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4 群 -1 編 -4 章 <Ver.1/010.11.9> 4 群 (モバイル 無 線 )- 1 編 ( 無 線 通 信 基 礎 ) 4 章 ディジタル 変 調 ( 執 筆 者 : 大 鐘 武 雄 )[008 年 1 月 受 領 ] 概 要 無 線 通 信 では, 他 システムとの 干 渉 を 避 けるために, 使 用 できる 周 波 数 帯 域 がシステムご とに 厳 格 に 決 められている.このとき, 情 報 に 応 じて, 割 り 当 てられた 周 波 数 帯 域 に 入 る 信 号 ( 帯 域 信 号 )を 生 成 する 必 要 がある.これは, 一 般 に 変 調 と 呼 ばれる 操 作 によって 行 われ る. 変 調 とは, 情 報 信 号 ( 変 調 信 号 )で 搬 送 波 の 振 幅, 位 相, 周 波 数 を 変 化 させて 被 変 調 信 号 を 生 成 する 過 程 を 意 味 する. 情 報 がディジタル 信 号 である 場 合, 被 変 調 信 号 はいくつかの 信 号 波 形 の 集 合 で 表 される. この 集 合 の 構 成 要 素 によっては, 送 信 増 幅 器 の 線 形 性 の 要 求 条 件 や, 同 一 SN 比 下 での 誤 り 率 特 性 などに 違 いが 生 ずる.また, 異 なるシステムからの 干 渉 や, 周 波 数 選 択 性 フェージン グに 対 する 耐 性 をもった 方 式 が 必 要 となる 場 合 も 考 えられる. 以 上 のような 理 由 から,ディ ジタル 変 調 には 現 在 までに 多 くの 種 類 が 提 案 / 実 用 化 されている. 本 章 の 構 成 本 章 では 種 々のディジタル 変 調 方 式 について 説 明 することを 目 的 としている. 具 体 的 には, 変 調 信 号 を 解 析 的 に 取 り 扱 うのに 必 要 となる 帯 域 信 号 の 表 現 (4-1 節 )と, 帯 域 信 号 の 生 成 に 不 可 欠 である 波 形 整 形 (4- 節 )について 述 べた 後, 一 次 変 調 として 用 いられる 代 表 的 な 変 調 方 式 (4-3 節 )と, 二 次 変 調 手 法 であるスペクトル 拡 散 (4-4 節 ),OFDM(4-5 節 )につ いて, 原 理 や 重 要 なキーワードなどを 簡 単 に 述 べる. 電 子 情 報 通 信 学 会 知 識 ベース 電 子 情 報 通 信 学 会 010 1/(11)

4 群 -1 編 -4 章 <Ver.1/010.11.9> 4 群 - 1 編 - 4 章 4-1 帯 域 信 号 の 表 現 ( 執 筆 者 : 大 鐘 武 雄 )[008 年 1 月 受 領 ] 一 般 に, 情 報 を 表 す 信 号 は, 後 述 される 帯 域 制 限 により 有 限 の 帯 域 をもつ 基 底 帯 域 (ベース バンド) 信 号 として 表 される.したがって,これを 用 いて 変 調 された 信 号 は, 通 常, 搬 送 波 周 波 数 f c を 中 心 とした 有 限 の 帯 域 をもつ 帯 域 信 号 となる.ここでは, 帯 域 信 号 の 表 現 と,そ れと 等 価 な 複 素 基 底 帯 域 信 号 の 表 現 について 説 明 する. 4-1-1 帯 域 信 号 一 般 に, 帯 域 信 号 は 次 式 で 表 される 1). a(t) = R(t) cos (π f c t+θ (t)) (4 1) これは, 搬 送 波 が 情 報 に 対 応 する R(t) 及 びθ (t)によって 変 調 されていることに 対 応 する. 一 般 に,R(t) 及 びθ (t)の 時 間 変 化 は 搬 送 波 の 周 期 と 比 較 して 極 めて 遅 い.したがって,a(t)の 周 波 数 スペクトルは 搬 送 波 周 波 数 f c 付 近 に 集 中 する.