提 出 日 : 平 成 27 年 6 月 30 日 聖 徳 大 学 大 学 院 博 士 前 期 課 程 通 信 教 育 課 程 保 育 者 養 成 カリキュラムにおける 折 り 紙 指 導 の 位 置 づけ 養 成 校 の 現 状 調 査 を 基 にして Placement of Origami Instruction in Training Curricula for Child Care Workers -Based on Investigations of the Current Conditions in Training Schools- 児 童 学 研 究 科 保 育 学 領 域 2001134009 梨 本 竜 子
1. 研 究 の 背 景 動 機 折 り 紙 は 我 が 国 の 幼 児 教 育 の 初 めから 保 育 内 容 に 取 り 入 れられてきた 明 治 9 年 日 本 初 の 幼 児 教 育 施 設 である 東 京 女 子 師 範 学 校 附 属 幼 稚 園 が 設 立 された その 際 フレーベ ルの 恩 物 のひとつ 手 技 として 導 入 されたヨーロッパにおける 伝 承 折 り 紙 である Falten 訳 して 摺 紙 (しょうし)と 日 本 に 古 来 からあった 畳 紙 (たたみがみ) とが 融 合 し 1) 現 在 に 至 るまで 幼 児 教 育 保 育 の 中 で 日 常 的 に 行 われている 活 動 である 明 治 より 以 前 から 我 が 国 では 子 どもの 遊 びとしてだけではなく 男 女 を 問 わず 成 人 老 人 に 至 るまで 広 く 紙 を 折 ることに 親 しんできた しかし 子 どもの 遊 びの 多 様 化 や 生 活 様 式 の 変 化 に 伴 い 現 代 では 保 育 の 場 以 外 での 折 り 紙 は 一 部 の 成 人 や 子 どもの 趣 味 遊 びに 留 まり 一 般 的 には 減 少 してきているように 思 われる 私 は 現 在 大 学 短 期 大 学 部 の 保 育 者 養 成 課 程 に 勤 務 しているが 幼 稚 園 教 諭 保 育 士 を 志 望 する 学 生 も 幼 児 期 以 降 に 折 り 紙 遊 びをした 経 験 があまりなく 保 育 者 養 成 校 に 入 学 して あらためて 折 り 紙 に 触 れ ることになる 者 が 多 数 いると 感 じている また 嘗 て 自 分 自 身 が 保 育 者 だった 頃 の 体 験 であるが 同 じ 園 で 勤 務 していた 保 育 者 の 間 でも 出 身 の 養 成 校 によって その 学 生 時 代 に 折 り 紙 がどの 程 度 どのように 指 導 され たかには かなりのばらつきがあるように 思 われた 養 成 校 において 熱 心 な 指 導 を 受 けて きた 保 育 者 は 折 り 紙 をよく 保 育 に 取 り 入 れていた よって 養 成 校 の 教 育 は 保 育 者 の 子 どもへの 折 り 紙 指 導 にも 影 響 を 与 えていると 考 えられる 本 来 折 り 紙 は 人 から 人 への 伝 達 指 導 を 伴 って 伝 えられてきた 文 化 である 私 は 文 化 の 伝 承 といった 意 味 からも 保 育 者 となる 者 はその 養 成 課 程 において 自 らが 折 り 紙 を 折 ることを 経 験 し 且 つ 子 どもへの 指 導 法 を 学 んでおく 必 要 性 があるのではないかと 考 えて いる 2. 研 究 の 目 的 と 意 義 フレーベルの 恩 物 の 中 で 我 が 国 の 保 育 内 容 として 現 在 も 残 っているものは 少 ない 折 り 紙 も 大 正 期 の 自 由 を 尊 重 する 教 育 の 中 で 模 倣 性 の 強 いものであり 子 どもの 創 造 する 力 を 育 てないと 誤 解 され 排 除 されていった 時 期 があったのである 2) しかしながら 現 在 ではまた 保 育 内 容 として 復 活 しているといえる 折 り 紙 が 以 前 に 比 べ 一 般 社 会 の 生 活 の 中 で 伝 承 されなくなっていながらも 保 育 内 容 に 取 り 入 れられ 続 けているのは その 教 i
