特推追跡 -1 平成 28 年度科学研究費助成事業 ( 特別推進研究 ) 自己評価書 追跡評価用 平成 28 年 4 月 21 日現在 研究代表者氏名 豊島近 所属研究機関 部局 職 ( 研究期間終了時 ) 東京大学 分子細胞生物学研究所 教授 研究課題名 イオン輸送体の構造生物学 課題番号 190

Similar documents
創薬に繋がる V-ATPase の構造 機能の解明 Towards structure-based design of novel inhibitors for V-ATPase 京都大学医学研究科 / 理化学研究所 SSBC 村田武士 < 要旨 > V-ATPase は 真核生物の空胞系膜に存在す

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

生物時計の安定性の秘密を解明

受精に関わる精子融合因子 IZUMO1 と卵子受容体 JUNO の認識機構を解明 1. 発表者 : 大戸梅治 ( 東京大学大学院薬学系研究科准教授 ) 石田英子 ( 東京大学大学院薬学系研究科特任研究員 ) 清水敏之 ( 東京大学大学院薬学系研究科教授 ) 井上直和 ( 福島県立医科大学医学部附属生

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

生物有機化学

PowerPoint プレゼンテーション

Untitled

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

実験 解析方法実験は全て BL41XU で行った 初めに波長 0.5A 1.0A の条件化で適切な露光時間をそれぞれ決定した ( 表 1) 続いて同一の結晶を用いてそれぞれの波長を用いてデータを収集し そのデータの統計値を比較した ( 表 2) データの解析は HKL2000/Scalepack と

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

学位論文の要旨 学位の種類博士氏名宮内勇貴学位論文題目 Comprehensive analysis of expression and function of 51 sarco(endo)plasmic reticulum Ca 2+ -ATPase mutants associated with

Microsoft PowerPoint マクロ生物学9

表1.eps

【資料8】SPring-8における研究成果論文の被引用状況

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

生理学 1章 生理学の基礎 1-1. 細胞の主要な構成成分はどれか 1 タンパク質 2 ビタミン 3 無機塩類 4 ATP 第5回 按マ指 (1279) 1-2. 細胞膜の構成成分はどれか 1 無機りん酸 2 リボ核酸 3 りん脂質 4 乳酸 第6回 鍼灸 (1734) E L 1-3. 細胞膜につ


Microsoft Word - 01.doc

報道発表資料 2001 年 12 月 29 日 独立行政法人理化学研究所 生きた細胞を詳細に観察できる新しい蛍光タンパク質を開発 - とらえられなかった細胞内現象を可視化 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 生きた細胞内における現象を詳細に観察することができる新しい蛍光タンパク質の開発に成


報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

第6号-2/8)最前線(大矢)

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

37-4.indd

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り


2. PQQ を利用する酵素 AAS 脱水素酵素 クローニングした遺伝子からタンパク質の一次構造を推測したところ AAS 脱水素酵素の前半部分 (N 末端側 ) にはアミノ酸を捕捉するための構造があり 後半部分 (C 末端側 ) には PQQ 結合配列 が 7 つ連続して存在していました ( 図 3

Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

Microsoft Word - 研究報告書(崇城大-岡).doc

Untitled

Microsoft Word - 【基データ】概要01

Microsoft Word - PRESS_

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

PowerPoint プレゼンテーション

平成14年度研究報告

研究成果報告書

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

研究成果報告書

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

Chapter 1

論文の内容の要旨

スライド 1

共同研究報告書

研究成果報告書

様式)


生物物理 51(2), (2011) 総説 The voltage-sensor domain (VSD) is the key module for voltage sensing of transmembrane proteins. Recently, voltage-sensor

tary adenylate cyclase activating polypeptide ; PA-

<4D F736F F D B82C982C282A282C482512E646F63>

FMO法のリガンド-タンパク質相互作用解析への応用

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ


統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

[Introduction] タンパク質結晶のX線回折データを収集する際、長時間結晶にX線を照射することにより、タンパク質構造が変化することが報告されている

Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

<4D F736F F D208DC58F498F4390B D4C95F189DB8A6D A A838A815B C8EAE814095CA8E86325F616B5F54492E646F63>

Microsoft Word - muramoto.doc

長期/島本1

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

ポイント 微生物細胞から生える細い毛を 無傷のまま効率的に切断 回収する新手法を考案しました 新手法では 蛋白質を切断するプロテアーゼという酵素の一種を利用します 特殊なアミノ酸配列だけを認識して切断する特異性の高いプロテアーゼに着目し この酵素の認識 切断部位を毛の根元に導入するために 蛋白質の設

