Vol.33 No.3,2014 125 センターニュース 分 析 機 器 解 説 シリーズ(125) 進 化 する 超 解 像 レーザー 顕 微 鏡 P1 ライカマイクロシステムズ 株 式 会 社 ライフサイエンス 事 業 本 部 田 中 晋 太 朗 トピックス イオン 液 体 の 電 子 顕 微 鏡 への 応 用 P6 株 式 会 社 日 立 ハイテクノロジーズ 中 澤 英 子 坂 上 万 里 塩 野 正 道 分 析 機 器 解 説 シリーズ(125) 進 化 する 超 解 像 レーザー 顕 微 鏡 ライカマイクロシステムズ 株 式 会 社 ライフサイエンス 事 業 本 部 田 中 晋 太 朗 1 はじめに 近 年 従 来 の 光 学 顕 微 鏡 における 回 折 限 界 を 超 え る 超 解 像 顕 微 鏡 の 開 発 が 進 み ライフサイエンス 研 究 分 野 での 超 解 像 イメージングの 応 用 範 囲 が 飛 躍 的 に 広 がりを 見 せている 光 学 顕 微 鏡 による 観 察 では 平 面 方 向 での 理 論 分 解 能 は200nmであることが 知 られ ているが 種 々の 超 解 像 技 術 を 用 いることにより 現 在 20nm~120nmの 高 分 解 能 での 観 察 が 可 能 であ る STED 顕 微 鏡 は 誘 導 放 出 抑 制 を 原 理 とし ホワイ トライトレーザーやゲート 検 出 を 始 めとした 先 端 光 学 技 術 を 搭 載 することにより 超 解 像 を 実 現 した 機 器 で あり 神 経 科 学 や 細 胞 生 物 学 分 野 などで 広 く 活 用 され ている 微 鏡 を 基 本 構 成 としており 試 料 上 を 励 起 レーザーが 走 査 することでイメージングを 行 う このとき ドー ナツ 状 に 形 成 されたSTEDレーザーを 走 査 スポット に 重 なるよう 同 時 に 照 射 すると STEDレーザーが 照 射 された 範 囲 に 存 在 する 蛍 光 分 子 は 誘 導 放 出 により 蛍 光 を 発 することなく 強 制 的 に 基 底 状 態 に 戻 る この ように ドーナツの 中 心 部 の 小 さなスポットからのみ 蛍 光 シグナルを 得 ることで より 高 分 解 能 の 超 解 像 共 焦 点 画 像 を 得 ることが 可 能 となる ( 図 1) 2 STED 顕 微 鏡 の 原 理 超 解 像 を 実 現 するためのSTED 顕 微 鏡 の 原 理 は 非 常 にシンプルである STED 顕 微 鏡 は 共 焦 点 レーザー 顕 図 1.STED 顕 微 鏡 の 光 学 系 図 2にSTED 顕 微 鏡 のフォーカルスポットにおける 蛍 光 と 誘 導 放 出 の 発 生 状 況 を 示 す 左 図 は 蛍 光 の 発 生 メカニズムを 示 した 図 である 基 底 状 態 (S 0 )に (1)
分 析 機 器 解 説 シリーズ(125) ある 蛍 光 分 子 は 励 起 光 (hν exc. )によって 励 起 され よ りエネルギー 順 位 の 高 い 励 起 状 態 (S 1 )へと 移 動 す る 蛍 光 分 子 は 一 定 時 間 励 起 状 態 に 留 まった 後 励 起 光 により 得 られたエネルギーを 放 出 して 元 の 基 底 状 態 へと 戻 る この 時 に 放 出 されるエネルギーが 蛍 光 (hν em. )であり この 蛍 光 を 検 出 することで 蛍 光 顕 微 鏡 によるイメージングが 可 能 となる 一 方 右 図 は 誘 導 放 出 のメカニズムを 示 している 励 起 状 態 にあ る 蛍 光 分 子 に 対 してあるエネルギーを 持 つ 波 長 の 光 (hν STED )を 照 射 すると 蛍 光 分 子 は 照 射 された 光 と 同 じ 波 長 かつ 同 じ 位 相 の 光 を 放 出 し 蛍 光 を 発 する ことなく 基 底 状 態 へと 戻 る STEDレーザーが 照 射 さ れるフォーカルスポットの 周 辺 部 では 誘 導 放 出 が 起 こ ることで 蛍 光 の 