ISSN 2186 3989 子 宮 頸 がんワクチンに 関 する 理 解 度 調 査 宮 本 悦 子 Questionnaire survey regarding Human papillomavirus vaccines Etsuko Miyamoto 北 陸 大 学 紀 要 第 36 号 (2012 年 12 月 ) 抜 刷
子 宮 頸 がんワクチンに 関 する 理 解 度 調 査 宮 本 悦 子 * Questionnaire survey regarding Human papillomavirus vaccines Etsuko Miyamoto * Received December 3, 2012 Abstract Carcinoma of uterine cervix was sexually transmitted disease and human papillomavirus (HPV) infection in was the most dangerous factor. Two kinds of HPV vaccine were released in Japan in 2009 and 2011. An information service about vaccination was necessary for pharmacists. Then, understanding degree of HPV vaccines was investigated in pharmaceutical students in 2010 and 2012 and was compared it. Regardless of a school year and the time that I investigated, a female college student knew vaccine than men`s college student. The understanding degrees of the female college student increased with a year and exceeded 80%. However, it was not understood enough an inoculation part, the number of times, and the interval of the vaccine. They got the information about vaccine from a family or a friend and a television commercial not a lecture. This result suggested that most students did not have detailed knowledge of HPV vaccines Therefore, more education of vaccutination was more necessary. * 薬 学 部 Faculty of Pharmaceutical Sciences 1
はじめに 子 宮 頸 がんは 成 人 女 性 の 癌 として 世 界 的 に 罹 患 数 死 亡 数 では 第 2 位 に 発 展 途 上 国 では 第 1 位 にあげられている 疾 患 であり 1 ) わが 国 でも 年 間 7 千 人 が 罹 患 し およそ 35%が 死 亡 し ていることが 調 査 報 告 されている 2 ) ヒトパピローマウイルス(Human papillomavirus;hpv) による 感 染 が 最 も 危 険 な 因 子 とされ 早 期 発 見 と 感 染 予 防 が 有 効 とされる 3-9 ) 予 防 ワクチン( 不 活 化 ワクチン)はすでに 世 界 100 ヶ 国 以 上 で 承 認 され 接 種 されており わが 国 でも 2009 年 2011 年 に 相 次 いで 上 市 ( 表 1)された しかしながら 日 本 における HPV ワクチンの 接 種 は 現 在 までのところ 任 意 接 種 10) 注 であり 厚 生 労 働 省 1) は 現 在 HPV ワクチンを 含 む 複 数 のワク チンについて 予 防 接 種 法 11) の 対 象 とすべく 協 議 12) を 続 ける 一 方 で ワクチン 接 種 緊 急 促 進 事 業 (12 歳 ~16 歳 女 子 対 象 )に 認 定 し 自 治 体 に 対 して 接 種 に 関 わる 費 用 の 支 援 を 行 っている 13,14 ) 最 初 のワクチンが 販 売 開 始 となった 2010 年 に 本 学 薬 学 部 の 3,4 年 次 生 ( 現 5,6 年 次 生 ) を 対 象 に 子 宮 頸 がんワクチンの 理 解 度 について 調 査 を 行 ったが ワクチンの 存 在 自 体 は 知 ってい るものの その 理 解 度 は 低 く リーフレットなどにより 啓 発 を 行 ってきた ワクチンギャップが 指 摘 されてきたわが 国 であるが 近 年 HPV ワクチンの 他 