三 菱 重 工 の 総 合 力 特 集 技 術 論 文 113 雷 から 航 空 機 の 安 全 運 航 を 守 る 電 磁 界 解 析 技 術 の 開 発 Development of Electromagnetic Simulation Supporting Lightning Protection Design of Mitsubishi Regional Jet *1 佐 竹 宏 次 *2 山 本 修 作 Koji Satake Syusaku Yamamoto *3 山 越 英 男 *4 青 井 辰 史 Hideo Yamakoshi Tatsufumi Aoi *5 彌 政 敦 洋 *6 村 上 浩 一 Atsuhiro Iyomasa Koichi Murakami 次 世 代 リージョナルジェット 機 MRJ の 開 発 における 重 要 な 安 全 性 証 明 の 一 つに, 主 翼 内 燃 料 タンクへの 被 雷 時 の 防 爆 性 証 明 がある. 近 年 厳 格 化 された 当 該 基 準 に 適 合 するには, 燃 料 タンク の 全 ての 結 合 部 にフェイルセーフの 耐 雷 設 計 を 施 し,その 有 効 性 を 実 証 する 必 要 がある.しか し, 従 来 の 経 験 と 試 験 のみに 依 存 したアプローチでは, 膨 大 な 作 業 が 必 要 で MRJ 開 発 のボトル ネックとなるおそれがあった.そこで, 本 報 告 では, 主 翼 燃 料 タンク 各 部 の 雷 撃 電 流 分 布 を 正 確 に 予 測 し, 効 率 的 かつ 合 理 的 な 耐 雷 設 計 型 式 証 明 取 得 を 実 施 可 能 とする 電 磁 界 解 析 技 術 の 開 発 について 述 べる. 1. はじめに 当 社 は 次 世 代 の 国 産 リージョナルジェット 旅 客 機 (Mitsubishi Regional Jet, 以 下 MRJ)の 事 業 を 担 う 三 菱 航 空 機 ( 株 )を 立 ち 上 げ,2013 年 の 初 飛 行,2015 年 の 初 号 機 納 入 に 向 けて 開 発 を 進 めて いる. 旅 客 機 の 開 発 は, 国 土 交 通 省 航 空 局 の 耐 空 性 審 査 要 領 に 則 って 安 全 に 飛 行 できるように 設 計 製 造 するとともに, 同 要 領 に 合 致 して 型 式 証 明 を 取 得 することが 必 要 である. 型 式 証 明 に 関 わ る 規 定 は, 強 度, 構 造, 環 境 性 能, 安 全 性 など 多 岐 にわたっており,その 一 つに 燃 料 タンクの 爆 発 防 止 がある.この 規 定 は 米 国 での 燃 料 タンク 爆 発 事 故 を 契 機 に 厳 格 化 され, 爆 発 に 繋 がるお それのある 全 ての 要 因 に 対 して,あらゆる 状 況 を 想 定 して 爆 発 が 起 きないことを 証 明 することが 求 められている. そのような 考 慮 すべき 要 因 の 一 つに, 旅 客 機 の 被 雷 時 に 燃 料 タンクを 流 れる 大 電 流 によるスパ ークがある. 燃 料 タンクは 主 翼 の 上 下 表 面 (Skin) 及 び 前 後 桁 (Spar)からなるウイングボックスが 兼 ねている. 正 常 な 状 態 では 金 属 構 造 が 閉 空 間 を 構 成 しているので 電 流 は 安 全 に 部 材 を 流 れ 問 題 ないが, 結 合 部 に 何 らかの 損 傷 や 経 年 劣 化 が 起 きても 問 題 が 生 じないよう, 各 部 の 電 流 の 大 き さに 応 じた 結 合 部 の 導 電 性 向 上 やスパーク 封 じ 込 めなどフェイルセーフの 耐 雷 設 計 をするととも に, 万 が 一 にも 着 火 に 至 らないことを 試 験 で 実 証 する 必 要 がある. 対 象 となる 結 合 部 は 数 万 本 の ファスナやボルトが 使 用 されており,その 種 類 と 故 障 の 組 合 せが 数 百 にのぼるため, 従 来 の 経 験 や 推 測 による 電 流 経 路 とその 大 きさの 見 積 りのアプローチでは, 開 発 証 明 に 莫 大 な 時 間 が 必 要 で MRJ 開 発 のボトルネックとなる 懸 念 があった. *1 技 術 統 括 本 部 横 浜 研 究 所 主 席 研 究 員 工 博 *2 技 術 統 括 本 部 高 砂 研 究 所 *3 技 術 統 括 本 部 先 進 技 術 研 究 センター 主 席 研 究 員 工 博 *4 技 術 統 括 本 部 広 島 研 究 所 主 席 研 究 員 *5 技 術 統 括 本 部 先 進 技 術 研 究 センター 工 博 *6 三 菱 航 空 機 ( 株 ) 機 体 設 計 部 主 席 チーム 統 括
