感 冒 治 療 への 新 たな 試 み ーー 新 型 インフルエンザへの 対 応 を 含 めてーー 中 醫 クリニック コタカ 小 髙 修 司 先 頃 のミャンマーのサイクロン 被 害 そして 四 川 省 を 中 心 とする 大 地 震 被 災 を 見 ても 政 治 が 災 害 時 に 如 何 に 大 きな 役 割 を 果 たすかを 改 めて 認 識 された 方 も 多 かったかと 思 われ る 防 災 に 於 いて 然 り 二 次 災 害 の 拡 大 阻 止 においてもまた 然 りである 歴 史 的 に 見 ても 政 治 的 に 安 定 している 時 は 人 民 は 供 薬 や 減 税 などの 恩 恵 を 受 けることが 出 来 るが 戦 乱 の 時 期 には 国 家 の 防 疫 体 制 も 不 十 分 となり 一 層 大 流 行 をすることになる 異 常 気 象 と 飢 饉 疫 病 の 三 者 は 相 互 に 密 接 な 関 連 を 有 するといえる アジア 各 地 で 鳥 インフルエンザの 拡 大 人 への 感 染 事 例 もたびたび 報 告 されており 我 が 国 においても 政 府 が 対 策 を 行 い 抗 ウイルス 薬 の 備 蓄 を 進 めているという 報 道 が 見 られ る 世 界 各 地 での 新 型 インフルエンザ 大 流 行 は スペイン 風 邪 など 歴 史 的 にもたびたび 見 られ ウイルス 感 染 に 対 し 未 だ 充 分 な 対 策 を 持 たない 医 療 の 現 状 を 考 えれば 新 たな 大 流 行 の 危 険 性 は 非 常 に 大 きいと 云 わざるをえない そういった 中 で 漢 方 薬 を 用 いての 対 策 を 検 討 することにも 大 きな 意 義 があろう 気 候 史 を 見 ると 漢 代 から 五 胡 十 六 国 時 代 迄 は 基 本 的 には 寒 冷 の 気 候 が 多 く 狭 義 の 傷 寒 病 に 対 する 治 療 が 奏 功 したと 考 えられる 従 って 太 平 聖 恵 方 巻 九 に 見 られるような 発 汗 剤 として 附 子 を 多 用 する 張 仲 景 の 原 傷 寒 論 の 治 法 は 有 効 であったと 考 えられる それに 対 し 隋 唐 宋 代 は 基 本 的 には 温 暖 多 雨 の 時 期 であり 温 熱 病 系 統 の 治 法 が 必 要 とされ 附 子 など 辛 温 薬 による 過 剰 発 汗 は 禁 忌 となっていた 気 候 条 件 の 変 化 につれて 感 染 症 への 対 応 のための 臨 床 書 である 傷 寒 論 も 治 法 の 変 化 が 必 要 とされ 宋 板 傷 寒 論 が 新 たに 生 み 出 されたと 云 える 現 代 日 本 で 見 られる 成 無 己 注 解 傷 寒 論 康 平 本 傷 寒 論 康 治 本 傷 寒 論 はいずれも 明 趙 開 美 刊 仲 景 全 書 に 収 載 の 宋 板 傷 寒 論 の 流 れを 引 くものであり 基 本 は 同 じく 温 熱 病 系 傷 寒 に 対 応 する 本 である しかし 温 暖 期 間 中 であっても 傷 寒 もしくは 時 行 寒 疫 に 罹 患 する 可 能 性 が 高 い 気 候 の 混 在 も 史 実 から 明 らかであり しかも 冷 飲 食 が 一 般 化 されている 現 代 日 本 にあっては 肺 や 胃 腸 など 裏 寒 状 態 を 持 つ 人 が 多 く 感 冒 時 の 臨 床 症 状 特 に 悪 寒 の 有 無 程 度 などの 履 歴 を 慎 重 に 問 診 しないと 治 療 を 誤 る 危 険 性 が 高 いと 云 えよう 隋 唐 代 以 前 の 用 薬 法 については 太 平 聖 恵 方 巻 二 に 詳 記 されている それによると 傷 寒 