育 的 価 値 が 高 く 認 められているためと 推 察 される それならば 保 育 者 養 成 カリキュラム においてその 教 授 法 が 確 立 されて 然 るべきであると 考 える これまで 幼 児 教 育 における 折 り 紙 遊 びの 有 用 性 を 論 じたもの 3 )4)5) や 保 育 者 養 成 課 程 における 折 り 紙 指 導 を 体 系 化 することについての 提 言 6) はある しかし 現 在 保 育 者 養 成 校 においてどの 程 度 どのように 折 り 紙 が 指 導 されているのかについて 調 査 報 告 した ものは 見 当 たらないのである 本 研 究 では 現 在 各 保 育 者 養 成 校 では どのような 科 目 の 中 でどの 程 度 折 り 紙 が 取 り 入 れられているのかの 現 状 を 把 握 した 上 で 保 育 者 養 成 課 程 における 折 り 紙 指 導 のあり 方 に ついて 考 察 することを 目 的 とする 3. 研 究 の 方 法 と 目 標 (1) 先 行 研 究 および 文 献 により 日 本 文 化 と 折 り 紙 の 関 係 性 及 び 保 育 における 折 り 紙 遊 びの 歴 史 的 経 緯 とその 意 義 について 明 確 にする (2) 保 育 学 生 に 対 するアンケート 調 査 を 実 施 し 大 学 入 学 以 前 の 折 り 紙 経 験 についての 実 態 を 把 握 する ( 対 象 数 :258 名 ) (3) 保 育 者 養 成 校 に 対 するアンケート 調 査 を 実 施 し どのような 科 目 の 中 でどの 程 度 折 り 紙 が 取 り 入 れられているのか どの 程 度 の 必 要 感 を 持 って 取 り 入 れられているのかの 現 状 について 分 析 する ( 対 象 数 :200 件 ) (4) 長 年 に 渡 り カリキュラムに 折 り 紙 を 導 入 している 実 績 のある 保 育 者 養 成 課 程 ( 聖 徳 大 学 )の 授 業 担 当 者 にインタビューを 実 施 し どのように 指 導 されているのかや 指 導 の 効 果 について また 保 育 者 養 成 課 程 における 折 り 紙 指 導 の 位 置 づけについてのご 意 見 を 伺 う (5) 上 記 の 結 果 を 基 に 保 育 者 養 成 課 程 における 折 り 紙 指 導 のあり 方 について 考 察 する 4. 本 論 文 の 構 成 および 研 究 結 果 第 1 章 においては 日 本 における 折 り 紙 の 歩 みについて 述 べている 折 り 紙 は 日 本 固 有 のものと 思 われがちだが 中 国 やヨーロッパにも 古 い 時 代 の 折 り 紙 作 品 が 見 つかっている しかし 日 本 のように 広 く 厚 い 層 に 浸 透 している 国 は 他 にないと 言 える 日 本 の 風 土 が 育 んだ 紙 への 親 さと 折 り 畳 むことに 美 学 を 見 出 した 日 本 人 の 感 性 が 豊 かな 折 り 紙 造 形 へ とつながっていったと 考 えられるのである 7) ii
日 本 の 折 り 紙 の 発 祥 時 期 は 不 明 だが 室 町 時 代 にはすでに 小 笠 原 流 に 代 表 される 礼 法 折 り 紙 が 整 えられていた 折 り 鶴 をはじめとする 遊 戯 折 り 紙 が 生 まれたのは 紙 の 生 産 量 が 増 えた 江 戸 時 代 になってからである その 頃 から 折 り 紙 は 庶 民 にも 親 しまれるようになった 明 治 時 代 にはヨーロッパの 折 り 紙 が 幼 稚 園 に 導 入 され 小 学 校 の 手 工 科 でも 教 えられるよ うになったのである その 後 大 正 期 の 創 意 工 夫 を 重 視 する 教 育 界 では 折 り 紙 は 子 ども の 創 造 能 力 を 育 てないとされ 模 倣 性 の 強 いものとして 排 除 されていった しかし 戦 後 保 育 の 中 では 教 育 的 意 義 が 見 直 され 現 在 では 世 界 各 地 に 紙 の 芸 術 ORIGAMI とし ても 広 まっているのである 8) 第 2 章 では 折 り 紙 の 教 育 的 意 義 について 先 行 研 究 から 検 証 した フレーベルが 保 育 内 容 として 折 り 紙 を 取 り 入 れたのは 幾 何 学 的 直 観 を 養 うためであった 今 日 では 折 り 紙 を 通 して 育 つものとして 指 先 の 巧 緻 性 図 形 の 認 識 力 美 的 情 操 性 集 中 力 創 造 性 