カーボンオフセット 対 象 事 業 調 査 報 告 書 ラオス: 王 子 製 紙 による 植 林 事 業 と 二 国 間 クレジット 国 際 環 境 NGO FoE Japan 王 子 製 紙 は 世 界 最 大 級 の 製 紙 企 業 の 一 つであり ラオス ベトナム 中 国 インドネシア オース オラリア ニュージーランド カナダ ブラジルで 合 計 240,000ha のプランテーションを 経 営 してい ます 1 そして ラオスで 同 社 が 展 開 しているのが Oji Lao Plantation Forest Co.,Ltd.(LPFL)と Oji South Lao Plantation Forest Co., Ltd.(SLPFL)ですが これら 事 業 に 関 しては 土 地 取 得 のプロ セス 土 地 取 得 後 の 住 民 への 配 慮 の 欠 如 等 の 問 題 が NGO により 指 摘 されていました 一 方 日 本 政 府 は 気 候 変 動 の 次 期 枠 組 みにおいて 二 国 間 クレジットメカニズムを 主 張 し その 実 現 のための 手 段 として 既 に 一 部 の 国 との 対 話 の 実 施 や 実 施 可 能 性 の 調 査 を 実 施 しており 王 子 製 紙 による 両 事 業 は REDD+としてその 調 査 対 象 に 選 定 されました 調 査 は 2010 年 から 11 年 にかけて 実 施 された ものの 結 局 植 林 及 び REDD+に 対 するラオス 政 府 見 解 では LPFL 及 び SLPFL は 択 伐 ではなくクリアカ ットであること 等 の 理 由 で 結 局 同 事 業 は REDD+としても 認 められておらず 従 って 二 国 間 クレジットの 対 象 にはなっていません また 同 事 業 は 現 地 の 住 民 への 配 慮 が 適 切 になされているとは 言 えず こ のような 事 業 が 実 施 可 能 性 調 査 の 対 象 となっていることから 今 後 日 本 による 二 国 間 クレジットが 実 施 された 場 合 のクレジットの 質 が 懸 念 されます 1. 事 業 の 背 景 王 子 製 紙 は 地 球 温 暖 化 地 域 に 根 差 した 植 林 活 動 として 海 外 植 林 を 積 極 的 に 推 進 している ラ オスにおける 同 事 業 は その 一 環 である 2. 事 業 概 要 1 場 所 : LPFL:ラオス 中 部 のカムアン 県 ボリカム 県 SLPFL:ラオス 南 部 のラオス 南 部 のサバナケット 県 サラヴァン 県 チャンパサック 県 セコン 県 アタプ ー 県 2 目 的 : LPFL SLPFL: 主 目 的 は 製 紙 原 料 確 保 のための 木 材 生 産 である また 副 次 的 機 能 として CO2 固 定 ( 地 球 温 暖 化 防 止 ) 土 砂 流 出 防 止 等 の 環 境 保 全 雇 用 創 出 が 見 込 まれている 2 1 Forest destroyer Oji Paper to carry out REDD feasibility study in Laos B y Chris Lang, 29th November 2010, http://www.redd-monitor.org/2010/11/29/forest-destroyer-oji-paper-to-carry-out-redd-feasibility-study -in-laos/ 2 王 子 製 紙 ラオス ユーカリ 植 林 及 ひハイオマスエネルキーによる CDM 事 業 化 調 査, http://
3 事 業 実 施 者 融 資 付 保 機 関 等 3 : LPFL:Lao Plantation Holdings limited (LPH)85% ラオス 政 府 15%の 合 弁 企 業 表 1:LPH の 株 主 構 成 王 子 製 紙 ( 株 ) 73.33% ( 株 )リクルート 5.00% 国 際 紙 パルプ 商 事 ( 株 ) 5.00% 第 一 紙 業 ( 株 ) 0.55% ( 株 ) 集 英 社 5.00% ( 株 )サトー 0.28% ( 株 ) 商 船 三 井 5.00% シーズクリエイト( 株 ) 0.28% ( 株 ) 千 趣 会 5.00% ( 株 ) 日 本 通 信 教 育 連 盟 0.28% マルマン( 株 ) 0.28% SLPFL:Oji Paper Co., Ltd が 100% 資 本 の 会 社 4 4 事 業 内 容 LPFL 概 要 カムアン 県 