23 外国語教育 理論と実践 第 43 号 平成 29 年 3 月 31 日発行 < 教育実践報告 > ポルトガル語学習における CALL 教材の利用 ポルトガル語のジェスチュア を用いた授業の実践報告 村松英理子 Sumário A maioria das universidades japonesas têm adotado o sistema CALL(Computer Assisted Language Learning)para ensino e aprendizagem de línguas estrangeiras, principalmente após o ano 2000. Além disso, com o aumento da tecnologia de informação (TI)em nosso cotidiano, os hábitos dos estudantes vêm sendo mudado consideravelmente. Uma pesquisa feita em 2015 com estudantes de língua portuguesa na Universidade de Tenri e na Universidade de Estudos Estrangeiros de Quioto mostra que quase 100 por cento dos alunos dispõem de smartphone, e cerca de 90 por cento deles gastam muitas horas por dia utilizando-o. Desde 2013, a Universidade de Estudos Estrangeiros de Quioto introduziu um sistema em que os alunos podem acessar o material didático pelo smartphone, e os estudantes podem estudar a qualquer hora. Essas mudanças obrigam as aulas tradicionais a mudar de forma. Este trabalho, tomando como exemplo aulas que utilizam material didático CALL "Gestos em Português ", analisa as perspectivas de aulas combinando a aula tradicional com o sistema CALL. < キーワード > ポルトガル語 CALL LMS 内容言語統合型学習 スマートフォン 1. はじめに 近年多くの大学の語学学習において自習用または教室内での環境として CALL(Computer Assisted Language Learning) が積極的に取り入れられている 天理大学や京都外国語大学でも
24 外国語教育 2000 年以降 一気に伝統的な LL 教室が改修され CALL 教室の整備が進んだ しかしながら開室当時より 学習者の少ない言語であるポルトガル語の CALL 教材で国内に出回っているものはほとんどなく 環境の整備が先行する形でポルトガル語の CALL 授業の導入がなされたことで 当時は多くの教師が困惑した CALL 導入初期は 学習効果をあげるためのアプローチの検討や理論的な裏付けも十分とはいえず CALL 教室の利点が活用されるまでには大きな困難があった それから 10 数年を経た現在 また CALL 教室導入に次ぐ新たな学習環境の変化として 学生のほぼ 100% 近いスマートフォン保有率と 長時間の使用があげられる こうした変化もふまえ 本稿では国内で入手可能なポルトガル語 CALL 教材の教室内での使用例から自律学習および対面授業内での CALL 教材の効果的な利用法を探る 2. 学生のネット環境 2015 年 10 月 京都外国語大学ブラジルポルトガル語学科および天理大学ブラジルポルトガル語専攻に在籍する 1 3 年生計 150 名に対して ネット環境に関するアンケートを実施した 以下その結果を紹介する Q1 スマートフォンを持っている Q2 パソコンを持っている Q3 ネット接続はスマートフォン? パソコン? Q4 一日にどのくらいスマートフォンを見ますか? Q5 大学入学以前に CALL 教材を使ったことがある Q6 パソコンやスマートフォンで使える教材について 今回のアンケートの結果では スマートフォンの保有率がほぼ 100% 近く パソコンの保有率も 9 割に達し また 9 割の学生がネットへのアクセスは主にスマートフォンから と回答した 総務省の平成 26 年度の通信利用動向調査でも 20 代のスマートフォンの保有率は 94.5% にのぼり 同調査の平成 27 年度版では 20 代以下の最も利用頻度の高い ICT 端末がスマートフォンであることが示されている 今の学生にとってスマートフォンはパソコンを上回る 欠かす事のできないネット接続のメインツールであることを如実に反映している
