Gmail が 大 学 メールサーバへ 与 える 負 荷 状 況 の 分 析 笠 原 義 晃 伊 東 栄 典 堀 良 彰 藤 村 直 美 九 州 大 学 では, 従 来 から 大 学 ドメインのメールサーバを 学 内 に 構 築 し, 構 成 員 へメールサービスを 提 供 してきた. 2012 年 1 月 頃 より, 学 内 の 情 報 サービスに 対 し 利 用 者 認 証 機 能 等 を 提 供 する 全 学 認 証 サーバの 負 荷 の 高 さが 問 題 とな り,その 原 因 の 一 つが 学 生 向 けメールサーバであることが 明 らかになった. 詳 細 な 分 析 の 結 果,Google 社 の Gmail から 本 学 のメールサーバへ 持 続 的 なアクセスがあり, 中 でも 既 に 卒 業 などで 消 滅 したアカウントへのアクセスが 多 数 あることが 分 かった. 本 稿 では, 本 学 の 学 生 メールサーバのアクセスログ 解 析 に 基 づいて,Gmail がメールサーバへ 与 える 負 荷 状 況 の 分 析 とその 理 由 について 述 べ, 対 応 策 について 検 討 する. Google makes a chronic big load to university mail server YOSHIAKI KASAHARA EISUKE ITO YOSHIAKI HORI NAOMI FUJIMURA Traditionally, Kyushu University has been providing email service using its own domain name for staff members and students of the university. Around January 2012, the high load of the university authentication server encountered a problem, and we realized that one of causes was the access from the mail server for students (called Student Primary Mail Service). Detailed analysis showed that there was chronic big load produced by Google s Gmail, especially toward nonexistent accounts removed due to graduation. In this paper, we explain the current situation and reasons of the big load induced by Gmail and its possible countermeasures based on the analysis of access logs for Student Primary Mail Service. 1. はじめに 情 報 通 信 サービスは, 大 学 における 教 育 研 究 活 動 でも 欠 かせないものとなっている. 様 々なサービス 中 でも, 電 子 メールは,インターネットが 普 及 する 前 から 現 在 まで, 基 本 的 かつ 重 要 なサービスとして 使 われている. 大 学 が 提 供 する 電 子 メール 環 境 は 設 備 の 視 点 から 見 ると 二 つに 分 類 で き, 一 つは 大 学 ドメインのメールサーバを 独 立 メールサー バとして 設 置 する 方 法,もう 一 つは SaaS(Software as a Service) 型 のメールサービスである.SaaS 型 のメールサー ビスは 2007 年 頃 から 普 及 し 始 め,Google 社 の Gmail や Yahoo!メール,Windows Live@edu などがある. 大 学 以 外 が 提 供 するメール 利 用 も 多 い. 現 在, 大 学 構 成 員 のほぼ 全 員 が, 大 学 ドメインではないメールアドレスを 保 有 していると 推 測 される.その 代 表 は 携 帯 電 話 に 付 随 す るメールアドレスである. 次 に 無 料 で 提 供 されているメー ルサービスであり,Google 社 の Gmail,Yahoo!メール, Microsoft 社 の Outlook( 旧 Hotmail)などがある. 他 にも ISP が 提 供 するメールアドレスの 利 用 者 もいる. 筆 者 らが 所 属 する 九 州 大 学 では, 大 学 ドメインのメール サーバを 学 内 に 構 築 し, 構 成 員 へ 提 供 する 方 法 を 継 続 して きた. 