この 式 は 更 に 次 のように 展 開 できる. a(t) = u I (t)cosπ f c t-u Q (t)sinπ f c t (4 ) ただし u I (t) = R(t)cosθ (t) 及 び u Q (t) = R(t)sinθ (t) ここで,u I (t) 及 び u Q (t) は,それぞれ 同 相 (I) 信 号, 直 交 (Q) 信 号 と 呼 ばれ ), 周 波 数 ス ペクトルが 原 点 付 近 に 集 中 した 基 底 帯 域 信 号 となる.またこの 式 から, 帯 域 信 号 は 以 下 の 直 交 変 調 器 を 用 いて 生 成 できる,すなわち, 基 底 帯 域 信 号 を 周 波 数 移 動 したものであることが 分 かる. u I (t) cosπ f c t a(t) = u I (t)cosπ f c t-u Q (t)sinπ f c t u Q (t) -sinπ f c t 図 4 1 直 交 変 調 器 帯 域 信 号 の 電 力 は 以 下 のように 求 められる.ただし は 集 合 平 均 操 作 を 表 す. a ( t) = ( u ( t)cosπf t u ( t)sin πf t) = u ( t)cos πf t + u ( t)sin πf t 1 = ( u I I ( t) + u Q ( t)) c Q c I c Q c (4 3) 電 子 情 報 通 信 学 会 知 識 ベース 電 子 情 報 通 信 学 会 010 /(11)

4 群 -1 編 -4 章 <Ver.1/010.11.9> 4-1- 等 価 低 域 系 図 4 1 で 示 された 帯 域 信 号 は, 実 は 次 式 のように 表 すことができる.ただし Re は 複 素 数 の 実 数 部 を 表 す. jπ fct a( t) = Re{( u ( t) + ju ( t)) e } (4 4) I Q この 式 の 右 辺 において,Re{ } 内 の 項 は 複 素 帯 域 信 号 に 相 当 し, 複 素 基 底 帯 域 信 号 ( 複 素 包 絡 jπ fc t 線 )u(t)=u I (t)+ju Q (t) を 用 いて 複 素 搬 送 波 e を 変 調 したものと 見 なせる. 式 (4 4)の 右 辺 が(u(t)ejπ f c t+u* (t)e -jπ fct ) / と 表 されることを 用 いると,a(t)の 周 波 数 スペクトルは 1 A( f ) = ( U ( f fc) + U ( f fc)) (4 5) となることが 分 かる.ただし,U( f ) は u(t) の 周 波 数 スペクトルであり,u I (t) 及 び u Q (t)の 周 波 数 スペクトル U I ( f ),U Q ( f ) と 次 のような 関 係 がある. U( f )=U I ( f )+ju Q ( f ) (4 6) 以 上 の 関 係 を 線 形 系 に 応 用 すると, 次 のような 線 形 帯 域 系 と,それと 等 価 である 複 素 基 底 帯 域 系 ( 等 価 低 域 系 )の 関 係 を 導 くことができる 1). A( f )=U( f-f c ) / +U*(-f-f c ) / G( f )=H( f-f c ) +H*(-f-f c ) B( f )=H( f-f c ) U(f-f c ) / + H(-f-f c ) U*(-f-f c ) / (a) 線 形 帯 域 系 U( f ) H( f ) U( f ) H( f) (b) 等 価 低 域 系 図 4 線 形 帯 域 系 の 等 価 表 現 このように, 帯 域 信 号 が 入 力 された 線 形 帯 域 系 出 力 は, 複 素 基 底 帯 域 信 号 が 入 力 された 等 価 低 域 系 出 力 を 用 いて 完 全 に 表 すことができる.したがって, 線 形 帯 域 系 での 信 号 解 析 は, 等 価 低 域 系 で 考 えることでより 簡 単 に 取 り 扱 うことができる. なお, 複 素 基 底 帯 域 信 号 の 電 力 は u( t) = u ( t) + u ( t) = u ( t) u ( t) (4 7) I Q I + となり, 式 (4 3)で 表 される 帯 域 信 号 の 電 力 の 倍 となる. Q 参 考 文 献 1) 関 英 男, 現 代 の 通 信 回 線 理 論, 森 北 出 版,1970. ) 横 山 光 雄, 移 動 通 信 技 術 の 基 礎, 日 刊 工 業 新 聞 社,1994. 電 子 情 報 通 信 学 会 知 識 ベース 電 子 情 報 通 信 学 会 010 3/(11)

