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Journal of MMIJ Vol.124 p.549 553 (2008) 2008 The Mining and Materials Processing Institute of Japan 第 82 回渡辺賞受賞 Process Development and Commissioning of HPAL Plant for Recovery of Nickel and Cobalt from Low Grade Laterite Nickel Ore by Naoyuki TSUCHIDA a a. Executive Officer, Deputy General Manager of Non-Ferrous Metals Division, Sumitomo Metal Mining Co. Ltd. (Corresponding author E-mail: Naoyuki_Tsuchida@ni.smm.co.jp) 1 Sumitomo Metal Mining Co., Ltd. (SMMC) has been producing nickel and cobalt by MCLE process at Nickel Refinery in Niihama, Japan. Coral Bay Nickel Co. (CBNC), which is a subsidiary company of SMMC, has been producing the mixed sulfide of nickel and cobalt (MS) at Rio Tuba in Palawan, Philippines. The project that utilizes high pressure acid leach (HPAL) process was commenced in 2000. The construction of the plant was completed in September 2004. Since then, the HPAL plant of CBNC has been commissioned and the production rate of nickel at CBNC was exceeded over 10000 Ni-ton in 2007, which is the design capacity. This is the first track record in the laterite nickel operations. The mixed sulfide of nickel and cobalt produced at CBNC, is further refined to electrolytic nickel of 99.99% purity at Niihama Nickel Refinery of SMMC. The technology for production high purity nickel from low-grade laterite ore has been established and commercialized by the Coral Bay Nickel Project. KEY WORDS: Laterite Nickel, HPAL, MS 1. はじめに ニッケルの消費量は最近 10 年間で, 年率約 4% の大幅な伸び を示している 特に中国のステンレス需要に支えられ,2008 年 の消費量は 1400 千 t と予想されている この急激なニッケル需 要の伸びは, 資源の争奪戦と資源メジャーによる寡占化を急速に加速した このような環境下で, 新たなニッケル原料への関心が, 低品位ニッケル酸化鉱石からニッケルを回収できる技術の開発を促進させた ニッケルはその鉱石が硫化鉱と酸化鉱に大別される ニッケル製品の 70% は硫化鉱から生産されるが, その存在量は 62 百万 t と言われている 一方, 酸化鉱は 140 百万 t の存在が知られているが, ニッケル品位 2% 以上のサプロライト鉱石がフェロニッケル原料として利用されてきたに過ぎない さらに, このサプロライト鉱は酸化鉱全体の約 30% で, 残りの 70% の酸化鉱はニッケル品位 1% 程度のリモナイト鉱石でその処理は限られていた 住友金属鉱山 ( 株 ) では, その関係会社である日向製錬所でフェロニッケル, そして新居浜ニッケル工場では電気ニッケルを生産している 住友金属鉱山 ( 株 ) でも 1990 年代半ばからこの低品 土田直行氏 *2008 年 6 月 12 日受付 8 月 11 日受理資源 素材学会 131 次通常総会において第 82 回渡辺賞受賞 1. 