〔論 文〕

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第316回取締役会議案


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預 金 を 確 保 しつつ 資 金 調 達 手 段 も 確 保 する 収 益 性 を 示 す 指 標 として 営 業 利 益 率 を 採 用 し 営 業 利 益 率 の 目 安 となる 数 値 を 公 表 する 株 主 の 皆 様 への 還 元 については 持 続 的 な 成 長 による 配 当 可

・モニター広告運営事業仕様書


私立大学等研究設備整備費等補助金(私立大学等

は 固 定 流 動 及 び 繰 延 に 区 分 することとし 減 価 償 却 を 行 うべき 固 定 の 取 得 又 は 改 良 に 充 てるための 補 助 金 等 の 交 付 を 受 けた 場 合 にお いては その 交 付 を 受 けた 金 額 に 相 当 する 額 を 長 期 前 受 金 とし

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第1章 財務諸表

の と す る (1) 防 犯 カ メ ラ を 購 入 し 設 置 ( 新 設 又 は 増 設 に 限 る ) す る こ と (2) 設 置 す る 防 犯 カ メ ラ は 新 設 又 は 既 設 の 録 画 機 と 接 続 す る こ と た だ し 録 画 機 能 付 防 犯 カ メ ラ は

入 札 参 加 者 は 入 札 の 執 行 完 了 に 至 るまではいつでも 入 札 を 辞 退 することができ これを 理 由 として 以 降 の 指 名 等 において 不 利 益 な 取 扱 いを 受 けることはない 12 入 札 保 証 金 免 除 13 契 約 保 証 金 免 除 14 入

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PowerPoint プレゼンテーション

小 売 電 気 の 登 録 数 の 推 移 昨 年 8 月 の 前 登 録 申 請 の 受 付 開 始 以 降 小 売 電 気 の 登 録 申 請 は 着 実 に 増 加 しており これまでに310 件 を 登 録 (6 月 30 日 時 点 ) 本 年 4 月 の 全 面 自 由 化 以 降 申

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注 記 事 項 (1) 当 四 半 期 連 結 累 計 期 間 における 重 要 な 子 会 社 の 異 動 : 無 (2) 四 半 期 連 結 財 務 諸 表 の 作 成 に 特 有 の 会 計 処 理 の 適 用 : 有 ( 注 ) 詳 細 は 添 付 資 料 4ページ 2.サマリー 情 報 (

4 承 認 コミュニティ 組 織 は 市 長 若 しくはその 委 任 を 受 けた 者 又 は 監 査 委 員 の 監 査 に 応 じなければ ならない ( 状 況 報 告 ) 第 7 条 承 認 コミュニティ 組 織 は 市 長 が 必 要 と 認 めるときは 交 付 金 事 業 の 遂 行 の

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リング 不 能 な 将 来 減 算 一 時 差 異 に 係 る 繰 延 税 金 資 産 について 回 収 可 能 性 がないも のとする 原 則 的 な 取 扱 いに 対 して スケジューリング 不 能 な 将 来 減 算 一 時 差 異 を 回 収 できることを 反 証 できる 場 合 に 原 則

科 売 上 原 価 売 上 総 利 益 損 益 計 算 書 ( 自 平 成 26 年 4 月 1 日 至 平 成 27 年 3 月 31 日 ) 目 売 上 高 販 売 費 及 び 一 般 管 理 費 営 業 利 益 営 業 外 収 益 受 取 保 険 金 受 取 支 援 金 補 助 金 収 入 保

質 問 票 ( 様 式 3) 質 問 番 号 62-1 質 問 内 容 鑑 定 評 価 依 頼 先 は 千 葉 県 などは 入 札 制 度 にしているが 神 奈 川 県 は 入 札 なのか?または 随 契 なのか?その 理 由 は? 地 価 調 査 業 務 は 単 にそれぞれの 地 点 の 鑑 定

損 益 計 算 書 自. 平 成 26 年 4 月 1 日 至. 平 成 27 年 3 月 31 日 科 目 内 訳 金 額 千 円 千 円 営 業 収 益 6,167,402 委 託 者 報 酬 4,328,295 運 用 受 託 報 酬 1,839,106 営 業 費 用 3,911,389 一

平成25年度 独立行政法人日本学生支援機構の役職員の報酬・給与等について

4 参 加 資 格 要 件 本 提 案 への 参 加 予 定 者 は 以 下 の 条 件 を 全 て 満 たすこと 1 地 方 自 治 法 施 行 令 ( 昭 和 22 年 政 令 第 16 号 ) 第 167 条 の4 第 1 項 各 号 の 規 定 に 該 当 しない 者 であること 2 会 社

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 27 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 2,142 ( 地 域 手 当 ) 17,205 11,580 3,311 4 月 1

損 益 計 算 書 ( 平 成 25 年 10 月 1 日 から 平 成 26 年 9 月 30 日 まで) ( 単 位 : 千 円 ) 科 目 金 額 営 業 収 益 304,971 営 業 費 用 566,243 営 業 総 損 失 261,271 営 業 外 収 益 受 取 利 息 3,545

その 他 事 業 推 進 体 制 平 成 20 年 3 月 26 日 に 石 垣 島 国 営 土 地 改 良 事 業 推 進 協 議 会 を 設 立 し 事 業 を 推 進 ( 構 成 : 石 垣 市 石 垣 市 議 会 石 垣 島 土 地 改 良 区 石 垣 市 農 業 委 員 会 沖 縄 県 農

●電力自由化推進法案

検 討 検 討 の 進 め 方 検 討 状 況 簡 易 収 支 の 世 帯 からサンプリング 世 帯 名 作 成 事 務 の 廃 止 4 5 必 要 な 世 帯 数 の 確 保 が 可 能 か 簡 易 収 支 を 実 施 している 民 間 事 業 者 との 連 絡 等 に 伴 う 事 務 の 複 雑

定款  変更

円 定 期 の 優 遇 金 利 期 間 中 に 中 途 解 約 す る と 優 遇 金 利 は 適 用 さ れ ず お 預 け 入 れ 日 か ら 解 約 日 ま で の 所 定 の 期 限 前 解 約 利 率 が 適 用 さ れ ま す 投 資 信 託 ( 金 融 商 品 仲 介 で 取 り 扱

連結計算書

答申第585号

続 に 基 づく 一 般 競 争 ( 指 名 競 争 ) 参 加 資 格 の 再 認 定 を 受 けていること ) c) 会 社 更 生 法 に 基 づき 更 生 手 続 開 始 の 申 立 てがなされている 者 又 は 民 事 再 生 法 に 基 づき 再 生 手 続 開 始 の 申 立 てがなさ

損 益 計 算 書 ( 自 平 成 25 年 4 月 1 日 至 平 成 26 年 3 月 31 日 ) ( 単 位 : 百 万 円 ) 科 目 金 額 営 業 収 益 75,917 取 引 参 加 料 金 39,032 上 場 関 係 収 入 11,772 情 報 関 係 収 入 13,352 そ

(別紙3)保険会社向けの総合的な監督指針の一部を改正する(案)

0605調査用紙(公民)

平 成 27 年 11 月 ~ 平 成 28 年 4 月 に 公 開 の 対 象 となった 専 門 協 議 等 における 各 専 門 委 員 等 の 寄 附 金 契 約 金 等 の 受 取 状 況 審 査 ( 別 紙 ) 専 門 協 議 等 の 件 数 専 門 委 員 数 500 万 円 超 の 受

は し が き

(1) 貸 借 対 照 表 ( 平 成 26 年 11 月 30 日 現 在 ) ( 単 位 : 千 円 ) 資 産 の 部 負 債 の 部 科 目 金 額 科 目 金 額 流 動 資 産 4,623,985 流 動 負 債 3,859,994 現 金 及 び 預 金 31,763 支 払 手 形

18 国立高等専門学校機構

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中根・金田台地区 平成23年度補償説明業務

養 老 保 険 の 減 額 払 済 保 険 への 変 更 1. 設 例 会 社 が 役 員 を 被 保 険 者 とし 死 亡 保 険 金 及 び 満 期 保 険 金 のいずれも 会 社 を 受 取 人 とする 養 老 保 険 に 加 入 してい る 場 合 を 解 説 します 資 金 繰 りの 都

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(5) 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しの 実 施 状 況 について 概 要 の 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しにおいては 俸 給 表 の 水 準 の 平 均 2の 引 き 下 げ 及 び 地 域 手 当 の 支 給 割 合 の 見 直 し 等 に 取 り 組 むとされている

1 ガス 供 給 業 を 行 う 法 人 の 事 業 税 の 課 税 について ガス 供 給 業 を 行 う 法 人 は 収 入 金 額 を 課 税 標 準 として 収 入 割 の 申 告 となります ( 法 72 条 の2 72 条 の 12 第 2 号 ) ガス 供 給 業 とその 他 の 事

平成16年年金制度改正 ~年金の昔・今・未来を考える~

( 別 途 調 査 様 式 1) 減 損 損 失 を 認 識 するに 至 った 経 緯 等 1 列 2 列 3 列 4 列 5 列 6 列 7 列 8 列 9 列 10 列 11 列 12 列 13 列 14 列 15 列 16 列 17 列 18 列 19 列 20 列 21 列 22 列 固 定

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大田市固定資産台帳整備業務(プロポーザル審査要項)

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4. その 他 (1) 期 中 における 重 要 な 子 会 社 の 異 動 ( 連 結 範 囲 の 変 更 を 伴 う 特 定 子 会 社 の 異 動 ) 無 新 規 社 ( 社 名 ) 除 外 社 ( 社 名 ) (2) 簡 便 な 会 計 処 理 及 び 四 半 期 連 結 財 務 諸 表 の

[2] 控 除 限 度 額 繰 越 欠 損 金 を 有 する 法 人 において 欠 損 金 発 生 事 業 年 度 の 翌 事 業 年 度 以 後 の 欠 損 金 の 繰 越 控 除 にあ たっては 平 成 27 年 度 税 制 改 正 により 次 ページ 以 降 で 解 説 する の 特 例 (


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1_2013BS(0414)

<重要な会計方針及び注記>

4. その 他 (1) 期 中 における 重 要 な 子 会 社 の 異 動 ( 連 結 範 囲 の 変 更 を 伴 う 特 定 子 会 社 の 異 動 ) 無 (2) 簡 便 な 会 計 処 理 及 び 四 半 期 連 結 財 務 諸 表 の 作 成 に 特 有 の 会 計 処 理 の 適 用 有

Microsoft Word - 目次.doc

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 役 名 法 人 の 長 理 事 理 事 ( 非 常 勤 ) 平 成 25 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 16,936 10,654 4,36

6 構 造 等 コンクリートブロック 造 平 屋 建 て4 戸 長 屋 16 棟 64 戸 建 築 年 1 戸 当 床 面 積 棟 数 住 戸 改 善 後 床 面 積 昭 和 42 年 36.00m m2 昭 和 43 年 36.50m m2 昭 和 44 年 36.