発 生 が 抑 制 される 誘 導 放 出 はレー ザーの 発 振 原 理 として 一 般 に 知 られており 入 射 光 を 誘 導 放 出 により 増 幅 することで 波 長 位 相 進 行 方 向 が 同 一 で 高 出 力 の 光 を 放 出 することが 可 能 となる (LASER = light amplification by stimulated emission of radiation, 誘 導 放 出 による 光 の 増 幅 ) 図 2.STED 顕 微 鏡 のフォーカルスポットにおける 蛍 光 と 誘 導 放 出 の 発 生 STED 顕 微 鏡 における 分 解 能 は Stefan Hellが 1994 年 に 発 表 した 論 文 中 で 改 編 したアッベの 方 程 式 から 近 似 的 に 求 めることが 可 能 である 下 記 の 式 にお いて n は 屈 折 率 α は 最 大 入 射 角 の1/2 λ はSTEDレーザーの 波 長 を 示 す I はSTED STED 顕 微 鏡 の 分 解 能 計 算 式 レーザー 光 の 出 力 I S は 蛍 光 試 薬 STEDの 波 長 および 検 出 ゲートに 関 係 する 固 有 のパラメータを 示 す この 式 から STEDにおける 解 像 度 は STED レーザーの 強 度 に 依 存 することが 分 かる( 図 3) STED 顕 微 鏡 のフォーカルスポットで 得 られる 蛍 光 分 子 は 図 4 右 上 にある 蛍 光 寿 命 分 布 を 示 しており この 蛍 光 寿 命 分 布 はスポット 周 辺 部 ( 青 )の 蛍 光 寿 命 が 中 心 部 ( 赤 )と 比 較 して 短 いことを 示 している ス ポット 周 辺 部 ではSTEDレーザーによる 誘 導 放 出 が 起 こり 蛍 光 分 子 が 励 起 状 態 から 基 底 状 態 に 戻 る 確 率 が 高 くなるため 中 心 部 と 比 較 して 蛍 光 寿 命 が 短 くなる と 推 測 される この 蛍 光 寿 命 の 差 を 利 用 して 励 起 し た 瞬 間 から 時 間 間 隔 を 設 けて 蛍 光 を 検 出 することによ り 周 辺 部 の 蛍 光 シグナルを 排 除 し 中 心 部 のより 小 さ な 蛍 光 スポットのみを 検 出 する つまり 分 解 能 をよ り 向 上 することが 可 能 となる( 図 5) 図 3.STEDレーザーの 強 度 と 分 解 能 の 関 係 模 式 図 検 出 のタイミングをコントロールするためには パルス 発 振 レーザーと ゲート 検 出 機 能 を 持 った 検 出 器 を 組 み 合 わせることが 必 要 となる STED 顕 微 鏡 では ホワイトライトレーザーと 超 高 感 度 検 出 器 Hybrid Detector(HyD, 図 6)を 導 入 することによ (2)
分 析 機 器 解 説 シリーズ(125) 図 4.フォーカルスポット 上 での 蛍 光 寿 命 分 布 とゲート 検 出 図 5.ゲート 検 出 のタイミングと 分 解 能 の 関 係 (DNA origami 70nm distance) り 励 起 パルスから 任 意 の 時 間 間 隔 を 設 けて 蛍 光 シグ ナルを 検 出 することを 可 能 としている 従 来 のSTED 顕 微 鏡 では80nm 程 度 の 平 面 分 解 能 を 得 ることができるが ゲート 検 出 を 用 いたGated STED 顕 微 鏡 では 50nm 以 下 の 平 面 分 解 能 を 実 現 し ている また ゲート 検 出 を 用 いることにより 従 来 のSTEDレーザー 光 の1/10の 出 力 で100nm 以 下 の 分 解 能 を 得 ることができるため 生 細 胞 への 光 障 害 を 抑 えた 超 解 像 ライブセルイメージング 実 験 が 可 能 とな る 図 6.Leica Microsystems 社 製 ホワイトライトレーザー( 左 ) と 超 高 感 度 検 出 器 HyD( 右 ) 3 次 世 代 STED 顕 微 