時 気 熱 病 大 熱 病 では いずれも 現 伝 の 傷 寒 論 が 多 用 する 桂 枝 人 參 かくらん おうえつ 附 子 は 使 われていない これらの 用 法 が 見 られるのは 霍 乱 と 嘔 噦 つまり 胃 腸 系 の 外 感 病 である 即 ち これらの 生 薬 を 汎 用 する 宋 板 傷 寒 論 六 経 の 基 本 病 態 は 霍 乱 吐 瀉 性 の 急 性 外 感 胃 腸 病 であるともいえる 傷 寒 = 腸 チフス 論 の 根 拠 であろう そもそも 霍 乱 の 基 本 病 態 は 何 か 隋 唐 代 の 医 学 を 残 している 医 心 方 卷 第 十 一 治 霍 乱 方 第 一 を 参 照 すると 葛 氏 方 に 云 うとして およそ 霍 乱 を 得 る 理 由 は 多 く 飲 食 に 起 因 する 或 る( 場 合 に)は 生 冷 の 物 を 飽 食 したり, 肥 鮮 酒 膾 の 物 をいろいろ 食 べ 合 わせ -1-
たりして 風 に 当 たり 湿 を 封 じ 込 めてしまい 薄 衣 をして 露 坐 したり 或 いは 覆 いも 掛 け ずに 夜 臥 した 結 果 なのである と やはり 冷 飲 食 や 過 食 による 宿 食 が 絡 んでいることが 明 記 されている この 病 態 が 現 在 の 日 本 の 状 況 に 多 くの 点 で 合 致 することは 明 らかであろう つまり 日 本 人 が 外 感 病 にかかれば 霍 乱 もしくはそれに 類 似 した 証 候 を 来 すことが 示 唆 さ れるのである 依 然 として 厚 労 省 情 報 では O-157 などの 胃 腸 型 伝 染 疾 患 が 頻 発 しており 単 なる 感 染 症 として 対 策 するのではなく こういった 背 景 因 子 を 併 せて 考 慮 すれば 治 療 と 予 防 に 役 立 つであろう 地 球 温 暖 化 が 喧 伝 されているように 気 候 自 体 は 温 暖 傾 向 にあり 通 常 ならば 風 温 病 に 対 処 することが 求 められるはずである しかし 冷 暖 房 の 普 及 はより 複 雑 な 生 活 環 境 を 生 む ことになり 時 行 寒 疫 などを 生 じる 一 方 では 飽 食 の 時 代 にあって 一 般 化 している 冷 飲 食 は 冷 飲 傷 肺 冷 飲 傷 胃 を 生 み 基 本 体 質 として 肺 脾 気 虚 や 留 飲 宿 食 が 広 く 見 られる こういった 意 味 から 宋 板 傷 寒 論 を 踏 まえつつも 更 に 個 人 の 裏 寒 状 態 に 応 じた 狭 義 の 傷 寒 に 対 する 治 法 も 必 要 となる つまり 附 子 や 辛 温 薬 の 配 慮 である ここで 留 意 しておくべきことは 暑 がり 多 汗 の 人 が 裏 熱 状 態 にあると 誤 解 され ることである 裏 寒 状 態 がひどいほど 虚 陽 上 浮 ( つまり 格 陽 戴 陽 ) の 理 論 から 陽 気 が 浮 いて 暑 がりになるし また 衛 気 の 虚 弱 により 多 汗 を 呈 するのである 一 般 には この 裏 熱 にあるという 誤 解 錯 覚 によりますます 冷 飲 過 多 冷 房 過 多 になり 一 層 裏 寒 が 進 行 するという 悪 循 環 を 呈 するのである 私 が 勧 めている 感 冒 時 の 対 処 法 を 挙 げていこう 初 めに 咽 頭 痛 や 軽 い 悪 寒 ( 悪 風 )によ り あれっ カゼ 引 いたかな と 思 ったり この 時 に 脈 診 の 心 得 があれば 右 寸 脈 に 浮 脈 が 見 られるといった 事 態 に 先 ず 用 いるのは 当 院 で 風 寒 膏 風 熱 膏 と 呼 んでいる 軟 膏 である これは 小 児 や 学 