溶 存 有 機 物 の 細 分 画 による 特 性 把 握 と 有 機 汚 濁 指 標 との 関 係 大 阪 市 立 環 境 科 学 研 究 所 浅 川 大 地 1.はじめに 近 年 の 河 川 や 湖 沼 水 質 の 改 善 にともない 有 機 汚 濁 指 標 として 用 いられてきた 化 学 的 酸 素 要 求 量 (COD)や 生 物 的 酸 素 要 求 量 (BOD)といった 従 前 の 指 標 だけでは 生 物 の 生 息 環 境 や 水 化 学 処 理 において 問 題 になる 水 質 を 判 断 することが 困 難 になってきた[1] それは 水 質 管 理 の 課 題 がより 高 度 化 したことに 加 え COD や BOD が 有 機 物 のどのような 特 性 を 表 しているのかが 曖 昧 であることに 起 因 する 特 に COD は 過 マンガン 酸 カリウムに 酸 化 されうる 有 機 物 量 を 酸 素 消 費 量 として 間 接 的 に 示 しているに 過 ぎず 有 機 汚 濁 指 標 とし ての 意 義 は 不 明 瞭 である そのために COD を 全 有 機 態 炭 素 (TOC)に 変 更 すべきだと いう 議 論 が 数 十 年 続 いているが 結 論 は 出 ていない COD の 有 機 汚 濁 指 標 としての 見 直 し や 再 評 価 を 行 うためには 水 環 境 中 の 有 機 物 の 詳 細 な 特 性 と COD との 関 係 を 明 らかにす る 必 要 がある 複 雑 で 連 続 的 な 混 合 物 である 環 境 水 中 の 有 機 物 の 特 性 を 調 べるためには 有 機 物 を 何 ら かの 方 法 で 分 離 分 画 してグループ 分 けし その 特 性 を 分 析 することが 効 果 的 である 例 え ば 難 分 解 性 有 機 物 である 腐 植 (フミン) 物 質 は 疎 水 性 樹 脂 とイオン 交 換 樹 脂 を 用 いた 吸 着 クロマトグラフィーによって 得 られる 一 つの 画 分 である この 疎 水 性 樹 脂 による 分 画 法 は 水 環 境 や 土 壌 中 の 有 機 物 を 親 水 性 疎 水 性 や 酸 性 塩 基 性 によって 分 画 す る 方 法 として 一 般 的 に 使 用 されている この 方 法 によって 有 機 物 を 分 画 し フミン 物 質 ( 疎 水 性 酸 性 ) 画 分 のみでなく 親 水 性 酸 性 画 分 も 難 分 解 性 を 示 すこと[2,3]が 明 らかになってい る 一 方 有 機 化 合 物 の 物 理 的 大 きさも 化 合 物 の 動 態 や 反 応 性 に 関 与 するため 分 子 サイ ズ による 分 画 法 も 水 環 境 や 土 壌 中 の 有 機 物 の 構 造 特 性 や 機 能 性 を 詳 しく 調 べるために 使 用 されている[4,5] 分 解 性 に 関 しては 高 分 子 サイズの 溶 存 有 機 物 画 分 の 方 が 生 分 解 され やすいこと[6]が 報 告 されている このように 親 水 性 疎 水 性 と 酸 性 塩 基 性 分 子 サイズ は 有 機 混 合 物 を 物 理 化 学 的 特 性 に 従 って 分 画 するのに 有 用 である そこで 本 研 究 では これらの 物 理 化 学 的 特 性 に 基 づいた 分 画 法 を 組 み 合 わせて 溶 存 有 機 物 (DOM)を 細 分 画 し 各 画 分 の 構 造 特 性 解 析 や COD 測 定 によって 溶 存 有 機 物 の 構 造 特 性 と COD 値 との 関 連 性 を 探 求 することを 目 的 とする 2. 試 料 と 方 法 2.1 水 試 料 の 採 取 水 試 料 の 採 取 容 器 にはポリエチレン 製 のキュービテナーを 使 用 した 容 器 は 使 用 前 に 希 塩 酸 と 蒸 留 水 で 洗 浄 した 滋 賀 県 琵 琶 湖 環 境 科 学 研 究 センター 所 有 の 実 験 調 査 船 にて 琵 琶 湖 北 湖 の 定 期 調 査 測 定 点 ( 緯 度 ;35.3821 経 度 ;136.0983)の 表 層 水 を 採 取 した 採 水 は 2013 年 12 月 19 日 午 前 中 に 実 施 し 多 項 目 水 質 プロファイラー(F-probe) で 測 定 した 採 取 時 の 水 温 は 12.3 電 気 伝 導 度 は 124.5 μs/cm 溶 存 酸 素 濃 度 は 9.3 mgo/l 濁 度 は 2.7 FTU であった
