えんたい 戦 時 下 の 地 盤 構 造 物 ~ 各 務 原 台 地 における 掩 体 ごう 壕 の 特 徴 について~ 各 務 原 市 正 会 員 西 村 勝 広 エイトン 国 際 会 員 可 児 幸 彦 奥 田 建 設 奥 田 昌 男 昭 和 コンクリート 工 業 ( 株 ) 中 根 洋 治 立 命 館 大 学 理 工 学 部 国 際 会 員 早 川 清 1. はじめに 現 在 岐 阜 県 各 務 原 市 には 航 空 自 衛 隊 岐 阜 基 地 が 所 在 する その 前 身 は 陸 軍 各 務 原 飛 行 場 である 第 二 次 世 界 大 戦 期 米 軍 の 空 爆 が 日 本 本 土 で 始 まると 主 力 兵 器 であった 戦 闘 機 を 守 るため 飛 行 場 の 内 外 に 多 数 の 掩 体 壕 が 造 られた 本 稿 では まず 全 国 に 現 存 する 掩 体 壕 を 集 成 し 形 態 分 類 を 整 理 する そして 各 務 原 飛 行 場 の 内 外 に 現 存 する 掩 体 壕 の 調 査 や 航 空 写 真 の 分 析 を 通 して その 施 工 方 法 や 立 地 条 件 の 特 徴 を 見 出 し 各 務 原 台 地 における 掩 体 壕 の 特 殊 性 について 論 じる 2. 掩 体 壕 構 築 までの 経 緯 1944 年 ( 昭 和 19) 末 頃 から 本 格 化 した 米 軍 の 日 本 本 土 空 襲 は 軍 事 施 設 軍 需 工 場 そして 都 市 を 標 的 とした 空 襲 すなわち 戦 略 爆 撃 により 200 箇 所 以 上 の 都 市 が 被 災 したと 言 われている この 戦 争 では 航 空 戦 術 が 重 んじられ 制 空 権 獲 得 のために 敵 国 の 飛 行 関 連 施 設 を 優 先 して 空 爆 した 各 務 原 飛 行 場 の 周 辺 には 軍 事 施 設 や 軍 需 工 場 も 集 中 していたことから 岐 阜 県 内 では 真 っ 先 に 標 的 となった 県 内 で 唯 一 1t 爆 弾 等 焼 夷 弾 以 外 の 投 下 が 行 なわれた 事 実 からも 各 務 原 は 近 郊 と 比 べて 優 先 順 位 の 高 い 攻 撃 目 標 になっていたことがわかる 1945 年 ( 昭 和 20)6 月 22 日 の 空 爆 が 最 も 大 きな 被 害 をもたらした 米 軍 の B29 爆 撃 機 は 1 万 メートルという 高 々 度 を 飛 行 するため 迎 撃 には 困 難 が 伴 った また 本 土 空 襲 が 始 まって 以 来 日 本 軍 の 戦 闘 機 搭 乗 員 の 死 傷 空 襲 による 航 空 機 生 産 工 場 の 破 壊 航 空 燃 料 の 枯 渇 等 によ り 思 うような 応 戦 ができなくなっていった 危 機 が 迫 る 未 空 爆 地 域 では 軍 需 工 場 を 中 心 に 計 画 的 な 分 散 疎 開 が 始 まり 林 間 工 場 や 地 下 工 場 の 建 設 転 用 工 場 の 獲 得 などが 急 がれた 同 じ 理 由 で 主 力 兵 器 である 戦 闘 機 ( 以 下 爆 撃 機 や 練 習 機 も 含 む)の 機 体 も 空 爆 から 守 る 対 策 がとられ た その 対 策 とは 戦 闘 機 を 地 上 で 分 散 退 避 させ 遮 蔽 物 によって 隠 すという 原 始 的 かつ 最 終 的 手 段 であっ た そのための 施 設 を 掩 体 壕 と 呼 ぶ 陸 軍 各 務 原 飛 行 場 内 及 び 周 辺 においても 相 当 数 の 掩 体 壕 が 造 られた 事 実 がある 戦 後 進 駐 軍 により 撮 影 された 航 空 写 真 には その 形 や 残 影 を 多 数 見 ることができる また 戦 時 体 験 談 によれば 戦 闘 機 の 部 品 は 神 社 山 林 学 校 川 原 などにも 分 散 保 管 されたという 3. 