大 学 院 ビジネス 日 本 語 コースにおける 口 頭 表 現 クラスの シラバス 教 材 について 向 山 陽 子 村 野 節 子 山 辺 真 理 子 1. はじめに 企 業 のグローバル 化 に 伴 い 日 本 と 世 界 特 にアジアの 国 々を 繋 ぐブリッジ 人 材 の 育 成 が 求 められている 留 学 生 がブリッジ 人 材 となるためには ビジネス 場 面 で 使 用 される 日 本 語 表 現 だけでなく 社 会 人 基 礎 力 ( 前 に 踏 み 出 す 力 考 え 抜 く 力 チームで 働 く 力 ) 異 文 化 調 整 能 力 など 日 本 語 以 外 の 能 力 も 養 成 する 必 要 がある( 堀 井 2007, 2008) 武 蔵 野 大 学 大 学 院 のビジネス 日 本 語 コースでは 2006 年 の 開 講 以 来 これらの 能 力 を 養 成 するための 教 育 を 行 ってきた コース 科 目 中 1 年 次 の 口 頭 表 現 クラスでは 特 に 日 本 語 の 口 頭 能 力 問 題 発 見 解 決 能 力 異 文 化 調 整 能 力 の 育 成 を に 授 業 を 行 ってきた 本 稿 ではこれまでの 5 年 間 の 教 育 実 践 を 報 告 することを 通 し ビジネス 日 本 語 教 育 における 口 頭 能 力 養 成 について 考 察 する 2. 口 頭 表 現 クラスの 使 用 教 材 本 節 では 1 年 次 の 口 頭 表 現 クラスで 使 用 した 教 材 の 変 遷 について 述 べる どの 教 科 書 が 最 適 なのか 1 冊 に 定 まらなかったため 何 冊 かを 試 用 したことから 使 用 教 材 は 年 度 ごと に 異 なる 表 1 は 本 コースで 使 用 が 検 討 された 教 科 書 の 一 覧 である(これらに 関 する 本 コ ースにおける は 稿 末 資 料 参 照 ) そして 表 2 はこれまでに 使 用 した 教 材 の 一 覧 であ る 開 講 初 年 度 の 2006 年 度 は 春 入 学 だけであったが 2007 年 度 からは 秋 入 学 も 始 まった ため 表 2 にはそれぞれのクラスで 使 用 した 教 材 を 示 した 表 1 ビジネス 日 本 語 教 科 書 一 覧 教 科 書 名 出 版 年 出 版 社 1 Talking Business in Japanese 1991 ジャパンタイムズ 2 新 装 版 ビジネスのための 日 本 語 初 中 級 2006 スリーエーネットワーク 3 新 装 版 商 談 のための 日 本 語 中 級 2006 スリーエーネットワーク 4 実 践 ビジネス 日 本 語 上 級 2008 スリーエーネットワーク 5 日 本 企 業 への 就 職 ビジネス 会 話 トレーニング 2006 アスク 6 新 装 版 実 用 ビジネス 日 本 語 2006 アルク 7 ビジネス 日 本 語 テキスト1 内 定 者 編 2004 凡 人 社 8 ビジネス 日 本 語 テキスト2 新 入 社 員 編 2004 凡 人 社 1
これまでの 5 年 間 は 教 材 使 用 に 関 して 大 きく 3 つの 時 期 に 分 けられる 既 存 のテキスト だけを 使 用 した 第 1 期 タスク 先 行 型 ロールプレイによるオリジナル 教 材 を 使 用 した 第 2 期 教 科 書 とロールプレイを 併 用 した 第 3 期 である それぞれの 期 について 説 明 する 2.1 第 1 期 (2006 年 度 2007 年 度 ) 2006 年 度 は 表 1 の 教 科 書 の 中 から Talking Business in Japanese を 選 んだ 大 学 院 の 留 学 生 に 適 した 教 材 とは 言 えないものの 全 体 が 1 つのストーリーになっていて 業 務 の 流 れが 把 握 しやすいこと フローチャートにより 会 話 の 流 れが 理 解 できることからこの 教 科 書 を 採 用 した また 現 実 的 な 理 由 としてコース 開 講 時 には 1 年 あるいは 半 年 単 位 で 使 用 できる 教 科 書 がほとんどなかったという 事 情 もあった 1 年 間 使 用 した 結 果 学 習 者 として 想 定 されているのが 欧 米 系 のビジネスパーソンであること カーペットを 売 り 込 