複 数 のワク チンが 承 認 され 併 せて 予 防 接 種 法 の 改 定 10) も 進 められている また 薬 剤 師 に 対 して チー ム 医 療 の 一 員 として 医 療 現 場 で 用 いられるワクチンに 関 する 基 本 的 な 知 識 を 求 める 声 も 聞 かれ るようになってきた 4 ) このような 状 況 下 5 年 次 実 務 実 習 ( 病 院 )でも HPV ワクチンについ て 患 者 ( 対 象 者 ) 向 け 医 療 従 事 者 向 け それぞれに 対 し HPV ワクチン 医 薬 情 報 を 作 成 する 課 題 を 取 り 上 げたケースが 認 められたことから 改 めてアンケート 調 査 を 実 施 し 前 回 調 査 との 理 解 度 の 変 化 について 比 較 を 行 った 表 1 日 本 国 内 で 販 売 されている 子 宮 頸 がん 予 防 ワクチン * 市 販 名 サーバリックス ガーダシル 一 般 名 組 換 え 沈 降 2 価 ヒトパピローマ ウイルス 様 粒 子 ワクチン 組 換 え 沈 降 4 価 ヒトパピローマ ウイルス 様 粒 子 ワクチン 規 制 区 分 生 物 由 来 製 品 劇 薬 処 方 せん 医 薬 品 劇 薬 処 方 せん 医 薬 品 イラクサギンウワバ 細 胞 由 来 酵 母 由 来 販 売 開 始 2009 年 12 月 2011 年 8 月 用 法 10 歳 以 上 の 女 性 0 1 6 ケ 月 後 に 3 回 筋 肉 内 接 種 9 歳 以 上 の 女 性 0 2 6 ケ 月 後 に 3 回 筋 肉 内 に 接 種 製 造 販 売 元 グラクソ スミスクライン( 株 ) MSD( 株 ) 添 付 文 書 引 用 * 生 物 学 的 製 剤 基 準 薬 価 適 応 外 方 法 アンケート 調 査 対 象 者 :2010 2012 年 度 に 本 学 に 在 学 した 薬 学 部 学 生 3 4 年 次 のうち 調 査 2
に 同 意 の 得 られた 学 生 307 178 名 を 対 象 に 実 施 した その 内 訳 を 表 2 に 示 す 表 2 アンケート 回 答 者 数 調 査 年 度 3 年 次 4 年 次 男 女 男 女 合 計 2010 年 度 64 62 82 97 305(307 * ) 2012 年 度 33 44 56 45 178 *2 名 性 別 未 記 入 実 施 方 法 及 び 調 査 期 間 :2010 年 2012 年 進 級 時 の 4~6 月 の 期 間 の 講 義 終 了 後 に 調 査 の 目 的 を 口 頭 で 説 明 し アンケート 用 紙 を 配 布 回 答 を 依 頼 した 調 査 項 目 : 調 査 した 項 目 は 子 宮 頸 がんの 予 防 ワクチンがあることを 知 っているか ワクチ ンの 接 種 部 位 はどこか ワクチンの 接 種 回 数 とその 期 間 ワクチンに 関 する 情 報 の 入 手 先 について 選 択 及 び 自 由 記 載 により 実 施 した 結 果 1. 子 宮 頸 がんワクチンの 認 知 度 について 子 宮 頸 がんの 予 防 ワクチンがあることを 知 っていますか の 問 いに 対 し 知 っていると 回 答 した 学 生 の 割 合 を 表 3 に 示 す 何 れの 調 査 においても 女 子 学 生 が 有 意 に 高 く また 4 年 次 生 で 高 い 傾 向 にあった また 2010 年 度 の 調 査 に 比 較 し 2012 年 度 では 認 知 度 が 高 い 傾 向 を 示 したが 特 に 3 年 次 女 子 学 生 においては 前 回 調 査 時 の 61%から 大 きく 上 昇 し 91%が 知 っていると 回 答 した 最 初 のワクチンの 販 売 開 始 から 3 年 が 経 過 し その 存 在 は 広 く 知 られてきていることが 明 らかとなった 表 3 子 宮 頸 がん 予 防 ワクチンの 認 知 度 (%) 調 査 年 度 3 年 次 4 年 次 男 女 男 女 2010 年 度 34.3 61.3 45.1 80.4 2012 年 度 36.3 90.9 58.9 82.2 2. 接 種 部 位 と 期 間 回 数 の 理 解 度 について 予 防 ワクチンがあることを 知 っている と 回 答 した 学 生 に 対 し ワクチンの 接 種 部 位 につい 3