Microsoft PowerPoint - S-17.ppt

神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見

RN201610_cs5_fin2.indd

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

Microsoft PowerPoint - 城 ppt[読み取り専用]

1_alignment.ppt

Untitled

A4パンフ

本文/YA9255C


がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

図 : と の花粉管の先端 の花粉管は伸長途中で破裂してしまう 研究の背景 被子植物は花粉を介した有性生殖を行います めしべの柱頭に受粉した花粉は 柱頭から水や養分を吸収し 花粉管という細長い管状の構造を発芽 伸長させます 花粉管は花柱を通過し 伝達組織内を伸長し 胚珠からの誘導を受けて胚珠へ到達し

Microsoft Word - 熊本大学プレスリリース_final

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

ü β 93

本日の内容 HbA1c 測定方法別原理と特徴 HPLC 法 免疫法 酵素法 原理差による測定値の乖離要因

Microsoft PowerPoint - 雑誌会 pptx

平成 28 年 9 月 16 日 離れた細胞間の物質輸送やシグナル伝達を担う脂質膜ナノチューブの形成を誘導する仕組み 1. 発表のポイント : 離れた細胞間の物質輸送やシグナル伝達を担う脂質膜ナノチューブ (Tunneling nanotube TNT) の形成を誘導するタンパク質 M-Sec の立

Microsoft Word - tohokuuniv-press _02.docx

上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

Transcription:

特推追跡 -1 平成 28 年度科学研究費助成事業 ( 特別推進研究 ) 自己評価書 追跡評価用 平成 28 年 4 月 21 日現在 研究代表者氏名 豊島近 所属研究機関 部局 職 ( 研究期間終了時 ) 東京大学 分子細胞生物学研究所 教授 研究課題名 イオン輸送体の構造生物学 課題番号 19002013 研究組織 ( 研究期間終了時 ) 研究代表者 研究分担者 豊島近 ( 東京大学 分子細胞生物学研究所 教授 ) 小川治夫 ( 東京大学 分子細胞生物学研究所 准教授 ) 補助金交付額 年度平成 19 年度平成 20 年度平成 21 年度平成 22 年度総計 直接経費 89,200 千円 98,410 千円 89,500 千円 96,700 千円 373,810 千円