む というストーリーの 主 人 公 が 企 業 トップのアメリカ 人 であることから ビジネス 経 験 のな いアジア 人 留 学 生 には 内 容 が 特 化 しすぎているという となった 表 2 使 用 教 材 の 変 遷 教 材 ( 春 入 学 生 ) 教 材 ( 秋 入 学 生 ) 備 考 2006 年 前 期 Talking Business in Japanese 2006 年 後 期 Talking Business in Japanese 2007 年 前 期 ビジネスのための 日 本 語 初 中 級 2007 年 後 期 商 談 のための 日 本 語 中 級 ビジネスのための 日 本 語 初 中 級 2008 年 前 期 タスク 先 行 型 RP(アパレル) タスク 先 行 型 RP(アパレル) 2008 年 後 期 日 本 企 業 への 就 職 ビジネス 実 践 ビジネス 日 本 語 上 級 会 話 トレーニング タスク 先 行 型 RP(IT) タスク 先 行 型 RP(IT) 2009 年 前 期 実 践 ビジネス 日 本 語 上 級 実 践 ビジネス 日 本 語 上 級 タスク 先 行 型 RP(IT) タスク 先 行 型 RP(IT) 2009 年 後 期 実 践 ビジネス 日 本 語 上 級 実 践 ビジネス 日 本 語 上 級 タスク 先 行 型 RP( 観 光 貿 易 ) タスク 先 行 型 RP(IT) 2010 年 前 期 実 践 ビジネス 日 本 語 上 級 実 践 ビジネス 日 本 語 上 級 タスク 先 行 型 RP(IT) タスク 先 行 型 RP( 観 光 貿 易 ) 2010 年 後 期 実 践 ビジネス 日 本 語 上 級 実 践 ビジネス 日 本 語 上 級 タスク 先 行 型 RP( 観 光 貿 易 ) タスク 先 行 型 RP(IT) 教 科 書 のみ 使 用 教 科 書 のみ 使 用 教 科 書 のみ 使 用 教 科 書 のみ 使 用 RP のみ 使 用 TA(ビジネス 経 験 者 ) RP のみ 使 用 シニアサポーター 導 入 教 科 書 と RP を 併 用 教 科 書 と RP を 併 用 教 科 書 と RP を 併 用 教 科 書 と RP を 併 用 *RP:ロールプレイ *アパレル IT 観 光 貿 易 はロールプレイの 舞 台 とした 業 界 2
2007 年 度 は 前 期 に 新 装 版 ビジネスのための 日 本 語 初 中 級 後 期 に 新 装 版 商 談 のた めの 日 本 語 中 級 を 使 用 した この 教 科 書 も 留 学 生 向 きのものではないが 他 に 多 くの 選 択 肢 がない 中 練 習 にロールプレイが 含 まれていること 及 び CD が 付 属 していること を して 採 用 した しかし 初 版 が 1996 年 出 版 であることから 内 容 がやや 古 いと 感 じ られた また 1 年 で 2 冊 の 教 科 書 を 購 入 することは 学 生 にとって 経 済 的 負 担 が 大 きかっ た(2 冊 で 5,600 円 ) 上 述 のようにビジネス 日 本 語 コースの 口 頭 表 現 クラスではビジネス 場 面 で 通 用 する 日 本 語 能 力 問 題 発 見 解 決 能 力 異 文 化 調 整 能 力 の 養 成 を としていた しかし 既 存 の 教 科 書 によって 学 生 にビジネス 表 現 は 身 に 付 けさせることはできたが 問 題 発 見 解 決 能 力 や 異 文 化 調 整 能 力 を 育 てることは 困 難 であった 他 の 科 目 で 問 題 発 見 解 決 能 力 異 文 化 調 整 能 力 を 養 成 する 授 業 を 展 開 してはいたが 口 頭 表 現 クラスにおいても を 達 成 するため の 改 善 が 必 要 となった 2.2 第 2 期 (2008 年 前 期 ) 上 記 のような 問 題 点 を 踏 まえ 2008 年 度 はタスク 先 行 型 のロールプレイ( 山 内 2004) を 中 心 とした 教 材 を 作 成 して 授 業 で 使 用 した タスク 先 行 型 ロールプレイにおいては 設 定 された 場 面 でどのような 発 話 行 動 をすべきかを 自 分 で 考 える 必 要 があるため 問 題 発 見 解 決 能 力 が 養 成 できると 考 えた そして このような を 持 