現 地 調 査 結 果 と 観 測 強 震 動 の 分 析 に 基 づく 益 城 町 役 場 周 辺 の 被 害 集 中 の 原 因 に 関 する 考 察 京 都 大 学 防 災 研 究 所 川 瀬 博 松 島 信 一 宝 音 図 京 都 大 学 工 学 研 究 科 長 嶋 史 明 仲 野 健 一 1. 調 査 分 析 の 概 要 今 回 の 熊 本 地 震 における 被 害 の 発 生 要 因 を 理 解 するため 我 々は4 月 29 日 から5 月 1 日 にかけて 益 城 町 および 西 原 村 において 被 害 状 況 の 観 察 と 微 動 調 査 および 余 震 観 測 点 の 敷 設 を 行 った 微 動 調 査 結 果 の 詳 細 および 余 震 観 測 データの 分 析 については 今 後 の 作 業 となるが とりあえず 益 城 町 役 場 周 辺 の 被 害 集 中 の 原 因 に 関 して 推 察 することができるだ けの 情 報 を 抽 出 したので それらの 結 果 をもとに 仮 説 の 構 築 を 行 った 具 体 的 には 被 害 集 中 域 における 踏 査 微 動 観 測 と 地 震 観 測 データの 分 析 観 測 強 震 動 の 構 造 物 破 壊 能 の 計 算 である 以 下 その 概 要 を 報 告 する 今 回 の 報 告 は 現 時 点 で 入 手 した 情 報 に 基 づいて 行 うもので 将 来 さらなる 情 報 の 入 手 に より 結 論 が 変 わる 可 能 性 は 否 定 できない しかしもしその 仮 説 が 正 しいのであれば より 定 量 的 な 理 解 のために 必 要 な 今 後 の 調 査 項 目 にそれを 反 映 していただきたいと 思 い ここに とりまとめた 次 第 である 2. 益 城 町 ( 宮 園 木 山 )での 被 害 集 中 の 特 徴 すでに 報 道 も 含 め 多 くの 調 査 結 果 が 報 告 されているので 益 城 町 中 心 部 の 被 害 集 中 その ものについては 多 くを 言 及 しない 益 城 町 の 町 役 場 文 化 会 館 を 中 心 とした 被 害 は 東 西 方 法 は 国 道 443 号 線 の 西 から 始 まり 県 道 235 号 線 の 東 まで( 約 1.5km~2km) 南 北 方 向 は 県 道 28 号 線 の 両 側 幅 約 ±300m の 領 域 に 広 がっている 南 側 は 秋 津 川 で 明 瞭 に 区 画 されて いるが( 南 側 には 水 田 地 帯 が 広 がりそもそも 被 害 の 出 ようがない) 北 側 および 西 側 の 境 界 はそれほど 明 瞭 ではない 現 地 踏 査 の 結 果 その 被 害 の 様 相 は 以 下 のようにまとめられる 1) 被 害 が 集 中 している 領 域 においては 旧 耐 震 の 構 造 物 だけでなく 新 耐 震 の 構 造 物 も 被 害 を 受 けている 事 例 がある 耐 震 補 強 を 施 した 建 物 も 多 く 被 害 を 受 けたとの 報 道 も ある( 写 真 1) 2) 一 方 旧 耐 震 の 構 造 物 でも 外 見 上 大 きな 被 害 が 見 られず 生 き 残 っている 建 物 も 多 数 存 在 している( 写 真 2) 3) 微 細 なスケール(50m オーダー)での 被 害 域 は 東 西 方 向 に 帯 状 に 分 布 し 南 北 方 向 に はまだら 模 様 となっている 一 方 で 東 西 方 向 にはある 程 度 連 続 している 傾 向 にある 上 記 1)はその 帯 状 被 害 集 中 域 内 についての 記 載 である 4) 一 方 上 記 2)の 記 載 はその 帯 の 外 側 に 位 置 する 建 物 に 関 する 記 載 である すなわ ち 微 細 スケールの 被 害 分 布 がまだら 模 様 となっているのはランダムになっているわけ ではない 1