1. 特別推進研究の研究期間終了後 研究代表者自身の研究がどのように発展したか 特推追跡 -2-1 特別推進研究によってなされた研究が どのように発展しているか 次の (1)~(4) の項目ごとに具体的かつ明確に記述してください (1) 研究の概要 ( 研究期間終了後における研究の実施状況及び研究の発展過程がわかるような具体的内容を記述してください ) 本特別推進研究で大きな成果があり その後大きな発展があったものは以下の 4 つの項目であり 豊島を代表者とする特別推進研究 薬剤開発を視野に入れた膜輸送体の構造研究 ( 平成 23-27 年度 ) に引き継がれた (a) 筋小胞体 Ca 2+ -ATPase(SERCA1a) の中間体の構造解析 : 本研究開始時の最大の課題は E2P 状態の構造決定であった この状態は燐酸アナログとして BeF - 3 を使うことで実現できるが 我々の生化学的研究からも イオン通路の内腔側ゲートが安定的に開いている唯一の状態であることが示されていたからである この構造決定の結果 A ドメインは E1P E2P の過程で 90 回転し 内腔側ゲートは開くこと E2P E2~P/ E2 Pi でさらに 25 回転しゲートは閉じることが分かった ( 図 1) ゲートが開き 膜内の Ca 2+ 結合部位に結合していた Ca 2+ が小胞体内腔に放出されるためには M4 へリックスがへリックス一巻き分内腔側へ移動する必要がある それは A ドメイ図 1 ンの回転によって P ドメインが押し下げられることで実現されていることが分かった これは M1 が膜貫通へリックスであり A ドメインが回転しても膜内にとどまるために実現すると考えられる しかし 図 2 に示すように 膜が大きく変形可能であるなら起こらないはずである この仮説を検証するには (d) 結晶中の脂質二重膜の可視化が必要となり 次の特別推進研究に引き継がれた 結果的には このように大きな膜の変形は許されないことが判明した この E1P E2P E2 Pi 遷移は非常に大きな構造変化を伴うが 同等に大きな構造変化は E2 E1 E1 2Ca 2+ 間でも起こる E1 状態は Mg 2+ によって安定化できると考えられ 高濃度の Mg 2+ 存在下での結晶化を行なった Mg 2+ は側鎖のみで構成さ図 2 れる Ca 2+ 結合サイト I に結合すると予想された しかし 結晶構造解析の結果 Mg 2+ は結合サイト II の近くに独自の結合部位を持つこと 全体の構造は E1 2Ca 2+ とよく似ているが A ドメインの位置が違うこと M1 へリックスは E2 様に 2 つに折れていること等の違いも見出され このいずれかが 2 個の Ca 2+ の結合による 活性化信号 の本質と考えられた このように仮説を提唱することは出来たが 未だに解決できているとは言えない重要な課題である この結晶中には 驚いたことに 今まで見たことのない 11 本目の膜貫通へリックスが存在し 調節蛋白質 sarcolipin (SLN) と考えられた そこで (b) 高等動物大型膜蛋白質大量発現系の開発によって SERCA1a だけを大量生産し SLN 無しで結晶化した その結果 11 本目のへリックスは予想通り SLN であることを確認し その制御機構を明らかにすることが出来た (Nature 2013) (b) 高等動物大型膜蛋白質大量発現系の開発 : 本研究では COS 細胞にアデノウィルスによる遺伝子導入を行い蛋白質の大量生産を行なう手法の開発を開始した 特異性の高い Halo タグを導入するなど 手法を発展させた結果 高等動物大型膜蛋白質であっても 培養液 1L あたり 1 mg を優に超える量で生産可能になった この結果 構造研究の対象は大幅に拡大し 変異体や SERCA2a 等の構造決定に結びついた (c) Na +,K + -ATPase の結晶構造解析 : 本研究では E2 Pi 2K + 状態の構造を 2.4A 分解能で決定し イオン配位に寄与するアミノ酸残基は SERCA1a とほぼ同一であるのに 何故 SERCA1a は K + を輸送できないかを明らかにした しかし Na +,K + -ATPase は本質的に Na + のポンプであり Na + を結合した状態の構造の方がはるかに重要である Na + 結合状態の結晶構造解析の成功には 本研究を発展させる必要があり 2013 年までかかったが Na + を厳密に選択する精緻な機構を明らかにできた その精緻さ 複雑さは SERCA1a の Ca 2+ 結合サイトはどうしてこんなに簡単で機能するのだろう との疑念を抱かせるものであった (d) 結晶中の脂質二重膜の可視化 : 本研究中に開始され 現在ようやく完成したものである この目的の為に X 線溶媒コントラスト変調法を開発し 10 年かかったが Ca 2+ -ATPase の 4 つの状態について 膜貫通領域を取り囲むすべての燐脂質を可視化できるようになった ポンプ蛋白質の構造が何故そのようでなければならないのか を理解するのは困難な道であるが 以上のように本研究の結果を発展させることによって大きく前進することが出来た