ポルトガル語学習における CALL 教材の利用 25 つづいて その利用時間については 6 割弱が 暇な時はいつも 次ぐ約 3 割の学生が 2 3 時間 と回答し 約 9 割弱の学生が長い時間をスマートフォンに費やしていることが示された また 大学入学以前にすでに何らかの CALL 教材を使ったことのある学生は半数を超え スマートフォンやパソコンで使える教材について もっと使ってみたい またはどちらかといえば使ってみたい とする回答は約 7 割に達した 総務省の通信利用動向調査にスマートフォンが調査項目として加わるのは 2010 年であるが 総務省の平成 26 年の調査の中で スマートフォンの普及について 20 代を中心に 2 ~ 5 年前から始まり その後 10 代及び 30 代にも 1 ~ 2 年前に普及し 直近 1 年では更に 10 代を中心に普及が進んだ というデータが示されている 若者とスマートフォンとの結びつきはここ数年の急激な変化といえる 3. 指導法の変遷と AV 機器の進歩 3.1 録音再生機器登場 語学の学習形態は その教授法のみならず 習得しようとする外国語の音の再生方法によっ て形を変えてきたともいえる 語学教育は長い間 教室内で教員と対面にてテキストを用いて 行われてきた 音声の再生機器の登場以前では 教員の生の音声こそが唯一の外国語を耳にで きる機会であり 発せられた瞬間に消えてしまう音を保存する手立てといえば 音声記号によ る文字での記述であった こうした時代において教員と学生が時と場所を同じくすることは必 要不可欠な要件であったはずである また 当時のダイレクトメソッドやオーラルメソッドと いった 話す 聞くことを重点にすえ できるかぎり目標言語を用いて指導する方法では ネ イティブの教員もしくはこれに準ずるすぐれた目標言語の運用能力のある教員がいなければ 必然的に語学の指導は文法訳読法となったであろう 音声の録音再生が機器により可能になったのは 今から 140 年前 日本は明治時代 1877 年 のトーマスエジソンによる蓄音機の発明である エジソンはこの蓄音機の利用方法のなかに 様々な言語の保存装置 教師の説明を再生させる教育機器 をあげている (ⅰ) 日本に蓄音機が普
26 外国語教育 及し始めたのは それから 10 数年を経てからだったというが 当時の蓄音機の利用について 物理学者で随筆家の寺田寅彦は ( 学校の講義をこの録音で ) 代理させれば 教師は宅 ( うち ) で寝ているか 研究室で勉強していてもいいことになりはしまいか と述べつつもまた それ は結構なようでもあるがまたそうではなさそうでもある (...) 多くの人が自らその学校生活の 経験を振り返ってみた時に 思い出に浮かんでくる数々の旧師から得たほんとうにありがたい 貴い教えと言ったようなものを拾いだしてみれば それは決して書物や筆記帳に残っている文 字や図形のようなものではなくて 到底蓄音機などでは再現する事のできない機微なあるもの である事に気がつくだろう とも言っている (ⅱ) 録音再生が可能になったことは 当時の授業形 態に影響を与える出来事であったに違いない 現代に生きる教師と同じように 新たな技術に 接した時のその可能性と教育のあり方について模索する姿がうかがえる その後 1948 年に LP レコードが実用化し 1950 年代にテープレコーダーが販売されると 日本の語学教育にもこう した録音再生機器が取り入れられるようになる テレビが普及し始めた頃の 1959 年 京都外国 語大学でも初めてとなる視聴覚教室が開室し マグナファックスという磁気円盤録音再生方式 の機器が 48 席導入された 続いて国内では 1962 年にカセットテープ 1976 年には VHS が登場 する この時代の 1960 年代から 70 年代にかけての 構造主義言語学および行動主義心理学の 影響をうけたオーディオリンガルメソッドにおいて この時代から導入され始めた音声再生機 器はまさに好都合であったといえよう 反復ドリルや パターンプラクティスなど 繰り返し のトレーニングに 機器が大いに役立ったはずである 3.2 コミュニケーション重視の教育へ 1980 年代からは コミュニケーションを中心とした外国語教育へのシフトが進む 先の時代のオーディオリンガルメソットでは言語の形式的な面をとらえた反復練習による語学学習が主流であったが コミュニカティブアプローチでは 機能的な面に注目した言語の運用能力獲得に重点がおかれるようになる 発音や文法項目を 