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< 現 在 の 我 が 国 D&O 保 険 の 基 本 的 な 設 計 (イメージ)> < 一 般 的 な 補 償 の 範 囲 の 概 要 > 請 求 の 形 態 会 社 の 役 員 会 社 による 請 求 に 対 する 損 免 責 事 由 の 場 合 に 害 賠 償 請 求 は 補 償 されず(

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2 一 般 行 政 職 給 料 表 の 状 況 ( 平 成 2 年 月 1 日 現 在 ) 1 号 給 の 給 料 月 額 最 高 号 給 の 給 料 月 額 ( 注 ) 給 料 月 額 は 給 与 抑 制 措 置 を 行 う 前 のものです ( 単 位 : ) 3 職 員 の 平 均 給 与 月

一般競争入札について

事 業 概 要 利 用 時 間 休 館 日 使 用 方 法 使 用 料 施 設 を 取 り 巻 く 状 況 や 課 題 < 松 山 駅 前 駐 輪 場 > JR 松 山 駅 を 利 用 する 人 の 自 転 車 原 付 を 収 容 する 施 設 として 設 置 され 有 料 駐 輪 場 の 利 用

平成17年度高知県県産材利用推進事業費補助金交付要綱

ていることから それに 先 行 する 形 で 下 請 業 者 についても 対 策 を 講 じることとしまし た 本 県 としましては それまでの 間 に 未 加 入 の 建 設 業 者 に 加 入 していただきますよう 28 年 4 月 から 実 施 することとしました 問 6 公 共 工 事 の

2016年夏のボーナス見通し

(3) 善 通 寺 市 の 状 況 善 通 寺 市 においては 固 定 資 産 税 の 納 期 前 前 納 に 対 する 報 奨 金 について 善 通 寺 市 税 条 例 の 規 定 ( 交 付 率 :0.1% 限 度 額 :2 万 円 )に 基 づき 交 付 を 行 っています 参 考 善 通 寺

弁護士報酬規定(抜粋)

(4) 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しの 実 施 状 況 について 概 要 国 の 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しにおいては 俸 給 表 の 水 準 の 平 均 2の 引 下 げ 及 び 地 域 手 当 の 支 給 割 合 の 見 直 し 等 に 取 り 組 むとされている.

東京都立産業技術高等専門学校

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施 設 利 用 に 伴 う 設 営 物 物 販 の 確 認 業 務 災 害 時 の 対 応 急 病 等 への 対 応 遺 失 物 拾 得 物 の 対 応 事 件 事 故 への 対 応 ( 2 ) 公 園 の 使 用 料 の 徴 収 に 関 す る 業 務 一 般 利 用 者 予 約 等 対 応 業

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名称

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情 報 通 信 機 器 等 に 係 る 繰 越 税 額 控 除 限 度 超 過 額 の 計 算 上 控 除 される 金 額 に 関 する 明 細 書 ( 付 表 ) 政 党 等 寄 附 金 特 別 控 除 額 の 計 算 明 細 書 国 庫 補 助 金 等 の 総 収 入 金 額 不 算 入 に 関

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公 的 年 金 制 度 について 制 度 の 持 続 可 能 性 を 高 め 将 来 の 世 代 の 給 付 水 準 の 確 保 等 を 図 るため 持 続 可 能 な 社 会 保 障 制 度 の 確 立 を 図 るための 改 革 の 推 進 に 関 する 法 律 に 基 づく 社 会 経 済 情

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1. 決 算 の 概 要 法 人 全 体 として 2,459 億 円 の 当 期 総 利 益 を 計 上 し 末 をもって 繰 越 欠 損 金 を 解 消 しています ( : 当 期 総 利 益 2,092 億 円 ) 中 期 計 画 における 収 支 改 善 項 目 に 関 して ( : 繰 越

経 常 収 支 差 引 額 等 の 状 況 平 成 26 年 度 予 算 早 期 集 計 平 成 25 年 度 予 算 対 前 年 度 比 較 経 常 収 支 差 引 額 3,689 億 円 4,597 億 円 908 億 円 減 少 赤 字 組 合 数 1,114 組 合 1,180 組 合 66

Transcription:

経 営 志 林 第 48 巻 2 号 2011 年 7 月 61 研 究 ノート 世 界 の 航 空 機 産 業 企 業 間 関 係 に 関 する 序 論 的 考 察 (1) 洞 口 治 夫 / 行 本 勢 基 / 神 原 浩 年 はじめに 1. 航 空 機 生 産 の 特 徴 2. エンジン 生 産 メーカーの 特 徴 ( 以 上, 本 号 ) 3. MRO ビジネス 4. 理 論 的 考 察 おわりに はじめに ボーイングとエアバスという 二 つの 会 社 が, 世 界 の 大 型 民 間 旅 客 機 生 産 をリードしている 二 つの 会 社 を 複 占 的 な 競 争 モデルの 具 体 例 とみ なすことも 可 能 かもしれない 航 空 機 産 業 を 自 動 車 産 業 と 比 較 したときには, どのような 知 見 が 得 られるであろうか 本 研 究 において 我 々が 着 目 した 大 きな 違 いは, 大 型 民 間 旅 客 機 生 産 を 行 う 2 社 がジェットエンジンを 生 産 していない, ということにある 自 動 車 産 業 においてトヨタ やホンダがハイブリッドエンジンや 燃 料 電 池 自 動 車 を 開 発 しないとすれば, 自 動 車 メーカーとし てのアイデンティティを 失 うかもしれない し かし, 航 空 機 産 業 では, そうではない 世 界 の 大 型 航 空 機 用 ジェットエンジン 生 産 は, アメリカの GE (General Electric), UTC (United Technologies Corporation) 傘 下 の P&W (プラッ ト アンド ウィットニー, Pratt & Whitney), イ ギリスのロールスロイス (Rolls-Royce), フラン ス のサフ ラン (Safran) グル ープの スネ クマ (Snecma) という 主 要 4 社 によって 行 われてい る ボーイングやエアバスの 大 型 旅 客 機 にとり つけるエンジンを 選 択 して 購 入 するのは, 航 空 機 の 機 体 を 購 入 する 顧 客, すなわち 航 空 会 社 で ある たとえば, ルフトハンザや 全 日 空, デル タ 航 空 やエミレーツ, あるいは 格 安 航 空 会 社 (Low Cost Carriers) が 航 空 機 を 購 入 するときに, エンジン 生 産 メーカーの 製 品 を 選 択 するのであ る 航 空 機 のエンジンは, 自 動 車 であれば 外 販 されているオプション 装 備 品 と 同 じ 扱 いをされ ていることになる いくつかの 疑 問 が 浮 かぶ 第 一 に, 航 空 機 メーカーがエンジン 生 産 を 行 う ことなく, 顧 客 を 獲 得 していられるのはなぜなの だろうか その 理 由 が 明 確 であるとすれば, 自 動 車 メーカーもエンジン 生 産 を 行 うことなく 顧 客 を 維 持 できるのだろうか もしも, 自 動 車 メーカ ーではそれができないとしたら, 航 空 機 と 自 動 車 の 生 産 の 特 徴 を 分 けている 理 由 は 何 だろうか 第 二 に, 顧 客 である 航 空 会 社 は, 何 を 基 準 に 航 空 機 を 選 択 し, 何 を 基 準 にエンジンを 選 択 す るのだろうか エンジンの 選 択 は, 航 空 会 社 に とってどのような 都 合 で 決 定 されているのだろ うか 航 空 会 社 にとって, なんらかの 外 的 な 力 によって 決 定 されているのだろうか 第 三 に, 航 空 機 メーカーとジェットエンジン メーカーは, ある 種 の 企 業 間 関 係 を 構 築 してい ることになるが, その 経 済 学 的 な 説 明 は 可 能 だ ろうか 自 動 車 の 一 次 サプライヤーと 組 み 立 て メーカーとの 関 係 を 説 明 してきた 従 来 の 研 究 は, 航 空 機 メーカーとジェットエンジンメーカーと の 関 係 を 説 明 するうえでも, 有 効 なものといえ るのだろうか 以 下, 本 稿 第 1 節 では 大 型 旅 客 機 生 産 を 中 心 とした 航 空 機 生 産 の 特 徴 をまとめる 特 に, エ アバスにおける 部 品 調 達 の 特 徴 についてのイン タビュー 結 果 をまとめる 第 2 節 では 世 界 の 主 要 エンジンメーカーの 特 徴 を 紹 介 したうえで, 日 本 のエンジン 生 産 メーカーでのインタビュー