Kawase, 2016/05/25 Ver.2 5 倒壊した建物の倒壊方向は高い確率で東西方向となっている 転倒した墓石もほ ぼ東西方向 断層並行方向 に転倒している 写真1 写真3 6 6 被害集中域の東西ラインを横切る南北方向の舗装道路においては必ず顕著な地盤 変状 舗装の割裂 盛土や擁壁の東西方向への崩壊 段差の生成 が見られる これは 被害の集中が地殻変動を主因としていることを裏付ける傍証である 写真7 8 な お秋津川近傍の平坦部では液状化によると思われる堤体の亀裂やマンホールの上昇 (10~20cm 程度)等が見られているが 上記の東西方向に分布する地盤変状は緩傾斜地 のもので それとは異なる 写真1 新しいアパートの被害 東西方向 写真3 東西方向に傾いた店舗 写真2 写真4 2 古い建物で生き残った事例 東西方向に傾いた鉄骨住宅
写 真 5 東 西 に 大 破 した 寺 の 本 堂 (RC 新 耐 震 ) 写 真 6 東 西 方 向 に 転 倒 した 墓 石 写 真 7 写 真 8 地 盤 変 状 の 表 出 とそれに 隣 接 する 大 破 倒 壊 建 物 ( 道 は 南 北 方 向 ) 3
3. 益 城 町 被 害 集 中 域 での 微 動 特 性 益 城 町 の 被 害 集 中 域 において 可 搬 型 微 動 計 SMAR-6A3P を 10 台 用 いて 約 100m 間 隔 で 格 子 状 に 700m 1km の 領 域 で 微 動 計 測 を 行 った その 配 置 図 を 図 1に 示 すが その 中 で 益 城 町 役 場 を 中 心 とする 県 道 235 号 線 沿 いの 益 城 中 央 病 院 から 秋 津 川 に 掛 けての 北 端 中 央 南 端 の 6 地 点 での 水 平 上 下 比 (MHVR)を 比 較 したのが 図 2である 観 測 された MHVR は 2~3Hz 付 近 にピークを 持 ち そのピークレベルは 約 4~5 倍 であり 地 下 構 造 に はそれなりのインピーダンスコントラストがあることを 示 唆 しているが 被 災 地 域 をまた いだ 測 線 での MHVR の 違 いはわずかである 図 3には 観 測 した 地 点 でピークが 読 み 取 れた 地 点 のピーク 振 動 数 を 円 のサイズで 表 現 して 示 す( 円 内 の 数 字 はそのピーク 振 動 数 ) 南 西 の 秋 津 川 沿 いの 低 地 でピーク 振 動 数 が 有 意 に 低 くなっており その 領 域 で 表 層 地 盤 厚 さが 厚 くなっている 可 能 性 が 指 摘 できるが その 領 域 は 被 害 集 中 域 から 外 れており 表 層 地 盤 の 空 間 的 差 異 が 益 城 町 中 心 部 における 被 害 集 中 の 直 接 的 原 因 とは 考 えられない なお 被 害 集 中 域 の 北 側 の 外 縁 部 に 位 置 する 辻 の 城 に 防 災 科 学 技 術 研 究 所 の KiK-net 益 城 (KMMH16)が 設 置 されており 本 震 も 得 られているが その 本 震 以 前 に 観 測 された 弱 震 動 の 平 均 水 平 上 下 比 EHVR を 用 いた 分 析 結 果 については 別 途 (http://zeisei5.dpri.kyotou.ac.jp/naga/20160418-kmmh16-obs&theoryhvr-v2.pdf) 報 告 しているので 参 照 された い ちなみに EHVR のピークは 同 じく 3Hz で ピークレベルは 6 倍 そのピーク 振 動 数 は ボーリング 調 査 で 明 らかになっている 20~24m 地 表 面 下 にある 凝 灰 岩 層 との 速 度 コントラ ストで 生 じているものと 推 察 される なおこの 防 災 科 学 技 術 研 究 所 実 施 のボーリング 調 査 結 果 から 求 めた 表 層 30mの 平 均 S 波 速 度 Vs30 は 265m/s であり 日 本 の 基 準 からは 決 し て 軟 弱 地 盤 ではない 図 1 益 城 町 被 害 中 心 部 における 微 動 観 測 地 点 の 分 布 4
図 2 益 城 町 役 場 を 通 る 南 北 測 線 での 観 測 微 動 の 水 平 上 下 比 MHVR 図 3 益 城 町 被 害 中 心 部 での 微 動 観 測 から 得 られた MHVR の 基 本 ピーク 振 動 数 分 布 5
