13E2 1 はじめに 電気自動車を運用するスマートオフィスに関する 近年, スマートグリッドや太陽電池の普及による電力の分散化と, これによる消費電力の平滑化が進んでおり, 電力ネットワーク全体のエネル最適化や安定性に関する研究が進んでいる [1,2,3]. 自動車業界においても電動化が確実に進み, 動力の変革による, 単なる低炭素化だけでなく, 街全体における電力平滑化のための, 大容量二次電池としての役割も期待される. 急速に進む自動運転技術など, 今後求められる自動車社会には従来のモビリティー技術だけでなく, より高度な制御技術や情報 データ科学, さらには地域社会を含めたシステム全体を最適設計する新たな理論 技術が要求される. このような状況で, 計測自動制御学会と自動車技術会の共同活動体 自動車制御とモデル部門委員会 [4] では, 新たな問題解決法の発掘を目的として, ベンチマーク問題を作成 提供してきた [5,6]. これらは, パワートレイン制御や車両制御など, 従来の自動車制御系における未解決な問題をベンチマーク問題として提供し, 革新的な解決法が提案され, 多くの研究論文を生み出した. 来るべき自動車の電動化社会に対応する問題解決を目指して, 著者らは新たなベンチマーク問題として, EV を運用するオフィスにおける電力コストを最小化する運用計画を立てる問題のプロトタイプを紹介した [7]. ここでは, 問題分析可能なオープンな環境とともに, 長期間検証可能な高速シミュレーション環境を提示した. 電力計画問題の提案 Proposal on Electric Power Planning Problem Aimed at the Smart Office Operating Electric Vehicle 石塚真一 ( サイバネットシステム ) 安井祐司 ( 本田技術研究所 ) 岩ヶ谷崇 ( サイバネットシステム ) S. Ishizuka (Cybernet System), Y. Yasui (Honda R&D) and T. Iwagaya (Cybernet System) Abstract-In recent years, the spread of electric power has been advanced by the spread of smart grid and solar cells. Consequently, smoothing of power consumption is expected. In the automotive industry, EV is steadily progressing, and its buttery is also expected to play a role as a secondary battery because the capacity is large. Under this situation, we have proposed the benchmark problem as a part of JSAE-SICE joint committee to encourage new idea and solution. In this paper, the revised version is presented. The new version is accelerated its simulation speed, and supported user operation programming to verify propriety of challengers' idea.. Key Words: EV, Energy management, Operations research, Benchmark problem 本稿ではその第 2 段として : 計算速度の向上 長期間シミュレーション化 問題設定機能の追加 行動計画の取り込み機能追加 を改良したので報告する. 2 問題設定 2.1 概要 Fig.1 に問題全体のイメージを示す. 複数台 ( ここでは 3 台 ) の EV を運用するオフィスがある ( 図中,Smart office). オフィスは日中と夜間では電力の購入コストが異なる電力系統から電力供給されるとともに, 太陽電池パネルと蓄電池を備えており, オフィスの消費電力を超えた太陽電池の余剰電力は蓄電池に蓄えることができる. ただし, 余剰電力の売電はできないものとする. このオフィスは事前に決められた顧客訪問スケジュールに従って,EV を配車する必要がある.EV の蓄電池への充電はオフィスで行わなければならない. また,EV 配車の予定が無い場合は, オフィスの二次電池として EV を活用することも可能である. オフィスおよび EV の各蓄電池は, 寿命を考慮し, SOC に上限と下限が設けられ, これを守って運用しなければならない. このとき, オフィスが電力系統から購入する電力コストを最小化する EV の行動計画を求めることとする. 第 61 回自動制御連合講演会 (2018 年 11 月 17 日 ~ 18 日, 名古屋 ) 1608