正確に 習得することよりも 目標言語の実際の 流暢な 運用が重視され 実践的コミュニケーション能力の育成が求められるようになった 1989 年の中高の学習指導要領においても これが全面に押し出されるようになり この年度以降半世紀にわたる語学教育は コミュニケーションのための語学教育へと移行していく 3.3 インターネットの登場と CALL 1995 年 Windows95 の登場でインターネットが急速に広まり 京都外国語大学でも 1996 年に学内 LAN システムが導入されて インターネット利用が可能となった LL 教室に変わって CALL 教室が登場するのが 2003 年である (ⅲ) CALL 教室で扱われる MP3 MPEG などの音声や動画のデジタルデータは 簡単に録音 ( 画 ) 再生 保存そして加工ができ 配布や回収さらには持ち出しも大変容易なものになった またその後の大容量のデータ通信のネット環境の整備によって 動画を含む多様な情報へのアクセスもたやすくなり 国内外の情報交換 共有などにおいて時間や場所の制約が大幅に軽減された 加えて京都外国語大学の CALL システムに
ポルトガル語学習における CALL 教材の利用 27 テスト問題の作成 配布 自動採点などを行える学習支援システムも導入され学生のデータの扱いが容易になる一方 教員サイドでは 自らが受けてきた伝統的な対面型教室の授業とは異なる 新しい授業の形を再構築する必要にせまられることになる その最たる例として 京都大学では 2001 年度より英語の履修過程に CALL 教材の自律学習による単位認定が行われている 教員不在 非教室型の CALL 教材の自習によって学生が学び その学習記録や最終的なテストに合格すれば単位が認められるというもので 現在では英語以外にもフランス語 スペイン語 ドイツ語 中国語にもこの自律学習型 CALL 授業が拡張されている こうした大学入学後に初めて学ぶような初修言語では まず教室型の授業の履修を前提としているが これが不合格となった場合の再履修科目において CALL 教材による単位認定科目の受講が認められている 教員がいなくとも語学学習ができる環境が実現しつつあるなか 教室で教員が教科書の内容を解説し 学生がこれを聞くという伝統的な対面授業のスタイルは今まさに転換期にある 3.4 アクティブラーニング スマートフォンの登場 2010 年以降では 学生主体の能動的な学び アクティブラーニングの考え方が授業形態に取 り入れられるようになった 知識のない白紙の状態である学生は 教員の情報を受け取る一方 向的な存在であって 教える側が効率的にこれを伝達する方法を模索すべきとするような 知 識の蓄積と伝達を基本とする従来の考え方が大きく変化し 学習者は既にある自身の枠組みを もとに 主体的に新たな知識をその内に再構成していくべきであって 教員はこれを支援する 存在として位置づけられる こうした考えを後押しする授業外での学習支援も積極的に進めら れ 京都外国語大学では 反転授業用の教材が作成され実際の授業に取り入れられている 教 材にはアクティブラーニングの広がりと時期を同じくして普及が進んだスマートフォンに対応 したものも多い ブラジルポルトガル語学科の反転授業用の教材への試みでは リスボン大学 言語学研究所の発行する 現代ポルトガル語多機能電子化語彙表 (LMCLP) の 2 万 6 千語の頻 度順上位 1 千語を 名詞 (565 語 ) 形容詞 (123 語 ) 動詞 (266 語 ) 副詞 (66 語 ) の品詞別 に分類し これを英語と意味を対照させて表示するフラッシュカードを作成した 30 語 1 スタッ クとして 2 3 分のムービーとしてまとめられ パソコンおよびスマートフォンでの再生が可 能である (ⅳ) 日本でスマートフォンが広がりを見せたのは 2008 年に日本で販売が開始された iphone 登場 以降である 京都外国語大学でも 2013 年よりスマートフォンに対応した学習支援システムが 導入され 授業への出欠 音声を含む課題や小テストがスマートフォンからも出来るようになっ た 今回の学生の調査でも明らかになったように 学生のネットアクセスは主にスマートフォ ンからであり 整備されたネット環境の下 これを使いこなす学生たちからは CALL 教材に対 する積極的な姿勢が示されている また紙媒体の辞書や電子辞書でもない白水社の 現代ポル トガル語辞典 をダウンロードし スマートフォンで語を検索する学生も授業内で多くみられる 能動的な学びのツールとして もはや欠かせない存在となりつつあり CALL 教材は パソコ
