証 券 会 社 別 日 経 平 均 オプション 超 過 需 要 関 数 の 推 定 について 明 海 大 学 経 済 学 部 准 教 授 新 井 啓 1.はじめに 本 稿 の 目 的 は 新 井 [007],[009a],[009b],[010a],[010b],[010c]で 推 定 を 行 っ た 個 別 証 券 会 社 の 日 経 平 均 先 物 についての 超 過 需 要 関 数 のパラメータを 利 用 して, 個 別 証 券 会 社 のオプションの 超 過 需 要 関 数 を 求 めることである. 本 来 であるならば, 証 券 会 社 別 の 日 経 平 均 オプションの 超 過 需 要 関 数 を 直 接 的 に 推 定 すべきであるが, 日 経 平 均 オプショ ンについては,どの 証 券 会 社 がどれくらいの 量 を 取 引 しているのか,あるいはどれくらい のポジションを 保 有 しているのかは 全 くわからない. 大 阪 証 券 取 引 所 が 発 行 している 先 物 オプションレポート では 日 経 平 均 オプションの 取 引 は 外 資 系 証 券 会 社 の 取 引 が 多 い ということが 分 かる 程 度 であり, 証 券 会 社 別 のオプション 取 引 のデータを 知 ることはでき ない. オプションの 価 格 決 定 理 論 である Black/Scholes[1973]のモデルは, 株 式 市 場 を 含 む 他 の すべての 市 場 ではすでに 均 衡 状 態 にあり, 均 衡 していない 唯 一 の 市 場 であるオプション 市 場 の 均 衡 を 求 めようというものであるから,オプションの 取 引 が 株 式 市 場 に 影 響 を 与 える とは 想 定 されていなかった.オプション 市 場 の 規 模 が 小 さければ,そのような 仮 定 をおい ても 問 題 はないであろう.しかしオプション 市 場 をはじめとするデリバティブ 市 場 での 取 引 が 巨 大 になった 現 在 ではそのような 仮 定 は 妥 当 ではないことは 明 らかである. また Black/Scholes[1973]モデルの 最 大 の 問 題 点 は,オプション 市 場 から 株 式 市 場 への 影 響 はないとされているために 株 価 がランダムウォーク 仮 定 に 従 うと 仮 定 されているとこ ろである.このように 仮 定 されることである 有 限 期 間 における 期 末 の 株 価 は 対 数 正 規 分 布 に 従 うことになる(Black/Scholes[1973],p.640.).しかしオプション 市 場 から 現 物 市 場 へ の 影 響 は 現 実 的 には 存 在 するために,このような 仮 定 も 妥 当 ではないことは 明 らかである. そのため 本 稿 では 岩 田 [1989],Iwata[1994]の 需 給 均 衡 をオプション 市 場 の 均 衡 条 件 と する 経 済 モデルにより, 証 券 会 社 別 の 日 経 平 均 オプション 超 過 需 要 関 数 のパラメータのお およその 値 をこれまでの 筆 者 の 研 究 からどのようにして 求 められるのかを 説 明 する.なお 詳 しくは 新 井 [010d]を 参 考 にしていただきたい..オプションの 理 論 モデル 岩 田 [1989],Iwata[1994]のオプション 価 格 決 定 の 個 体 間 分 布 のモデルを 利 用 する 1. 満 期 時 1 岩 田 [1989],Iwata[1994]では 先 物 を 原 資 産 として 理 論 展 開 されている. 1
点 を t, 現 在 をt で 表 す.このオプションの 原 資 産 は 配 当 がない 株 式 とし,その 株 式 の 価 値 をX, 権 利 行 使 価 格 をKで 表 す. T t t,t : 現 在 時 点, t : 満 期 時 点 とする.t における t 時 点 のある 投 資 家 の 株 価 予 想 値 を X X ( t ) とし, ln X と 書 く.またその 主 観 的 期 待 値 を Y Y ( t ) E( X ( t )) とし, y lny と 書 く. は 正 規 分 布 N( m, s ) に 従 うと 仮 定 す る.ただし s v T である. 