全 国 の 掩 体 壕 今 回 現 存 する 掩 体 壕 として 集 成 できたのは 35 箇 所 96 基 である( 表 -1) これらの 他 に 実 態 が 把 握 でき なかった 地 域 や 未 踏 査 区 域 の 残 存 数 が 加 算 される 可 能 性 がある 当 時 に 造 られた 掩 体 壕 の 総 数 については 算 出 する 根 拠 を 持 ち 合 わせていない 日 本 陸 海 両 軍 の 戦 闘 機 の 生 産 数 は 29,000 機 とも 言 われているが 本 土 が 空 爆 の 危 機 にさらされた 時 点 での 残 存 数 は 激 減 していた 前 線 部 隊 に 徴 収 されず 地 方 の 飛 行 場 に 残 された 機 体 には 故 障 若 しくは 未 完 成 で 飛 行 能 力 を 持 たないもの 含 まれていたと 思 われる おそらく 数 千 基 の 掩 体 Ground structures during the war - Entaigo - :Katsuhiro Nishimura(Kakamigahara City),Yukihiko Kani(Eiton Co. Ltd.), Masao Okuda(Okuda Construction Company ), Youji Nakane(Showa Concrete Industries Co. Ltd. ) and Kiyoshi Hayakawa(Ritsumeikan Univercity) 1
1) 2) 表 -1 全 国 各 地 の 現 存 する 掩 体 壕 壕 が 造 られており その 中 には 一 定 の 機 体 整 備 を 行 えるような 上 級 施 設 も 存 在 したと 考 えられる 掩 体 壕 の 型 式 分 類 については 一 般 に 有 蓋 掩 体 壕 と 無 蓋 掩 体 壕 がある 有 蓋 掩 体 壕 とは コンク リートを 用 いてドーム 型 に 壁 と 天 井 を 構 築 したタ イプである 平 面 形 は 前 幅 が 後 幅 より 広 いカッ プ 形 や 凸 形 を 呈 する また 天 井 高 も 後 方 へ 低 く なる その 理 由 は 戦 闘 機 の 形 状 や 傾 きに 合 わせ 必 要 最 小 限 の 空 間 を 確 保 したことにある 構 築 方 法 の 一 つに 次 の 様 な 例 がある まず 土 盛 りによって 掩 体 壕 の 形 を 造 り 内 型 とする その 表 面 に 離 型 用 のムシロや 板 を 敷 き コンクリートで 図 -1 有 蓋 掩 体 壕 の 復 原 図 ( 東 京 都 府 中 市 白 糸 台 ) 3) 2
覆 い 硬 化 した 後 に 土 を 掻 き 出 す こうして 蒲 鉾 形 の 掩 体 壕 が 完 成 する 図 -1 の 例 では 地 面 を 掘 り 下 げ 半 地 下 式 としスペースを 広 げている 天 井 部 分 の 外 側 は 土 や 草 によってカモフラージュされた 有 蓋 掩 体 壕 の 開 口 部 は 大 きさは 異 なるものの 前 後 両 方 にある 場 合 が 多 い 爆 風 を 逃 がすための 通 気 や 外 光 を 確 保 する 意 図 があったものと 思 われる ま た 側 面 に 袖 壁 を 付 けたり 天 井 部 に 梁 を 設 けるなど 補 強 のための 構 造 が 認 められる さらに 写 真 -1 の ように 開 口 部 に 垂 れ 壁 が 付 く 例 も 少 なくない この 壁 は 補 強 目 的 のほか 空 爆 による 爆 風 や 破 片 ある いは 機 銃 掃 射 から 機 体 を 守 る 目 的 があり 壁 面 は 機 体 の 出 し 入 れが 行 えるよう 主 翼 や 垂 直 尾 翼 の 部 分 が 必 要 最 小 限 にカットされている これら 有 蓋 掩 体 壕 は コンクリートが 用 いられ 強 固 に 造 られているため 戦 後 は 物 置 や 車 庫 に 再 利 用 されるなどして 比 較 的 に 残 りやすい しかし コン クリートの 劣 化 によりクラックが 発 生 している 場 合 も 多 く 今 後 史 跡 等 として 保 存 していくには 大 き な 課 題 となる もう 一 つの 型 式 として 無 蓋 掩 体 壕 がある