28 外 国 語 教 育 ンだけではなく スマートフォンにも対応することが今後必要な条件となってきている 以下 ここまでの流れを表1にまとめている 表1 指導法と授業形態 その関連メディアの推移 4 ポルトガル語のジェスチュア ここまで 指導法や機器の変遷と現在の学生をとりまく学習環境について述べてきたが こ こからは 2010 年以降 新時代の CALL 教材の活用について考えたい 日本のポルトガル語教育 においては CALL 教室の整備が先行し 当時国内にでている CALL 教材はほとんどなかった こともあり その後を追うように急遽教材開発の必要にせまられて苦労した教員も多い また LL 教室の授業で取り入れられたパターンプラクティスやドリル形式が 引き続き CALL 教材で も用いられ 単なる自習用のドリル練習となっている例も見受けられ CALL 教材の利点を十 分に生かしきれていない面もある そこで 本稿では CLIL Content and Language Integrated Learning 内容言語統合型学習 のアプローチを用いた CALL 教材 ポルトガル語のジェスチュ ア の授業例より 教室授業内での CALL 教材の利用について考察する CLIL とは 言語教育と他教科 いわゆる時事問題や歴史や地理 芸術 文化など authentic な教材を使う事が推奨されている を統合した教育方法で これにタスクやペアワークといっ た協同学習など内容理解の為のさまざまなコミュニケーション活動を取り入れながら 外国語 の四技能の向上をめざすものである CLIL は 文法書に使用されるような文脈のない例文を用 いて文法の知識を積み重ねていくものではなく 学習しようとする言語の 実際の または 本 物の 教材を使い 生きた言葉 を通して内容を理解させることで語学学習を行い 必要とあ れば文法の説明を加える 従来の学習では 教員が学生に対して知識を伝達し これを学生が 蓄積そして定着したとみなされたのちに こうした教材に接していたが CLIL では言語を用い て その教材の内容を理解し 必要な時に文法事項に焦点をあてつつ言語を学んでいくという
ポルトガル語学習における CALL 教材の利用 29 使いながら学ぶプロセスをふむ ポルトガル語のジェスチュア は 2015 年度の京都外国語大学ジョゼー ロドリゲス教授 また天理大学の山田政信教授 そして村松の授業で採用された この教材には ヨーロッパのポルトガル語のダイアログが 30 課 ブラジルのポルトガル語によるダイアログが 30 課の 計 60 課が収められている 各ダイアログの動画はネットで配信され スタート画面から動画が公開されている 各課はテーマとなる主要なジェスチャーに焦点があてられており そのジェスチャーの用いられる典型的な言語的環境および それに並行して用いられる言語表現が ダイアログ形式で編成されている このダイアログのビデオを通じて 学習者は自然なコンテクストの中でジェスチャーの意味と言語表現の関係を理解することが出来る 各課の構成はダイアログの提示にはじまり ジェスチャーの説明 ダイアログの文法的説明 日本語訳が含まれる 関連する文法事項は 口語の文法 として別章にテーマ別に解説 またダイアログに文化的なバックグラウンドの説明が必要な場合は «Notas Culturais» に話題を分けて解説がなされている ダイアログのテキスト 文法 文化についての解説も PDF でライセンス期間内は全てネットより閲覧することが可能である こうした教材を使用し 授業は PC 教室または CALL 教室で実施され その構成はおおむね以下の要領で行われた 授業の流れ 1. ダイアログの紹介 : そのコンテクストを理解させることから授業を始める どのような場面であるのか 日常生活のワンシーンとしてイメージさせる この際に著名人の名や 音楽 日本ではなじみのない文化的なことがらがでてきた場合は その場で検索させたり 映像や画像を通して紹介する 2. ダイアログ訳とフレーズの復唱による確認 : ダイアログの訳を確認し 発音やイントネーション ジェスチャー 表情 声のトーンにいたるまで 意味を十分に反映したコミュニケーションができるよう 注意深くダイアログを発音させ 理解させる 3. 個人練習動画再生 読み上げ練習 : 各自パソコンで動画を再生し これを確認しつつ自らの発音と比較しながら練習する 教員は 学生の様子を見て回り必要であれば発音の指導などを行う 4. ペア練習 : ダイアログ登場人物に一致している文法性を変更するなど ペアごとに自由に言葉を付け加えることも可能 できるだけ自然なスピードで発話できる状態となったところでペア発表を行う 5. ペア発表 : 時にこれをビデオカメラで撮影し 自らの発音をチェックする 同じ授業内の記録だけでなく 天理大学または京都外国語大学それぞれの練習風景の様子も見せ 他の学習者の様