4. 益 城 町 での 観 測 強 震 動 の 特 徴 とその 構 造 物 破 壊 能 益 城 町 役 場 に 置 かれていた 自 治 体 震 度 計 の 前 震 および 本 震 の 気 象 庁 震 度 が 震 度 7 であっ たことはすでに 報 道 されている 通 りである しかし 兵 庫 県 南 部 地 震 以 降 速 報 性 を 重 視 し て 導 入 された 気 象 庁 の 計 測 震 度 が 震 度 5 強 以 上 で 想 定 されているよりも 小 さな 被 害 しか 生 じないケースが 多 々あることが 報 告 されており 2011 年 の 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 において も 唯 一 震 度 7となった K-NET 築 館 の 観 測 点 の 周 辺 でも 大 破 倒 壊 といった 大 被 害 は 生 じな かったことが 知 られている しかし 今 回 の 益 城 町 役 場 における 観 測 強 震 動 波 形 はすでに 気 象 庁 によって 公 開 されており その 結 果 を 分 析 した 筑 波 大 学 の 境 有 紀 教 授 のサイトでは 今 回 の 地 震 動 は 周 期 1~2 秒 の 応 答 スペクトルを 指 標 に 計 算 する 境 震 度 においても 震 度 7 と 見 なせると 報 告 されている(http://www.kz.tsukuba.ac.jp/~sakai/s1605s.htm) 従 って その 破 壊 力 は 震 度 7クラスといってもよいとも 思 われるが 前 述 のように 被 害 集 中 域 を 踏 査 すると 域 内 での 被 害 は 決 して 一 様 ではなく 旧 耐 震 の 一 見 脆 弱 に 見 える 構 造 物 が 大 きな 被 害 を 免 れている 事 例 がある 一 方 新 耐 震 と 思 われる 構 造 物 に 大 きな 被 害 が 生 じている 事 例 も 見 られる このような 構 造 物 の 特 性 によって 大 破 倒 壊 を 免 れて 生 き 残 れる 構 造 物 が 生 じていること 自 体 今 回 の 益 城 町 中 心 部 での 強 震 動 が 兵 庫 県 南 部 地 震 の 神 戸 市 内 の 震 災 の 帯 の 中 のそのまた 中 心 部 における 大 破 以 上 率 100%の 強 震 動 のレベルとは 同 等 のものでは ないことを 示 唆 している 実 際 京 都 大 学 防 災 研 究 所 の 岩 田 知 孝 教 授 は 益 城 町 役 場 に 置 かれていた 自 治 体 震 度 計 の 本 震 波 形 を 積 分 し 170cm/s を 超 える 最 大 速 度 を 得 ているが(http://sms.dpri.kyotou.ac.jp/topics/masiki-nishihara0428ver2.pdf) それは 断 層 平 行 成 分 に 近 い EW 成 分 で 得 ら れており 同 じくさらに 積 分 して 得 た 変 位 波 形 ではその 最 大 速 度 パルスの 後 の2 秒 間 で EW 方 向 に 1m ずれ 動 いた( 永 久 変 位 として 地 殻 変 動 が 残 った)ことを 報 告 している 横 ずれ 成 分 が 卓 越 していた 今 回 の 熊 本 地 震 の 震 源 直 上 では 普 通 なら 兵 庫 県 南 部 地 震 の 神 戸 市 域 で 見 られたように( 松 島 川 瀬 2000 建 築 学 会 論 文 集 ) 永 久 変 位 を 伴 わない 断 層 直 交 成 分 に おけるアスペリティパルス(いわゆる キラーパルス )が 被 害 の 主 要 原 因 となるはずであ るが 益 城 町 役 場 の 波 形 の 断 層 直 交 成 分 に 近 い NS 成 分 には 明 瞭 なアスペリティパルスが 見 られていない また 上 述 のように 大 破 倒 壊 建 物 の 大 変 形 の 発 生 方 向 は 東 西 方 向 に 著 しく 片 寄 っている 従 って 益 城 町 中 心 部 の 被 害 の 生 成 は 東 西 方 向 に 卓 越 した 永 久 変 形 を 生 成 する 際 の 地 殻 変 動 が 主 因 であった 可 能 性 が 指 摘 できる そこで 兵 庫 県 南 部 地 震 の 際 の 神 戸 市 域 における 再 現 地 動 ( 松 島 川 瀬 2000 前 出 )と 町 丁 目 別 に 悉 皆 調 査 された 木 造 建 物 の 被 害 率 統 計 を 用 いて 木 造 2 階 建 の 非 線 形 応 答 解 析 モ デルの 終 局 耐 力 の 確 率 密 度 関 数 を 観 測 被 害 率 を 再 現 できるように 構 築 した 長 戸 川 瀬 モデ ル( 長 戸 川 瀬 2002 JEES)を 年 代 別 耐 力 モデルに 拡 張 した 吉 田 モデル( 吉 田 他, AIJ 大 会, 2004)に 益 城 町 役 場 の 観 測 強 震 動 を 入 力 して 神 戸 市 東 灘 区 に 立 っていた 木 造 家 屋 と 同 等 の 木 造 家 屋 が 益 城 町 にも 平 均 的 に 分 布 していたものとして 推 定 被 害 率 を 計 算 した その 結 果 以 下 の 表 1に 示 すように 前 震 本 震 いずれも EW 成 分 に 対 してより 大 きな 被 害 が 発 生 する 6
