報 告 上 淀 川 橋 りょう 補 修 縦 桁 上 フランジ 交 換 装 置 Repair of Kamiyodogawa Bridge : Exchange Device of Flange on Stringer *1 牧 本 健 一 Kenichi MAKIMOTO *2 江 川 義 広 Yoshihiro EGAWA *3 酒 井 啓 充 Hiromitsu SAKAI *4 濵 井 功 Tsutomu HAMAI *5 藤 岡 大 地 Daichi FUJIOKA 要 旨 本 工 事 は JR 東 海 道 本 線 新 大 阪 駅 大 阪 駅 間 に 位 置 する 上 淀 川 橋 りょう( 単 純 トラス 桁 22 連 )における 損 傷 腐 食 の 著 しい 縦 桁 の 上 フランジの 取 替 工 事 である 試 験 施 工 時 から 含 めてこれまで5 回 非 出 水 期 毎 に 施 工 しているが 過 去 の 実 績 をも とに 取 替 方 法 の 改 良 を 図 ってきた 本 稿 では 過 去 のフランジ 交 換 方 法 を 含 めて 現 在 の 交 換 方 法 まで その 経 緯 とともに 報 告 する キーワード:トラス 桁 縦 桁 修 繕, 上 フランジ 取 替 1.はじめに 上 淀 川 橋 りょうは 本 工 事 で 対 象 となっている 複 線 下 路 トラス 橋 ( 上 り 線 )と 平 行 して 下 流 側 に 同 じく 複 線 下 路 トラス 桁 ( 貨 物 線 特 急 専 用 )と 上 流 側 に 複 線 上 路 鈑 桁 ( 下 り 線 )の3 種 の 橋 梁 が 平 行 して 並 んでいる 中 でも 本 工 事 対 象 橋 梁 である 上 り 線 は 1901 年 の 竣 工 か ら110 年 以 上 も 経 過 している 歴 史 的 鋼 橋 である 本 橋 は 支 間 30mほどの 短 い 複 線 トラス 橋 が22 連 も 並 んでいるが JR 東 海 道 本 線 新 大 阪 駅 大 阪 駅 間 におい て 関 西 圏 の 大 動 脈 を 支 える1 日 に200 本 を 越 す 高 密 度 の 列 車 荷 重 に 耐 えている 特 に 枕 木 を 介 して 列 車 荷 重 を 直 接 支 持 する 縦 桁 のフ ランジについては 損 傷 や 腐 食 が 顕 著 に 認 められてお り ライフサイクルコスト( 以 下 LCC)も 含 めた 適 切 な 維 持 管 理 を 行 うことが 必 要 とされている 当 社 は 平 成 21 年 度 から 本 工 事 に 携 わっており これ まで 試 験 施 工 を 含 めて 計 5 回 非 出 水 期 毎 に 施 工 してい る( 図 -1) 西 日 本 旅 客 鉄 道 株 式 会 社 は 当 社 が 本 工 事 に 携 わる 以 前 から W(ダブル)フランジ 補 強 や 縦 桁 全 体 交 換 等 の 方 法 も 試 験 施 工 を 実 証 してきたが LCCと 構 造 設 計 的 に 上 フランジのみをT 型 の 新 設 フランジに 交 換 することが 望 ましいとしている 本 稿 では 当 社 が 施 工 した 平 成 21 年 度 からの 縦 桁 上 フ ランジの 交 換 方 法 について 報 告 する 写 真 -1 上 淀 川 橋 梁 全 景 写 真 -2 縦 桁 上 フランジ 損 傷 状 況 *1 建 設 事 業 本 部 関 西 事 業 部 工 事 計 画 部 工 事 工 務 グループ 現 場 所 長 *2 建 設 事 業 本 部 関 西 事 業 部 工 事 計 画 部 工 事 工 務 グループ 現 場 所 長 *3 建 設 事 業 本 部 関 西 事 業 部 工 事 計 画 部 工 事 工 務 グループ 現 場 所 長 *4 建 設 事 業 本 部 関 西 事 業 部 関 西 営 業 部 福 岡 営 業 所 計 画 担 当 係 長 *5 建 設 事 業 本 部 関 西 事 業 部 工 事 計 画 部 計 画 グループ 112 宮 地 技 報 No.28