つロールプレイにさらに 異 文 化 理 解 の 視 点 を 組 み 込 んだ 学 生 はロールカードとして 提 示 された 状 況 の 何 が 問 題 とな るのか その 問 題 を 解 決 するためにはどうすればいいのか といったことを 考 えたり 話 し 合 ったりする そして それを 元 に 会 話 を 組 み 立 てる さらに そこで 出 てきた 様 々なパ ターンの 会 話 について 話 し 合 う このような 活 動 のサイクルを 通 して 問 題 発 見 解 決 能 力 や 異 文 化 調 整 能 力 を 養 成 することを 目 指 した( 向 山 村 野 山 辺 2008) なお 試 みとして ビジネス 経 験 のあるティーチング アシスタントに 何 回 か 授 業 に 参 加 してもらった 教 材 使 用 後 にこの 教 材 に 対 する 学 生 の を 調 査 した( 向 山 村 野 山 辺 2009) は 全 般 的 に 肯 定 的 であったが ロールプレイをすることの 難 しさに 触 れたコメントもあっ た つまり 学 生 にとって 教 材 のコンセプトは 理 解 できるものであったが 実 際 にロール プレイをすることはそれほど 簡 単 ではなかったと 言 える アパレル 業 界 を 舞 台 にしたこの 教 材 は 異 文 化 に 焦 点 を 当 て 過 ぎていた また アパレル という 業 界 は 特 殊 すぎた そして 仕 事 の 流 れを 意 識 せずに 教 材 を 作 ったために 全 く 企 業 のことを 知 らない 学 生 には 理 解 するのが 難 しかった 半 期 の 授 業 を 経 て このような 問 題 点 が 浮 き 彫 りになった これらの 問 題 は 主 に 教 材 作 成 にあたって 学 生 の 能 力 を 実 際 より かなり 上 に 想 定 していたことに 起 因 するものであり 基 本 的 表 現 の 学 習 段 階 を 追 ったタ スクによる 会 話 練 習 などが 必 要 であることが 明 らかになった 3
2.3 第 3 期 (2008 年 度 後 期 ~2010 年 度 後 期 ) タスク 先 行 型 ロールプレイ 教 材 だけでは 限 界 があることが 明 らかになったため 2008 年 度 後 期 からは 再 び 既 存 の 教 科 書 を 使 用 することにした しかし 第 1 期 において 教 科 書 だけではコースが 目 指 す 能 力 を 育 成 できないことが 明 らかになっていたため 教 科 書 とタ スク 先 行 型 ロールプレイを 併 用 することに 決 めた 教 科 書 はその 年 に 出 版 された 実 践 ビジネス 日 本 語 上 級 を 使 用 することにした この 教 科 書 は 段 階 を 追 った 会 話 練 習 が 組 み 込 まれていること 日 本 語 学 習 者 が 混 乱 しやすい 表 現 文 法 をビジネス 場 面 に 特 化 し 列 挙 してあることから 学 生 の 口 頭 能 力 養 成 に 対 して 他 の 教 科 書 より 有 効 性 が 高 いだろうと したからである しかし 会 話 練 習 は 基 本 的 には 代 入 練 習 である そのため この 教 科 書 を 2 年 半 使 用 した 結 果 ビジネス 場 面 での 日 本 語 表 現 の 習 得 には 適 しているが 学 習 者 の 運 用 能 力 の 向 上 のためにはより 自 由 度 の 高 い 応 用 練 習 も 必 要 だという 結 論 になった 一 方 タスク 先 行 型 ロールプレイは 2008 年 前 期 にアパレル 業 界 を 舞 台 に 作 成 したもの を 改 良 し IT 観 光 貿 易 の 3 業 種 でそれぞれ 3~5 のロールプレイを 作 成 した そして 1 年 前 期 に 1 つ(IT) 後 期 に 2 つ( 観 光 貿 易 )を 使 用 した このロールプレイ 教 材 を 使 用 する 際 には 武 蔵 野 大 学 の 生 涯 学 習 講 座 大 学 における 留 学 生 をサポートするためのボ ランティア 講 座 文 化 庁 委 託 事 業 仕 事 をする 外 国 人 をサポートするためのボランティア 講 座 を 受 講 したビジネス 経 験 者 のボランティア(シニアサポーター)に 授 業 参 加 しても らった このシニアサポーター 制 度 は 2008 年 前 期 