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他の単元との連関 子どもが獲得する見方や考え方 教師の持つ指導ポイント 評価規準 小学 4 年生 もののあたたまり方 小学 6 年生 電気の利用 ~ エネルギーの工場と変身と銀行 ~ 中学 1 年生 光と音 ( 光のエネルギーを利用しよう ) 中学 2 年生 電流 ( 電気とそのエネルギー ) 電流

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※ 教科 理科テキスト 小4 1学期 5月 電池のはたらき

今度は下図に示すような 電磁石 を用意します かなり変な格好をしていますので ヨ ~ ク見て下さい 取り敢えず直流電源を繋いで見ました 緑矢印 は磁力線の流れを示し 赤い矢印 は電流の流れを示します 図 2 下記に馬蹄形磁石の磁力線の流れを示します 同じ 図 3 この様に 空間を ( 一定の ) 磁

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s とは何か 2011 年 2 月 5 日目次へ戻る 1 正弦波の微分 y=v m sin ωt を時間 t で微分します V m は正弦波の最大値です 合成関数の微分法を用い y=v m sin u u=ωt と置きますと dy dt dy du du dt d du V m sin u d dt

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背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

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配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

指導計画 評価の具体例 単元の目標 単元 1 化学変化とイオン 化学変化についての観察, 実験を通して, 水溶液の電気伝導性や中和反応について理解するとともに, これらの事物 現象をイオンのモデルと関連づけて見る見方や考え方を養い, 物質や化学変化に対する興味 関心を高め, 身のまわりの物質や事象を

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F コンデンサーの静電容量高校物理において コンデンサーは合同な 2 枚の金属板を平行に並べたものである 電池を接続すると 電圧の高い方 (+ 極 ) に接続された金属板には正の電気量 Q(C) が 低い方には負の電気量 -Q(C) が蓄積される 正負の電気量の絶対値は等しい 蓄積された電気量 Q

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半導体の歴史 第 2 回 その 1 19 世紀トランジスタ誕生までの電気 電子技術革新 株式会社ルネサステクノロジ生産本部技術開発統括部 MCU デバイス開発部主管技師 おくやま奥 こうすけ 山幸祐 時 誰が予想しただろうか この項は城坂俊吉著 エレクトロニスを中心とした年代別科学技術史 第 2 版 ディヴィット ボダニス著 吉田三知夫訳 エレクトリックな科学革命 などを参考に電気 電子科学の発展を中心に半導体が本格的に使用される前までの歴史について触れる 私たち 人類が始めて安定した電気を手にいれたのが 1800 年であり 手にしてから今日まで まだ200 年程度しか経っていない その後 アメリカのナイアガラで初めての水力発電所ができたのが1895 年であるので 本格的に電力を利用するようになったのはおよそ100 年前であり 電子デバイスの元になる電子の発見も1897 年で 同じ頃である 100 年前の日本は 既に明治時代にはいっており 今 NHK で放送されている江戸末期から明治にかけての大河ドラマ 篤姫 の次代も通り過ぎ 日清戦争が終わり もう数年で日露戦争が始まろうとしている頃で 明治維新で ちょんまげ をやめて はや30 年を過ぎた頃のことである 半導体に至っては1947 年に発見されているので ちょうど 60 年しか経っていない 人類の5000 年程度の長い文明の中で考えると 200 年や100 年 60 年はほんの一瞬に出来事である 人間の60 才と言えば 還暦であり 最近の長寿命国 日本では まだまだ働き盛りの年齢である 人生一代程度の短い期間にこれだけの科学発展が起こったことは驚くべきことである この稿を執筆している今 日本人が宇宙に飛出し 宇宙ステーションの実験室 きぼう を組み立てている状況を TV の画像で見ている そこに出てくるのは宇宙ステーション スペースシャトルやロボットアーム 数々の電子機器 そして 黒い宇宙をバックにした青と白に彩られた綺麗な地球などの画像である これらは科学の進歩の象徴的な画像であるが およそ200 年間で ここまで進歩することを当 スペースシャトルのロボットアーム作業と地球一方 別の TV 番組では 産業発展に伴う二酸化炭素 CO 2 ガス排出による温暖化が深刻な問題として報じられている 200 年間の驚異的な発展が人口を極端に増加させ 地球環境にひずみをもたらしている事も否めない 電子技術の進歩が無く 単に重工業に頼るだけの社会であったなら 消費エネルギーの無駄が相当な量となり 更なる温暖化が加速されたとも考えられる 前項で説明した自動車エンジン制御やコンピュータ等のように半導体を中心とする電子技術は低消費化を促進するための技術なのである しかしながら この技術発展は電子機器の利便性向上 価格低減を可能にしたことで 膨大な数の電子機器が使われるようになり 全体的には地球上の消費エネルギーを増加させている 環境問題は人類の未来に向けた知恵を発揮すべき課題となってきているのである この様にいかなる発展も好悪併せ持つが 人間の知恵は 常に解決策を得ながら次の発展を引き出して行くことを歴史は示している 電気を手にするこれらの発展は 1800 年イタリアのアレッサンドロ ヴォ