図 -1 縦 桁 上 フランジ 交 換 施 工 配 置 図 2. 施 工 方 法 上 フランジ 交 換 施 工 フローチャート 今 年 度 までに 施 工 した 縦 桁 上 フランジの 交 換 箇 所 を 図 -1に 示 す 上 淀 川 橋 梁 上 り 線 22 連 において 毎 年 1 連 : 縦 桁 20 本 程 度 のペースで 上 フランジの 取 替 を 行 っている 施 工 箇 所 の 選 定 は 事 前 に 損 傷 状 況 を 確 認 した 報 告 書 から 補 修 の 優 先 順 序 を 選 定 しつつ 予 算 工 程 そし て 施 工 性 の 観 点 から その 年 に 上 フランジを 交 換 する 箇 所 が 選 定 される 因 みに 平 成 21 年 度 は 縦 桁 上 フランジ 取 替 を 施 工 す る 初 めての 年 で 試 験 的 に 縦 桁 2 本 のみの 上 フランジ 交 換 を 行 った (1) 施 工 手 順 上 フランジの 交 換 作 業 は 基 本 的 に 右 記 フローチャー トに 従 って 行 う 足 場 に 関 しては 施 工 する 箇 所 が 河 川 上 や 河 川 敷 上 そして 堤 防 上 等 の 条 件 によって 異 なるが 上 フランジ 交 換 や 事 前 作 業 の 作 業 床 として 重 要 な 設 備 である さらに 上 淀 川 橋 梁 は 全 長 700mにも 及 ぶ 橋 梁 で 資 材 取 り 込 み 箇 所 となる 河 川 敷 から 橋 梁 中 央 部 分 まで 資 材 を 運 ぶ 場 合 には300m 程 度 の 運 搬 が 必 要 となる そこ で 足 場 上 には 運 搬 台 車 および 軌 条 設 備 を 設 置 し 日 々の 資 機 材 工 具 の 運 搬 そして 新 規 T 型 フランジや 上 淀 川 橋 りょう 補 修 縦 桁 上 フランジ 交 換 装 置 113
撤 去 フランジの 運 搬 を 行 っている また 縦 桁 上 フランジを 交 換 するにあたって 縦 桁 端 部 のリベットを 高 力 ボルト(HTB)に 置 換 して 端 部 の 部 材 を 取 り 外 せるようにする 必 要 がある そして リベ ットを 高 力 ボルトに 置 換 する 作 業 は 人 工 や 工 程 を 要 す 重 要 なファクターである リベットの 撤 去 作 業 は 昼 間 列 車 を 通 しながらの 作 業 となるため 添 接 箇 所 1 箇 所 あたり4 本 までの 同 時 施 工 に 制 限 した そして 縦 桁 への 熱 影 響 を 考 慮 して 極 力 火 を 使 わないように リベット 頭 部 を 撤 去 してから アト ラーを 用 いて 穿 孔 を 行 い リーマー ケレンを 行 い 穿 孔 した 孔 を 円 滑 に 仕 上 げ 高 力 ボルトを 挿 入 して 仮 締 め 本 締 めの 順 に 行 う そして 縦 桁 上 フランジの 交 換 を 行 う 際 既 設 上 フラ ンジは 腹 板 の 上 部 ごと 撤 去 して 新 規 T 型 フランジに 置 き 換 えるが 当 夜 の 取 替 作 業 の 短 縮 化 を 図 るために 事 前 に 腹 板 の 水 平 切 断 を 行 うこととしている( 図 -2) 写 真 -5 リベット 撤 去 写 真 -6 腹 板 水 平 切 断 写 真 -3 作 業 足 場 写 真 -4 運 搬 設 備 写 真 -7 腹 板 水 平 添 接 板 復 旧 114 宮 地 技 報 No.28
図 -2 上 フランジ 交 換 一 般 図 (2) 上 フランジ 交 換 方 法 1 平 成 21 年 度 施 工 平 成 21 年 度 は 試 験 的 に1 連 目 の 縦 桁 上 フランジ2 本 の みの 交 換 作 業 を 行 った 1 連 目 は 河 川 堤 防 上 で クレーン 等 の 重 機 による 上 フランジ 交 換 も 可 能 であったが 次 年 度 以 降 の 本 施 工 を 考 慮 して ほぼ 人 力 による 上 フランジ 交 換 作 業 を 試 み た そこで 交 換 する 縦 桁 を 支 える 横 桁 にポスト( 角 鋼 管 100 100)を 固 定 し その 上 からチェーンブロックを 用 いて 既 設 上 フランジの 吊 り 込 み 撤 去 および 新 設 T 型 フランジの 吊 り 込 み 設 置 を 行 った 本 工 法 は 交 換 方 法 としては 簡 易 なものであったが ポストを 設 置 するために 作 業 員 が 軌 道 面 上 での 作 業 に なることや ポストの 設 置 が 夜 間 線 路 閉 鎖 後 の 設 置 作 業 となるため 軌 道 の 扛 上 降 下 作 業 を 含 め 交 換 作 業 の 前 後 に 多 くの 時 間 を 要 すこととなった( 図 -3) 図 -3 上 フランジ 吊 り 込 み 設 備 上 淀 川 橋 りょう 補 修 縦 桁 上 フランジ 交 換 装 置 115