全 学 生 向 けの 電 子 メールサービスを 1995 年 から 現 在 まで 継 続 して 提 供 しており[1][2],2009 年 7 月 からは 全 職 九 州 大 学 情 報 基 盤 研 究 開 発 センター Research Institute for Information Technology, Kyushu University 九 州 大 学 システム 情 報 科 学 研 究 院 Department of ISEE, Kyushu University 九 州 大 学 芸 術 工 学 研 究 院 Department of Design, Kyushu University 員 向 けに 基 本 的 なメール 環 境 を 提 供 するサービスも 開 始 し ている[3][4]. 我 々は 本 学 の 全 学 認 証 サーバの 負 荷 を 分 析 してきた[5]. 認 証 サーバの 負 荷 としては, 無 線 LAN の 接 続 時 と, 電 子 メール 利 用 時 の 認 証 処 理 が 膨 大 で,その 二 つのサービスで 全 体 の 95% 以 上 の 認 証 処 理 を 占 めていることが 分 かった. 学 生 メールサーバから 来 る 認 証 処 理 について 詳 細 に 分 析 し た 結 果,Google 社 の Gmail から 本 学 のメールサーバへアク セスする 処 理 数 が 膨 大 であることが 分 かった. 実 際, 本 学 の 学 生 メールサーバに 来 る POP アクセスのうち,55%が Gmail からのものである.しかも,Gmail から 来 るアクセス のうち,65%が 卒 業 などでサーバ 側 に 存 在 しないアカウン トへのアクセスである. 本 稿 では,Gmail が 九 州 大 学 の 学 生 メールサーバへ 与 え る 負 荷 状 況 の 分 析 について 述 べる. 本 稿 の 構 成 は 以 下 のと おりである. 第 2 節 で 本 学 のメール 環 境 を 説 明 する. 第 3 節 で 認 証 サーバおよび 学 生 メールサーバのログから 分 析 し た,メールサーバの 負 荷 状 況 を 述 べ,Gmail が 大 学 の 学 生 メールへ 負 荷 を 与 える 理 由 を 述 べる. 第 4 節 で,Gmail が 全 世 界 に 大 学 メールサーバに 与 える 影 響 についての 定 性 的 分 析 と,Gmail の 影 響 に 対 する 対 応 策 を 検 討 する. 最 後 に 第 5 節 でまとめと 今 後 の 課 題 を 述 べる. 2. 九 州 大 学 の 全 学 メールサーバ まず 初 めに, 我 々が 所 属 する 九 州 大 学 情 報 統 括 本 部 が 提 供 しているメールサーバ[1][2][3][4]について 説 明 する. 2.1 学 内 構 成 員 数 大 学 の 主 たる 構 成 員 は 学 生 と 教 職 員 である. 学 生 は, 学 c2012 Information Processing Society of Japan 1
部 学 生 と 大 学 院 生 からなる. 正 規 の 学 生 ( 正 課 生 ) 以 外 に, 研 究 生 や 科 目 等 履 修 生 などの 非 正 課 生 も 在 籍 している. 学 生 と 教 職 員 以 外 にも, 特 別 研 究 員 や, 外 部 組 織 で 雇 用 され ている 派 遣 社 員, 訪 問 研 究 者 など, 様 々な 身 分 の 職 員 が 在 職 している. 九 州 大 学 における 2012 年 3 月 現 在 の 発 行 ID 概 数 を 表 1 に 示 す. 表 1に 示 す ID の 数 が,メールサーバ の 利 用 者 数 である. 表 1 九 州 大 学 の ID 数 (2012 年 3 月 現 在 ) Table 1 The Number of IDs in Kyushu University (Mar 2012) 種 類 ID 総 数 ( 概 数 ) 正 課 生 ( 学 部 生 と 大 学 院 生 ) 19,000 非 正 課 生 500 職 員 9,000 派 遣 等 800 合 計 29,300 構 成 員 の 年 間 の 入 れ 替 わり 数 は, 学 生 が 約 6,000 人 であ る. 内 訳 はおよそ 学 部 学 生 が 3,000 人, 大 学 院 生 が 3,000 人 である.そのため, 学 生 用 の 学 生 基 本 メールでは, 毎 年 6,000 個 のアカウントが 作 成 削 除 されている. 一 方, 職 員 の 入 れ 替 わり 数 は 毎 年 約 1,000 人 である. 入 れ 替 わりは 3 月 と 4 月 に 集 中 しており, 約 1,000 人 が 3 月 に 移 動 または 退 職 し,4 月 に 1,000 人 が 追 加 される.その ため, 職 員 用 のメールシステムでは,1,000 個 のアカウン トが 作 成 削 除 されている. 