童 妊 産 婦 などは 感 冒 流 行 時 には 予 防 的 に 外 出 前 に 使 うことで も 効 果 が 見 られる これは 千 金 要 方 巻 九 傷 寒 上 傷 寒 膏 第 三 に 出 てくる 青 膏 方 など を 参 考 にした 自 製 薬 である 共 に 両 列 缺 穴 と 大 椎 穴 に 極 少 量 ずつ 塗 布 する 自 験 でも 夜 間 咽 頭 痛 で 目 覚 めたときなどに 枕 頭 に 置 いてある 軟 膏 を 睡 眠 の 合 間 に 繰 り 返 し 塗 布 すれ ば 翌 朝 治 っていることが 多 い 軟 膏 を 塗 っていてもしっかり 引 き 込 んでしまった 場 合 には 五 分 程 度 煎 じる 所 謂 振 り 出 し 薬 を 用 いる 約 束 処 方 の 生 薬 を 粗 末 化 してティーバッグ 状 態 で 用 意 しておく 先 ず 風 寒 1, 2 日 に 使 用 する 当 院 で 聖 桂 枝 湯 と 呼 ぶ 処 方 を 用 いる 本 方 の 出 典 は 太 平 聖 恵 方 巻 九 の 桂 枝 湯 である 処 方 内 容 は: 炮 附 子 麻 黄 桂 皮 乾 生 姜 炙 甘 草 を 粗 末 として 1 包 12 g 葱 白 2 茎 を 加 え 煎 じる 風 熱 による 感 冒 ならば 強 い 咽 喉 痛 や 発 熱 を 主 症 状 とするであろう その 場 合 は 同 じく 太 平 聖 恵 方 巻 十 七 熱 病 候 の 第 一 日 の 種 々の 処 方 を 勘 案 した 熱 1 病 方 を 用 いる 内 容 は : 麻 黄 石 膏 柴 胡 淡 豆 豉 赤 芍 葛 根 白 芷 山 梔 子 炒 黄 芩 乾 生 姜 桂 皮 甘 草 を 粗 末 とした 一 包 20gに 葱 白 15cmを 加 え 煎 じる 但 し 咽 頭 痛 がさほどひどくなく しか も 悪 風 悪 寒 も 伴 う 場 合 は 先 ず 聖 桂 枝 湯 を 用 いた 方 がよい 熱 病 に 辛 温 作 用 を 持 つ 葱 白 を 用 いる 理 由 は 明 らかではないが 発 汗 を 促 すことで 解 熱 に 向 かわせること(や 調 胃 )が 考 えられる それは 熱 病 で 数 日 経 過 後 に 下 法 による 治 療 を 要 する 熱 2 病 方 には 葱 白 を 用 いないことからも 推 測 しうる 熱 2 病 方 : 熱 1 病 方 加 人 参 微 炒 大 黄 水 牛 角 を 粗 末 として 用 いる 葱 白 不 用 -2-
数 日 毎 に 対 応 する 方 剤 をこまめに 決 めてあるが 特 に 有 効 なのは 風 寒 病 が 長 引 いて4,5 日 以 上 経 過 したものに 用 いる 聖 蒼 朮 散 である 咳 嗽 喘 鳴 胸 腹 部 の 脹 満 感 四 肢 の 痛 み 悪 寒 発 熱 などが 適 応 症 状 である 聖 蒼 朮 散 : 蒼 朮 前 胡 葛 根 桑 白 皮 升 麻 赤 芍 石 膏 荊 芥 黄 芩 を 粗 末 として15 gを 採 り 乾 生 姜 と 淡 豆 豉 を 加 え 一 包 とする 忘 れてならない 感 冒 薬 に 藿 香 正 気 散 が 有 る 上 記 したように 基 本 的 に 留 飲 宿 食 を 持 つ 人 が 多 いと 考 えられる 現 代 日 本 では 嘔 吐 下 痢 腹 痛 などの 腹 部 症 状 を 感 冒 の 主 症 状 とする 場 合 も 多 く 本 方 は 良 く 奏 功 する 当 院 では 夏 冬 で 多 少 内 容 を 変 えているが 夏 用 の 処 方 を 呈 示 する 藿 香 正 気 散 ( 夏 用 ): 藿 香 蘭 草 香 薷 荷 葉 大 腹 皮 白 芷 蘇 葉 蘇 梗 乾 生 姜 茯 苓 白 朮 半 夏 麯 厚 朴 陳 皮 桔 梗 甘 草 を 粗 末 として 