のビジネス 経 験 者 の 授 業 参 加 に 一 定 の 効 果 があると 考 えられたため 授 業 に 参 加 するビジネス 経 験 者 を 確 保 するために 始 めたも のである なお シニアサポーターの 授 業 参 加 は 学 生 シニアサポーター 双 方 に 意 義 のあ る 活 動 であることが 示 されている( 山 辺 村 野 向 山 2009) 3. シラバス 教 材 の 提 案 - 新 たな 展 開 に 向 けて 以 上 のように 2008 年 後 期 からの 2 年 半 は ビジネス 表 現 学 習 のために 既 存 の 教 科 書 を 使 用 し 問 題 発 見 解 決 能 力 異 文 化 調 整 能 力 養 成 のためにタスク 先 行 型 ロールプレイ 教 材 を 使 用 するといった 形 で 授 業 を 展 開 してきた つまり 2 種 類 の 教 材 を 目 的 に 応 じて 使 い 分 けてきた このような 授 業 形 態 により 全 体 としては 学 生 の 口 頭 表 現 教 育 において 一 定 の 成 果 を 上 げてきた しかし 一 貫 したストーリーのない 既 存 の 教 科 書 と 場 面 ごとのタス ク 先 行 型 ロールプレイの 併 用 では ビジネス 経 験 のない 留 学 生 にビジネスの 流 れを 理 解 さ せるのは 難 しい そこで ストーリー 性 を 持 たせたモデル 会 話 集 と 重 要 表 現 の 練 習 を 組 み 込 んだ 教 材 を 試 作 した 第 1 部 はプラスティック 製 品 を 扱 う 商 社 に 就 職 した 留 学 生 を 主 人 公 にして 基 本 的 な 仕 事 の 流 れ 仕 事 の 進 め 方 が 分 かるような 場 面 を 設 定 した 会 話 集 で そこに 会 話 のフ 4
ローチャートと 表 現 練 習 を 付 けた 第 2 部 では 第 1 部 で 示 したモデル 会 話 から 離 れて 自 分 で 考 えて 状 況 に 適 した 会 話 が 展 開 できるようにロールプレイカード( 基 本 と 応 用 )だけ を 示 した 2010 年 度 後 期 に 試 作 版 の 一 部 を 用 いて 2 クラスで 授 業 を 行 い 学 期 終 了 時 にアンケー トを 実 施 した その 結 果 ロールプレイという 授 業 形 態 については 1 会 話 を 覚 えるだけ の 授 業 より 楽 しい 2 会 話 能 力 の 向 上 につながる 3 考 える 力 が 付 く などと 捉 えられて いることが 示 された また 教 材 に 対 する 20 の 項 目 すべてに 関 して 肯 定 的 が 得 られた 特 に1ビジネス 表 現 が 学 べる 2 将 来 ビジネスに 携 わった 時 に 役 に 立 つ 3ビジ ネス 経 験 がない 学 生 にも 使 いやすい などの 項 目 が 高 い であった これらの 結 果 から 今 回 の 試 作 版 ビジネス 日 本 語 教 材 は ビジネス 経 験 のない 留 学 生 をブリッジ 人 材 として 育 成 するために 役 立 つ 可 能 性 があることが 示 唆 された( 村 野 向 山 山 辺 2011) 今 回 の 試 作 版 は 従 来 使 用 してきた 既 存 の 教 科 書 に 代 わるものという 位 置 付 けであった 今 後 この 試 作 版 を 教 材 として 完 成 させるためには 1 部 2 部 と 2008 年 から 改 良 を 重 ね てきた 異 文 化 理 解 を 狙 ったタスク 先 行 型 ロールプレイを 統 合 することが 必 要 であろう そ のような 教 材 を 用 いることで ビジネス 場 面 での 日 本 語 口 頭 能 力 問 題 発 見 解 決 能 力 異 文 化 調 整 能 力 すべてを 養 成 することが 可 能 になると 考 えられる したがって 更 なる 教 材 の 改 良 を 目 指 すと 同 時 に 実 践 と 研 究 を 並 行 して 進 めていくことが 今 後 の 課 題 となろう 参 考 文 献 堀 井 惠 子 (2007) 留 学 生 の 就 職 支 援 のためのビジネス 日 本 語 教 育 に 求 められるものは 何 か 第 6 回 OPI 国 際 シンポジウム:プロフィシェンシーと 第 2 言 語 教 育 121-126. 