序 JICA は 1996 年 以 降 ベトナム 司 法 省 をカウンター パートとして 法 司 法 制 度 改 革 支 援 事 業 を 行 ってきたが ベトナム 民 法 2005 年 改 正 法 ( 以 下 現 行 法 )の 立 法 時 と 同 様 に 今 回 の 2015 年 民 法 改 正 に



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(Microsoft Word - 02 \215s\220\ \214o\214\261\216\322\203C\203x\203\223\203g\201i\226\257\226@\201j.doc)

異 議 申 立 人 が 主 張 する 異 議 申 立 ての 理 由 は 異 議 申 立 書 の 記 載 によると おおむね 次 のとおりである 1 処 分 庁 の 名 称 の 非 公 開 について 本 件 審 査 請 求 書 等 について 処 分 庁 を 非 公 開 とする 処 分 は 秋 田 県

った 場 合 など 監 事 の 任 務 懈 怠 の 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 減 算 する (8) 役 員 の 法 人 に 対 する 特 段 の 貢 献 が 認 められる 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 加 算 することができる

要 な 指 示 をさせることができる ( 検 査 ) 第 8 条 甲 は 乙 の 業 務 にかかる 契 約 履 行 状 況 について 作 業 完 了 後 10 日 以 内 に 検 査 を 行 うものとする ( 発 生 した 著 作 権 等 の 帰 属 ) 第 9 条 業 務 によって 甲 が 乙 に

23信託の会計処理に関する実務上の取扱い

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別 紙 第 号 高 知 県 立 学 校 授 業 料 等 徴 収 条 例 の 一 部 を 改 正 する 条 例 議 案 高 知 県 立 学 校 授 業 料 等 徴 収 条 例 の 一 部 を 改 正 する 条 例 を 次 のように 定 める 平 成 26 年 2 月 日 提 出 高 知 県 知 事 尾

定款  変更

ような 厚 生 年 金 基 金 関 係 の 法 改 正 がなされており (2)については 平 成 16 年 10 月 1 日 から (1) 及 び(3)については 平 成 17 年 4 月 1 日 から 施 行 されている (1) 免 除 保 険 料 率 の 凍 結 解 除 ( 母 体 企 業 (

中国会社法の改正が外商投資企業に与える影響(2)

続 に 基 づく 一 般 競 争 ( 指 名 競 争 ) 参 加 資 格 の 再 認 定 を 受 けていること ) c) 会 社 更 生 法 に 基 づき 更 生 手 続 開 始 の 申 立 てがなされている 者 又 は 民 事 再 生 法 に 基 づき 再 生 手 続 開 始 の 申 立 てがなさ

(4) 運 転 する 学 校 職 員 が 交 通 事 故 を 起 こし 若 しくは 交 通 法 規 に 違 反 したことにより 刑 法 ( 明 治 40 年 法 律 第 45 号 ) 若 しくは 道 路 交 通 法 に 基 づく 刑 罰 を 科 せられてから1 年 を 経 過 していない 場 合 同

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定款

入 札 参 加 者 は 入 札 の 執 行 完 了 に 至 るまではいつでも 入 札 を 辞 退 することができ これを 理 由 として 以 降 の 指 名 等 において 不 利 益 な 取 扱 いを 受 けることはない 12 入 札 保 証 金 免 除 13 契 約 保 証 金 免 除 14 入

1 総 合 設 計 一 定 規 模 以 上 の 敷 地 面 積 及 び 一 定 割 合 以 上 の 空 地 を 有 する 建 築 計 画 について 特 定 行 政 庁 の 許 可 により 容 積 率 斜 線 制 限 などの 制 限 を 緩 和 する 制 度 である 建 築 敷 地 の 共 同 化 や

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しかし 主 に 欧 州 の 一 部 の 回 答 者 は 受 託 責 任 について 資 源 配 分 の 意 思 決 定 の 有 用 性 とは 独 立 の 財 務 報 告 の 目 的 とすべきであると 回 答 した 本 ED に 対 する ASBJ のコメント レターにおける 意 見 経 営 者 の 受

