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東日本大震災後の CSR 動向 福島県内中小企業調査から 青木孝弘 会津大学短期大学部研究紀要第 77 号抜刷 2020 年 3 月

青木孝弘東日本大震災後の CSR 動向 東日本大震災後の CSR 動向 福島県内中小企業調査から 青木孝弘 1 要旨 本研究では, 東日本大震災の復興過程における CSR( 企業の社会的責任 ) の実態と,CSR に影響を与える環境的 経営的要因について明らかにすることを目的に, 今なお原発事故に伴う避難や風評被害が続く福島県において, 中小企業を対象にアンケート調査を実施した. その結果, 小規模企業では戦略的に外部組織との連携を取りながら CSR を推進している実態や,CSR 実施企業の方が未着手企業よりも業績がよい傾向にあることが示唆された. また CSR を推進する要因は企業規模や CSR 実績の違いで異なり, 小規模企業では外部との連携ニーズが強く, 中規模企業は認証制度など地域における客観的な評価を求めており,CSR 未着手企業では研修等を通じた人材育成が望まれていることが明らかになった. 1 会津大学短期大学部産業情報学科准教授 33

会津大学短期大学部研究紀要第 77 号 (2020) 1 はじめに東日本大震災では, 国内外から多くの人的, 資金的支援が被災地に届けられ, 復旧復興の大きな糧となった. 他方, 時の経過とともに, 被災地に対する全国的な関心の低下は避けられず, 被災企業や被災者自身による自発的で持続的な復興の重要性は益々高まっている. 特に大きな被害が生じた岩手県, 宮城県, 福島県では立地する大企業の数は少なく, 地域経済を支える中小 零細企業による中長期的な震災復興が求められている. そこで本研究では, 東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う避難や風評被害が今なお続く福島県の中小企業を対象に, 震災後の CSR( 企業の社会的責任 ) と経営状況について調査し, 持続可能な震災復興 CSR の要因について分析する. 2 先行研究と分析フレームワーク 2.1 CSR に関する先行研究 CSR が最初にクローズアップされたのは, 公害や欠陥製品に対する社会的関心が高まった 1960 年代後半からである.1990 年代初頭, 持続可能な開発の文脈で再び CSR が注目されるようになり,1994 年の国連環境画では, 企業の達成目標として, 社会的, 経済的, 環境的成果からなるトリプル ボトムラインが提唱された. 実務上でも 2010 年に発効した ISO26000 では, 環境, 人権, 労働, コミュニティ開発など CSR の領域が大きく拡大している. 日本では,2000 年代から日本経団連が 企業行動憲章 等によって CSR の普及に努めており, 大企業に限れば CSR レポートやサスティナビリティ報告書の作成が進み,2013 年に 国際統合報告フレームワーク が公表されて以降は, それらを統合報告書に組み入れる潮流もある. さらに近年は,Porter, M. and Kramer, M.(2011) の CSV(Creating Shared Value) が注目を集め,Kotler, P. and Roberto, E.(1989) のコーズリレーティド マーケティングや塚本 関 (2012) の社会貢献によるビジネス イノベーションなど CSR と本来のビジネスとの融合が, 大きなテーマとなっている. 他方, 中小企業の CSR に関して, 藤野 (2013) はオーナー経営者が自分の価値観に基づいて会社の資源をある程度自由に使用できる点や, 地域密着度が高いために本業を通じた地域社会への貢献や, 従業員の生活や教育への資源投入が大きい点をその特徴としてあげている. また, 東日本大震災の復興と CSR を関係づけたものは関 (2015) や矢口 (2014) 等に限られ手薄である. 