教育講座 Jpn J Rehabil Med 2019;56: ロボットや AI を用いた産学連携リハビリテーション Rehabilitation Research Using a Robot or AI with Industryacademia Collaboration 木村浩彰

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教育講座 Jpn J Rehabil Med 2019;56:572-576 Rehabilitation Research Using a Robot or AI with Industryacademia Collaboration * Hiroaki Kimura 広島大学病院リハビリテーション科 Key words: 産学連携 / 人工知能 (AI)/ 医工連携 / ロボット / はじめに 高齢化は世界中で進行し, 高齢化による医療や 生活障害が問題となっている. 日本は世界で最も 高齢化が進行しており, 私たちが現場で日々直面 する高齢化の問題は世界最先端である. 高齢化は 加齢による現象で, 従来の医学による診断と治療 では解決できない. リハビリテーション医学は歴 史的に四肢切断や脊髄損傷などの治らない病気に 対して, 福祉機器や住宅改造など医学と異なる分 野を活用してきた. 加齢も治らない病気として対 応を迫られている. 大学などの教育 研究機関と 民間企業が連携し, 新しい研究や事業を生み出す ことを産学連携といい, リハビリテーション医学と 工学, 人工知能 (artificial intelligence:ai) の連 携によって高齢化の問題を解決し, 日本が将来世 界のヘルスケアのリーダーになれることを期待す る. 産学連携 医工連携の基礎 ø. 産業としてのロボット 日本は伝統的にものづくりが得意で, 自動車や 電子機器, 光学機械をつくる工作機械は世界有数 * 広島大学病院リハビリテーション科 ( 734-8551 広島県広島市南区霞 1-2-3) E-mail:luna@hiroshima-u.ac.jp DOI:10.2490/jjrmc.56.572 であり, 産業用ロボットの世界シェアは第 ø 位, 工作機械 ( 切削型 ) は中国に次いで第 ù 位で, 日本の重要な輸出項目である. しかし, カテーテルや人工臓器などの医療用器具は外国勢が優勢である. 医療用器具の国内売上額は ù.ÿ 兆円で, 輸入が ûā% を占める. また, 医療用器具の輸出は.ü 兆円だが, 輸入は ø.ú 兆円で.ÿ 兆円の赤字である. 機械工学の発達により, 多様なロボットが実用化されている. 経済産業省による国内ロボット市場規模予測では,ù ø 年.Ā 兆円から ù úü 年 Ā.þ 兆円と ø 倍以上の市場になり, 特にサービス分野とロボテク製品が伸びるとされている. 日本は産業用ロボットでは世界第 ø 位であるが, 機械は模倣可能なので, いずれ外国に凌駕されてしまう. 産業用ロボットの知識と技術が蓄積されている現在から, 人間社会にロボットを応用しなければならない. ロボットは人と災害と戦争に応用できる. 日本は平和国家なので, ロボットを戦争や兵器に応用できないため, 人と協調し, 災害に対応できるロボット開発が求められている. 蜂須賀 ø) は, 人と協調するロボットの役割として表 ø を挙げている. ù ù 年東京オリンピック パラリンピックに合わせて, ロボット五輪が開催されるといわれており, 人の役に立つロボットが ù ù 年を契機に増加すると思われる. 572 Jpn J Rehabil Med Vol. 56 No. 7 2019

