解 禁 時 間 (テレヒ ラシ オ WEB): 平 成 26 年 9 月 17 日 ( 水 ) 午 後 5 時 ( 日 本 時 間 ) ( 新 聞 ) : 平 成 26 年 9 月 18 日 ( 木 ) 付 朝 刊 プレス 通 知 資 料 ( 研 究 成 果 ) 報 道 関 係 各 位 平 成 26 年 9 月 16 日 国 立 大 学 法 人 東 京 医 科 歯 科 大 学 アルツハイマー 病 の 発 症 前 超 早 期 病 態 を 部 分 的 に 解 明 アルツハイマー 病 の 治 療 に 道 筋 ポイント! アルツハイマー 病 を 発 症 する 超 早 期 におけるタンパク 質 のリン 酸 化 シグナルの 変 化 を 捉 えま した! これらのタンパク 質 は 主 に 神 経 細 胞 間 のシナプス 機 能 に 関 与 していました! これらのタンパク 質 の 機 能 を 制 御 することによる 新 しいアルツハイマー 病 治 療 法 に 繋 がる 可 能 性 があります アルツハイマー 病 の 治 療 開 発 においては 発 症 前 の 早 期 病 態 を 解 明 することが 現 在 の 最 重 要 課 題 とさ れています 東 京 医 科 歯 科 大 学 難 治 疾 患 研 究 所 / 脳 統 合 機 能 研 究 センター 神 経 病 理 学 分 野 の 岡 澤 均 教 授 の 研 究 グループは 最 新 の 質 量 分 析 技 術 とスーパーコンピュータを 用 いたシステムズバイオロジーを 駆 使 して アルツハイマー 病 モデルマウスおよびアルツハイマー 病 患 者 脳 のタンパク 質 を 網 羅 的 に 解 析 し 発 症 前 さらには 老 人 班 と 呼 ばれる 異 常 タンパク 質 凝 集 が 開 始 する 前 に タンパク 質 リン 酸 化 シグナルの 異 常 が 超 早 期 病 態 として 存 在 することを 発 見 しました この 研 究 は 文 部 科 学 省 の 新 学 術 領 域 研 究 の 支 援 のも と また 脳 科 学 研 究 戦 略 推 進 プログラムの 一 環 として 行 われたもので その 研 究 成 果 は 国 際 科 学 誌 Human Molecular Genetics(ヒューマン モレキュラー ジェネティクス)に 214 年 9 月 17 日 午 前 9 時 ( 英 国 夏 時 間 )にオンライン 版 で 発 表 されます 研 究 の 背 景 アルツハイマー 病 は192 年 にドイツの 病 理 学 者 アルツハイマーが 初 めて 報 告 した 進 行 性 脳 疾 患 であり 病 理 学 的 には 脳 組 織 の 細 胞 外 に 老 人 班 (Senile plaque) 細 胞 内 に 神 経 原 線 維 変 化 (neurofibrillary tangleあるい は 電 子 顕 微 鏡 的 にpaired helical filament) という2つの 特 徴 的 な 異 常 構 造 物 が 存 在 することが 特 徴 です 前 者 はアミロイドベータ 後 者 はリン 酸 化 タウというタンパク 質 の 異 常 沈 着 であることが198 年 代 の 研 究 から 明 らか にされています 2 年 代 以 後 アミロイドベータの 脳 内 凝 集 メカニズムをターゲットとする 主 として2つの 治 療 法 が 考 案 され アルツハイマー 病 患 者 への 臨 床 試 験 に 至 っています その 一 つは アミロイドベータに 対 する 抗 体 を 体 内 に 投 与 して アミロイドベータが 脳 内 に 凝 集 して 老 人 班 を 形 成 することを 抑 制 するものです しかし 欧 米 の 複 数 の 巨 大 製 薬 会 社 がヒト 臨 床 試 験 を 行 いましたが いずれも 有 効 性 を 立 証 できませんでした( 例 えば 1