2.2 溶 存 有 機 物 の 樹 脂 分 画 試 料 水 ( 約 100 L)を 研 究 室 に 持 ち 帰 り 孔 径 3μm(Advantec TCP-3-S1FE)と 0.45 μm のカートリッジフィルター(Advantec TCR-045-S1FE)にて 逐 次 ろ 過 した ろ 過 し た 試 料 水 の 一 部 はそのまま 冷 暗 所 (5 )で 保 存 し 残 りの 試 料 水 には 塩 酸 を 加 えて 酸 性 化 (ph 2 以 下 )してから 冷 暗 所 にて 保 存 した ろ 液 中 の 溶 存 有 機 物 (DOM)を 樹 脂 吸 着 ク ロマトグラフィーによって 分 画 した 本 研 究 では Leenheer[7]と Aiken[8]の 方 法 を 参 考 にした( 図 1) 樹 脂 には Supelite DAX-8 (Supelco) Amberlite XAD-4 (Sigma-Aldrich), 陽 イオン 交 換 樹 脂 (AG MP-50, Bio-rad) 陰 イオン 交 換 樹 脂 (AG MP-1, Bio-rad)を 用 いた DAX-8 樹 脂 と XAD-4 樹 脂 は 使 用 前 にジメチルエーテルとアセトン ア セトニトリル メタノールを 用 いて 各 24 時 間 以 上 ソックスレー 抽 出 器 で 洗 浄 し さらに 0.1M NaOH 溶 液 と 0.1M HCl 溶 液 で 繰 り 返 し 浸 漬 洗 浄 を 行 った AG MP-50 樹 脂 と AG MP-1 樹 脂 は 使 用 前 に 1M NaOH と 1M HCl で 繰 り 返 し 浸 漬 洗 浄 を 行 い AG MP-50 樹 脂 は H + 型 に AG MP-1 樹 脂 は OH - 型 にして 使 用 した DAX-8 XAD-4 AG MP-50 AG MP-1 の 各 樹 脂 を 脱 気 処 理 してから それぞれ 90 ml 85 ml 45 ml 45 ml をガラス 製 カラムに 湿 式 充 てん した これらのカラムを 直 列 に 接 続 し 酸 性 化 した DOM 溶 液 を 送 液 ポンプ(Masterflex, model 7016-20)を 使 用 して 20 ml/min の 流 速 で 通 過 させた 約 10 L の DOM 溶 液 を 通 過 させる 毎 に 各 カラムの 溶 出 液 中 の TOC 濃 度 を 測 定 した DAX-8 樹 脂 への 吸 着 炭 素 濃 度 が 初 図 1 樹 脂 吸 着 クロマトグラフィー 期 値 の 1/2 になるまで 試 料 水 を 通 過 させた による DOM の 分 画 (90 L)[7] 試 料 水 通 過 後 DAX-8 樹 脂 を 試 料 水 の 通 過 方 向 とは 逆 方 向 から 0.1M NaOH で 溶 出 して 疎 水 性 酸 性 画 分 (Hydrophobic Acids; HoA)を 得 た HoA 画 分 は 新 たな AG MP-50 樹 脂 カラム(H + 型 )に 通 過 させて Na + を 除 去 した さらに DAX-8 樹 脂 から 75%アセトニト リルで 有 機 物 を 溶 出 して 疎 水 性 中 性 画 分 (Hydrophobic Neutrals; HoN)を 得 た TrA 画 分 は 減 圧 濃 縮 によってアセトニトリルを 留 去 した XAD-4 樹 脂 も 同 様 に 有 機 物 を 溶 出 し Transphilic 酸 性 画 分 (Transphilic Acis; TrA ) と Transphilic 中 性 画 分 (Transphilic Neutrals; TrN)を 得 た AG MP-50 樹 脂 と AG MP-1 樹 脂 は それぞれ 1M NH 4 (OH)と 3M NH 4 (OH)で 溶 出 し 親 水 性 / 疎 水 性 塩 基 性 画 分 (Hydrophobic/Hydrophilic Bases; Hi/HoB)と 親 水 性 酸 性 画 分 (Hydrophilic Acids; HiA)を 得 た Hi/HoB 画 分 と HiA 画 分 は 減 圧 濃 縮 によってア ンモニアを 留 去 した