投 資 家 の 株 価 予 想 値 X (t) は 次 の 確 率 微 分 方 程 式 で 記 述 できるとしている. dx = α Xdt + gxdz + vxdw ただしα は 一 定 値,g と v は 正 の 一 定 値, Z(t) と W (t) は 相 互 に 独 立 な 標 準 ウイナー 過 程 で あり, Z t ) = W ( t ) 0, Z(t) は 投 資 家 間 の 予 想 の 差 異 を 生 み 出 し, W (t) は 各 投 資 家 の ( 0 0 = 主 観 的 な 予 想 の 不 確 実 性 を 生 み 出 すものとされている. このとき X = e は, 対 数 正 規 分 布 Λ( m, s ) に 従 い, Y = E( X ) = ep( m + (1/ ) s ), Var( X ) = ep(m + s )(ep( s ) 1) となる. 従 って である. lny = y = m + (1/ ) s g( y) を y を 与 えたときの の 条 件 付 き 密 度 関 数 N( y s / s, s ), L(y) を y を 持 つ 投 資 家 の 予 想 キャッシュ フローの 主 観 的 期 待 値 の 現 在 価 値 とする. y を 個 体 間 で 異 なるとし, y の 密 度 関 数 ( 個 体 間 分 布 と 呼 ぶ)を f (y) とする.コール オ プションを 取 引 する 投 資 家 の 境 界 条 件 は, ここで 次 のように 定 義 する. c = Ma{ X K, 0} rt L( y) = e rt E[ma( X K, 0) y] = e ( e K) g( y) d ln K rt = e ( e K) ln K 1 ( m) ep( π s s ここで r は 安 全 資 産 利 子 率 である.そのため rt y L( y) = e { e Φ[( y ln K) / s + s / ] KΦ[( y ln K) / s s / ]} c をオプション 料,q(y)を y を 持 つ 投 資 家 のコール オプション 契 約 量 ( 正 のとき 買 い, 負 のとき 売 り)とする.q(y)は q( y) = γ ( L( y) c) (1) のように 決 定 されると 仮 定 する.γ は 正 の 一 定 値 である.つまり(1)が 個 別 取 引 者 のオプシ ョンの 超 過 需 要 関 数 であり, 各 取 引 者 のオプション 損 益 の 主 観 的 価 値 の 割 引 現 在 価 値 と 市 場 均 衡 で 決 まるオプション 料 との 差 に 比 例 して,オプション 市 場 におけるネットのポジシ ョンが 決 まるというものである. このようにしてオプション 市 場 におけるネットのポジションが 決 定 されるが,(1)の L(y) ) d
の 未 知 パラメータであるγ,y と s をどのように 推 定 したらよいのであろうか? 証 券 会 社 別 のオプションのポジションがないので 推 定 は 不 可 能 である.そこで 次 のような 推 論 を 行 う. 取 引 されるオプションが 日 経 平 均 オプションであるならば,y は SQ 日 に 実 現 する 日 経 平 均 株 価 の 予 想 価 格 の 期 待 値 に 等 しいはずである. 日 経 5 オプションと 先 物 の 原 資 産 は 同 一 であるから, 日 経 平 均 先 物 の 証 券 会 社 別 の 予 想 価 格 の 期 待 値 が 推 定 できれば,その 値 を 日 経 平 均 オプションの 原 資 産 の 予 想 価 格 の 期 待 値 として 使 えるはずである. 各 証 券 会 社 の 予 想 価 格 の 期 待 値 の 推 定 値 については 新 井 [009b]で 示 したように 日 経 平 均 先 物 の 証 券 会 社 別 超 過 需 要 関 数 のパラメータとして 推 定 することが 可 能 であるために, 日 経 平 均 先 物 の 証 券 会 社 別 超 過 需 要 関 数 のパラメータとして 推 定 された 値 を 代 用 することが 可 能 である. SQ 日 に 実 現 する 日 経 平 均 の 予 想 価 格 の 分 布 の 標 準 偏 差 である s についても 日 経 平 均 先 物 の 証 券 会 社 別 超 過 需 要 関 数 の 傾 きを 示 すパラメータに 含 まれている.