Fig.1 Image of the problem setting for bench mark No. 5. 2.2 条件 問題を簡単にするため,Fig.2 に示すようにオフィスから各顧客および各顧客間同士の道のりは直線とし, 勾配のみを考慮する.EV の走行も Fig. 3 に示すように, 加減速区間以外は一定速度 ( 例 :40km/h) とし, 途中停止は無いものとする. また, 走行抵抗は転がり抵抗および勾配抵抗のみ考え, 空力抵抗は無視し, 下り勾配におけるエネルギー回生は利用できるものとする. 命題に相当する顧客訪問スケジュールは, 予め問題設定者が Table 1 のように与える. これに対し, オフィスが電力系統から購入する電力コストを最小化する, Table 2 に示す EV の行動計画を求めるのが挑戦者の解答となる. Table 1 Operation schedule sample. Table 2 Acton plan example to control EV. Fig. 2 Condition of travelling way. 2.3 電力マネジメント Fig. 3 Velocity pattern of EV. The speed pattern is set to a constant speed except during acceleration / deceleration. オフィスが電力系統から購入する電力を最小化するのが目的なので, 自明な運用ルールとして, 太陽電池パネルの発電量がオフィスでの消費電力を上回っている場合は, 全て太陽電池パネルより電力供給を受ける. その上で余剰電力は, オフィスに常備されている蓄電池およびオフィスに接続されている EV 蓄電池 1609
の SOC により,Table 3 のルールにより, 電力コストの高い日中の電力系統を使わないように自動的に充放電が行われる. Table 3 Power management rule of smart house. 式に変換し, 数式処理により無駄な中間変数や冗長な処理を簡単化することにより, 高速なシミュレーションを実現する.MapleSim は, ベンチマーク問題ホームページ [5] から申し込むことにより, サイバネットシステム株式会社より, 対象期間に限り無償貸与される. 基本となる類似の問題として, 訪問経路を最短化する巡回セールスマン問題が挙げられる [8]. この問題は NP 困難の代表的問題で, 規模が大きくなると解くのが非常に困難になることが知られており, 解法に関する様々な研究がある [9, 10]. 本問題では, 蓄電池の非線形な SOC 特性や, 日中 / 夜間の購入電力コストの差異までも含めた, より複雑な問題となっている. 3 モデル概要 3.1 使用ツール本ベンチマーク問題は, 蓄電池などの電気化学系, EV の車両ダイナミクスなどの機械力学系など, 複数の物理領域が連成する, 複雑なシステムとなる. 一般に多くの物理問題は, ダイナミクスを表す微分方程式と, 拘束を表す代数方程式が連成した微分代数方程式で表現され, 長期に渡って正確に計算するためには, 微分代数方程式ソルバを備えたツールが望ましい [11]. ここでは, 上記特徴を備えた物理モデル言語として世界的に普及している,Modelica[12] ベースの物理モデルツールである MapleSim[13] によりモデルを構築する.MapleSim は Modelcia コードを Maple の数 3.2 全体モデル Fig. 4 にモデルの全体像を示す. モデルは, 太陽電池の発電パターン (Solar panel power generation), オフィスの消費電力パターン (Office power consumption), 挑戦者が決定する運用計画 (Operation planning),ev を走行させ, エネルキ 消費を計算する車両ダイナミクス (Vehicle dynamics including battery behavior), 蓄電池の充放電を行うスマートオフィス (Smart office and charge/discharge system ), そしてシステムの状態を監視する状態モニタ (State monitor) からなっている. 太陽電池の発電パターンは, 現モデルでは確定的なパターンとしているが, 天候変動を模擬して確率的に変動させることにより, より実際的になり, 問題の難易度を変更することができる. 挑戦者は問題を解くに当たって, 状態モニタによって任意の状態量を観察, 確認できる他, 数理モデル構築に必要な, モデルの内容を調べることができる. 例えば, スマートオフィスおよび EV の搭載されているリチウムイオン蓄電池のモデル解説と支配方程式は Fig. 5 のようであり, その特性をシミュレーションで確認することができる.Fig. 6 は, 蓄電池に一定の負荷抵抗を与えた場合の時間に対する電流,SOC, 電圧の変化を確認したものである. これにより蓄電池特性を加味したモデル化に対する情報を得ることができる. Fig. 4 Outline of electric power optimization problem for smart office operating EV. 1610