て 聞 いたところ 知 っていると 回 答 した 学 生 は 3 年 次 男 子 では 何 れの 年 度 においても 4%であ り 大 半 の 学 生 が 知 らないと 回 答 した また 女 子 学 生 でも 認 知 度 は 大 きく 上 昇 したにも 関 わら ず 15%が 知 っていると 回 答 したに 留 まり ワクチンの 詳 細 についての 理 解 は 進 んでいないこと が 示 唆 された( 図 1) 一 方 4 年 次 生 では 男 子 学 生 で 11%から 15%へ 女 子 学 生 では 19% から 30%へと 増 加 していた 次 いで 自 由 記 載 により 具 体 的 な 接 種 部 位 について 回 答 を 求 めた ところ 3 4 年 次 それぞれについて 回 答 者 全 員 のうち 約 10 名 が 腕 と 回 答 したにすぎなか った 更 に 期 間 回 数 については 2010 年 度 では 大 半 の 学 生 が 未 記 入 であった この 点 につい ては 調 査 時 期 が 販 売 開 始 から 半 年 未 満 であったことから ワクチンの 存 在 は 知 っていても 接 種 方 法 までは 理 解 されていなかったためと 思 われる 2012 年 では 4 年 次 生 においてはおよそ 10% の 学 生 で 接 種 回 数 や 期 間 の 記 載 が 認 められた しかしながら 2 種 のワクチンの 違 いについてま での 記 載 は 認 められなかった 図 1 3 年 次 女 子 学 生 (2012 年 度 )ワクチンの 認 知 度 及 び 接 種 部 位 の 理 解 度 について 3.ワクチンに 関 する 情 報 について ワクチンについて 知 っていると 回 答 した 学 生 に 対 し ワクチンに 関 する 情 報 を 何 で 知 ったか (1.テレビコマーシャル 2. 新 聞 3. 家 族 知 人 4.その 他 及 び 自 由 記 載 )の 問 いに 対 し ては 約 半 数 の 学 生 から 回 答 が 得 られた 女 子 学 生 では 家 族 知 人 から と 回 答 した 学 生 が およそ 20%と 最 も 多 く 次 いでテレビコマーシャルと 回 答 した( 図 2) また 男 女 ともに 新 聞 からと 回 答 した 学 生 は 極 めて 少 なかった( 図 2,3) このことについては 近 年 新 聞 を 購 読 している 学 生 が 少 ないことも 影 響 しているものと 考 えられる 一 方 その 他 のうち 自 由 記 載 には 講 義 と 回 答 した 例 が 見 られたが 3 4 年 次 生 を 通 じて 少 なく 講 義 の 中 で 項 目 と しては 取 り 上 げられていないことが 示 唆 された 4
図 2 ワクチンに 関 する 情 報 について(4 年 次 女 子 学 生 ) 図 3 ワクチンに 関 する 情 報 について(4 年 次 男 子 学 生 ) まとめ 今 回 HPVワクチンについて その 理 解 度 の 調 査 を 行 った 結 果 ワクチンの 存 在 自 体 は 広 く 知 られるようになってきているが その 知 識 は 十 分 ではないことが 明 らかとなった HPVの 感 染 は 性 感 染 でもっとも 高 いことが 明 らかになっており 予 防 には 早 い 段 階 でのワクチン 接 種 5
が 重 要 であることが 報 告 されている 9 ) 調 査 の 結 果 その 周 知 度 は 女 子 学 生 で 高 い 傾 向 にあっ たが HPV 自 身 子 宮 頸 がん 以 外 の 癌 の 原 因 になることも 知 られており 男 性 にも 感 染 する 可 能 性 がある したがって HPVワクチンは 子 宮 頸 がんのための 予 防 ワクチンというだけでな く HPVに 対 するワクチンであることを 理 解 しておく 必 要 がある 現 行 の6 年 制 コアカリキュラムでは C10 生 体 防 御 において (2) 免 疫 系 の 破 綻 免 疫 系 の 応 用 ( 一 般 目 標 : 免 疫 反 応 に 基 づく 生 体 の 異 常 を 理 解 するために 代 表 的 な 免 疫 関 連 疾 患 につ いての 基 本 的 知 識 を 修 得 する 併 せて 免 疫 反 応 の 臨 床 応 用 に 関 する 基 本 的 知 識 と 技 能 を 身 につ ける)では 小 項 目 の 一 つとして 予 防 接 種 を 履 修 することになっており その 中 では 予 防 接 種 の 原 理 とワクチン ワクチンの 種 類 と 特 徴 ( 生 ワクチン 不 活 化 ワクチン トキソイド 混 合 ワクチン)について 基 本 的 特 徴 を 説 明 できる 予 防 接 種 について,その 種 類 と 実 施 状 況 を 説 明 できることが 到 達 目 標 として 掲 げられている 今 回 の 結 果 から 科 目 担 当 者 間 の 連 携 を 密 にして いくことが 必 要 であると 考 えられた 注 先 述 したが 現 在 厚 生 労 働 省 1) はインフルエンザと 同 様 に2 類 疾 病 に 位 置 づけるべく 協 議 を 続 けている この 間 は HPVワクチン( 中 学 生 ~ 高 校 1 年 生 女 子 ) Hib(インフルエンザ 菌 b 型 )ワクチン 小 児 用 肺 炎 球 菌 ワクチン(ともに0~4 歳 )とともに 緊 急 促 進 臨 時 特 例 交 付 金 の 対 象 として 市 町 村 の 事 業 として 認 定 され また 予 防 接 種 後 健 康 被 害 救 済 制 度 の 対 象 となって いる 近 年 日 本 でも 複 数 のワクチンが 承 認 され ワクチンギャップが 解 消 されつつあり 薬 