コンク リートを 一 切 用 いず 土 盛 りによって 機 体 を 囲 む 土 手 を 造 るタイプである( 写 真 -2) 構 造 が 単 純 で 最 も 多 く 造 られた 掩 体 壕 であるが 逆 に 現 存 するものは 僅 かである 平 面 形 は 馬 蹄 形 や 多 角 形 コの 字 型 を 呈 する 無 蓋 とは 言 うものの 竹 や 草 木 によって 天 井 部 を 覆 う 屋 根 を 架 設 した 例 ( 写 真 -3)や 同 様 の 資 材 で 土 手 の 高 さを 増 した 例 ( 図 -2)が 知 られる 無 蓋 掩 体 壕 構 築 の 様 子 を 知 る 貴 重 な 体 験 談 がある 昭 和 19 年 の 終 わり 頃 飛 行 班 長 から 明 朝 から 掩 体 壕 をつくるために 徴 用 者 が 来 ることを 知 らされま した 当 日 は 百 人 近 い 人 達 が 飛 行 班 の 前 に 整 列 しま した 商 売 を 休 み 事 業 を 犠 牲 にして 来 られたよう な 比 較 的 年 配 の 人 達 ばかりでした 仕 事 は 半 月 くら いの 予 定 で 飛 行 機 が 2~3 機 収 容 できる 掩 体 壕 づく 写 真 -1 有 蓋 掩 体 壕 ( 高 知 県 南 国 市 ) 4) 写 真 -2 無 蓋 掩 体 壕 ( 熊 本 県 熊 本 市 ) 2) 写 真 -3 無 蓋 掩 体 壕 の 架 設 屋 根 3) 図 -2 無 蓋 掩 体 壕 の 架 設 塀 5) 3
りの 工 事 が 飛 行 場 の 片 隅 で 始 まりました 当 時 の 道 具 言 えばスコップ ツルハシ モッコだけで あとは 人 海 戦 術 ということですから 大 変 な 仕 事 でした こんな 方 法 で 大 きな 掩 体 壕 を 三 つもつくるのですから 毎 日 が 重 労 働 の 連 続 でした そのうえ 食 料 も 十 分 なかった 時 代 でしたから 空 腹 での 仕 事 は 余 計 に 身 に 応 え 工 事 も 遅 れがちでした 5) このような 体 験 談 から 無 蓋 掩 体 壕 は 特 別 な 資 材 を 必 要 とせず 単 純 な 労 働 作 業 で 造 られたことや 緊 急 に 徴 収 された 一 般 人 の 手 で 短 期 間 で 造 られたことなどが 分 かる 無 蓋 掩 体 壕 は このように 構 造 が 単 純 であ るが 故 に 終 戦 直 後 には 土 盛 りが 均 されてしまい 現 在 に 残 らない 場 合 がほとんどである 4. 各 務 原 市 における 掩 体 壕 の 実 例 各 務 原 市 民 の 戦 時 記 録 (5) では 掩 体 壕 という 呼 称 を 土 盛 りの 無 蓋 掩 体 壕 に 限 定 し コンクリートを 用 いた 有 蓋 掩 体 壕 は 格 納 庫 として 区 別 している しかし ここで 格 納 庫 とされた 遺 構 は 全 国 的 な 掩 体 壕 と 比 較 して 大 差 なく 目 的 の 違 いも 考 えられないことから 本 稿 では 掩 体 壕 として 扱 う 市 内 に 残 る 掩 体 壕 は 僅 かで 現 在 のところ 有 蓋 が 6 基 と 言 われ 無 蓋 は 不 明 である 不 明 とするのは 現 在 の 航 空 自 衛 隊 基 地 内 に 残 存 する 可 能 性 があるものの 踏 査 ができていないためである なお 現 存 が 確 認 さ れるものであっても 未 完 成 の 状 態 で 終 戦 を 迎 えたと 言 う 証 言 も 一 部 にある (1) 前 渡 地 区 に 残 る 掩 体 壕 各 務 原 市 内 には 実 数 は 把 握 できてい ないが 相 当 数 の 掩 体 壕 が 構 築 された 米 軍 により 終 戦 間 もない 昭 和 23 年 に 撮 影 された 航 空 写 真 には 多 くの 有 蓋 無 蓋 掩 体 壕 既 に 撤 去 されている 痕 跡 を 確 認 することができる ここで 注 目 する 前 渡 地 区 は 飛 行 場 の 南 東 部 に 位 置 する 飛 行 場 の 敷 地 に 接 するようにして 