Fig. 8 Operation matrix format. 4 シミュレーション例 Fig. 5 Electrochemical base lithium ion battery model description. They can know detailed model contents for mathematical formulation. 適当な条件のもと,1 日分のシミュレーション結果を Fig.9 に示す. 上図では太陽電池パネルから電力が供給されている日中では前半は電力系統の電力がオフィスの消費電力を上回っている. 中段のオフィス内および各 EV の蓄電池 SOC は, いずれも正常範囲であることが確認できる. 下段の積算電力およびコストを見ると, 最終的に 1 日で消費した電力コストは約 15,000 円であったこが分かる. Fig. 6 Electrical property test of the battery by simulation. 3.3 道路情報と運用計画 Fig. 2 で示される訪問先各地点間の距離および高低差は,Fig. 7 に示す行列で取り込まれ, 挑戦者が決定する運用計画は,Fig. 8 の示す行列で取り込まれ, 各 EV の行動が制御される. 各行列は, Excel などの汎用ツールで作成される. Fig. 7 Road information matrix format Fig. 9 Simulation results. Top view shows the office power consumption and grid power. Middle view shows each SOC of th battery for Office and EVs respectively. And bottom view shows Cumulative purchased electric power and its cost. 1611
本問題では最終的には 1 年間の運用計画を立てることを目標としている. そのためにはシミュレーションの速度と安定性の向上が望まれる.Table 4 に前バージョンとのシミュレーション速度の比較を示す. 本バージョンでは安定性の向上も図り, 1 年間に渡るシミュレーションも可能で,Xeon E5-2665 2.4GHz で実行した場合, 約 5 分で終了し, その加速倍率は 10 万倍以上となる. Table 4 Simulation speed and acceleration ratio. (on Xeon E5-2665 2.4GHz) 5 まとめ 来る EV 化社会に向けて,EV を運用するオフィスの電力最小化ベンチマーク問題の第 2 段を示した. 本バージョンでは以下の改善がなされている : 道路情報の取り込み 変更機能追加 運用計画の取り込み機能追加 計算の安定化による長期間 (1 年間 ) 可能 計算速度の向上 ( 実時間の 10 万倍以上 ) CE/ [6] 小森 : 自動車の低炭素化実現に向け制御の果たす役割 ~ ベンチーマーク問題の提案 ~, 計測自動制御学会 ; 第 40 回制御理論シンポジウム (2011) [7] 石塚, 安井, 岩ヶ谷 :JSAE-SICE ベンチマーク問題の提案 #5 - 電気自動車を運用するスマートオフィス電力最適化問題 -: 自動車技術会春季大会 (2018) [8] 山本, 久保 : 巡回セールスマン問題への招待, 朝倉書店 (1997) [9] 久保, 村本, 下薗 : 平面巡回セールスマン問題の高速な近似アルゴリズム : 情報処理学会研究報告アルゴリズム, p.49-56 (2000) [10] 前川, 玉置, 喜多, 西川 : 遺伝アルゴリズムによる巡回セースルマン問題の一解法 : 計測自動制御学会論文集, Vol. 31, No. 5, pp. 598-605 (1995) [11] S. Ishizuka:Symbolic and Numeric DAE Approach for Dynamical System Simulation: ICROS-SICE International Joint Conference, pp. 2388-2391 (2009) [12] https://www.modelica.org/ [13] http://www.cybernet.co.jp/maple/product/maplesi m/ 今後の課題として, 適切な問題設定および難易度となるような問題条件の設定, およびドキュメントの整備がある. 本ベンチマーク問題に挑戦する場合は, より詳細な仕様や条件, モデル情報が必要であるが, それらは [5] の JSAE-SICE 自動車のモデリングと制御ベンチマーク問題ホームページ により逐次公開する. 参考文献 [1] 大川, 祓川, 滑川 : 電力潮流を考慮した分散的な動的電力価格決定 ; 計測自動制御学会論文集, Vol. 50, No. 3, pp. 245-252 (2014) [2] 末廣, 増井, 滑川 : 重複情報を用いた電力ネットワークの分散階層制御 ; 計測自動制御学会論文集, Vol. 49, No. 12, pp. 1121-1130 (2013) [3] 川島, 稲垣, 鈴木 :EV シェアリングが担うエネルギー管理 ; 計測と制御, Vol. 57, No3, pp. 179-184 (2018) [4] http://tech.jsae.or.jp/katsudou/view.aspx?id=1407 [5] http://cig.ees.kyushu-u.ac.jp/benchmark_jsae_si 1612