1. 特別推進研究の研究期間終了後 研究代表者自身の研究がどのように発展したか ( 続き ) 特推追跡 -2-2 (2) 論文発表 国際会議等への招待講演における発表など ( 研究の発展過程でなされた研究成果の発表状況を記述してください ) 論文発表 平成 23 年度 3 報 Biochem. Biophys. Res. Commun., J. Biol. Chem., Structure 平成 24 年度 3 報 Nature, J. Biol. Chem., The Encyclopedia of Biological Chemistry 平成 25 年度 4 報 Nature, J. Biol. Chem., Curr. Opin. Struct. Biol., Encyclopedia of Metalloproteins 平成 26 年度 5 報 Cell reports, Open Biol., Bioorg. Med. Chem., Proc. Nat. Acad. Sci. USA, J. Biol. Chem. 平成 27 年度 5 報 Nature Commun., FEBS Letters, Biochim. Biophys. Acta. (3 報 ), 招待講演平成 23 年度 4 件 C. Toyoshima, Y. Norimatsu: Do lipid bilayers follow movements of transmembrane helices? If so, to what extent? The EMBO Meeting 2011, Sep. 12, 2011, Vienna Austria 他平成 24 年度 2 件 C. Toyoshima: Structural study on the calcium ATPase: ion pumping mechanism and its regulation The 1st NRPB International Symposium and Workshop for Membrane Proteins: From Structure to Drug Discovery, Jun. 4, 2012, Taipei, Taiwan 他平成 25 年度 1 件 C. Toyoshima: Structural understanding of ion pumping by P-type ATPases Benzon Symposium No.59, Structure, Function and Dynamics, Aug. 19-22, 2013, Copenhagen, Denmark 平成 26 年度 3 件 C. Toyoshima: New crystal structures of Ca 2+ -ATPase(SERCA) and Na +,K + -ATPases Barcelona BioMed Conference, Transporters and Other Molecular Machines, Nov.18, 2014, Barcelona, Spain 他 平成 27 年度 2 件 C. Toyoshima: Stuructural biology of P-type ion translocating ATPase: towards complete understanding of the mechanism Aminoff Prize Symposium 2016, Mar 30, 2016, Gothenburg, Sweden 他 受賞平成 22 年 2009 年度朝日賞 : カルシウムポンプ作動機構の解明 ( 朝日新聞社 ) 平成 23 年第 11 回山崎貞一賞 : 燐脂質を利用した膜蛋白質の結晶化技術の開発とカルシウムポンプ作動機構の解明 ( 材料科学財団 ) 平成 27 年紫綬褒章 : 構造生物学研究功績 ( 日本国 ) 平成 28 年上原賞 : イオンポンプによる能動輸送機構の原子構造による解明 ( 大正製薬 ) 平成 28 年 Gregori Aminoff Prize2016: for their fundamental contributions to understanding the structural basis for ATP-driven translocation of ions across membranes (The Royal Swedish Academy of Sciences)

特推追跡 -2-3 1. 特別推進研究の研究期間終了後 研究代表者自身の研究がどのように発展したか ( 続き ) (3) 研究費の取得状況 ( 研究代表者として取得したもののみ ) 特別推進研究 薬剤開発を視野に入れた膜輸送体の構造研究 ( 平成 23 年度 -27 年度総額 399,600,000 円 ) 戦略的国際科学技術協力推進事業 心臓収縮機能の制御 ( 平成 21 年度 -24 年度総額 13,205,000 円 ) (4) 特別推進研究の研究成果を背景に生み出された新たな発見 知見 (1) に述べたように 本研究で追求した課題はそれぞれ大きな発展を見せ 豊島を代表者とする特別推進研究 薬剤開発を視野に入れた膜輸送体の構造研究 ( 平成 23-27 年度 ) に引き継がれた結果 多くの新しい知見をもたらした 技術的側面からは (b) の高等動物大型膜蛋白質大量発現系の開発の寄与が大きい 本研究での予備的結果を発展させ Ca 2+ -ATPase のような高等動物大型膜蛋白質でも培養液 1L あたり精製標品 1 mg を十分越える量が得られる大量生産系を確立できた その結果 SERCA1a の野生型のみならず変異体の大量生産 結晶化にも成功した (Nature 2013) この技術は世界に誇りえるものである 実際 この技術を利用した変異体の構造解析から プロトン化カルボキシル基をアミド基に置換するという僅かな変異が非常に大きな構造変化を起こしえることがわかった このことは ポンプ蛋白質にはそのような僅かな差を検出できる機構が備わっていることを示しており E2 E1 遷移における脱プロトン化の役割に関しても本質的に新しい知見が得られた また 結晶性の改善のためには脱水和法が膜蛋白質結晶でも有効であることを (c) Na +,K + -ATPase の結晶構造解析で初めて示したが その後の構造研究で重要な手段となった 概念として新しいものとしては 蛋白質内で力を伝えるために ループを引っ張る ことと 脂質二重膜の積極的利用 が挙げられる ともに (1) で述べたように E1P E2P E2 Pi への構造変化で認識されたことであるが 前者はフレキシブルなループを引っ張ることは一方向にのみ力を伝え 逆反応を抑える ( フレキシブルなループを押しても摩擦が大きいために動かない ) ために有効であること その結果 本来方向性のない熱エネルギーを一方向への運動に有効に利用することが可能になることを示すものである 蛋白質も thermal ratchet として機能するという考えが提唱されているが そのような考えを支持し 蛋白質の機能発現の一般則につながる重要な知見であると考えられる 後者は 単なる領域を区切るものとしか認識されてこなかった脂質二重膜が 実は 能動輸送にあっては構造変化を実現 ( 伝達 ) するために重要な役割を果たしているというまったく新しい知見である 本研究に続く特別推進研究 薬剤開発を視野に入れた膜輸送体の構造研究 において Ca 2+ -ATPase の 4 つの異なった状態での結晶中に存在する脂質二重膜を可視化することによって確認することができた