30 外 国 語 教 育 子を知る 6. ヒアリング練習 : ダイアログを再生し 書き取り練習または口頭で答えさせる 7. 文法事項 補足的な説明 : 学生からの質問の受け付け 各課で重要となる文法事項を解説する 8. 小テストおよびドリル練習 : 各課に用いられた動詞や語彙 文法事項などの練習を学習支援システムより行う 和泉 (2016) は 第二言語習得のプロセスについて 文脈の中で言葉を取り込んでいくインプットを出発点に 場面と意味が結びつくことで得られるような実感や 本人の気づきによって脳内にとりこまれるインテイク ( 取り込み ) を繰りかえす中で 再構築といわれる脳内整理が促され 蓄えられた知識を統合化し 自らの意思をつたえることのできるアウトプットを産出していくと説明している この際のインプットとは教師による文法説明ではなく 意味内容と文脈を備えた実際のコミュニケーションをさしており 文法説明はあくまでも知識の整理のために使われなくてはならないとしている ジェスチュアの授業においても 文法的な解説はあくまで副次的なものとしておさえられており 各ダイアログは 文法事項の積み重ねによって理解されるのではないという点が重要である 各課は 文法項目によってではなくジェスチャーとそれが用いられる場面によって構成され 意味や機能またコミュニケーション時の超分節的特徴に注目した授業の組み立てとなっている そして 学習者自身のインテイクの助けとなるよう 各課に登場するさまざまな文化的な要素は 必要であればできるだけ実物の映像や画像を通じて紹介する事で 教材のオーセンティシティーを高めるよう配慮される さらに動詞の活用や語彙などは 授業外で自習できるように学習支援システム等を利用する 以下にダイアログの実例 ( 彌永 ロドリゲス (2015)p.181-p.183) を引用する
ポルトガル語学習における CALL 教材の利用 31 ダイアログの一例 彌永 ロドリゲス 2015, p.181-183 5 学習者の評価 2015 年春学期に ポルトガル語のジェスチュア を受講した 天理大学一年生 8 名 京都外 国語大学三年生 38 名の計 46 名の学生を対象に 同年 9 月 教材に対するアンケートを実施した 以下 そう思う または どちらかといえばそう思う とした回答の多かった順に アンケー ト項目を示している アンケートの結果では 文字のみ または CD のダイアログに比べ映像がポルトガル語の理 解に役立った イントネーションの理解が深まった ポルトガル語への興味がわいた とい う質問事項について肯定的な回答が多くなった 映像をもとにしたコンテクストの教材をもっ て授業を進めることで 音と意味が結びつき そしてそれに伴うジェスチャーやイントネーショ ンが実感をもって学生に理解されたとみられる また 自由記述の感想としては ダイアロ グの内容が面白い 使用されているフレーズが普段の自分たちの会話と重なるところがあっ て親近感がある といった意見や ダイアログのスピードについては 始めは早くて聞き取 れないが 内容を理解して練習した上では聞き取れるようになった といった意見も出された 一方で 聴解力が向上した 発音が良くなったと思う という各自の技能の上達に関する質 問では 肯定的な意見が減少し どちらともいえない との回答が多くなるという結果となった この度のアンケートの結果は 春学期を受講した学生自身の見解を示すものであり 実際の 学習効果を客観的に知るためには長期にわたる詳細な調査が必要であるが 教室内での CALL
32 外 国 語 教 育 教材を用いた CLIL の授業の実践としては インプットの段階においては 概ね好意的な意見が 提示されたといえる しかしながら 学生自身の評価で 発音 イントネーションに関する理 解が深まったとした意見が多かった一方で 発音が良くなったと思う という質問については どちらともいえない とする消極的な意見が増えた これは インプットの次のプロセスとなる インテイクからアウトプットに至る過程について授業内外での強化が必要であることを示して ⅴ いる 今後は学内の LMS などの学習支援システムや Quizlet といったオンライン学習サイトを 使って 授業外で利用できる補足的な教材を作成し インテイクからアウトプットへの手助け となる個人学習の支援も重要であろう この際学生が長時間を費やすスマートフォンからのア クセスが可能な教材であれば 参加の度合いが高まることも見込まれるが 画面の小ささや音 質などの問題もありこうした点も考慮した教材でなければならない 続いて 動詞の活用や用法または文法的なことがらに対する理解や習得についても 肯定意 見の数では下位となった 既述のように この授業での文法説明は 文法それ自体を学ぶこと が目標ではなく あくまでも自由なアウトプットをめざした知識の整理のためになされるもの である 従来の授業形態より 学生の側もつい 文法そのものを丸暗記することを重要視して しまう傾向にあるが 文法へのこうした考えも変えていく必要があろう 以上 アンケート結 果からの教材の評価および考察を述べてきたが 今後は インプットに続くプロセスを支援す る LMS やスマートフォンを利用した教材の作成 およびその評価に関する調査の継続を課題と