普通会員住友金属鉱山 ( 株 ) 執行役員 金属事業本部副本部長 [ 著者連絡先 ] FAX: 03-3434-2251 E-mail: Naoyuki_Tsuchida@ni.smm.co.jp キーワード : ラテライトニッケル, 高温硫酸浸出, 混合硫化物 位酸化鉱の資源化を検討してきた その中で高圧硫酸浸出 (HPAL) 法はこの低品位酸化鉱を経済的に処理できる方法として期待された 住友金属鉱山 ( 株 ) は湿式製錬での技術開発力, エンジニヤリング力と長年の操業で培った生産技術力により, 高いエネルギー効率, 高いニッケル実収率の製造プロセスによる高い稼働率の工場を 2004 年にフィリピンパラワン島のリオツバに完成させた ここから生産されるニッケル コバルト混合硫化物は, 新居浜のニッケル工場で MCLE 法により高純度電気ニッケルに精製されている パラワン島の HPAL 工場では 3 年目で設計能力を上回る生産量を達成し, ここに世界で始めて低品位酸化鉱から高純度ニッケルを生産するプロセスの商業化に成功した 2. コーラルベイニッケルプ口ジェクト 2 1 プロジェクト概要プロジェクトは Fig. 1 の地図に示されるパラワン島のリオツバで実施された リオツバはパラワン島の州都プエルトプリンセサから南約 250km に立地している ここでは 1977 年以来リオツバニッケル鉱山が操業を行っており, フェロニッケル用原料としてサプロライト鉱石を日本へ出荷してきた リオツバの人口は住友金属鉱山 ( 株 ) のプロジェクト開始当初は 6,000 人だったが, 現在では 16,000 人まで増加している プロジェクトは, フェロニッケル用原料として輸出できずに, 積み立てられていた低品位ニッケル酸化鉱石を原料としている 鉱石量としては 22 百万 t が確認されていた 鉱石の平均ニッケル品位は 1.26% で, 高圧硫酸浸出 (HPAL) 法にて処理し, ニッケルとコバルトの混合硫化物を生産することが計画された この低品位ニッケル酸化鉱石から生産される混合硫化物のニッケルとコ 1

土田直行 Fig.2 Block Flowsheet for Coral Bay Nickel Process. Table 1 Fig.1 Chemical Reaction in HPAL Process. Location of Coral Bay Nickel Project. バルトの品位はそれぞれ 57% 4% 程度であり 住友金属鉱山 のニッケル工場で電気ニッケル及び電気コバルトに精製される つまり このプロジェクトの意義はニッケル品位 1.26% の鉱石 Table 2 から 99.99% の高純度ニッケルを生産する技術を商業的に実証 Chemical Reaction in MS Process. することにあった HPAL 工場の年間生産量は ニッケル量で 10,000t コバルト量で 720t であり 投資総額 180MUSD が投じ られた 2 2 プロジェクトの実行 除去法 HPAL 蒸気回収システム HPAL 反応制御 などの 2000 年初めに住友金属鉱山 ( 株 ) では このストックパイルさ れた鉱石を処理するための技術調査を開始した これに続き 工 自社技術を開発した これらを含め工場設計は 2002 年 6 月まで に終了した 場建設の経済性の評価を実施 2001 年 8 月にはプロジェクトの 一方 2002 年末には税制優遇地域の指定が得られ 翌年から 実施を決定した プロジェクトの実施に当たっては 4 つの重点 現地工事が開始された 工事は雨期の豪雨と辺境での資材物流に 項目に人員を配置した 具体的には プロセス技術開発 環境影 困難を極めたが 2004 年 8 月末には予定通り完工に至った 完 響調査と環境適合証審査 フィリピン人従業員の操業訓練 プラ 工に先立ち 2004 年 2 月からユーティリティ関係の試運転を開 ント設計施工を重点管理項目とした 始した この頃より日本人操業人員 30 名が現地に赴任し 工場 珊瑚礁の発達したパラワン島での工場立地から 