2. 特別推進研究の研究成果が他の研究者により活用された状況 特推追跡 -3-1 特別推進研究の研究成果が他の研究者に活用された状況について 次の (1) (2) の項目ごとに具体的かつ明確に記述してください (1) 学界への貢献の状況 ( 学術研究へのインパクト及び関連領域のその後の動向 関連領域への関わり等 ) 蛋白質の原子構造は 圧倒的な量の情報をもたらすので 多大な波及効果がある 特に 本研究で対象としたものは高等動物の重要な大型膜蛋白質であり 多くの疾病にかかわり 創薬のターゲットとなるものでもある その原子モデルの提供は研究の進め方 結果の解釈を大きく変えることになる Na +,K + -ATPase が生み出す Na + の濃度勾配は多くの二次輸送体の駆動力となるため Na +,K + -ATPase は高血圧や心臓病 癌などとも深く関わっている 最近になって Na +,K + -ATPase は多くの神経疾患にも深く関わることが知られるようになり 我々が本研究とその後の研究で提出した原子モデルに基づいて議論されるようになった また Na +,K + -ATPase は単なるイオンポンプではなく 信号伝達にも重要な役割を果たすとされ 本研究でその結合様式を解明したウアバインの類似物が生体内での制御の鍵となるらしい 本研究で解明された結合様式 (PNAS 2009) はそれまでに広く受け入れられていた考えを完全に否定するものであり 且つ変異体のデータをよく説明するものであった そのため 大きな興奮を持って迎えられるとともに 新たな系統的研究を刺激した 強心配糖体のいくつかは既に臨床実験段階にあるが 現在 代表者の研究室でほぼ完成した多数の強心配糖体との複合体の高分解能構造決定は これまでの大きな問題点であった組織特異性の欠如を解決するための重要な情報を提供するものと期待できる また 本研究による Na +,K + -ATPase の結晶解析の結果は 発表時期の点では競争相手のデンマークグループに先行を許したものの 分解能や精度の点では明らかに大きく勝っており 新しい共同研究を生むことになった その結果が 2013 年の Na + 結合時の構造の決定につながった また 燐脂質や強心配糖体との相互作用の点でもイスラエルグループと共同研究を開始することとなった さらに 提出した原子モデルは多くの変異体の性質を良く説明するものであり Na +,K + -ATPase の原子構造に基づく研究は国際的に大きく活性化されることとなった Ca 2+ -ATPase に関しては ここまで多くの反応中間体の構造が決定された蛋白質は 水溶性蛋白質を含めてもきわめて数少なく しかも Ca 2+ -ATPase の反応サイクルは非常に大きな構造変化を伴うので 計算機によるシミュレーションや 蛋白質内運動の予測等 多くの物理的 化学的研究を刺激した 長時間の分子動力学シミュレーションが数多く成されたが その結果は一致せず 結晶構造からも外れるため 手法の問題点を指摘することにもなった また これだけの数の中間体を決定できることを示したことは 構造研究のやり方を変革したとも言え 幾つかの膜輸送体を含む蛋白質で中間体を網羅的に決定しようという試みが成されるようになった その点で 本研究は蛋白質の構造研究が目指すべき一つの方向を指し示したとも言えよう 一方で 本研究の大きな成功から Ca 2+ -ATPase は膜蛋白質の新たな結晶化技術や解析技術をテストするためのモデルシステムとも成った 一方 Ca 2+ -ATPase や Na +,K + -ATPase の結晶化は外部から燐脂質を添加することによって行なわれており これは 膜蛋白質の結晶化法のスタンダードを大きく変えることとなった また 膜の構成成分である燐脂質やコレステロールが幾つか解像されたことで 脂質膜と蛋白質の相互作用を再検討しようという機運も盛り上がった