リング 不 能 な 将 来 減 算 一 時 差 異 に 係 る 繰 延 税 金 資 産 について 回 収 可 能 性 がないも のとする 原 則 的 な 取 扱 いに 対 して スケジューリング 不 能 な 将 来 減 算 一 時 差 異 を 回 収 できることを 反 証 できる 場 合 に 原 則

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(1) 社 会 保 険 等 未 加 入 建 設 業 者 の 確 認 方 法 等 受 注 者 から 提 出 される 施 工 体 制 台 帳 及 び 添 付 書 類 により 確 認 を 行 います (2) 違 反 した 受 注 者 へのペナルティー 違 反 した 受 注 者 に 対 しては 下 記 のペ

弁護士報酬規定(抜粋)

は 固 定 流 動 及 び 繰 延 に 区 分 することとし 減 価 償 却 を 行 うべき 固 定 の 取 得 又 は 改 良 に 充 てるための 補 助 金 等 の 交 付 を 受 けた 場 合 にお いては その 交 付 を 受 けた 金 額 に 相 当 する 額 を 長 期 前 受 金 とし

<4D F736F F D20D8BDB8CFC8BCDED2DDC482A882E682D1BADDCCDFD7B2B1DDBD8B4B92F E646F63>

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第一部【証券情報】

ー ただお 課 長 を 表 示 するものとする ( 第 三 者 に 対 する 許 諾 ) 第 4 条 甲 は 第 三 者 に 対 して 本 契 約 において 乙 に 与 えた 許 諾 と 同 一 又 は 類 似 の 許 諾 を することができる この 場 合 において 乙 は 甲 に 対 して 当

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Taro-匿名組合 151009 栄

必 要 なものとして 政 令 で 定 める 原 材 料 等 の 種 類 及 びその 使 用 に 係 る 副 産 物 の 種 類 ごとに 政 令 で 定 める 業 種 をいう 8 この 法 律 において 特 定 再 利 用 業 種 とは 再 生 資 源 又 は 再 生 部 品 を 利 用 することが

スライド 1

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[2] 控 除 限 度 額 繰 越 欠 損 金 を 有 する 法 人 において 欠 損 金 発 生 事 業 年 度 の 翌 事 業 年 度 以 後 の 欠 損 金 の 繰 越 控 除 にあ たっては 平 成 27 年 度 税 制 改 正 により 次 ページ 以 降 で 解 説 する の 特 例 (

後 にまで 及 んでおり(このような 外 部 研 究 資 金 を 以 下 契 約 理 由 研 究 という ) かつ その 者 が 退 職 後 も 引 き 続 き 研 究 代 表 者 となることを 研 究 所 が 認 める 場 合 とし 理 事 室 の 命 を 受 けて 発 議 書 ( 別 に 定 め

1. 前 払 式 支 払 手 段 サーバ 型 の 前 払 式 支 払 手 段 に 関 する 利 用 者 保 護 等 発 行 者 があらかじめ 利 用 者 から 資 金 を 受 け 取 り 財 サービスを 受 ける 際 の 支 払 手 段 として 前 払 式 支 払 手 段 が 発 行 される 場 合

第 5 条 ( 有 効 期 間 ) 1. 本 サービスの 有 効 期 間 は 当 社 が 指 定 した 日 をもって 開 始 とし 当 該 サービス 対 象 物 件 に 入 居 する 契 約 が 終 了 した 日 をもって 終 了 とします 2. 既 に 入 居 している 住 戸 が 新 たにサービ

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公 共 公 益 的 施 設 用 地 の 負 担 がほとんど 生 じないと 認 められる 土 地 ( 例 ) 道 路 に 面 しており 間 口 が 広 く 奥 行 がそれほどではない 土 地 ( 道 路 が 二 方 三 方 四 方 にある 場 合 も 同 様 ) ⑶ マンション 適 地 の 判 定 評

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損 益 計 算 書 自. 平 成 26 年 4 月 1 日 至. 平 成 27 年 3 月 31 日 科 目 内 訳 金 額 千 円 千 円 営 業 収 益 6,167,402 委 託 者 報 酬 4,328,295 運 用 受 託 報 酬 1,839,106 営 業 費 用 3,911,389 一