表 ø ロボットの役割 ( 文献 ø より ) い. 大学は毎年政府からの補助金を減らされ, 使 自立支援 介護支援 就労支援 機能評価 エクササイズ支援 日常生活で使用 起居動作 入浴など介護で使用 障害者の就労 リハビリテーション評価 機能向上 える資金は減少している. そのため, 企業から資金を得ることも必要である. 大学と企業が 同床異夢 とならないよう, 産学連携がうまくいく条件が示されている ( 表 ù). たしかに基礎医学から臨床へ応用するためには, ù. 産学連携の実際 大学主導型の産学連携は, 大学のもつ技術を企業と連携して製品化 上市することである. 大学は知の拠点として基礎から臨床まで幅広く研究を行い, 技術シーズをもっている. しかし, 市場ニーズに合わせて製品化し上市する具体的な施策をもっていない. 企業は, 近年の産業構造の変化や国際化による価値の多様性から, 従来の方法では新製品を生み出しにくくなっている. 企業は市場が必要とするニーズをもっているが, 製品化するための技術に乏しい. 大学は, 研究のための研究から脱却し, 企業と連携し市場ニーズをもとにした研究成果を社会実装することが期待される. 大学と企業が連携する産学連携は, こうした背景から生まれた. 産学連携のため, 大学等技術移転促進法 (TLO 法 ) や日本版バイ ドール制度の導入といった環境整備が国主導で進められてきた. しかし, 日本の産学連携は大学の研究者個人と企業の個人的な契約になっており, 研究費の額や知財の取り扱い, 地位の保障などが組織化されていない. 研究費に関して, 日本の産学連携では,ø 件あたり ø 万円未満が û 割,ø 万円以上 ú 万円未満が û 割を占める. 一方, 海外では ø 件 ø, 万円以上が一般的である ù). また, 日本の企業が大学などへ負担する研究費は, 研究費全体の.Ā% しかなく, ドイツの ý. % に比べてかなり見劣りする ù). 大学からみれば,ø 万円程度の研究費ではとても本気で研究するとは思えないし, 企業も外部に研究費を拠出する制度をもっていないことが多 失敗の可能性が高く, 移行期の支援が乏しい. スタンフォード大学は ù ÿ 年に SPARK プログラムとして基礎研究と企業を結びつける試みを開始し, þû 個の事業を立ち上げて ýù% が商業ベースで進み, 新しい診断薬や治療薬を開発した. 医工連携推進事業 MEDIC は, 医療機器の事業化として, 1 市場探索,2 コンセプト設計,3 開発 試験,4 製造 サービス供給体制,5 販売 マーケティング戦略,6 イノベーション 上市の ý 段階を挙げている ú). 広島大学は産学連携を推し進めるため, ù øÿ 年 û 月 ø 日トランスレーショナルリサーチ推進機構を発足し, トランスレーショナルリサーチセンターを病院内に設置した ( 図 ø). 研究者は自分の研究が社会実装されることに栄誉と経済的な利点を期待している. また, 最近ではトランスレーショナル リサーチによって得られた新規知見を臨床で使用し, その問題点や疑問点を基礎研究にフィードバックするリバーストランスレーショナル リサーチも進められている. 産学連携は大いに勧められるが, 研究者の単なる仕事の増加にならないよう, 研究者への支援を切に希望する. ú. 産学連携の魁 広島大学病院スポーツ医科学センター 広島大学病院は, スポーツに関する医学的情報を集約し発信するため,ù øú 年 Ā 月 ù 日スポーツ医科学センターを新設した. スポーツ医科学センターの対象は, 障がい者スポーツだけでなく, 通常のスポーツも含まれている. 内容は, メディカル Jpn J Rehabil Med Vol. 56 No. 7 2019 573

表 ù 産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン ( 文献 ù より ) 成功要因 パートナーシップの設計 積極的な提案, コミュニケーションによる参画者相互での使命, 戦略や今後の見通し, ニーズ スキルの共有 理解 成果目標 目標達成時期を含む具体性のある契約締結 成果目標に向けたより長い期間でのコミットメント 運営上の指示系統や連絡先を含む管理方法の明確化 管理体制 予算 知財管理 コンプライアンスなど 人的資源 その他 強力な管理体制の構築 ( 中央でコーディネート ナビゲート機能を担う体制の活用 