堀 井 惠 子 (2008) 留 学 生 の 就 職 支 援 のためのビジネス 日 本 語 教 育 に 求 められるものは 何 か 武 蔵 野 大 学 文 学 部 紀 要 132-140. 向 山 陽 子 村 野 節 子 山 辺 真 理 子 (2008) 留 学 生 に 対 するビジネス 日 本 語 教 育 ブリッ ジ 人 材 育 成 の 視 点 を 取 り 入 れたロールプレイ 教 材 の 開 発 と 実 践 WEB 版 日 本 語 教 育 実 践 研 究 フォーラム 報 告 向 山 陽 子 村 野 節 子 山 辺 真 理 子 (2009) ビジネス 日 本 語 教 育 におけるタスク 先 行 型 ロ ールプレイ 教 材 に 対 する 学 習 者 の 言 語 文 化 と 日 本 語 教 育 37, 63-66. 村 野 節 子 向 山 陽 子 山 辺 真 理 子 (2011 発 表 予 定 ) 留 学 生 のためのロールプレイで 学 ぶ ビジネス 日 本 語 教 材 の 開 発 2011( 平 成 23) 年 度 実 践 研 究 フォーラム 山 内 博 之 (2004) ロールプレイで 学 ぶ 中 級 から 上 級 への 日 本 語 会 話 アルク 山 辺 真 理 子 村 野 節 子 向 山 陽 子 (2009) ビジネス 日 本 語 教 育 へのシニアサポーター 導 入 の 試 み 2009( 平 成 21) 年 度 日 本 語 教 育 学 会 春 季 大 会 予 稿 集 145-150. 5
稿 末 資 料 教 科 書 分 析 武 蔵 野 大 学 大 学 院 ビジネス 日 本 語 コースにおける 1 1. Talking Business in Japanese 対 象 主 に 英 語 圏 ビジネスパーソン 上 級 学 習 者 全 20 課 アメリカ 人 ビジネスマンが 日 本 に 着 任 し 客 先 を 紹 介 してもらいカーペットを 販 売 するストーリー 1. 名 刺 を 作 る 2. 日 本 着 任 の 挨 拶 3. 新 しい 客 先 の 紹 介 を 受 ける 4. 新 しい 客 先 の 紹 介 を 受 ける( 面 識 あり) 5. アポイントメント 6. 客 先 訪 問 7. 自 社 紹 介 取 引 打 診 8. 商 品 プレゼン 9. カタログ 作 成 打 ち 合 わせ 10. 問 い 合 わ せ 催 促 11. 問 い 合 わせ 催 促 ( 相 手 が 好 意 的 でない 場 合 ) 12. 先 方 の 担 当 者 にアドバイス 要 求 13. 価 格 交 渉 14. 契 約 条 件 社 内 打 ち 合 わせ 15. 交 渉 成 立 16. 社 内 で 飲 みに 行 く 17. 社 内 で 商 品 納 入 打 ち 合 わせ 18. クレーム 処 理 19. クレーム 処 理 を 社 内 報 告 20. 交 渉 成 立 のお 礼 効 率 的 にビジネス 業 務 を 遂 行 できる 1. 目 的 2. 留 意 事 項 (ビジネスマナーなど) 3.フローチャート 4. 会 話 5. 重 要 表 現 語 彙 表 現 個 々の 語 句 表 現 に 重 点 を 置 かず 場 面 でのやり 取 りに 主 眼 を 置 いている 日 常 的 な 業 務 場 面 を 想 定 し 標 準 的 なやり 取 りの 流 れを 示 している どの 課 からも 学 習 可 能 である 日 本 語 教 師 と 日 本 人 ビジネスマン 教 師 が 連 携 した 授 業 展 開 を 前 提 としている 全 体 が 1 つのストーリーになっているので 業 務 の 流 れが 把 握 しやすい フロートチャートで 会 話 の 流 れが 理 解 できる それぞれの 発 話 で 何 を 言 うべきかが 指 示 されているので 他 の 場 面 で 応 用 がきく どちらかというとプライベートレッスン 向 けである ビジネスマン 教 師 が 大 きな 役 割 を 果 たしているが 確 保 が 難 しいのではないか 欧 米 系 の 日 本 企 業 でトップのビジネスマン 向 けである ビジネス 経 験 のない 学 生 には 内 容 が 特 化 しすぎている 1 ここに 記 述 した 内 容 は 対 象 とした 教 材 に 対 する 一 般 的 な ではない あくまでも 本 学 大 学 院 ビジ ネス 日 本 語 コースで 使 用 することを 考 えた 場 合 の である 6