62 世 界 の 航 空 機 産 業 企 業 間 関 係 に 関 する 序 論 的 考 察 (1) 調 査 の 結 果 をまとめる 第 3 節 ではメンテナン ス リペア アンド オーバーホール (Maintenance, Repair, and Overhaul) の 略 称 である MRO ビジネ スを 紹 介 する 第 4 節 では, 企 業 間 関 係 につい ての 既 存 の 経 済 理 論 と 航 空 機 産 業 で 観 察 された 事 実 とを 対 照 させることにより, 従 来 の 企 業 間 関 係 の 理 論 において 欠 落 してきた 論 点 を 指 摘 す る また, 以 上 の 作 業 を 通 じて, 今 後 の 研 究 課 題 を 浮 き 彫 りにしたい 1. 航 空 機 生 産 の 特 徴 1-1. 生 産 概 況 日 本 航 空 機 開 発 協 会 (2009a) が 発 表 してい るデータによれば, 世 界 の 主 要 な 航 空 機 生 産 は, アメリカ, 欧 州, カナダ, ブラジルの 4 地 域 に 集 約 化 されている 各 地 域 の 機 体 メーカー 別 に 売 上 高 の 推 移 をまとめたのが 第 1-1 図 であり, 民 間 航 空 機 と 軍 用 機 を 合 わせた 機 体 売 上 高 の 数 値 を 示 している 2007 年 の 売 上 高 では, 第 1 位 がアメリカのボーイング (Boeing) であり, 第 2 位 にフランスのエアバス (Airbus SAS) を 傘 下 にもつ EADS グループ, 以 下, ロッキード マ ーチン (Lockheed Martin), ノースロップ グラ マン (Northrop Grumman) という 順 になる 1) 2008 年 になるとボーイングの 売 上 高 が 大 幅 に 落 ち 込 む 一 方 で, エアバスの 売 上 高 が 伸 び 続 けている ことが 分 かる 第 1 位 と 第 2 位 の 順 位 が 逆 転 し ている 以 下 に 続 くロッキード マーチン, レ イセオン (Raytheon) も 前 年 度 よりも 売 上 高 を 減 少 させており, アメリカに 立 地 している 各 航 空 機 メーカーは, 2008 年 9 月 に 発 生 したリーマ ンショックの 影 響 を 直 接 的 に 受 けた 可 能 性 が 高 いと 考 えられる ロッキード マーチンは, 1932 年 に 設 立 され たアメリカの 軍 用 機 専 門 メーカーであり, F16 戦 闘 機 や F117 戦 闘 機 (ステルス 戦 闘 機 ), F2 戦 闘 機 などを 主 に 生 産 している 2) 第 1-1 表 は, 戦 闘 機, ヘリコプター, ビジネスジェット 機 を 生 産 している 主 なメーカーの2001 年 から2009 年 までの 納 入 機 数 を 示 したものである この 表 に よれば, ロッキード マーチンは, 2009 年 には 合 計 で47 機 の 戦 闘 機, 輸 送 機 を 納 入 しているが, 2004 年 の111 機 と 比 べると 半 分 以 下 になってい ることが 分 かる 第 1-1 表 のデータは, 2009 年 やデータの 欠 落 した 年 を 除 き, 全 て F-16 戦 闘 機, C-130J 輸 送 機, F-22 戦 闘 機 の 各 納 入 機 数 の 合 計 を 示 している 2009 年 におけるロッキー ド マーチンのデータには, F-22 戦 闘 機 の 納 入 機 数 が 非 公 表 のため 含 まれておらず, 減 少 幅 が さらに 大 きくなったと 考 えられる テキストロン (Textron) は, 織 物 会 社 として 設 立 されたが, 第 二 次 世 界 大 戦 中 にパラシュー トの 生 産 に 乗 り 出 した 戦 後 は, ベル ヘリコ プター (Bell Helicopter) の 買 収 を 通 じて, 軍 用 を 中 心 としたヘリコプターの 生 産 を 開 始 してい る テキストンは, 1992 年 にセスナ エアクラ フト (Cessna Aircraft) を 買 収 して, ビジネスジ ェット 機 の 生 産 にも 乗 り 出 している 3) 第 1-1 表 におけるテキストロンのデータは, 買 収 した ベル ヘリコプターとセスナ エアクラフトの 双 方 の 納 入 機 数 を 示 している この 表 を 見 れば 明 らかなように, 2001 年 以 降, ヘリコプターの 納 入 機 数 は, 基 本 的 に 増 加 傾 向 にあり, 2009 年 には141 機 のヘリコプターを 生 産, 納 入 してい る 対 照 的 に, ビジネスジェット 機 の 納 入 機 数 は, 2001 年 以 降, 増 減 を 繰 り 返 しており, 2009 年 の 納 入 機 数 は, 2001 年 の1,209 機 から741 機 へと 大 幅 に 減 少 した ノースロップ グラマン (Northrop Grumman) もアメリカの 軍 用 機 専 門 メ ーカーではあるが, 戦 闘 機 の 他, イージス 艦 や 原 子 力 空 母, 原 子 力 潜 水 艦 なども 生 産 している 4) レイセオンは, 統 合 型 の 防 衛 システム, ミサ イルシステム, 空 輸 システムを 手 掛 ける 軍 用 機 メーカーであり, 民 間 航 空 機 分 野 との 関 連 はほ とんど 見 られない 5) ただし, 2006 年 まで 現 在 の ホーカー ビーチクラフト (Hawker Beechcraft) を 子 会 社 化 しており, ビジネス 機, 小 型 練 習 機 な どの 生 産 を 行 っていた したがって, 第 1-1 図 におけるレイセオンの 売 上 高 は, 2007 年 以 降, 新 会 社 であるホーカー ビーチクラフトの 業 績 を 示 していることになる 同 様 に, 第 1-1 表 におけるレイセオンのデータは, 子 会 社 であっ たホーカー ビーチクラフトの 納 入 機 数 を 示 し ており, 2008 年 には441 機, 2009 年 には309 機 の ビジネスジェット 機 を 生 産, 納 入 している

経 営 志 林 第 48 巻 2 号 2011 年 7 月 63 第 1-1 図 主 要 航 空 機 メーカーの 売 上 高 億 円 90,000 80,000 70,000 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 EADS Boeing Lockheed Martin Airbus SAS BAE Systems Nothrop Grumann Finmeccnica Group Bombardier Textron Embraer Saab Group Raytheon 10,000 0 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 ( 出 所 ) 財 団 法 人 日 本 航 空 機 開 発 協 会 (2009a) を 基 に 筆 者 作 成 年 第 1-1 表 主 な 戦 闘 機 ヘリコプター ビジネスジェット 機 メーカーの 納 入 機 数 ロッキード マーチン テキストロン (ベル ヘリコプター) テキストロン (セスナ エアクラフト) レイセオン 2001 年 114 1,209 353 2002 年 114 946 328 2003 年 77 114 842 268 2004 年 111 109 897 312 2005 年 107 1,157 354 2006 年 106 153 1,239 400 2007 年 77 181 1,274 430 2008 年 63 167 1,301 441 2009 年 47 141 741 309 ( 注 1 ) - は, 引 用 元 のデータの 欠 落 を 示 す ( 注 2 ) 2009 年 のロッキード マーチンのデータは, F-22 戦 闘 機 のデータが 公 表 されていないため, F-16 戦 闘 機, C-130J 輸 送 機 の 納 入 機 数 を 合 計 した 数 値 になっている その 他 の 年 は, 全 て F-16 戦 闘 機, C-130J 輸 送 機, F-22 戦 闘 機 の 合 計 値 を 示 している ( 注 3 ) テキストロンのデータは, それぞれ 買 収 した 子 会 社 別 に 示 している ( 注 4 ) レイセオンのデータは, ホーカー ビーチクラフト (Hawker Beechcraft) の 納 入 機 数 を 示 して いる ( 出 所 ) 財 団 法 人 日 本 航 空 機 開 発 協 会 (2009b), Ⅸ-26ページの 納 入 機 数, Ⅸ-30ページの 航 空 機 主 要 製 品 : 納 入 機 数, Ⅸ-33ページの 主 要 製 品 : 納 入 機 数 民 間 用, Ⅸ-34ページの 主 要 製 品 : 納 入 機 数 民 間 用 を 基 に 筆 者 作 成

64 世 界 の 航 空 機 産 業 企 業 間 関 係 に 関 する 序 論 的 考 察 (1) EADS グループは, フランスのエアロスパシ アル マトラ (Aerospatiale Matra), ドイツの DASA, そしてスペインの CASA の 三 社 によっ て2000 年 7 月 に 発 足 した エアバスは 当 初, フ ランスとドイツの 企 業 連 合 として 発 足 したが, 2001 年 7 月 にイギリスの BAE Systems と EADS との 合 弁 会 社 として 統 合 され, 社 名 をエアバス SAS (Airbus SAS) へと 変 更 した 新 会 社 に 資 産 が 継 承 されている 6) その 後, 2006 年 9 月 に BAE Systems がエアバス SAS の 全 株 式 を EADS グル ープへ 売 却 した 7) したがって, エアバス SAS は EADS グループ ( 本 社 オランダ) の 一 部 門 として 位 置 付 けられており, EADS グループの 民 間 航 空 機 生 産 を 担 当 している 第 1-1 図 の EADS グループの 売 上 高 には, エアバスのほか に 軍 用 機 生 産 による 売 上 高 も 含 まれており, 連 結 決 算 の 対 象 となっているエアバス 単 体 の 売 上 高 と 重 複 している 点 に 注 意 が 必 要 である BAE Systems は, 現 在, サーブ (Saab) グルー プに 出 資 しながら, 防 衛 用 の 航 空 機, システム などを 生 産 している サーブグループでは, 1999 年 までリージョナルジェット 機 が 生 産 され ていたが, 2000 年 以 降, 生 産 を 中 止 し, 航 空 機 の 部 品 やシステム 生 産 に 特 化 している 8) フィ ンメカニカ (Finmeccnica) グループは, イタリ ア ローマに 本 社 を 置 くコングロマリットであ り, 傘 下 に 航 空 機 のアレニア エアロノーティ カ (Alenia Aeronautica), ATR インテグレイテッ ド (ATR Integrated), エアマッチ (Aermacchi) などの 子 会 社 があり, ヘリコプターや 宇 宙 航 空 関 連 の 企 業 も 保 有 している 9) 中 小 型 機 を 生 産 するボンバルディア (Bombardier) やブラジルのエンブラエル (Embraer) も, 1997 年 以 降, その 売 上 高 を 飛 躍 的 に 伸 ばしてき た 特 に, エンブラエルの 売 上 高 は1997 年 の924 億 円 から2008 年 には6,557 億 円 へと 7 倍 以 上 の 伸 びを 示 している ボンバルディアも, 日 本 円 換 算 で 1997 年 の7,435 億 円 から2008 年 の 2 兆 411 億 円 へと 売 上 高 を 倍 増 させている 同 期 間 のボーイングは, 売 上 高 7 兆 円 前 後 で 乱 高 下 を 繰 り 返 していたので あり, 為 替 レートの 影 響 を 考 慮 しても, エンブラ エル, ボンバルディアとは 非 常 に 対 照 的 である 第 1-2 図 主 要 航 空 機 メーカーの 従 業 員 数 人 250,000 200,000 150,000 100,000 50,000 Boeing Lockheed Martin Nothrop Grumann EADS BAE Systems Finmeccnica Group Airbus SAS Textron Bombardier Embraer Saab Group Raytheon 0 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 年 ( 出 所 ) 財 団 法 人 日 本 航 空 機 開 発 協 会 (2009a) を 基 に 筆 者 作 成