環境影響調査 立ち上げ準備に入った これに対して フィリピン人は日本で訓 の重要性は充分に認識されていた そこで フィリピンとオース 練を受けた 40 名に 現地での採用を加え 2004 年 9 月には約 トラリアの環境調査会社を起用し 工場を含む周辺の環境設計に 200 名に達した ここから本格的に生産設備のコミッショニング は徹底した地域調査の結果から 安全性や環境保全を最優先した を開始したが 実機での訓練を兼ねて水による試運転を 11 月ま この基本設計をもとに 住民説明会を繰り返し 工場建設に対す で行い 11 月中旬にはオートクレーブでの鉱石の硫酸浸出反応 る地元住民の了解を得るに至った 調査と環境適合性審査には約 を開始した そして 12 月末までに全設備へのプロセス液の液張 2 年の歳月を費やしたが 2002 年 7 月にはフィリピン政府の環境 りを終了し 最初の MS を回収した ここに僅か 5 年で技術的水 適合証明が得られた 準の高い HPAL 工場が誕生した 環境保全に次いで プロジェクト推進の戦術的課題はフィリピ ン人従業員の教育 訓練と操業管理技術の構築だった HPAL 技 術は 世界的にも操業経験者が少なく ノウハウの蓄積が全くと 言って良いほどなかった 住友金属鉱山 ( 株 ) では生産ラインの 3 低品位ニッケル酸化鉱からの電気ニッケル製造プ口セス 3 1 HPAL 法によるコーラルベイニッケル社の MS 製造プ ロセス 幹部をオーストラリアの HPAL プロセスを有する工場に長期の実 Fig. 2 にコーラルベイニッケルのフローシートを示す 工程は 習に派遣した これにより 必要技能の見極めと制御技術 操業 大きく 8 工程から構成される 最初の鉱石処理工程では 給鉱さ ソフトの開発に注力した さらに フィリピン人従業員に対する れ た赤 土 状 の 鉱 石 は 回 転 式の ド ラ ム ウ オ シ ャーで 水洗浄 し 教育や訓練プログラムを作成し 新居浜のニッケル工場にて訓練 25mm のトロンメルで大塊部分を分離除去した後 最終的には を実施した この訓練は 40 名のフィリピン人従業員に対して 1mm の振動篩で篩下の鉱石がスラリー化される そして スラ 2002 年 5 月から 2 年以上の長期間にわたり行われた リーはシックナーで濃縮され 段階的に昇温 昇圧した後 オー プラントの基礎設計はプロセス開発試験 パイロット試験を含 トクレーブに供給され高圧硫酸浸出される オートクレーブでは めて 約 2 年で終了した この中で後述のように コア技術とな る ニッケル コバルト混合硫化物 (MS) の低温硫化法 亜鉛 高圧蒸気で 245 までスラリーを昇温し Table 1 の反応式に見 550 2 られるように 硫酸を添加してニッケルやコバルトを鉱石から浸

低品位ニッケル酸化鉱からのニッケル, コバルトの回収に関する技術開発および商業化 Fig.4 Change in Mixed Sulfide Production at Coral Bay Nickel Corporation. Fig.3 Block Flowsheet for MCLE Process. 出させる ニッケルを硫酸ニッケル溶液として回収したスラリーはオートクレーブから排出され, 後述のように徐々にその温度を低下させる 100 でまで降温された反応後スラリーのニッケル濃度は 7g/l で,CCD (Counter Current Decantation) 工程へ供給される CCD では 7 基シックナーにより, 浸出残渣と硫酸ニッケル溶液の分離と浸出残渣の洗浄が行われる 残渣の洗浄液は硫化工程でニッケル コバルト混合硫化物 (MS) を析出した後の硫化後液が使用され, 浸出残渣に付着するニッケル分を回収する 洗浄後の浸出残渣は最終中和工程に供給され, 石灰石, 消石灰で中和処理し, 無害化された浸出残渣は残渣ダムに送られる 一方, 回収された硫酸ニッケル液は,CCD に供給した硫化後液 ( 洗浄水 ) で希釈されるため, ニッケル濃度は 4g/l 程度となる この硫酸ニッケル液は鉄やアルミニウム等の不純物を含有しており, 中和工程にて石灰石での中和法にて, これら不純物が除去される 次に, 硫化水素ガスにより亜鉛を硫化亜鉛として選択析出させ, 亜鉛濃度 <0.00lg/l まで亜鉛を除去する その後硫化工程で再び硫化水素ガスにより, ニッケルとコバルトを混合硫化物として回収する