2.2 分析フレームワーク前述のとおり, 中小企業の CSR や震災復興 CSR については, 体系的な研究が途上である. そこで本研究では, 中小企業の CSR に着目し, 東日本大震災の復興過程において CSR にどのような特徴が見られるのか, また復興 CSR に影響を与える環境的, 経営的要因は何かを考察する. この分析にあたり使用するフレームワークは, 藤野 (2013) が中小企業の CSR として抽出した 品質の管理 従業員への配慮 地域社会への貢献 環境保護 CSR に対する評価 経営理念との関係 が参考にできるが, 震災復興に特有な要素を加味する必要がある. そこで大規模災害からの復興事例として, 阪神淡路大震災 (1995 年 ) の阪神地域, ハリケーンカトリーナ (2005 年 ) のニューオーリンズでの取組みについて, 関係者に対してヒアリング調査を行った. それを踏まえ 被災者の雇用 被災企業との積極的な取引 震災復興を目的にした新たな事業の展開 NPO ボランティアとの連携 県外企業との連携 を CSR の要素として組み入れた. さらに東日本大震災では原発事故による風評被害も大きな特徴であることから, その解消に向けた取組みも捕捉する. 34

青木孝弘東日本大震災後の CSR 動向 3 福島県内中小企業 CSR 調査 3.1 調査概要及びサンプル企業福島県内に事業所を有する中小企業 500 社 ( そのうち製造業企業 250 社, 非製造業企業 250 社 ) を対象に下記に示す方法でアンケート調査を実施した. 製造業企業と非製造業企業に分けて, サンプルを抽出した理由は, 経済産業省 (2016) による東北地方の製造品出荷額をみると, いわき市が東北 2 位, 郡山市が同 3 位, 福島市が同 4 位と上位を占めており, 製造業が大変盛んな産業構成を反映させるためである. サンプル台帳は, 福島県商工労働部 福島県ものづくり企業データベース, 日本経済新聞社 日経テレコン 21, 福島民報社 ふくしまニュースリリース, 福島県内商工会議所 商工会 HP から企業リストを新たに作成した. なお, 中小企業基本法による中小企業の定義に合致しない事業所は除外した. 次にサンプリングは平成 24 年経済センサスを使い, 福島県内を 7 地域に区分した所在地別民営事業所数の比率を算出し, その比率を用いて層化抽出を行った. 調査手法 : 郵送法による調査票調査依頼数 :500 社 ( 製造業企業 250 社, 非製造業企業 250 社 ). 有効回答数 167( 回収率 33.4%) 調査期間 :2015.12.9~2015.12.22 従業員数別のサンプル構成では, 小規模企業振興基本法の定義による小規模企業者に該当する 5 人以下を最小区分として,6~20 人,21~50 人,51~100 人,101 人 ~200 人,200~300 人の 6 区分に分類した ( 図 1). 6~20 人と 11~50 人がともに 31.4% となり, この 2 つで全体の 2/3 を占めている. 次に 51~100 人が 15.7%, 1~5 人が 11.9% となった. なおサンプル企業の平均従業員数は 40.7 で, 中央値は 25 である. 図 1 従業員数別サンプル構成 101~ 200 人 7.5% 201~300 人 1.9% 1~5 人 11.9% 51~100 人 15.7% 21~50 人 31.4% 6~20 人 31.4% 3.2 被災実態と復興状況次にサンプル企業の被災実態と復興状況を, 地理的側面と従業員数による企業規模の側面からみる. 表 1 サンプル企業の被災実態 ( 立地別 ) 立地エリア 浜通り 中通り 会津地方 一時営業不能となる事務所 工場 設備の物的被害あり 商品や在庫の物的被害あり 風評被害あり特になし 無回答 22 3 3 8 36 61.1% 8.3% 8.3% 22.2% 100.0% 36 15 26 6 83 43.4% 18.1% 31.3% 7.2% 100.0% 5 9 13 13 40 12.5% 22.5% 32.5% 32.5% 100.0% 63 27 42 27 159 39.6% 17.0% 26.4% 17.0% 100.0% Pearson カイ二乗値 =1.2130 P 値 =0.8761 表 1 で示すとおり, 浜通り ( 相双, いわき ) では一時営業不能となる事務所 工場 設備の物的被害を受けたサンプル企業は 6 割以上に上った. 他方, 中通り ( 県北, 県中, 県南 ) が 43.4%, 会津地方 ( 会津, 南会津 ) が 12.5% と, 震源となった太平洋沿岸から内陸に離れるに従って, 物的被害が小さくなっている. また, 風評被害に 35