ボリカム 県 にユーカリおよびアカシアを 植 栽 し 50,000ha の 植 林 地 をつくる 計 画 伐 採 後 には 萌 芽 更 新 再 植 林 により 植 林 地 を 維 持 する 予 定 5 目 的 製 紙 原 料 確 保 のための 木 材 生 産 副 次 的 機 能 :CO2 固 定 ( 地 球 温 暖 化 防 止 ) 土 砂 流 出 防 止 等 の 環 境 保 全 雇 用 創 出 6 方 式 種 類 規 模 種 類 :ユーカリ アカシア( 早 生 樹 種 ) 7 面 積 :50,000ha(2005-2013 年 に 渡 り 年 平 均 7,000ha 植 栽 ) 5 8 生 産 量 :450,000 BDT(bone dry ton) 相 当 の 木 材 チップ/ 年 9 7 年 ごとに 伐 採 予 定 コンセッショ 50 年 間 150,000ha(ラオス 政 府 より 借 地 ラオス 政 府 による ン 出 資 比 率 15%は 用 地 提 供 による 現 物 出 資 ) 5 経 緯 と 現 状 1997 年 BGA がラオス 政 府 とコンセッション 契 約 を 締 結 ADB より 産 業 植 林 プロジェクト(ITPP) により 約 US$ 1 million の 融 資 をうけている 10 1999 年 当 時 の 植 林 合 弁 企 業 である BGA LPFL が 設 立 2005 年 1 2 月 BGA LPFL を 王 子 製 紙 が 買 収 し Oji LPFL と 社 名 変 更 植 林 事 業 開 始 2011 年 7 月 時 点 で 5 万 ha のうち 半 分 程 度 の 植 林 を 実 施 しており 残 りの 植 林 地 を 探 しているが 困 難 な 状 況 にある 7 年 の 伐 期 を 過 ぎているものもあるが 3 ラオス 植 林 事 業 の 共 同 展 開 について, 2006 年 1 月 11 日, http://prw.kyodonews.jp/prwfile/release/m000293/200601113590/press/main.html 4 王 子 製 紙, http://www.ojipaper.co.jp/english/group/overseas/overseas_15.html 5 王 子 製 紙 環 境 への 取 り 組 み, http://www.ojipaper.co.jp/envi/mori/syokurin/lpfl.html 6 王 子 製 紙 ラオス ユーカリ 植 林 及 ひハイオマスエネルキーによる CDM 事 業 化 調 査, http:// 7 王 子 製 紙 によるベトナムの 植 林 事 業 QPFL では アカシアのハイブリッド 種 とユーカリを 植 樹 している 8 Oji Paper, 2005/2/28, http://www.ojipaper.co.jp/english/pdf/news_050228.pdf 9 千 趣 会, http://www.senshukai.co.jp/main/top/csr_planting.htm( 伐 採 方 法 に 関 する 説 明 ) 10 ローン 締 結 時 期 は 不 明
カムアン 県 建 設 予 定 のチップ 工 場 がまだできておらず 伐 採 はしていない とのこと SLPFL 概 要 ラオス 南 部 のサバナケット サラヴァン チャンパサック セコン アタプー 県 の 計 5 県 に 合 計 30,000ha の 植 林 地 をつくり 安 定 的 なチップ 供 給 を 行 う 計 画 このうち 5,000ha は 農 民 植 林 方 式 を 予 定 11 目 的 製 紙 原 料 確 保 のための 木 材 生 産 12 副 次 的 機 能 :CO2 固 定 ( 地 球 温 暖 化 防 止 ) 土 砂 流 出 防 止 等 の 環 境 保 全 雇 用 創 出 規 模 種 類 規 模 種 類 :アカシア ユーカリ 11 面 積 : 30,000ha(うち 5,000ha は 植 林 会 社 が 地 域 住 民 に 苗 木 を 供 給 し 住 民 が 育 てた 植 林 木 を 買 い 取 る 農 民 植 林 方 式 ) 11 経 緯 と 現 状 コンセッション 40 年 間 (ラオス 政 府 より 借 地 契 約 ) 11 2010 年 2 月 南 部 における 植 林 事 業 開 始 2011 年 7 月 時 点 では 土 地 の 測 量 や 事 業 地 の 選 定 をしているが 実 際 の 植 林 はま だ 実 施 していないようである 5 総 事 業 費 等 : LPFL:39,256 