富裕層における不動産相続の留意点 SMBC 日興証券株式会社 ( 作成日 :2016 年 4 月 )
はじめに 富裕層の方にあっては 最近話題になっているタワーマンションの購入や 従来から行われている賃貸マンション アパートの建設など 不動産を活用して様々な相続税対策を行っておられます そこで本書では 不動産を取り巻く最近の環境に鑑みて それらの対策の検討 実施の際の留意すべきポイントについてご紹介します 1
す 不動産を活用した相続税対策不動産を活用した相続税対策 不動産を活用した相続税対策の主なものとして 区分 ( 分譲 ) マンション購入と 更地への賃貸マンション アパートの建設があげられま Chapter 1 区分 ( 分譲 ) マンション購入 Chapter 2 賃貸マンション等の建設 相続税評価 区分マンションの評価の考え方 タワーマンションの評価の特徴 等 期待利回り タワーマンションの期待利回りの傾向 相続税評価 貸家建付地及び貸家の評価の考え方 等 2
Chapter 1 区分 ( 分譲 ) マンション購入
区分 ( 分譲 ) マンションの相続税評価 区分 ( 分譲 ) マンション ( 以下 区分マンション ) の相続税評価は 財産評価基本通達 ( 財基通 1(2) 等 ) で以下のとおり定められています 区分マンションの相続税評価 区分マンションの価額 : 区分所有建物とその敷地 = 区分所有マンションの価額 + 敷地 ( 敷地権 ) の価額 区分マンションの価額 ( 各戸の評価額 )= 建物の固定資産評価額 (1 棟の建物全体の評価額 ) 各戸の専有面積の割合 敷地 ( 敷地権 ) の価額 = マンション敷地全体の価額 ( 路線価方式又は倍率方式で評価 ) 敷地権割合 ( 共有持分 ) 時価 ( 市場価格 ) 時価 ( 市場価格 ) 1 億円 相続税評価額 建物 固定資産税評価額 :2,000 万円 土地 合計 路線価敷地面積敷地権割合 ( 共有持分 ) 200 万円 10,000 m2 1,000/1,000,000=2,000 万円 4,000 万円 区分マンションの時価 ( 市場価値 ) と相続税評価額は 大きくかい離しています ( 出所 ) 国税庁 HP を参考に SMBC 日興証券ソリューション企画部作成 4
タワーマンションと低層マンションの比較 区分マンションは 高層階を有するタワーマンションと低層マンションに大別されます タワーマンションの特徴 タワーマンション ( 略して タワマン とも呼ばれています ): 一般的に タワーマンションと表記されるものは その多くが 20 階程度以上の階数で建築されているマンションです マンションの場合 敷地については建物床面積の割合で共同所有されることが多く その場合 同規模広さの敷地に建つマンションでも 3 階建と 20 階建では 20 階建の方が 1 戸あたりの敷地面積は小さくなるため 1 戸あたりの土地の相続税評価額は (20 階建の ) タワーマンションの方が小さくなります タワーマンションは 高層階になるほど市場価格が高くなる傾向があるため 時価 ( 市場価格 ) と相続税評価額のかい離は更に大きくなります 相続税評価 タワーマンション > 低層マンション 敷地権 敷地権 200 万円 10,000m2 1,000/1,000,000=2,000 万円 200 万円 10,000m2 2,000/1,000,000=4,000 万円路線価敷地面積敷地権割合 ( 共有持分 ) 路線価敷地面積敷地権割合 ( 共有持分 ) タワーマンションの高層階が相続税対策の一環で取得されている理由は 区分マンションの中では 高層階になるほど時価 ( 市場価格 ) と相続税評価額のかい離がより大きくなるからです ( 出所 ) 国税庁 HP を参考に SMBC 日興証券ソリューション企画部作成 5
タワーマンション購入にかかる検討のポイント いわゆる タワマン購入 は 期待利回りが低い一方 相続税対策の効果が高いといわれてきました タワーマンション購入にかかる検討 国税庁が実施したタワーマンション (20 階以上 ) の時価 ( 市場価格 ) と相続税評価額のかい離に関するサンプル調査 ( 注 ) によると それらの間のかい離が 平均で約 3 倍 最大で約 7 倍あることがわかりました ( 注 )2011 年 ~2013 年分の 20 階建以上のマンションの譲渡所得税にかかる申告を基に行った調査 ( サンプル数 :343 件 ) 時価 ( 市場価格 ) 平均値 :3.04 倍最大値 :6.93 倍 相続税評価額 タワーマンションの高層階の時価 ( 市場価格 ) は高くなる傾向にあります そのため 一般的に 期待利回りは低くなります また 賃料が低層階と高層階であまり変わらないため 高層階の物件の期待利回りは 更に低下する可能性があります 期待利回り (CAPレート) NOI (Net Operating Income: 年間純収益 ) (Capitalization Rate) = 100 時価 ( 市場価格 ) NOI( 年間純収益 ) = 満室賃料 - 固定資産税 都市計画税 - 各種負担金 - 維持経費 ( 管理料 保険など ( 注 )) ( 注 ) 減価償却費は含まない ( 出所 ) 国税庁 HP を参考に SMBC 日興証券ソリューション企画部作成 6