バピニューツマブの 臨 床 試 験 に 関 する 報 道 は 以 下 のサイトで 見 ることができます http://www.cbsnews.com/news/anticipated-alzheimers-drug-bapineuzumab-shows-no-patient-benefits-in-t rial/) 特 に 重 要 なことは 死 亡 時 まで 追 跡 した 患 者 の 剖 検 脳 において 抗 体 により 老 人 班 は 消 失 していたにも 関 わらず これらの 患 者 の 症 状 は 改 善 していなかったという 点 です(Holmes et al., Lancet 28) また 第 2の 方 法 として アミロイドベータを 産 生 する 酵 素 であるガンマセクレターゼの 阻 害 剤 のヒト 臨 床 試 験 も 巨 大 製 薬 会 社 によって 行 われましたが 副 作 用 によって 開 発 中 止 に 至 っています(Doody et al., N Engl J Med. 213) これら 既 存 のターゲットでは 特 効 薬 に 至 らなかった 経 緯 を 踏 まえ 214 年 時 点 でのアルツハイマー 病 研 究 の 最 重 要 課 題 は 発 症 前 あるいはアミロイドベータの 凝 集 前 の 超 早 期 病 態 を 明 らかにすること さらには そのよ うな 超 早 期 病 態 に 介 入 することで 治 療 が 可 能 であることを 示 すことにあります 岡 澤 教 授 らは14 年 前 にアミロイ ドベータが 細 胞 外 のみならず 細 胞 内 にも 沈 着 すること そのような 沈 着 細 胞 ではc-Jun N-terminal kinase (JNK)というリン 酸 化 酵 素 が 活 性 化 していることを 報 告 しました(Shoji et al., Molecular Brain Research 2) そ の 後 アルツハイマー 病 以 外 の 神 経 変 性 疾 患 を 中 心 に 網 羅 的 質 量 分 析 (プロテオーム 解 析 )を 用 いて 主 要 な 病 態 分 子 を 探 索 してきました(Qi et al., Nature Cell Biology 27) 今 回 は 最 新 の 質 量 分 析 技 術 とスーパーコン ピュータを 用 いたシステムズバイオロジーを 駆 使 して このようなアルツハイマー 病 における 最 重 要 課 題 の 解 決 に 取 り 組 みました 研 究 成 果 の 概 要 今 回 の 研 究 では アルツハイマー 病 モデルマウス4 種 類 とアルツハイマー 病 患 者 の 死 後 脳 を 対 象 に 最 新 型 の 質 量 分 析 機 を 用 いてプロテオーム 解 析 を 行 いました さらに 東 京 大 学 ゲノム 解 析 センターの 宮 野 悟 教 授 と 共 同 研 究 を 行 い プロテオーム 解 析 で 得 られた 膨 大 なデータをスーパーコンピュータで 解 析 しました さらに こ れらのビッグデータ 解 析 から 最 終 的 に 得 られたコア 分 子 を 標 的 として モデルマウスを 用 いた 治 療 実 験 を 行 い シナプスレベルの 改 善 を 認 めました ヒト 死 後 脳 では 死 後 の 保 存 条 件 によりタンパク 質 リン 酸 化 が 様 々に 変 化 することが 知 られています(Oka et al., PLoS ONE 211) そこで 今 回 の 研 究 では まずモデルマウス 脳 の 質 量 分 析 とシステムズバイオロジー 解 析 を 始 めに 行 って 中 心 的 なリン 酸 化 シグナルネットワーク 異 常 を 明 らかにした 後 に ヒト 死 後 脳 を 用 いて コア 病 態 ネットワークを 確 認 するというストラテジーを 採 用 しました モデルマウスは1 種 類 ではなく4 種 類 を 用 いること で 個 々の 病 態 モデル 特 異 的 なバイアスを 減 らすことにしました 対 象 としたのは 以 下 に 示 す 家 族 性 アルツハイマー 病 原 因 遺 伝 子 の 各 変 異 を 持 つ 4 種 類 のトランスジェニック マウスです 1)ヒトプレセニリン(PS)1 のエクソン9 欠 損 :PS1 マウス 2)ヒト PS2 の N141I 変 異 :PS2 マウス 3)ヒ トアミロイド 前 駆 体 タンパク 