会津大学短期大学部研究紀要第 77 号 (2020) ついては, 中通り, 会津地方とも 3 割以上の企業が回答している. 表 2 は, 立地別による企業業績の状況を示している. 全体で 37.8% の企業が震災前より業績 ( 売上高 ) が増加 したと回答し, 震災前より減少したと回答した企業 35.9% を若干上回った. これを立地別にみると, 被災が大き かった浜通りの方が業績の回復が強くみられる. ただし検定の結果, 本調査では地域による業績の違いは確認で きなかった. 立地エリア震災前より増加震災前水準を回復震災前より減少 浜通り 中通り 会津地方 14 10 11 35 40.0% 28.6% 31.4% 100.0% 31 23 29 83 37.3% 27.7% 34.9% 100.0% 14 8 16 38 36.8% 21.1% 42.1% 100.0% 59 41 56 156 37.8% 26.3% 35.9% 100.0% 従業員数震災前より増加震災前水準を回復震災前より減少 1~20 人企業 21 人 ~300 人企業 表 2 サンプル企業の復興状況 ( 立地別 ) Pearson カイ二乗値 =1.2130 P 値 =0.8761 では, 企業規模によって業績の回復に違いはあるのだろうか. 前述のとおり, サンプル企業の従業員数の中央値が 25 人であったことを踏まえ, 従業員 1~20 人と,21~300 人に分けて, 業績を調べたのが表 3 である. 表 3 サンプル企業の復興状況 ( 規模別 ) 20 16 31 67 29.9% 23.9% 46.3% 100.0% 38 26 25 89 42.7% 29.2% 28.1% 100.0% 58 42 56 156 37.2% 26.9% 35.9% 100.0% Pearson カイ二乗値 =5.6192 P 値 =0.0602 1~20 人の企業では, 震災前より売上高が増加した企業は 3 割に留まるものの, 減少した企業は 46.3% に上っている. 他方,21~300 人以上の企業では,42.7% が増加,28.1% が減少と回答した. ただし今回の調査では, 有意水準 5% では規模による業績の違いは確認できなかった. 以上, ここまでサンプル企業の被災実態と復興状況について概観してきた. 次節では, これら企業の CSR 実施状況について分析を行っていく. 3.3 震災以降の CSR 実態まず震災以降調査日までの期間で, 前節で示した分析フレームワークの CSR に取り組んだことがあると答えた企業は全体の 7 割にのぼり, 何も実施していない企業 29.2% を大きく上回った ( 図 2). また,46.6% の企業が調査時時点で何か 1つでも継続していると答えていることから CSR がある程度定着しつつある状況が伺える. 図 2 震災以降の CSR 実施, 継続状況 震災以降 CSR を実施したが 現在は何もしていない 24.2% 震災以降 CSR は実施していない 29.2% 震災以降の CSR を一つは継続している 46.6% 36

青木孝弘東日本大震災後の CSR 動向 次に従業員数による企業規模別での CSR の実施状況を確認する ( 表 4). 1~20 人企業は 73.9% で,21~300 人企業の 68.9% よりも 5 ポイント高い. 小規模企業者は業績が震災前の水準まで達していないものも多く存在す る中, 本業の立て直しと震災復興への貢献に奔走している様子が推察される. ただし本調査では, 企業規模と CSR 実施の有無に有意な関係性はみられなかった. 従業員数 CSR 実施 CSR 実施せず 1~20 人企業 21 人 ~300 人企業 表 4 CSR 実施状況 ( 規模別 ) 51 18 69 73.9% 26.1% 100.0% 62 28 90 68.9% 31.1% 100.0% 113 46 159 71.1% 28.9% 100.0% Pearson カイ二乗値 =0.4795 P 値 =0.4887 3.4 CSR と企業業績との関係今度は視点を変え,CSR に取り組んだ企業が業績を伸ばしたかどうかを検証する ( 表 5).CSR 実施企業では, 震災前より業績 ( 売上高 ) 増加が 39.0%, 減少が 34.7% で, 若干ではあるが, 業績を伸ばした企業が多かった. 