等 それ 以 外 の 教 育 的 価 値 も 多 数 見 出 されている 9) 中 でも 創 造 性 については 折 り 紙 は 模 倣 性 の 強 い 活 動 であるため 創 造 性 に 乏 しい とする 考 えはなくなってきていると 言 って 良 い また 誰 かと 共 に 折 ることで コミュニケーションの 媒 体 となることや 遊 びとし て 達 成 感 や 満 足 感 情 緒 の 安 定 を 図 る 意 義 もあると 考 えられるのである 第 3 章 では 保 育 者 養 成 課 程 における 折 り 紙 指 導 の 現 状 について 学 生 養 成 校 へのア ンケート 調 査 および 授 業 担 当 者 へのインタビューの 結 果 を 基 に 考 察 した 学 生 へのアンケート 調 査 の 結 果 から 折 り 紙 の 経 験 はやはり 幼 児 期 から 小 学 校 低 学 年 に 限 られており 長 く 折 り 紙 に 触 れていない 者 が 多 いことがわかった 家 庭 内 では 大 人 から 伝 達 される 機 会 よりも 自 分 で 本 をみて 折 ることの 方 が 多 いという 結 果 であった そのため 幼 児 の 折 り 紙 遊 びを 支 援 するには 学 生 自 身 が 折 り 紙 を 折 る 経 験 をし 折 り 方 の 技 能 を 身 につける 必 要 性 があると 考 えられる また 学 生 は 保 育 所 幼 稚 園 での 実 習 を 経 験 するこ とにより 幼 児 に 教 える 力 の 不 足 を 感 じたり 保 育 技 術 の 向 上 を 目 指 したりするようにな る その 上 でそうした 力 を 向 上 できる 内 容 の 授 業 を 望 んでいることが 感 じられた 養 成 校 へのアンケート 調 査 の 結 果 から 多 くの 養 成 校 では 授 業 において 何 らかの 形 では 折 り 紙 を 取 り 入 れていることがわかった そして 授 業 に 取 り 入 れることの 必 要 性 は 感 じ ているのであるが それは 学 生 自 身 が 幼 児 期 以 来 して 来 なかった 折 り 紙 という 文 化 に 触 れ る 経 験 の 必 要 性 であると 考 えられる 授 業 内 で 折 り 紙 の 教 育 的 意 義 についてや 幼 児 への 指 導 法 を 系 統 的 に 教 授 する あるいは 学 生 に 考 えさせる 必 要 性 を 感 じるまでには 至 っていな い 養 成 校 が 多 いのではないかと 推 察 される 保 育 者 養 成 課 程 で 学 ぶ 表 現 技 術 系 科 目 の 多 く iii
がそうであるように 基 礎 的 技 能 の 習 得 とともに 幼 児 保 育 との 関 連 性 においてそれを 理 解 し 実 践 できる 力 の 育 成 が 課 題 であるとの 認 識 が 高 まることが 望 まれる 聖 徳 大 学 授 業 担 当 者 へのインタビューの 結 果 からも 幼 児 の 発 達 に 照 らして 作 品 を 選 び 指 導 法 を 学 び どのように 保 育 に 活 かし 発 展 させていくのかという 応 用 力 を 養 うことが 重 要 であると 感 じられた 大 学 での 保 育 者 養 成 は 単 なる 技 術 教 育 ではない 例 えば 課 題 の 折 り 紙 がそのまま 幼 稚 園 や 保 育 所 で 幼 児 に 与 える 教 材 となるのではない 習 ったことそのままでなく いかに 創 造 的 に 活 用 するかが 重 要 なのである そのためには まず 学 生 自 身 が 折 り 紙 を 好 きになる ことが 教 材 研 究 の 基 となると 考 えられる 動 く 折 り 紙 遊 べる 折 り 紙 など 学 生 にとって も 驚 きや 感 動 を 与 えるような 作 品 を 選 んで 知 らせることが 肝 要 である また 折 ることを 難 しい と 感 じていれば 苦 手 になり 取 り 組 むことも 減 ると 考 えられる 即 ち 折 り 図 の 見 方 や 基 本 的 な 技 法 を 習 得 し 折 ることに 慣 れる 必 要 がある 数 多 く 折 ることで 構 造 が 理 解 でき 創 造 力 や 発 展 性 も 生 まれるのである 5. 