2.3 溶 存 有 機 物 の 分 子 サイズ 分 画 2.2 で 得 られた 各 画 分 をさらに 高 速 サイズ 排 除 クロマトグラフィー(HPSEC)によっ て 3 画 分 に 分 けた HPSEC カラムには Asahipak GS-220 HQ (Shodex 7.5 mmi.d. x 300 mm 排 除 限 界 分 子 量 ;PEG 換 算 3,000)にガードカラム(Asahipak GS-2G 7B Shodex 7.5 mmi.d. x 50 mm)を 接 続 して 使 用 した 移 動 相 には 10 mm リン 酸 ナトリウム 緩 衝 液 (ph 7)とアセトニトリルを 4:1 で 混 合 した 溶 液 を 使 用 した 液 体 クロマトグラフは Agilent 製 HP1100 を 使 用 し 紫 外 可 視 吸 光 光 度 検 出 器 (Agilent G1314A)で 260nm の 吸 光 度 を 検 出 した なお カラムや 分 離 条 件 は DOM の 低 分 子 領 域 の 分 画 を 目 的 とし て 検 討 し 低 分 子 領 域 の 溶 出 時 間 を 引 き 延 ばすように 設 定 した この 条 件 は 分 子 サイ ズ 測 定 を 目 的 としたものではないため 検 量 線 作 成 と 分 子 サイズの 計 算 は 行 わなかっ た 2.2 で 得 られた 各 画 分 の 一 部 を 減 圧 濃 縮 して 孔 径 0.45μm のシリンジフィルターで ろ 過 し 20~50μL を 注 入 した 各 画 分 は 20~50 回 程 度 繰 り 返 し 注 入 した 検 出 器 か らの 溶 出 液 をフラクションコレクター(Advantec SF-2100)によって 分 画 した 各 画 分 はクロマトグラムのピーク 形 状 を 参 考 に 大 (Large;L) 中 (Middle;M) 小 サイ ズ 画 分 (Small;S)に 細 分 画 した 各 画 分 は 減 圧 濃 縮 によってアセトニトリルを 留 去 し 蒸 留 水 で 一 定 容 量 にフィルアップして 炭 素 濃 度 測 定 や COD 測 定 に 供 した 2.4 全 有 機 体 炭 素 (TOC) 全 有 機 体 炭 素 濃 度 は 島 津 製 の TOC 計 (TOC-L CPH )で 測 定 した 試 料 溶 液 の 50μL を 不 揮 発 性 有 機 炭 素 (NPOC) 測 定 法 で 分 析 した 2.5 吸 光 度 試 料 溶 液 を 0.1 M NaOH でアルカリ 性 にして 紫 外 可 視 吸 光 光 度 計 ( 島 津 UV-1700) によって 波 長 254 nm の 吸 光 度 を 測 定 した この 吸 光 度 と 試 料 溶 液 の TOC 濃 度 から 光 路 長 1 m DOM の 炭 素 濃 度 1 mgc/l 当 たりの 254 nm における 吸 光 度 (SUVA 254 )を 算 出 した 2.6 熱 化 学 分 解 ガスクロマトグラフィー 質 量 分 析 (py-gc/ms) 樹 脂 分 画 した 各 画 分 の 一 部 を 凍 結 乾 燥 し py-gc/ms 法 によって 構 成 成 分 組 成 の 測 定 を 行 った 測 定 条 件 は 次 の 通 り:ガスクロマトグラフ;Agilent 製 7890A メチル 化 剤 ; 水 酸 化 テトラメチルアンモニウム(TMAH) 内 標 準 ;ナノデカン 酸 熱 分 解 装 置 ;キュ リーポイントパイロライザー(JHP-5 日 本 分 析 工 業 ) 熱 分 解 温 度 ;445 スプリッ ト 比 ;1:100 GC カラム;DB-5 MS(Agilent) カラム 初 期 温 度 ;50 カラム 最 終 温 度 ;310 昇 温 速 度 ;6 /min 質 量 分 析 計 (Jeol Jms-Q1000GC MkⅡ)では 電 子 イオン 化 法 でイオン 化 し scan 分 析 を 行 った 脂 肪 酸 メチルエステルはステアリン 酸 (C18)メチルエステルの 検 量 線 をもとに 定 量 した バニリン 類 やシリンジル 類 ケイ ヒ 酸 類 等 のフェノール 化 合 物 はそれぞれ 検 量 線 を 作 成 して 定 量 を 行 った 2.7 COD 測 定 COD の 測 定 は JIS K0102 に 従 って 行 った すなわち 硫 酸 酸 性 にした 試 料 溶 液 に 硝 酸 銀 水 溶 液 と 0.005 M の 過 マンガン 酸 カリウム 溶 液 を 加 え 100 の 沸 騰 水 浴 中 で 30 分
炭 素 濃 度 ( mgc/l) 間 加 熱 した 加 熱 後 0.0125 M シュウ 酸 溶 液 を 加 え 0.005 M 過 マンガン 酸 カリウム 溶 液 で 滴 定 を 行 った この 際 試 料 溶 液 の TOC 濃 度 を 事 前 に 測 定 し 同 程 度 の 炭 素 量 ( 約 0.2~0.3 mgc)になるように 試 料 溶 液 の 量 を 調 整 した ただし HiN と Hi/HoB 画 分 の 一 部 は 試 料 溶 液 の TOC 濃 度 が 低 く 上 記 の 炭 素 量 を 供 試 することができなかった 3. 結 果 と 考 察 3.1 樹 脂 吸 着 クロマトグラフィーによる 分 画 琵 琶 湖 表 層 水 約 90 L(1.1 mgc/l)を 樹 脂 に 通 過 させた 際 の DAX-8 樹 脂 と XAD-4 樹 脂 に 吸 着 した 炭 素 濃 度 を 図 2 に 示 した DAX-8 樹 脂 への 吸 着 炭 素 濃 度 は 最 初 の 10 L 通 過 後 は 0.38 mgc/l だったが 徐 々に 減 少 し 90 L 通 過 後 には 0.19 mgc/l になった 一 方 XAD-4 樹 脂 への 吸 着 炭 素 濃 度 は 20~50 L 通 過 後 に 上 昇 したが それ 以 降 は 漸 減 傾 向 であった 図 3 は 樹 脂 から 溶 出 した 各 画 分 の 炭 素 濃 度 を 測 定 し 元 の 試 料 水 中 での 濃 度 に 換 算 して 各 画 分 の 炭 素 濃 度 組 成 を 示 したものである DOM 中 の 有 機 体 炭 素 濃 度 の 46%が HoA HoN TrA TrN Hi/HoB 画 分 として 回 収 された HiA 画 分 の 炭 素 量 は 極 めて 低 く かったため 以 降 の 試 験 には 用 いなかった これは 親 水 性 の 酸 性 化 合 物 が TrA 画 分 に 含 まれているためだと 考 えられた また HiN 画 分 が 32.6%と 最 も 存 在 割 合 が 高 い 結 果 になった HiN 画 分 の 炭 素 濃 度 は 分 画 カラムの 出 口 で 測 定 しているため 樹 脂 由 来 の 炭 素 がわずかに 溶 出 しており HiN 画 分 濃 度 の 過 大 評 価 につながったと 考 えられた ま た 21.2%の 炭 素 量 が 回 収 できなかったが これは 各 画 分 の 精 製 中 における 損 失 だと 考 えられた 0.5 0.4 DAX-8 吸 着 炭 素 濃 度 XAD-4 吸 着 炭 素 濃 度 0.3 0.2 0.1 0 0 20 40 60 80 100 通 水 量 (L) 図 2 試 料 水 量 に よ る DAX-8 と XAD-4 樹 脂 への 吸 着 炭 素 濃 度 の 変 化 図 3 各 画 分 の 炭 素 濃 度 ( 単 位 mgc/l 括 弧 内 は DOM に 対 する 百 分 率 ) 3.2 分 子 サイズによる 分 画 未 分 画 の DOM 試 料 と 各 画 分 の HPSEC クロマトグラムを 図 4 に 示 した DOM のクロマト グラムに 見 られる 10 分 付 近 と 11 分 付 近 のピーク 形 状 は HoA 画 分 のクロマトグラムと よく 類 似 していた TrA 画 分 のクロマトグラムも DOM や HoA 画 分 と 比 較 的 類 似 していた が TrA 画 分 では HoA 画 分 よりも 11 分 付 近 のピークが 大 きかった 酸 性 画 分 のクロマトグラムが 比 較 的 類 似 していたのに 対 して HoN と TrN の 中 性 画 分