2.1 職 員 用 メールサーバの 構 成 職 員 用 メールサーバのシステム 構 成 を 図 1 に 示 す. Clients SMTP/POP HTTP POP Webmail Internet SMTP/POP/HTTP SMTP KITE ( 学 内 LAN) メールサーバ Mirapoint M6000 4 台 図 1 職 員 用 メールシステムの 構 成 Figure 1 The outline of the Primary Mail System in Kyushu University メールセキュリティ ゲートウェイ Mirapoint RazorGate 2 台 LDAP Anti spam Proxy LDAPサーバ Netspring AXIOLE 2 台 職 員 用 メールサービスは, 大 学 の 活 動 に 公 的 に 従 事 する 全 員 へ 提 供 している.メールサービスを 提 供 する 中 心 とな る 機 器 は Mirapoint 社 の 製 品 で 構 成 した. 認 証 用 の LDAP サーバは, 当 初 は ID 統 合 管 理 システムが 提 供 する LDAP サーバを 直 接 参 照 していたが, 後 述 する 有 料 サービスクラ スの 導 入 に 際 して Mirapoint 専 用 のスキーマを 利 用 する 必 要 があったため, 別 途 専 用 の LDAP サーバを 導 入 し,ID 統 合 管 理 システムから 利 用 者 データを 投 入 してもらう 形 に 構 成 を 変 更 している. サービス 概 要 は 以 下 のとおりである. 1 人 あたりの 容 量 は 300MB( 開 始 当 初 は 100MB) 受 信 から 60 日 で 削 除 ( 開 始 当 初 は 30 日 ) POP3 と Web メールを 提 供 (SSL を 使 用 ) 職 員 でなくなったら 三 ヶ 月 後 にアカウント 削 除 受 信 可 能 なメールの 大 きさは 20MB 未 満 また, 保 存 容 量 を 拡 大 (10GB)し, 保 存 期 間 を 制 限 しな いサービスクラスを 有 料 で 提 供 している.このサービスで は 上 記 に 加 えて IMAP を 利 用 できる. 2.2 学 生 基 本 メールの 構 成 九 州 大 学 では, 従 来 から 教 育 情 報 システムの 一 部 として, 学 生 のメールサービスを 提 供 してきた. 現 在 の 学 生 基 本 メールは,2011 年 6 月 に 開 始 したサービスであり, 学 内 の 全 学 生 に 対 して 提 供 している. 図 2 に 全 体 のシステム 構 成 を 示 す. Clients SMTP POP/IMAP 図 2 学 生 基 本 メールシステムの 構 成 Figure 2 The outline of the Student Primary Mail System メール 送 信 時 には, 迷 惑 メール 送 信 を 防 ぐため, SMTP-AUTH によるユーザ 認 証 を 行 なっている.メール 受 信 には POP3 および IMAP4 を 受 け 付 けており,メーラで 着 信 メールを 受 け 取 る 際 に 利 用 者 認 証 が 行 われる.これらの 認 証 は,ID 統 合 管 理 システムが 提 供 する 全 学 共 通 の LDAP サーバで 行 われる. 利 用 者 が 直 接 サーバにログインするこ とはない. 英 字 氏 名 メール アドレス 管 理 VM (VMware) CentOS SMTP Internet KITE ( 学 内 LAN) 学 生 基 本 メールサーバ OS: Redhat Linux MTA: Postfix POP/IMAP: Dovecot 学 生 基 本 メールは, 汎 用 のサーバ 機 に Red Hat Enterprise Linux と Postfix,Dovecot を 導 入 した OSS (Open Source Software) システムとして 構 成 した. 職 員 用 と 異 なり, 学 生 向 けには 高 い 可 用 性 よりもメールスプール 容 量 と 使 い 勝 手 の 良 さを 優 先 すべきであると 判 断 したためである.また 人 数 の 多 い 学 生 に 大 きめのスプール 容 量 を 割 り 当 てるため, ストレージに 費 用 をかけている. Virus/SPAMフィルタ (Symantec) ストレージ istorage E1 ldaps LDAP LDAP (OpenLDAP) (OpenLDAP) c2012 Information Processing Society of Japan 2