タワーマンション購入に関する国税庁の見解 タワーマンション購入に関して 国税庁は 時価 ( 市場価格 ) と相続税評価額のかい離を利用した節税を防止する観点から 財産評価基本通達第 6 項 ( 以下参照 ) による運用を行いたい との見解を発出しています そのため 今後の対応には注意が必要です 財産評価基本通達第 6 項 この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は 国税庁長官の指示を受けて評価する これは 財産評価基本通達に定められた通常の方法 (4 頁に記載 ) でタワーマンションを評価している場合でも それで評価することが著しく不適当と認められる場合には その評価額が否認されるリスクがあるということを意味しています ポイント 時価と相続税評価がかい離している事案が著しく不適当か否かは 不動産の取得時期やその目的 更に使用状況などを含めて総合的に判断されることとなります 過去の判例 裁決を見ると 通達に定めた評価を認めず 購入価額 ( 時価 ) を評価額としたケースが見られます 東京地裁平成 4 年 3 月 11 日判決 ( 平成 2 年 ( 行ウ ) 第 177 号 ): 相続税評価額とのかい離約 5.8 倍 否認理由 : 相続開始直後に売却 国税不服審判所 ( 東京支部 ) 平成 23 年 7 月 1 日裁決 : 相続税評価額とのかい離約 5.0 倍 否認理由 : 取得時期と相続時期が近接 ( 出所 ) 国税庁 HP を参考に SMBC 日興証券ソリューション企画部作成 7
ご参考 : マンション価格動向 首都圏 近畿圏のマンションの成約価格は 国内富裕層の相続税対策と外国人の買い需要に支えられて 概ね堅調であるものと推察されます 首都圏のマンション平均価格 近畿圏のマンション平均価格 4,500 件 4,000 件 件数 ( 左軸 ) 平均価格 ( 右軸 ) 3,300 万円 3,200 万円 3,100 万円 3,000 万円 2,000 件 1,800 件 件数 ( 左軸 ) 平均価格 ( 右軸 ) 2,300 万円 2,200 万円 2,100 万円 2,000 万円 2,900 万円 1,600 件 1,900 万円 3,500 件 2,800 万円 1,800 万円 2,700 万円 2,600 万円 1,400 件 1,700 万円 1,600 万円 3,000 件 2,500 万円 2,400 万円 1,200 件 1,500 万円 1,400 万円 2,500 件 2,300 万円 2,200 万円 1,000 件 1,300 万円 1,200 万円 2,100 万円 1,100 万円 2,000 件 2,000 万円 800 件 1,000 万円 ( 出所 ) 公益財団法人不動産流通推進センター HP を参考に SMBC 日興証券ソリューション企画部作成 8
Chapter 2 賃貸マンション等の建設
空き家の状況 総務省公表の土地統計調査から 賃貸マンション等の空室が増加の傾向にあることがわかります この調査によると 日本の総住宅数 6,063 万戸のうち 820 万戸が空き家となっており ( 空き家率 13.5%) その空き家のうち 52.4%(429 万戸 ) が賃貸用の住宅 ( 共同住宅 ) となっています 空き家数及び空き家率の推移 空き家の内訳 ( 万戸 ) (%) 900 16 800 空き家数 ( 左軸 ) 13.5 13.1 空き家率 ( 右軸 ) 12.2 14 700 11.5 12 600 500 400 300 200 100 0 2.0 2.5 36 52 4.0 103 5.5 172 7.6 268 8.6 330 9.4 9.8 394 448 576 659 757 820 10 8 6 4 2 0 38.8% 5.0% 3.8% 52.4% 賃貸用の住宅売却用の住宅二次的住宅その他の住宅 ( 注 ) その他の住宅 とは 賃貸用の住宅 売却用の住宅 二次的住宅 以外の住宅で 例えば 転勤 入院などのために居住世帯が長期にわたって不在となっている住宅や 建替えなどのために取り壊すことになっている住宅のほか 空き家の区分の判断が困難な住宅等を含む ( 出所 ) 総務省 平成 25(2013) 年住宅 土地統計調査 (2014 年 7 月 ) を参考に SMBC 日興証券ソリューション企画部作成 10