一 包 6gとする また 留 意 すべきこととして 肺 と 大 腸 は 表 裏 関 係 にあり 大 腸 が 気 の 阻 通 に 起 因 する 便 秘 状 態 にあっては 肺 疾 患 ( 感 冒 も 含 む)は 治 りにくいことがあげられる 肺 の 粛 降 作 用 を 主 る 多 くの 生 薬 は 緩 下 作 用 を 持 っていることを 見 れば 納 得 がいこう 感 冒 罹 患 後 数 日 経 って 便 秘 状 態 がある 場 合 特 に 未 だ 表 邪 による 症 状 が 残 っている 場 合 は 表 裏 双 方 を 併 せ 治 療 する 必 要 がある 留 飲 宿 食 がある 場 合 は 発 汗 法 でなく 下 法 を 優 先 すべきとの 論 からも 本 方 の 適 応 は 大 きいであろう 南 通 市 の 名 医 朱 良 春 老 師 の 創 方 である 表 裏 双 解 散 を 用 いる 表 裏 双 解 散 : 白 僵 蚕 蝉 退 甘 草 大 黄 皀 角 ( 皀 莢 ) 姜 黄 (= 欝 金 ) 烏 梅 滑 石 の 粉 末 を 混 合 した 散 薬 を 藿 香 薄 荷 の 煎 薬 に 適 宜 大 根 汁 を 混 ぜ 服 用 する 散 薬 量 は 成 人 で 4-6 g ( 分 二 ) 体 弱 者 は 減 量 する 小 児 は 10 歳 で 2 g 2-5 歳 は 0. 5-1 gである 但 し 悪 寒 が 発 熱 より 強 い 場 合 は 使 用 してはならない 次 にかって 中 国 で SARS 騒 動 の 時 各 地 の 老 中 医 達 が 発 表 した 処 方 を 参 考 に 作 った 方 剤 を 挙 げておこう 悪 寒 発 熱 の 両 方 に 対 応 できるので 当 院 では 治 風 寒 内 熱 散 と 呼 ん でいる 治 風 寒 内 熱 散 : 金 銀 花 連 翹 蝉 退 白 僵 蚕 蒼 朮 麻 黄 杏 仁 桔 梗 淡 豆 豉 滑 石 炒 甘 草 を 混 合 粗 末 にし 一 包 18 g 3 p / 日 表 裏 双 解 散 の 用 薬 法 と 近 似 していること にお 気 づきでしょうか 以 上 常 用 の 振 り 出 し 感 冒 薬 について 記 してきたが 新 型 インフルなど 強 烈 な 病 原 力 を 持 つものに 対 しては やはり 煎 薬 などで 強 力 に 対 処 する 必 要 がある 傷 寒 論 薬 方 の 一 銭 を 通 常 の 3g 換 算 ではなく 古 代 薬 量 による 15g 換 算 で 対 処 する 方 法 もあろうが 全 く 異 なる 理 論 によるものも 配 慮 すべきであろう それが 温 滋 潜 陽 法 ( 温 潜 法 ) の 考 えを 取 り 入 れた 方 法 である 温 潜 法 を 多 用 する 医 師 達 を 中 医 火 神 派 と 総 称 することがあるが その 代 表 の 一 人 祝 味 菊 ( 1884-1951 )の 医 案 集 (1) を 繙 いてみると 附 子 の 用 法 は 磁 石 などと 組 み 合 わせ ることで 温 滋 潜 陽 (= 温 潜 )するという 理 論 に 基 づいている 上 記 した 太 平 聖 恵 方 巻 九 などに 見 られる 附 子 の 用 法 については 神 農 本 草 経 な どの 古 代 本 草 書 に 見 られる 附 子 類 の 薬 能 を 見 ると 理 解 しうる そこには 附 子 類 が 温 裏 作 用 理 論 ではなく 種 々の 外 邪 に 対 応 する 作 用 を 持 っていることも 明 記 されている 附 子 : 味 辛 温 生 山 谷 治 風 寒 欬 逆 邪 氣 温 中 金 瘡 破 癥 堅 積 聚 血 瘕 寒 濕 踒 躄 拘 -3-
