称 号 及 び 氏 名 博 士 ( 経 済 学 ) 石 井 康 夫 学 位 授 与 の 日 付 平 成 19 年 3 月 31 日 論 文 名 TIME SERIES ANALYSIS AND ITS APPLICATION TO MAINTENANCE ( 時 系 列 解 析 と 設 備 保 全 分 野 への 応 用 ) 論 文 審 査 委 員 主 査 竹 安 数 博 副 査 石 垣 智 徳 副 査 村 澤 康 友 論 文 要 旨 我 が 国 における 製 造 業 は 近 年 中 国 や 東 南 アジア 諸 国 の 経 済 発 展 と 工 業 技 術 の 進 展 によ り 大 きな 変 革 を 迫 られている これらの 国 々は 低 賃 金 労 働 者 を 活 用 して 大 量 生 産 による 低 コスト 製 品 の 生 産 を 拡 大 し 欧 米 や 日 本 等 世 界 各 国 へ 輸 出 し 市 場 シェアを 高 めている 一 方 我 が 国 企 業 は 製 品 やサービスの 差 別 化 のため 専 門 的 高 付 加 価 値 製 品 の 製 造 や 開 発 に 特 化 すると 共 に 在 来 品 のコスト 削 減 が 緊 急 課 題 となっている なかでも 加 工 費 の 工 数 削 減 と 設 備 稼 働 率 向 上 が 重 要 課 題 となる 工 場 や 保 有 施 設 における 設 備 稼 働 率 に 関 しては 特 に 大 型 設 備 を 有 する 鉄 鋼 業 界 等 では 突 発 的 に 発 生 する 設 備 故 障 でラインが 停 止 すると 後 続 プロセスの 遅 れを 招 き 納 期 の 大 幅 遅 延 を 招 くなど 大 幅 なコストアップ 要 因 に 繋 がる 可 能 性 がある そこで これらの 事 態 を 防 止 するための 設 備 異 常 検 知 は 重 要 な 役 割 を 果 たす 近 年 サプライチェーンの 効 率 化 に 伴 い 生 産 ラインの 停 止 事 故 等 は 取 引 先 全 体 に 対 し 非 常 に 広 範 囲 な 影 響 を 及 ぼすため 現 場 での 取 り 扱 いが 容 易 で 細 かい 対 応 が 可 能 な 設 備 異 常 検 知 手 法 がますます 求 められている 企 業 にとってステークホルダー 満 足 のため 企 業 価 値 を 向 上 させていくには 継 続 的 に 利 益 を 出 しながら 国 際 市 場 の 中 で 勝 ち 残 る 必 要 がある 付 加 価 値 の 高 い 商 品 開 発 コスト パフォーマンスの 高 い 価 格 設 定 が 必 須 となる その 意 味 からも 工 場 や 保 有 施 設 の 稼 働 率 向 上 のための 設 備 保 全 は 極 めて 重 要 な 経 営 課 題 となる 設 備 保 全 分 野 では 従 来 定 期 的 に 保 全 する 方 法 時 間 基 準 保 全 ( Time Based Maintenance : TBM)が 主 流 であったが 近 年 は 設 備 監 視 のハードウェア ソフトウェア
の 性 能 アップも 相 まって 設 備 の 状 況 を 判 断 してタイムリーな 保 全 を 行 なう 状 態 基 準 保 全 (Condition Based Maintenance : CBM)にシフトしつつある こちらの 方 が 部 品 コ ストや 保 全 コストの 低 減 故 障 率 の 低 減 に 繋 がるからである 保 全 を 行 なうと 保 全 後 の 初 期 故 障 を 生 じる 確 率 が 高 くなるため 保 全 しなくてもよいものも 定 期 保 全 で 保 全 したた めに 初 期 故 障 を 生 じたりすることがある 部 品 の 状 態 がよければできるだけ 保 全 しないほ うがよいといえる CBM に 移 行 すると 異 常 の 兆 候 をできるだけ 速 やかに 捉 えることが 求 められる そのた めの 手 法 として 現 在 様 々なものが 検 討 されているが 業 態 や 分 野 によってその 指 標 も 異 なってくる CBM においては 常 に 設 備 を 監 視 し センサ 類 で 収 集 したデータ 群 を 処 理 することになる そこではオンラインか 擬 似 オンラインでの 