炭 素 濃 度 (mgc/l) のクロマトグラムの 類 似 性 は 低 かった HoN 画 分 では HoA 画 分 と 同 様 に 10 分 と 11 分 付 近 のピークが 主 要 なピークであったが TrN 画 分 には 11 分 付 近 のピークに 加 えてよ り 分 子 サイズの 小 さい 13 分 付 近 のピークが 検 出 された Hi/HoB 画 分 では TrN 画 分 と 類 似 した 溶 出 時 間 にピークが 観 察 されたが よりブロードであった また HiN 画 分 に は 排 除 部 (V 0 )に 大 きなピークがみられ タンパク 質 などのサイズの 大 きい 中 性 化 合 物 が 含 まれていると 推 察 された HPSEC 分 取 後 に COD 分 析 に 必 要 な 量 の 有 機 物 が 得 られると 考 えられた HoA HoN TrA TrN Hi/HoB 画 分 について 分 子 サイズによる 分 画 を 行 った HPSEC 分 取 を 行 った 際 の クロマトグラムを 図 5 に 示 す 各 画 分 を 減 圧 濃 縮 して 高 濃 度 の 試 料 を HPSEC カラムに 注 入 したが ピーク 分 離 の 劣 化 は 見 られなかった 各 画 分 を 図 5 のように L サイズ M サイズ S サイズの 3 画 分 に 細 分 画 した 各 画 分 の 炭 素 濃 度 測 定 から 元 の 試 料 水 中 の 濃 度 に 換 算 した 結 果 を 図 6 に 示 した Vo Vt 図 4 未 分 画 の DOM と 樹 脂 分 画 した 各 画 分 の HPSEC クロマトグラム 図 5 HPSEC 分 取 時 の 各 画 分 のクロマ トグラムとサイズ 分 画 の 位 置 0.20 0.15 Small Middle Large 0.10 0.05 0.00 HoA HoN TrA TrN Hi/HoB 図 6 HPSEC 分 取 した 各 画 分 の 炭 素 濃 度 ( 試 料 水 中 の 濃 度 に 換 算 )
3.3 樹 脂 分 画 画 分 の 特 性 樹 脂 吸 着 クロマトグラフィーで 分 画 した 画 分 の 化 学 構 造 特 性 を 把 握 するために 吸 光 度 特 性 (SUVA 254 )と 構 成 成 分 組 成 の 分 析 を 行 った 各 画 分 の SUVA 254 値 を 表 1に 示 す SUVA 254 は DOM 中 の 芳 香 族 化 合 物 やフミン 物 質 の 簡 易 的 指 標 として 利 用 されている フ ミン 物 質 に 相 当 する HoA 画 分 の SUVA 254 値 が 2.47 L mgc -1 m -1 と 最 も 高 く Hi/HoB 画 分 が 1.04 L mgc -1 m -1 と 最 も 低 かった 表 1 DOM および 各 画 分 の 吸 光 度 特 性 Fraction SUVA 254 (L mgc -1 m -1 ) DOM 1.71 HoA 2.47 HoN 1.58 TrA 1.53 TrN 1.23 Hi/HoB 1.04 次 に 水 酸 化 テトラメチルアンモニウム(TMAH)でメチル 化 する 熱 化 学 分 解 GC/MS 法 (py-gc/ms)で 各 画 分 の 構 成 成 分 の 定 量 を 行 った 図 7 に 各 画 分 のパイログラムを 示 した 各 画 分 には フミン 物 質 にも 見 られる 脂 肪 酸 メチルエステル 類 (m/z 74)や リグニンフェノール 類 のメチル 化 物 (m/z 