114 当 社 ではこの 問 題 を 解 決 するために, 主 翼 燃 料 タンク 各 部 の 雷 撃 電 流 分 布 を 正 確 に 予 測 し, 効 率 的 な 耐 雷 設 計 及 び 合 理 的 な 型 式 証 明 を 進 めることができる, 電 磁 界 解 析 技 術 を 開 発 した. 開 発 に 当 たっては, 航 空 機 耐 雷 の 権 威 である Lightning Technologies, an NTS Company, 解 析 コ ード 開 発 元 の Electro Magnetic Applications, Inc., 雷 撃 解 析 で 実 績 をお 持 ちの 中 部 大 学 山 本 和 男 准 教 授 の 協 力 を 得 て 開 発 することで, 現 時 点 で 最 高 レベルの 技 術 開 発 を 目 指 した. 本 報 では,この 電 磁 界 解 析 技 術 の 概 要 について 述 べる. 2. 主 翼 部 分 モデルによる 解 析 モデル 検 証 2.1 解 析 手 法 雷 撃 シミュレーションに 用 いる 電 磁 界 解 析 では,マクスウェル 方 程 式 の 直 接 解 法 の 一 つであ る, 有 限 差 分 時 間 領 域 法 ( 以 下,FDTD 法 ) (1) を 用 いた.FDTD 法 を 利 用 した 幾 つかの 汎 用 電 磁 界 解 析 ソフトウェアの 中 で,ここでは, 航 空 機 の 雷 撃 シミュレーションで 実 績 があり, 陸 上 輸 送 航 空 宇 宙 機 器 分 野 の 国 際 的 な 規 格 である SAE ARP5415A (2) にも 推 奨 されている, 米 国 Electro Magnetic Application, Inc. (EMA 社 )の EMA3D を 利 用 した. 2.2 検 証 の 目 的 EMA3D は 上 述 のように 実 績 のあるソフトウェアであるが, 今 回 MRJ の 主 翼 燃 料 タンクの 電 流 電 圧 の 解 析 を 実 施 するに 当 たり, 種 々のモデル 化 手 法 の 妥 当 性 を 確 認 しておく 必 要 がある.そこ で, 燃 料 タンクを 構 成 する 主 翼 構 造 物 (Skin,Stringer,Spar,Rib,Leading Edge (LE),Trailing Edge (TE), 結 合 構 造 (ファスナ,ボルト)を 含 む 金 属 構 造 体 を 模 した 検 証 用 試 験 供 試 体 ( 以 下,ユ ニットセル)を 製 作 し, 試 験 規 格 で 規 定 された 雷 撃 電 流 を 印 加 し, 主 要 部 分 の 電 流, 電 圧, 磁 界 の 計 測 値 と, 本 供 試 体 をモデル 化 し 解 析 で 求 めた 結 果 を, 比 較 確 認 することで,モデル 化 手 法 の 妥 当 性 確 認 を 行 った. 2.3 試 験 供 試 体 と 解 析 モデル 図 1に 上 翼 面 の Skin を 取 り 外 したユニットセルの 外 観 を 示 す. 翼 の 長 手 方 向 から,Rib7, 8, 9 の 3つの Rib 区 間 を 切 り 出 し, 翼 の 前 部 として LE, 後 部 として TE を 各 々 設 けている.3つの Rib に 仕 切 られた 空 間 が 燃 料 タンクに 相 当 する.ユニットセルは 地 上 高 約 1mの 木 枠 上 に 設 置 し, 雷 撃 電 流 はパルス 電 源 からユニットセルへの 電 磁 誘 導 を 避 けるために 十 分 距 離 を 取 ったケーブルを 介 し て, 所 望 の 箇 所 に 印 加 した. 電 源 への 電 流 のリターンは,ユニットセル 周 囲 の 電 磁 界 分 布 が 対 称 となるようにユニットセルを 取 り 囲 むように Al 板 を 設 置 した. 各 部 の 電 磁 界 として, 表 面 磁 界, 電 流, 電 圧 を 計 測 した. 図 1 ユニットセルの 外 観