このニッケル及びコバルトを回収した後の液は, ニッケル濃度が <0.05g/l になり, 浸出残渣を洗浄するために CCD 工程へ, そして余剰分は最終中和工程へそれぞれ払い出される 3 2 MCLE 法による住友金属鉱山の電気ニッケル製造プロセス Fig. 3 にニッケル工場のフローシートを示す 新居浜に送られた混合硫化物は電気ニッケルの生産工程である MCLE プロセスで処理される この MCLE は基本的には塩素浸出と電解採取からなり, 塩素浸出工程はセメンテーション工程, 塩素浸出工程, 脱銅電解工程に分かれている ニッケルメタルを含まないニッケルマット原料は, セメンテーション工程に供給され, 溶液中の銅イオンによりニッケルが浸出され, 回収される 一方, メタル成分のない混合硫化物は塩素浸出工程に供給され, 塩素ガスでほぼ 99 % のニッケルが浸出され, その後脱銅電解工程, セメンテーション工程を経て, 鉄やコバルト分離した後, 電解採取法により電気ニッケルに精製される このとき, 亜鉛が含まれていると, ニッケルと一緒に電着してしまうため, 混合硫化物の亜鉛管理は非常に重要となる 4. 生産状況 Fig. 4 に四半期毎のニッケル コバルト混合硫化物 (MS) 生産量 (Ni-t/Q) の推移を示した 2004 年 12 月に設備ヘの液張りを開始し同年末に MS を回収した 2005 年 1 月からは設備手直しを繰り返しながら, 工程流量の確保や化学反応制御を確立し,3 月には連続操業が可能な状態になった 4 月には事業所開所式を行 い, 正式に商業生産を開始した その後, 徐々に MS 生産量を伸ばし,2005 年の第 4 四半期には 2,000Ni-t の生産量に到達した この年の9 月には1ヶ月の整備休転を実施し, ボトルネックであった幾つかの設備を増強した その結果,11 月と 12 月にほぼ設計生産量を超え, 安定した生産体制を構築できた 2006 年の第 1 四半期ではさらに生産量を伸ばし,3 月には月産の生産量が設計値を超える 1,002Ni-t を達成した その後も順調に生産量を伸ばし, 2007 年は年間生産量 10,078Ni-t を達成し, 設計値生産量の 1 万 Ni-t を突破した これに対して,1990 年代後半に操業を開始したオーストラリアの 3 工場では, 当初の計画通りの生産ができなかった Bulong プロジェクト 1) は 4 年目にして生産不調のため工場閉鎖に追い込まれた また操業成績の最も良かった Cawse プロジェクト 2) は 3 年目に 80% 弱まで生産を伸ばしたものの, 高純度のニッケルが生産できなかったため, 製品の形態を中間物に変更した さらに最も規模の大きい Murrin Murrin プロジェクト 3) は現在も継続して操業されているが, その生産量は 70% 程度に止まっている このように, オーストラリアの 3 工場はいずれも成功と言い難い状況にあった そこで, 住友金属鉱山 ( 株 ) ではコーラルベイニッケルプロジェクトを開始するに当たり, 前述の HPAL 工場の長期操業実習を行った さらに,HPAL の操業経験技術者をコンサルタントとして, その操業, 設計の問題点を検討した これらを通して, 必要な技術開発, 操業員の訓練をプロジェクトの重要課題として位置づけ, 精力的に展開した その結果, コーラルベイの工場では 2 年目の操業で能力の 80 % 以上, そして 3 年目の昨年は 100 % 以上の生産を達成することができた 5. コーラルベイプロジェクトの技術開発 高い稼動率, 高いエネルギー効率, 高いニッケル実収率, そして 高い製品品質 を目指し, 様々な角度から技術開発の検討を進めた 技術開発ではプロセス技術, 設備技術, 生産技術に分類できる プロセス開発については, その詳細を別途に紹介している 4) 本稿では設備技術と生産技術の開発を中心に述べる 5 1 プラント稼働率とエネルギー効率従来のプラントでは低い稼働率がその生産を阻害していた プラントの稼働率を低下させる原因は, 高圧硫酸浸出工程ではヒーターやオートクレーブの内壁に析出するスケールの除去等, 操業に関連する停止とポンプやバルブの機械故障である 機械故障は高温 高圧, 酸による腐食, 磨耗がその原因と推定された スケールに起因する操業停止は硫化工程でも深刻な問題だった これに対して, 本プロジェクトでは HPAL 工程や硫化工程でのスケール生成抑制技術,HPAL 工程での硫酸飛散防止により, 高い稼働率を達成している Fig. 5 には四半期毎の HPAL 工程と硫化工程の稼働率の推移を示した 2006 年の第三四半期以降は計画稼動の 90% を超え, 平均稼働率でも HPAL 工程で 94.4%, 硫化工程では 3