参画者のインセンティブとなるような透明性が高く, 費用対効果が高く, 持続的な予算の措置 社会的 経済的価値の最大化を目指す知財マネジメント 知財に係る契約メカニズムの構築 ( 知財帰属, ライセンス条件など ) 知財の帰属によるインセンティブの付与を考慮 コンプライアンスをはじめとするリスクの適切な管理 営業秘密の適切な管理 ( 企業は不要な営業秘密は共有しない, 大学 国立研究開発法人は適切に管理を実施 ) 大学 国立研究開発法人の研究者に対する産学官連携のインセンティブ付与 ( 金銭的報酬および組織的な変更の重要性 ) 地域の中小企業に対する参画機会の提供 国際的なパートナーシップ 影響評価の考え方の拡大 ( 金銭的価値に加えて社会的価値も考慮 ) 平成 ùÿ 年 øø 月 ú 日イノベーション促進産学官対話会議事務局 図 ø 広島大学トランスレーショナル推進機構 参考 : 広島大学トランスレーショナルリサーチセンター (https://www.hiroshima-u.ac.jp/trc/kikou) 574 Jpn J Rehabil Med Vol. 56 No. 7 2019

チェックや動作分析, ゲーム分析, 情報収集, 栄養 サポート, トレーニング理論, コンディショニング, 心理サポート, 科学技術サポート,IT 活用である. そのため, まず広島大学工学部, 総合科学部, 教育 学部から成る広島大学スポーツ科学センターと連 携し, 各学部の先生方と話をする機会を得た. そ れからスポーツ医科学を話題に, シドニー大学 ( オーストラリア ) とアイルランガ大学 ( インドネシ ア ) と新たな提携を構築した. 当院におけるロボットや AI を用いた産学連携リハビリテーションの具体例 ø. 治療 訓練 :HAL による下肢切断早期リハビ リテーションシステム構築 ù. 介護 福祉機器 : 人工筋肉によるソフトエグゾ スケルトンスーツ開発 ú. 評価 計測 :AI を用いた行動評価とスマートシ ティ構想 ø.hal による下肢切断早期 リハビリテーションシステム構築 HAL (Hybrid Assistive Limb, サイバーダイ ン社, 日本 ) は生体電位信号を用いて利用者の意 思を汲み取り動作するロボットスーツで,ù øý 年 û 月生体信号反応式運動機能改善装置として医療保 険に収載された. 対象は脊髄性筋萎縮症や筋萎縮 性側索硬化症, シャルコー マリー トゥース病な どで, 全国に約 ú,û 人いる. 私たちは HAL を 下肢切断後の急性期リハビリテーションに応用し ている (ù øÿ 年度科学研究費 C 医療倫理取得 中 ). 下肢切断術前に HAL で歩行訓練を行い, 表面電極の取りつけ部位を決定し, 手術時に温存 する. 術後すみやかに HAL を用いて歩行訓練を 開始する. 断端成熟後 (û~ý 週 ), 義足を製作し, 義足を用いた歩行訓練を継続する.HAL による ロボット治療の対象を拡張することで,HAL の可能性を拡大できる. ù. 人工筋肉によるソフトエグゾスケルトンスーツ開発 人工筋肉は軽量 柔軟 安価で, 低圧の空気圧を使用して駆動され, 広島大学工学部栗田雄一教授が技術シーズをもっている. ù øÿ 年度, 台湾行政院科技部と共同で 超高齢社会における高齢者のケアと支援のための ICT 分野に関する研究交流として京都大学, 筑波大学, 広島大学の課題が認定された. 広島大学の課題は, 超高齢化社会で活躍する高齢者を支援するソフトエグゾスケルトンならびに装着型アシスト機器の開発 で, 台湾大学と広島大学, 広島大学病院リハビリテーション科, ダイヤ工業 との産学連携で研究を開始した. 台湾大学はタイムズ ハイヤー エデュケーション世界大学ランキング øþ 位 ( 東京大学 ûù 位 ) で, 台湾自体も高齢化社会を迎え, 何らかの解答を模索している. 