ルタが発明した電池から始まる それまでは電気と言う概念はあったが 琥珀などを擦ることで発生する静電気のレベルであり 安定して実用するには至らなかった ちなみに 電気は英語で electricity と呼ばれるが 語源は古くギリシア時代から愛用されていた琥珀のペルシア語 electrum である 1790 年代にヴォルタは舌の上の片側にコインほどの大きさの銅版を 反対側に亜鉛版をくっつけ この2 枚の円盤の端を接触させると 舌に刺激がはしるのを感じた 彼は自分の口の中に安定した 電池 を世界で始めて作ったのである その後 唾液 塩水 その他の腐食性溶液によって隔てられた2 種類のどんな金属を持ってきても これと同じ作用することに気づき 電気化学的な電池を1800 年に完成させた この業績をとって 電気の1つの要素である電圧の単位を ボルト と呼び 今日でも使用している 蛇足ではあるが 電流をアンペア 抵抗をオームと呼ぶのも 発見者の名前から取ったものである 研究者ならば 1つくらいは後世に自分の名前を残したいと思う人がいるかも知れない 電池の発明で一定の電気を安定して使えるようになるが 出力が小さく まだまだ本格的に電気を使うまでには至らない そのためには発電機の発明が必要であり 電気と磁気との関係が解き明かされ 利用されていく必要があった 20 年後の1820 年にデンマークのエルステッドが 導線を流れる電流が羅針盤の針を回転させる作用を持つと言う画期的な発見することで電気と磁気との関わりが明かされて行く 電流が磁場を発生すると言う このエルステッドの発見をもとに 同年にフランスのアンペール ( 上記の電流の単位アンペアの元になった人 ) らによって電流の強さ 方向と磁針に対する力の強さ 方向の関係が明らかにされて行く この事実は その後 ガウスやオーム ( 上記 抵抗の単位名になった人 ) らの手によって数学的手法を導入して電気 磁気両者の統一単位系へと組み上げられてゆく基盤となる 機械的なエネルギーから電気を作り出すためには もう 1つの現象が解き明かされる必要があった それは磁気から電気を引き出す法則であり 1831 年にイギリスのファラデーが発見する 木に導線を巻いたコイル2 個の一方に電流を流し もう一方のコイルと遠ざけたり 近づけたりすると電流を流していない方のコイルに電流が流れる現象を発見する 一方のコイルに電流を流すことで磁場が発生し 電流を流していない方のコイルとの距離を変えると 流していない方のコイルの電場に変化をもたらし電流が流れる現象である 2つのコイルの間を遠ざけたり 近づけたりする運動 つまり 磁石や通電導体を動かす運動から磁気を介して電気を生み出す法則を発見したのである 現在使われている各種電力の原理である この運動を続けると電流は流れ続け 運動を早くすると電流が増大する この発 見から現在まで運動エネルギーの源が人力 風力 水力 火力 原子力など様々なものが出て来たが これらの源から生み出された動力エネルギーを電気に変換する原理はこのファラデーの発見した現象である この発電システムの現象は この1 年前の1830 年にファラデーアメリカでジョン ヘンリーも発見しているが 発表が遅れたためにファラデーの発明となる この2 人はイギリス アメリカと異なる場所で業績を残しているが 貧しい家庭で育ち 独学で勉強し 偉大な成果を残したと言う面では同じような境涯を送っている 2 人は後年 学会にて知り合い親交を深めて行く この発見の後 発電機の実用化が計られて行くが 1895 年に本格的な水力発電所としてナイアガラ水力発電所が成功するまでファラデーの発見から64 年を要している この背景には当時主流であった蒸気機関に比べ 効率が悪いと考えられ本格的に参入されなかった事も原因と考えられる しかしながら 本格的な水力発電所ができるまでの この間に 電信 電話 その後配電網が確立し 電灯 照明 発電機 変圧器 電動機などの技術が発明 実用化されることで 20 世紀の発展の土台が築かれて行く 電気による通信 19 世紀の電気技術による革命のもう1つは通信技術である 前稿で述べた携帯電話は無線通信であるが 電信 電話 無線電信などの通信技術はこの世紀に発明され実用化された 19 世紀にはいり 鉄道が普及してくると 列車の到着に先立って情報を入手する必要性が出てきたことにより 電信技術 ( 電線を通して信号を送る技術 ) の発達が促されるようになる 電信技術を最初に着想したのはドイツのゼメリングであるが その後数多くの人々によって実用化が計られてゆく 1836 年から1837 年にはイギリス アメリカ ドイツで同時期に発明 改良されてゆく 最も早く実用化されたのはイギリスであり ロンドン カムデンタウン駅間に電信線が敷設され これが実用化の最初になる アメリカでは1837 年から1844 年にかけてサミュエル モールスが実用化している モールスは有線の電信技術のアイデアとしてジョン ヘンリーやヨーロッパの研究者らの発明や改良したものに受信部の出力を紙に打点する方法とトン ツーのモールス信号を付加しただけで完成させ これらの技術を特許にして実用化している かくして 19 世紀