4 群 -1 編 -4 章 <Ver.1/010.11.9> 4 群 - 1 編 - 4 章 4- 波 形 整 形 ( 執 筆 者 : 大 鐘 武 雄 )[008 年 1 月 受 領 ] 帯 域 信 号 が 有 限 の 帯 域 となるためには, 当 然, 基 底 帯 域 信 号 自 身 が 有 限 の 帯 域 である 必 要 がある.しかし, 通 常 の 方 形 パルスは, 無 限 に 広 い 帯 域 をもつ 信 号 である.このため, 波 形 整 形 により 帯 域 を 制 限 しなければならない.ここではその 手 法 について 説 明 する. 4--1 ガウスフィルタ ガウスフィルタは,インパルス 応 答, 伝 達 関 数 ともにガウス 関 数 で 表 されるフィルタであ る 1).その 伝 達 関 数 は 次 式 で 与 えられる. { (log/ )( f / ) } H ( f ) = Aexp B (4 8) ここで,B は 伝 達 関 数 の 応 答 が 最 大 値 から 3 db 小 さくなる 片 側 帯 域 幅 を 表 す.B を 小 さくす ると, 判 定 点 での 符 号 間 干 渉 が 生 じてしまう. 4-- ナイキストフィルタ ナイキストは,パルスを 等 間 隔 に 連 続 して 送 信 する 際 に, 判 定 点 での 符 号 間 干 渉 をゼロに するパルス 波 形 / 周 波 数 スペクトルの 条 件 を 求 めた.これによれば,シンボルレートが T の 場 合, 実 現 可 能 な 最 小 限 の 帯 域 幅 は 1/T であり,そのスペクトルは 方 形 となる ).しかし, このパルス 波 形 は Sinc 関 数 となり, 応 答 が 無 限 に 長 く 続 く.これを 軽 減 でき,かつ,ナイ キストの 条 件 を 満 足 する 波 形 整 形 の 一 つが 二 乗 余 弦 (レイズドコサイン)フィルタ(あるい はロールオフフィルタ)と 呼 ばれる 手 法 である.その 伝 達 関 数 は 次 式 で 表 される. T T πt H ( f ) = 1 + cos f β 0 1 β T 0 f (1 β ) T (1 β ) T f (1 + β ) T f f (1 + β ) T (4 9) ここで,β は 0 から 1 の 定 数 であり,1 に 近 づけるほど 帯 域 幅 が 拡 大 するものの 時 間 応 答 を 早 く 収 束 させることができる. 受 信 フィルタを 最 適 (マッチト)フィルタとする 場 合,パルス 波 形 のスペクトルの 複 素 共 役 を 受 信 フィルタとする 必 要 がある.これをナイキストフィルタに 適 用 すると, 受 信 フィル タ 適 用 後 にはナイキストの 条 件 が 成 立 しない.そのため,ナイキストフィルタの 平 方 根 (ル ートナイキストフィルタ)をそれぞれ 送 信 波 形 整 形 フィルタと 受 信 フィルタとし, 最 適 フィ ルタ 条 件 とナイキストの 条 件 をともに 満 足 する 手 法 が 用 いられる. ナイキストフィルタは 帯 域 幅 の 低 減 に 限 界 がある.パーシャルレスポンスは,あらかじめ 決 められたシンボルからの 符 号 間 干 渉 を 許 容 することで, 帯 域 幅 の 低 減 を 容 易 する 手 法 であ る ).ただし, 受 信 側 では, 故 意 に 生 成 した 符 号 間 干 渉 成 分 を 取 り 除 く 処 理 が 必 要 である. 参 考 文 献 1) 横 山 光 雄, 移 動 通 信 技 術 の 基 礎, 日 刊 工 業 新 聞 社,1994. ) J.G. Proakis, Digital Communications, 4th ed., McGraw-Hill, 001. 電 子 情 報 通 信 学 会 知 識 ベース 電 子 情 報 通 信 学 会 010 4/(11)