処 理 が 必 要 である これらの 分 析 には 一 般 的 に 時 系 列 解 析 手 法 が 用 いられる 時 系 列 データを 解 析 してシス テム 同 定 を 行 う 方 法 である システム 同 定 の 目 的 は 制 御 系 設 計 異 常 診 断 や 故 障 検 出 モデルに 基 づいた 計 測 適 応 信 号 処 理 画 像 解 析 等 であり 設 備 の 劣 化 予 測 や 制 御 に 活 用 されることが 多 い 本 論 文 では このような 時 系 列 解 析 とその 設 備 保 全 分 野 への 適 用 に 関 して 研 究 を 行 った 設 備 の 異 常 検 知 手 法 としては 従 来 感 度 の 良 い 指 標 としてデータの RMS 値 Kurtosis 値 Bicoherence 値 などを 計 算 する 方 法 や 時 系 列 を AR(Auto Regressive; 自 己 回 帰 )モデ ルや ARMA(Autoregressive Moving Average; 自 己 回 帰 移 動 平 均 )モデルに 当 てはめ シ ステムパラメータを 推 定 し そのシステムパラメータの 正 常 値 からの 乖 離 度 等 を 計 算 する 方 法 が 用 いられてきた また カルマンフィルタの 残 差 系 列 の 白 色 性 検 定 を 行 うことによって 異 常 検 知 する Residual-Based Approach 法 などがある 一 方 周 期 運 動 体 の 劣 化 を 評 価 する 際 には 複 数 の 劣 化 指 標 を 算 出 し その 劣 化 確 率 を 重 み 付 けして 加 算 したものを 算 出 し 異 常 確 率 とするフォールト マトリックス 手 法 が 提 案 され 用 いられてきた これらの 各 種 異 常 検 知 手 法 に 関 しては 計 算 の 煩 雑 さ 逐 次 計 算 における 収 束 計 算 の 複 雑 さ 等 の 課 題 があり これらを 克 服 するために 過 去 から 様 々な 研 究 が 行 われてきたが 克 服 すべき 課 題 も 存 在 する 例 えば データ 発 生 スピードがデータ 処 理 能 力 を 上 回 るような 場 合 オンラインでのシ ステム 同 定 が 難 しい さらに 従 来 感 度 のよい 設 備 異 常 検 知 手 法 とされたKurtosisについては 現 場 での 取 り 扱 いが 複 雑 である また 簡 便 で 感 度 のよい 異 常 検 知 手 法 は 常 にその 開 発 が 求 められてい る 本 論 文 では これらとは 異 なるアプローチにより 従 来 から 提 案 されている 各 種 の 手 法 の 改 善 を 試 みると 同 時 に 現 場 で 容 易 に 取 り 扱 うことのできる 設 備 異 常 検 知 の 仕 組 みを 提
案 した 即 ち 現 場 では 緻 密 な 設 備 診 断 のニーズはあるものの 設 備 面 やコスト 面 さらに は 人 的 な 技 術 レベル 等 の 運 用 面 から 必 ずしも 精 密 な 設 備 異 常 検 知 技 術 の 導 入 ができない 場 合 がある そこで 現 場 でもスピーディでかつ 簡 便 に 用 いることのできる 設 備 異 常 検 知 の 簡 易 計 算 手 法 を 提 案 した 本 論 文 における 改 善 の 視 点 は 以 下 の 通 りである (1) 繰 り 返 し 計 算 等 複 雑 な 計 算 アルゴリズムの 簡 素 化 モデルによる 計 算 時 間 の 短 縮 (2) 計 算 時 間 の 短 縮 による 早 期 の 設 備 異 常 検 知 の 仕 組 みの 構 築 (3) 現 場 でも 簡 易 に 設 備 の 異 常 検 知 できる 簡 易 計 算 手 法 の 導 入 (4) 異 常 検 知 の 精 度 向 上 以 上 の 視 点 に 基 づき 簡 易 設 備 診 断 手 法 の 開 発 や 手 法 自 体 の 改 善 を 提 案 し 数 値 計 算 によってその 有 効 性 を 検 証 した 本 論 文 の 構 成 は 以 下 の 通 りである 第 2 章 では (1)(2)の 目 的 のため オンラインパラメータ 推 定 時 