他方,CSR に取り組んでいない企業では, 業績増加が 32.6% であるに対して, 減少が 43.5% と業績を下げた企業が 11 ポイント程多い. ただし, 検定の結果, 本調査では CSR の有無による業績の違いは確認できなかった. 表 5 CSR 実施と企業業績 実績震災前より増加震災前水準を回復震災前より減少 CSR 実施 CSR 実施せず 46 31 41 118 39.0% 26.3% 34.7% 100.0% 15 11 20 46 32.6% 23.9% 43.5% 100.0% 61 42 61 164 37.2% 25.6% 37.2% 100.0% Pearson カイ二乗値 =1.1120 P 値 =0.5735 続いて表 6 は, CSR と本業の成長は両立可能だと思いますか, 思いませんか の問いに対する回答を,CSR 実施の有無からクロス集したものである. 全体では, 両立可能と答えた企業は 46.7%, どちらとも言えないが 46.1%, 両立は難しいが 7.3% で, 認識が拮抗している状況が見て取れる. ただし CSR 実施企業の半数が両立可能と回答していることから, このような企業が中心になって, 震災復興 CSR を持続させ, 全体へと普及させていく姿が期待できる. 表 6 CSR 実績と本業との両立可能性 実績両立可能どちらとも言えない両立は難しい CSR 実施 CSR 実施せず 60 50 9 119 50.4% 42.0% 7.6% 100.0% 17 26 3 46 37.0% 56.5% 6.5% 100.0% 77 76 12 165 46.7% 46.1% 7.3% 100.0% Pearson カイ二乗値 =2.8535 P 値 =0.2401 3.5 震災復興 CSR の特徴ここからは震災復興過程において, どのような CSR 活動がどのように実施されてきたのかを, 前節で述べた CSR 分析フレームワークを使って検証する. 図 3 は, 震災以降に取組んだ CSR の内容について複数回答の結果である. 37

会津大学短期大学部研究紀要第 77 号 (2020) 自社商品の安全管理が 52 社と最も多く, 続いて被災した社員とその家族への支援 配慮 39 社, 風評被害を解消するための PR39 社, 寄付や資金の支援 物資の提供 37 社となっている. 従業員数 1~20 人企業と 21~300 人企業との間で, 有意水準 5% で差が確認できたのは, 被災した社員とその家族への支援 配慮のみであった. また順位は低いが, 震災復興を目的にした新たな事業の展開や県外企業 ( 大手企業を含む ) との協力 連携, 地域や NPO ボランティアとの協力 連携, 被災した企業や商店との積極的な取引, といった機動力やネットワークが必要とされる分野では,1~20 人企業の方が 21~300 人企業よりも多く回答し, 活躍している様子が伺える. 一般に小規模企業者は CSR に活用できる資源は限られていることから, 外部と連携して CSR を推進しているものと推察される. この点に関して, 引き続き検討していく. 図 4 は,CSR の実施方法に関する調査結果である. 自社単独が 63%, 他の組織 ( 企業 NPO 行政 ) に協力 資金提供が 24% で, この 2 つで大半を占め, 新たな連合体や協議会 ネットワークに加入 (8%) や, ジョイントベンチャーや新会社を共同で設立 (2%) は現段階ではあまり普及してはいないことが確認された. 図 3 震災以降の CSR 取組み内容 自社商品の安全管理 23 29 被災した社員とその家族への支援 配慮 (*) 10 29 風評被害を解消するための PR 22 17 寄付や資金の支援 物資の提供 14 23 被災者 避難者の積極的な雇用 9 15 ボランティア活動 11 13 震災復興を目的にした新たな事業の展開 10 8 県外企業 ( 大手企業を含む ) との協力 連携地域やNPO ボランティアとの協力 連携被災した企業や商店との積極的な取引 9 10 8 5 9 6 1~20 人企業 21 人 ~300 人企業 その他 1 1 0 10 20 30 40 50 60 図 4 CSR の実施方法 ジョイントベンチャーや新会社を共同で設立 2% 新たに連合体や協議会 ネットワークに加入 8% 他の組織 ( 企業 NPO 行政 ) に協力 資金提供 24% その他 3% 自社単独で実施 63% 次に表 7 は, 会社規模による CSR 連携の状況である. 