全 体 考 察 と 今 後 の 課 題 保 育 者 養 成 課 程 において 折 り 紙 について 学 生 が 学 び 身 につけるべき 内 容 は 以 下 のよ うなものであると 考 える 1 遊 びとしての 折 り 紙 の 魅 力 を 体 験 的 に 知 ること 2 折 り 図 の 見 方 がわかり 中 割 り 折 り かぶせ 折 り 等 の 基 礎 的 技 能 を 習 得 すること 3 伝 承 折 り 紙 に 含 まれる 基 本 形 を 体 系 的 に 知 り 折 り 紙 の 法 則 性 を 理 解 してその 構 造 を 把 握 し 折 れる 作 品 のレパートリーを 増 やすこと 4 日 本 文 化 としての 折 り 紙 の 意 義 や 教 育 的 意 義 を 理 解 す ること 5 幼 児 の 発 達 に 合 わせた 作 品 を 知 り 指 導 法 を 習 得 すること 6 環 境 設 定 や 導 入 他 の 遊 びへの 発 展 等 保 育 への 活 かし 方 等 が 考 案 できるようになること これらを 学 び 身 につけるためには 1 2 回 の 折 り 紙 を 折 る 経 験 または 課 題 のみに よっては 難 しい そのため 折 り 紙 が 保 育 者 養 成 カリキュラムに 適 切 に 位 置 づけられ 授 業 に 取 り 入 れられる 必 要 があると 考 える 各 養 成 校 においては 折 り 紙 の 文 化 的 価 値 は 認 められ 学 生 への 折 り 紙 指 導 の 必 要 性 は 感 じているようであるが 今 後 は 保 育 としての 折 り 紙 あそびの 展 開 方 法 や 幼 児 への 指 導 法 を 知 ることの 重 要 性 が 認 識 されていくことが 望 まれる また 旧 来 の 折 り 紙 の 基 本 形 の 折 り 方 とは 別 に 幼 児 に 合 った 折 り 方 がある それらは 高 齢 者 にも 折 りやすいものとして 一 部 では 紹 介 されつつあるが 未 だ 一 般 には 知 られてい iv
ない そうした 方 法 や 幼 児 に 合 わせたわかりやすい 言 葉 での 指 導 法 を 保 育 者 や 学 生 にど のように 広 めていくのかが 今 後 の 課 題 であると 考 える 養 成 校 における 学 生 指 導 には 保 育 や 幼 児 への 指 導 法 を 熟 知 した 担 当 者 の 確 保 が 必 要 となる 折 り 紙 を 養 成 校 の 授 業 に 取 り 入 れようとすれば 現 状 ではそのような 教 員 確 保 も 課 題 となるが 川 並 氏 の 著 書 10) 等 を 通 じてその 指 導 法 が 全 国 に 広 められ 保 育 者 や 折 り 紙 講 師 がそれを 学 ぶことで 可 能 になると 考 えられる 参 考 文 献 1) 岡 村 昌 夫 古 典 研 究 明 治 時 代 の 折 り 紙 事 情 2 季 刊 をる No10 pp.76-80 双 樹 舎 (1995) 2) 岡 村 昌 夫 古 典 研 究 明 治 時 代 の 折 り 紙 事 情 4 季 刊 をる No12 pp.68-72 双 樹 舎 (1996) 3) 岩 瀬 敏 子 中 山 千 章 折 り 紙 と 幼 児 教 育 - 付 属 幼 稚 園 の 指 導 を 通 して- つくば 国 際 短 期 大 学 紀 要 (38)(2010) 4) 吉 田 愛 子 保 育 教 材 としての 伝 承 遊 び 折 り 紙 について 岐 阜 聖 徳 学 園 大 学 短 期 大 学 部 紀 要 (39)(2007) 5) 福 井 晴 子 折 り 紙 遊 びの 歴 史 的 側 面 と 幼 児 教 育 における 現 代 的 意 味 保 育 学 研 究 (41) 日 本 保 育 学 会 (2003) 6) 田 中 陽 子 後 藤 千 鶴 子 保 育 者 養 成 における 折 り 紙 指 導 の 体 系 化 (Ⅰ) 日 本 保 育 学 会 大 会 研 究 論 文 集 (41)(1988) 7) 大 橋 皓 也 折 り 紙 を 生 んだ 日 本 文 化 季 刊 をる No15 pp.12-14 双 樹 舎 (1995) 8) 岡 村 昌 夫 他 折 る 心 龍 野 市 立 歴 史 文 化 資 料 館 (1999) 9) 大 森 隆 子 遊 戯 折 り 紙 研 究 考 (2) 遊 戯 折 り 紙 の 教 育 的 価 値 について 椙 山 女 学 園 大 学 教 育 学 部 紀 要 (3)(2010) 10) 川 並 知 子 たのしいおりがみ やさしい 技 法 聖 徳 大 学 出 版 会 (2013) v