鏡 STED 顕 微 鏡 の 最 新 機 種 であるSTED 3X 顕 微 鏡 ( 図 7)では 従 来 のXY 平 面 での 超 解 像 に 加 えて Z 図 7.Leica Microsystems 社 製 TCS SP8 STED 3X 装 置 外 観 軸 方 向 での 超 解 像 を 実 現 し 三 次 元 での 超 解 像 観 察 を 可 能 としている 図 8はSTED 3Xモジュール 内 部 光 学 系 の 模 式 図 である STEDレーザーは 光 路 上 で 分 岐 されて XY Vortex 位 相 フィルターおよびZ Donut 位 相 フィルターを 通 過 し XY 平 面 Z 軸 方 向 の 超 解 像 に 適 した 形 状 となる Smart STEDウィザード ( 図 9)に 搭 載 された 3つのスライダーを 操 作 する ことで 試 料 および 研 究 目 的 に 適 したフォーカルボ リューム(PSF)を 任 意 に 得 ることが 可 能 となり 従 来 のXY 方 向 での50nm 以 下 の 分 解 能 に 加 えて Z 方 向 で の130nm 以 下 の 分 解 能 を 実 現 している ( 図 10) (3)
分 析 機 器 解 説 シリーズ(125) 図 8.STED 3Xモジュール 内 部 光 学 系 図 9.Smart STEDウィザード 調 整 画 面 1 取 得 するPSFのサイズ 調 整 ( 左 ) 2PSFの 縦 軸 / 横 軸 比 の 調 整 ( 右 ) 3 画 像 s/n 比 (コントラスト)の 調 整 ( 下 部 ) スライダー 調 整 の 結 果 取 得 される 画 像 の 予 測 分 解 能 が 中 央 の PSF 模 式 図 に 反 映 される 図 10. 共 焦 点 STED 3Xでの 点 増 分 布 関 数 (PSF)の 模 式 図 ( 左 ) 共 焦 点 ( 中 央 左 )XY STED 100% ( 中 央 右 )3D STED 100% ( 右 )3D STED 60% 画 像 例 1.HeLa 細 胞 Histone H3 ( 左 ) 共 焦 点 ( 中 央 )XY STED ( 右 )3D STEDでのXY 平 面 およびZ 断 層 画 像 また STEDレーザーの 波 長 ラインを 追 加 すること により マルチカラー 超 解 像 イメージングを 容 易 にし ている 660nm 波 長 のSTEDレーザーを 搭 載 するこ とにより 従 来 の 緑 蛍 光 波 長 域 に 加 えて 赤 蛍 光 波 長 領 域 の 蛍 光 試 薬 を 用 いてのSTEDイメージングに 対 応 をしている( 図 11) 従 来 の592nm 波 長 のSTED (4)
分 析 機 器 解 説 シリーズ(125) レーザーとの 同 時 搭 載 も 可 能 で ナノスケールでの 共 局 在 試 験 や 様 々な 分 子 間 相 互 作 用 をより 詳 細 に 観 察 することが 可 能 である 今 後 新 たに775nm 波 長 の STEDレーザーの 追 加 も 予 定 されており 多 様 な 蛍 光 試 薬 を 組 み 合 わせることが 可 能 となるため STED 顕 微 鏡 による 超 解 像 イメージングの 応 用 範 囲 がさらに 拡 大 すると 推 測 される 図 11.STED 3Xで 対 応 が 可 能 となる 蛍 光 色 素 の 例 画 像 例 2. 共 焦 点 画 像 ( 左 )とSTED 3X( 右 )との 比 較 HeLa 細 胞 の3 重 染 色 :NUP153 (Alexa532, 緑 ) Clathrin (TMR, 赤 ) Actin (Alexa488, 白 ) 4 おわりに 本 稿 では 進 化 を 続 ける 超 解 像 レーザー 顕 微 鏡 につ いて 紹 介 をした 従 来 は 電 子 顕 微 鏡 を 用 いて 観 察 を していた 極 めて 微 細 な 細 胞 内 小 器 官 や 構 造 を 超 解 像 レーザー 顕 微 鏡 により 生 きた 細 胞 下 において 観 察 する ことが 可 能 となる また 蛍 光 相 関 分 光 