そのため 原 資 産 が 先 物 とオプションで 同 一 であるならば, 日 経 平 均 先 物 の 証 券 会 社 別 超 過 需 要 関 数 のパラメー タとして 推 定 することが 可 能 である. ところで 日 経 平 均 先 物 の 証 券 会 社 別 超 過 需 要 曲 線 の 傾 きを 示 すパラメータは 絶 対 的 危 険 回 避 度 と 予 想 価 格 分 布 の 分 散 の 積 の 逆 数 として 推 定 されるが, 超 過 需 要 関 数 を 線 形 として いるために 推 定 すべきパラメータが 増 えすぎて, 予 想 価 格 分 布 の 分 散 と 絶 対 的 危 険 回 避 度 を 分 離 して 推 定 することは 不 可 能 になる.そこで 富 に 関 する 負 の 指 数 型 効 用 関 数 の 絶 対 的 危 険 回 避 度 は 対 数 型 効 用 関 数 における 初 期 の 富 の 逆 数 の 近 似 値 を 与 えることを 利 用 し,し かも 初 期 の 富 は 損 失 許 容 額 と 考 えて 絶 対 的 危 険 回 避 度 の 値 に 様 々な 値 を 与 えて,s に 相 当 す る 予 想 価 格 分 布 の 標 準 偏 差 の 値 を 計 算 して 求 めることが 可 能 である.このように 考 えても 予 想 価 格 の 分 布 として 正 規 分 布 を 想 定 した 場 合 には, 期 待 値 + 予 想 価 格 分 布 の 標 準 偏 差 の -3 倍 を 考 えると,その 値 がマイナスになってしまう 場 合 がある.しかし 株 価 がゼロを 下 回 ることはないから, 期 待 値 + 予 想 価 格 分 布 の 標 準 偏 差 の-3 倍 が 0 になるような 値 を 選 んで いる.この 点 については 昨 年 の 筆 者 の 本 レポートである 新 井 [011]で 示 している. 本 稿 におけるコール オプションの 超 過 需 要 関 数 は q(y)=γ (L(y)-c)であった. 最 後 に γ についての 推 定 であるが, 岩 田 [1989](p.08)の 投 資 家 集 団 の 平 均 的 資 産 需 要 関 数 よりγ は 絶 対 的 危 険 回 避 度 と 予 想 価 格 分 布 の 分 散 の 積 の 逆 数 に 相 当 するために, 日 経 平 均 先 物 の 超 過 需 要 関 数 の 傾 きを 示 すパラメータの 値 に 相 当 する.したがって,これまでに 筆 者 が 推 定 してきた 日 経 平 均 先 物 の 超 過 需 要 関 数 の 傾 きを 示 すパラメータの 推 定 値 をγ の 値 として 利 用 することが 可 能 である. 3.まとめ 本 稿 では 証 券 会 社 別 の 日 経 平 均 オプションの 超 過 需 要 関 数 を 日 経 平 均 先 物 契 約 の 超 過 需 要 関 数 のパラメータを 用 いて 数 値 計 算 で 求 めることが 可 能 であることを 示 した. 日 経 平 均 先 物 も 日 経 平 均 オプションも 同 じ 日 経 平 均 株 価 指 数 を 原 資 産 としたものであるため 日 経 平 均 先 物 の 超 過 需 要 関 数 の 予 想 価 格 分 布 に 関 連 するパラメータを 日 経 平 均 オプションの 超 過 需 3
要 関 数 の 推 定 に 利 用 できるものと 考 えられる. 各 証 券 会 社 のネットのポジションのデータ が 存 在 すれば, 非 線 形 推 定 を 行 う 際 に 本 稿 で 示 したような 推 定 値 を 初 期 値 として 設 定 する ことができる. 日 経 平 均 オプションの 証 券 会 社 別 の 超 過 需 要 関 数 を 求 めるためには, 個 別 証 券 会 社 の 予 想 価 格 分 布 の 標 準 偏 差 を 推 定 する 必 要 がある. 本 稿 においては 日 経 平 均 先 物 の 証 券 会 社 別 の 超 過 需 要 関 数 のパラメータを 利 用 して 個 別 の 証 券 会 社 の 予 想 価 格 分 布 の 標 準 偏 差 を 求 める ことが 可 能 であることを 示 した.ただ 日 経 平 均 株 価 についての 予 想 価 格 分 布 の 標 準 偏 差 を 計 算 するためには, 現 在 のままでは 複 雑 すぎるという 欠 点 がある.