攣 膝 痛 不 能 行 歩 烏 頭 : 一 名 奚 毒 一 名 即 子 一 名 烏 喙 味 辛 温 生 山 谷 治 中 風 惡 風 洗 洗 出 汗 除 寒 濕 痺 欬 逆 上 氣 破 積 聚 寒 熱 其 汁 煎 之 名 射 罔 殺 禽 獸 天 雄 : 一 名 白 幕 味 辛 温 生 山 谷 治 大 風 寒 濕 痺 歴 節 痛 拘 攣 緩 急 破 積 聚 邪 氣 金 瘡 強 筋 骨 輕 身 健 行 更 に 天 雄 には 日 華 子 本 草 ( 968 四 明 日 華 子 撰 ) 巻 第 九 に 消 風 痰 下 胸 膈 水 発 汗 止 陰 汗 とある このように 附 子 類 の 薬 能 には 風 邪 寒 邪 湿 邪 に 対 応 し 発 汗 止 汗 作 用 があることが 理 解 できる 附 子 類 のこういった 薬 能 を 念 頭 に 置 いて 以 下 の 祝 味 菊 の 医 案 を 見 れば 彼 が 考 えた 以 上 に 幅 広 い 理 論 展 開 が 出 来 よう 症 例 陳 女 士 初 診 1939 年 7 月 1 日 症 状 : 悪 寒 発 熱 汗 出 でて 彻 (= 徹 )まらず 下 痢 腹 満 おさ 現 症 : 舌 苔 白 膩 脈 沈 緊 辨 証 : 涼 風 犯 表 生 冷 傷 中 営 衛 不 和 脾 失 運 化 治 法 : 辛 温 淡 化 ( 解 表 温 裏 ) 処 方 : 蒼 朮 15g 羌 活 9g 葛 根 9g 大 腹 皮 12g 茯 苓 ( 帯 皮 ) 18g 姜 半 夏 15g 香 薷 3g ( 後 入 ) 薤 白 9g 桂 枝 6g 黄 附 片 15g 乾 姜 9g 霊 磁 石 30g 炒 沢 瀉 9g x3t むさ おか 解 説 時 はまさに 盛 夏 であり 凉 を 貪 ぼり 飲 み 物 で 冷 やしたために 涼 風 が 表 を 干 し やぶ 生 冷 が 中 を 傷 り と 表 裏 共 に 傷 つけられた 香 薷 (= 夏 の 麻 黄 といわれる ) 桂 枝 葛 根 羌 活 で 葛 根 湯 の 方 意 を 含 んで 解 表 作 用 そして 黄 附 片 乾 姜 薤 白 と 磁 石 で 温 潜 し 蒼 朮 半 夏 茯 苓 沢 瀉 で 化 湿 する 温 陽 薬 による 発 汗 作 用 は より 速 やかな 解 熱 に 効 果 があったと 考 えられる 3 日 間 の 服 薬 であることに 留 意 したい 7-4 症 状 : 肌 熱 平 下 痢 も 癒 えた 汗 多 し 四 肢 しびれ 現 症 : 舌 苔 膩 脈 細 緩 治 法 : 再 び 温 潜 淡 化 処 方 : 霊 磁 石 30g 黄 附 片 18g( 先 煎 ) 朱 茯 神 18g 酸 棗 仁 24g 茯 苓 ( 帯 皮 ) 18g 姜 半 夏 15g 大 腹 皮 12g 仙 霊 脾 12g 乾 姜 6g 上 肉 桂 4.5g 炒 茅 朮 15g 砂 仁 9g 牡 蛎 30g 解 説 解 熱 止 痢 したので 解 表 薬 は 去 るも なお 温 裏 化 湿 薬 は 残 す 多 汗 で 四 肢 しびれ は 表 衛 不 固 による 漏 汗 であり 津 液 損 傷 し 筋 脈 は 濡 養 を 失 したことによる 傷 寒 論 辨 太 陽 病 脉 證 并 治 上 第 五 の 以 下 の 条 文 が 参 考 になる 太 陽 病 發 汗 し 遂 に 漏 じて 止 まらず 其 の 人 惡 風 し 小 便 難 く 四 肢 微 急 し 屈 伸 以 てし 難 き 者 は 桂 枝 加 附 子 湯 之 を 主 る 牡 蛎 は 止 汗 と 共 に 潜 陽 を 兼 ねる 牡 蛎 と 共 に 附 子 の 止 汗 作 用 を 採 る 桂 枝 加 附 子 湯 の 考 えを 引 用 していると 本 書 の 編 集 者 は 論 じているが 私 は 多 量 の 附 子 を 夏 季 に 3 日 間 も 用 いたことによる 発 汗 過 多 も 考 える べきと 思 