における 時 系 列 の 複 数 デ ータ 処 理 に 関 して データの 発 生 が 速 く 処 理 装 置 を 超 えるような 場 合 の まとまったデ ータ 処 理 方 法 に 関 して1 自 己 相 関 関 数 を 用 いる 場 合 2 逐 次 計 算 を 繰 り 返 す 場 合 の 二 種 類 の 方 法 を 提 案 し 数 値 計 算 により 実 証 的 にそれらの 比 較 検 討 を 行 った 第 3 章 では (1)(2)の 目 的 のため カルマンフィルタを 用 いた 異 常 検 知 手 法 において 簡 易 計 算 手 法 を 提 案 し 短 時 間 の 計 算 で 有 効 な 異 常 検 知 を 行 う 手 法 を 提 案 した 回 転 体 等 の 振 動 信 号 等 は 短 時 間 で 大 量 に 出 力 され 振 動 信 号 等 の 発 生 に 対 し 計 算 処 理 が 追 いつかない 場 合 がある また カルマンフィルタを 用 いた 場 合 計 算 が 複 雑 で 推 定 したパラメータの 変 化 が 少 なく 異 常 検 知 しにくいという 課 題 に 対 し 系 が 正 常 時 の N 個 のデータに 対 し 新 た にl 個 のデータが 加 わった 場 合 の 近 似 解 を 導 出 し これらの 課 題 を 解 決 するための 簡 易 計 算 手 法 を 導 出 した 第 4 章 では (3)の 目 的 のため 時 系 列 解 析 において 取 り 扱 いの 簡 単 な AR モデルを 用 いて 正 常 値 からの 乖 離 度 を 定 義 し システムパラメータ 推 定 時 に 簡 易 計 算 手 法 を 導 入 提 示 した また 時 系 列 の 予 測 誤 差 分 散 は 重 みつきシステムパラメータ 間 距 離 となっており マ ハラノビスの 汎 距 離 に 一 定 値 を 掛 けたものであることを 示 した 特 に 予 測 誤 差 分 散 は 数 式 モデルのシステムパラメータの 変 化 を 正 常 値 からの 乖 離 度 と して 示 すことができ 設 備 の 劣 化 状 況 を 有 効 に 評 価 できる 指 標 となり 重 みつきのない 場 合 と 比 較 して 感 度 が 良 いことを 数 値 計 算 により 実 証 的 に 示 した 第 5 章 では (3)の 目 的 のため 時 系 列 解 析 において 普 遍 的 とも 言 える ARMA モデルを 用 いて 正 常 値 からの 乖 離 度 を 定 義 し システムパラメータ 推 定 時 に 簡 易 計 算 手 法 を 導 入 提 示 した ここでは キュムラントが 4 次 白 色 であることに 着 目 し 4 変 数 の 関 係 を 用 いれば キュ ムラントも 自 己 相 関 関 数 の 組 合 せで 解 析 的 に 計 算 できることを 示 した また 数 値 計 算 で 用 いた2 次 のモデルでは MA 部 分 も 解 析 的 に 導 出 できることを 示 した
第 6 章 では (3)の 目 的 のため 第 5 章 で 取 り 扱 った 2 次 元 の ARMA モデルを 3 次 元 に 拡 張 し 同 じく 簡 易 計 算 手 法 を 導 入 提 示 した 第 7 章 では (4)の 目 的 のため 複 数 の 劣 化 指 標 を 抽 出 し あらかじめ 定 めたモデルに 当 てはめ 劣 化 確 率 を 算 出 し 複 数 個 の 劣 化 確 率 の 線 形 結 合 で 異 常 検 知 するフォールト マ トリックス 手 法 に 改 善 を 加 えた すなわち 劣 化 確 率 算 出 時 に 上 下 限 の 制 約 条 件 を 導 入 し さらに 曲 率 を 可 変 数 としたモデルを 開 発 して 現 場 の 実 態 に 近 づけると 共 に 精 度 の 向 上 を 図 った 第 8 章 では 以 上 述 べてきた 各 種 の 異 常 検 知 手 法 に 関 して 総 合 的 に 評 価 を 行 ない 今 後 の 課 題 とまとめを 行 った 以 上 述 べたように 提 案 した 手 法 は 数 値 計 算 によって 有 効 性 を 実 証 的 に 確 認 した 今 後 の 課 題 としては より 汎 用 性 