乾 式 吹 付 工 法 と 炭 素 繊 維 グリッドを 併 用 した 耐 震 補 強 工 法 発 表 者 : 早 田 和 紀 所 属 協 会 名 : 建 設 業 協 会 中 国 ブロック 協 議 会 発 表 会 社 名 : 株 式 会 社 加 藤 組 土 木 課 ( 728-0013 広 島 県 三 次 市 十 日 市 東 一 丁 目 8-13). 1.はじめに 半 永 久 構 造 物 として 考 えられてきた 鉄 筋 コンクリート 構 造 物 における 劣 化 特 に1980 年 以 前 に 建 設 された 構 造 物 の 中 には 必 ずしも 地 震 に 対 して 強 いとは 言 えない 構 造 物 が 少 なからず 存 在 し 私 たちの 生 活 に 供 されています このような 構 造 物 は 非 常 に 強 い 地 震 動 を 受 けると 倒 壊 等 含 めて 相 当 な 被 害 を 受 けることが 予 想 され 私 たちの 生 命 財 産 生 活 が 脅 かされること も 予 想 されます そこで このような 構 造 物 を 早 急 に 耐 震 補 強 することが 社 会 的 課 題 である 既 存 の 鉄 筋 コンクリート(RC) 構 造 物 のせん 断 補 強 法 としては 鋼 板 巻 立 て 工 法 コンクリー ト 巻 立 て 工 法 連 続 繊 維 シート 貼 付 工 法 などが 主 に 用 いられている しかし 鋼 板 巻 立 て 工 法 は 重 機 械 を 要 する コンクリート 巻 立 て 工 法 は 鉄 筋 の 組 立 や 型 枠 の 設 置 を 必 要 とする 連 続 繊 維 シート 貼 付 工 法 においては コンクリート 表 面 が 湿 潤 状 態 では 施 工 できないなどの 欠 点 を 有 している 道 路 橋 の 多 くが 水 環 境 に 立 地 していること さらに 海 岸 に 近 い 地 域 にも 多 く 存 在 することを 考 慮 すると 耐 久 性 の 良 いポリマーセメントモルタルの 乾 式 吹 付 け 工 法 を 使 用 した 補 強 工 法 が 効 果 的 と 思 われる また 河 川 内 橋 脚 のように 河 積 阻 害 率 が 問 題 となるような 場 合 では 耐 久 性 の 面 からも 補 強 による 断 面 増 し 厚 量 を 小 さくできる 利 点 さらに 施 工 性 が 良 好 であるため 工 期 を 大 幅 に 短 縮 することが 可 能 である そこで 軽 量 かつ 高 強 度 な 炭 素 繊 維 グリッドと 施 工 性 耐 久 性 の 良 いポリマーセメントモ ルタルの 乾 式 吹 付 け 工 法 を 用 いた コンクリート 構 造 物 の 新 たな 耐 震 補 強 工 法 として アキタ 建 設 ( 山 口 県 )と 福 山 大 学 工 学 部 及 び クリテック ジャパンと 共 同 開 発 した 耐 震 補 強 工 法 とし ての 有 効 性 の 評 価 を 行 ったその 施 工 性 能 及 び 品 質 性 能 について 各 種 の 性 能 試 験 結 果 を 踏 まえて 今 回 紹 介 する
2. 耐 震 補 強 工 法 の 特 長 (DSPCG 工 法 :NETIS 登 録 CG-070011) 炭 素 繊 維 グリッドと 乾 式 吹 付 モルタルを 併 用 した 耐 震 補 強 工 法 は 既 存 の 耐 震 補 強 工 法 と 比 較 して 以 下 のような 特 徴 を 有 しています 炭 素 繊 維 グリッド Sto 乾 式 吹 付 け 工 法 施 工 性 に 優 れ 迅 速 施 工 が 可 能 1 炭 素 繊 維 グリッドは 軽 量 (1~2Kg/m2)で 施 工 が 容 易 2 Sto 乾 式 吹 付 け 工 法 は 湿 式 吹 付 け 工 法 と 異 