千 US$(2009 年 3 月 末 現 在 ) 5 SLPFL:2,000 千 US$( 資 本 金 ) 6オフセットスキームと 段 階 (CDM 二 国 間 オフセット クレジット 制 度 ボランティアオフセット 等 ): 平 成 17 年 度 :LPFL が CDM/JI 事 業 調 査 を 平 成 17 年 度 環 境 省 委 託 事 業 として 採 択 され ラオス ユーカリ 植 林 及 びバイオマスエネルギーによる CDM 事 業 化 調 査 13 を 実 施 しかし その 後 企 業 側 が 断 念 し CDM 化 への 動 きはみられない 2010 年 11 月 2011 年 3 月 :LPFL SLPFL が 地 球 温 暖 化 対 策 普 及 等 推 進 事 業 14 として 採 択 され 15 REDD+に 関 する F/S 調 査 が 実 施 されている 以 下 は その 内 容 (1) 植 林 事 業 による CO2 吸 収 量 森 林 の 減 少 劣 化 抑 制 による CO2 排 出 削 減 量 を 計 測 報 告 検 証 するための 手 法 の 検 討 開 発 (2) 地 域 コミュニティーを 対 象 とする 社 会 貢 献 活 動 雇 用 創 出 など 地 域 全 体 の 経 済 効 果 評 価 (3) 生 物 多 様 性 の 保 全 を 含 む 対 応 策 効 果 の 評 価 11 王 子 製 紙 ニュースリリース, 2010 年 2 月 1 日, http://www.ojipaper.co.jp/release/cgi-bin/back_num.pl5?sele=20100201151243&page_view_selected_=1 12 王 子 製 紙 ラオス ユーカリ 植 林 及 ひハイオマスエネルキーによる CDM 事 業 化 調 査, http:// 13 http://gec.jp/main.nsf/cc0545bc7408f27649256b47001a7489/ae28261adb9d159f492576e90042587c/$file/%e7%8e%8 B%E5%AD%90%E8%A3%BD%E7%B4%99_%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8.pdf 14 現 行 の CDM の 下 では 国 際 的 に 十 分 評 価 がされていない 技 術 も 広 く 対 象 に 含 める 形 で 日 本 の 技 術 や 製 品 を 適 切 に 評 価 し そ の 貢 献 分 を 日 本 の 排 出 削 減 量 として 換 算 する 事 を 可 能 とする 二 国 間 多 国 間 で 構 築 することを 目 的 とした 仕 組 み 15 王 子 製 紙, ニュースリリース 2010 年 10 月 21 日, http://www.ojipaper.co.jp/release/cgi-bin/back_num.pl5?sele=20101021134227&page_view_selected_=1
(4) CO2 クレジット 量 の 試 算 (5) 二 国 間 協 定 による CO2 クレジット 移 転 のためのスキーム 構 築 の 検 討 6クレジット 購 入 者 : 同 事 業 は CDM になっていないこと また 二 国 間 クレジットメカニズム(BOCM)も 2012 年 3 月 現 在 制 度 自 体 未 実 施 であるため 同 事 業 によるクレジット 購 入 者 はない 3. 事 業 に 関 わる 問 題 事 業 実 施 国 のニーズと 政 策 との 不 一 致 : 2011 年 7 月 に 実 施 した 王 子 製 紙 及 びラオス 政 へのインタビュー からは 王 子 製 紙 は 既 にその 時 点 で 同 事 業 を REDD+にすることを 断 念 していることが 明 らかになりました この 背 景 には 当 初 王 子 製 紙 がラオス 政 府 との 合 意 無 しに F/S を 実 施 してしまったこと またそもそもラオス 政 府 森 林 局 の REDD+ 担 当 者 が 王 子 製 紙 が 現 在 展 開 している LPFL 及 び SLPFL の 事 業 については ク リアカットであることなどから REDD+として 認 めないという 考 えを 持 っているという 事 がありました 本 来 で あれば このようなラオス 政 府 の REDD+に 関 する 政 策 の 方 向 性 は F/S 実 施 前 に 確 認 するべきでした 地 域 住 民 への 配 慮 :インタビューからは 以 下 のような 