剤 師 は 法 律 や 予 防 接 種 情 報 の 入 手 先 10) も 含 め 知 識 が 求 められている 米 国 ではすでに 薬 剤 師 が 医 師 の 処 方 せんやプロトコールに 基 づき インフルエンザワクチン 接 種 に 携 わっている 州 ごとの 違 いはあるものの 複 数 のワクチンを 接 種 している 場 合 も 見 受 けら れる 当 然 ワクチンに 知 識 のみならず 疾 患 の 知 識 接 種 の 手 技 などが 求 められる わが 国 は チーム 医 療 を 推 進 すべく 本 年 4 月 に 診 療 報 酬 調 剤 報 酬 が 改 訂 せれた 病 棟 在 宅 何 れに おいても 薬 剤 師 が 薬 物 療 法 のみならず 医 療 において 求 められる 範 囲 は 広 がる 一 方 であり その 責 務 も 重 くなっている 共 同 薬 物 管 理 業 務 (CDTM;collaborate drug therapy management)の 進 む 中 フィジカルアセスメントとともに 議 論 されていくものと 思 われる 注 1) 2013 年 4 月 から 子 宮 頸 がん インフルエンザ 菌 b 型 (Hib) 小 児 用 肺 炎 球 菌 の 3 ワクチンが 定 期 予 防 接 種 法 対 象 ( 第 1 類 )とすることを 閣 僚 折 衝 ( 厚 生 労 働 省 総 務 省 財 務 省 )で 合 意 (2013 年 1 月 27 日 ) 厚 生 労 働 省 は 通 常 国 会 に 予 防 接 種 法 改 正 案 が 提 出 する 謝 辞 アンケート 調 査 の 実 施 にあたり ご 協 力 いただきました 薬 学 部 学 生 の 皆 様 に 深 謝 いたします な お 本 結 果 は 日 本 薬 学 会 第 133 年 会 (2013 年 3 月 横 浜 )において 発 表 引 用 文 献 参 考 資 料 1) WHO: New and under-utilized Vaccine-Implementation. Human papillomavirus(hpv). http://www.who.int/nuvi/hpv/en/ 2) 統 計 独 立 行 政 法 人 国 立 がん 研 究 センターがん 対 策 情 報 センターがん 情 報 サービス http://ganjoho.jp/professional/statistics/statistics.html 6
3) HPVワクチン 開 発 の 現 状 と 展 望 井 上 正 樹 医 薬 ジャーナル vol.40, 979-985 (2004). 4) がんワカウチン 山 田 亮 医 薬 ジャーナル vol.43, 2260-2263 (2007). 5) HPVワクチンによる 子 宮 頸 がん 予 防 井 上 正 樹 ウイルス vol.58, 155-164(2008). 6) ワクチンの 現 状 と 展 望 吉 川 裕 之 ウイルス vol.59, 243-248(2009). 7) ワクチン 佐 藤 弘 多 屋 馨 子 医 薬 ジャーナル vol.45, 335-127 (2009). 8) HPVワクチン 吉 川 裕 之 医 薬 ジャーナル vol.47, 783-788(2011). 9) 思 春 期 の 性 感 染 とHPVワクチン 佐 藤 武 幸 小 児 感 染 免 疫 vol.23, 63-73(2011). 10) 予 防 接 種 情 報 http://www.nih.go.jp/niid/ja/vaccine-j.html 国 立 感 染 症 研 究 所. 11) 昭 和 23 年 6 月 30 日 法 律 第 68 号 最 終 改 正 平 成 23 年 7 月 22 日 法 律 第 85 号 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/s23/s23ho068.html 12) 疾 病 区 分 の 考 え 方 資 料 厚 生 労 働 省 厚 生 科 学 審 議 会 感 染 症 分 科 会 予 防 接 種 部 会 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000026qek.html(2012 3). 13) 予 防 接 種 制 度 の 見 直 しについて 厚 生 労 働 省 厚 生 科 学 審 議 会 感 染 症 分 科 会 予 防 接 種 部 会 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002b6r0.html(2012 5) 14) 子 宮 頸 がん 等 ワクチン 接 種 緊 急 促 進 事 業 の 実 施 について の 一 部 改 正 について 健 康 発 0208 第 3 号 薬 食 発 0208 第 2 号 厚 生 労 働 省 通 知 ( 平 成 24 年 2 月 24 日 ) http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/pdf/sesshu_youryou.pdf 7