という 結 果 が 得 られた またその 計 算 被 害 率 は 最 大 の 被 害 率 が 計 算 された 本 震 の EW 成 分 に 対 しても 新 耐 震 導 入 (1981 年 ) 以 降 の 木 造 家 屋 では 高 々10% 程 度 に 収 まるものの 古 い 木 造 家 屋 の 場 合 には 50% 以 上 の 被 害 率 が 推 定 された よって 今 回 の 地 震 動 の 構 造 物 破 壊 能 は 兵 庫 県 南 部 地 震 の 神 戸 市 域 の 大 破 倒 壊 率 100%の 領 域 の 強 震 動 に 比 して 決 して 大 きいとは 言 えないが それ 以 降 これまで 我 が 国 で 得 られた 強 震 動 波 形 としては 最 大 級 の 破 壊 力 をもつ ことが 分 かった なお 後 本 震 での 益 城 町 役 場 の 記 録 と KiK-net 益 城 の 記 録 による 被 害 率 を 比 較 すると NS 成 分 ではほぼ 同 等 か 古 い 建 物 で 少 し 益 城 町 役 場 の 方 が 大 きい 傾 向 にあるのに 対 し EW 成 分 ではほぼ 同 等 で 70 年 代 建 物 でのみ KiK-net 益 城 の 方 が 少 し 大 きくなっている これは 図 4に 示 したように 時 間 軸 を S 波 の 到 来 で 合 わせた 波 形 を 重 ねたときに 両 者 は 基 本 的 に よく 似 ていることを 反 映 しているものと 考 えられ NS 成 分 では 24 秒 付 近 で 益 城 町 役 場 の 記 録 が 大 きな 最 大 加 速 度 を 示 しているのに 対 し EW 成 分 では 21.6 秒 付 近 の 継 続 時 間 の 短 表 1 計 算 された 方 向 別 年 代 別 木 造 家 屋 の 推 定 大 破 倒 壊 率 地 震 場 所 地 震 動 成 分 最 大 加 速 度 4/14 21:26 前 本 震 4/16 01:25 後 本 震 益 城 町 役 場 KMMH16 益 城 町 役 場 KMMH16 計 算 被 害 率 ~1950 1950~1970 1970~1981 1982~ NS 632cm/s 2 0.594 0.423 0.423 0.159 EW 732cm/s 2 0.765 0.577 0.425 0.169 NS 759cm/s 2 0.264 0.328 0.384 0.168 EW 922cm/s 2 0.785 0.703 0.501 0.351 NS 776cm/s 2 0.555 0.481 0.330 0.105 EW 825cm/s 2 0.711 0.481 0.423 0.154 NS 651cm/s 2 0.473 0.386 0.332 0.11 EW 1156cm/s 2 0.637 0.423 0.555 0.144 図 4 益 城 町 役 場 と KiK-net 益 城 の 水 平 2 成 分 の 加 速 度 波 形 の 比 較 7
いパルス 状 の 部 分 で KiK-net 益 城 の 方 が 最 大 加 速 度 は 1.4 倍 になっているものの それは 速 度 すなわち 入 力 エネルギーの 増 大 にはあまり 寄 与 していないので 結 果 的 に 大 きな 被 害 率 には 直 結 しなかったものと 考 えられる 5. 