特推追跡 -3-2 2. 特別推進研究の研究成果が他の研究者により活用された状況 ( 続き ) (2) 論文引用状況 ( 上位 10 報程度を記述してください ) 研究期間中に発表した論文 No 論文名 著者名 発行年 ページ数等 日本語による簡潔な内容紹介 引用数 1 Crystal structure of the sodium-potassium pump at 2.4 Å resolution: T. Shinoda, H. Ogawa, F. Cornelius and C. Toyoshima (2009) Nature 459, 446-450 Na +,K + -ATPase の初の高分解能結晶構造 αサブユニットに加え βサブユニットのほぼ全体と調節蛋白質 FXYD の原子モデルをも提供することに成功 また 何故 Ca 2+ -ATPase は K + を対向輸送できないかを解明した 296 2 Crystal structure of the sodium-potassium pump (Na +,K + -ATPase) with bound potassium and ouabain: H. Ogawa, T. Shinoda, F. Cornelius and C. Toyoshima (2009) Proc. Nat. Acad. Sci. USA 106, 13742-13747 Na +,K + -ATPase とウアバインの複合体の初の結晶構造 ウアバインに代表される強心配糖体は膜貫通領域に深く挿入されることを示し 細胞外側領域表面に結合するという通説は誤っていることを証明した 144 3 Structural aspects of ion pumping by Ca 2+ -ATPase of sarcoplasmic reticulum: C. Toyoshima (2008) Arch. Biochem. Biophys. 476, 3-11 Ca 2+ -ATPase がイオンを能動輸送する機構の全体を原子モデルに基づいて詳細に説明した総説 109 4 How Ca 2+ -ATPase pumps ions across the sarcoplasmic reticulum membrane: C,Toyoshima (2009) Biochem. Biophys. Acta 1793, 941-946 Ca 2+ -ATPase によるイオン輸送の過程を 蛋白質立体構造の遷移に基づいて概説し なぜ構造はそのようでなければならないかを説明した総説 85 5 Interdomain communication in calcium pump as revealed in the crystal structures with transmembrane inhibitors: M. Takahashi, Y. Kondou and C. Toyoshima (2007) Proc. Nat. Acad. Sci. USA. 104, 5800-5805 結合部位の異なる複数の阻害剤を単独あるいは組み合わせて Ca 2+ -ATPase の結晶構造を解析し 膜貫通部位と細胞質ドメイン間の構造的な連携を検討した 80 6 7 8 9 10 How processing of aspartylphosphate is coupled to lumenal gating of the ion pathway in the calcium pump: C. Toyoshima, Y. Norimatsu, S. Iwasawa, T. Tsuda and H. Ogawa (2007) Proc. Nat. Acad. Sci. USA. 104, 19831-19836 Conformational fluctuations of the Ca 2+ -ATPase in the native membrane environment-effects of ph, temperature, catalytic substrates, and thapsigargin: G. Inesi, D. Lewis, C. Toyoshima, A. Hirata and L. de Meis (2008) J.Biol.Chem. 283, 1189-1196 Domain organization and movements in heavy metal ion pumps: Papain digestion of CopA, a Cu + -transporting ATPase: Y. Hatori, E. Majima, T. Tsuda and C. Toyoshima (2007) J. Biol. Chem. 282, 25213-25221 Trinitrophenyl derivatives bind differently from parent adenine nucleotides to Ca 2+ -ATPase in the absence of Ca 2+ : C. Toyoshima, S. Yonekura, J. Tsueda and S. Iwasawa (2011) Proc. Nat. Acad. Sci. USA. 108, 1833-1838 Interaction sites among phospholamban, sarcolipin, and the sarco(endo)plasmic reticulum Ca 2+ -ATPase: T. Morita, D. Hussain, M. Asahi, T. Tsuda, K. Kurzydlowski, C. Toyoshima, D. H. MacLennan (2008) Biochem. Biophys. Res. Comm. 369, 188-194 BeF 3 - を燐酸アナログとして得られた Ca 2+ -ATPase 結晶の E2P 状態の解析により 内腔側ゲートの開閉機構と燐酸化 Asp の加水分解反応の連関を解明した ph 温度 酵素反応基質 阻害剤が Ca 2+ -ATPase の構造変化に与える影響を 天然の膜環境下での蛋白質限定分解により系統的に解析した Cu 2+ ポンプである CopA について パパインを用いた蛋白質限定分解実験により Ca 2+ -ATPase の構造変化との類似性を明らかにした アデニンヌクレオチドのトリニトロ化合物は Ca 2+ -ATPase の ATP 結合部位のレポーターとして使われるが 複合体の結晶構造を決定し Ca 2+ -ATPase に対して元の ATP 等とは異なった様式で結合することを明らかにした Ca 2+ -ATPase の調節蛋白質であるホスホランバンとサルコリピンについて Ca 2+ -ATPase との結合サイトは両者が同時に存在する時と単独で存在する時でどう違うかを明らかにした 71 35 30 29 25