なり 機 材 が 小 規 模 であり 小 回 りが 利 き 施 工 性 が 良 好 3 乾 式 吹 付 け 工 法 は 吹 付 け 速 度 が 速 いため 締 固 め 効 果 が 大 きく 母 材 との 付 着 性 が 良 好 補 強 に 伴 う 断 面 の 増 加 が 少 ない 1 炭 素 繊 維 グリッド( 縦 筋 横 筋 が 同 一 平 面 内 ) 圧 縮 強 度 1,400N/mm2 2 Sto 乾 式 吹 付 けモルタルの 吹 付 け 厚 は 30~40mm 程 度 グリッド 表 面 +15mm 3 河 積 阻 害 等 の 制 約 および 橋 脚 基 礎 への 負 担 増 加 の 問 題 に 対 応 耐 久 性 が 良 好 1 炭 素 繊 維 グリッドは 鋼 材 と 異 なり 錆 びない したがって 耐 久 的 です 2 Sto 乾 式 吹 付 けモルタルは 耐 久 性 に 富 み 中 性 化 がほとんど 生 じません コストの 低 減 が 可 能 1 工 期 の 大 幅 な 短 縮 それに 伴 うコストの 低 減 が 可 能 です 2 補 強 後 の 維 持 管 理 費 も 削 減 でき ライフサイクルコストの 面 でも 極 めて 有 利 3. 耐 震 補 強 の 方 法 1ウォータージェットによる 2 炭 素 繊 維 グリッドの 3Sto 乾 式 吹 付 けモルタルの 吹 付 下 地 処 理 設 置
4. 耐 震 補 強 の 効 果 新 工 法 で 補 強 した 試 験 体 は 図 -1の 通 り 大 変 形 を 受 けても 等 価 減 衰 定 数 ( 耐 震 性 ) が 低 下 しません 図 -1 等 価 粘 性 減 衰 定 数 による 耐 震 補 強 効 果 の 評 価 ( 福 山 大 学 工 学 部 での 実 大 試 験 体 による 確 認 試 験 より) 実 大 試 験 体 による 補 強 効 果 確 認 試 験 の 結 果 左 (N1): 無 補 強 試 験 体 (3δy) 右 (G2): 新 工 法 による 補 強 試 験 体 (8δy) 図 -2 荷 重 ~ 変 位 関 係
5.ポリマーセメントモルタルの 充 填 状 況 実 大 試 験 体 による 確 認 実 験 終 了 後 試 験 体 を 切 断 しポリマーセメントモルタルのグリッド 背 面 への 充 填 状 況 を 確 認 した 写 真 -1は グリッドの 重 ね 継 手 部 分 におけるポリマーセメントモルタルの 充 填 状 況 を 示 したものであり 母 材 コンクリートとグリッド 間 及 びグリッドどうし 間 においても 空 隙 や 未 反 応 のモルタルが 視 認 できず 接 着 面 が 極 めて 良 好 であり 確 実 に 充 填 されているこ とがわかり この 例 からもSto 乾 式 吹 付 工 法 が 非 常 に 優 れた 工 法 であることが 判 る 柱 基 礎 部 から1,000mの 位 置 柱 基 礎 部 から1,200mm 付 近 写 真 -1 (ポリマーセメントモルタルのグリッド 背 面 への 充 填 状 況 ) 6. 品 質 性 能 Sto 乾 式 吹 付 工 法 によって 形 成 されたポリマーセメントモルタルの 品 質 性 能 に 関 する 特 徴 を 以 下 に 列 記 する 1 高 速 高 圧 吹 付 けにより グリッド 背 面 の 細 部 に 渡 り 充 填 できる ( 写 真 -1) 2 ポリマーセメントモルタルに 含 まれるポリマー 効 果 をより 一 層 高 め 強 い 付 着 力 により 接 着 仲 介 材 を 使 用 せずとも 母 体 に 強 固 に 付 着 させることが できる これにより 母 体 との 界 面 における 再 劣 化 や 付 着 不 良 による 界 面 破 断 をなくす 3 交 通 振 動 下 における 床 版 下 面 等 の 補 修 においてもその 優 れた 付 着 性 が 発 揮 さ れる 4 緻 密 に 形 成 された 断 面 には 空 隙 ができず 水 密 性 に 富 み 鉄 筋 腐 食 を 引 き 起 こ す 劣 化 因 子 の 進 入 を 阻 止 する 6-1 耐 久 性 能 の 向 上 Sto 乾 式 吹 付 け 工 法 による 高 速 高 圧 充 填 により 形 成 された 断 面 は 水 密 性 の 極 めて 高 いものに なるとともに 混 入 されているポリマーにより 形 成 されるポリマーフィルムの 効 果 と 相 乗 して 優 れた 耐 久 性 能 を 示 す このことは 現 在 社 会 問 題 となっているコンクリート 構 造 物 の 劣 化 の 原 因 となる 有 害 物 質 の コンクリート 構 造 物 への 進 入 を 阻 止 し 構 造 物 自 体 の 耐 久 性 を 高 める 要 因 となる 九 州 大 学 と の 共 同 研 究 において その 優 れた 耐 久 性 能 の 向 上 についても 証 明 されている
6-1-1 中 性 化 抵 抗 性 中 性 化 促 進 試 験 の 結 果 によれば 吹 付 けモルタルと 普 通 セメントモルタルを 比 較 した 場 合 図 -3より 概 ね 水 セメント 比 が40%の 普 通 モルタルと 同 程 度 の 中 性 化 抵 抗 性 を 有 すること が 判 る これは 通 常 の 場 合 に 補 修 に 用 いる 普 通 セメントモルタルの 水 セメント 比 が50~6 0%の 範 囲 にあり これらと 比 較 した 場 合 に 高 い 中 性 化 抵 抗 性 を 示 している 尚 普 通 セメントモルタルの 促 進 条 件 は 温 度 20 湿 度 60% CO² 濃 度 5%であり 吹 付 けモルタルの 促 進 条 件 が 温 度 40 湿 度 60% CO² 濃 度 7%と 異 なっているため 魚 本 高 田 が 提 案 している 中 性 深 さ 予 測 式 を 用 いて 換 算 した 値 で 比 較 している 図 -3 促 進 中 性 化 試 験 6-1-2 塩 分 浸 透 阻 止 性 能 塩 分 浸 透 阻 止 性 能 については 中 性 化 抵 抗 性 と 同 様 に 普 通 セメントモルタルと 比 較 した 場 合 は 図 -4より 水 セメント 比 40%の 普 通 モルタルよりもかなり 高 い 塩 分 浸 透 阻 止 性 能 を 有 す ることを 示 している 試 験 条 件 は20 NaCl 濃 度 10% 溶 液 に 浸 漬 している 図 -4 塩 分 浸 透 阻 止 性 能 試 験
7. 結 論 Sto 乾 式 吹 付 け 工 法 と 高 強 度 炭 素 繊 維 グリッドを 併 用 した 方 法 によって 補 強 されたRC 柱 試 験 体 を 用 いた 正 負 交 番 繰 返 し 載 荷 試 験 を 行 い 新 工 法 の 耐 震 補 強 方 法 として 有 効 性 の 確 認 を 検 討 し 以 下 の 結 論 を 得 た (1) せん 断 補 強 が 十 分 でない 既 存 のRC 柱 を 提 案 工 法 にて 補 強 した 試 験 体 は 大 変 形 の 正 負 交 番 載 荷 を 受 けても 履 歴 ループの 形 状 は 紡 錘 形 をしており 最 終 的 な 破 壊 形 式 も せん 断 破 壊 ではなく 柱 基 部 の 曲 げ 破 壊 であった (2) じん 性 率 および 等 価 粘 性 減 衰 定 数 からみる 限 り 提 案 工 法 によって 補 強 することにより 耐 震 性 が 大 きく 向 上 し 新 基 準 に 準 拠 して 耐 震 設 計 された 試 験 体 と 同 等 以 上 の 耐 震 性 