有意水準 5% で企業規模と連携状況の連関を確認でき, 小規模企業者は戦略的に対外連携を通じて自社の CSR を推進していることが読み取れる. 表 7 企業規模による CSR 連携の状況 従業員数連携して実施自社単独 1~20 人企業 21 人 ~300 人企業 24 25 49 49.0% 51.0% 100.0% 18 45 63 28.6% 71.4% 100.0% 42 70 112 37.5% 62.5% 100.0% Pearson カイ二乗値 =4.8980 P 値 =0.0269* 38

青木孝弘東日本大震災後の CSR 動向 4 CSR に影響を与える要因 4.1 CSR を推進する要因と推進策前節では震災復興 CSR の実態について見てきたが, ここからは推進要因と推進策について分析する. 図 5 CSR 推進要因 合 35.0% 23.3% 21.5% 12.9% 7.4% CSR 実施 35.9% 23.9% 19.7% 12.8% 7.7% CSR 実施せず 32.6% 21.7% 26.1% 13.0% 6.5% トップの積極的な関与 地域に根ざした企業としての評価 社員への浸透 顧客の評判と業績向上 成果の可視化 Pearson カイ二乗値 =0.8685 P 値 =0.9290 図 5 は,CSR 実施の有無からみた CSR の推進要因を示しており. 全体では経営トップの積極的な関与が 35.0% で最も高く, これに地域に根ざした企業としての評価 23.3%, 社員への浸透 士気の向上 21.5% が続いている. CSR 実施の有無でみた場合, どちらも経営トップの積極的な関与は一番で,2 位いのが商工会議所 専門家 ( 中小企業診断士 ) 等による相談や助言が 27.3% で, 続いで地域貢献企業としての顕彰 質保証制度 23.6%,CSR に関する研修や人材育成 22.4% となった. ただし,CSR 実施の有無で集すると, 順位に変動がみられ CSR 実施企業では, 地域貢献企業としての顕彰 質保証制度に,CSR 未着手企業では商工会議所 専門家等による相談 助言とともに,CSR に関する研修や人材育成に多くの声が寄せられた. この結果は, 図 5 で検討した推進要因と関係していると解釈できる. つまり, 既に CSR を実施している企業は, その取組みを持続させ, さらに発展させるためにも, 対外的な評価や質保証といった自らの CSR をブラッシュアップする施策を求めているのに対して, まだ CSR に着手していない企業は社員の理解がボトルネックになっており, 研修などの人材育成の機会を求めていると考えられる. 図 6 最も効果がある CSR 推進策 ( 実績別 ) 合 27.3% 23.6% 22.4% 14.3% 8.7% 3.7% CSR 実施 25.2% 26.9% 19.3% 14.3% 9.2% 5.0% CSR 実施せず 33.3% 14.3% 31.0% 14.3% 7.1% 0.0% 商工会議所 専門家等による相談 助言地域貢献企業としての顕彰 質保証制度 CSRに関する研修 人材育成連携パートナーとなる地域やNPOの情報 交流会県外企業等 先進的な企業との連携その他 Pearson カイ二乗値 =6.9906 P 値 =0.2213 さらに CSR 推進策について企業規模の面から分析したのが図 7 である. 1~20 人企業の 3 割は, 商工会議所 専門家等による相談 助言に期待しており, 連携パートナーとなる地域や NPO の情報 交流会についても比較的ニーズが高いことが特徴である. 他方,21~300 人企業では, 地域貢献企業としての顕彰 質保証制度が重視されている. 39