荒 井 山 (72m)と 長 根 山 (86m 別 称 長 平 山 ) そして 南 へ 少 し 離 れて 矢 熊 山 (87.3m) が 位 置 している( 写 真 -4 図 -3) 後 者 二 つの 山 裾 には 古 老 の 話 や 航 空 写 真 から 写 真 -4 前 渡 地 区 航 空 写 真 ( 昭 和 23 年 ) 6) 6 基 の 掩 体 壕 の 存 在 を 知 ることができる 今 回 は そのうち 残 存 状 態 の 良 い 長 根 山 掩 体 壕 矢 熊 山 北 掩 体 壕 矢 熊 山 南 掩 体 壕 と 呼 ぶ 3 基 の 有 蓋 掩 体 壕 を 取 り 扱 う また 他 の 航 空 写 真 には 飛 行 場 の 構 内 に 多 くの 無 蓋 掩 体 壕 と 思 われる 構 築 物 が 確 認 できる 写 真 -4 の 範 囲 においても 飛 行 場 構 内 の 南 東 端 に 5 基 の 無 蓋 掩 体 壕 の 存 在 が 確 認 できる さらに 写 真 -4 で は 飛 行 場 から 掩 体 壕 まで 戦 闘 機 を 移 動 さ せるための 誘 導 路 も 写 っている 誘 導 路 は 既 設 道 路 の 拡 幅 田 畑 の 埋 め 立 て 山 の 削 平 などによって 造 られ 山 砂 利 が 図 -3 前 渡 地 区 の 現 況 図 ( 平 成 25 年 ) 敷 かれていたという 4
(2) 長 根 山 掩 体 壕 有 蓋 掩 体 壕 の 典 型 が 1 基 残 存 する 長 根 山 掩 体 壕 である( 図 -4) 長 根 山 の 南 斜 面 で 緩 い 谷 地 形 の 部 分 を 開 削 して カップ 形 の 平 面 形 を 呈 するコンクリート 製 掩 体 壕 が 造 られている 前 部 開 口 部 の 幅 24.71m 同 高 さ 6.21m 後 部 開 口 部 の 幅 7.18m 同 高 さ 4.14m コンクリート 部 の 長 さ 18.97m 後 部 掘 り 込 み 延 長 部 17.8mの 規 模 を 有 する 図 -1 に 取 り 上 げた 白 糸 台 掩 体 壕 と 大 きさ 形 状 ともに 近 似 するが 内 面 に 大 きな 梁 が 付 くことや 正 面 外 側 に 庇 が 付 属 する 点 が 異 なる( 写 真 -5) また 後 背 部 に 山 の 斜 面 を 掘 削 して 敷 地 を 細 長 く 延 長 させていることが 特 徴 である( 写 真 -6) この 用 途 は 不 明 である コンクリート 部 分 の 内 面 には 木 枠 の 痕 跡 が 短 冊 状 に 残 る 山 の 斜 面 を 開 削 し 側 壁 のコンクリートを 垂 直 に 積 んだ 後 アーチ 形 に 木 枠 を 造 りコ ンクリートを 上 積 みしたと 考 えられる 内 部 には 鉄 筋 が 使 用 され 所 々に 見 え 隠 れしている 現 在 天 井 部 は 腐 葉 土 が 覆 い 樹 木 が 茂 っているが 当 時 もある 程 度 のカモフラージュが 施 されていたと 思 われる この 長 根 山 掩 体 壕 は 現 在 は 運 輸 会 社 の 倉 庫 に 使 われ 内 部 にはパレット 等 が 山 積 みにされている 正 面 開 口 部 の 天 井 中 央 部 には 大 きなクラックが 生 じている 図 -4 長 根 山 掩 体 壕 実 測 図 7) 写 真 -5 長 根 山 掩 体 壕 の 前 部 写 真 -6 長 根 山 掩 体 壕 の 後 部 5
(3) 矢 熊 山 北 掩 体 壕 矢 熊 山 は 長 根 山 のすぐ 南 に 位 置 し 両 掩 体 壕 間 の 距 離 は 直 線 にして 約 200 mと 近 い 矢 熊 山 掩 体 壕 は 長 根 山 掩 体 壕 と 同 じく 山 の 裾 部 を 開 削 して 造 られた 有 蓋 掩 体 壕 である( 図 -5) 但 し 平 面 形 が 凸 型 を 呈 する ことが 特 徴 で 写 真 -1 に 取 り 上 げた 高 知 県 南 国 市 の 掩 体 壕 と 同 じタイプになる コンクリート 製 の 側 壁 は 高 さ 2.3m 