法 (FCS) と 組 み 合 わせることで 回 折 限 界 を 超 えた 極 小 領 域 で の 一 分 子 の 動 態 解 析 が 可 能 となるなど 超 解 像 技 術 に よる 応 用 範 囲 はイメージングのみならず 多 様 なライ フサイエンス 研 究 分 野 にて 今 後 も 発 展 を 続 けていくこ とが 期 待 される 参 考 文 献 1. S. W. Hell & J. Wichmann, "Breaking the diffraction resolution limit by stimulated emission: stimulated-emission-depletion fluorescence microscopy "Optics letters 19, 780-782 (1994) 2. K. I.Willig, B. Harke, R. Medda & S. W. Hell "STED microscopy with continuous wave beams "Nature methods 4, 915-918, doi:10.1038/nm eth1108 (2007) 3. Vicidomini, G. et al. "Sharper low-power STED nanoscopy by time gating." Naturemethods 8, 571-573 (2011) (5)
トピックス イオン 液 体 の 電 子 顕 微 鏡 への 応 用 株 式 会 社 日 立 ハイテクノロジーズ 中 澤 英 子 坂 上 万 里 塩 野 正 道 1.はじめに イオン 液 体 は 塩 化 ナトリウムと 同 様 カチオン ( 陽 イオン)とアニオン( 陰 イオン)から 構 成 された 塩 の 一 種 ですが 通 常 の 塩 とは 異 なり 常 温 下 で 液 体 で ほとんど 蒸 発 しないこと イオン 導 電 性 が 高 いの で 電 気 をよく 通 すこと さらに 構 成 イオン 種 を 変 え ると 色 々な 性 質 を 持 ったイオン 液 体 が 合 成 できること など 通 常 の 液 体 とは 異 なったユニークな 物 質 とし て 多 くの 分 野 から 注 目 されています 電 子 顕 微 鏡 で のイオン 液 体 の 利 用 は 大 阪 大 学 工 学 部 桑 畑 教 授 らの チームがイオン 液 体 を 最 初 にSEM 観 察 したことに 始 まります 1-3) 更 なる 電 子 顕 微 鏡 の 応 用 拡 大 を 目 的 として 我 々は2006 年 から 桑 畑 研 と 共 同 研 究 を 進 め 生 物 組 織 や 高 分 子 材 料 などの 観 察 に 応 用 してきま した 4,5) 本 稿 ではイミダゾリウム 系 イオン 液 体 の 適 用 例 をはじめ 最 近 開 発 した 電 子 顕 微 鏡 用 イオン 液 体 HILEM IL1000( 以 下 IL1000)とその 応 用 例 を 紹 介 します 2.イオン 液 体 IL1000の 特 長 電 子 顕 微 鏡 ではイオン 導 電 性 が 高 いというイオン 液 体 の 性 質 に 着 目 して 絶 縁 材 料 などのSEM 観 察 で 生 じるチャージアップを 防 止 するための 導 電 性 付 与 剤 として 用 いられています イミダゾリウム 系 イオ ン 液 体 はフッ 素 を 含 んでいるため 取 扱 いには 注 意 が 必 要 ですが IL1000 (Ethyl(2-hydroxyethyl) dimethylammonium methanesulfonate)は 必 須 栄 養 素 の 一 種 であるコリンの 分 子 形 状 を 模 倣 して 合 成 されたものなので 安 全 性 が 高 く 水 によく 溶 解 す る 性 質 を 有 しています 表 1 及 び2にIL1000の 物 理 的 および 化 学 的 性 質 と 有 害 性 情 報 を 示 します 表 1 電 子 顕 微 鏡 用 イオン 液 体 IL1000の 物 理 的 及 び 化 学 的 性 質 外 観 臭 い 無 色 ~ 淡 黄 色 透 