3. Gmail が 大 学 メールサーバへ 与 える 負 荷 状 況 この 節 では,Gmail が 本 学 のメールサーバに 負 荷 を 与 え ていたことが 発 見 された 経 緯 と,その 状 況 について 述 べる. 3.1 経 緯 2012 年 1 月 頃 より,ID 統 合 管 理 システムが 提 供 する LDAP サーバを 利 用 する 各 種 情 報 サービスにおいて 認 証 処 理 の 不 具 合 が 発 生 してサービスが 利 用 できなくなるという 問 題 が 認 識 され 始 めた. 調 査 の 結 果,LDAP サーバに 認 証 要 求 が 集 中 することにより 過 負 荷 になり, 認 証 処 理 が 失 敗 していることがわかった. この LDAP サーバを 最 も 利 用 しているサービスは, 802.1x 認 証 を 実 施 している 学 内 無 線 LAN サービスと, 学 生 基 本 メールの 2 つであった( 職 員 向 けサービスは 既 に 専 用 の LDAP サーバに 移 行 済 ). 特 に, 学 生 基 本 メールは LDAP の bind 処 理 を 用 いてユーザ 認 証 していたため,LDAP サーバに 与 える 負 荷 が 高 いと 予 想 された.メールサーバの ログや 設 定 を 詳 しく 調 査 したところ,Google の 所 有 するア ドレスブロックからの POP による 認 証 要 求 が 非 常 に 多 い ことが 判 明 した.なお LDAP サーバについても, 導 入 当 初 メール 等 の 高 負 荷 なサービスでの 利 用 は 想 定 されていな かったためチューニング 設 定 が 不 十 分 であることがわかっ たが,この 件 については 本 稿 では 扱 わないこととする. 3.2 アクセス 状 況 分 析 学 生 基 本 メールの POP/IMAP での 利 用 状 況 を 確 認 するた め,メールソフトウェアである Dovecot と, 認 証 バックエ ンドとして 利 用 している PAM システムのログを 2012 年 6 月 の 一 ヶ 月 分 について 調 査 し,ログイン 試 行 回 数 とその 対 象 となったアカウント 数, 接 続 元 ネットワークについて 分 析 した.また 7 月 下 旬 時 点 での 有 効 アカウント 総 数 と,メー ル 転 送 設 定 数 を 調 査 した. 調 査 結 果 を 表 2 に 示 す. Number of login attempts per day 300000 no such user password incorrect ok 250000 200000 150000 100000 50000 0 2012/2/1 2012/3/1 2012/4/1 2012/5/1 Number of unique IDs accessed per day 10000 9000 no such user password incorrect ok 8000 7000 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 2012/2/1 2012/3/1 2012/4/1 2012/5/1 図 3 日 毎 の POP/IMAP アクセス 数 と 対 象 アカウント 数 Figure 3 The number of POP/IMAP accesses and unique IDs per day 表 2 から, 有 効 アカウント 数 の 約 3 分 の 1 の 利 用 者 が POP や IMAP でメールサーバにアクセスしており,うち 4 割 の 利 用 者 が Google の 所 有 するネットワークから,すなわち Gmail を 利 用 しているであろうことがわかった.また 卒 業 するなどして 無 効 になったアカウントへの POP/IMAP アク セスはほぼ 9 割 が Google からのアクセスであった.アクセ ス 数 で 見 ると, 無 効 アカウントへの POP/IMAP 接 続 が 全 体 に 占 める 割 合 は 約 40%あり,そのうち 95%は Google から のアクセスであった.もし Google から 無 効 アカウントへの 表 2 学 生 基 本 メールのアクセス 状 況 Table 2 Access statistics of Student Primary Mail POP/IMAP 平 均 アクセス/ 日 アカウント 数 総 数 (アカウントは 有 効 なもの) 234,843 (100.0%) 19,996 (100.0%) 別 アドレスへ 転 送 - - 3,513 (17.5%) 正 常 利 用 数 113,491 (48.3%) 6,435 (32.2%) Google から 33,835 (14.4%) 2,732 (13.7%) 学 内 から 19,081 (8.1%) 3,432 (17.2%) パスワード 違 いによる 認 証 エラー 29,824 (12.7%) 1,761 (8.8%) Google から 12,422 (5.3%) 542 (2.7%) 学 内 から 6,483 (2.8%) 689 (3.4%) 無 効 アカウントへの 接 続 試 行 90,773 (38.7%) 3,989 - Google から 86,495 (36.8%) 3,567 - 学 内 から 1,266 (0.5%) 190 - その 他 のエラー(ID なし 等 ) 755 (0.3%) - - c2012 Information Processing Society of Japan 3