115 試 験 で 適 用 した 規 格 電 流 波 形 の 例 を 図 2に 示 す.この 波 形 は 規 格 電 流 の 中 で 最 も 大 きいピー ク 電 流 200kA を 持 ち,ピーク 時 間 は 6.4μs, 半 減 時 間 は 69μs である.200kA を 印 加 するとユニ ットセルが 損 傷 し 修 理 が 必 要 なので,3~200kA で 電 流 分 布 の 線 形 性 を 確 認 した 上 で, 各 種 デー タは 3kA で 取 得 した.なお, 電 流 分 布 の 線 形 性 の 確 認 は,ユニットセルに,3kA から 200kA まで の 電 流 を 段 階 的 に 印 加 して,それに 応 じた 電 流 が 流 れることで 確 認 している. 解 析 モデルを 図 3に 示 す.ユニットセル 本 体 とリターン 回 路, 及 び 雷 撃 電 流 の 注 入 ラインなど 電 流 経 路 となる 構 造 物 は 全 てモデル 化 されている.また, 解 析 空 間 は,X 方 向 に 19.5mm,Y 方 向 に 14mm,Z 方 向 に 19mm のセルにメッシュ 分 割 している.セルサイズは, 以 下 のクーラン 条 件 から 決 まる 時 間 ステップΔt の 上 限 を 決 めることから, 着 目 する 現 象 を 再 現 できる 範 囲 で 出 来 るだけ 大 き くしておくことが 計 算 時 間 の 観 点 から 好 ましい. 1 t (1) 2 2 2 c x y z ここで,c は 光 速. ここでは,ファスナ ボルトのピッチを 保 存 し,かつ 互 いの 構 造 物 の 干 渉 などがなく, 幾 何 形 状 を 再 現 可 能 なセルサイズとしている.また, 計 算 精 度 の 点 からセルサイズは 波 長 の 1/10 程 度 以 下 と することが 望 ましいが, 図 2に 示 す 電 流 波 形 に 基 づく 波 長 は 数 km であり,これに 対 してはセルサ イズは 十 分 に 小 さい. 一 方,セルサイズに 対 して 実 際 の 構 造 物 の 厚 さや 太 さが 一 致 していない 箇 所 については, 当 該 構 造 物 の 見 掛 けの 電 気 伝 導 が 実 際 の 構 造 物 と 等 価 となるように 導 電 率 の 調 整 を 行 うとともに, 結 合 部 に 対 しても,インピーダンスにおいて 実 形 状 と 有 意 な 差 が 出 ないようにモデル 化 した.な お,ユニットセルを 構 成 する Skin,Spar,Rib などの 構 造 体 のインダクタンスは 構 造 体 の 幅 で 決 まっ ており, 板 厚 が 1mm のものを 20mm でモデル 化 しても 数 % 程 度 の 誤 差 であり,セルサイズの 大 き さはほとんど 影 響 しないと 考 えることができる. 図 2 雷 撃 電 流 波 形 例 ( ) 内 は 試 験 でデータ 取 得 に 使 用 した 電 流 レベル 図 3 解 析 モデル 2.4 実 測 結 果 と 解 析 結 果 の 比 較 試 験 は 実 機 でのいろいろな 部 位 への 着 雷 を 想 定 し, 多 くのケースを 実 施 した. 図 4はその1 例 と して, 雷 撃 により 構 造 物 を 流 れる 通 過 電 流 を 想 定 したケースの,ユニットセルの 代 表 的 な 測 定 箇 所 における, 表 面 磁 界 ( 電 流 分 布 に 相 当 )の 時 間 変 化 を 示 している. 図 4より, 実 験 と 解 析 が,ピ ーク 値 及 び 時 定 数 に 関 して,ほぼ 完 全 に 一 致 している. 雷 撃 電 流 は, 入 力 から 出 力 に 向 かって Skin 上 を 流 れるため,P1 点 の 電 流 は-x 方 向 成 分 が 大 きく,このため, 表 面 磁 界 は Hy 成 分 が 主 成 分 になる.P2 点 は TE 側 面 の 表 面 磁 界 である.ここは,LE 表 面 を 流 れる 電 流 やリターン 回 路 を 流 れる 電 流 の 影 響 が 大 きく,Hz 成 分 が 大 きくなる.