より 簡 単 に 計 算 するこ とができれば 実 務 的 にも 非 常 に 有 用 なものとなるであろう. 本 稿 のように 計 算 を 可 能 にするためには, 各 証 券 会 社 を 通 じて 取 引 する 顧 客 と 証 券 会 社 の 自 己 売 買 部 門 の 予 想 価 格 分 布 のパラメータは 本 来 異 なるはずであるが 同 一 であると 仮 定 する 必 要 がある.また 新 井 [011]で 示 したように, 各 証 券 会 社 の 予 想 価 格 分 布 の 標 準 偏 差 を 計 算 するには,その 証 券 会 社 を 通 じて 取 引 をする 取 引 者 の 数 を 確 定 する 必 要 があり, 予 想 価 格 分 布 を 正 規 分 布 とした 場 合 には, 期 待 値 - 標 準 偏 差 の 3 倍 がちょうどゼロになると いう 値 になるように 取 引 者 の 数 を 設 定 することで 対 応 を 行 っている. 本 稿 で 示 したようにオプションの 超 過 需 要 関 数 を 求 めるためには, 現 在 利 用 可 能 なデー タを 最 大 限 に 利 用 したとしても,かなり 複 雑 な 手 続 きを 踏 まなければならないため,その 点 から 言 うと 本 稿 は 実 用 的 なものではなく, 試 論 的 なものであると 言 わざるを 得 ない. 本 稿 をさらに 発 展 させるには 日 経 平 均 オプションの 証 券 会 社 別 建 玉 のデータから 直 接 的 に 非 線 形 推 定 を 行 うことが 必 要 である. 4. 参 考 文 献 Black, Fisher and Myron Scholes[1973] The Pricing of Options and Corporate Liabilities, Journal of Political Economy, Vol.81, pp.637-659. Iwata, G.[1994] An Options Premium Model with Heterogeneous Epectations, KEO Discussion Paper No.36. 新 井 啓 [004] 商 品 先 物 市 場 における 価 格 操 作 行 動 の 計 量 分 析 商 品 取 引 所 論 体 系 第 1 巻, 全 国 商 品 取 引 所 連 合 会, pp.375-398. 新 井 啓 [007] 個 別 会 員 の 経 済 行 動 の 計 量 分 析 ( 日 経 平 均 先 物 と 商 品 先 物 との 違 い), 商 品 取 引 所 論 体 系 第 13 巻, 全 国 商 品 取 引 所 連 合 会,pp.146-186. 新 井 啓 [009a] 手 口 表 による 日 経 平 均 先 物 需 要 曲 線 の 測 定 明 海 大 学 経 済 学 論 集,Vol.1,No.1, pp.1-13. 新 井 啓 [009b] 期 待 の 異 質 性 の 計 測 明 海 大 学 経 済 学 論 集,Vol.,No.1, pp.1-13. 新 井 啓 [010a] 日 経 5 先 物 市 場 における 建 玉 の 共 変 動 の 利 用 による 個 別 証 券 会 社 超 過 需 要 関 数 の 計 測 立 正 大 学 経 済 学 季 報,59-3. 新 井 啓 [010b] 異 質 的 期 待 仮 説 を 前 提 とした 個 別 取 引 主 体 の 予 想 株 価 確 率 分 布 期 待 値 の 4
推 定 とその 統 計 的 特 性 明 海 大 学 経 済 学 論 集,Vol.,No.1, pp.1-13. 新 井 啓 [010c] 日 経 5 先 物 007 年 6 月 限 の 証 券 会 社 別 超 過 需 要 関 数 の 計 測 立 正 大 学 経 済 学 季 報,59-4. 新 井 啓 [010d] 日 経 5 オプション 契 約 の 超 過 需 要 関 数 の 計 測 について 立 正 大 学 経 済 学 季 報,60-1. 新 井 啓 [011] 個 別 証 券 会 社 の 日 経 平 均 株 価 予 想 確 率 分 布 の 推 定 大 阪 証 券 取 引 所 先 物 オプションレポート 岩 田 暁 一 [1989] 先 物 とオプションの 理 論 東 洋 経 済 新 報 社. 5