166)が 検 出 された ただし それらの 化 合 物 の 収 量 は 画 分 によって 異 なっていた 各 画 分 の py-gc/ms 分 析 で 得 られたフェノール 性 化 合 物 と 脂 肪 酸 メチルエステル 類 の 収 量 を 表 2に 示 した HoA 画 分 は 他 の 画 分 よりも フェノール 性 化 合 物 のメチルエステル 類 を 多 く 含 み C12-C18 の 脂 肪 酸 メチルエステル 類 の 収 量 は 少 なかった 一 方 HoN 画 分 は C12-C18 の 脂 肪 酸 メチルエステル 類 の 収 量 が 高 く 植 物 プランクトン 由 来 成 分 の 影 響 を 強 く 受 けていることが 示 唆 された リグニンフェノール 類 の 収 量 比 はフミン 物 質 の 起 源 推 定 に 利 用 されている 表 3 に 示 した 各 画 分 のフェノール 類 の 収 量 比 をみると HoA 画 分 はシリンジル 類 /バニリン 類 の 比 が 他 の 画 分 よりも 高 く 比 較 的 裸 子 植 物 の 木 質 部 の 寄 与 が 大 きいと 推 察 された また バニリン/バニリン 酸 比 は TrN や Hi/HoB 画 分 で 高 く 相 対 的 に 酸 化 が 進 行 して いる 可 能 性 が 示 された なお Hi/HoB 画 分 には 塩 基 性 化 合 物 である 2,4,6-トリアミ ノ-1,3,5-トリアジンのヘキサメチル 化 物 のピークが 検 出 された この 化 合 物 の 収 量 は 定 量 していないが ピーク 強 度 から 相 当 量 含 まれていると 推 定 された 表 2 DOM 画 分 のフェノール 化 合 物 と 脂 肪 酸 メチルエステル(FAME) 類 の 収 量 (μg/g) Compounds HoA HoN TrA TrN Hi/HoB Vanillic compounds 783 124 330 319 310 Sillingic compounds 321 33.3 65.8 35.8 - Cinamic compouds 119 15.2 25.9 27.9 - C12-18 even FAME 994 24000 2850 5370 5240 C20-24 even FAME 3.37 75.5 4.54 34.4 7.41 C9-17 odd FAME 136 784 299 626 593
図 7 DOM 画 分 の 熱 化 学 メチル 化 GC/MS のトータルイオンクロマトグラム(TIC)とマ スクロマトグラム(m/z 74, 166) 表 3 DOM 画 分 のフェノール 化 合 物 の 組 成 比 Compounds HoA HoN TrA TrN Hi/HoB Sillingic/Vanillic 0.41 0.27 0.20 0.11 - Cinamic/Vanillic 0.15 0.12 0.08 0.09 - Vanilin/Vanillic acid 0.32-0.26 0.83 1.04 Sillingic/Sillingic acid 3.3 - - - - 3.4 DOM および 各 画 分 の COD 特 性 COD 分 析 は 測 定 値 のばらつきが 大 きいため 先 ず 琵 琶 湖 の 水 試 料 ( 未 分 画 の DOM TOC 濃 度 1.1 mgc/l)を 繰 り 返 し 測 定 して 測 定 値 のばらつきを 評 価 した 10 回 繰 り 返 し 測 定 した 結 果 平 均 値 は 1.71 mgo/l 標 準 偏 差 は 0.091 mgo/l 変 動 係 数 は 5.3%であ った DOM 各 画 分 の COD 測 定 回 数 は 試 料 量 が 限 られていたため 1 回 とした 樹 脂 吸 着 クロマトグラフィーで 分 画 した 各 画 分 の COD を 測 定 し 有 機 体 炭 素 1mg 当 たりの COD 値 を 算 出 して 図 8 に 示 した 未 分 画 の DOM は 1.28 mgo/mgc であり HoA 画 分 と Hi/HoB 画 分 はそれぞれ 1.34 