2.ビジネスのための 日 本 語 初 中 級 対 象 初 級 レベル 終 了 したビジネスパーソン( 英 語 の 訳 が 付 いているので 英 語 話 者 を 想 定 していると 思 われる) 企 業 研 修 生 または 日 本 企 業 に 就 職 を 希 望 する 大 学 生 全 8 課 場 面 シラバスと 機 能 シラバスの 折 衷 1. 紹 介 2. あいさつ 3. 許 可 4. 依 頼 5. 誘 い 6. 電 話 7. アポイント 8. 提 案 申 し 出 ビジネスの 現 場 で 役 立 つ 会 話 表 現 の 習 得 STAGE 1 表 現 練 習 ( 代 入 練 習 + 状 況 のみ 提 示 ) 短 いロールプレイ STAGE 2 表 現 の 定 着 発 話 内 容 についての 指 示 があるロールプレイ STAGE 3 ロールカードによるロールプレイ STAGE 4 学 習 した 表 現 がどのように 使 用 されるか 実 際 の 場 面 を 観 察 する 読 み 物 Vocabulary 欧 米 系 ( 英 語 話 者 ) 学 習 者 を 対 象 としている 機 能 別 どの 課 からも 始 めることが 可 能 である 各 課 とも 社 内 と 社 外 に 分 かれている クラス 授 業 プライベートレッスンに 対 応 できる 独 学 も 可 能 である 社 外 社 内 で 会 話 が 独 立 しているので 表 現 の 違 いが 意 識 化 できる STAGE 4 で 観 察 させる(ビジネスパーソンの 場 合 ) 現 実 への 橋 渡 しになる STAGE 4 に 日 本 のビジネスマナーや 慣 行 などのコラムがあり 基 本 的 知 識 が 得 られる STAGE 3 では RP カードの 形 で 状 況 のみを 提 示 しているため 学 習 者 が 全 体 の 流 れを 考 えながら 会 話 を 作 れる 学 習 した 表 現 を 確 認 しながら かつ 会 話 の 流 れを 把 握 するのに 有 効 である STAGE 1 STAGE 2 では 与 えられた 語 彙 や 状 況 をそのまま 言 うだけでよい 練 習 が 多 い 初 級 でも 考 えさせる 部 分 が 必 要 ではないか 表 現 を 覚 えることに 重 点 が 置 かれている 語 彙 やロールカードには 英 訳 がついているのに 対 し コラムは 日 本 語 のみであ る 独 学 可 能 とうたっているのでやや 不 親 切 である 7
3. 新 装 版 商 談 のための 日 本 語 中 級 対 象 欧 米 系 を 中 心 とした 英 語 が 話 せる 外 国 人 ビジネスパーソン 全 8 課 易 難 機 能 シラバス 1. 説 明 2. 意 見 3. 賛 成 4. 反 対 5. 結 論 6. 説 得 7. クレーム( 謝 罪 説 明 ) 8. プレゼンテーション( 説 得 ) 商 談 ができるようになる STAGE 1 4( 易 難 ) 社 内 / 社 外 STAGE 1 機 能 表 現 定 着 のための 代 入 練 習 ロールプレイ STAGE 2 聴 解 練 習 (Q & A 機 能 表 現 の 書 き 取 り) 応 用 運 用 力 育 成 のための ロールプレイ STAGE 3 複 雑 なロールプレイ STAGE 4 ビジネスシミュレーション 実 際 の 状 況 を 考 えさせる 発 表 商 習 慣 などのコラム 各 課 のポイント 社 外 / 社 内 の 扱 い 商 習 慣 ビジネスマナーなどがコラムとして 記 載 されている 表 現 練 習 まとまりのある 会 話 考 えさせるロールプレイと 段 階 を 追 っている ので 学 習 者 に 負 担 が 少 ない STAGE 3 の 状 況 説 明 だけでロールプレイをさせる 方 法 は 学 習 者 の 考 える 能 力 を 育 成 する 7 課 のクレーム 8 課 のプレゼンテーション 以 外 は 機 能 別 になっているため い ろいろな 業 種 が 各 課 で 扱 われている そのため ビジネス 業 務 全 体 の 流 れはつ かめない 8