能 を 付 与 できることが 確 認 された (3) 提 案 工 法 によって 曲 げ 耐 力 向 上 型 の 補 強 を 施 した 試 験 体 は 補 強 前 の 試 験 体 と 比 較 して 曲 げ 耐 力 およびじん 性 が 大 きく 向 上 した また 大 変 形 での 繰 返 し 載 荷 においても 等 価 粘 性 減 衰 定 数 の 値 は 低 下 することなく 非 常 に 優 れた 耐 震 性 を 示 した (4) 提 案 工 法 によって 補 強 された 既 存 RC 道 路 橋 橋 脚 の 耐 震 性 は 道 路 橋 示 方 書 V 耐 震 設 計 編 に 基 づいて 耐 震 設 計 を 行 えば 安 全 側 で 評 価 できる 8. 今 後 の 展 望 と 課 題 Sto 乾 式 吹 付 け 工 法 は 2002 年 4 月 に 導 入 と 同 時 に 国 内 各 地 で 実 績 をつくるとともに 併 行 して 各 種 の 性 能 試 験 NETISへの 登 録 東 京 都 建 設 局 の 新 材 料 新 工 法 選 定 JR 西 日 本 断 面 修 復 材 の 認 定 材 料 登 録 各 都 道 府 県 の 新 工 法 新 材 料 登 録 を 行 ってきた 今 後 は 特 に 現 在 問 題 となっている 橋 梁 構 造 物 の 耐 久 性 強 化 補 修 補 強 に 関 連 して Sto 乾 式 吹 付 け 工 法 と 軽 量 かつ 高 強 度 炭 素 繊 維 グリッドを 併 用 した 補 強 方 法 は その 付 着 性 施 工 性 耐 久 性 の 点 で 耐 震 補 強 方 法 としては 極 めて 効 果 的 である 工 法 と 考 えられる また 今 後 の 課 題 としては 以 下 のものが 挙 げられる 1 材 料 の 安 定 した 供 給 と 品 質 管 理 技 術 の 向 上 2 吹 付 けノズルマンの 定 期 的 な 教 育 と 育 成 3 定 期 的 な 機 械 の 点 検 と 修 理 維 持 管 理 技 術 の 向 上 4 機 械 設 備 のメンテナンス 技 術 者 の 養 成 9. 終 わりに このたび 中 国 地 方 建 設 技 術 開 発 交 流 会 に 於 いて 提 案 工 法 を 中 国 地 区 の 皆 様 に 紹 介 させて いただく 機 会 を 与 えて 頂 き 感 謝 いたします 今 後 公 共 事 業 が 減 少 していくなかでも 社 会 資 本 の 維 持 補 修 はむしろ 増 えていくものと 予 想 されます コンクリート 構 造 物 の 補 修 補 強 に 適 切 な ソリューションを 提 供 し 社 会 資 本 の 維 持 に 貢 献 することで 時 代 の 要 請 に 応 えていきたいと 考 え ております 参 考 文 献 乾 式 吹 付 けと 炭 素 繊 維 グリッドを 併 用 した 補 強 方 法 の 耐 震 補 強 効 果, 宮 内 克 之 清 水 健 蔵 :コンクリート 工 学 年 次 論 文 集 Vol.29, 3,2007 乾 式 吹 付 け 工 法 を 用 いたRC 橋 脚 の 曲 げ 耐 力 向 上 型 補 強, 宮 内 克 之 秋 田 政 人 下 枝 博 之 黒 石 吉 孝 :コンクリート 工 学 年 次 論 文 集 Vol.31, 2,2009 ポリマーセメントによる 乾 式 吹 付 工 法 の 塩 害 中 性 化 に 対 する 耐 久 性 の 検 討 と 日 本 での 施 工 実 績, 松 本 光 昭 窪 田 昌 行 鶴 田 浩 章 佐 川 康 貴 : 土 木 学 会 西 部 支 部 論 文 コンクリートの 中 性 化 速 度 に 及 ぼす 要 因, 魚 本 高 田 : 土 木 学 会 論 文 集 451/V-17 pp.119-128,1992.8