会津大学短期大学部研究紀要第 77 号 (2020) 図 7 最も効果がある CSR 推進策 ( 規模別 ) 合 28.1% 23.5% 20.9% 15.0% 8.5% 3.9% 1 ~ 20 人企業 29.9% 19.4% 20.9% 17.9% 9.0% 3.0% 21 人 ~300 人企業 26.7% 26.7% 20.9% 12.8% 8.1% 4.7% 商工会議所 専門家等による相談 助言地域貢献企業としての顕彰 質保証制度 CSRに関する研修 人材育成連携パートナーとなる地域やNPOの情報 交流会県外企業等 先進的な企業との連携その他 Pearson カイ二乗値 =1.9447 P 値 =0.8567 4.2 CSR の経営的要因最後に中小企業が持続的に CSR に取組むために, どのような経営戦略や経営姿勢が影響を与えているのかを検証する. まず経営戦略について 4 項目, 経営姿勢について 5 項目からなる評価項目を設定する. これらは先行研究や先進地ヒアリング調査をもとに抽出した. 次に全ての項目について, 最も重視する, やや重視する, どちらとも言えない, あまり重視しない, 重視しない, の 5 段階のカテゴリー尺度で評価してもらう. その結果を次の二つの方法により分析する. (1) DI 評価 DI= 最も重視する + やや重視する 0.75+ どちらとも言えない 0.5+ あまり重視しない 0.25 として算出し, 相違を評価する. (2) CSR の実施状況と経営的要因の連関の強さを, カイ二乗検定とクラマーの連関係数 V によって分析する. 図 8 は,DI 評価の結果をスネーク チャートで示したものである.100 点中, 最も高いポイントはお客様との永続的な関係構築の 83.8 点であり, ついで技術の継承や次世代の育成 79.8 点, チャレンジ精神 74.1 点と続いている. 顧客との永続的な関係構築は全てのビジネスに共通する事項と考えられるが,2 位と 3 位になった技術の継承や次世代の育成とチャレンジ精神は, ヒアリング調査した阪神地域, ニューオーリンズでも特徴的な要因とされており, 災害復興過程での共通性が確認できる結果となった. 図 8 重視する経営戦略, 経営姿勢 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 福島復興担い手 としてのビジョンや自覚 58.2 経営基盤の再構築 ( 新分野 新製品 新規顧客 ) 業務プロセスの見直し ( 雇用 在庫管理 仕入先 ) 70 72.1 技術の継承や次世代の育成 79.8 地域との連携 環境保全や省エネルギー チャレンジ精神 64.2 69.7 74.1 お客様との永続的な関係構築 83.8 積極的な情報発信とコミュニケーション 70.3 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 続いて,CSR の実施状況と経営的要因の連関に関する分析結果が表 8 である. カイ二乗検定により有意水準 5% で連関が確認できたのは, 経営戦略では, 福島復興担い手 としてのビジョンや自覚, 技術の継承や次世代 40

青木孝弘東日本大震災後の CSR 動向 の育成の 2 項目で, 経営姿勢では, 地域との連携, 環境保全や省エネルギー, チャレンジ精神, 積極的な情報発信とコミュニケーションの 4 項目が該当した. また, クラマーの連関係数により CSR との関連性が強いと考えられる項目は, 福島復興の担い手 としてのビジョンや自覚 0.2959, 技術の継承や次世代の育成 0.2929, チャレンジ精神 0.2625 という結果が得られた. 表 8 CSR に影響する経営的要因 経営戦略 経営姿勢 CSR 実績との連関 Pearsonカイ二乗値 自由度 P 値 *:P<0.05 **:P<0.01 Cramer's V 福島復興担い手 としてのビジョンや自覚 14.3562 3 0.0025 ** 0.2959 経営基盤の再構築 ( 新分野 新製品 新規顧客 ) 3.8968 3 0.2728 0.1537 業務プロセスの見直し ( 雇用 在庫管理 仕入先 ) 1.3419 3 0.7192 0.0902 技術の継承や次世代の育成 14.1559 3 0.0027 ** 0.2929 地域との連携 10.5179 3 0.0146 * 0.2525 環境保全や省エネルギー 10.6689 3 0.0137 * 0.2551 チャレンジ精神 11.3656 3 0.0099 ** 0.2625 お客様との永続的な関係構築 3.1758 2 0.2044 0.1387 積極的な情報発信とコミュニケーション 9.9649 3 0.0189 * 0.2458 東日本大震災の被災三県の中で, 福島県は東京電力福島第一原子力発電所の事故の影響を一番強く受けており, 復興に向けた取組みが長期になると見込まれる中, 地域の中小企業は持続的な経営を可能にするためのビジョンとチャレンジ精神豊かな人材の育成を,CSR を通じて強化しようとしているものと推察される. 