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内 において 管 理 されている 上 場 株 式 等 のうち 非 課 税 管 理 勘 定 に 係 るもの( 新 規 投 資 額 で 毎 年 80 万 円 を 上 限 とします )に 係 る 配 当 等 で 未 成 年 者 口 座 に 非 課 税 管 理 勘 定 を 設 けた 日 から 同 日 の 属

(2) 非 破 綻 清 算 参 加 者 の 特 別 清 算 料 による 負 担 に 係 る 上 限 設 定 期 間 の 導 入 特 別 清 算 料 による 補 填 は 上 限 設 定 期 間 に 発 生 した 破 綻 について 最 初 の 破 綻 発 生 時 における 各 非 破 綻 清 算 参 加

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一 般 社 団 法 人 全 国 銀 行 協 会 御 中 依 頼 人 氏 名 平 成 年 月 日 印 登 録 支 援 専 門 家 委 嘱 ( 初 回 委 嘱 )の 依 頼 について(GL5 項 (2)) 私 は 自 然 災 害 による 被 災 者 の 債 務 整 理 に 関 するガイドライン 第 5

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4 松 山 市 暴 力 団 排 除 条 の 一 部 風 俗 営 業 等 の 規 制 及 び 業 務 の 適 正 化 等 に 関 する 法 律 等 の 改 正 に 伴 い, 公 共 工 事 から 排 除 する 対 象 者 の 拡 大 等 を 図 るものです 第 30 号 H H28.1

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Transcription:

2015.9.1 2015 年 ベトナム 民 法 改 正 ドラフトに 対 する JICA 民 法 共 同 研 究 会 見 解 (エグゼクティブ サマリー) JICA 法 司 法 制 度 改 革 支 援 プロジェクト(フェーズ 2) 民 法 共 同 研 究 会

序 JICA は 1996 年 以 降 ベトナム 司 法 省 をカウンター パートとして 法 司 法 制 度 改 革 支 援 事 業 を 行 ってきたが ベトナム 民 法 2005 年 改 正 法 ( 以 下 現 行 法 )の 立 法 時 と 同 様 に 今 回 の 2015 年 民 法 改 正 にあたっても ベトナム 司 法 省 を 中 心 とする 民 法 改 正 案 起 草 チーム に 協 力 して 改 正 作 業 を 支 援 してきた 司 法 省 起 草 チームは JICA の 支 援 によって 得 た 日 本 を 含 む 他 の 諸 国 の 民 法 典 民 法 学 の 知 見 に 依 拠 しつつ 独 自 の 判 断 に 基 づいて 民 法 改 正 案 を 立 案 している このほど 2015 年 民 法 改 正 案 が 国 会 に 上 程 された 機 会 に JICA プロジェクト 民 法 共 同 研 究 会 は 2015 年 民 法 改 正 を 支 援 してきた 立 場 から 2014 年 10 月 国 会 に 提 出 された 民 法 改 正 ドラフト( 以 下 ドラフト)と 現 行 法 との 比 較 を 