ポルトガル語学習における CALL 教材の利用 33 していきたい 6. おわりに LL 教室が登場し始めた 1960 年代から CALL 教室が開設する 2000 年代まで 新しいメディアに伴う授業形態の変化は比較的ゆるやかなものであった しかし 2000 年以降の CALL 教室開室以来 数年の短い期間に様々なシステムの導入がなされ 学生のネット環境も スマートフォン中心へと急速に変化している 今後の語学教育においても パソコンやタブレット スマートフォンを使った学習がいっそう進むことは間違いない 大学入学以前にすでにこのような環境に慣れ親しんでいる学生が多数派になりつつある一方で LL 教室や文法訳読法 ドリル練習を通じ 遠い国の言葉としてポルトガル語を学んだ教員世代との間に 明らかなギャップが存在している しかしながら このようなシステム環境の変化に教員自身も順応し CALL 学習に適した教材開発の技術や知識が求められている また 瞬時に世界中のニュースや情報が飛び交い 教員の学生時代よりもブラジルもポルトガルもぐっと身近となった社会で暮らす学生に対しては authentic な教材を使用することも大変重要な要素である事も付け加えたい 現段階では 基本的に対面で行われる伝統的な授業形態の中で CALL 教材が単なる自習用のドリル練習に留まる事無く 授業の目的に合わせて どの教材を どのように またどの程度取り入れていくのか またスマートフォンをどう利用させるのか 対面授業と CALL 教材の特性 また学生の学習環境を十分に理解した上での新しい時代の授業デザインを考えていく必要がある 最後に 現在日本語で書かれたポルトガル語の CALL 教材として入手可能な物をここに紹介する 教材名解説アクセス方法または URL ポルトガル語のジェスチュア (2015) 彌永史郎 ジョゼー ロドリゲス著西東舎 基礎ポルトガル語動詞 (2009) ペドロ アイレス 彌永史郎 精選された基本的なジェスチュアを含む臨場感あふれるダイアログ映像 会話の文法 文化的な解説が収められた盛りだくさんな教材 ダイアログにはポルトガルコインブラ版 ブラジルサンパウロ版としてそれぞれ 30 課 ( 計 60 課 ) を含む 動画はネット経由で配信 テキストも PDF でも閲覧できる リスボン大学言語学研究所による基礎語彙表から抽出された上位 150 の基礎動詞について その意味と統語的な構造が詳細に解説されている PE PB の違いについても可能な限り記述され 例文音声も収録 ( 学内使用のみ ) DLmarket http://www.dlmarket. jp/products/detail/309955 西東舎 HP http://seitohsha.com 著者に問い合わせ
34 外国語教育 PORTUFONE Pronúncia: パソコンで学ぶポルトガル語の発音 (2014) 彌永史郎 村松英理子西東舎 二言語同時学習 : 接尾辞による語彙強化ドリル ( 英 仏 伊 葡 西 ) ポルトガル語の音の体系と発音についての詳細な解説書 約 1600 の PE と PB それぞれのネイティブによるサウンドが収録され 両国の発音の違いを知ることができ 実践的な発音練習もできる 紙テキスト (104 頁 ) 付属音声教材 京都外国語大学での二言語同時学習のために開発された語彙強化ドリル 英語とその他の 4 言語 ( フランス語 イタリア語 スペイン語 ポルトガル語 ) の形態的に類似する語基の接尾辞を体系的に学び 語彙力強化をはかる自習教材 各言語のドリルにつき約 900 語の模範発音があり 自動採点機能が搭載されている DLmarket http://www.dlmarket. jp/products/detail/309953 西東舎 HP http://seitohsha.com 以下の URL よりアクセス可能 http://cppq.org/4_linguas_sufixo/ index.html ポルトガル語文法用語小辞典 ポルトガル語関係の文法用語を解説したオンライン小辞典 日本語からポルトガル語 またその逆からも用語の検索が可能 参考文献 以下の URL よりアクセス可能 http://gelp.ciao.jp/glossario/ paginas/home.html 和泉伸一 (2009) フォーカスオンフォームを取り入れた新しい英語教育 大修館書店和泉伸一 (2016) フォーカスオンフォームと CLIL の英語授業 アルク彌永史郎 ジョゼー ロドリゲス (2015) ポルトガル語のジェスチュア 