考 えられる 益 城 町 被 害 集 中 の 原 因 以 上 の 調 査 結 果 および 本 震 の 発 震 点 の 位 置 さらに 産 総 研 GSJ がまとめた 活 断 層 マッ プと InSAR の 地 殻 変 動 の 分 布 図 (https://www.gsj.jp/hazards/earthquake/kumamoto2016/ index.html)を 参 照 すると 今 回 の 益 城 町 中 心 部 における 被 害 集 中 は 観 測 された 強 震 動 そ のものが 原 因 というよりも 強 震 動 とそれに 伴 って 発 生 した 地 殻 変 動 およびそれによる 地 盤 変 状 の 発 生 が 主 たる 原 因 で 生 じたものではないかと 推 察 される もちろんこれは 純 粋 に 振 動 により 壊 れた 建 物 がなかったと 主 張 するものではない その 論 理 をまとめると 以 下 の 通 りである 1) 地 震 動 の 分 析 からは 確 かに 強 烈 な 地 震 動 ではあるが KiK-net 益 城 においても 同 じような 被 害 が 出 ていても 不 思 議 ではない 2) 地 震 動 を 用 いた 推 定 からも 被 害 の 実 相 からも 断 層 平 行 成 分 に 近 い 東 西 方 向 の 被 害 が 卓 越 していたと 推 測 される 3) 被 害 の 帯 は 東 西 方 向 に 連 続 し 南 北 方 向 には 連 続 していない 連 続 する 東 西 方 向 の 被 害 帯 を 横 切 る 道 路 には 高 い 確 率 で 地 盤 変 状 が 見 られた 4) 上 記 被 害 帯 の 内 側 では 新 耐 震 の 建 物 も 壊 れているケースがある 一 方 その 外 側 で は 旧 耐 震 の 脆 弱 そうな 建 物 でも 軽 微 な 被 害 に 留 まっているケースが 多 く 見 られる これ ら 相 反 する 情 報 は 益 城 町 中 心 部 での 被 害 が 単 純 な 地 震 動 によって 建 物 に 生 じた 震 動 被 害 ではないことを 示 唆 している 5) 被 害 集 中 域 の 北 端 南 端 と 中 心 部 の 地 盤 構 造 に 大 きな 違 いがある 可 能 性 は 低 い 6) 地 盤 の 非 線 形 化 を 考 慮 しても 表 層 が 浅 く 基 盤 も 浅 いと 考 えられる 今 回 の 被 害 集 中 域 において 神 戸 の 場 合 に 出 現 したエッジ 効 果 (Kawase, SRL, 1996)のような 特 異 な 地 盤 増 幅 現 象 があった 可 能 性 は 低 い 7) GSJ の 活 断 層 マップでは 県 道 28 号 線 沿 いに 布 田 川 断 層 主 要 部 から 分 岐 した 小 断 層 ( 地 震 本 部 の 長 期 評 価 部 会 の 報 告 http://www.jishin.go.jp/main/chousa/02may_ futagawa/f02.htm では 木 山 断 層 )が 引 かれている その 西 縁 は 国 道 443 号 線 までで それよりも 西 には 引 かれていない これは 国 道 443 号 線 を 挟 んで 東 側 では 明 瞭 な1 本 の 線 上 に 地 震 断 層 としての 地 殻 変 動 が 集 中 してきたのに 対 して 西 側 では 今 回 の 被 害 集 中 域 の 幅 にその 変 動 が 分 布 してきたためではないかと 推 察 される 実 際 秋 津 川 に 来 たか ら 流 れ 込 む 支 流 は 500m くらいの 幅 で 北 東 から 南 西 に 斜 めに 流 れ 込 んでおり 過 去 発 生 した 地 震 による 地 表 断 層 変 位 が 分 散 して 出 現 してきたことを 示 唆 している InSAR の 変 動 分 布 も 木 山 断 層 までは 明 瞭 な 線 が 見 いだせるが その 西 側 では 幅 1km 長 さ 2km にわたって 変 動 が 明 瞭 でない 領 域 が 形 成 されている これらはこの 領 域 において 分 散 し 8