経 営 志 林 第 48 巻 2 号 2011 年 7 月 65 次 に, 各 航 空 機 メーカーの 従 業 員 数 を 概 観 す る 第 1-2 図 は, 1997 年 から2008 年 までの 従 業 員 数 の 推 移 を 示 したものである ボーイング, ロッキード マーチンのグラフを 見 ると 減 少 か ら 横 ばいへの 推 移 が 見 られる また, 多 くの 航 空 機 メーカーは2000 年 代 の 従 業 員 数 が 横 ばいで あったことがわかる 1997 年 を 基 準 とすれば, ボーイングの 従 業 員 減 少 は 著 しく, 1997 年 の 238,000 名 から2008 年 の162,200 名 へと10 年 間 で 約 75,000 名 以 上 の 従 業 員 が 削 減 されている そ の 一 方 で, エアバス=EADS, エンブラエルで は, 従 業 員 数 が 同 期 間 で 微 増 しており, 売 上 高 の 推 移 との 関 連 性 が 考 えられる 世 界 の 民 間 航 空 機 の 生 産 をリードしているボ ーイングとエアバスという 2 つの 会 社 に 注 目 して, 過 去 の 受 注 機 数 と 納 入 機 数 を 比 較 し, 若 干 の 検 討 を 加 える 第 1-3 図 は, 両 社 のホームページで 利 用 可 能 となっているデータに 基 づいた 受 注 実 績 の 推 移 である ボーイングについては, 1958 年 から2009 年 までの52 年 間, 一 方, エアバスについ ては, 1974 年 から2009 年 までの36 年 間 の 受 注 推 移 を 示 した 但 し, 買 収 によって 獲 得 した 旧 マクド ネル ダグラス 社 製 の 航 空 機 はデータから 除 外 し た それらは, DC-8, DC-9, DC-10, MD-80, MD-90, MD-11 の 6 タイプの 航 空 機 モデルである 旧 マクドネル ダグラス 社 製 の 航 空 機 の 生 産 およ び 販 売 は, 2001 年 にルフトハンザ カーゴへ 2 機 の MD-11 を 納 入 したのを 最 後 に 終 了 している 10) 第 1-3 図 より, 両 社 の 受 注 実 績 が 類 似 した 傾 向 を 示 していることがわかる 11) 1990 年 代 ま ではボーイングの 受 注 実 績 がエアバスを 上 回 っ ていたが, 2000 年 代 に 入 ると, 両 社 の 受 注 機 数 は 拮 抗 しているものの, エアバスの 方 がわずか に 優 勢 であったことが 観 察 できる 2000 年 から2009 年 までの10 年 間 について 両 社 の 受 注 機 数 と 出 荷 機 数 の 推 移 を 示 したのが 第 1-4 図 である 2000 年 から2009 年 までの10 年 間 におけるボーイングとエアバスの 年 度 別 航 空 機 受 注 数 量 の 相 関 係 数 は0.9525であり, 両 社 の 受 注 するタイミングには 極 めて 高 い 相 関 がある 12) 第 1-3 図 ボーイング 対 エアバス 民 間 航 空 機 の 受 注 実 績 受 注 数 (( 台 機 )) 1,600 1,400 1,200 1,000 800 Airbus Boeing 600 400 200 0 18 10 12 14 16 18 10 12 14 16 18 10 12 14 16 18 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 95 96 96 96 9 96 97 97 97 97 97 98 98 98 98 9 99 99 99 99 99 0 00 00 00 00 59 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 0 1 61 61 61 61 61 71 71 71 1 71 81 81 81 81 81 91 91 91 91 1 02 02 02 02 0 9 1 3 5 7 9 1 3 5 7 9 1 3 5 7 9 1 3 5 7 9 1 3 5 7 92 年 ( 出 所 ) ボーイングのホームページ (http://active.boeing.com/commercial/orders/index.cfm) およびエア バスのホームページ (http://www.airbus.com/en/corporate/orders_and_deliveries) の 公 表 データを 基 に 筆 者 作 成

66 世 界 の 航 空 機 産 業 企 業 間 関 係 に 関 する 序 論 的 考 察 (1) 第 1-4 図 ボーイング 対 エアバス 最 近 10 年 間 の 受 注 および 出 荷 実 績 受 注 数 出 荷 数 (( 台 機 )) 1,600 1,400 1,200 1,000 800 600 Airbus Orders Boeing Orders Airbus Deliveries Boeing Deliveries 400 200 0 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 ( 出 所 ) ボーイングのホームページ (http://active.boeing.com/commercial/orders/index.cfm) およびエア バスのホームページ (http://www.airbus.com/en/corporate/orders_and_deliveries) の 公 表 データを 基 に 筆 者 作 成 受 注 機 数 については, 2000 年 と2006 年 以 外 は エアバスがボーイングを 凌 駕 しており, 出 荷 実 績 についても, 2003 年 以 降 は 僅 差 ではあるが, エアバスがボーイングを 超 えている この10 年 間 の 合 計 受 注 機 数 は, ボーイングの5,906 機 に 対 して, エアバスは6,452 機 であった 出 荷 実 績 はボーイングの3,940 機 に 対 して, エアバス は3,810 機 となっており, 通 算 すればボーイン グの 出 荷 実 績 が 多 いものの, 拮 抗 している 航 空 旅 客 機 は, 受 注 残 を 積 み 増 しながら, 出 荷 し ていく 業 態 である, といえる 2000 年 から2009 年 の10 年 間 の 受 注 機 数 におい ては, エアバスがボーイングを 上 回 っているこ とが 観 察 されたが, 航 空 機 の 機 体 のサイズ 別 で は, どちらが 優 勢 なのであろうか 第 1-5 図 では, 航 空 機 業 界 で 一 般 的 に 使 用 されているナ ローボディ (narrow-body) 機 とワイドボディ (wide-body) 機 に 区 分 して 受 注 機 数 を 比 較 した 13) 第 1-5 図 は, 2000 年 から2009 年 までの10 年 間 を 対 象 としている ナローボディ 機 については, 2004 年 以 降, 2006 年 を 除 いてエアバスがボーイン グの 受 注 実 績 を 上 回 っている ボーイングのナロ ーボディ 機 は, ベストセラーの B737 であり, エア バス 側 では, A320 とその 派 生 機 種 である A321 およ び A318 と A319 が 同 じカテゴリーに 相 当 する 次 に, ワイドボディ 機 については, 2007 年 以 降, エアバスはボーイングを 上 回 る 受 注 数 を 記 録 し たことが 観 察 できる ボーイングのワイドボデ ィ 機 は B777 と B787 が 主 力 で, B747 と B767 もこ れに 該 当 する 一 方 でエアバス 側 は, A330 と A340 のグループを 中 心 に 超 大 型 旅 客 機 である A380 と 次 世 代 の A350 がこれに 該 当 する B787 は 全 日 本 空 輸 から2004 年 に55 機 の 発 注 があり, そ の 納 入 計 画 は 3 年 余 り 遅 延 したが, 2011 年 夏 には 第 1 号 機 が 全 日 本 空 輸 に 納 入 される 予 定 である 全 日 本 空 輸 には2011 年 度 に14 機, 12 年 度 に10 機 納 入 される 予 定 となっている 14) 2010 年 11 月 の 新 聞 報 道 によると, A350 の 納 入 予 定 は2013 年 度 下 期 で あり, ボーイングの 大 型 機 B787 には 約 850 機 の 受 注, A350 には 約 570 機 の 受 注 があるという 15)

経 営 志 林 第 48 巻 2 号 2011 年 7 月 67 第 1-5 図 ボーイング 対 エアバス 2000 年 代 の 機 体 サイズ 別 受 注 実 績 受 注 数 (( 機 台 )) 1,000 900 800 700 600 500 400 Airbus narrow-body Boeing narrow-body Airbus wide-body Boeing wide-body 300 200 100 0 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 ( 出 所 ) ボーイングのホームページ (http://active.boeing.com/commercial/orders/index.cfm) およびエア バスのホームページ (http://www.airbus.com/en/corporate/orders_and_deliveries) の 公 表 データを 基 に 筆 者 作 成 1-2. エアバスのサプライヤー 集 約 過 程 本 項 では, エアバスへのインタビューと 同 社 から 提 示 された 一 次 資 料 に 基 づき, エアバスの 調 達 分 野 に 焦 点 を 当 てて, 同 社 によるサプライ ヤーの 集 約 過 程 を 考 察 する 16) 最 初 に, エアバ スのサプライヤー 集 約 戦 略 に 触 れ, そこから 調 達 部 門 へ 展 開 されている 任 務 を 観 察 する その 観 察 を 通 じて, どのようにして 同 社 のサプライ ヤーが 集 約 されてきたのかを 解 明 する 筆 者 らがエアバスへのインタビュー 調 査 を 行 った2009 年 11 月 5 日 当 時, エアバスは2005 年 か ら 新 たに 設 定 したサプライヤー 集 約 戦 略 を 遂 行 している 過 程 であった インタビューに 回 答 し たのはエアバスのエアロストラクチャー 分 野 の 調 達 部 門 担 当 者 であったが, 彼 女 によれば, サ プライヤー 集 約 の 目 的 は, 航 空 機 のアーキテク ト アンド インテグレーター (Architect and Integrator) になるため, コア ビジネスに 集 中 するためである 17) エアバスがアーキテクト アンド インテグレーターであるためには, 同 社 が 所 有 する 技 能 をデザインと 組 立 に 集 中 する 必 要 があると 述 べていた 18) エアバスが 各 事 業 部 門 を 統 合 (integrate) してデザインと 組 立 を 遂 行 する 際 に, 調 達 (procurement) 部 門 には 2 つの 責 務 がある 19) 具 体 的 には, 低 コストの 国 においてアメリカドル 決 済 で 取 引 を 遂 行 し, サ プライヤーから 大 きな 業 務 分 担 (ワーク パッ ケージ 20) ) について, グローバルな 代 金 決 済 の ポジションを 得 ることである 21) これは, 欧 州 という 垣 根 を 超 えて, アメリカドル 決 済 による 取 引 を 実 現 できる 国 を 選 び 出 し, 低 コストで 主 要 部 品 の 外 部 委 託 を 行 うことを 意 味 する 過 去 においては, 作 るか 買 うか (Make or Buy) と いう 意 思 決 定 は, エアバスの 事 業 本 部 によって 行 われ, 主 に 欧 州 地 域 内 で 外 部 調 達 されてきた のである 22) また, 低 コスト 化 への 重 要 な 方 策 の 1 つとし て, エアバスは, 内 部 コストを 削 減 するために,