明 液 状 ほとんど 臭 気 はない ph 7.4(90% 水 溶 液 : 代 表 値 ) 沸 点 分 解 点 流 動 点 引 火 点 約 l00 で 含 有 する 水 が 沸 騰 する 250 (TG-DTA 分 解 開 始 温 度 ) 290 (TG-DTA5% 重 量 減 温 度 ) -70 未 満 (JISK2269) 測 定 されない ただし 水 分 が 蒸 散 した のちの 引 火 点 は210~250 (セタ 密 閉 式 )で 観 察 される 比 重 1.21(25 代 表 値 ) 溶 解 性 オクタノール/ 水 分 配 係 数 粘 度 水 に 良 く 溶 ける log P ow <-3.0 70~100 mpa s(25 ) 導 電 率 2.5 ms/cm( 代 表 値 ) 屈 折 率 1.46( 代 表 値 ) 急 性 毒 性 表 2 電 子 顕 微 鏡 用 イオン 液 体 IL1000の 有 害 性 情 報 皮 膚 刺 激 性 生 殖 細 胞 変 異 原 性 試 験 ラット 経 口 LD50:>2000 mg/kg ウサギ 皮 膚 刺 激 性 試 験 (4 時 間 の 半 閉 塞 適 用 72 時 間 後 判 定 )で 皮 膚 刺 激 性 は 見 られなかった ( 細 菌 を 用 いる 復 帰 突 然 変 異 試 験 ) 陰 性 3.イオン 液 体 を 用 いた 電 子 顕 微 鏡 用 試 料 前 処 理 と 応 用 例 最 初 に イオン 液 体 を 用 いたSEM 用 試 料 作 製 の 方 法 を 紹 介 します 生 物 組 織 は 感 染 などのトラブルを 排 除 するため 型 通 り グルタルアルデヒドなどで 前 固 定 した 後 シリコン 基 板 やアルミ 製 試 料 台 に 静 置 し ます 蒸 留 水 で5~10% 濃 度 に 希 釈 したIL1000を 試 料 に 滴 下 して しばらく 放 置 した 後 ろ 紙 などで 余 分 な 液 滴 を 除 去 します 図 1に 微 小 甲 殻 類 (ヨコエビ)のSEM 像 を 示 しま す 微 小 甲 殻 類 は 外 骨 格 で 覆 われているため 通 常 の 化 学 固 定 後 エタノール 系 列 脱 水 t-ブチルアル コール 凍 結 乾 燥 の 処 理 を 行 っても 変 形 を 防 ぐこと (6)
トピックス 図 1 微 小 甲 殻 類 (ヨコエビ)のSEM 像 (a) 凍 結 乾 燥 ( 観 察 倍 率 100 倍, 加 速 電 圧 1 kv), (b)イオン 液 体 処 理 ( 観 察 倍 率 47 倍, 加 速 電 圧 1.5 kv) 図 2 IL1000で 処 理 した 餅 カビのSEM 像 (a) 観 察 倍 率 650 倍,(b) 観 察 倍 率 2,000 倍 ( 加 速 電 圧 3 kv, 装 置 SU3500 図 3 イオン 液 体 BMIBF4のTEM 像 (a)マイクログリッド 保 持,(b)200k 倍,(c)Diff 像 は 難 しい 試 料 の 一 種 です( 図 1a) 一 方 固 定 後 5%IL1000で 処 理 した 試 料 では 変 形 やチャージ アップもほとんど 生 じることなく SEM 観 察 できて います( 図 1b) イオン 液 体 の 希 釈 溶 液 を 用 いるこ とにより 凹 凸 の 激 しい 試 料 でもイオン 液 体 が 浸 透 し て 試 料 表 面 を 覆 うことによって 真 空 中 での 水 分 蒸 発 による 変 形 が 抑 えられている と 考 えられます 図 2は10% IL1000で 処 理 した 餅 カビの SEM 像 です このように 凹 凸 の 激 しい 試 料 でも チャージ アップもなく 菌 糸 や 胞 子 な ど 微 細 構 造 が 鮮 明 に 観 察 され ています この 試 料 はカビの 生 えた 餅 の 部 分 を 切 出 して 一 晩 イオン 液 体 に 浸 したもの で 餅 が 希 釈 イオン 液 体 を 吸 い 込 み 水 分 が 蒸 発 し イオ ン 液 体 がカビ 内 に 残 ったこと によって 形 態 が 保 持 されて いると 考 えられます 次 に