前 後 前 部 開 口 部 の 幅 24.38m 後 部 開 口 部 の 幅 10.2m 全 長 22.5mの 規 模 を 有 する 奥 壁 が 造 ら れていないことは 掩 体 壕 の 典 型 的 な 特 徴 として 指 摘 できる しかし 上 屋 構 造 物 が 存 在 しない 側 壁 の 上 部 は 内 側 に 傾 斜 しており その 面 から 1.5m 前 後 の 間 隔 で 鉄 筋 が 突 き 出 ている( 写 真 -7 8) 通 例 では こ こからコンクリートを 用 いたアーチ 形 の 天 井 が 架 設 されたはずである 側 壁 は 丁 寧 な 仕 上 がりを 見 せている ことなどから コンクリートを 用 いる 工 程 はここで 終 了 している 可 能 性 が 高 く 上 屋 は 木 造 で 構 築 されてい たか あるいは 構 築 される 予 定 であったと 考 えられる その 理 由 は コンクリートや 鉄 筋 の 供 給 不 足 や 完 成 前 に 終 戦 を 迎 えてしまったことなどが 考 えられる 図 -5 矢 熊 山 北 掩 体 壕 実 測 図 7) 写 真 -7 矢 熊 山 北 掩 体 壕 の 東 側 壁 写 真 -8 矢 熊 山 北 掩 体 壕 の 東 側 壁 近 景 6
(4) 矢 熊 山 南 掩 体 壕 矢 熊 山 の 南 面 に 造 られたのが 矢 熊 山 南 掩 体 壕 である( 図 -6) 市 域 を 含 む 美 濃 地 方 の 山 々は 美 濃 帯 堆 積 岩 類 と 称 される 岩 盤 で 成 り 立 っている この 掩 体 壕 が 存 在 する 地 点 は 矢 熊 山 内 部 の 岩 盤 が 垂 直 に 露 頭 した 絶 壁 の 直 下 である( 写 真 -9) その 岩 盤 を 削 岩 機 と 発 破 を 使 用 して 洞 窟 のように 掘 り 込 み 通 例 の 掩 体 壕 に はない 型 式 を 呈 する 大 きさは 前 部 開 口 部 の 幅 18.0m 高 さ 7.0 m 全 長 29.5mである 横 穴 の 内 側 には コンクリートが 全 面 ではなくアーチ 形 に 打 たれている( 写 真 -10) アーチコンクリート は 前 後 2 本 で 前 方 側 が 幅 4.25m 後 方 側 が 幅 3.5mを 測 る これらには 鉄 筋 が 用 いられ 岩 盤 の 崩 落 を 防 ぐための 補 強 と 考 えられるが 資 材 不 足 から 部 分 的 な 施 工 に 留 まったと 推 定 される アーチの 上 面 は 刳 り 貫 いた 岩 盤 の 天 井 部 に 密 着 しており その 厚 さは 岩 盤 の 凹 凸 により 一 定 していない この 横 穴 を 未 完 成 の 地 下 工 場 とする 見 解 もある しかし 横 断 面 が 幅 広 の 蒲 鉾 形 を 呈 することや 前 面 の 垂 壁 が 多 くの 掩 体 壕 に 備 えられる 構 造 物 と 同 様 であることから 本 稿 では 横 穴 式 掩 体 壕 として 認 識 する 但 し 特 殊 な 構 造 や 規 模 から 通 常 の 掩 体 壕 に 比 して 上 級 の 施 設 であったことは 考 えられる 図 -6 矢 熊 山 南 掩 体 壕 実 測 図 7) 写 真 -9 矢 熊 山 南 掩 体 壕 の 岩 盤 面 写 真 -10 矢 熊 山 南 掩 体 壕 の 内 部 7
(5) 飛 行 場 内 掩 体 壕 群 前 述 の 通 り 5 基 の 無 蓋 掩 体 壕 が 確 認 でき る このタイプは 一 般 に 馬 蹄 形 のタイプに 分 類 されるだろうが よく 見 ると 多 角 形 を 呈 していることが 分 かる( 写 真 -11) 硬 く 転 圧 されているためか 綺 麗 な 法 面 を 成 し 土 手 の 断 面 形 は 台 形 であることが 確 認 できる 開 口 部 の 幅 は 22~27mと 推 定 される 注 目 され るのは 土 盛 りの 外 周 部 に 窪 地 が 巡 ることで ある 盛 土 は 外 周 部 を 掘 ることによって 必 要 な 土 量 を 獲 得 したことが 分 かる これは 古 代 の 古 墳 墳 丘 の 築 造 方 法 と 同 じである 写 真 -11 無 蓋 掩 体 壕 の 拡 大 6) 5. 