中ごろになるとそれぞれの国内線から始まって 英仏海峡や大西洋横断ケーブルが敷かれるまでに発展してゆく 1875 年になるとアレグザンダー グレアム ベルが電話を発明している ベルは後にトランジスタを誕生させたベル研究所の創始者である ベルの死後 ベル研究所で誕生したトランジスタは補聴器に最初に適用されることになるが この電話の発明のきっかけも難聴者への愛から始まる ベルは彼の父親が聾唖者の為に視話法を研究していたことも影響し 聾唖者に視話法を教える教師をしていた その関係で 後の妻になるメイベルと知り合う メイベルが聾唖者であったため 聴覚障害者にどんな方法で声や音を伝えてやれるかを常々考え 人口鼓膜と一本の導線で多数の信号を送る方法を研究していた ベルは研究の中で鉄の薄板を人口鼓膜にする発想に至り その過程で電話の発明に行き着く 送受信端双方に電磁石の前に振動板をおいて 送信側の振動板の振動を電磁石の信号に変え この信号を受信側で振動板の音響信号に変える方法を発明したのである これは今日でも使用されている電話の原理である ベルはこの前年 当時 電気科学の重鎮となっていたジョン ヘンリーに会い 電話の着想を話した所 大変な激励を受け これに力を得て電話の研究に着手している 実験室にいるベルから隣の部屋にいる助手のワトスンに 早く来てくれ ワトスン君 が人間の言葉を電流にして送られた最初の言葉となる 話は横道にそれるが 三重苦を克服し 身障者の救済に生きたヘレン ケラーもベルの助けを得ている ベルはヘレン ケラーに 後に家庭教師となるサリバン先生との出会いを作ってあげたのである ヘレン ケラーはアンニー サリバンによる教育と終世 献身的な尽力により苦難を乗 り切り 自分自身が身障者でありながらも 多くの身障者の救済に乗り出し 大きく羽ばたくことが出来たことはあまりにも有名であるこの電話は 更に その後 トーマス エジソンの手によって改良が加えられ実用化されてゆく エジソンはベルと同年オハイオ州のミランに生まれた 少年時代から変わり者で 先生は低能と言って母に相談したため 母は怒って学校をやめさせてしまう 独力で読書や実験で勉強し 12 歳で社中販売の仕事を始める その後 電信技術を学ぶ機会を得て 15 才で電信員として勤めながら発明に夢中になってゆく 22 才でウオール街の会社事務所に勤め 株式で使う電信指示器の保持係の専任になった この仕事の中で指示器の改良発明を行い 4 万ドルで買い上げて貰い これを資金にして技術顧問会社を設立する この会社の6 年間に24 時間発明活動を行い 数多くの発明品を生み出す その後 1876 年にニュージャージーのメロンパークに応用科学研究所を設立し この中で1000 件をこえる発明品を生み出している この研究所時代にベルの電話機に出会う ベルの電話方式は送受類似形であったが エジソンは送信側に炭素の圧力抵抗変化の利用を考え 振動板に接して炭素紛末を配置し 振動板の圧力変化を抵抗変化にかえ 誘導コイルを介して電流を流すようにする そのため 電池の電流を電話線に直接流すことがなくなり 電話路の距離が大きく伸びることになる これらの成功はエジソンの頭の良さとともに 技術に対する執念とも言うべき執拗さがもたらしたものである また エジソンの功績は世界で始めて研究所を作ったことである この仕組みによって組織的な研究が可能となり 電話器の実用化や蓄音機に代表される大量の特許が可能になった 今日的な研究所の先駆けとなっエジソンたのである ヘレン ケラー ベル 空中を走る電気の波 ( 電磁波 ) と通信への利用電信 電話が発明実用化されたことで地球上の情報伝達時間が驚異的に短縮する しかしながら 通信技術はもう 1つの革命的な進歩を果たす それが無線通信である この無線技術は導線を必要としないばかりか ラジオやテレビのように不特定多数の相手に同時に通信することが可能になる また レーダー技術への応用をも生み出して行くことになる 先のファラデーの電気と磁場の関係は磁場を変化させる 0