中 心 として 今 回 のベトナム 民 法 改 正 に 対 する 見 解 を 述 べることとした ベトナムは ドイ モイ 政 策 に 基 づいて 1995 年 に 最 初 の 民 法 を 制 定 したが 当 時 のベト ナムの 政 治 経 済 情 勢 から 止 むを 得 なかったとは 言 え 1995 年 民 法 は 市 場 経 済 を 規 律 する 基 本 法 としては 十 分 なものではなかった 2005 年 民 法 改 正 は 市 場 経 済 法 の 観 点 から 見 ると 所 有 権 概 念 や 取 引 安 全 の 保 護 の 点 でなお 課 題 を 残 していた これに 対 して 急 速 に 市 場 経 済 化 していくベトナム 社 会 に 対 応 して 今 回 の 民 法 改 正 は 取 引 主 体 としての 法 主 体 取 引 の 対 象 としての 所 有 権 等 の 財 産 権 の 概 念 円 滑 な 商 品 交 換 を 支 える 取 引 安 全 の 保 護 など の 点 で 大 きな 進 歩 を 示 している ベトナムの 統 治 機 構 や 経 済 社 会 の 発 展 状 況 を 考 慮 する ことなく 他 の 諸 国 の 民 法 を 基 準 にして 単 純 に ドラフトについて 評 価 を 下 すことは 避 け るべきであるが われわれが 見 解 において 指 摘 したいと 願 っているのは このドラフ トによって 市 場 経 済 法 の 法 原 則 の 採 用 がどこまで 進 み なおどのような 課 題 が 残 されてい るのかを 示 すことである この 見 解 が 2015 年 民 法 改 正 の 意 義 について 立 法 関 係 者 をなど 多 くの 人 々の 理 解 を 進 めるために いささかでも 役 に 立 てば 望 外 の 喜 びである なお 本 文 書 は 2015 年 ベ トナム 民 法 改 正 ドラフトに 対 する JICA 民 法 共 同 研 究 会 見 解 の 要 旨 である 第 一 主 要 な 改 革 点 民 法 という 法 律 は 市 場 経 済 社 会 において 私 人 間 の 法 律 関 係 を 規 律 する 私 法 の 一 般 法 で ある 民 法 は 私 法 である 点 で 国 家 機 関 の 関 係 や 国 家 と 私 人 との 関 係 を 規 律 する 憲 法 や 各 種 の 行 政 法 などの 公 法 と 区 別 される また 民 法 は 商 法 有 価 証 券 法 などの 特 別 法 が 特 別 の 法 分 野 について 規 定 していない 限 り 私 法 関 係 に 一 般 法 として 適 用 される 現 行 民 法 には まだ 中 央 集 権 的 計 画 経 済 の 国 家 体 制 の 影 響 が 残 っており 私 法 である 民 法 の 規 定 のなかに 公 法 的 規 定 が 混 在 している 所 有 権 などの 権 利 や 取 引 主 体 についても 国 家 について 私 人 と 別 個 の 位 置 付 けをしている 取 引 の 動 的 安 全 ( 善 意 の 第 三 者 の 保 護 ) への 配 慮 も 足 りない これに 対 して ドラフトは かなり 市 場 経 済 法 の 法 原 理 を 取 り 入 れ ており 他 の 諸 国 の 民 法 に 近 づいている しかしなお 検 討 すべき 点 は 残 っている 以 下