68 世 界 の 航 空 機 産 業 企 業 間 関 係 に 関 する 序 論 的 考 察 (1) 規 模 の 小 さいサプライヤーの 数 を 減 らすことに 着 手 した 23) ここでの 対 象 となるサプライヤー は 直 接 エアバスに 製 品 やサービスを 提 供 するテ ィア 1 (First Tier) という 階 層 に 属 するサプラ イヤーである 24) サプライヤーを 集 約 するなか, 一 方 で, 精 選 されたサプライヤーとの 取 引 を 継 続 するが, このようなサプライヤーをプリファ ード サプライヤー (preferred supplier) と 呼 ん でいる 25) エアバスの 調 達 部 門 は 取 り 扱 う 製 品 分 野 によ って, エアロストラクチャー (aerostructure), 材 料 (materials), エクイップメント システム &サポート (equipment, systems and support), 推 進 システム (propulsion systems), 客 室 (cabin), 一 般 調 達 (general procurement) の 6 つに 分 かれ ている 26) 本 項 では, エアロストラクチャー 分 野 について, サプライヤーの 集 約 という 視 点 か ら, エアバスの 調 達 部 門 の 活 動 を 概 観 する 2006 年 当 時 は, エアバスのフランスにおける エアロストラクチャー 分 野 に 該 当 するティア 1 のサプライヤーの 数 は123 社 であったが, 2009 年 には34 社 に 集 約 された そして, 次 のターゲ ットとしては, 2011 年 までにさらに 6 社 減 らし て28 社 にすることである 27) エアバスが 実 施 してきたサプライヤー 数 の 削 減 の 方 法 は, エアバスのスタッフがティア 1 の サプライヤーに 足 を 運 び, 現 状 では 取 引 継 続 が 困 難 である ことを 伝 えたうえで, 解 決 策 を 提 示 する, というものである 28) その 解 決 策 と いうのは, 当 該 サプライヤーのグループ 企 業 の 再 編, あるいは, 当 該 サプライヤーによる 他 の サプライヤーの 買 収 である 29) つまり, エアバ スが, 2 社 以 上 のサプライヤーの 合 併, ないし 買 収 による 統 合 を 解 決 策 として 提 示 するのであ る これは, エアバスを 中 心 とした 部 品 調 達 グ ループ 内 で, サプライヤー 企 業 がお 互 いに 協 力 して 航 空 ビジネスを 発 展 させる 機 会 であるため, エアバスの 提 示 に 対 して, サプライヤー 側 もあ からさまに No とは 言 わないのだという 30) サプライヤーのグループ 再 編 の 例 としては, 金 属 板 を 専 門 とする 企 業 と 機 械 加 工 を 専 門 とす る 企 業 との 間 で, お 互 いの 得 意 な 分 野 で 自 社 が 不 足 している 部 分 を 補 完 し, エアバスの 要 求 を 満 足 させる 部 品 を 提 供 する, という 事 例 が 挙 げ られる 31) この 2 社 が 統 合 した 結 果, エアバス では, 金 属 板 や 加 工 に 関 わる 諸 部 品 をそれぞれ 発 注 する 必 要 はなくなり, 代 金 決 済 の 口 座 も 減 るわけである こうして, 専 門 の 分 野 が 異 なる 複 数 の 補 完 関 係 のあるサプライヤーの 活 動 を 統 合 することによって, エアバスから 見 た 場 合, サプライヤーの 数 は 減 少 するのである 我 々のインタビューでは, サプライヤーの 数 を 減 らす 戦 略 によって 調 達 のリスクが 生 まれる ことはないのか, を 尋 ねた すなわち, サプラ イヤーの 数 を 減 らす 前 には 複 数 社 から 調 達 を 行 っていた 部 品 について, サプライヤーを 統 合 し たのちには 1 社 のみに 依 存 しなければならない 事 態 が 発 生 する 場 合 には, サプライヤーの 側 に 価 格 支 配 力 が 強 くなり, 独 自 開 発 のインセンテ ィブがなくなり, 工 場 の 操 業 が 停 止 した 場 合 に は 部 品 の 調 達 ができなくなる, といった 調 達 リ スクを 発 生 させる 可 能 性 がある この 質 問 に 対 しては, エアバスは, この 調 達 リスクとサプラ イヤー 数 の 減 少 のレベルとの 間 のバランスを 考 慮 しながら, 費 用 の 削 減 効 果 に 重 点 を 置 いてい る, という 回 答 であった 32) 費 用 の 削 減 とは, 調 達 部 門 や 技 術 部 門 の 仕 事 を 減 少 させることで ある 33) つまり, 123 社 と28 社 とでは, サプライ ヤーとの 取 引 に 対 する 効 率 がまったく 異 なる, という 34) この 点 については, サプライヤーか ら 提 供 される 部 品 に 対 してエアバスが 与 える 評 価 や 認 定, サプライヤーとの 契 約 や 価 格 交 渉, 部 品 の 品 質 やサプライヤーの 行 動 を 監 視 する 費 用 などに 大 きな 差 があると 解 釈 できる 冒 頭 に 述 べたように, エアバスのサプライヤ ー 集 約 戦 略 は, 航 空 機 のデザインと 組 立 に 集 中 することによって, 航 空 機 のアーキテクト ア ンド インテグレーターになることであるが, その 背 後 には, Go Low Cost ( 低 コストの 追 求 ), Go USD (アメリカドルの 獲 得 ) 35), そし て Go Global (グローバル 化 の 推 進 ) という 3 つのキーワードが 隠 されている 36) エアバスは, 部 品 調 達 においても 常 にボーイングを 意 識 して おり, ボーイングよりも 低 コストを 実 現 するこ とによって, 航 空 機 業 界 での 競 争 を 優 位 に 進 め ようとしている 従 って, 同 社 の 調 達 部 門 も 強

経 営 志 林 第 48 巻 2 号 2011 年 7 月 69 烈 なコストプレッシャーを 受 けて, 各 サプライ ヤーの 得 意 分 野 を 生 かしたサプライヤー グル ープの 再 編 により, 合 理 的 なサプライ ネット ワークを 実 現 しようとしている, と 解 釈 できる エアバスによると, 新 規 で 近 距 離 用 航 空 機 を 開 発 するには, 1,000 億 ユーロの 費 用 がかかるとい う 37) この 膨 大 な 金 額 をいかにサプライヤーと 分 担 していくかが, 航 空 機 メーカーにとっての 大 きな 課 題 のように 思 われる 日 本 の 部 品 サプ ライヤーがエアバスの 製 造 プロセスに 参 画 する 場 合 にも, 同 様 の 背 景 があると 考 えられる 2. エンジン 生 産 メーカーの 特 徴 2-1. 世 界 のエンジンメーカー 航 空 機 のエンジンは, アメリカ, イギリス, フランスに 立 地 する 主 要 4 社 が 著 名 である GE 傘 下 にはエイビエーション (Aviation) と 呼 ばれる 航 空 エンジン 事 業 部 門 があり, 業 界 全 体 で 第 1 位 の 売 上 高, 営 業 利 益 を 誇 る 2008 年 の 同 社 の 売 上 高 は, 約 1 兆 9,800 億 円, 営 業 利 益 は 3,808 億 円 となっている UTC 傘 下 の P&W (プ ラット アンド ウィットニー, Pratt & Whitney) が 第 2 位, ロールスロイスのエアロスペース (Aerospace) 部 門 が 第 3 位, そして, フランス サフラングループのスネクマ (Snecma) が 第 4 位 と 続 いている 1996 年 から2008 年 までの 主 要 4 社 の 売 上 高 の 推 移 を 示 したのが 第 2-1 図 で ある 主 要 4 社 いずれも10 年 間 で 売 上 高 を 順 調 に 伸 ばしてきたが, 2008 年 にはその 成 長 が 鈍 化, あるいは 低 下 している 航 空 機 メーカーの 業 績 悪 化 の 影 響 を 受 けたものと 考 えられる 注 目 さ れる 点 は, GE 傘 下 の 航 空 エンジン 事 業 (Aviation) 部 門 の 売 上 高 が1996 年 以 降, 徐 々に 他 社 の 業 績 を 上 回 り 始 めたことである 業 界 全 体 の 構 造, つまり, 主 要 4 社 の 序 列 がこの10 年 間 で 固 定 化 していることが 分 かる 第 2-1 図 主 要 航 空 機 エンジンメーカーの 売 上 高 億 円 21,000 19,000 17,000 15,000 13,000 11,000 Aviation(GE) P&W(UTC) Aerospace(RR) SNECMA(Safran) 9,000 7,000 5,000 3,000 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 年 ( 出 所 ) 財 団 法 人 日 本 航 空 機 開 発 協 会 (2009a) を 基 に 筆 者 作 成

70 世 界 の 航 空 機 産 業 企 業 間 関 係 に 関 する 序 論 的 考 察 (1) 次 に, GE を 除 く 主 要 航 空 機 エンジンメーカー 3 社 の 従 業 員 数 を 概 観 する 第 2-2 図 によれ ば, 各 社 共 に20,000 名 から30,000 名 で 推 移 して おり, UTC 傘 下 の P&W, サフラン 傘 下 のスネク マの 両 社 は, 従 業 員 数 を 徐 々に 増 やしてきてい る ただし, ロールスロイス 傘 下 のエアロスペ ースは, この 期 間 で 増 減 を 繰 り 返 しながら, 1997 年 の 水 準 に 戻 っていることが 分 かる 前 節 で 触 れた 航 空 機 メーカーの 従 業 員 数 の 推 移 と 比 べると, それほど 大 幅 な 変 動 は 見 られず, 比 較 的, 安 定 しているといえる 第 2-2 図 主 要 航 空 機 エンジンメーカーの 従 業 員 数 ( 出 所 ) 財 団 法 人 日 本 航 空 機 開 発 協 会 (2009a) を 基 に 筆 者 作 成 2-2. 日 本 のエンジンメーカー 日 本 の 主 要 な 航 空 宇 宙 関 連 メーカーとしては, 三 菱 重 工 業, 川 崎 重 工 業, 富 士 重 工 業, 新 明 和 工 業, IHI ( 旧 : 石 川 島 播 磨 重 工 業 ) の 5 社 が 挙 げ られる 38) 主 要 5 社 の 中 でも 三 菱 重 工 業 の 航 空 宇 宙 関 連 部 門 が 占 める 割 合 は 高 く, 世 界 全 体 の 売 上 高 ランキングにおいても 第 24 位 となっ ている 下 記 の 第 2-1 表 によれば, 三 菱 重 工 業 の2009 年 度 の 売 上 高 は5,002 億 円 であり, 同 社 に 続 いて, IHI ( 同 売 上 高 2,810 億 円 ), 川 崎 重 工 業 (1,888 億 円 ), 富 士 重 工 業 (932 億 円 ), 新 明 和 工 業 (228 億 円 ) の 順 になっている 以 下 では, 株 式 会 社 IHI を 取 り 上 げる 同 社 は 日 本 での 航 空 エンジンのトップメーカーであ る 同 社 への 訪 問 調 査 で 得 られたインタビュー データ, 並 びに 一 次 資 料 に 基 づきながら, 日 本 の 航 空 機 関 連 メーカーと 機 体 メーカー, エンジ ンメーカーとの 関 係 について 考 察 する 39) IHI に 対 するインタビュー 調 査 によれば, 世 界 市 場 に 対 する 航 空 機 エンジンの 国 内 生 産 高, お よ び 比 率 は 3,948 億 円, IHI が そ の う ち の 68.7%のシェアを 確 保 しており, 川 崎 重 工, 三 菱 重 工 が 続 いている しかし, グローバル 市 場 を 見 てみると, IHI のシェアは3.7%で 世 界 第 7 位 であり, GE, ロールスロイス, P&W の 三 社 が 全 体 の 約 7 割 を 占 めていることになる グロー バルな 市 場 シェア 自 体 に 格 差 はあるが, 業 界 全 体 としては 右 肩 上 がりで 成 長 しているという