住 民 による 事 業 に 関 わる 意 見 が 聞 かれました 雇 用 に 関 する 事 前 の 約 束 が 守 られていない: 土 地 収 用 方 法 について 村 長 から 後 日 雇 用 があるという 話 があったものの 一 部 の 村 人 しか 雇 用 されていないケース あるいは 雇 用 が( 当 初 50 年 といわれた にも 関 わらず) 一 時 的 だったケース(ポンサーン 村 )がある 不 適 切 不 十 分 な 住 民 への 説 明 :(BGA が 事 業 者 だった 時 ) 村 の 土 地 を 観 光 地 にするので 住 民 にも 収 入 の 機 会 が 生 まれるとの 説 明 を 受 けたが 後 日 植 林 事 業 だったことを 住 民 は 知 った(ポンサアート 村 ) 住 民 と 企 業 とのコミュニケーション ギャップ: 本 事 業 では 事 業 を 巡 る 多 くの 点 において 住 民 と 企 業 との 間 に 以 下 のような 認 識 のギャップが 見 られます このような 基 本 的 のギャップから 企 業 による 住 民 との 協 議 が 不 十 分 あるいは 適 切 でないことが 伺 えます 住 民 仕 事 が 欲 しいが 一 部 の 住 民 しか 雇 用 されていな い あるいは 非 常 に 限 定 された 期 間 のみの 雇 用 で あった 約 束 と 異 なる 50$/ha は 補 償 である 全 額 支 払 われていない 企 業 人 手 が 足 りなくて 困 っているので 住 民 側 に 仕 事 の ニーズがあるのであればありがたい 3-4 年 の 植 林 地 も 下 草 狩 り 等 の 作 業 が 必 要 である 労 力 を 探 して いるが 人 手 が 見 つかっていなかった 50$/ha は CSR として 提 供 しているものである ま た 村 別 に 提 供 しているものでもない 全 額 支 払 っ ている 補 償 制 度 の 不 在 : 本 事 業 では 植 林 地 確 保 のために 大 規 模 な 土 地 収 用 が 行 われましたが 土 地 に 対 す る 補 償 の 制 度 がなく 従 って 土 地 の 喪 失 に 対 する 補 償 が 一 切 住 民 に 支 払 われていませんし また 代 替 の 土 地 も 提 供 されていません 提 供 されるのは 企 業 の 社 会 貢 献 費 としての 50$/ha のみです また この 使 途 については ラオス 政 府 より 貧 しい 人 々の 生 活 支 援 を 目 的 とした 事 業 であることと 言 う 要 望 に 沿 ったもの
で 使 途 は 県 等 に 報 告 をしていると 企 業 は 主 張 しています ポンサアート 村 では 実 際 には 井 戸 の 提 供 や 電 気 設 置 がありました しかし 井 戸 の 提 供 や 電 気 の 設 置 では 当 然 農 業 や 森 林 に 生 計 手 段 を 依 存 して きた 住 民 は 以 前 と 同 レベルの 生 活 を 送 ることはできません 実 際 今 回 のインタビューにおいてしばしば 聞 かれた 住 民 への 意 見 の 中 には 喪 失 後 に ようやく 土 地 や 森 林 の 価 値 を 認 識 し 土 地 を 返 却 してほしい という 切 実 な 訴 えもありました(ポンサアート 村 ) 4.まとめ 提 案 税 金 の 無 駄 遣 い 質 が 確 保 されない 事 業 が 二 国 間 クレジットメカニズムとして 選 定 されることを 回 避 するた め 実 施 可 能 性 調 査 の 対 象 案 件 選 定 にあたっては 相 手 国 政 府 のニーズ 政 策 を 考 慮 して 対 象 を 選 定 す ること 経 済 産 業 省 及 び 環 境 省 には JICA が 保 有 しているような 環 境 ガイドラインがなく 二 国 間 クレジットに 関 す る 事 業 の 実 施 可 能 性 調 査 にはガイドラインが 適 用 されない 二 国 間 クレジットの 対 象 事 業 を 含 む 各 省 庁 が 実 施 する 海 外 での 事 業 に 関 する 環 境 ガイドラインを 策 定 すること お 問 い 合 わせ 国 際 環 境 NGO FoE Japan TEL: 03-6907-7217 FAX:03-6907-7219 E-mail: info@foejapan.org HP: http://www.foejapan.org * 本 調 査 事 業 は 平 成 23 年 度 地 球 環 境 基 金 の 助 成 を 受 けて 実 施 されています