西東舎彌永史郎 村松英理子 (2015) パソコンで学ぶポルトガル語の発音 西東舎岩崎克己 (2010) 日本のドイツ語教育と CALL その多様性と可能性 三修社岡秀夫編 (2011) グローバル時代の英語教育 新しい英語科教育法 成美堂上智大学 CLT プロジェクト編 (2014) コミュニカティブな英語教育を考える アルク高橋正夫 (2001) 実践的コミュニケーションの指導 大修館書店竹内理 吉田弘子 魚崎典子 住政二郎 池田真生子 (2008) CALL 授業の展開その可能性を拡げるために 松柏社谷口文和 中川克志 福田裕大 (2015) 音響メディア史 ナカニシヤ出版寺田寅彦 (1947) 蓄音機 寺田寅彦随筆集第二巻 岩波文庫東京大学大学院人間 環境学研究科英語部会京都大学高等教育研究開発推進機構 (2006) 学術研究に資する英語教育京都大学における英語新カリキュラム 村上正行 寺嶋浩介 (2004) 高等教育における CALL 実践の特徴 教育メディア研究 Vol.10, No.2, 47-52 寺嶋浩介 村上正行 立岩礼子 羽根田知子 石川保茂 舟杉真一 小野隆啓 (2007) ティームティーチングによる二言語比較に基づいた第二言語教育の授業設計と評価 日本教育工学会論文誌 30(4), 419-427 吉見俊也 (1995) 声の資本主義電話 ラジオ 蓄音機の社会史 講談社渡部良典 池田真 和泉伸一 (2011) CLIL( 内容言語統一型学習 ): 上智大学外国語教育の新たなる挑戦第 1 巻原理と方法 上智大学出版渡部良典 池田真 和泉伸一 (2012) CLIL( 内容言語統一型学習 ): 上智大学外国語教育の新たなる挑戦第 2 巻実践と応用 上智大学出版 Aires, P., Iyanaga, S., & Muramatsu, E.(2008). Portufone: as novas tecnologias na didática do português língua estrangeira, G. Araújo, P. Aires.(Ed.), A Língua Portuguesa no Japão. São Paulo: Paulistana Editora. 77-88. Krashen, S. D., & Terrell T. D.(1988). The Natural Approach: Language Acquisition in the Classroom. New York: Prentice Hall. Wilkins, D.A.(1976). Notional syllabuses : a taxonomy and its relevance to foreign language curriculum
ポルトガル語学習における CALL 教材の利用 35 development. London: Oxford University Press. 総務省 平成 26 年度版情報通信白書 http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/h26.html ( アクセス日時 : 2015/9/1) 総務省 平成 27 年度版情報通信白書 http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/h27.html ( アクセス日時 : 2016/8/10) 京都大学国際高等教育院 全学共通科目履修の手引き http://www.z.k.kyoto-u.ac.jp/zenkyo/guidance ( アクセス日時 : 2015/3/18) 文部科学省 学習指導要領 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/youryou/main4_a2.htm ( アクセス日時 : 2015/7/20) 注 (ⅰ) 吉見俊也 (1995) (ⅱ) 寺田寅彦 (1947) (ⅲ) 天理大学では 2009 年より CALL 教室が導入された (ⅳ) これについては 2016 年に AJELB 全国大会で行われた共同発表で詳細な報告を行った 基礎語彙の習得と学習成果 と題して 基礎語彙音声付き単語カード ( 葡 英 / 英 葡 ) を初学者に用いた結果の分析 教材開発の目的 過程を示すとともに教材の学習効果を小テストの結果と定期試験達成度との相関性から論じた ( アイレス ペドロ 彌永史郎 上田寿美 塚田智恵 モイゼース カルヴァーリョ 村松共同発表 ) (ⅴ) 人口音声による読み上げ機能つきのフラッシュカードおよび問題作成のできるオンラインの学習サイト 自動採点ができ 画像も挿入できる 読み上げ音声は ポルトガル語の他日本語や英語など様々な言語に対応している https://quizlet.com