5 おわりに本研究は, 福島県内の中小企業に対するアンケート調査を通じて, 震災復興過程における CSR の実態を明らかにし,CSR に影響を与える経営的要因について分析を試みた. まず立地や規模による業績の分析から, 小規模企業者において業績の回復が進んでいない傾向が読み取れたものの, そのことと CSR の実施状況は関係がなく, むしろ戦略的に他の外部組織との連携を取りながら推進している状況が見て取れた.CSR と業績の関係について,CSR 実施企業の方が, 取り組んでいない企業よりもよいパフォーマンスを示している傾向にあるが, 統的検定では違いを確認できなかった. ただし CSR 実施企業の半数が, 本業と CSR の両立は可能と回答していることから, 今後これらの企業を中心に活発に CSR が展開されるものと期待される. 次に CSR を推進する要因は, 小規模企業者とそれ以外の企業とで, また CSR 実施企業と未着手企業では違っていることが本研究により明らかになった. 小規模企業者は自社の資源が限られていることから外部との連携ニーズが強く,CSR 実施企業, なかでも規模が大きめの中小企業は, 認証制度など地域における客観的な評価を求めている. 他方 CSR に取組んでいない企業では, 社員の意識がボトルネックと考えられており, 研修等を通じた人材育成が望まれている. またこれらを推進するために, 商工会議所や中小企業診断士等の専門家の役割が重要になってくる. また CSR に影響を与える経営的要因について, 復興の担い手としてのビジョン, 技術の承継や次世代育成, チャレンジ精神の 3 項目に連関が見出され, 原発事故の影響を強く受けている福島県内の中小企業が面している経営環境が示唆される結果となった. 以上から, 福島県内の中小企業が今後も持続的に震災復興 CSR を行っていくためには, 企業規模やこれまでの CSR 実績を加味した多様なアプローチが有効と考えられ, 行政や経済団体, 専門家, 大学等が連携した支援システムの検討が求められるだろう. 最後に, 本研究は東日本大震災の復興過程における中小企業の CSR 動向や推進要因を探ることに留まってい 41

会津大学短期大学部研究紀要第 77 号 (2020) るため, ある程度全体像を把握できたものの, 中小企業が実際に CSR に着手するときに生じる実務上の課題や その解決法については未だ明らかにされてはいない. 今後も現場での実証研究を継続し, 現実的で持続的な中小 企業 CSR モデルの発展と普及のシステム構築を目指したい. 参考文献 [1] Kotler, P. and Roberto, E. (1989) Social Marketing: Strategies for Changing Public Behavior, The Free Press [2] Porter, M. and Kramer, M. (2011) Creating Shared Value: How to reinvent capitalism-and unleash a wave of innovation and growth, Harvard Business Review [3] 経済産業省 (2016) 平成 26 年工業統表 [4] 関満博編 (2015) 震災復興と地域産業 6 復興を支える NPO, 社会的企業, 新評論 [5] 塚本一郎, 関正雄編著 (2012) 社会貢献によるビジネス イノベーション CSR を超えて, 丸善出版 [6] 藤野洋 (2013) 第 I 部経営理念に立脚する中小企業の CSR, これからの CSR と中小企業 社会的課題への挑戦, 一般財団法人商工総合研究所 [7] 矢口義教 (2014) 震災と企業の社会性 CSR 東日本大震災における企業活動と CSR, 創成社 42