質 (APP)の KM67/671NL(スェーデン 型 点 変 異 ):APP マウス 4)PS1(M146L, L285V 変 異 )と APP(KM67/671NL スェーデン 型 変 異 I716V フロリダ 型 変 異 V717I ロンドン 型 変 異 )の5 種 類 の 変 異 :5XFAD マウス これらのマウスの1ヶ 月 齢 3ヶ 月 齢 6ヶ 月 齢 の 大 脳 サンプルから 信 頼 度 95%で 同 定 したリン 酸 化 タンパク 質 のうち コントロールマウスの 値 から 変 化 が 確 認 されたリン 酸 化 タンパク 質 をリスト 化 し た 後 に これらを 国 立 遺 伝 学 研 究 所 で 公 開 しているタンパク 質 間 結 合 データベース(PPI データベース)に 重 ね 2
合 わせることにより それぞれのモデルマウスで 成 長 加 齢 とともに 変 化 する 異 常 リン 酸 化 シグナルネットワー クを 描 出 しました( 図 1) 図 1 4 種 類 のアルツハイマー 病 モデルマウスにおける 病 態 ネットワークの 時 間 経 過 による 変 化 さらに アルツハイマー 病 のモデルマウスの 種 類 を 超 えて 共 通 する 異 常 リン 酸 化 シグナルネットワーク(コア 病 態 ネットワーク)あるいはネットワーク 構 成 タンパク 質 (コア 病 態 タンパク 質 )は 重 要 であるとの 仮 定 ( 図 2 左 図 )のもとに これらを 抽 出 した 結 果 コア 病 態 タンパク 質 はわずか17 個 に 集 約 しており しかも これらのタン パク 質 の 大 半 が 直 接 的 に 結 合 していることが 明 らかになりました( 図 2 右 図 ) さらに コア 病 態 タンパク 質 の 大 半 はアルツハイマー 病 患 者 の 死 後 脳 でも 変 化 が 認 められたこと アミロイド 病 態 の 下 流 に 位 置 づけられるタ ウ 病 態 を 反 映 すると 考 えられる 変 異 型 タウタンパク 質 を 持 つトランスジェニックマウスでの 解 析 においても 同 様 の 変 化 が 認 められたことから 超 早 期 から 晩 期 に 至 るまでの 持 続 的 な 異 常 シグナルであること モデルマウス のみならずヒト 病 態 にもトランスレータブルな 変 化 であること アミロイド 病 態 とタウ 病 態 をつなぐ 変 化 であること 等 の 可 能 性 が 示 唆 されました 図 2 本 研 究 におけるコア 病 態 分 子 抽 出 のストラテジー( 左 )と 抽 出 されたコア 病 態 ネットワーク( 右 ) コア 病 態 分 子 ( 色 付 き)は ほぼ 全 てが 直 接 的 に 結 合 している 3
分 子 機 能 面 からコア 病 態 ネットワークを 眺 めると これらのタンパク 質 はシナプス( 神 経 細 胞 同 士 をつなぐ 構 造 )に 深 く 関 わることが 推 測 されました( 図 3) そこで 最 後 に 4 種 類 のマウスのうち 最 も 症 状 の 重 篤 な 5XFADマウスを 用 いて 治 療 実 験 を 行 うことにしました 近 年 アルツハイマー 病 態 においてシナプス 異 常 が 生 じることが 注 目 されています 岡 澤 教 授 らの2 光 子 顕 微 鏡 を 用 いた 観 察 においても 5XFADマウスの 大 脳 皮 質 において 興 奮 性 シナプス 後 部 の 構 造 であるスパインが 減 少 していることを 確 認 しました 図 3 コア 病 態 ネットワークと 神 経 細 胞 機 能 との 関 係 図 4 アミロイドベータの 脳 内 沈 着 とコア 病 態 ネットワーク 変 化 の 時 間 的 対 応 これまでに 同 一 研 究 室 における4 種 類 のモデルマウスに 対 しての 同 一 手 法 による 病 理 解 析 と 行 動 解 析 の 研 究 は 行 われていませんでした その 実 験 を 行 った 結 果 もっとも 重 篤 な5XFADマウスでもアミロイド 凝 集 ( 老 人 班 )が 認 められるのは3ヶ 月 齢 からであること 記 憶 力 低 下 などの 行 動 解 析 上 の 異 常 が 検 出 されるのは6ヶ 4