アクセスが 消 滅 すれば,それだけで POP/IMAP のログイン 認 証 処 理 が 約 4 割 減 ることになる. 次 に,2011 年 2 月 から 2012 年 5 月 にかけての POP/IMAP でのログイン 試 行 数 とその 対 象 アカウント 数 を 日 別 に 時 系 列 で 表 したグラフを 図 3 に 示 す.このグラフから, 無 効 ア カウントへのアクセス 数 とその 対 象 アカウント 数 にはほと んど 変 化 がないことと,5 月 中 旬 に 卒 業 生 等 が 確 定 しアカ ウントが 削 除 された 時 点 から,アクセスされる 無 効 アカウ ント 数 が 1,200 程 度 増 加 していることがわかる.これらの ことから, 卒 業 生 の 多 くは 卒 業 後 アカウントが 消 滅 しても 特 に 設 定 を 変 更 せず,また Google 側 も 認 証 エラーを 放 置 し ていることが 読 み 取 れる. 3.3 Google の Mail Fetcher サービスについて Google からの POP アクセスは,Gmail の 提 供 する Mail Fetcher サービスによるものであると 考 えられる.これは, 他 のメールサーバに 蓄 積 されているメールを POP で 取 得 し Gmail のメールボックスに 格 納 する 機 能 である.これに より, 複 数 のメールアカウントに 分 散 したメールを Gmail で 一 括 して 管 理 できる. 九 州 大 学 の 学 生 基 本 メールに 対 して Mail Fetcher でのア クセスが 多 い 主 な 理 由 としては,2009 年 度 の 教 育 システム 更 新 の 際 にそれまで 提 供 されていたウェブメールが 廃 止 さ れたことから,メールへの 簡 便 なアクセス 手 段 として 他 の メールサービスへの 転 送 方 法 を 案 内 していたこと, 特 に Gmail については 転 送 と Mail Fetcher の 両 方 の 方 法 を 案 内 していたこと,また 一 部 の 学 部 において 情 報 教 育 の 一 環 と して Mail Fetcher 利 用 の 実 習 を 行 なっていたことが 挙 げら れる. Gmail に 他 のメールサービスのメールを 集 約 する 方 法 と しては, 元 のサーバから 転 送 機 能 で Gmail のアドレスに 再 配 送 するという 手 段 もある.しかし, 一 般 には 転 送 よりも Mail Fetcher の 利 用 が 推 奨 されている.その 主 な 理 由 は, 一 旦 あるサーバで 受 信 したメールを 他 のサーバに 転 送 すると, 迷 惑 メール 対 策 が 誤 作 動 するという 問 題 があるためである. ある 利 用 者 が 単 純 にすべての 着 信 メールを 転 送 する 設 定 を すると, 迷 惑 メールも 転 送 されることになる. 多 くの 利 用 者 が 同 様 のことを 行 っていると,( 判 定 方 法 にも 依 存 するが) 転 送 先 のサーバで 転 送 元 が 迷 惑 メールの 発 信 元 と 認 識 され, ブラックリストに 登 録 されたり,ドメインの 評 価 が 下 がっ たりするという 問 題 が 発 生 する 場 合 がある. 学 生 向 けに 一 斉 同 報 メールを 送 信 した 場 合 に, 転 送 先 のサーバから 見 る と 多 数 の 利 用 者 に 同 じ 内 容 のメールを 送 信 しているように 見 えるため, 迷 惑 メールを 送 信 するサーバとして 判 定 され る 危 険 性 もある.ブラックリストやドメインの 評 価 はサー バ 間 で 共 有 されている 事 が 多 く,あるサーバで 評 価 が 下 が ると 他 の 組 織 にもメールが 届 かなくなる 可 能 性 がある.ま た, 単 純 なメール 転 送 と SPF(Sender Policy Framework)に よる 発 信 者 認 証 は 相 性 が 悪 いという 問 題 も 知 られている [6]. 転 送 ユーザが 少 ない 場 合 はあまり 問 題 が 顕 在 化 するこ とはないが,Gmail のように 利 用 者 が 多 いと 問 題 が 発 生 し やすくなる.