貸家建付地の評価 賃貸マンション等を建設した場合 その敷地となっている土地の相続税評価は 貸家建付地として評価します 近年 空室率の上昇を受けて 相続税対策の観点から賃貸割合が注目されるようになっています 貸家建付地の評価 貸家建付地とは 貸家の目的となっている宅地 すなわち 所有する土地に建築した家屋を他に貸し付けている場合の当該土地のことをいい その評価額は以下の計算式により計算します 評価額 = 自用地としての評価額 ( 1 - 借地権割合 借家権割合 賃貸割合 ) 賃貸割合 賃貸割合 は その各独立部分 ( 構造上区分された数個の部分の各部分 ) がある場合に その各独立部分の賃貸状況に基づき 以下の計算式により計算した割合のことをいいます 賃貸割合 = (A) のうち 課税時期において賃貸されている各独立部分 ( 注 ) の床面積の合計 当該家屋の各独立部分 ( 注 ) の床面積合計 (A) ( 注 ) この算式における 各独立部分 とは 建物の構成部分である隔壁 扉 階層 ( 天井及び床 ) 等によって他の部分と完全に遮断されている部分で 独立した出入口を有するなど独立して賃貸その他の用に供することができるものをいう なお 継続的に賃貸されていたアパート等の各独立部分が 課税時期において一時的に空室となっていた場合 その部分が賃貸されていたと見なされることがある 貸家建付地の評価事例 自用地としての評価額が 1 億円 借地権割合 70% 借家権割合 30% 賃貸割合 100% の場合 貸家建付地の評価額 = 1 億円 (1-70% 30% 100% ) = 7,900 万円 自用地としての評価額が 1 億円 借地権割合 70% 借家権割合 30% 賃貸割合 80% の場合 貸家建付地の評価額 = 1 億円 (1-70% 30% 80% ) = 8,320 万円 ( 賃貸割合の低下に伴って評価額が上昇 ) ( 出所 ) 国税庁 HP 掲載の情報をもとに SMBC 日興証券ソリューション企画部作成 11
貸家の評価 賃貸マンション等の建物 ( 家屋 ) の相続税評価は 貸家として評価します 貸家の評価においても 前頁の貸家建付地と同様に 近年の空室率上昇を受けて 相続税対策の観点から賃貸割合が注目されるようになっています 貸家の評価 貸家の用に供されている家屋は その家屋の固定資産税評価額から 当該固定資産税評価額に借家権割合と賃貸割合を乗じた価額を控除して評価します 貸家の評価具体例 家屋の固定資産税評価額が 5,000 万円 借家権割合 30% 賃貸割合 100% の場合 貸家の評価額 = 5,000 万円 (1-30% 100% ) = 3,500 万円 家屋の固定資産税評価額が 5,000 万円 借家権割合 30% 賃貸割合 80% の場合 貸家の評価額 = 5,000 万円 (1-30% 80% ) = 3,800 万円 ( 賃貸割合の低下に伴って評価額が上昇 ) 賃貸マンション 空室率上昇 賃貸マンション 近年の空室率の上昇 ( 賃貸割合の低下 ) により 土地と建物 ( 家屋 ) の両方について 賃貸割合 100% の適用が受けられなくなるケースが見られます ( 出所 ) 国税庁 HP 掲載の情報をもとに SMBC 日興証券ソリューション企画部作成 12
空室率の上昇 ( 賃貸割合の低下 ) の相続税額への影響 空室がある場合 賃貸割合の低下から貸家建付地評価の減額効果が薄れ その結果 相続税額が増加することになります 以下では 空き室率が 0%( 賃貸割合が 100%) で 相続財産の総額が 3 億円 5 億円 10 億円の各ケースの場合の 空室率の上昇による相続税額増加のイメージを示しています ( 前提条件 ) 財産の 1/3 が不動産で 更にその半分が賃貸マンションの建っている土地と仮定 相続人 :2 人 ( 奥様とお子様 ) 法定相続割合で財産分割 借地権割合 :70% 借家権割合 :30% ( 注 1) 小規模宅地等の特例は適用せず ( 注 2) 配偶者の税額軽減特例を考慮せず ( 注 3) 貸家の評価は考慮せず 相続発生 ご主人 お子様 奥様 ( 相続税額の増加率 :%) 108 107 106 105 104 103 102 101 100 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 財産額 3 億円財産額 5 億円財産額 10 億円 ( 空室率 :%) 空室率の上昇に伴い 相続税額が増加するため 早急な空室対策が必要となります 13
まとめ 本書では 不動産を活用した最近の相続税対策にかかる検討 実施の留意点についてご紹介しました 本書が 不動産保有者の方における相続税対策の策定 実行の際の一助となれば幸いです 14
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