月 齢 以 後 であることが 分 かりました したがって コア 病 態 ネットワークの 変 化 は 発 症 前 かつアミロイド 凝 集 前 であることが 証 明 されました( 図 4) コア 病 態 ネットワークの 中 で 最 も 早 期 からリン 酸 化 が 変 化 するコア 病 態 分 子 は MARCKSというリン 酸 化 酵 素 protein kinase C (PKC)の 基 質 でした そこで アデノ 随 伴 ウイルス(AAV)を 用 いてスパインを 蛍 光 標 識 し PKC 阻 害 剤 を5XFADマウスに 投 与 した 後 に2 光 子 顕 微 鏡 で 観 察 すると スパイン 減 少 が 回 復 していることが 明 らか になりました( 図 5) またshRNAという 手 法 を 使 って MARCKS 産 生 を 減 少 させると やはりスパイン 減 少 が 回 復 していることが 示 されました( 図 6) 以 上 の 結 果 から コア 病 態 ネットワークの 正 しさが 概 ね 証 明 されるととも に コア 病 態 タンパク 質 をターゲットとした 治 療 開 発 が 可 能 であることが 示 されました a AAV$Syn1$EGFP inhibitor observe b AAV"Syn1"EGFP inhibitor observe 36 h 6 h WT / DMSO $14"days 36h 6h / DMSO / Gö / MLR / KN-9 5 µm 36 h 6 h WT/DMSO 1 /DMSO 1 /Gö" 4 /MLR 1 5 8 /KN-9 5 1 19 11 5 5 1 * p<.5 11 1 19 5 8 4 11 1 1 19 ** p<.1 8 4 #: confirming thin mushroom stubby thin mushroom stubby protrusion / 1µm protrusion / 1µm 36 h 12 8 4 12 8 4 6 1 1 6 h 18 5 4 1 "14%days 36h 6h WT/DMSO /DMSO 36 h 6 h 36 h 6 h /Gö /MLR 36 h 6 h 36 h 6 h /KN-9 36 h 6 h 5 µm spine dynamics (%) protrusion / 1µm 8 6 4 2 8 6 4 2 9 12 12 9 12 12 9 12 9 12 12 12 9 12 12 formation elimination stable 12 9 12 formation elimination stable WT/DMSO /DMSO /Gö% /MLR /KN-9 図 5 静 的 変 化 (スパイン 密 度 の 減 少 左 図 )と 動 的 変 化 (スパイン 形 成 の 減 少 右 図 )へのキナーゼ 阻 害 剤 による 治 療 効 果 c AAV"Syn1"EGFP shrna observe days after injection 4 day 5 day WT WT/scrambled /scrambled /MARCKS /SPTA2 * p<.5 ** p<.1 #: confirming "14%days %%4d %5d protrusion / 1µm 8 6 4 2 Sh-MARCKS 4day after injection Sh-SPTA2 8 6 4 2 5 µm protrusion / 1µm 1 5 5 day 15 1 thin mushroom stubby thin mushroom stubby 5 5day after injection 4 day * 15 d WT AAV"Syn1"EGFP shrna observe "14%days %%4d %5d 4 d 5 d 4 d 5 d Sh-MARCKS Sh-SPTA2 4 d 5 d 4 d 5 d protrusion / 1µm % spine dynamics 1 8 6 4 2 1 8 6 4 2 formation elimination formation elimination stable stable WT/scrambled /scrambled /MARCKS /SPTA2 図 6 静 的 変 化 (スパイン 密 度 の 減 少 左 図 )と 動 的 変 化 (スパイン 形 成 の 減 少 右 図 )へのMARCKSノッ ダウンによる 治 療 効 果 5