特推追跡 -3-3 研究期間終了後に発表した論文 No 論文名日本語による簡潔な内容紹介引用数 1 2 Crystal structures of the calcium pump and sarcolipin in the Mg 2+ -bound E1 state. C. Toyoshima, S. Iwasawa, H. Ogawa, A. Hirata, J. Tsueda and G. Inesi (2013) Nature 495, 260-264 Crystal structure of a Na + -bound Na +,K + -ATPase preceding the E1P state. R. Kanai, H. Ogawa, B. Vilsen, F. Cornelius and C. Toyoshima (2013) Nature 502, 201-206 待望されていた Ca 2+ 結合前の E1 状態の結晶構造 Mg 2+ 1 個が Ca 2+ サイトに結合しており 調節蛋白質サルコリピンの有無による結晶構造の違いから サルコリピンの結合様式と生理的調節機構を明らかにした 待ち望まれていた Na + イオンを結合した Na +,K + -ATPase の初の結晶構造 これによって Na + を厳密に選択する精緻なメカニズムが明らかになった 63 57 3 First crystal structures of Na +, K + -ATPase: New light on the oldest ion pump. C. Toyoshima, R. Kanai and F. Cornelius(2011) Structure 19, 1732-1738 2009 年に発表した 2 つの結晶構造を基に Na +,K + -ATPase の酵素反応サイクルを原子モデルに基づいて説明した総説 27 4 5 A structural view on the functional importance of the sugar moiety and steroid hydroxyls of cardiotonic steroids in binding to Na,K-ATPase. F. Cornelius, R. Kanai, and C. Toyoshima (2013) J. Biol. Chem. 288, 6602-6616 Metal fluoride complexes of Na. K-ATPase. F. Cornelius, Y.A. Mahmmoud and C. Toyoshima (2011) J. Biol. Chem. 286, 29882-29892 糖鎖部分とステロイド環の水酸基が強心配糖体の Na +,K + -ATPase に対する結合活性に深く関わることを示した Ca 2+ -ATPase で非常に有効であった金属 フッ素複合体が Na +,K + -ATPase でも有効であるかを 消化酵素による限定分解と速度論的解析により検討した 16 16 6 7 8 9 10 New crystal structures of PII-type ATPases: excitement coutinues. C. Toyoshima, F. Cornelius (2013) Curr. Opin. Struct. Biol. 23, 507-514 Neutral phospholipids stimulate Na.K-ATPase activity: a specific lipid-protein interaction. H. Haviv, M. Habeck, R. Kanai, C. Toyoshima, and S.J.D. Karlish (2013) J. Biol. Chem. 288, 10073-10081 Electron crystallography of ultrathin 3D protein crystals: Atomic models with charges. K. Yonekura, K. Kato, M. Ogasawara, M. Tomita and C. Toyoshima (2015) Proc. Nat. Acad. Sci. USA. 112, 3368-3373 General and specific lipid protein interactions in Na,K-ATPase. F. Cornelius, M. Habeck, R. Kanai, C. Toyoshima and S.J.D. Karlish (2015) Biochim. Biophys. Acta. 1848, 1729-1743 Biselyngbyasides, cytotoxic marine macrolides, are novel and potent inhibitors of the Ca 2+ pumps with a unique mode of binding. M. Morita, H. Ogawa, O. Ohno, T. Yamori, K. Suenaga, C. Toyoshima (2015) FEBS Letters, 589, 1406 1411 2013 年に発表した Ca 2+ -ATPase の E1 Mg 2+ 状態と 2011 年発表の TNPAxP との複合体の構造を中心に Na +,K + -ATPase や H +,K + -ATPase の構造研究をも含め 最近の進歩を解説した Na +,K + -ATPase について サブユニットの組合せが異なる複合体を作製し ATPase 活性に影響を与える燐脂質が膜貫通領域のどこに結合するかを検討した X 線では解析できない超薄三次元結晶について 電子線回折データ収集の方法を開発し Coulomb potential map を得ることにより酸性残基の荷電状態を明らかにできることを示した これまでに蓄積されてきた膜蛋白質 脂質相互作用に関する情報を Na +,K + -ATPase を中心にまとめた総説 3 海洋性シアノバクテリア由来のマクロライド Byselyngbyaside が Ca 2+ -ATPase の活性を阻害することを明らかにし 複合体の結晶構造を決定した この結果 阻害剤の新しい結合様式が明らかになった 12 11 3 1