ことで空中に電場の波 電磁波を発生することを意味している 電気が導体の中でのみ存在するのではなく 磁石を動かす事により 空中に電気の力場 電場の波 ( 電磁波 ) が広がることを発見したのである この発見は無線通信技術を生み出す その後 スコットランドの物理学者ジェームス クラーク マクスウエルにより1864 年までに理論付けられ 電磁気学が完成している このマクスウエルの理論で電磁波は光と同じ速度 ( 30 万キロメートル毎秒 ) で進むことが示される その後 1887 年にドイツのハインリッヒ ヘルツによって電磁波が空中を飛び 離れた所にある受信機に電流が流れることを実験的に実証される ヘルツの実験結果を実用化したのは 当時 若干 19 才であったイタリアのマルコーニである ヘルツが亡くなった 1894 年 1 月にヘルツの解説本を読み 自宅で実験に着手してゆく 1.8m 4.3m のアンテナで90m 270m の距離の通信を可能にし その後 高い木の頂上に取り付けたアンテナに火花発信器を接続し 他端を地中の金属に接続する今日的な接地アンテナを考案し 受信部の工夫も合わせて 1896 年には3km の通信に成功する 1897 年にはイギリスで特許を取得し 会社を設立し灯台船舶用火花式無線通信業務を開始し 更に通信器の工夫を重ねながら1899 年には英仏海峡横断通信に成功し その年の12 月には大西洋横断通信 (3000km) に成功している また 英仏海峡横断通信の数週間後にはマシウス号の遭難を救助し これによって無線通信の有効性が急速に高まってゆく もし マルコーニが電磁波の専門的な研究者であったなら 電磁波が光と同じ性質を持ち 直線的に進むものと信じていたならば 丸い地球上で大西洋横断通信に挑戦することは最初からなかったかも知れない マルコーニの若さが ただ がむしゃらに 少しずつ通信距離を伸ばしてゆき その結果が長距離無線を可能にしたのである イタリア人特有の明るく 楽天的な気風が成し得た技ともいえるかも知れない 電流の源は? 導体から飛びだして捕まえられた電子 発明王のエジソンでも電球の中のフィラメントが熱せら れたことでフィラメントから電子が飛びだし その電子が電球のガラスの内側にぶつかる事でガラスが曇ってしまうことまでは突き止められなかった 何故 曇るのかの疑問を抱き ひとりで研究を続けたが 電子そのものが存在する発想には至らなかったのである しかしながら エジソンの偉いところは電子が飛び出す発想にこそ至らなかったが この現象を実験的に捉え この現象を発見した1883 年の翌年に特許にしていることである これによって フィラメントが熱せられることで電子が空中に飛び出してくることはエジソン効果と呼ばれている この効果をエジソン は電球内に薄い白金板を入れ フィラメントと白金板の間に検流計を入れて フィラメント側に高い電圧を加えた時にだけ 電流が流れることを確認している 熱せられたフィラメントと白金板の間の空中を通して電流が流れる現象を確認したのである これは発明王エジソンのただ1つの発見であった エジソンは科学事象を研究することに重点を置くことは少なく その事象を実生活に活用することを目指していた為 この現象に活用性を感じず 重要とは思わなかったのである この現象は フィラメント側ではなく 逆に白金側に高い電圧を印加した時には電流が流れず 整流特性を示すことから 二極管検波器 三極真空管を誕生させることになる 当時 エジソンの会社に関係していたフレミングが 先に述べたマルコーニの会社の顧問をしている1904 年に この現象を検波器に応用することを考え 二極管検波器 ( 真空管ではなかった ) を発明することになる また 一般に真空管として代表して呼ばれる三極真空管はアメリカのド フォレストが発明する 彼は検波器の安定性を求めて 検波器の改良を行なっていたが いずれもマルコーニらの特許に抵触するものであり 新しい検波器の開発をめざして二極管検波器の改良を行なっていた 二極管の電流を陰極温度で制御する代わりに 第三電極を挿入して この電極で電流を制御することを考えたのである 1906 年にこの考えに成功し 三極真空管が誕生する この真空管は 感度の良い検波器としてだけではなく 増幅器 発信器 変調器へとその機能を拡張してゆき 無線技術発展の原動力となって行く また 後に生まれるトランジスタは この三極真空管の持つ機能を半導体の固体の中で具現するために生みだされたデバイスとなる 一方 電子を初めて発見したのはエジソン効果発見から 14 年後の1897 年 イギリスの J.J. トムソンである この発見に至る過程はエジソン効果と別の経路をたどっている この発見に至る起点は1857 年にドイツのブリュッカーが考案し ガイスラーが作成した真空放電管である この放電管はブリュッカーによりガイスラー管と命名された 試験管程度の大きさのガラス管を10 分の数 Torr から数 Torr 程度の真空度にして 1 3kV の電圧を印加する放電管である 現在も真空度のチェック用に用いられているとともに 後年の電子 X 線発見の一里塚である ブリュッカーはガイスラー管で真空放電と真空中の電流実験をおこなった この実験で陰極に近いガラス壁が緑色の蛍光を発すること これを磁界内におくと蛍光の位置が変化すること 電磁石の極を逆にすると蛍光の位置も反対になることなどいくつかの需要なことを確認している これらの実験で陰極側から帯電性粒子 ( 電子 ) が放射されていることを推定している 1874 年になるとイギリスのクルックスが0.1Torr 以下の真