土田直行 Fig.5 Change in Plant Availability. Fig.7 Relation between Ni content of Leach Residue and Free Acid Concentration of Leach Solution. Table 3 Mixed Sulfide Formation Reaction by H 2 S and NaSH. Fig.6 Steam Recovery System of HPAL Process. 94.5% を達成している 1) 高圧硫酸浸出 (HPAL) 工程での技術開発 Fig. 6 にオートクレーブシステムの機器構成を示す 高圧硫酸浸出の原理自体は, 既にキューバの Moa Bay 工場にて 50 年前から知られており, 低品位ニッケル酸化鉱が処理されていた しかし,Moa Bay 工場では 100 以上の高温蒸気が回収されておらず, エネルギー的にロスの多いシステムで, その後類似の工場の建設はなかった 近年, オートクレーブ技術の発展により,200 以上の高圧蒸気を回収し, 鉱石スラリーの加熱に使用することが可能となった しかし, 蒸気を回収するフラシュタンクの制御技術に多くの問題があり, 反応後のスラリーが高圧蒸気と一緒にヒーター側に混入する現象が見られた オートクレーブでの浸出反応後のスラリーには未反応の硫酸が含まれるため, 結果としてポンプや配管機器における腐食を引き起こし, 機器故障の原因となっていた この蒸気回収システム, 特にフラシュタンクの新たな制御技術を開発したことにより, 機器故障や回収蒸気のロスが減少して, エネルギー使用量が設計値より 15% 改善された 先にも述べたように, オートクレーブのスケール生成はその稼動に大きな影響を及ぼす Bulong の操業では年間 140-167mm のスケール生成が予想され 5), 実際の操業でも 3 ヶ月に一度のスケール除去が行われていた これに対して, コーラルベイでは使用水の管理と適正な鉱石のブレンドにより 4), 半年で 10mm 程度のスケール成長に管理されている 2) 硫化工程でのスケール防止硫化工程では析出した硫化ニッケル (NiS) が, 反応槽や攪拌機に付着する結果, プラントの稼動率に大きな影響を与えていた スケールの生成速度は条件によるが, 実験室的には 1 日 1mm 程度のスケール成長が報告されている 6) キューバの Moa Bay 工場では, スケールの成長を抑制するため, 多くの技術的試みがなされている Moa Bay では 121,H 2 S 圧力 800kPa の高温 高圧法を採用しているが, コーラルベイでは 70 ~ 80 の低温での硫化反応を採用することによ り, スケールの成長を効果的に抑制している この結果,Fig. 5 に見られるように高い稼働率を維持できている 5 2 ニッケル実収率高いニッケル実収率を確保するためには, 高圧硫酸浸出で高いニッケル浸出率を維持することが重要である このため, 使用する鉱石のブレンド管理を操業技術として確立した また, 硫化工程で未反応ニッケルを最小限にするために, 反応 ph を制御している さらには CCD 工程で低 ph 操業を実施したことにより, 水溶性ニッケルからの水酸化ニッケル析出によるニッケルロスを減少し, 高いニッケル実収率の達成に寄与した 1) 高圧硫酸浸出工程 Fig. 7 に高圧硫酸浸出工程直後における浸出液中のフリー硫酸濃度と浸出残渣中のニッケル品位の関係を示す 浸出液中のフリー硫酸濃度が上昇すると, 浸出残渣中のニッケル品位は低下する しかし, 鉱石スラリー中のマグネシウム品位やアルミニウム品位が高いと, 全体的にニッケル浸出が低下することが判る これはマグネシウムの存在が,SO 2-4 / HSO - 4 の平行を HSO - 4 側にずらすことに起因する 7) このため, コーラルベイでは鉱石スラリー中のマグネシウム, アルミニウムの品位を管理し, 高いニッケル浸出率を確保している 2) 硫化工程硫化工程では, 硫化水素ガスと溶液中のニッケルやコバルトが反応し, 混合硫化物が生成する 