研 究 成 果 の 意 義 本 研 究 成 果 は アルツハイマー 病 の 発 症 前 凝 集 前 の 超 早 期 病 態 の 一 端 を 捉 えた 成 果 と 言 えます 明 らか になった 超 早 期 のコア 病 態 シグナルネットワークあるいはコア 病 態 分 子 をターゲットとする 治 療 法 を 本 格 的 に 開 発 することによってアルツハイマー 病 の 進 行 を 抑 制 し 治 癒 に 導 く 治 療 法 を 開 発 できる 可 能 性 があります 用 語 説 明 <シナプス> 神 経 細 胞 と 神 経 細 胞 は 互 いの 一 部 が 接 してシナプスという 構 造 を 取 っています シナプス 前 部 は 軸 索 (axon)と いう 通 常 1 本 だけの 神 経 突 起 の 終 末 であり シナプス 後 部 は 神 経 細 胞 が 複 数 持 っている 樹 状 突 起 の 上 にあり ます 興 奮 性 シナプスの 場 合 樹 状 突 起 からわずかに 突 出 したスパインと 呼 ばれる 場 所 が 軸 索 終 末 と 接 してい ます 抑 制 性 シナプスの 場 合 は 樹 上 突 起 のシャフト 上 の 微 小 な 平 滑 部 分 が 軸 索 突 起 と 接 しています この 間 には 電 気 的 興 奮 がシナプス 前 部 で 伝 達 物 質 の 放 出 につながり 伝 達 物 質 を 受 けた 受 容 体 がシナプス 後 部 の 膜 電 位 を 脱 分 極 させることで 再 び 電 気 的 興 奮 に 変 換 するという 仕 組 みが 働 いています 興 奮 性 シナプスでは スパイン 構 造 が 作 られたり 消 えたりしていますが その 構 造 が 安 定 化 することで 神 経 回 路 が 形 成 されて 記 憶 などの 情 報 が 安 定 的 に 保 持 されると 考 えられます スパイン 構 造 の 安 定 化 には アクチン スペクトリンなどの 細 胞 骨 格 タンパク 質 や 膜 裏 打 ちタンパク 質 の 他 リン 酸 化 酵 素 を 含 む 多 くのタンパク 質 がダイナミックに 関 与 し ています < 質 量 分 析 > 質 量 分 析 とは 分 子 (イオン)の 電 荷 当 たりの 質 量 を 正 確 に 求 めることができる 装 置 です 高 電 圧 をかけた 真 空 中 に 測 定 したい 分 子 をイオン 化 すると 静 電 力 によりそのイオンが 飛 行 し 電 気 的 磁 気 的 に 分 離 し 検 出 するこ とで 質 量 電 荷 比 と 検 出 強 度 からなるマススペクトルが 得 られる プロテオーム 解 析 においては タンパク 質 を 消 化 して 得 られたペプチドの 質 量 分 析 と タンパク 質 のアミノ 酸 配 列 データベースとの 照 合 によりペプチドを 同 定 し その 情 報 を 元 にタンパク 質 を 同 定 することができる <2 光 子 顕 微 鏡 > 2 光 子 顕 微 鏡 は 生 きた 動 物 の 脳 の 神 経 細 胞 を 観 察 することを 可 能 にしました これまでは1つの 光 子 を 蛍 光 物 質 に 吸 収 させ 蛍 光 を 観 察 していましたが 5µm 程 の 深 さまでしかレーザーが 届 かず また 強 いエネルギーの レーザーは 脳 組 織 を 傷 つけてしまいました 2 光 子 顕 微 鏡 は 特 殊 な 技 術 により2つの 光 子 を 同 時 に 蛍 光 物 質 に 与 えて 蛍 光 を 起 こさせるため 長 い 波 長 のレーザーを 用 いることで 高 い 細 胞 透 過 性 が 得 