ドラフトが 提 案 する 主 要 な 具 体 的 な 改 正 を 挙 げる 1. 法 主 体 の 明 確 化 (1) 私 法 における 法 主 体 は 民 事 取 引 の 主 体 であり 所 有 権 などの 権 利 の 主 体 である 取 引 の 相 手 方 にとって 誰 と 取 引 するのか 明 確 であり 権 利 が 誰 に 帰 属 しているのか 明 確 で なければならない そこで 諸 国 の 民 法 では 個 人 と 法 人 に 法 主 体 性 を 認 めている 現 行 法 は 個 人 と 法 人 のほか ベトナムで 社 会 的 単 位 として 事 実 上 活 動 している 世 帯 組 合 に ついて 第 106 条 以 下 で 法 主 体 性 を 認 めている しかし 世 帯 組 合 は 構 成 員 やその 財 産 関 係 など 外 部 から 明 確 でない ドラフトは 世 帯 組 合 を 法 主 体 として 規 定 せず 第 117 条 において 世 帯 組 合 は 代 理 人 あるいは 自 らの 構 成 員 を 通 じて 民 事 関 係 に 参 加 する と 規 定 する ドラフトが 他 の 諸 国 の 民 法 と 同 じく 法 主 体 について 自 然 人 である 個 人 と 法 人 格 を 有 する 法 人 とに 限 って 認 めたことは 取 引 のさいに 要 求 される 取 引 主 体 の 明 確 性 から 評 価 できる (2)しかしながら ベトナム 社 会 に 現 実 に 世 帯 や 組 合 という 社 会 的 活 動 単 位 が 存 在 して いるのであるから 世 帯 組 合 に 法 主 体 性 を 認 めない 場 合 には これらの 社 会 的 単 位 の 法 的 位 置 づけをしておく 必 要 がある 今 後 の 検 討 課 題 である ドラフト 第 234 条 が 規 定 する 家 庭 については 世 帯 との 相 違 が 明 らかに 規 定 されていない なお 法 人 については 現 行 法 およびドラフトの 法 人 の 組 織 運 営 などに 関 してより 詳 細 な 規 定 を 設 けることを 検 討 すべきである 外 国 法 人 に 関 する 規 定 財 団 法 人 に 関 する 規 定 も 検 討 すべきであろう 2. 複 雑 な 所 有 形 態 の 整 理 (1) 現 行 民 法 第 172 条 は 私 人 所 有 共 有 の 外 国 家 所 有 集 団 所 有 政 治 組 織 と 政 治 社 会 組 織 に 属 する 所 有 社 会 組 織 と 社 会 職 業 組 織 に 属 する 所 有 など 様 々な 所 有 形 態 を 認 めている これに 対 して ドラフト 第 206 条 案 2は 全 人 民 所 有 単 独 所 有 共 有 とい う 所 有 形 態 のみを 認 める 商 品 交 換 法 としての 民 法 にあっては 所 有 権 の 内 容 は ある 物 を 自 由 に 使 用 収 益 処 分 できる 権 利 であって 権 利 者 は 他 人 を 介 することなく 物 について 権 利 内 容 を 直 接 実 現 することができ また 誰 に 対 しても 主 張 できる 権 利 だ とされている(これに 対 して 債 権 は 債 務 者 に 対 して 一 定 の 給 付 を 請 求 できる 権 利 とされ 債 務 者 には 主 張 できるが 第 三 者 に 対 しては 主 張 できない 権 利 だ とされている) 所 有 権 がそういう 権 利 だとすれば 所 有 権 者 が 私 人 であろうと 国 家 あるいは 政 治 組 織 であろうと 物 に 対 する 絶 対 的 排 他 的 支 配 権 に 変 わりはないはないから 現 行 民 法 のような 多 様 な 所 有 形 態 を 規 定 すること は 市 場 経 済 法 = 商 品 取 引 法 としては 意 味 がない 市 場 経 済 に 取 引 主 体 として 現 れる 限 り で 私 人 も 国 家 あるいは 政 治 組 織 も 民 法 上 は 同 じく 所 有 物 に 対 する 絶 対 排 他 的 な 支 配 権 者 として 扱 われるからである これに 対 して ドラフト 第 206 条 案 2は 共 有 という 所 有 形 態 を 規 定 する 共 有 の 場