経 営 志 林 第 48 巻 2 号 2011 年 7 月 71 第 2-1 表 日 本 の 航 空 宇 宙 機 器 関 係 メーカーの 概 要 (2009 年 度 ) 三 菱 重 工 業 (MHI) IHI 川 崎 重 工 業 (KHI) 富 士 重 工 業 新 明 和 工 業 売 上 高 ( 億 円 ) 5,002 2,810 1,888 932 228 正 規 従 業 員 数 ( 年 度 末, 人 ) 設 備 規 模 ( 帳 簿 価 額 : 百 万 円 ) 9,679 5,422 5,269 2,456 656 176,268 35,584 41,884 15,158 5,682 面 積 ( 千 m2) 1,004 539 811 422 116 工 場 大 江 工 場 飛 島 工 場 小 牧 南 工 場 小 牧 北 工 場 江 波 工 場 瑞 穂 工 場 呉 第 二 工 場 相 馬 工 場 岐 阜 工 場 名 古 屋 第 一 工 場 名 古 屋 第 二 工 場 明 石 工 場 西 神 工 場 宇 都 宮 製 作 所 半 田 工 場 甲 南 工 場 徳 島 分 工 場 ( 注 ) 各 社 の 面 積 は, MHI 以 外, 全 て 土 地 面 積 を 指 している MHI のみ, 建 物 及 び 構 造 物 の 面 積 が 区 分 されていた ため, そちらを 記 載 した ( 出 所 ) 各 社 の2009 年 度 有 価 証 券 報 告 書 を 基 に 筆 者 作 成 IHI の 航 空 宇 宙 事 業 本 部 の2008 年 の 売 上 高 は 3,123 億 円 であり, 従 業 員 数 は 約 2,960 名 となっ ている 40) 航 空 機 エンジンのシェアが82.1%と なっており, 宇 宙 開 発, 防 衛 機 器 システムと 続 いている 航 空 機 エンジンの50% 強 が 民 間 向 け となる 防 衛 省 向 けの F110, F100 などのエン ジンはライセンス ( 技 術 供 与 ) 生 産 であるが, F3 は 国 産 機 種 である 防 衛 省 向 け, 民 間 機 向 けともに 生 産 だけではなく, オーバーホールも 担 当 している エンジンは, 基 本 的 にファン, 圧 縮 機, 燃 焼 器, タービンで 構 成 されている IHI ではそれらの 要 素 部 品 が 製 造 されている 上 記 の 第 2-1 表 で 示 したように, 航 空 宇 宙 事 業 本 部 の 国 内 工 場 は 合 計 で 4 つあり, 瑞 穂 工 場 ( 横 田 基 地 に 隣 接 ), 呉 第 二 工 場, 相 馬 第 一 工 場, 相 馬 第 二 工 場 で 構 成 されている 瑞 穂 工 場 では, ジェットエンジン, ガスタービンの 組 立, 運 転, 及 び 修 理 整 備 が 行 われている 呉 第 二 工 場 では, フレーム 等 の 大 型 部 品 やディスク, シ ャフトなどの 部 品 が 製 造 されている 呉 第 一 工 場 は 船 舶 部 門 に 属 しており, 近 年, IHIMU とし て 分 社 化 している 相 馬 第 一 工 場 では, 圧 縮 機, タービンの 翼 部 品, 第 二 工 場 では 中 小 型 部 品, 宇 宙 開 発 関 連 部 品 の 製 造 が 行 われている 2-3. 航 空 機 エンジンの 開 発 航 空 機 用 エンジン 事 業 の 特 徴 は, 大 きく 分 け て 二 つある 一 つは, 高 付 加 価 値 で 幅 広 い 高 度 技 術 が 必 要 ということである 41) 例 えば, ジェットエンジンの 作 動 環 境 における 基 本 サイ クルは, 圧 力 と 体 積 の 二 軸 で 捉 えられ, 最 高 圧 力 40~50 気 圧, 最 高 温 度 摂 氏 1,500 度 に 達 する 飛 行 高 度 は10,000メートル, 機 速 はマッハ 1 を 想 定 している エンジンは, 基 本 的 にファン, 圧 縮 機, 燃 焼 器, タービンによって 構 成 されて おり, それぞれの 部 分 において 高 温, 高 圧, 高 精 度 といった 過 酷 な 作 動 環 境 に 耐 えうるよう 高 度 な 技 術 が 求 められる 同 時 に, 航 空 機 エンジ ンの 開 発 には 安 全 性 重 視 の 考 え 方 から, 先 端 的 技 術 であっても, 十 分 実 証 された 技 術 を 使 用 し ていく 領 域 であると 考 えられている 実 績 によ って 承 認 され, 信 用 されている 技 術 しか 採 用 さ れないという 42) もう 一 つの 特 徴 は, 開 発 リスク 事 業 リスク が 極 めて 大 きい ということである こうした エンジンの 開 発 には, 初 期 概 念 が 提 示 されてか ら, エンジンプロジェクトが 開 始 されるまでに 一 定 の 期 間 がある エンジンプロジェクトが 開 始 された 時 期 を 0 年 とカウントすると, 約 4 年 後 にエンジンの 型 式 が 承 認, 5 年 後 に 初 めて 運 航 開 始 となる 型 式 承 認 がエンジンの 完 成 時 点 と 捉 えられている 43) 運 航 開 始 後 に, 初 めてエンジンが 使 用 される ことになり, 開 発 投 資 の 回 収 時 期 に 入 る その

72 世 界 の 航 空 機 産 業 企 業 間 関 係 に 関 する 序 論 的 考 察 (1) ため, 新 規 のエンジン 開 発 に 関 しては, 最 大 出 費 期 間 が 8 年 から10 年 になり, 累 積 の 損 益 分 岐 点 に 到 達 するのが, 運 航 の 開 始 から12 年 後, あ るいは16 年 後 となってしまう ただし, 新 規 エ ンジンの 開 発 の 後, 派 生 型 の 開 発 も 行 われてお り, その 累 積 損 失 の 解 消 は 早 く, 約 10 年 程 度 と なっている こうした 派 生 型 のエンジン 開 発 は, デリバティブ (Derivative) とも 呼 ばれており, 航 空 機 の 機 体 メーカー, あるいは, その 顧 客 で ある 航 空 会 社 の 要 望 に 従 って 変 更 されるもので あるという 44) したがって, エンジンの 開 発 は 基 本 的 に 4 年 程 度 であるが, 型 式 自 体 は20 年 から30 年, 継 続 する 長 期 間, 携 わるプロジェクトであると 共 に 開 発 費 用 もかさむため, 合 弁 事 業 や 共 同 開 発 方 式 が 増 えてきたといえる 燃 費 の 向 上 が 近 年 では 最 も 要 求 されるポイントであり, より 高 度 で 幅 広 い 技 術 の 応 用 が 必 要 となってきている エンジンの 共 同 開 発 方 式 には, いくつかの 形 態 があるが, その 代 表 的 なものとしては 略 称 で RSP と 呼 ばれている, リスク 収 入 分 割 パート ナーシップ (Risk & Revenue Sharing Partnership) 方 式 がある 同 方 式 では, エンジン 開 発 費 用 を 分 担 し, それに 見 合 った 収 益 を 主 要 エンジンメ ーカーとエンジン 部 品 メーカーが 共 有 している 航 空 機 エンジンのインテグレーション 作 業 は, OEM メーカー, 例 えば GE を 中 心 として 行 われ る 上 記 した RSP の 場 合, ある 程 度 事 前 に 開 発 費 用 や 分 担 内 容 を 確 定 し, プロジェクトを 進 め ていく 45) プロジェクトの 開 始 から 様 々な 議 論 があり, 必 要 に 応 じて IHI 社 員 が OEM メーカーへ 出 向 く という 46) プロジェクト 開 始 時 に, エンジン 全 体 の 構 造 と 各 部 品 のインターフェースの 概 略 が 決 められるのが 一 般 的 である RSP の 他 には, プログラムパートナー (ジョイントベンチャ ー) と 呼 ばれる 参 画 形 態 がある この 場 合, RSP よりも 更 に 深 く 開 発 プロジェクトに 関 与 し ている 47) 第 2-2 表 は, 日 本 航 空 機 開 発 協 会 (2009a) に 掲 載 されたエンジンの 機 種 別 に 見 た 主 要 エン ジンメーカーの 開 発 プロジェクトへの 参 画 状 況 をまとめたものである GE90 以 下, CF34 に 至 るまでの 7 つのプロジェクトは, エンジンの 機 種 名 ごとに 分 けられている この 表 にまとめら れた 全 てのエンジン 開 発 プロジェクトは, 基 本 的 に 欧 米 の 主 要 なエンジンメーカー 3 社 のうち のいずれかによって 主 導 されたものであった それは, 多 くのエンジン 機 種 名 の 先 頭 に 企 業 名 が 付 されていることでも 確 認 することが 出 来 る 例 えば, GE90, GEnx, CF34 は GE が, TRENT700 / 800, 1000 は ロ ー ル ス ロ イ ス が, PW4000 は UTC 傘 下 のプラット アンド ウィットニー (Pratt & Whitney) がそれぞれ 主 導 したプロジェ クトを 示 している GEnx や TRENT1000 は, ボ ーイングの 最 新 型 航 空 機 である B787 に 搭 載 さ れる 予 定 のエンジンであり, 相 対 的 に 新 しい 開 発 プロジェクトであるといえる ただし, 後 述 するように, 中 型 の V2500 エンジンは, 英 国 ロ ールロイス, 米 国 P&W, 日 本 3 社 など 5 カ 国 7 社 の 共 同 開 発 であった 第 2-2 表 の 網 かけ 部 分 は, 各 エンジンの 開 発 プロジェクトに 参 画 している 企 業 を 表 してい る 世 界 の 主 要 なエンジンメーカーは, GE, ロ ールスロイス, UTC 傘 下 のプラット アンド ウィットニー (Pratt & Whitney) の 3 社 であり, 日 本 企 業 としては 三 菱 重 工 業 (MHI), IHI, 川 崎 重 工 業 (KHI) が 挙 げられる この 網 かけ 部 分 を 見 れば 明 らかなように, 日 本 の 主 要 なエンジ ンメーカーは, 各 エンジンのプログラムにリス ク 収 入 分 割 パートナーシップ (RSP), あるいは プログラムパートナー (PP), サブコンストラ クター (SC) のいずれかの 形 態 で 参 画 してきた つまり, 日 本 の 主 要 なエンジンメーカーが 主 導 する 開 発 プロジェクトはこれまで 存 在 しなかっ たことが 分 かる IHI は, 民 間 エンジン 開 発 に1970 年 代 に 行 わ れた 旧 通 産 省 のプロジェクト FJR710 エンジン の 開 発 から 参 画 し 始 めた 48) 飛 鳥 (STOL) と 呼 ばれる 機 体 に 搭 載 されたが, 基 本 的 には 実 験, 学 習 段 階 であり, 商 業 化 されていなかった そ の 後, 1983 年 から V2500 ファミリーの 開 発 が 始 まった 英 国 ロールロイス, 米 国 P&W, 日 本 3 社 など 5 カ 国 7 社 の 共 同 開 発 であり, IHI はファ ンモジュールの 組 立 と 低 圧 シャフトを 担 当 した V2500 ファミリーは, 累 計 生 産 台 数 が2009 年 9