と 1.48 mgo/mgc と DOM よりもやや 高 かった 一 方 HoN と TrA TrN 画 分 は 1.1 mgo/mgc 程 度 であった フミン 物 質 とも 呼 ばれる HoA 画 分 は 比 較 的 難 分 解 性 を 示 すと 考 えられているため 炭 素 当 たりの COD 値 は 他 の 画 分 より も 低 いと 予 想 していたが 本 研 究 の 結 果 では 異 なっていた また 芳 香 族 構 造 の 指 標 にもなっている SUVA 254 ( 表 1)と 炭 素 1mg 当 たりの COD 値 との 間 に 相 関 性 はなかった 表 1 に 示 したように SUVA 254 は HoA 画 分 で 最 も 高 く Hi/HoB 画 分 で 最 も 低 かった しかし 炭 素 1mg 当 たりの COD 値 は Hi/HoB 画 分 が 最 も 高 く 次 い
COD/TOC (mgo/mgc) COD/TOC (mgo/mgc) で HoA 画 分 が 高 かった この 結 果 は SUVA 254 は COD による DOM の 分 解 程 度 の 指 標 に はならないことを 示 唆 している Hi/HoB 画 分 で 炭 素 1mg 当 たりの COD 値 が 高 かったの は py-gc/ms 分 析 で 示 されたようにアミド 化 合 物 を 含 んでいることが 原 因 かもしれな い 窒 素 含 有 有 機 物 を 多 く 含 めば 炭 素 当 たりの 有 機 物 量 が 多 くなり COD 値 も 高 くな る 可 能 性 が 考 えられた py-gc/ms によって 測 定 された 構 成 成 分 の 収 量 と COD 値 との 関 係 は 今 回 の 5 点 のみの 試 料 からは 不 明 であった 本 分 析 法 で 定 量 された 構 成 成 分 は 各 画 分 の 数 %であったため 各 画 分 全 体 の 特 性 を 示 しているとは 言 えないことも 一 因 である 1 H NMR 等 で 平 均 化 学 構 造 特 性 を 解 析 すれば COD との 関 係 性 が 見 いだせる 可 能 性 がある 次 に 各 画 分 を 分 子 サイズによって 細 分 画 した 画 分 の COD 値 を 測 定 した 結 果 を 図 9 に 示 す HoA 画 分 では 細 分 画 前 に 比 べて 炭 素 当 たりの COD 値 が 減 少 したように 見 え た これは 分 画 中 のろ 過 や 精 製 過 程 での 有 機 物 の 損 失 等 が 原 因 として 考 えられた また HoA 画 分 の 分 子 サイズの 大 きい 画 分 (HoA-L)の 炭 素 1mg 当 たりの COD 値 は 0.79 mgo/mgc で 中 サイズの 画 分 (HoA-M)は 0.86 mgo/mgc であったが 分 子 サイズの 小 さ い 画 分 (HoA-S)はそれらよりも 低 く 0.44 mgo/mgc であった 同 様 の 傾 向 は TrA 画 分 でも 観 察 された すなわち HoA 画 分 や TrA 画 分 では 分 子 サイズが 小 さいほど COD 分 解 耐 性 があるように 見 えた HoN 画 分 の HPSEC クロマトグラムは HoA 画 分 と 類 似 していたが サイズ 毎 の COD 特 性 は 異 なっていた HoN 画 分 では HoN-M 画 分 の 炭 素 1mg 当 たりの COD が 最 も 低 かった この 傾 向 は Hi/HoB 画 分 でも 同 様 であった それとは 逆 に TrN 画 分 は TrN-M 画 分 が 炭 素 1mg 当 たりの COD 値 が 最 も 高 かった 今 回 は 分 子 サイズによって 細 分 画 した 画 分 の 構 造 特 性 解 析 を 実 施 していないため 構 造 特 性 と COD 特 性 との 関 係 は 把 握 できな かった しかし 分 子 サイズによっても COD 特 性 が 大 きく 異 なることを 示 すことがで きた 1.5 1.5 Large Middle Small 