4 群 -1 編 -4 章 <Ver.1/010.11.9> 4 群 - 1 編 - 4 章 4-3 変 調 方 式 ( 執 筆 者 : 大 鐘 武 雄 )[008 年 1 月 受 領 ] 本 章 4-1 節 で 述 べたように,すべての 帯 域 信 号 は 二 つの 基 底 帯 域 信 号 (s I (t) 及 び s Q (t))を 用 いて 表 すことができる.ここでは, 無 線 通 信 で 用 いられる 種 々の 変 調 方 式 について, 基 底 帯 域 信 号 の 表 現 を 示 し, 誤 り 率 特 性 を 比 較 する.なお,s I (t) 及 び s Q (t) が 複 素 包 絡 線 の 実 部, 虚 部 に 対 応 していることから, 以 下 では 複 素 平 面 (IQ 平 面 )で 信 号 点 を 表 示 する. 4-3-1 変 調 方 式 の 例 (1) 変 調 方 式 の 変 遷 初 期 の 移 動 通 信 では, 高 効 率 の 電 力 増 幅 器 を 用 いること( 送 信 電 力 効 率 )が 重 要 であった. このため, 振 幅 変 動 の 少 ない 変 調 方 式 が 開 発 された.しかし, 移 動 通 信 の 需 要 が 高 まると, 周 波 数 資 源 を 有 効 に 利 用 すること( 周 波 数 利 用 効 率 )が 求 められるようになった.このため, 振 幅 変 動 を 許 容 して 多 値 化 が 進 められてきた.これらの 関 係 をまとめたものが 図 4 3 である 1). 以 下 では, 各 変 調 方 式 の 概 要 のみ 述 べるので, 詳 細 については 文 献 1) を 参 照 されたい. シンボル 当 ビット 数 高 高 送 信 電 力 効 率 低 周 波 数 利 用 効 率 低 系 列 系 列 系 列 振 幅 変 動 図 4 3 変 調 方 式 とその 特 徴 () ASK(Amplitude Shift Keying)と QAM(Quadrature Amplitude Modulation) ASK は 変 調 信 号 により s I (t) の 振 幅 を 変 化 させる 手 法 であり, 各 シンボル 区 間 において, いくつかの 振 幅 候 補 から 一 つを 選 択 する. 値 ASK の 一 例 である OOK(OnOff Keying)は 図 4 4(a)のように 表 される.ただし, 各 信 号 点 が 等 確 率 で 発 生 すると 仮 定 し, 複 素 包 絡 線 の 平 均 電 力 が 1 になるよう 設 定 した( 以 下 に 示 す 変 調 方 式 の 例 でもすべて 同 様 である). QAM は ASK と 異 なり,s I (t) に 加 えて s Q (t) の 振 幅 も 変 化 させる.16 値 QAM(16QAM) は,s I (t) 及 び s Q (t) のそれぞれが 独 立 に 4 値 を 取 り,その 信 号 点 配 置 は 図 4 4(b)のように 表 さ れる(ただし,A=1/ 10). 同 一 電 力 の 16 値 ASK と 比 較 すると, 最 小 ( 隣 接 ) 信 号 点 間 距 離 を 約 倍 にできる. なお,ASK や QAM は 各 信 号 点 の 振 幅 が 異 なるため,ひずみなく 送 信 するためには 線 形 性 の 高 い 送 信 増 幅 器 を 必 要 とする. 線 形 性 への 要 求 条 件 は 以 下 の 変 調 と 比 較 して 最 も 高 い( 図 4 3 参 照 ). 電 子 情 報 通 信 学 会 知 識 ベース 電 子 情 報 通 信 学 会 010 5/(11)

4 群 -1 編 -4 章 <Ver.1/010.11.9> - - - (a) K (b)16qam - 図 4 4 OOK 及 び 16QAM の 信 号 点 配 置 (3) PSK(Phase Shift Keying) PSK は 変 調 信 号 により 複 素 包 絡 線 の 位 相 を 変 化 させる 手 法 である.したがって,ASK, QAM と 異 なり 振 幅 は 変 化 しない. 一 般 に, 各 信 号 点 は 360 を 信 号 点 数 に 応 じて 等 間 隔 で 分 割 したものとなる. 