経 営 志 林 第 48 巻 2 号 2011 年 7 月 73 エンジン 機 種 名 GE90 第 2-2 表 主 要 なエンジン 開 発 プロジェクトへの 参 画 搭 載 機 GE RR 企 業 名 UTC (P&W) MHI IHI KHI RSP TRENT700 / 800 RSP RSP PW4000 RSP SC RSP GEnx B787 RSP RSP TRENT1000 B787 RSP RSP V2500 PP PP PP CF34 RSP RSP ( 注 1 ) GE はゼネラル エレクトリック, RR はロールスロイス, UTC はユナイテッド テクノロジー ズ コーポレーション ( 事 業 部 門 としてはプラット アンド ウィットニー, Pratt & Whitney), B はボーイング, KHI は 川 崎 重 工 業, MHI は 三 菱 重 工 業 をそれぞれ 示 している ( 注 2 ) 表 中 の 網 掛 部 分 は, 各 エンジンの 開 発 プロジェクトに 参 画 した 企 業 を 示 している ( 注 3 ) 日 本 企 業 の 網 掛 部 分 には, プロジェクトへの 参 画 形 態 によって RSP, PP, SC のいずれかが 表 記 されているが, それぞれリスク 収 入 分 割 パートナーシップ (Risk & Revenue Sharing Partnership), プログラムパートナー, サブコンストラクターを 指 している ( 注 4 ) 搭 載 機 については, 出 所 データ 上 の 制 約 のため, 一 部 分 のみ 記 載 している ( 出 所 ) 財 団 法 人 日 本 航 空 機 開 発 協 会 (2009a), Ⅷ-27ページより 引 用 ただし, エンジンメーカー 別 ではなくエンジン 機 種 別 に 掲 載 した なお, GEnx および CF34 については IHI からのインタビュ ー 調 査 ノートを 確 認 したときの 返 信 資 料 による 月 末 時 点 で 約 4,000 台 に 達 しており, 機 体 でい えば 約 2,000 機 に 搭 載 された 計 算 となる 5,000 台 がエンジン 販 売 の 一 つの 成 功 基 準 であること を 考 えると, V2500 ファミリーは 上 位 に 位 置 す るといえよう 49) その 後, GE90, CF34 といった 超 大 型, あるいは 小 型 のエンジンが 開 発 される ようになり, 現 在 は, GEnx のエンジンが 開 発 段 階 にあるという 中 型 の V2500 エンジンの 後, IHI は, GE を 中 心 としたエンジン 開 発 プロジェ クトに RSP として 参 画 するようになった 50) ここで, インタビュー 調 査 と 財 団 法 人 日 本 航 空 機 開 発 協 会 のデータを 踏 まえて 若 干 の 考 察 を 加 える IHI を 含 む 日 本 のエンジンメーカーに とって 中 型 エンジンである V2500 への 開 発 参 画 は, 航 空 機 のエンジン 開 発, 製 造 に 本 格 的 に 携 わるという 意 味 で 画 期 的 な 出 来 事 であった 先 述 したように, 日 本 のエンジンメーカーが 主 導 するエンジン 開 発 プロジェクトはこれまで 存 在 していなかったが, V2500 プロジェクト 以 降, 表 に 取 り 上 げられたような 主 要 プロジェクトに は 常 に 参 画 してきた 特 に, 参 画 形 態 は 様 々で はあるが, 第 2-2 表 の 網 かけ 部 分 で 示 されて いるように, IHI が 最 も 多 くのエンジンプロジェ クトに 関 与 してきたことが 分 かる さらに, V2500 エンジン 開 発 はロールスロイス, P&W と 共 同 で 行 なわれたが, 三 菱 重 工 業 (MHI) や 川 崎 重 工 業 (KHI) と 比 較 すると, IHI はその 後, GE 主 導 のエンジン 開 発 プロジェクトに 参 画 す る 傾 向 にある また, インタビュー 調 査 の 結 果 によれば, 機 体 メーカーとエンジンメーカーの 関 係 は 従 属 関 係 にはなく 独 立 した 関 係 にあり, 各 エンジンメ ーカーは, ボーイングとエアバスの 各 機 体 に 搭 載 が 可 能 になるようにエンジン 開 発 を 行 なう 150 席 以 上 の 中 大 型 機 になると, 例 外 はあるも のの 基 本 的 には 機 体 に 対 して 複 数 のエンジンが フィットするように 開 発 されている 51) こうし た 事 実 は, 機 体 メーカーとエンジンメーカーが 統 合 されておらず, 垂 直 的 に 分 離 した 企 業 間 関 係 を 構 築 していることを 裏 付 けるものといえ る < 以 下, つづく>

74 世 界 の 航 空 機 産 業 企 業 間 関 係 に 関 する 序 論 的 考 察 (1) 注 1) 第 1-1 図 では, EADS グ ルー プ とエ アバ ス (Airbus SAS) を 別 々に 示 しているが, 前 者 は 連 結 決 算 において 後 者 の 売 り 上 げを 含 んでいる 2) ここでの 記 述 は, 財 団 法 人 日 本 航 空 機 開 発 協 会 (2009b), Ⅸ-25ページの (3) 社 歴 とⅨ-26ペ ージの (7) 航 空 機 主 要 製 品 に 基 づく 3) 以 上 の 記 述 は, 財 団 法 人 日 本 航 空 機 開 発 協 会 (2009b), Ⅸ-31ページの (4) 社 歴 に 基 づく 4) 財 団 法 人 日 本 航 空 機 開 発 協 会 (2009b), Ⅸ-28ペ ージの (7) 事 業 部 門 に 基 づく 5) Raytheon の 2009 年 の ア ニ ュ ア ル レ ポ ー ト (http://media.corporate-ir.net/media_files/irol/84/8 4193/Raytheon_AR_2009/pdf/Raytheon_AR_09_Full_R eport.pdf) に 基 づく 6) SAS は, Société par Actions Simplifiée の 略 であり, 日 本 語 では, 単 純 型 株 式 資 本 会 社 と 訳 される 詳 しくは, 財 団 法 人 日 本 航 空 機 開 発 協 会 (2009b) の Ⅸ-38ページを 参 照 されたい 7) エアバスの 詳 細 な 歴 史 については, 同 社 の 日 本 語 版 ホームページ (http://www.airbusjapan.com/ corporate-information/history/) を 参 照 した 8) 財 団 法 人 日 本 航 空 機 開 発 協 会 (2009b), Ⅸ-43ペ ージの (4) 社 歴 とⅨ-54ページの (3) 概 況 に 基 づく 9) 財 団 法 人 日 本 航 空 機 開 発 協 会 (2009b), Ⅸ-51ペ ージの (3) フィンメカニカ グループ に 基 づ く 10) 最 終 納 入 年 については, ボーイングのホームペ ージ (http://active.boeing.com/commercial/orders/ index.cfm) を 参 照 した また, MD-11 の 生 産 は 2001 年 2 月 に 終 了 した (http://www.boeing.com/ commercial/md-11family/index.html を 参 照 ) 11) ミクロ 経 済 学 には, 古 典 的 な 複 占 モデルが 解 説 されている 数 量 競 争 であればクールノー 競 争, 価 格 競 争 ではベルトラン 競 争, 先 発 者 後 発 者 の 区 別 があるときにはシュタッケルベルグ 競 争 のモ デルと 呼 ばれる ボーイングとエアバスの 場 合 に, 受 注 実 績 が 極 めて 類 似 した 水 準 を 示 している 理 由 として 想 定 可 能 なのは, 両 社 が 相 手 先 企 業 の 受 注 実 績 を 観 察 して, それを 経 営 目 標 に 組 み 入 れてい るという 可 能 性 である その 場 合, クールノー モ デ ル で 想 定 さ れ て い る よ う に 推 測 的 変 動 (conjectural variation) はゼロではないと 想 定 され る シュタッケルベルグの 競 争 モデルのように, 先 発 者 と 後 発 者 がいながらも, ボーイングとエア バスがお 互 いを 先 発 後 発 として 反 復 計 算 を 繰 り 返 し, 収 束 した 結 果 が 年 あたりの 受 注 実 績 の 均 衡 になっている, という 可 能 性 もある クールノー 競 争 の 拡 張 については 洞 口 (2009) 第 7 章 を 参 照 されたい 12) 次 に, ボーイングの2000 年 から2009 年 の10 年 間 の 年 度 別 受 注 数 データとエアバスの1999 年 から 2008 年 の 年 度 別 受 注 数 データを 対 比 させて 相 関 係 数 を 計 測 すると0.3615であった 逆 に, エアバス の2000 年 から2009 年 の10 年 間 の 年 度 別 受 注 数 デー タとボーイングの1999 年 から2008 年 の 年 度 別 受 注 数 データを 対 比 させて 相 関 係 数 を 計 測 すると 0.5551が 得 られた つまり, エアバスは, ボーイ ングが 前 年 度 に 受 注 した 数 量 との 相 関 が 高 く, そ の 逆 の 場 合 に 相 関 は 低 かった 0.36から0.55への 相 関 係 数 の 増 加 が 無 視 できない 意 味 を 持 つとすれ ば, エアバスはボーイングの 残 余 需 要 の 影 響 を 受 けて 受 注 数 量 を 変 化 させている, という 可 能 性 が ある 13) 一 般 的 に 客 室 に 通 路 を 1 本 保 有 する 機 体 をナロ ーボディ 機, 2 本 保 有 する 機 体 をワイドボディ 機 という 詳 しくは, 山 崎 (2008) の134ページ, あ るいは 山 崎 (2010) の62ページを 参 照 されたい 14) 2011 年 4 月 20 日, 日 経 産 業 新 聞, 12ページ, 最 新 鋭 旅 客 機 787, パイロット 訓 練 を 開 始, 全 日 空, 年 度 内 に80 人 養 成 15) 2010 年 11 月 19 日, 日 経 産 業 新 聞, 14ページ, エアバス, 次 世 代 機 を 早 期 投 入, A350 13 年 下 期 引 き 渡 し, 受 注 積 み 上 げ 狙 う 16) エアバスへのインタビュー 調 査 は, 2009 年 11 月 5 日 ( 午 前 ), フランス トゥールーズ 市 内 のエアロ スペース ヴァレー アソシエーション (Aerospace Valley Association) への 訪 問 時, 約 1 時 間 (11:-00 ~12:00) 実 施 された インタビューは, 洞 口, 行 本, 神 原 の 3 名 によってエアバスのエアロストラ クチャー 分 野 の 調 達 部 門 担 当 者 に 対 して 行 われ た 17) エアバスへのインタビュー 調 査 (2009 年 11 月 5 日 ) での 訪 問 記 録 に 基 づく また, エアバスのホ ー ム ペ ー ジ (http://www.airbus.com/presscentre/ pressreleases/press-release-detail/detail/eadsairbus -completes-its-aerostructures-strategy/press-releas es/news-browse/5/) で 閲 覧 した2009 年 1 月 6 日 付 のプレスリリースには, イギリスにあるエアバス の 翼 用 部 品 組 立 製 造 部 門 が GKN エアロスペース (GKN Aerospace) 社 に 売 却 されたこと, その 売 却 によってエアバスのエアロストラクチャー 部 門 の 再 構 築 が 終 了 したことが 記 載 されている このプ レスリリースによれば, エアバスは, キャビンや 翼 などの 部 品 工 場 を 売 却 し, 強 固 なサプライヤ ー ネットワークを 構 築 することによって, コ ア ビジネスである 航 空 機 のアーキテクト アン ド インテグレーターに 集 中 することが 理 由 とし