また 以 前 の 学 生 向 けメールサービスには 迷 惑 メールフィルタがなかったため, 迷 惑 メールが 転 送 先 に 流 入 しやすく, 誤 動 作 の 可 能 性 が 高 いという 事 情 もあった. しかし, 多 数 の 学 生 が Mail Fetcher を 設 定 し,そのまま その 対 象 アカウントが 消 滅 した 場 合 にどうなるかというこ とについては, 少 なくとも 本 学 においてこれまで 問 題 は 認 識 されておらず, 全 く 検 討 もされていなかった. 3.4 Gmail の POP アクセスの 状 況 Gmail の Mail Fetcher が 対 象 のメールサーバにアクセス する 頻 度 の 詳 細 は 公 開 されておらず,Gmail のヘルプには 前 回 試 みたアカウントごとのメールの 取 得 結 果 に 応 じた 頻 度 で, 新 着 メールをチェック すると 記 述 されているの みである.そこで,2012 年 6 月 1 日 7 日 の 一 週 間 分 のア クセス 記 録 について,Google から 正 常 にアクセスされてい るアカウントと 存 在 しないアカウント 全 てについて, 一 日 あたり 平 均 アクセス 回 数 を 集 計 し,アカウント 数 に 対 する 累 積 密 度 関 数 のグラフを 作 成 した. 図 4 Google からの 1 日 平 均 アクセス 頻 度 Figure 4 CDF of access frequency per day from Google 図 4 から,アクセス 頻 度 の 傾 向 は Gmail がアカウントに アクセスできているかいないかにかかわらずほぼ 同 じであ り,9 割 以 上 のアカウントに 対 して 1 時 間 に 1 回 (1 日 24 回 )のアクセスであること,48 回 72 回 等 24 の 倍 数 に 回 数 が 集 中 していることから 1 時 間 あたりの 回 数 で 頻 度 を 調 整 しているらしいことがわかった.アカウントが 存 在 しな いにもかかわらずアクセス 頻 度 が 高 いアカウントがある 理 由 は, 対 象 アカウントが 存 在 していた 時 のメール 到 着 履 歴 をそのまま 利 用 し 続 けているためと 考 えられる. 4. Gmail の 影 響 と 対 策 Gmail が 大 学 メールサーバに 与 える 影 響 についての 定 性 的 分 析 と,Gmail の 影 響 に 対 する 対 応 策 を 検 討 する. c2012 Information Processing Society of Japan 4
4.1 影 響 2.1 節 と 3.2 節 より, 九 州 大 学 においては, 毎 年 約 6,000 アカウントが 入 れ 替 わっていることと,その 約 1/5 である 1,200 アカウントが 消 滅 後 も Gmail からアクセスされ 続 け ていることがわかった. 現 在 の 学 生 基 本 メールは 2011 年 度 に 運 用 を 開 始 したものだが,サーバの FQDN 等 は 入 れ 替 え 前 のシステムを 踏 襲 しており,2009 年 度 から 年 度 が 変 わる ごとに 同 程 度 ずつ 増 加 していると 考 えることができる. 文 部 科 学 省 の 学 校 基 本 調 査 ( 平 成 22 年 度 )によると, 日 本 全 国 の 国 立 公 立 私 立 を 合 わせた 大 学 学 生 数 は 288 万 7 千 人 である[7].これら 学 生 全 てに 大 学 のメールサービ スが 提 供 されていると 仮 定 し, 毎 年 九 州 大 学 と 同 程 度,す なわち 1/3 が 入 れ 替 わるとすると,96 万 アカウントが 入 れ 替 わることになる. 九 州 大 学 においては,このうちの 2 割 が Gmail の Mail Fetcher を 利 用 していたが, 少 なく 見 積 もっ て 1 割 としても 毎 年 約 10 万 の 無 効 アカウントへのアクセス が 増 加 することになる.これに 対 し 2012 年 現 在 Gmail ユー ザは 約 3.5 億 人 であり[8],そ の 負 荷 を 処 理 す る Gmail のサー バ 群 にとって 毎 年 10 万 の 無 効 アカウントに 対 する POP ア クセスは 無 視 できるようなものであろう. しかし,この 状 況 を 放 置 すると 日 本 のみならず 世 界 中 の メールサービスに 無 駄 な 負 荷 を 与 え 続 けることになる. 大 学 などの 教 育 機 関 は 企 業 よりアカウントの 入 れ 替 わりが 激 しいため, 消 滅 アカウントへのアクセスが 残 存 し 続 けると 悪 影 響 が 大 きい. 