う 従 ってこの 段 階 でさらに 止 汗 作 用 を 期 待 して 附 子 を 再 び 多 量 に 用 いることは 危 険 であったと 考 える 他 のところで 止 汗 の 目 的 で 白 芍 を 用 いると 云 っている 祝 味 菊 が ここでは 肉 桂 は 使 っているが 桂 枝 も 白 芍 も 用 いていず 桂 枝 湯 の 雰 囲 気 がない しかも 香 薷 羌 活 葛 根 桂 枝 と 初 診 で 用 いた 解 表 薬 を 全 て 使 っていないのは 祝 味 菊 自 身 にはこ この 用 法 の 理 論 に 編 集 者 が 解 説 するような 止 汗 を 目 的 とする 桂 枝 加 附 子 湯 の 考 えは 無 く 温 潜 法 と 安 神 祛 痰 の 組 み 合 わせによる 対 処 であったと 思 われる もちろん 附 子 の 止 汗 作 -4-
用 を 完 全 に 否 定 するものではないが 次 に 無 汗 で 高 熱 持 続 する 症 例 を 他 医 が 温 熱 病 による 菌 血 症 と 誤 診 して 治 療 し 腸 管 の 壊 死 脱 落 のため 潰 瘍 出 血 穿 孔 を 起 こした 症 例 に 対 し 祝 味 菊 が 行 った 治 療 である 一 般 ならば 大 量 の 清 熱 解 毒 薬 を 用 い 対 処 すると 思 われる 症 例 に 対 して 彼 は これは 傷 寒 病 の 極 期 であり 人 体 の 正 気 は 漸 く 虚 となっており ここで 清 法 を 行 えば 一 層 正 気 を 損 傷 する として 下 記 の 治 療 を 行 った 症 例 徐 夫 人 初 診 11 月 29 日 症 状 : 肌 熱 2 周 熾 ん 無 汗 神 衰 不 眠 現 症 : 苔 白 脈 息 虚 数 辨 証 : 気 陽 素 虚 心 力 不 足 寒 邪 外 干 営 衛 不 調 虚 陽 上 浮 病 名 : 傷 寒 治 法 : 扶 陽 強 心 兼 調 営 衛 処 方 : 霊 磁 石 60g( 先 煎 ) 酸 棗 仁 30g( 打 先 煎 ) 桂 枝 6g( 後 下 ) 竜 歯 30g( 先 煎 ) 黄 附 片 18g( 先 煎 ) 姜 半 夏 18g 朱 茯 神 18g 水 炙 麻 黄 4.5g 生 茅 朮 15g 藿 梗 9g 大 腹 皮 12g 乾 姜 6g 欝 金 9g x1 T 解 説 麻 黄 桂 枝 で 発 汗 することで 体 温 を 適 当 な 状 態 に 保 たせ 身 体 の 気 機 の 方 向 を 外 に 向 かわしめて 腸 部 の 充 血 や 炎 症 を 減 らす 附 子 や 酸 棗 仁 は 人 体 の 免 疫 力 の 向 上 自 然 療 能 に 役 立 つ と 記 す 磁 石 竜 歯 と 共 に 用 いることで 温 滋 潜 陽 することをこのように 解 釈 するという 意 味 であろう 11-30 症 状 : 汗 出 でて 解 熱 胸 悶 して 悪 心 現 症 : 苔 膩 脈 息 虚 にしてやや 緩 辨 証 : 営 衛 較 和 中 陽 未 化 治 法 : 再 び 強 心 和 営 兼 理 三 焦 処 方 : 去 藿 梗 大 腹 皮 加 厚 朴 花 4.5g 白 豆 蔲 6g( 後 入 ) もう 一 例 提 示 する 74 歳 だが 元 来 が 稟 賦 強 く 身 体 健 康 な 老 人 ある 日 突 然 傷 寒 発 熱 し 医 者 は 辛 温 薬 を 投 じたが 症 状 の 改 善 無 く 逆 に 増 悪 熱 はひどく 煩 燥 口 渇 する 六 脈 は 洪 実 であり 終 日 譫 妄 状 態 である 家 族 皆 心 配 し 再 び 診 察 を 乞 う その 医 者 が 言 うのには これは 温 病 であ る 恐 らくその 病 は 心 包 に 入 り 痙 厥 の 変 であろう と そして 銀 翹 