116 図 4 ユニットセルモデル 解 析 結 果 ( 外 部 磁 場 の 実 測 比 較 ) 図 5はタンク 内 の Rib8 を 流 れる 電 流 波 形 である.タンク 内 は 結 合 部 以 外 は 金 属 で 囲 まれた 空 間 であり, 結 合 部 からわずかに 侵 入 する 電 磁 界 により 電 流 が 観 測 されるが, 電 流 は 非 常 に 小 さく, 印 加 電 流 3kA に 対 して,1%に 満 たない 大 きさである.なお, 初 期 の 信 号 はノイズと 考 えられる. 以 上, 解 析 と 実 測 が 良 好 に 一 致 する 結 果 を 得 ることができ,モデル 化 の 妥 当 性 を 確 認 できた. 図 5 Rib8 全 体 を 流 れる 電 流 応 答 波 形 3. 実 機 主 翼 への 適 用 3.1 モデル 概 要 図 6に 解 析 モデルを 示 す. 実 機 主 翼 モデルは, 設 計 CAD データをもとに 主 翼 構 造 と 右 翼 側 の エンジン,エンジンパイロン, 主 脚, 及 びタンク 内 の 燃 料 配 管 などをモデル 化 している. 胴 体 部 は, 胴 体 下 の 中 央 翼 を 中 心 に, 前 後 方 向 は 外 翼 との 結 合 部 をカバーする 範 囲 とした. 両 翼 は 対 称 構 造 であるので, 右 翼 から 中 央 翼 までの 雷 撃 電 流 分 布 を 解 析 すれば, 主 翼 全 体 の 電 流 分 布 を 知 ることができる. 従 って, 中 央 翼 ( 胴 体 )の 電 流 分 布 に 影 響 を 与 えないことを 前 提 に, 左 翼 側 は Rib4 で 切 断 することで 計 算 の 効 率 化 を 図 った. 配 管 などの 内 部 構 造 物 は Rib4 で 終 端 している. Rib4 の 端 部 には 上 下 3カ 所 から 導 体 線 を 引 出 し, 一 つに 束 ねて 解 析 境 界 面 に 接 続 することで, 雷 撃 電 流 の 出 口 としている.
117 表 1 実 大 主 翼 モデル 解 析 条 件 セルサイズ 25mm 等 方 セル 計 算 時 間 ステップ 4 10-11 s 解 析 空 間 X 方 向 セル 数 480 Y 方 向 セル 数 800 Z 方 向 セル 数 300 全 セル 数 11 520 万 セル 境 界 条 件 吸 収 境 界 条 件 :Mur1 次 電 磁 界 ソース 電 流 源 図 6 解 析 モデル 前 後 縁 部 の 詳 細 について 述 べる. 前 縁 には FLE(Fixed Leading Edge)と Slat を 有 し, 後 縁 には FTE(Fixed Trailing Edge),Airelon,Spoiler, 及 び Flap Track Support を 各 々 有 する.Slat, Airelon,Spoiler などの 舵 面 は,それらを 駆 動 するアクチュエータやヒンジなどもモデル 化 してお り, 舵 面 に 着 雷 した 場 合 の 電 流 分 布 も 正 確 に 再 現 できるようになっている. 解 析 モデルの 設 定 条 件 を 表 1に 示 す. 上 記 の 構 造 体 をモデル 化 するために,25mm の 等 方 セ ルを 適 用 した. 燃 料 配 管,アクチュエータ, 支 持 構 造 の 一 部 は, 同 等 の 見 掛 けの 抵 抗 を 有 する 線 要 素 を 用 いて 簡 略 モデル 化 している. 全 セル 数 は 約 1.2 億 セルの 大 規 模 モデルであり,このまま 解 析 すると 計 算 時 間 が 長 大 となり, 耐 雷 設 計 や 型 式 証 明 の 効 率 化 は 望 めない.ここでは 変 位 電 流 を 無 視 した 近 似 手 法 と 並 列 計 算 手 法 を 適 用 することで 計 算 時 間 の 短 縮 化 を 図 った 近 似 手 法 は 変 位 電 流 が 無 視 でき σ>>εω(σ: 導 電 率 ε: 誘 電 率 ω: 角 周 波 数 )が 成 立 する 比 較 的 ゆっくりした 電 磁 界 現 象 に 適 用 可 能 な 方 法 である 一 般 に 雷 撃 波 形 は 図 2 に 示 すように 周 波 数 特 性 は 100kHz オーダ 以 下 であり 導 電 電 流 を 対 象 としているので この 条 件 に 合 致 する この 低 周 波 近 似 マクスウェル 方 程 式 を 適 用 することで 時 間 軸 を 圧 縮 することが 可 能 となり 図 2 に 示 す 雷 撃 波 形 では 計 算 時 間 をおよそ 1/10 にまで 短 縮 することができた また, 解 析 空 間 を 複 数 の 領 域 に 分 割 し,CPU 毎 に 各 領 域 の 計 算 実 行 を 割 り 当 てて 同 時 並 行 で 計 算 する 並 列 計 算 手 法 を 適 用 することで, 全 体 の 計 算 時 間 を 短 縮 した. 