イオン 液 体 を 用 いた TEM 用 試 料 作 製 の 方 法 を 紹 介 します イオン 液 体 1-butyl- 3-methylimidazolium tetrafluoroborate (C 8 H 15 N 2 BF 4, FW:226.03) (BMIBF4)をTEMで 観 察 す ると 図 3に 示 すように アモルファスで また 粒 状 性 も 通 常 のカーボン 蒸 着 膜 と 大 差 ないことから イオ ン 液 体 を 支 持 材 として 用 いています 微 粒 子 をイオン 液 体 に 懸 濁 して その 液 滴 をマイクログリッドに 滴 下 して TEM 観 察 を 試 みています 図 4はイオン 液 体 中 に 分 散 した 酸 化 チタンのTEM 像 で 粒 径 の 異 なる 粒 子 が 比 較 的 均 一 に 分 散 している 様 子 が 観 察 できます IL1000は 水 によく 溶 解 するので リポソームの 分 散 媒 の 活 用 を 試 みています 図 5は 市 販 のリポソーム 粉 末 を5%IL1000で 溶 解 したものをマイクログリッ ドに 分 散 してTEM 観 察 した 結 果 です 直 径 100 nm から300 nmの 球 形 あるいは 楕 円 形 の 粒 子 が 観 察 さ れています( 図 5a) 粒 子 の 内 部 は 周 囲 より 高 コン トラストで 観 察 されていることから 粒 子 内 部 はイオ ン 液 体 で 満 たされていると 考 えられます また2%リ ンタングステン 酸 水 溶 液 でネガティブ 染 色 すると 膜 構 造 も 確 認 できました( 図 5b) このことは 低 分 子 の 材 料 の 分 散 にもIL1000は 適 用 可 能 であることを 示 唆 しています (7)
トピックス 図 4 イオン 液 体 BMIBF4に 分 散 した 酸 化 チタン 粒 子 のTEM 像 (a)20,000 倍, 加 速 電 圧 100 kv,(b)500,000 倍, 加 速 電 圧 300 kv 図 5 IL1000 溶 解 リポソームのTEM 像 (a)30,000 倍,(b)100,000 倍 (ネガティブ 染 色 ), 加 速 電 圧 :120 kv 4.おわりに イオン 液 体 は 構 成 イオン 種 を 変 えることによって 様 々な 性 質 を 生 み 出 すことができる 物 質 で 触 媒 や 電 気 化 学 など 工 業 分 野 での 適 用 が 進 んでいます 蒸 気 圧 が ほとんどゼロであるという 特 質 は 電 顕 内 でも 扱 い 易 く 反 応 過 程 のその 場 観 察 や 単 粒 子 解 析 などさらに 応 用 分 野 の 拡 大 を 図 っていきたいと 考 えています 5. 参 考 文 献 1) Kawai K. et al."langmuir" 27, 9671 (2011) 2) Arimoto S. et al."chem.phys.chem." 9, 763 (2008) 3) Kuwabata S. et al."chem. Lett." 35, 600 (2006) 4) 中 澤 英 子 他 ; 第 64 回 日 本 顕 微 鏡 学 会 予 稿 集, (2008),136 5) 塩 野 正 道 他 ; 第 68 回 日 本 顕 微 鏡 学 会 予 稿 集, (2012),208 九 州 大 学 中 央 分 析 センターニュース 九 州 大 学 中 央 分 析 センター( 筑 紫 地 区 ) 816-8580 福 岡 県 春 日 市 春 日 公 園 6 丁 目 1 番 地 TEL 092-583-7870/FAX 092-593-8421 第 125 号 平 成 26 年 9 月 25 日 発 行 九 州 大 学 中 央 分 析 センター 伊 都 分 室 ( 伊 都 地 区 ) 819-0395 福 岡 市 西 区 元 岡 744 番 地 TEL 092-802-2857/FAX 092-802-2858 ホームページアドレス http://www.bunseki.cstm.kyushu-u.ac.jp (8)