各 務 原 飛 行 場 周 辺 の 掩 体 壕 の 特 徴 全 国 の 掩 体 壕 を 見 ると 広 大 な 平 原 の 中 に 点 々と 造 られている 事 例 が 多 い その 理 由 は 掩 体 壕 が 配 置 さ れるのは 飛 行 場 の 敷 地 内 か 周 辺 部 であるからである 各 務 原 飛 行 場 も 各 務 野 と 呼 ばれた 広 大 な 各 務 原 台 地 の 上 に 位 置 する 基 地 内 部 に 造 られた 掩 体 壕 は 全 国 の 標 準 的 な 掩 体 壕 と 変 わりない しかし 各 務 原 台 地 の 場 合 基 地 周 辺 は 小 丘 陵 に 囲 まれている 地 質 学 的 には 褶 曲 と 隆 起 により 折 れ 曲 がった 岩 盤 が 所 々に 突 き 出 していると 説 明 できる 有 蓋 掩 体 壕 の 築 造 に 際 しては 基 地 周 辺 のこうした 地 盤 形 状 を 巧 みに 利 用 し 山 寄 せ 式 の 掩 体 壕 を 構 えたことが 当 地 域 の 特 徴 である 山 裾 に 寄 せることで 空 中 からの 死 角 になりやすく 同 時 に 機 銃 掃 射 による 攻 撃 を 著 しく 困 難 にさせることができる 一 方 有 蓋 掩 体 壕 の 形 状 はカップ 型 や 凸 型 そして 横 穴 式 と 一 定 せず 他 地 域 の 仕 様 を 参 考 に 複 数 の 試 みが 行 われていた 可 能 性 がある その 理 由 につい ては もう 少 し 検 討 の 余 地 がある 台 形 断 面 の 堤 を 組 み 合 わせたような 無 蓋 掩 体 壕 の 構 造 は 盛 土 転 圧 が 施 工 しやすい また 八 角 形 を 半 分 に 切 った 平 面 形 は 格 納 する 戦 闘 機 の 主 翼 と 尾 翼 の 形 状 に 重 なり 理 にかなっている 各 務 原 台 地 を 覆 う 強 酸 性 黒 色 土 壌 ( 通 称 黒 ボク)は 粒 状 構 造 が 細 かいため 乾 燥 時 にはまとまりがなく 水 分 を 含 むと 粘 性 が 極 度 に 強 くなるため 入 念 な 転 圧 が 必 要 なので このような 平 面 形 が 採 択 された 可 能 性 がある 6. 結 論 1) 全 国 に 現 存 する 掩 体 壕 は 35 箇 所 96 基 以 上 を 数 える 2) 掩 体 壕 の 型 式 は 有 蓋 と 無 蓋 に 分 類 されるが その 根 拠 は 屋 根 の 有 無 というより 資 材 がコンクリートか 土 か という 点 にある 3) 各 務 原 市 内 の 有 蓋 掩 体 壕 は 地 盤 的 特 徴 を 防 空 に 活 かすため 山 に 寄 せて 造 った また 各 種 形 態 の 掩 体 壕 が 造 られた 4) 各 務 原 市 内 の 無 蓋 掩 体 壕 は 土 壌 の 特 質 から 多 角 形 の 構 造 になった 可 能 性 がある 参 考 文 献 及 びウェブサイト 1) http://ja.wikipedia.org/wiki/%e6%8e%a9%e4%bd%93%e5%a3%95(wikipedia) 2) http://www.k4.dion.ne.jp/~entaigou/( 昭 和 の 記 憶 ) 3) http://blogs.yahoo.co.jp/seoto_kisyuu/( 瀬 音 の 写 真 集 ) 4) http://koikoi2011.blog.fc2.com/( 旧 聞 since2009) 5) 各 務 原 市 戦 時 記 録 編 集 委 員 会 編, 各 務 原 市 の 戦 時 記 録, 各 務 原 市 教 育 委 員 会,P.191-192,1999. 6) 国 土 地 理 院 昭 和 23 年 米 軍 撮 影 空 中 写 真 7) 木 曽 川 学 研 究 協 議 会 編, 木 曽 川 学 研 究, 第 11 号,P54-56,2014. 8