在 学 生 向 けサービスは 負 荷 の 増 減 があま りないことを 想 定 して 設 計 する 場 合 も 多 く, 毎 年 一 定 の 割 合 でアクセスが 増 加 すると 本 来 の 機 能 に 支 障 をきたす 可 能 性 が 高 い. 4.2 対 策 Gmail からのアクセス 増 加 に 対 する 対 応 策 としては, 以 下 のような 方 法 が 考 えられる. 1) Google からの POP アクセスを 遮 断 する 2) Mail Fetcher の 利 用 者 に 設 定 変 更 を 呼 びかける 3) サーバ 側 で 処 理 を 変 更 し, 負 荷 を 軽 減 する 4) Google が 仕 様 を 変 更 する 4.2.1 Google からの POP アクセスを 遮 断 する これは Gmail からの 負 荷 に 対 しては 最 も 即 時 的 かつ 効 果 的 な 対 策 であろう. 同 時 に 利 用 者 の 利 便 性 を 大 きく 損 なう 対 策 でもあるため, 最 後 の 手 段 と 考 えられる. 負 荷 の 高 さ に 対 し 他 に 打 つ 手 が 無 い 場 合 にはやむを 得 ない 対 応 であり, 実 際 に 北 海 道 教 育 大 学 においてこの 対 策 を 実 施 したという 事 例 があった[9]. 4.2.2 Mail Fetcher の 利 用 者 に 設 定 変 更 を 呼 びかける これは,Mail Fetcher の 設 定 が 負 荷 の 原 因 であることから, それを 取 り 除 くという 対 策 である. 利 用 者 が 大 学 に 在 籍 し ており,Mail Fetcher の 設 定 を 間 違 っている 場 合 には,アク セスされているアカウントに 対 し 連 絡 することで 一 定 の 効 果 が 期 待 できる.しかし, 削 減 したい 負 荷 のほとんどは 卒 業 等 で 消 滅 したアカウントへのアクセスが 原 因 であり,そ の 利 用 者 への 連 絡 は 困 難 である. 卒 業 しているため 学 内 の 連 絡 網 は 利 用 できない.また Mail Fetcher でアクセスされ る 側 からは,Mail Fetcher を 有 効 にしている Google アカウ ントの 情 報 を 取 得 できないため,Gmail 側 に 通 知 を 送 るこ とも 困 難 である. 一 時 的 に 無 効 アカウントを 復 活 させ,Mail Fetcher 設 定 を 外 す 方 法 を 指 示 するメッセージをスプールに 入 れておき, これを 取 得 させる,という 手 段 も 考 えられる.この 場 合 Mail Fetcher に 設 定 されているパスワードを 抽 出 して POP アクセスできるようにする 等 の 手 当 が 必 要 であり, 単 純 で はない.また 設 定 はしたがその 後 Gmail を 利 用 していない ような 利 用 者 には 効 果 がない. 4.2.3 サーバ 側 で 処 理 を 変 更 し 負 荷 を 軽 減 する これはサーバ 側 で 認 証 処 理 等 の 負 荷 を 軽 くすることで 問 題 を 回 避 する 対 策 である. 具 体 的 には, 例 えば Dovecot であれば 認 証 情 報 をキャッシュする 機 能 があるため,これ を 有 効 にする,といった 方 法 が 考 えられる.しかしキャッ シュにはパスワード 変 更 時 等 にキャッシュの 不 整 合 による 認 証 エラーの 問 題 があるため, 慎 重 に 検 討 する 必 要 がある. 負 荷 分 散 装 置 で Google からのアクセスのみを 別 のサーバ にルーティングするといった 方 法 も 考 えられる.しかし, Google 側 で 何 らかの 対 処 がなければ 無 効 アカウントへの アクセスは 毎 年 増 加 することになるため,これらの 対 策 は 一 時 的 には 効 果 があっても 本 質 的 な 解 決 にならない. 削 除 したアカウントへのアクセスに 耐 えるためにコストをかけ 続 けるのは 難 しい. 4.2.4 Google が 仕 様 を 変 更 する 問 題 の 本 質 は,Mail Fetcher が 無 効 アカウントへのアクセ スを 永 続 的 に 試 行 し 続 ける 点 であり,Mail Fetcher のソフト ウェアを 改 変 することで 解 決 可 能 である. 具 体 的 には, 連 続 的 なエラーへの 一 般 的 な 対 策 として,バックオフ 処 理 ( 連 続 するエラーでは 試 行 間 隔 を 延 ばす)とタイムアウト 処 理 ( 一 定 期 間 試 行 してエラーが 解 消 しなければ 処 理 を 停 止 す る)を 実 装 すればよい.タイムアウトにより 処 理 を 停 止 し た 際 には,Mail Fetcher を 利 用 している Gmail アカウントに 対 しメールとして Mail Fetcher 設 定 を 無 効 にした 旨 を 通 知 すればよい.Gmail でメールを 読 んでいれば 通 知 に 気 づい て 対 処 するだろうし,もともと Gmail を 利 用 していなけれ ばそのまま 無 効 でも 問 題 がない. この 対 策 の 問 題 は,このような 仕 様 変 更 を Google に 要 望 する 窓 口 がはっきりしていない 点 である.Google への 機 能 要 望 は Google Product Forums に 投 稿 することになっている. 記 事 を 検 索 したところ 2010 年 8 月 に 同 様 の 要 望 が 書 き 込 ま れているが,フォローは 特 になく, 問 題 は 改 善 されないま まとなっている. c2012 Information Processing Society of Japan 5