合 には 複 数 の 所 有 権 者 ( 共 有 権 者 )が それぞれの 意 思 に 基 づいて 共 有 物 を 勝 手 に 使 用 収 益 処 分 するわけにはいかないから 共 有 物 についてその 権 利 内 容 ( 使 用 収 益 処 分 ) を 実 現 するために 特 別 のルールを 定 める 必 要 がある そこで 単 独 所 有 とは 別 に 共 有 とい う 所 有 形 態 を 認 め 共 有 物 に 関 して 特 別 の 規 定 を 置 くのである (2) 他 方 で ドラフト 第 206 条 案 2は 全 人 民 所 有 という 所 有 形 態 を 認 める 全 人 民 所 有 の 対 象 は 空 域 や 海 域 など もともと 私 的 所 有 の 対 象 とならない 物 か あるいは 国 家 が 管 理 する 公 共 道 路 などの 公 共 財 産 のようである そうだとすれば これらの 物 は 市 場 取 引 の 対 象 とならない 物 として 民 法 の 適 用 外 とするか あるいは 取 引 の 可 能 性 がある 物 であれ ば 国 家 の 単 独 所 有 物 として 取 り 扱 えばよいのであって わざわざ 全 人 民 所 有 という 特 別 の 概 念 を 私 法 である 民 法 に 規 定 する 必 要 はないのではないだろうか 全 人 民 所 有 の 対 象 物 について 誰 が 現 実 に 使 用 収 益 できるのか 誰 が 処 分 を 決 定 できるのか 曖 昧 である 全 人 民 所 有 という 所 有 形 態 は 憲 法 などにおける 政 治 的 概 念 としてはともかく 市 場 取 引 法 としての 民 法 においては 意 味 を 持 たない 法 概 念 であると 思 われる 3. 取 引 安 全 の 保 護 取 引 における 善 意 の 第 三 者 保 護 (1)ドラフト 第 158 条 第 1 項 a)は 無 権 代 理 行 為 の 相 手 方 ( 第 三 者 )が 実 際 には 無 権 代 理 人 であった 者 が 代 理 権 を 有 していたと 信 頼 する 根 拠 があり かつ 信 頼 したことに 過 失 が ないときには 本 人 と 相 手 方 との 間 に( 有 権 代 理 と 同 じく) 権 利 義 務 が 発 生 する と 規 定 する 現 行 民 法 にはない 取 引 における 善 意 の 第 三 者 保 護 規 定 である さらに ドラフト 第 145 条 は 無 効 な 民 事 取 引 の 対 象 となった 財 産 を 第 三 者 が 譲 受 けた 場 合 に その 財 産 が 所 有 権 登 録 を 必 要 としないものであるときは 第 三 者 が 善 意 無 過 失 で あることを 要 件 として( 第 1 項 ) その 財 産 が 所 有 権 登 録 を 必 要 とするものであるときは 取 引 が 国 家 機 関 に 登 録 され かつ 当 該 財 産 が 不 法 に 所 有 者 の 意 思 によらずに 処 分 されたこ とを 第 三 者 が 知 りえなかったことを 要 件 として( 第 2 項 ) 第 三 者 が 財 産 を 取 得 すると 規 定 し ている 無 効 な 取 引 などによって 権 利 を 取 得 していない 者 から 財 産 を 譲 り 受 けた 善 意 の 第 三 者 保 護 については 現 行 民 法 第 138 条 は 登 記 を 要 しない 動 産 について 善 意 取 得 を 規 定 する が 不 動 産 については 規 定 はない 現 行 民 法 は 真 実 の 権 利 者 を 尊 重 するという 静 的 安 全 を 優 先 しているが 市 場 経 済 法 としての 他 の 諸 国 の 民 法 は 円 滑 な 市 場 取 引 を 確 保 するために 善 意 無 過 失 の 取 引 の 相 手 方 ( 第 三 者 )の 信 頼 を 保 護 するという 動 的 安 全 を 優 先 している 今 回 のドラフトの 善 意 の 第 三 者 保 護 制 度 の 導 入 は 市 場 経 済 法 のあり 方 として 高 く 評 価 される (2)ドラフト 第 158 条 第 1 項 a)は 無 権 代 理 行 為 における 相 手 方 ( 第 三 者 ) 保 護 の 要 件 を 定 めるが 他 方 で ドラフト 第 157 条 は 代 理 権 ゆ 越 のほか およそ 代 理 権 授 与 がなか った 場 合 を 広 く 無 権 代 理 としている そこで 本 人 の 全 く 与 り 知 らないところで 代 理 権 の ない 者 ( 無 権 代 理 人 )が 代 理 権 を 持 っているように 振 舞 い 相 手 方 が 代 理 権 があるものと 信 頼 して 取 引 をした 場 合 には 本 人 は 何 ら 関 わりがなかったにもかかわらず ドラフト 第 158 条 第 1 項 a)により 権 利 義 務 を 負 わされることになるのである 動 的 安 全 を 優 先 する