2 平 成 22 年 度 平 成 24 年 度 施 工 前 年 度 の 上 フランジ 交 換 作 業 において 前 後 の 準 備 作 業 に 多 くの 時 間 を 割 くことになったため 上 フランジ 交 換 設 備 の 改 良 を 行 うこととした そこで 作 業 員 の 軌 道 面 上 での 作 業 の 低 減 と 仮 設 備 の 事 前 設 置 を 考 慮 して 上 フランジを 吊 り 込 むのではな く 油 圧 ジャッキを 用 いて 扛 上 降 下 横 移 動 を 行 える 設 備 の 開 発 を 行 った この 扛 上 降 下 横 取 りを 行 う 仮 設 備 は 縦 桁 の 下 フ ランジに 定 着 した 横 持 用 梁 材 上 に 縦 桁 を 挟 んで 両 側 にブ ラケットを 設 置 し Cap.15tf 油 圧 ジャッキを 用 いて 新 旧 T 型 フランジを 固 定 したブラケットごと 扛 上 降 下 さ せる そして 既 設 上 フランジ(T 型 )の 撤 去 は ブラ ケット 上 に 設 置 したレバープロックを 用 いて 横 引 きを 行 う さらに 新 規 T 型 フランジの 据 付 は ブラケット 上 に 横 向 きに 設 置 した 別 の 油 圧 ジャッキを 用 いて 横 移 動 を 行 う( 図 -4) 事 前 に 架 台 の 設 置 や 新 規 T 型 フランジの 仮 据 付 に 作 業 を 要 するが 軌 道 上 での 作 業 を 無 くしたことにより 軌 道 下 面 だけでの 作 業 を 可 能 にした 本 設 備 の 採 用 により 上 フランジ 交 換 工 法 は ほぼ 確 立 した 写 真 -8 上 フランジ 交 換 準 備 完 了 写 真 -9 添 接 板 撤 去 ~ 既 設 フランジ 固 定 図 -4 上 フランジ 交 換 設 備 図 116 宮 地 技 報 No.28
写 真 -10 既 設 上 フランジ 横 移 動 写 真 -13 新 規 T 型 フランジ 横 移 動 写 真 -11 既 設 上 フランジ 降 下 写 真 -14 新 規 T 型 フランジ 設 置 完 了 写 真 -12 新 規 T 型 フランジ 扛 上 上 淀 川 橋 りょう 補 修 縦 桁 上 フランジ 交 換 装 置 117
3 平 成 25 年 度 施 工 平 成 22 年 に 開 発 した 上 フランジ 交 換 設 備 によって 交 換 方 法 は 確 立 していたが さらなる 交 換 時 間 の 短 縮 化 を 図 るため 既 設 上 フランジの 撤 去 方 法 に 改 良 を 行 った 従 来 の 設 備 では 既 設 上 フランジを 横 移 動 して 降 下 さ せるまで 新 規 T 型 フランジの 扛 上 ができない そこで 既 設 上 フランジを 横 に 倒 すだけで 撤 去 できる ように 回 転 撤 去 架 台 を 開 発 した( 図 -5) 3.おわりに 本 工 事 は JR 東 海 道 本 線 軌 道 桁 という 重 要 な 構 造 物 において 上 フランジだけを 交 換 するという 特 殊 な 補 修 方 法 を 行 っているため 施 工 方 法 については 完 全 に 確 立 しているわけではないが 現 在 のところ 本 工 法 が 最 も 安 全 で 有 効 な 手 段 であると 考 えられる これからも 本 工 法 を 元 に 最 適 な 手 段 となるべく 検 討 検 証 を 重 ね 改 良 を 図 っていきたい また 本 工 事 は 全 22 連 の 内 まだ 約 1/4が 終 わった だけである 今 後 も 引 き 続 き10 年 以 上 に 渡 って 上 淀 川 橋 梁 の 補 修 作 業 は 行 われることと 思 われる その 間 に は 縦 桁 だけでなく 支 承 部 や 横 桁 の 修 繕 が 必 要 となっ てくると 考 えられるが より 良 い 施 工 方 法 を 提 案 してい きたい 図 -5 既 設 上 フランジ 回 転 撤 去 設 備 図 < 謝 辞 > 本 工 事 は これまで 施 工 方 法 の 確 立 から 現 地 施 工 そして 本 報 告 書 の 作 成 に 至 るまで 多 くの 方 にご 協 力 いた だきました この 場 をお 借 りして 関 係 者 各 位 に 深 くお 礼 申 しあげ ます < 参 考 文 献 > 1) 成 瀬 輝 男 : 鉄 の 橋 百 選 - 近 代 日 本 のランドマーク, 東 京 堂 出 版,1994 2014.11.28 受 付 写 真 -15 既 設 上 フランジ 回 転 撤 去 設 備 118 宮 地 技 報 No.28