3. その他 効果 効用等の評価に関する情報 特推追跡 -4-1 次の (1) (2) の項目ごとに 該当する内容について具体的かつ明確に記述してください (1) 研究成果の社会への還元状況 ( 社会への還元の程度 内容 実用化の有無は問いません ) 朝日賞スーパートーク 2010 年 4 月 17 日 大型放射光施設 SPring-8 記者セミナー豊島近 放射光が解き明かすナノ機械の精緻なしくみ 生体反応の基礎を作るカルシウムポンプの作動機構の解明 千代田区 2010 年 11 月 4 日 日本加速器学会主催市民公開講座放射光学会豊島近 カルシウムポンプタンパク質ってどんなもの 姫路市 2010 年 8 月 4 日 Spring-8 の一般向けインタビュー 2011 年 8 月 24 日 https://www.youtube.com/watch?v=0dzytuczrwg 第 219 回生命科学フォーラム豊島近 蛋白質を理解するということ 生命活動の基盤となるイオンポンプの精妙さに驚く 日本記者クラブ 2016 年 3 月 24 日 などの一般向け講演や 日本放射光学会編 放射光が解き明かす驚異のナノ世界魔法の光が拓く物質世界の可能性 講談社ブルーバックス 2011 年 9 月 20 日 [ 分担執筆 ] 豊島近 第 2 章 -7 筋肉を動かすために日夜働き続けるポンプの仕組みとは? などの一般向け書籍によって 研究成果の普及に努めている また 本研究で開発された大量生産系を用い 心不全に対する薬剤の開発を目指し 心筋のカルシウムポンプである SERCA2a と調節蛋白質 phospholamban の複合体の活性化剤を検討する研究を製薬会社と 1 年間行った さらに 本研究で開始したマラリア原虫のイオンポンプの構造研究を目指した大量生産系の開発は継続して行なっている 結核菌のイオンポンプに関しても同様である

特推追跡 -4-2 3. その他 効果 効用等の評価に関する情報 ( 続き ) (2) 研究計画に関与した若手研究者の成長の状況 ( 助教やポスドク等の研究終了後の動向を記述してください ) 東京大学分子細胞生物学研究所講師 現在理化学研究所主任研究員東京大学分子細胞生物学研究所助教 現在青森大学薬学部准教授東京大学分子細胞生物学研究所博士研究員 現在近畿大学生物理工学部准教授東京大学理学系研究科博士後期課程学生 現在安田女子大学薬学部助教 東京大学分子細胞生物学研究所助教 現在岡山大学理学部助教 東京大学農学系研究科博士後期課程学生 現在理化学研究所研究員 東京大学理学系研究科博士後期課程学生 現在東京大学分子細胞生物学研究所研究員 東京大学理学系研究科博士後期課程学生 現在製薬会社研究員