具 体 的 には 図 3 5(a)(b) のように, 値 PSK(BPSK)で 180, 4 値 PSK (QPSK)では 90 ごとに 配 置 される. l -1 1-1 1 l -1 1 l 図 4 5 各 種 PSK の 信 号 点 配 置 PSK はシンボル 区 間 内 の 振 幅 は 変 化 しないものの, 信 号 点 が 変 化 する 際 に 大 きな 信 号 振 幅 の 変 化 が 生 ずる. 一 般 に 送 信 側 で 波 形 整 形 フィルタが 用 いられるため, 実 際 に 送 信 される 波 形 は 振 幅 変 動 のある 信 号 となる. 最 も 大 きな 変 動 は, 図 3 5(a)(b) で 対 向 する 信 号 点 に 遷 移 する 場 合 であり, 振 幅 が 1 から 0,0 から 1 へと 変 化 する.これをひずみなく 送 信 するために は 線 形 性 の 高 い 送 信 増 幅 器 が 必 要 となる. この 線 形 性 の 要 求 基 準 をできるだけ 低 くするため,シンボル 時 間 ごとに 信 号 点 配 置 をずら す 手 法 がある. 図 3 5(c) のπ /4 シフト QPSK ) は, 奇 数 シンボル 時 刻 では の 4 点, 偶 数 シ ンボル 時 刻 では の 4 点 と, 配 置 を 45 シフトすることで 原 点 を 通 過 する 遷 移 をなくしてい る. 電 子 情 報 通 信 学 会 知 識 ベース 電 子 情 報 通 信 学 会 010 6/(11)

4 群 -1 編 -4 章 <Ver.1/010.11.9> (4) FSK(Frequency Shift Keying) FSK は 変 調 信 号 により 周 波 数 を 変 化 させる 手 法 である.したがって,PSK と 同 様 に 振 幅 は 一 定 である. 更 に, 周 波 数 を 切 り 替 える 際 に 位 相 を 連 続 させる CPFSK(Continuous Phase FSK)では,PSK と 異 なり,シンボルが 切 り 替 わる 時 刻 での 振 幅 変 化 も 生 じない 特 徴 をもつ. 値 FSK では, 信 号 点 が 単 位 円 上 を+あるいは-の 方 向 に 同 一 速 度 で 回 転 する. 二 つの 波 形 間 の 相 関 を 求 めた 場 合, 相 関 0 となる 最 小 の 回 転 量 は±90 となる.この 位 相 回 転 量 を 取 る FSK を, 特 別 に MSK(Minimum Shift Keying)と 呼 ぶ( 図 3 6(a)). MSK はシンボル 区 間 内 の 回 転 量 を 最 小 にしているものの, 図 3 6(b) の 実 線 に 示 すように, 回 転 方 向 が 変 化 する 際 に 位 相 の 時 間 微 分 ( 周 波 数 )の 不 連 続 が 生 じ, 帯 域 拡 大 の 要 因 となる. そこで,MSK において 位 相 の 時 間 微 分 にガウスフィルタをかけ, 図 3 6(b) の 点 線 のように 位 相 変 化 を 緩 やかにしたものを GMSK(Gaussian-filtered MSK)と 呼 ぶ 3).GMSK には 大 きな 帯 域 削 減 効 果 がある. 図 4 6 MSK の 信 号 点 配 置 と MSK, GMSK の 位 相 遷 移 例 なお,MSK,GMSK ともに 送 信 側 で 帯 域 制 限 フィルタを 用 いなければ, 振 幅 変 動 の 全 くな い 送 信 信 号 となるため, 電 力 効 率 の 高 い 非 線 形 増 幅 器 を 使 用 することができる.ただし,MSK の 帯 域 拡 大 を 防 ぐために 帯 域 制 限 フィルタを 用 いると 若 干 の 振 幅 変 動 が 生 じてしまう 1).こ の 点 で,GMSK は 狭 帯 域 と 定 振 幅 を 両 立 させた 変 調 方 式 であるといえる. 4-3- 誤 り 率 特 性 図 4 7 に BPSK, QPSK, GMSK( 近 似 式 ) 3), 16QAM 4) の 同 期 検 波 時 の 誤 り 率 特 性 を 示 す.た だし, 横 軸 は E b /N 0 (1 ビット 当 たりのエネルギー 対 雑 音 電 力 密 度 )であり, 理 論 式 及 び 近 似 式 は 凡 例 に 列 記 した(erfc は 誤 差 補 関 数 である). 電 子 情 報 通 信 学 会 知 識 ベース 電 子 情 報 通 信 学 会 010 7/(11)