4. 実 践 ビジネス 日 本 語 上 級 対 象 日 本 語 でビジネス 活 動 を 行 っている 上 級 レベルの 学 習 者 全 11 課 易 難 場 面 シラバス 1. アポイントメント 2. 業 務 引 き 継 ぎ 3. 面 会 して 交 渉 する 4, 5. クレーム を 受 ける 6,7. トラブル 処 理 8. 謝 絶 9. インタビュー 取 材 10. 議 論 11. プレゼンテーション さまざまなビジネス 場 面 で 実 践 的 な 会 話 展 開 ができる 力 を 養 成 1. ロールプレイにチャレンジ ロールプレイの 流 れを 提 示 2. 全 体 の 会 話 を 数 個 のパートに 分 け 指 示 された 語 彙 状 況 から 会 話 を 作 る (= 戦 略 会 話 ) 代 入 練 習 のための 選 択 肢 がある < 練 習 >ビジネス 会 話 で 注 意 が 必 要 な 表 現 文 法 練 習 がある < 応 用 練 習 > 学 習 者 に 同 じ 状 況 で 会 話 を 作 らせる 3. 戦 略 会 話 を 通 して 話 す (モデル 会 話 の 記 載 がある) 4. 実 践 会 話 各 課 で 提 示 されている 会 話 と 同 じ 流 れで 異 なる 場 面 のロールプレ イを 行 う 練 習 をする 5. 実 践 会 話 のロールプレイの 結 果 を 10 項 目 で する 教 科 書 の 最 後 に 機 能 表 現 集 がある どの 課 からでも 始 めることが 可 能 である コミュニケーション 力 (あいづち 前 置 き 反 対 や 謝 絶 の 状 況 での 抑 揚 やスピ ード 婉 曲 表 現 など)を 養 成 するために さまざまな 場 面 でビジネスに 共 通 す る 表 現 について 徹 底 した 口 頭 練 習 とロールプレイを 行 う このプロセスを 通 し て 適 切 な 説 明 力 を 身 に 付 け 相 手 を 動 かす 会 話 力 を 育 成 する ビジネスの 日 本 語 ( 初 級 ) 商 談 ( 中 級 )から 続 く 上 級 編 として 位 置 付 けられ る 教 科 書 である どこから 始 めることも 可 能 である ビジネスパーソンにとっては 状 況 に 応 じて 会 話 ( 表 現 )を 学 べる < 練 習 >は 日 本 語 学 習 者 が 混 乱 しやすい 表 現 文 法 をビジネス 場 面 に 特 化 し 列 挙 してあり 有 効 性 が 高 い 各 課 に 連 携 がないため ビジネス 業 務 の 流 れがつかめない ある 程 度 のビジネス 業 務 に 関 する 専 門 知 識 がないと 理 解 できない ( 後 半 部 分 ) ビジネス 経 験 のない 学 生 向 けではない 戦 略 会 話 での 代 入 練 習 では ただ 単 に 表 現 を 入 れればよい 練 習 になってし 9
まう 徹 底 的 な 口 頭 練 習 をするという からは 外 れていないが こうした 徹 底 した 口 頭 練 習 で 果 たして 運 用 能 力 が 育 成 されるかは 疑 問 である 応 用 練 習 の 実 践 会 話 のための 状 況 説 明 が 発 話 ごとに 丁 寧 に 提 示 されているため に 学 習 者 は 会 話 全 体 が 見 えにくい < 応 用 練 習 >で 学 習 者 の 状 況 に 合 わせた 会 話 を 作 らせることで 運 用 能 力 を 高 め ようとしていると 思 われるが その 比 重 が 低 すぎる 基 本 的 には 徹 底 的 な 代 入 練 習 が 多 い 実 践 会 話 ( 応 用 練 習 )も 各 発 話 で 言 うべき 内 容 の 詳 細 な 説 明 を 読 んで 会 話 を 続 けていく 練 習 である これで 運 用 能 力 が 上 がるかは 若 干 疑 問 である 5. 日 本 企 業 への 就 職 対 象 中 国 人 学 生 全 8 課 1. 自 己 紹 介 2. 電 話 3. アポイント 4. 依 頼 ( 断 り) 5. 許 可 求 め/ 承 諾 6. お 礼 /お 詫 び 7. 意 見 8. 誘 い 受 ける/ 断 る 日 本 企 業 で 働 くときに 必 要 とされる 基 本 の 文 型 や 表 現 を 身 に 付 け 簡 単 な 表 現 で 自 分 の 伝 えたいことを 誤 解 なく 相 手 に 伝 え 仕 事 がスムーズに 進 められる この 課 で 練 習 する 文 型 表 現 機 能 別 に 提 出 聞 いてみよう( 穴 埋 め) 文 型 表 現 確 認 聴 解 どう 言 いますか どこがヘン? 