反応させるニッケル量やコバルト量が多くなると, 溶液に残留するすなわち回収できないニッケルが増加する これは Table 3 の化学反応式に示すように, 硫化ニッケル (NiS) が, 生成する酸に再溶解するためであると考えられる したがって, 硫化反応の ph を制御すれば, 再溶解は抑制できる コーラルベイのような低温硫化法では Moa Bay のような高温硫化に比較して, 通常では残留ニッケルが多くなる コーラルベイでは反応中の ph を制御することによって, 低温硫化法でもニッケル回収率は 99% 以上を達成している 反応槽から排出される未反応の硫化水素ガスと苛性ソーダを反応させ, 水硫化ソーダ (NaSH) を精製 回収している この水硫化ソーダ (NaSH) を再度硫化反応に使用している この場合は, 直接硫化水素ガスによる硫化反応に比較して, 酸の生成が半分になり, ph の低下を防止できる すなわちこの ph 制御と低温硫化の組み合わせにより, スケール生成の無い, 高い実収率のニッケル回収が可能になった 5 3 品質 4

低品位ニッケル酸化鉱からのニッケル, コバルトの回収に関する技術開発および商業化 Table 4 Quality of Mixed Sulfide in Coral Bay Nickel Corporation. あることを示している Fig.8 Relation Between ORP and Fe Concentration of Leach Solution in HPAL. 今回のプロジェクトでは, 世界で始めて硫化水素による選択的亜鉛除去技術を開発した この技術が低品位ニッケル酸化鉱からの高純度ニッケルの生産を可能にした また, 鉱石処理工程における適正な鉱石ブレンド管理や高圧硫酸浸出工程における酸化還元電位の制御により鉄の制御技術も確立できた 1) 高圧硫酸浸出工程鉄は不純物として HPAL 操業や新居浜の MCLE 操業にコスト的な影響が大きい つまり, 鉄の溶解を抑制することにより, 硫酸使用量や中和剤の使用量のコストを低減することが可能となる 鉱石スラリー中の鉄は通常ゲーサイトで存在するため, オートクレーブで硫酸により一度溶解するものの, 熱加水分解反応によりヘマタイトとして析出する その結果, 浸出液ではほぼヘマタイトの溶解度見合いの濃度になる 8) Fig. 8 に硫酸浸出後の鉄濃度と ORP の関係をまとめた ORP が 550mV 以下では鉄の溶出が増加する一方,ORP を 550mV 以上に保持すれば鉄は 4g/l 以下に抑制されることが判る 鉄の溶解を抑制するためには ORP を制御する必要があるが,ORP を低下させる要因としては, 鉱石スラリー中の炭素と硫黄が挙げられる この 2 元素についても鉱石のブレンド管理項目とした さらに, 高圧空気をオートクレーブに吹き込み,ORP を調整することにより, 鉄の溶解を抑制し, 混合硫化物中の鉄品位も 0.5% 以下で管理されている 2) 脱亜鉛工程初期の研究開発で, 硫化水素ガスによる亜鉛除去において, 温度が低下するほど亜鉛は硫化反応されやすく, 一方ニッケルは 60 以上の温度で硫化反応が開始されるということを見出した 4) この発見から本格的な技術開発に取り組み, 小規模連続試験, パイロット試験を経て, 工業的に可能な亜鉛除去を開発した Table 4 にコーラルベイニッケルの混合硫化物 (MS) の化学分析を示す 脱亜鉛技術の開発により, 亜鉛は 100ppm 程度に管理されている また, 鉄も低温硫化法の採用により,0.5% 以下に維持されている これは高温硫化法 9) に比較するとはるかに低い鉄品位で管理されている これらはコーラルベイで開発された低温硫化法がニッケルの実収, 操業性, 品質管理に優れた方法で 6. おわりに 住友金属鉱山 ( 株 ) のコーラルベイニッケルプロジェクトにより, ニッケルやコバルトの回収に関して, 低品位ニッケル酸化鉱から高純度のニッケルやコバルトを生産する技術を商業化することができ, その結果ニッケルの製錬に新しい時代を築き上げることができた 今後の技術的な展望としては, より低品位のニッケル酸化鉱からの処理技術への挑戦, 鉱石中のクロマイトや浸出残渣中に含まれるヘマタイトの分離回収も資源の有効利用の点からも大きな意味がある さらに生産される中間物は, 硫化物, 水酸化物と種々の形態が可能で, フェロニッケル原料への利用も考えられる この場合, 現状未回収のコバルトが回収され, 