4 群 -1 編 -4 章 <Ver.1/010.11.9> 図 4 7 誤 り 率 特 性 参 考 文 献 1) 斉 藤 洋 一, ディジタル 無 線 通 信 の 変 復 調, 電 子 情 報 通 信 学 会,1996. ) Y. Akaiwa, Introduction to Digital Mobile Communications, John Wiley and Sons, 1997. 3) K. Murota and K. Hirade, GMSK Modulation for Digital Mobile Radio Telephony, IEEE Trans.Commun.,vol.9, no.7, pp.1044-1050, July. 1981. 4) 笹 岡 秀 一, 移 動 通 信, オーム 社,1998. 電 子 情 報 通 信 学 会 知 識 ベース 電 子 情 報 通 信 学 会 010 8/(11)

4 群 -1 編 -4 章 <Ver.1/010.11.9> 4 群 - 1 編 - 4 章 4-4 スペクトル 拡 散 ( 執 筆 者 : 大 鐘 武 雄 )[008 年 1 月 受 領 ] スペクトル 拡 散 とは,その 名 のとおりスペクトルを 拡 散 させるための 変 調 1) である.ここ では,その 原 理 について 簡 単 に 説 明 する. 4-4-1 直 接 拡 散 直 接 拡 散 とは DS(Direct Sequence)の 邦 訳 1) であり,スペクトルを 拡 散 したい 信 号 に, 広 帯 域 の 信 号 を 直 接 乗 積 する 手 法 である. 広 帯 域 信 号 としては, 一 般 に,シンボル 長 よりも 非 常 に 短 い(チップ 長 と 呼 ばれる) 周 期 で 変 化 する±1 の 符 号 系 列 が 用 いられる. 元 の 信 号 の 帯 域 幅 を B, 広 帯 域 信 号 の 帯 域 幅 を W とすると, 帯 域 の 拡 大 率 W/B を 処 理 利 得 と 呼 ぶ. 受 信 側 では, 同 期 した 符 号 系 列 を 再 度 乗 積 することで, 元 の 信 号 を 復 元 する.この 操 作 は 逆 拡 散 と 呼 ばれる. 直 接 拡 散 の 送 受 信 系 を 図 4 8 に 示 す. 拡 散 符 号 を 知 らなければ 復 調 が 困 難 となるため 秘 匿 性 に 優 れている.また, 挟 帯 域 の 干 渉 信 号 は 逆 拡 散 により 広 帯 域 信 号 とな るため,その 大 部 分 を LPF で 除 去 することができる. 図 4 8 直 接 拡 散 方 式 の 概 念 図 スペクトル 拡 散 を 多 元 接 続 方 式 に 用 いる 場 合, 各 ユーザに 相 互 相 関 の 小 さい 符 号 系 列 を 拡 散 符 号 として 割 り 当 てる.このとき, 図 4 8 において, 異 なる 符 号 での 逆 拡 散 後 の 信 号 が 広 帯 域 信 号 のままとなるため, 周 波 数 / 時 間 のリソースを 複 数 のユーザで 共 有 してもユーザ 分 離 を 行 うことができる. 相 互 相 関 の 小 さい 符 号 として,PN 系 列,Gold 符 号 などが 知 られて いる 1).また, 完 全 に 直 交 した 系 列 としては Walsh-Hadamard 符 号 ) があり,スクランブル 用 の PN 系 列 などとともに 用 いられる. 4-4- 周 波 数 ホッピング 周 波 数 ホッピング(FH: Frequency Hopping)は,スペクトルを 拡 散 したい 信 号 の 搬 送 波 周 波 数 を, 広 い 範 囲 に 渡 って 離 散 的 に 切 り 替 える 手 法 である 1).したがって, 長 時 間 観 測 する と 広 帯 域 の 信 号 であることが 分 かる. 