1.0 1.0 0.5 0.5 0.0 DOM HoA HoN TrA TrN Hi/HoB 0.0 HoA HoN TrA TrN Hi/HoB 図 8 DOM と 樹 脂 分 画 した 各 画 分 の 炭 素 1mg 当 たりの COD 値 エラーバーは DOM の 繰 り 返 し 分 析 から 算 出 した 変 動 係 数 (5.3%)を 表 す 図 9 HPSEC 分 画 し た 各 画 分 の 炭 素 1mg 当 たりの COD 値 エラーバーは DOM の 繰 り 返 し 分 析 から 算 出 した 変 動 係 数 (5.3%)を 表 す
4.まとめ 本 研 究 では 琵 琶 湖 水 中 の DOM を 親 水 性 - 疎 水 性 や 酸 性 - 塩 基 性 さらに 分 子 サイズ によって 細 分 画 し 各 画 分 の COD 特 性 ( 有 機 体 炭 素 1mg 当 たりの COD 値 )と 構 造 特 性 との 関 係 を 明 らかにしようとした しかし 樹 脂 吸 着 クロマトグラフィーによって 得 られた HoA HoN TrA TrN Hi/HoB 画 分 の COD 特 性 には SUVA 254 や py-gc/ms による 構 成 成 分 組 成 と 明 瞭 な 関 係 性 は 見 られなかった 各 画 分 の 構 造 特 性 と COD 特 性 と 相 関 関 係 を 示 すためには より 多 くの 試 料 の 分 析 や 核 磁 気 共 鳴 (NMR)スペクトル 分 析 が 必 要 である 各 画 分 を 分 子 サイズで 細 分 画 したところ 分 子 サイズによって 炭 素 当 たりの COD 値 が 異 なることが 明 らかになった さらに 分 子 サイズと COD 特 性 の 大 小 関 係 は 画 分 に よって 異 なることが 分 かったが その 理 由 は 不 明 であった また 図 10 に 示 したように 今 回 分 離 精 製 した 画 分 の 元 の 試 料 水 COD 値 への 寄 与 は 約 37%であり DOM の 全 体 像 の 把 握 には 課 題 が 残 った これは 今 回 は COD の 測 定 を しなかった HiN 画 分 の 分 析 や 各 画 分 の 精 製 過 程 の 見 直 しによる 回 収 率 の 向 上 によっ て 改 善 すると 予 想 される 加 えて 季 節 変 化 の 把 握 などの 課 題 も 考 えられるが 本 研 究 によって 樹 脂 吸 着 クロマトグラフィーと HPSEC によって DOM の COD 特 性 を 把 握 できる 可 能 性 が 示 された 本 研 究 の 進 展 によって COD の 指 標 的 意 義 の 見 直 しや 再 評 価 が 可 能 になると 期 待 できる 試 料 水 図 10 各 画 分 の 琵 琶 湖 試 料 水 の COD 値 への 寄 与 5. 謝 辞 琵 琶 湖 での 採 水 にご 協 力 いただいた 滋 賀 県 立 琵 琶 湖 環 境 科 学 研 究 センターの 早 川 和 秀 様 にこの 場 を 借 りて 御 礼 申 し 上 げます 6. 参 考 文 献 [1] 国 土 交 通 省 河 川 局 河 川 環 境 課 (2009) 今 後 の 河 川 水 質 管 理 の 指 標 について( 案 ) [2] Jandl R and Sollins P (1997) Biol Fertil Soils, 25, 196 [3] Imai A et al. (2001) Wat Res, 35, 4019 [4] Becher G et al. (1985) Environ Sci Technol, 19, 422 [5] Iimura et al. (2013) Soil Biol Biochem, 57, 60 [6] Amon RMW and Benner R (1994) Nature, 369, 549 [7] Leenheer JA (1981) Environ Sci Technol, 15, 578 [8] Aiken GR et al (1992) Org Geochem, 18, 567