散 加 減 を 処 方 し 二 帖 服 用 したが 全 く 効 果 無 く 患 者 も 不 安 になりますます 狂 妄 となった そこで 医 者 を 替 え はいだつ 意 見 を 聞 くと 患 者 は 高 齢 で 病 状 が 重 いのだから 擺 脱 の 変 ( 擺 : 揺 らぐ)を 慎 重 に 防 が なければならない として 潜 陽 の 薬 を 投 与 したが またも 無 効 であった そこで 祝 老 師 の 噂 を 聞 いて 診 察 をお 願 いした 患 者 は 元 々 体 質 は 強 健 であり 桂 枝 湯 を 服 したのだが 陽 明 に 転 入 したので 白 虎 湯 を 用 いるべきなのだ もし 体 質 虚 弱 者 ならば 人 参 を 加 えて 白 虎 加 人 参 湯 を 用 いるのも 良 いであろう しかし 病 も 遷 延 して 日 数 が 経 過 し ているが 幸 い 患 者 の 正 気 は 未 だ 虚 になっていないので 大 剤 を 以 て 速 やかに 病 邪 を 押 さ え 込 むべきである と 云 い 次 の 処 方 を 出 した 処 方 : 生 地 黄 30g 石 膏 30g 知 母 12g -5-
家 人 達 はこの 処 方 を 見 て 異 を 唱 えた 祝 先 生 は 温 熱 薬 を 沢 山 使 うことで 有 名 な 人 なの に ここでは 多 量 の 寒 涼 薬 を 使 うのは 解 せない 患 者 は 老 齢 でもあり 有 害 なのではないか と 祝 先 生 曰 く 私 が 温 陽 薬 を 多 用 するのは 近 頃 は 陽 虚 の 人 が 多 いからである この 患 者 は 素 体 頑 健 であり 熱 も 高 く 清 熱 して 邪 を 押 さえ 込 まなければならない 安 心 して 服 用 させなさい と 果 たして 一 剤 服 用 して 熱 も 下 がり 初 め 二 剤 で 解 熱 し 精 神 も 清 らかに なり 三 剤 で 立 って 歩 けるほどになった 通 常 の 感 冒 ではなく 新 型 インフルエンザのような 病 毒 が 強 い 感 染 症 にかかれば 発 熱 や 意 識 障 害 など 重 篤 な 状 態 に 陥 る 可 能 性 は 高 い 上 記 にもあるように 通 常 こういった 場 合 温 病 学 派 の 考 えによる 熱 入 心 包 論 或 いは 湿 熱 が 痰 を 挟 んで 清 竅 を 犯 す 論 胃 熱 が 心 に 乗 じる 論 が 採 用 され 治 療 には 清 法 が 多 用 されることが 多 いと 思 われる しかしその 際 祝 味 菊 の 考 えの 清 法 は 誤 りであり 表 邪 を 発 散 するには 不 利 で かえ って 熱 をひどくする という 考 えも 念 頭 に 置 いて 対 処 する 必 要 があろう 彼 が 用 いたよう な 麻 黄 桂 枝 で 辛 温 発 散 し 附 子 磁 石 で 温 滋 潜 陽 ( 温 潜 )し 蒼 朮 半 夏 で 中 陽 を 宣 発 して 麻 黄 桂 枝 を 助 け 表 に 達 せしむる こういった 配 慮 を 念 頭 に 置 き 対 処 しようではない か 高 熱 意 識 障 害 下 痢 など 様 々な 対 応 が 求 められる 病 態 の 患 者 が 現 れる 可 能 性 が 高 い のだから 特 に 真 寒 仮 熱 で 発 熱 を 来 す 患 者 には 漢 方 の 清 熱 解 毒 薬 も 西 洋 薬 の 鎮 痛 解 熱 剤 も 病 状 を 悪 化 させることを 常 に 忘 れてはならない 正 確 な 辨 証 を 行 うべく 日 頃 より 修 練 することが 大 事 である 文 献 1, 招 萼 華 主 編 : 祝 味 菊 医 案 経 験 集 pp.63-106 上 海 科 学 技 術 出 版 社 2007 上 海 -6-