切 り 替 えるパターンは 直 接 拡 散 と 同 様 に 相 互 相 関 の 小 さい 符 号 などが 用 いられる. また, 切 り 替 える 速 度 が 元 の 信 号 のシンボル 周 期 よりも 速 い 周 期 で 切 り 替 える 手 法 を 高 速 FH(FFH: Fast FH),そうでない 手 法 を 低 速 FH(SFH: Slow FH)と 呼 ぶ. 参 考 文 献 1) 横 山 光 雄, スペクトル 拡 散 通 信 システム, 科 学 技 術 出 版 社,1998. ) J. G. Proakis, Digital Communications, 4th ed., McGraw-Hill, 001. 電 子 情 報 通 信 学 会 知 識 ベース 電 子 情 報 通 信 学 会 010 9/(11)

4 群 -1 編 -4 章 <Ver.1/010.11.9> 4 群 - 1 編 - 4 章 4-5 OFDM ( 執 筆 者 : 大 鐘 武 雄 )[008 年 1 月 受 領 ] 複 数 の 搬 送 波 を 同 時 に 使 用 する 変 調 方 式 の 一 つに OFDM(Orthogonal Ferquency Division Multiplexing)と 呼 ばれるマルチキャリア 方 式 がある.ここでは,その 原 理 と, 実 用 の 際 に 問 題 となる 高 ピーク 電 力 を 改 善 するための 手 法 について 簡 単 に 説 明 する. 4-5-1 FFT に 基 づくマルチキャリア 伝 送 OFDM はシンボル 区 間 で 直 交 条 件 を 満 足 する 複 数 の 搬 送 波 を 用 いて 変 調 を 行 う 手 法 である. このとき,ある 搬 送 波 周 波 数 で 同 期 検 波 を 行 う 場 合,ほかの 周 波 数 成 分 と 直 交 しているため, 不 要 な 信 号 は 出 力 されない 特 徴 をもつ.なお, 各 搬 送 波 周 波 数 はサブキャリアと 呼 ばれる. シンボル 長 を T とするとき, 直 交 条 件 を 満 足 する 搬 送 波 周 波 数 は 1/T の 整 数 倍 となる.こ れを 簡 単 に 生 成 する 手 法 として FFT/IFFT( 高 速 フーリエ 変 換 / 逆 高 速 フーリエ 変 換 )が 一 般 的 に 用 いられる.その 構 成 を 図 4 9 に 示 す 1). 図 4 9 OFDM 方 式 の 送 受 信 系 4-5- ガードインターバル 図 4 9 の 受 信 系 において 正 しく 受 信 するためには,FFT する 区 間 を 送 信 時 の IFFT 区 間 と 同 期 させる 必 要 がある.しかし, 実 際 にはマルチパスフェージングが 存 在 するため, 種 々の 遅 延 時 間 をもった 信 号 が 到 来 する.このような 場 合,FFT 区 間 が 同 期 しない 信 号 が 必 ず 存 在 し,サブキャリア 間 の 干 渉 となって 現 れる.これを 防 ぐ 極 めて 有 効 な 手 法 が 図 4 10 のガード インターバルである 1). 図 4 10 ガードインターバルの 原 理 ガードインターバルとは, 図 4 10(a) に 示 すように 送 信 側 で IFFT を 行 った 後, 末 尾 の 一 部 を 先 頭 にコピーする 操 作 を 表 す.もし 遅 延 時 間 がガードインターバル 長 より 短 ければ, 図 電 子 情 報 通 信 学 会 知 識 ベース 電 子 情 報 通 信 学 会 010 10/(11)

4 群 -1 編 -4 章 <Ver.1/010.11.9> 4 10(b)のように 受 信 時 の 信 号 に 前 後 のシンボルが 含 まれない 区 間 が FFT 区 間 長 より 長 くな る.この 区 間 で FFT を 行 えば,どのタイミングで 到 来 した 信 号 も, 正 しい FFT タイミング の 信 号 を 巡 回 遅 延 したものとなる. FFT は 離 散 信 号 をフーリエ 級 数 展 開 したものであり, 周 期 T の 周 期 信 号 にのみ 適 用 できる. ガードインターバルを 適 用 すれば, 上 記 のとおりどの 信 号 も 周 期 性 が 満 足 される.また,フ ーリエ 変 換 の 性 質 により, 時 間 軸 上 の 巡 回 遅 延 は, 周 波 数 軸 上 では 周 波 数 に 比 例 した 位 回 転 に 相 当 する.