誤 用 の 提 示 言 ってみようⅠ 言 ってみようⅡ 代 入 練 習 社 外 / 社 内 状 況 説 明 から 会 話 を 作 る 状 況 説 明 を 読 み 会 話 を 完 成 させる ロールプレイ 状 況 説 明 でロールプレイをする チャレンジ(リスニング) 新 しいことば 中 国 人 向 け 中 国 語 訳 付 RP は 今 まで 練 習 した 表 現 をどう 使 って 会 話 をするかを 学 習 者 に 考 えさせる ( ビジネスのための 日 本 語 商 談 のための 日 本 語 と 同 じ 形 式 である ) フローチャートは 表 現 が 多 すぎる 会 話 を 書 く 作 業 では 使 えるが 話 す 作 業 では 役 に 立 たない むしろ 状 況 設 定 を 具 体 的 にしたフローチャートの 方 が 有 効 だ と 思 われる 10
6. 実 用 ビジネス 日 本 語 対 象 英 語 圏 学 習 者 初 級 を 終 了 した 学 習 者 全 10 章 1. 挨 拶 2. 電 話 3. 依 頼 4. 注 文 5. 誘 い 6. 許 可 7. アドバイス 8. 情 報 伝 達 9. 意 見 陳 述 10. 意 見 交 換 社 内 で 使 う 日 本 語 ビジネス 用 語 をマスターする 基 本 会 話 戦 略 表 現 実 用 会 話 学 習 項 目 の 理 解 すぐに 使 える 表 現 の 習 得 現 場 でのやり 取 り 会 話 の 形 で 教 材 化 されている 正 確 に 迅 速 に 学 習 することが 可 能 である どの 課 からでも 始 めることが 可 能 である 電 話 会 話 (2 章 )にフローチャートが 付 いている Coffee Break で 日 本 社 会 の 常 識 マナーについて 説 明 されている 系 統 的 な 道 筋 に 添 って 実 際 に 使 われる 表 現 を 記 載 している 生 き 生 きとした 日 本 語 の 学 習 が 可 能 である 英 訳 が 付 いている 表 現 のバリエーションは 増 える 戦 略 表 現 が 細 分 化 されすぎている 聴 解 で 十 分 であろう 実 際 にどの 表 現 をどの 状 況 で 使 えばいいのか 混 乱 する 恐 れがある 違 いの 説 明 が 男 女 の 区 別 だけで 基 本 会 話 の 代 入 練 習 に 使 おうとすると 不 適 切 なものが 出 てくる 状 況 説 明 がないと 不 適 切 に 使 う 危 険 性 が 大 きい 実 用 会 話 から 発 展 した 練 習 がないため 丸 暗 記 で 終 わってしまう 初 級 を 終 わった 学 習 者 には 難 しい 表 現 が 多 すぎる 11
7 8. ビジネス 日 本 語 1 内 定 者 編 2 新 入 社 員 編 (DVD 教 材 対 応 テキスト) 対 象 中 級 上 級 以 上 ( 能 力 試 験 2 級 以 上 程 度 ) テキスト 1 内 定 者 編 1. ビジネスマナーの 基 本 2. 敬 語 Ⅰ 敬 語 の 基 本 3. 敬 語 Ⅱ 敬 語 の 使 い 方 4. ビジネス 文 書 Ⅰ ビジネス 文 書 の 書 き 方 5. ビジネス 文 書 Ⅱ 様 々なビジネス 文 書 (4 5 でテキストの 1/2 を 占 める) テキスト 2 新 入 社 員 編 6. 電 話 を 受 けるⅠ 7. 電 話 を 受 けるⅡ 8. 電 話 をかける 9. 訪 問 のマナー 10. 応 接 のマナー ビジネス 日 本 語 ビジネスマナーを 定 着 させる ( 映 像 を 使 用 ) 映 像 で 場 面 と 会 話 を 把 握 する(よい 例 / 悪 い 例 ) アドバイザーの 解 説 (テキスト) チェックポイント 会 話 注 意 点 /コラム 映 像 教 材 映 像 で 学 ぶビジネス 日 本 語 の 副 教 材 会 社 設 定 登 場 人 物 が 一 貫 して 仕 事 の 流 れがつかみやすい 状 況 説 明 と 写 真 で 会 話 が 作 れる マナーが 学 べる (ここに 重 点 が 置 かれている ) 視 覚 的 配 慮 がなされている ( 写 真 の 提 示 が 多 く 理 解 しやすい ) ビジネス 場 面 での 待 遇 表 現 漢 字 読 みなどを 詳 しく 説 明 している 映 像 を 見 た 後 の 押 さえとしては 有 効 である 会 話 の 練 習 より 表 現 を 押 さえる( 書 かせる) 部 分 が 多 い 映 像 教 材 がないと 使 いにくい あくまでも 副 教 材 の 位 置 付 けであり ビジネス 会 話 のテキストとしては 不 十 分 である 12