こと( 第 三 者 保 護 )は 他 面 で 静 的 安 全 を 害 すること( 本 人 の 権 利 の 侵 害 )である ドラフト が 第 三 者 保 護 を 図 っている 要 件 について 例 えば 日 本 民 法 の 無 権 代 理 の 規 定 と 比 べて さ らに 検 討 を 要 するように 思 われる また ドラフト 第 158 条 第 1 項 b)は 第 三 者 が 本 人 に 対 して 無 権 代 理 行 為 を 承 諾 するか 否 かの 回 答 を 求 め 本 人 が 合 理 的 期 間 に 回 答 しないとき は 民 事 取 引 が 成 立 すると 規 定 する この 規 定 も 第 157 条 の 無 権 代 理 の 定 義 が 広 いことを 考 慮 すると 本 人 が 回 答 しない 場 合 には 承 諾 を 拒 否 したものとみなすことも 一 つの 選 択 と して 検 討 すべきであろう 無 権 利 者 から 財 産 を 譲 り 受 けた 善 意 の 第 三 者 に 関 するドラフト 第 184 条 についても ど のように 動 的 安 全 の 保 護 の 要 件 を 構 成 するかを 慎 重 に 検 討 することが 必 要 である 今 回 ド ラフト 第 145 条 第 2 項 が 登 記 を 要 する 動 産 不 動 産 について 善 意 者 保 護 を 新 たに 導 入 した ことは 高 く 評 価 されるが その 前 提 となるのは これらの 財 産 についての 登 記 制 度 が 整 備 されていることである 信 頼 できる 登 記 制 度 が 整 備 されていないところに 善 意 者 保 護 が 持 ち 込 まれるならば 真 の 権 利 者 が 害 され 静 的 安 全 が 損 なわれるだけではなく 登 記 制 度 そ のものに 対 する 信 頼 が 失 われることによって 動 的 安 全 つまり 取 引 における 信 頼 関 係 が 損 なわれてしまうことになる ベトナム 経 済 の 発 展 にとって 不 可 欠 な 金 融 投 資 を 受 けるに あたっても 抵 当 権 などの 物 的 担 保 権 公 示 のための 登 記 制 度 の 整 備 は 緊 急 の 課 題 である 4. 時 効 を 実 体 法 上 の 権 利 得 喪 原 因 に 位 置 づけ 権 利 享 受 時 効 と 義 務 免 除 時 効 の2 種 とした 現 行 法 第 155 条 は 権 利 享 受 時 効 義 務 免 除 時 効 提 訴 時 効 非 訟 事 件 処 理 請 求 時 効 の 4 種 類 の 時 効 を 認 めているのに 対 して ドラフト 第 164 条 第 2 項 は 訴 訟 手 続 きの 期 間 制 限 としての 提 訴 時 効 と 非 訟 事 件 処 理 請 求 時 効 とを 廃 止 し 実 体 法 上 の 権 利 の 得 喪 原 因 とし ての 権 利 享 受 時 効 と 義 務 免 除 時 効 と 2 種 類 の 時 効 を 認 めている 時 効 という 制 度 は 時 間 の 経 過 によって 物 の 占 有 者 が 占 有 物 の 所 有 権 を 取 得 したり(その 結 果 真 の 所 有 者 が 所 有 権 を 失 う) 債 権 などの 請 求 権 の 請 求 ができなくなる 制 度 だが 時 効 という 制 度 の 存 在 理 由 は 何 か 時 効 はどのように 法 的 に 位 置 づけられるのか 古 くから 議 論 されている 時 効 を 訴 訟 手 続 制 度 ととらえる 法 系 と 一 定 の 時 間 経 過 が 権 利 の 取 得 や 消 滅 現 となるとして 時 効 を 実 体 法 制 度 ととらえる 法 系 があるが 実 体 法 と 訴 訟 手 続 法 とを 明 確 に 分 離 している 近 代 民 法 では 時 効 を 実 体 法 制 度 として 構 成 する 例 が 多 い ドラフト 第 164 条 第 2 項 は グロー バル スタンダードに 近 い 考 え 方 をとっていると 言 えるであろう 第 二 さらに 検 討 すべき 課 題 1. 民 法 典 編 別 における 物 権 編 と 債 権 編 ドラフトは 民 法 典 の 編 別 について 案 2として 第 2 編 物 権 第 3 編 債 権 という 題 をつけ( 案 1 は 所 有 権 及 びその 他 の 各 物 権 義 務 及 び 契 約 ) 物 権 編 のもとに 所 有 権 のほか その 他 の 物 権 として 地 役 権 享 用 権 地 上 権 先 取 特 権 を 規 定 する 現 行 法 第 2 編 は 財 産 及 び 所 有 権 と 題 され ドラフトが 規 定 するその 他 の 物 権 について 規 定 してい ない 物 権 は 先 に 述 べたように 物 に 対 する 権 利 と 構 成 され 排 他 的 絶 対 的 な 権 利 とさ