燃料使用の削減, CO 2 ガス排出の削減への道筋にも繋がる このように HPAL 技術の確立により, 今後もさまざまな技術革新が期待できる 最後に, 住友金属鉱山 ( 株 ) による本技術の商業化により, 資源 素材学会における 渡辺賞 を授与されるに値すると評価されたことに関し, 心から深く感謝の意を捧げます そしてお世話になった関係者各位に厚く御礼申し上げるとともに終わりの言葉とさせて頂く次第です References 1) A. Griffin and G. Becker: Bulong Nickel Operations Post Commissioning, ALTA Nickel/ Cobalt Conference, (Perth, Australia, 15-18 May 2000). 2) T. Kindred: Cawse Nickel Operations Process Description and Production Ramp Up, ALTA Nickel/Cobalt Conference, (Perth, Australia, 15-18 May 2000). 3) F. Campbell, et al.: Startup and Reliability of Nickel Laterite Plant, Int. Laterite Sympo. 2004, Ed. W.P. Imrie et al., TMS, pp.25-41. 4) N. Tsuchida et al.: Development of Process Design for Coral Bay Nickel Project, Int. Laterite Sympo. 2004, Ed. W.P. Imrie et al., TMS, pp.151-160. 5) C.J. Czerny and B. Whittington: An Investigation of Autoclave Scales Formed in Commercial Nickel Laterite Pressure Acid Leaching Operations, ALTA Nickel/Cobalt Conference, (Perth, Australia, 15-18 May 2000). 6) E.C. Chou, et al.: Development of Nickel/Cobalt Sulfide Precipitation Process From Laterite Pressure Acid Leach Liquor, ALTA Nickel/Cobalt Conference, (Perth, Australia, 11-12 May 1999). 7) D. Marshall and M. Buarzaiga: Effect Of Magnesium Content on Sulphuric Acid Consumption During High Acid Pressure Leaching Of Laterite Ores, Int. Laterite Sympo. 2004, Ed. W.P. Imrie et al., TMS, pp.307-316. 8) M. Reid and V. G. Papangelakis: New Data On Hematite Solubility In Sulphuric Acid Solution From 130 To 270, In Iron Control Technologies, Eds. J.E. Dutrizac and P.A. Riveros, (Proc. 3rd. Int. Sympo. Iron Control in Hydromet., Montreal Canada, Oct. 1-4, 2006), pp.673-685. 9) R. P. Kofluk and G. K. W. Freeman: Iron Control in the Moa Bay Laterite Operation In Iron Control Technologies, Eds. J.E. Dutrizac and P. A. Riveros, (Proc. 3rd. Int. Sympo. Iron Control in Hydromet., Montreal Canada, Oct. 1-4, 2006), pp.573-589. 5