られ しかも 弱 いレー ザーでの 観 察 が 可 能 であるため 脳 組 織 へのダメージを 抑 えることができます このように 透 過 性 が 優 れている ため マウスの 頭 骨 を 薄 く 削 るなどすれば 生 きたままの 脳 の 細 胞 が 観 察 できます < 家 族 性 アルツハイマー 病 > 遺 伝 性 のアルツハイマー 病 であり 原 因 遺 伝 子 としてアミロイド 前 駆 体 タンパク 質 (APP)とプレセニリン1 プレ セニリン2が 報 告 されています アルツハイマー 病 の 病 理 的 な 特 徴 である 老 人 斑 を 構 成 するアミロイドベータの 6
アミノ 酸 配 列 が 同 定 された 後 その 前 駆 体 である APP に 家 族 性 アルツハイマー 病 の 家 系 で 変 異 があることが 報 告 されました さらにその 後 に 家 族 性 アルツハイマー 病 の 原 因 遺 伝 子 として 発 見 された 新 規 遺 伝 子 プレセニ リン1 プレセニリン2は 後 にアミロイドベータを APP から 切 り 出 す 膜 内 酵 素 複 合 体 の 主 要 な 構 成 要 素 である ことが 解 明 されました <アミロイド 抗 体 療 法 > アルツハイマー 病 モデルマウスにアミロイドベータを 免 疫 抗 原 として 注 射 するとアミロイドベータに 対 する 抗 体 が 産 生 され( 能 動 免 疫 ) さらに 病 理 的 な 特 徴 である 老 人 斑 が 消 失 することが 報 告 されました(Bard et al., Nat Med 2) 同 じ 方 法 を 用 いて アルツハイマー 病 患 者 による 臨 床 試 験 が 行 われましたが 副 作 用 として 重 篤 な 脳 炎 が 発 生 したため 臨 床 試 験 は 中 止 になりました しかし 一 部 の 副 作 用 のなかった 患 者 は 長 期 的 にフォロ ーされることとなり 最 終 的 な 結 果 が 本 文 中 に 引 用 した Lancet 誌 の 論 文 として 報 告 されました 老 人 班 は 減 少 しているのに 認 知 症 が 改 善 されないという 衝 撃 的 な 結 果 もこの 中 で 報 告 されました その 後 副 作 用 を 回 避 するために 抗 体 を 体 外 で 人 工 的 に 産 生 し 出 来 上 がった 抗 体 を 静 脈 注 射 する 受 動 免 疫 療 法 による 臨 床 試 験 が 行 われました それらの 結 果 バピニューツマブは 無 効 ソラネツマブは 中 間 報 告 では 軽 度 認 知 症 に 小 さな 有 効 性 が 認 められましたが 最 終 結 果 として 有 効 性 は 認 められませんでした(Doody et al., NEJM 214) 現 在 米 国 を 中 心 に 発 症 前 の 家 族 性 アルツハイマー 病 に 対 する 臨 床 試 験 を 行 い 早 期 病 態 に 抗 体 療 法 を 行 った 場 合 に 有 効 かどうかを 調 査 しています 問 い 合 わせ 先 < 研 究 に 関 すること> 東 京 医 科 歯 科 大 学 難 治 疾 患 研 究 所 脳 統 合 機 能 研 究 センター 神 経 病 理 学 分 野 岡 澤 均 (オカザワ ヒトシ) TEL:3-583-5847 FAX:3-583-5847 E-mail: okazawa.npat@mri.tmd.ac.jp < 報 道 に 関 すること> 東 京 医 科 歯 科 大 学 広 報 部 広 報 課 113-851 東 京 都 文 京 区 湯 島 1-5-45 TEL:3-583-5833 FAX:3-583-272 E-mail:kouhou.adm@tmd.ac.jp < 文 部 科 学 省 脳 科 学 研 究 戦 略 推 進 プログラム に 関 すること> 脳 科 学 研 究 戦 略 推 進 プログラム 事 務 局 ( 担 当 : 矢 口 本 木 ) TEL:3-5282-5145 FAX:3-5282-5146 E-mail:srpbs@nips.ac.jp 7