5. おわりに 本 稿 では,Gmail が 九 州 大 学 の 学 生 メールサーバへ 与 え る 負 荷 状 況 の 分 析 結 果 とその 対 策 について 述 べた. 認 証 サーバおよび 学 生 メールサーバのログを 分 析 し,メール サーバの 負 荷 状 況 を 述 べた.その 結 果,Gmail が 大 学 の 学 生 メールへ 高 い 負 荷 を 与 えていることが 分 かった.Gmail が 大 学 メールサーバに 与 える 影 響 についての 定 性 的 分 析 と, Gmail の 影 響 に 対 する 対 応 策 を 検 討 した. 九 州 大 学 では, 現 在 までのところ 4.2.3 節 に 示 したサー バ 側 での 負 荷 軽 減 対 応 を 可 能 な 範 囲 で 実 施 し, 様 子 を 見 て いる 状 況 である.しかし,サーバ 側 での 対 応 には 限 界 があ ることから, 何 らかの 方 法 で Google に 働 きかけ,Mail Fetcher の 仕 様 を 変 更 してもらう 必 要 がある. 参 考 文 献 1) 藤 村 直 美, 戸 川 忠 嗣, 笠 原 義 晃, 伊 東 栄 典 : 姓 名 をベースに したアドレスによる 学 生 基 本 メールの 運 用 について, 情 処 研 報 2011-IOT-14(10),pp.1-6(2011). 2) Naomi Fujimura, Tadatsugu Togawa, Yoshiaki Kasahara, Eisuke Ito: Introduction and Experience with the Primary Mail Service based on their Names for Students, Proc. of ACM SIGUCCS2012, (to appear)(2012). 3) 伊 東 栄 典, 笠 原 義 晃, 藤 村 直 美 : 九 州 大 学 における 職 員 向 け 電 子 メールサービスの 現 状, 平 成 21 年 度 情 報 教 育 研 究 集 会 D3-4 (2009). 4) 伊 東 栄 典, 笠 原 義 晃, 藤 村 直 美 : 九 州 大 学 全 学 基 本 メールの 機 能 改 善 と 有 料 サービスクラスの 開 始, 情 報 教 育 研 究 集 会 2011, B2-4(2010). 5) 伊 東 栄 典, 笠 原 義 晃, 藤 村 直 美 : 全 学 認 証 サーバの 負 荷 状 況 と 負 荷 分 散, 情 処 研 報 Vol.2012 CSEC-57/IOT-17 No.11,pp.51-56 (2012). 6) 迷 惑 メール 対 策 委 員 会 :SPF と 転 送 の 相 性 問 題 に 対 する 解 決 案,( 財 )インターネット 協 会 (オンライン), 入 手 先 http://salt.iajapan.org/wpmu/anti_spam/admin/operation/suggestion/s pf-sugg_a02/ ( 参 照 2012-07-30). 7) 文 部 科 学 省 : 学 校 基 本 調 査 - 平 成 22 年 度 ( 確 定 値 ) 結 果 の 概 要, 文 部 科 学 省 (オンライン), 入 手 先 http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/kekka/k_detai l/ icsfiles/afieldfile/2010/12/21/1300352_2.pdf ( 参 照 2012-07-30). 8) Google:2012 Update from the CEO - Investor Relations,Google (オンライン), 入 手 先 http://investor.google.com/corporate/2012/ceo-letter.html ( 参 照 2012-07-30). 9) 北 海 道 教 育 大 学 函 館 校 情 報 システム, 入 手 先 http://system.hak.hokkyodai.ac.jp/ ( 参 照 2012-07-30). c2012 Information Processing Society of Japan 6