空度で ガイスラー管より放射線 ( 電子 ) をよく観察できるクルックス管を製作する この放電管を用いて0.01Torr 以下で放電することで高速に加速された電子が陰極付近のガラスに衝突して蛍光を発生する また 陽極電極やガラス壁に衝突して X 線を発生する レントゲンの X 線発見 (1895 年 ) である クルックスは放電管を製作した翌々年までに実験を行い 陰極から放射されているものが電磁波ではなく 帯電粒子であることを確認する そして 23 年後の1897 年に 先に述べたトムソンは このクルックス管をもちいて陰極側の放射物が荷電粒子であることを実験的に確認し 粒子の比電荷の値 (1.17 108クーロン /g) 質量( 水素の約 1/1000) を計測している この値は後に精度が上げられるが トムソンが最初にこの値で定量化している トムソン自身はこの粒子をコーパスル (corpuscle 微粒子) と呼んでいたが その後電荷の最小単位であることが認められ エレクトロン ( 電子 ) と呼ばれるようになる クルックスやその他何人かの人が荷電粒子を確認していたが トムソンが最小単位であることを確認したことで 電子の発見者はトムソンとなっている この発見によって 19 世紀末に漸く 電流の源が電子であることが認識されたのである 一方 同じ1897 年にクルックスの実験結果を元にドイツのブラウンがブラウン管を発明している 最近ではテレビも液晶やプラズマ方式の薄型テレビに移行しつつあるが これまでテレビの主流をなしてきたのが このブラウン管方式である 原理はガイスラー管やクルックス管と同じで 陰極と陽極間の高電圧を印加することで陰極側から飛び出してきた電子を電磁石で磁気偏向する方式である この方式はテレビの映像技術として一時代を築くのである 半導体の芽生え 19 世紀前半には 本稿の主題である半導体の芽が顔を出し始める 結局 この稿もファラデーから始まる ファラデーは磁場から電気を生み出す方法 無線通信の元になる電磁場の発生などの発見とともに この半導体の性質を持つ物質の発見も行なっている 化学分野でも活躍した彼は 幅広い研究を成し遂げた科学者であった ファラデーは1839 年に物質の半導体的性質を発見する この発見が半導体の源流と考えられている 電極間の硫化銀 Ag 2 S の下にランプを当てて温めると伝導性が増加し その後冷却すると逆の効果が確認された Ag 2 S は高温では金属と同程度の導電性を示し 低温では抵抗が高くなる 通常の金属では低温で低抵抗を示し 高温で高抵抗となるため Ag 2 S は従来の金属にはない特性を持つ 今日の半導体の性質が初めて発見されたのである ファラデーは 私の知る限りではこの様な物質は未だないが 探せばまだ多 く有るだろう と言っている 次に半導体の諸現象が確認されるのが1870 年代に入ってからである 1873 年にイギリスのスミスが内部光電効果を発見する セレン Se と言う半導体に光を当てると抵抗が減少することを発見している また 翌年の1874 年にイギリスのシュスターが亜酸化銅の面接触整流作用を最初に報告している 表面が錆びた銅と錆びていない銅との接触面を介して 一方向に電流を通すが 逆方向には通さない いわゆる接触面での整流特性を始めて発見している 次いで 同年にドイツのブラウン ( ブラウン管の発明者 ) が点接触整流概念の原型となる 金属と半導体の接触面での整流特性を発見する これが鉱石検波器の始まりとなる 方鉛鉱上に金属針 ( ホイスカー ) を接触させ その整流作用を確認している シュスターが発見した面接触整流器はセレン整流器や亜酸化銅整流器として1920 年代初期から工業用に大量に生産され ブラウンが発見した点接触型整流器は鉱石検波器として 無線通信に使用されて行く この鉱石検波器は細い針で接触面積が小さいことから容量が小さく弱い電波によい感度を示すため 無線やラジオ放送の電波を受信し それぞれの音声の振動をよりわけて取り出すことができるのが利点である しかしながら 2 極管検波器や3 極真空管が出てくるとそれらに置き換えられ 一時すたれて行く 真空管の方が安定して生産が可能であったことや受信した信号を増幅できることなどのメリットからラジオの受信に使用し易かったのである 再び 鉱石検波器が脚光をあびるのは第二次世界大戦の前になる この時期にレーダーが発明され このレーダーの受信感度を上げる目的で鉱石検波器が浮上してくる そして この鉱石検波器の性能向上を目指している過程で 偶然にトランジスタが生まれてくるのである この過程については後の稿にて紹介する 以上述べた半導体の伝導性の特有な温度依存性 光電池 ( 起電力 ) 効果 整流特性などの半導体特有の現象が19 世紀に発見され 整流特性などは理由が解らないまま工業的に利用されてゆく 半導体の芽が19 世紀に芽吹いたのである これらの発見は電気技術が19 世紀に生まれ 実用化されるまで成長したことによるところが大きい 次の世紀 20 世紀は半導体の技術が学問的のみならず実用的にも開花する時代となる 次回 第 3 回半導体の歴史 その2 20 世紀前半トランジスタの誕生