の 高 い 高 次 モデルへの 拡 張 や 厳 密 解 との 比 較 等 さらに 事 例 を 増 やし 現 場 での 実 測 データを 用 いた 詳 細 な 有 効 性 評 価 のシミュレーションを 行 うなど 更 なるモデルのブラッシュアップを 図 って 行 きたい 審 査 結 果 の 要 旨 本 論 文 では 時 系 列 解 析 とその 設 備 保 全 分 野 への 適 用 に 関 して 研 究 を 行 っている 本 論 文 では 従 来 手 法 とは 異 なるアプローチにより 従 来 から 提 案 されている 各 種 の 手 法 の 改 善 を 試 みると 同 時 に 現 場 で 容 易 に 取 り 扱 うことのできる 設 備 異 常 検 知 の 仕 組 みを 提 案 している 本 論 文 における 改 善 の 視 点 は 以 下 の 通 りである (1) 繰 り 返 し 計 算 等 複 雑 な 計 算 アルゴリズムの 簡 素 化 モデルによる 計 算 時 間 の 短 縮 (2) 計 算 時 間 の 短 縮 による 早 期 の 設 備 異 常 検 知 の 仕 組 みの 構 築 (3) 現 場 でも 簡 易 に 設 備 の 異 常 検 知 できる 簡 易 計 算 手 法 の 導 入 (4) 異 常 検 知 の 精 度 向 上 以 上 の 視 点 に 基 づき 簡 易 設 備 診 断 手 法 の 開 発 や 手 法 自 体 の 改 善 を 提 案 し 数 値 計 算 によってその 有 効 性 を 検 証 している 第 2 章 では (1)(2)の 目 的 のため オンラインパラメータ 推 定 時 における 時 系 列 の 複 数 デ ータ 処 理 に 関 して データの 発 生 が 速 く 処 理 装 置 を 超 えるような 場 合 の まとまったデ ータ 処 理 方 法 に 関 して1 自 己 相 関 関 数 を 用 いる 場 合 2 逐 次 計 算 を 繰 り 返 す 場 合 の 二 種 類 の 方 法 を 提 案 し 数 値 計 算 により 実 証 的 にそれらの 比 較 検 討 を 行 っている 第 3 章 では (1)(2)の 目 的 のため カルマンフィルタを 用 いた 異 常 検 知 手 法 において 簡 易 計 算 手 法 を 提 案 し 短 時 間 の 計 算 で 有 効 な 異 常 検 知 を 行 う 手 法 を 提 案 している 第 4 章 で は (3)の 目 的 のため 時 系 列 解 析 において 取 り 扱 いの 簡 単 な AR モデルを 用 いて 正 常 値 からの 乖 離 度 を 定 義 し システムパラメータ 推 定 時 に 簡 易 計 算 手 法 を 導 入 提 示 している 第 5 章 では (3)の 目 的 のため 時 系 列 解 析 において 普 遍 的 とも 言 える ARMA モデルを 用 いて 正 常 値 からの 乖 離 度 を 定 義 し システムパラメータ 推 定 時 に 簡 易 計 算 手 法 を 導 入 提 示 している 第 7 章 では (4)の 目 的 のため 複 数 の 劣 化 指 標 を 抽 出 し あらかじめ 定
めたモデルに 当 てはめ 劣 化 確 率 を 算 出 し 複 数 個 の 劣 化 確 率 の 線 形 結 合 で 異 常 検 知 するフ ォールト マトリックス 手 法 に 改 善 を 加 えている 本 研 究 に 関 して 国 際 学 術 論 文 誌 (レフェリード ジャーナル)に1 件 国 内 学 術 論 文 誌 (レフェリード ジャーナル)に3 件 論 文 が 掲 載 されたほか 紀 要 11 件 特 許 4 件 国 際 学 会 発 表 9 件 国 内 学 会 発 表 4 件 英 文 学 術 専 門 書 ( 共 著 )1 点 と 充 分 な 業 績 を 積 んでいる 以 上 のとおり 本 論 文 は 本 論 文 提 出 者 が 自 立 した 研 究 者 として 十 分 な 能 力 と 学 識 を 備 えていることを 示 している 本 審 査 委 員 会 は 本 論 文 の 審 査 ならびに 最 終 試 験 の 結 果 に 基 づき 本 論 文 提 出 者 に 対 して 博 士 ( 経 済 学 )の 学 位 を 授 与 することを 適 当 と 認 める