れているので 公 示 ( 登 記 引 渡 )が 必 要 である 債 務 者 に 対 する 相 対 的 ( 対 人 的 )な 給 付 請 求 権 と 構 成 される 債 権 と 区 別 されている 物 権 と 債 権 とでは 権 利 の 性 質 が 異 なるので それぞれ 別 の 編 別 のもとに 規 定 するほうが 体 系 的 に 見 て 分 かりやすい 編 の 題 もドラフト の 案 2のほうが 分 かりやすいのではないかと 思 われる 日 本 民 法 ドイツ 民 法 など 民 法 典 の 編 別 でパンデクテン 方 式 といわれる 方 法 をとる 民 法 典 の 物 権 編 には ドラフトが 規 定 する 物 権 のほか 留 置 権 のほか 抵 当 権 などの 債 権 担 保 権 も 規 定 されている これらの 債 権 担 保 権 が 第 三 者 に 対 して 主 張 でき 優 先 弁 済 権 を 付 与 されているからである ところが ドラフトは 先 取 特 権 は 物 権 編 のもとに 規 定 している が 留 置 権 抵 当 権 などは 現 行 法 にしたがって 債 権 編 のもとに 規 定 している 債 権 担 保 に 関 わる 権 利 だということで 債 権 担 保 権 を 債 権 編 に 規 定 するとすれば 先 取 特 権 も 債 権 編 に 規 定 しなければ 体 系 的 に 説 明 がつきにくい 2. 過 失 責 任 原 則 の 明 確 化 と 無 過 失 責 任 の 慎 重 な 導 入 近 代 民 法 の 基 本 原 則 の 一 つに 過 失 責 任 の 原 則 がある 注 意 義 務 を 果 たして 行 動 している 限 り 他 人 に 損 害 を 与 えることがあるとしても 法 律 上 の 責 任 を 問 われないとすることによ って 個 人 の 活 動 の 自 由 を 保 障 し 市 民 の 創 意 工 夫 に 満 ちた 自 由 な 活 動 によって 活 性 化 し た 社 会 を 発 展 させようというものである ドラフト 第 374 条 以 下 は 契 約 不 履 行 責 任 を 規 定 するにあたって 故 意 過 失 の( 免 責 の) 立 証 責 任 を 義 務 違 反 者 ( 債 務 者 )に 課 し 第 376 条 第 386 条 は 故 意 過 失 の 免 責 立 証 責 任 を 不 法 行 為 の 加 害 者 にも 課 している ドラフトは 一 応 過 失 責 任 をとっていると 言 える が 義 務 概 念 不 可 抗 力 概 念 などが 曖 昧 であるほか 無 過 失 であることの 立 証 責 任 を 行 為 者 ( 債 務 者 加 害 者 )に 課 している 点 で 他 の 諸 国 の 民 法 に 比 べて 過 失 責 任 原 則 が 明 確 でな い 義 務 概 念 などを 明 確 にするとともに 立 証 責 任 転 換 の 理 論 的 根 拠 などについても 検 討 することが 望 まれる しかしながら 20 世 紀 以 降 現 代 科 学 技 術 の 進 歩 により 巨 大 な 化 学 工 業 が 発 展 し 予 想 もしない 大 規 模 事 故 による 深 刻 な 被 害 の 多 発 に 直 面 して 過 失 責 任 は 批 判 にさらされ 特 別 法 によって 無 過 失 責 任 の 導 入 が 図 られるようになった ドラフトは 例 えば 第 622 条 にお いて 高 度 危 険 施 設 による 損 害 についての 無 過 失 責 任 を 規 定 し 第 622 条 において 環 境 汚 染 に 対 する 賠 償 責 任 を 規 定 する しかし 高 度 危 険 施 設 環 境 汚 染 などの 概 念 が 明 確 でなく 無 過 失 責 任 が 無 制 限 に 拡 大 し 社 会 的 に 大 きな 損 害 賠 償 費 用 を 負 担 しなければならなくな るおそれがある 他 の 諸 国 においても 新 たな 危 険 から 生 ずる 損 失 を 社 会 的 にどのような 方 法 で( 損 害 賠 償 制 度 か) どのように 配 分 するのか 現 在 研 究 が 進 められ 新 しい 制 度 ( 原 子 力 損 害 賠 償 法 )も 取 り 入 れられているところである ドラフトにおいても 基 本 的 な 損 害 賠 償 の 理 論 から 再 検 討 することが 望 まれる