GOLD EARRINGS PARKER WATCHES MICHAEL CORS ANNE KLEIN PARKER WATCHES 2STYLES BOXED SETS UNWRITTEN LANCOME BANGLES LA VIE EST BELLE EAU DE PARFUM LANCOME CLINIQUE ADVANCED GENIFIQUE HAPPY PERFUME CLINIQUE DRAMATIKALLY DIFFERENT MOISTURIZER WITH PUMP ESTEE LAUDER ADVANCED NIGHT REPAIR Ⅱ CLARINS SHISEIDO DOUBLE SERUM COMPLETE AGE CONTOROL ULTIMUNE POWER INFUSING CONCENTRATE GUCCI JEAN PAUL GAULTIER GUILTY EDUDE TOILETTE SPRAY LE MALE EAU DE TOILETTE SPRAY PACO RABANNE CALVIN KLEIN INVICTUS EAU DE TOILETTE SPRAY ETERNITY FOR MEN EAU DE TOILETTE DOLCE & GABBANA LIGHT BLUE EAU DE TOILETTE SPRAY 階小計 服飾雑貨 宝飾 時計 アクセサリー アクセサリー 化粧品 化粧品 紳士化粧品 7 MICHAEL CORS MICHAEL CORS スーツケース LAUREN RALPH LAURENNEWBURY DUBLE ZIPPER SATCHEL 旅行用品 0 0 0 0 0 5 32 33

付属資料-2 メイシーズ ポートランドダウンタウン店 店舗外観 206 年 4 月 著者撮影 8

i オムニチャネルリテイリングは つの企業内で複数のチャネルをマーケティング マネジメントして いく概念であるが 小売業の中で百貨店 スーパーマーケット SM と略す コンビニエンスストア CVS と略す など複数の業態を別会社で保有する大手グループでは グループ企業が横断的に連携す る グループ型オムニチャネルリテイリングを展開する事例もある セブン アイグループ 日本 では グループ各社が参加するオンラインサイトを設けそこで顧客が購入した商品を CVS で入手可能とした またジョンルイスグループ イギリス では SM 企業で商品入手可能となっている ii オムニチャネル は 小売業が店舗 ネット カタログなど複数のチャネルを持ち 各チャネル内で 完結する販売体制を併存させるに留まり連動するまでに至らない マルチチャネル とは区別される iii 従来の業態定義でコトラーが顧客の店舗での購買プロセス 探索 比較 選択 について人手を介す る場合は フルサービス 人手を介さない場合は セルフサービス を区別したが オムニチャネルリ テイリングの定義でも購買プロセスを軸に定義を考えると シームレス という要素をうまく説明でき るので このアプローチで概念を定義する iv オムニチャネルリテイリングは 本来的には包括的 統合的な概念にも関わらず 小売業実務では このように様々なプロセスを構成する個別要素 特に ICT システム論 で語られる概念となっている v 特にスマートフォンの登場によって消費者は PC よりもさらに手軽にどこででも情報収集 購入決済 ができ また購買プロセスをワンストップで完結できる場を店舗以外に得て 消費者の能動的行動の可能 性が一気に高まったことが オムニチャネルリテイリングへの流れを加速させたと考えられる 日本での スマートフォン世帯別保有状況は 20 年 6.2 202 年 3.4 203 年 42.4 204 年 47. と 年々高まっている 総務省 通信利用動向調査 vi 電子商取引 EC Electronic Commerce とはインターネット上で行われる財またはサービス購入 携帯電話などモバイルコマースも含む と捉える 出所 経済産業省 206 平成 27 年度我が国経 済社会における情報化 サービス化に係る基盤整備 205 年 EC 売上数値も同資料によるものである vii 経済産業省 206 平成 27 年度我が国経済社会における情報化 サービス化に係る基盤整備 206 年 6 月発表による viii 出所 ダイヤモンドチェーンストア 206 年 5 月 日号 ダイヤモンドフリードマン社 ix また日本市場でも アマゾン ジャパン 売上は 8,400 億円 204 年 で 日本の通販業界企業で は首位 第 2 位 アスクル 2,768 億円 となっている 三越伊勢丹 兆 2,00 億円 そごう西武 7,907 億円 JFR 7,632 億円 髙島屋 7,550 億円 出所 ダイヤモンドチェーンストア 206 年 5 月 日号 ダイヤモンドフリードマン社 x POP とは Point of Purchase の略で 紙を広告媒体としてその上に商品名 価格 説明文などを掲 載したもので 売場陳列台の上などに設置される 店舗が推奨商品を顧客に向けて提示し販売促進する xi ポートランド都市圏に立地するメイシーズの店舗規模は 郊外 SC 立地のクラッカマスタウンセンター 店 369 千スクエアフィート 以下 ft²と表記する 34,28 ワシントンスクエア SC 店 260 千 ft² 24,55 準郊外 SC 立地のロイドセンター店 298 千 ft² 27,685 となっている ダウンタウン 店 246 千 ft² 22,854 は郊外店の店舗規模を下回っている xii 店頭調査日は 205 年 2 月 2 日 月 206 年 月 26 日 火 2 月 6 日 火 3 月 30 日 水 4 月 22 日 金 である xiii 食料品は PB のチョコレート 2 種類のアイテム が カスタマーフェイバリット に設定され独 自の小型 POP となっていたが ネットへ誘導する機能が掲載されていないので ネットへ誘導する掲示 の店頭調査という趣旨には該当しないと判断し 今回の調査対象から除外した xiv 今回の店頭調査の研究課題としては ①調査期間が筆者のポートランド市滞在期間に依っているこ と ②市内に複数店舗展開している中でダウンタウン店だけに限定した店頭調査となっており 郊外店と の比較は十分に行っておらず店舗差異の分析に至っていないこと ③店頭調査でわかることに限られ百貨 店企業側へのインタビューを行っていないため成果情報の収集や検証はできていないことがあげられる xv 子供服は他部門に比べ設定 掲示が大幅に少ないが この要因としては メイシーズの PB が子供服 部門には多くないこと あるいは婦人 紳士にみられるような主要なブランド取引先 カルバンクライン やトミーフィルフィガーなど が多くないことなどが要因ではないか そもそも子供服購買層の需要が百 貨店で オンラインで少ないためかなどが背景として考察される 9