経 営 志 林 第 48 巻 2 号 2011 年 7 月 75 て 掲 げられている 18) エアバスへのインタビュー 調 査 (2009 年 11 月 5 日 ) での 訪 問 記 録 に 基 づく 19) 同 上 20) ここでのパッケージというのは, 航 空 機 の 組 立 時, 直 接 他 の 部 品 やインターフェースとなる 部 分 と 組 み 合 わせて 使 用 できる 一 群 の 部 品 ないしは 一 連 の 業 務 などを 意 味 する 本 インタビューにおい ては, 発 注 先 への 注 文 量 ないし 業 務 分 担 に 相 当 す る 言 葉 として, パッケージ (package), またはワー ク パッケージ (work package) という 用 語 が 頻 繁 に 使 用 されていた 21) エアバスへのインタビュー 調 査 (2009 年 11 月 5 日 ) での 訪 問 記 録 に 基 づく 2008 年 9 月 19 日 付 け 日 経 産 業 新 聞, 4 ページには, エアバス, 英 工 場 を 売 却, GKN に, 部 品 生 産 は 継 続 という 見 出 しでエアバスは, 受 注 数 は 順 調 に 推 移 しているも のの, ユーロ 高 のあおりを 受 けて 同 社 の 収 益 は 伸 び 悩 んでいること, ヨーロッパ 域 内 では 他 にも 工 場 売 却 交 渉 を 進 めているが 難 航 していることが 指 摘 されている 22) エアバスへのインタビュー 調 査 (2009 年 11 月 5 日 ) での 訪 問 記 録 に 基 づく なお, 週 刊 エコノミ スト 毎 日 新 聞 社, 第 86 巻 第 24 号 (2008 年 4 月 22 日 号, 42-45ページ) に 掲 載 されているワイドイ ンタビュー, 航 空 機 製 造 はグローバルなビジネ スだ によれば, エアバス ジャパンのフクシマ 社 長 ( 現 取 締 役 会 長 ) は, エアバスにとって 米 国 企 業 は, 年 間 に 約 80 億 ドル 分 の 部 品 を 供 給 してく れる 最 大 のサプライヤーです と 述 べており, 調 達 のグローバル 化 に 触 れている 23) エアバスへのインタビュー 調 査 (2009 年 11 月 5 日 ) での 訪 問 記 録 に 基 づく 2006 年 11 月 7 日 付 け 日 本 経 済 新 聞 夕 刊, 3 ページには, エアバス, リストラ 策, 部 品 調 達 先 6 分 の 1 に 広 告 費 3 割 削 減 という 見 出 しでエアバスが, 超 大 型 旅 客 機 である A380 の 生 産 の 遅 延 による 費 用 増 のため, 部 品 調 達 などの 取 引 先 を 現 在 の 約 三 千 社 から 六 分 の 一 の 約 五 百 社 に 減 らす ことを 発 表 したこと が 報 じられている 24) エアバスへのインタビュー 調 査 (2009 年 11 月 5 日 ) での 訪 問 記 録 に 基 づく サプライチェーンマ ネジメント 戦 略 を 扱 うブログであるサプライ エ クセレンス (Supply Excellence) の WEB (http:// www.supplyexcellence.com/blog/2006/11/14/theinside-scoop-on-airbus-supplier-strategy/) 上 の2006 年 11 月 14 日 付 けの 記 事 によれば, 当 時 の EADS の 調 達 戦 略 担 当 副 社 長 (Vice President of Sourcing Strategy) であったマシアス グラモラ (Matthias Gramolla) 氏 は, 我 々の 意 図 は, サプライヤーを 業 界 や 当 社 のサプライチェーンから 追 い 出 すこと ではない しかし, 我 々は, システムや 機 材 など のサプライヤーをさらに 絞 り 込 み, それらのサプ ライヤーに 焦 点 を 当 てていきたい そして, ティ ア 1 に 属 するサプライヤーには, 全 体 的 な 体 系 や 自 分 たちをサポートするサブ ティア (sub-tier) のサプライヤーのマネジメントを 行 ってほしい と 述 べている 25) エアバスへのインタビュー 調 査 (2009 年 11 月 5 日 ) での 訪 問 記 録 に 基 づく 26) エ ア バス のホ ーム ペー ジ (http://www.airbus. com/fileadmin/media_gallery/files/supply world/pro curement-organisation-major-suppliers_261110.pdf# search='airbus Procurement Organization and Major Suppliers') で 利 用 可 能 となっている Procurement Organization and Major Suppliers (November, 2010) によれば, 2009 年 に 調 達 部 門 は 本 文 で 述 べられて いる 6 つの 分 野 に 再 編 された エアロストラクチ ャー 分 野 は 機 体 の 胴 体 や 翼 など 機 体 回 りの 大 きな 部 品, 材 料 分 野 はアルミニウムやチタンなどの 材 料, エクイップメント システム&サポート 分 野 は 電 気 システムやフライト コントロール シス テムなどのシステム 関 係, 推 進 システム 分 野 はエ ンジンやナセルなどの 周 辺 部 品, 客 室 分 野 はシー トや 照 明 などの 客 室 内 の 部 品, 一 般 調 達 分 野 は 情 報 技 術 や 投 資 やファシリティー マネジメントな どの 幅 広 い 業 務 を 取 り 扱 う 27) エアバスへのインタビュー 調 査 (2009 年 11 月 5 日 ) での 訪 問 記 録 に 基 づく インタビューに 際 し て, 口 頭 では2006 年 当 時 のエアバス フランスに おけるエアロストラクチャー 分 野 に 該 当 するティ ア 1 のサプライヤーは120 社 との 説 明 であったが, インタビュー 時 に 提 示 された 同 社 のパワーポイン ト 資 料 には123 社 と 記 載 されていたため, 本 稿 で は123 社 のほうを 採 用 した 28) エアバスへのインタビュー 調 査 (2009 年 11 月 5 日 ) での 訪 問 記 録 に 基 づく 29) 同 上 また, サプライヤーの 集 約 過 程 において, ティア 1 のサプライヤーが, 関 連 する 他 のサプラ イヤーとの 分 業 関 係 を 通 じて, ティア 2 に 位 置 付 けられるようになり, その 結 果 としてエアバスか らみたサプライヤー 数 が 削 減 されることになった 青 木 (2008) では, エアバスによる パワー 8 プ ログラム が2007 年 から 始 められたと 指 摘 されて おり, その 経 営 革 新 プログラムの 中 でサプライヤ ーの 集 約 化 が 行 われたという 30) エアバスへのインタビュー 調 査 (2009 年 11 月 5 日 ) での 訪 問 記 録 に 基 づく 31) 同 上 32) 同 上

76 世 界 の 航 空 機 産 業 企 業 間 関 係 に 関 する 序 論 的 考 察 (1) 33) 同 上 34) 同 上 35) アメリカドルによる 決 済 を 増 やすことを 意 味 す る 36) この 3 つのキーワードは, エアバスへのインタ ビュー 調 査 (2009 年 11 月 5 日 ) 時 に 提 示 された 同 社 のパワーポイント 資 料 に 基 づく 37) エアバスへのインタビュー 調 査 (2009 年 11 月 5 日 ) での 訪 問 記 録 に 基 づく 38) ただし, 周 知 の 通 り, 三 菱 重 工 業 は2008 年 に 三 菱 航 空 機 株 式 会 社 を 合 弁 出 資 により 設 立 し, リージョナルジェット 機 (MRJ) の 製 造 販 売 業 務 を 開 始 している 三 菱 航 空 機 株 式 会 社 にはトヨタ 自 動 車 も 出 資 しており, 自 動 車 産 業 との 連 携 も 図 られている ちなみに, ホンダは, 独 自 に 航 空 機 事 業 へ 進 出 し, アメリカにおいてホンダ エアク ラフト カンパニーを 設 立 して 小 型 ジェット 機 の 製 造 販 売 を 行 っている MRJ については 三 菱 航 空 機 株 式 会 社 のホームページ (http://www.mrj-japan. com/j/index.html), ホンダジェットについては, ホ ンダのホームページ (http://www.honda.co.jp/jet/) をそれぞれ 参 照 した 39) 株 式 会 社 IHI での 技 術 開 発 担 当 重 役 経 験 者 への インタビュー 調 査 は, 2009 年 12 月 21 日 (16:30~ 18:15) に 行 われた 訪 問 者 は, 洞 口, 行 本, 神 原 の 3 名 であった 40) IHI 全 体 の 売 上 高 は 連 結 ベースで 1 兆 3,880 億 円 であり, 従 業 員 数 は24,348 名 ( 単 独 では7,670 名 ) となっている 国 内 に 9 工 場, 22 支 社 営 業 所, 海 外 に13 事 務 所 がある 2008 年 度 の 売 上 高 ( 連 結 ) に 占 める 航 空 宇 宙 事 業 のシェアは22%であり, 陸 上 部 門 (エネルギー, 社 会 基 盤, 原 動 機 など) に 次 いでいる 41) 株 式 会 社 IHI へのインタビュー 調 査 (2009 年 12 月 21 日 ) での 訪 問 記 録 に 基 づく 42) 同 上 43) 同 上 44) 同 上 45) 同 上, 株 式 会 社 IHI へのインタビュー 調 査 によ れば, RSP の 場 合, 開 発 費 用 の 分 担 を 事 前 に 決 める わけであるが, 事 後 的 にコストがかさむようなこ とがあっても 比 率 を 変 えたりはしない 大 幅 なコ スト 増 加 要 因 があった 場 合 には, その 責 任 メーカ ーが 負 担 することが 基 本 であるが, 別 途 協 議 する こともある 46) 株 式 会 社 IHI へのインタビュー 調 査 (2009 年 12 月 21 日 ) での 訪 問 記 録 に 基 づく 47) 同 上 48) 同 上 49) 同 上 50) 同 上 51) 同 上