私たちは低圧で動作する空気圧式の人工筋肉やハプティックセンサー ( 感覚センサー ) を用いて, 転倒予防や介護予防, 太極拳などの運動補助, 介護者の支援を行う新しいアンプラグド パワードスーツを開発している. ダイヤ工業 はすでに DARWING SATT というパワードスーツを臨床応用しており, 工学系の基礎技術と病院の臨床機能, 製作 支援会社による連携によって上市が期待される. ú.ai を用いた行動評価とスマートシティ構想 ù øÿ 年度, 次世代 AI 技術の進歩を加速するため,AI 技術の研究開発および社会実装の分野でトップである米国と協同で 次世代人工知能技術の日米共同研究開発 として, 広島大学工学部の栗田雄一教授を中心として 健康長寿を楽しむス Jpn J Rehabil Med Vol. 56 No. 7 2019 575

マートソサエティ 主体性のあるスキルアップを促進する AI スマートコーチング技術の開発 を経済産業省から獲得した. これは端的に日本が AI で後れを取っているので, 米国の著名大学と連携してノウハウを獲ってくることが目的である. したがって, 広島大学と広島大学病院リハビリテーション科だけでなく, アリゾナ州立大学, 神戸大学, 産業総合研究所, システムフレンド などが産学連携組織を構築している. アリゾナ州立大学は全米で革新的な大学評価の ø 位 (ù 位ジョージア州立大学,ú 位マサチューセッツ工科大学 ) であり, その中で視覚障害などにも造詣の深い CUbiC(Center for Cognitive Ubiquitous Computing) と連携している. アリゾナ州には退職者専用の都市 (Sun city) が存在し, 高齢者が集中している. 私たちは,AI によるユーザーのスキル把握技術やスマートコーチング技術の開発を行っており, 具体的にウェアラブルセンシングとデジタルヒューマンモデルによるスキル把握と, 簡易かつ少数のセンサでのリアルタイムスキルセグメント分類を実現し, トレーニング効果の客観化 可視化を行うことを目標にしている. おわりに 産学連携として ù øÿ 年から広島大学工学部を起点に台湾大学やアリゾナ州立大学と共同研究を開始したが, 新しいアイデアや研究を実現する手 段を他分野に問うべきだと感じている. 特に, リハ ビリテーション医学は社会問題を解決するための 研究になるので, 基礎研究だけでなく, 他分野では 当たり前の技術がリハビリテーション医学では重 要な鍵になることもある. そのため, 日頃から他学 部や他業種と話をすることが重要である. スタン フォード大学 SPARK プログラムのように, 異業種 がフランクに話し合える機会あれば, 面白い研究 が生まれるだろう. また, 新しい研究をしっかり支 持してくれる経済的 人的支援があれば, 社会に 還元できる結果も得られると思う. 厚生労働省は, 保健医療 ù úü で 世界に貢献で きる日本の保健医療 を挙げており, 高齢化で悩む 日本が高齢化社会の解決策を提示することで, 世 界に新たな価値を発信できるとしている. 産学連 携と AI は日本の新たな価値を発信する手段とし て有用であり, リハビリテーション医学の研究やエ ビデンス構築にも有用である. 文献 ø) 蜂須賀研二 : ロボット リハビリテーションの最近の進歩. 脳と循環 ù ÿ;øú:ûø-ûü ù) イノベーション促進産学対話会議事務局 : 産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン平成 ùÿ 年 øø 月 ú 日. 文部科学省, 経済産業省,ù øý. Available from URL:https://www.meti.go.jp/pres s/ù øý/øø/ù øýøøú ø/ù øýøøú ø-ù.pdf ú) 経済産業省 : 医工連携による医用機器事業化ガイドブック ù øü 年 ú 月版 医工連携事業化推進事業の成果を踏まえて.ù øü.available from URL:htt ps://www.med-device.jp/pdf/guidebookù øü.pdf 576 Jpn J Rehabil Med Vol. 56 No. 7 2019