このように,ガードインターバルを 適 用 した OFDM 方 式 は, 最 大 遅 延 時 間 がガ ードインターバル 長 を 超 えない 限 り,サブキャリア 間 の 干 渉 ( 時 間 領 域 では 符 号 間 干 渉 )が 存 在 しない 特 徴 をもつ.ただし, 送 信 電 力 の 損 失 は 避 けられない. 4-5-3 ピーク 抑 圧 技 術 OFDM は 複 数 の 信 号 の 和 として 表 されるため, 各 信 号 が 同 相 で 合 成 される 時 刻 では 非 常 に 大 きな 信 号 となる.このため, 一 般 にピーク 電 力 と 平 均 電 力 の 比 が 非 常 に 大 きくなってしま う.このような 信 号 をひずみなく 送 信 するためには, 高 い 線 形 性 をもつ 送 信 増 幅 器 が 必 要 と なる. 以 下 ではこれを 避 けるための 手 法 について 紹 介 する ). (1) クリッピングとフィルタリング 最 も 単 純 な 考 え 方 は,クリッピングである.この 手 法 は,ある 一 定 以 上 の 振 幅 をクリップ するため,ピーク 電 力 を 容 易 に 低 減 することができる.しかし,クリッピングされた 信 号 は 急 激 に 振 幅 が 平 坦 になるひずみをもつため, 原 信 号 よりも 周 波 数 スペクトルが 拡 大 してしま う. 一 方,クリッピングされた 信 号 に 帯 域 制 限 フィルタをかけ 帯 域 外 の 成 分 を 低 減 すると, クリップした 部 分 を 滑 らかにするためピークがまた 現 れる.クリッピングとフィルタリング は, 以 上 の 操 作 を 繰 り 返 すことで,ピーク 電 力 と 帯 域 外 のスペクトルを 同 時 に 低 減 した 信 号 を 生 成 する 手 法 である. 原 理 は 簡 単 であるが, 受 信 側 でひずみが 生 ずる 欠 点 がある. () ダミーサブキャリア OFDM のピーク 電 力 は, 各 サブキャリアの 信 号 組 合 せに 依 存 する.そこで, 情 報 を 送 信 し ないサブキャリア(ダミーサブキャリア)をいくつか 確 保 し,ほかのサブキャリアの 信 号 の 組 合 せに 応 じてピーク 電 力 が 小 さくなるような 信 号 をダミーサブキャリアから 送 信 する 手 法 がある.この 手 法 は, 受 信 信 号 のひずみはないものの,ダミーサブキャリアの 数 が 少 ないと ピーク 抑 圧 効 果 が 小 さい 欠 点 がある. (3) PTS(Partial Transmit Sequence)と SLM(Selective Mapping) PTS や SLM もダミーサブキャリアと 同 様 に 高 いピークが 生 ずる 組 合 せを 送 信 しない 手 法 である. 基 本 的 には, 各 サブキャリアの 信 号 にあらかじめ 決 められた 候 補 の 中 から 選 ばれた 位 相 回 転 を 加 えることでピークを 軽 減 する.PTS は 複 数 のサブキャリアをまとめて 一 つの 信 号 とみなして 同 一 の 位 相 回 転 を 加 えるもので,SLM の 特 殊 な 例 と 考 えることができる.こ のため,SLM のピーク 抑 圧 効 果 は PTS より 高 い.これらの 手 法 は, 受 信 側 でひずみは 生 じ ないものの, 位 相 回 転 情 報 を 別 に 報 知 する 必 要 がある. 参 考 文 献 1) J.G. Proakis, Digital Communications, 4th ed., McGraw-Hill, 001. ) S.H. Han and J.H. Lee, An Overview of Peak-to-average Power Ratio Reduction Techniques for Multicarrier Transmission, IEEE Wireless Commun., vol.1, no., pp.56-65, April. 005. 電 子 情 報 通 信 学 会 知 識 ベース 電 子 情 報 通 信 学 会 010 11/(11)