て 地 殻 変 動 が 表 出 した 可 能 性 を 示 唆 している 8) 今 回 の 本 震 の 発 震 点 は 布 田 川 断 層 主 部 上 ではなく 上 記 分 岐 断 層 の 延 長 線 上 にあ り 少 なくとも 発 震 点 から 東 側 に 直 線 状 に 延 長 し 布 田 川 断 層 主 部 に 合 流 するまでの 分 岐 セグメントが 断 層 運 動 に 伴 う 地 表 変 位 の 北 端 であったことは InSAR の 地 殻 変 動 を 表 し た 縞 模 様 が 示 唆 するところである これらの 情 報 を 総 合 的 に 判 断 すると 今 回 の 益 城 町 中 心 部 における 被 害 の 集 中 は 前 震 本 震 による2 度 の 揺 れを 受 けたことが 主 因 ではなく この 地 域 の 地 盤 が 特 に 揺 れやすいた めでもなく 古 い 建 物 がここに 集 中 していたためでもない 本 震 の 断 層 運 動 に 伴 う 地 殻 変 動 が 表 層 の 地 盤 変 状 となって 表 れ その 永 久 変 位 を 形 成 するプロセスの 地 震 動 とそれに 伴 っ て 生 じた 地 盤 変 状 の 相 乗 効 果 で 大 きな 被 害 が 生 じたものと 推 察 される なお 西 原 村 南 部 の 被 害 集 中 域 もまた 断 層 変 位 の 表 出 した 地 点 の 近 傍 であり やはり 周 辺 に 地 盤 変 状 が 多 く 観 察 される 集 落 で 生 じている 一 方 日 本 の 記 録 史 上 最 大 の 地 動 速 度 260cm/s を 記 録 した ( 岩 田 知 孝 前 出 ) 西 原 村 役 場 は 事 実 上 無 被 害 であった 最 後 に このような 引 張 応 力 場 において 発 生 した 正 断 層 型 の 地 震 における 被 害 が もっぱ ら 断 層 近 傍 の 断 層 運 動 に 伴 って 生 じたものに 限 られた 事 例 は 今 回 が 初 めてではなく 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 の 誘 発 地 震 として 発 生 した 福 島 県 浜 通 り 地 震 でも 指 摘 されていた( 久 田 他 2012 日 本 地 震 工 学 会 論 文 集 ) 6. まとめ 以 上 我 々の 調 査 によれば 今 回 の 益 城 町 中 心 部 における 被 害 集 中 は 地 殻 変 動 を 伴 った 強 震 動 およびそれによる 地 盤 変 状 の 発 生 が 主 たる 原 因 で 生 じたものと 推 察 される 従 って 今 後 の 調 査 においては 1) 被 害 建 物 の 被 害 程 度 別 詳 細 な 空 間 分 布 の 把 握 2) 被 害 建 物 の 分 布 と 地 盤 変 状 の 分 布 の 相 関 関 係 の 把 握 3) 被 害 建 物 の 倒 壊 方 向 最 大 変 形 方 向 の 把 握 4) 被 害 集 中 域 における 詳 細 な 地 殻 変 動 量 の 空 間 分 布 把 握 5) 被 害 集 中 域 とその 周 辺 における 基 盤 に 至 るまでの 地 下 構 造 の 把 握 が 必 要 であり 是 非 本 仮 説 を 検 証 もしくは 否 定 するに 足 る 定 量 的 情 報 を 関 係 者 と 協 力 して 収 集 したいと 考 えているし そのために 役 立 つ 情 報 提 供 をお 願 いしたい なお 本 仮 説 が 正 しかった 場 合 には 活 断 層 近 傍 の 被 害 は 防 げないのだから 日 本 にも 活 断 層 法 ( 活 断 層 上 の 建 築 を 制 限 する 法 )が 必 要 だ と 主 張 される 一 部 専 門 家 を 後 押 しする ことになりかねないが 逆 に 今 回 の 事 例 は 活 断 層 法 が 今 回 のような 分 散 した 断 層 地 変 に は 無 力 であることを 示 したものであることから その 教 訓 を 正 しく 解 釈 していただき 活 断 層 法 の 導 入 を 考 えるよりも 大 きな 一 方 向 変 位 入 力 に 対 しても 倒 壊 しない 木 造 耐 震 補 強 法 をより 一 層 展 開 していくべきだと 考 えている 9
謝 辞 本 報 告 には 科 学 研 究 費 補 助 金 特 別 推 進 研 究 費 2016 年 熊 本 地 震 と 関 連 する 活 動 に 関 す る 総 合 調 査 ( 代 表 者 : 清 水 洋 )によるサポートを 受 けました 微 動 調 査 には 川 瀬 研 究 室 松 島 研 究 室 の 学 生 諸 君 の 協 力 を 得 ました 観 測 地 震 記 録 は JMA および NIED の 収 集 され たものを 利 用 させていただきました その 他 筑 波 大 京 大 防 災 研 地 質 調 査 所 および 国 土 地 理 院 のウェブ 情 報 を 参 照 しました 記 して 感 謝 の 意 を 表 します 10