以 上 の 手 法 を 適 用 することで,32CPU(Intel Xeon5500 2.93GHz,8コア/ノード,メモリ 容 量 32GB/ノード)の 並 列 計 算 により, 約 2 日 /1 条 件 で 実 行 可 能 とした. 3.2 解 析 結 果 の 事 例 図 7は, 主 翼 Skin 上 面 に 雷 撃 電 流 を 印 加, 左 翼 端 を 出 口 とした 時 の, 電 流 密 度 分 布 を 時 間 を 追 って 示 している. 電 流 は 雷 撃 点 を 中 心 として 同 心 円 状 に 拡 がっているが,インダクタンス 成 分 に 起 因 する 端 部 効 果 により 後 縁 側 の Auxiliary Spar 付 近 にも 電 流 密 度 の 大 きい 部 分 を 見 ることがで きる. 電 流 分 布 においては, 抵 抗 値 の 大 小 による 電 流 経 路 だけでなく, 端 部 効 果 による 電 流 経 路 の 拡 がりにも 注 意 を 払 う 必 要 があることがわかる. 図 7 主 翼 上 面 Skin 雷 撃 時 における 電 流 分 布
118 図 8はタンク 内 の Rib を 流 れる 電 流 波 形 を 示 している.タンク 内 の 電 流 は, 印 加 雷 撃 波 形 と 比 較 してかなりゆっくりした 応 答 になる.タンク 内 の 電 流 は 結 合 部 からの 電 磁 界 の 侵 入 によるもので,ユ ニットセル 試 験 と 同 様 に 印 加 電 流 に 対 して1%に 満 たない 電 流 量 である. 作 成 した 解 析 モデルを 用 いて, 雷 撃 箇 所, 雷 撃 波 形 を 変 えた 種 々の 雷 撃 条 件 を 想 定 した 大 規 模 数 値 解 析 を 行 うことで, 全 ての 結 合 部 でそれぞれ 想 定 される 最 大 の 電 流 値 を 知 ることができる. 結 合 部 の 電 流 を 知 ることで, 構 造 要 求 と 電 流 レベルから,ファスナの 多 重 耐 雷 設 計 を 標 準 化 で き, 適 切 な 耐 雷 設 計 を 効 率 的 に 実 施 することを 可 能 にした. また, 型 式 証 明 取 得 のための 試 験 条 件 設 定 においては, 結 合 部 構 造 の 系 統 的 な 分 類 分 けと 当 該 結 合 部 の 電 流 値 に 基 づいて 試 験 部 位 試 験 電 流 条 件 を 選 定 することが 可 能 となり, 燃 料 タンク の 全 ての 結 合 部 について, 抜 けのない 安 全 性 証 明 を 合 理 的 に 実 施 することができる. 図 8 タンク 内 Rib を 流 れる 電 流 時 間 波 形 (Front Joint,Rear Joint は 各 々Front Spar,Rear Spar との 結 合 部 を 流 れる 電 流 ) 4. まとめ 本 報 では, 航 空 機 の 安 全 性 を 確 保 するための 耐 雷 設 計 型 式 証 明 取 得 を 効 率 的 かつ 合 理 的 に 実 施 するための, 大 規 模 電 磁 界 解 析 技 術 の 概 要 について 述 べた. 本 技 術 は, 金 属 構 造 体 だけでなく, 複 合 材 を 異 方 性 材 料 としてモデル 化 することで, 複 合 材 を 含 む 構 造 体 にも 適 用 可 能 であり, 次 世 代 航 空 機 などの 耐 雷 設 計 に 適 用 できる 可 能 性 がある. 今 後 は, 雷 撃 に 起 因 する 電 磁 障 害 などにも 適 用 拡 大 を 図 る 予 定 である. 参 考 文 献 (1) 宇 野 亨,FDTD 法 による 電 磁 界 及 びアンテナ 解 析, コロナ 社, (1998) (2) SAE ARP5415A User s Manual for Certification of Aircraft Electrical/Electronic Systems for t Indirect Effects of Lightening, P152