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スライド 1

Microsoft PowerPoint - 報告書(概要).ppt

質 問 票 ( 様 式 3) 質 問 番 号 62-1 質 問 内 容 鑑 定 評 価 依 頼 先 は 千 葉 県 などは 入 札 制 度 にしているが 神 奈 川 県 は 入 札 なのか?または 随 契 なのか?その 理 由 は? 地 価 調 査 業 務 は 単 にそれぞれの 地 点 の 鑑 定

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 役 名 法 人 の 長 理 事 理 事 ( 非 常 勤 ) 平 成 25 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 16,936 10,654 4,36

は 固 定 流 動 及 び 繰 延 に 区 分 することとし 減 価 償 却 を 行 うべき 固 定 の 取 得 又 は 改 良 に 充 てるための 補 助 金 等 の 交 付 を 受 けた 場 合 にお いては その 交 付 を 受 けた 金 額 に 相 当 する 額 を 長 期 前 受 金 とし

●幼児教育振興法案

私立大学等研究設備整備費等補助金(私立大学等

為 が 行 われるおそれがある 場 合 に 都 道 府 県 公 安 委 員 会 がその 指 定 暴 力 団 等 を 特 定 抗 争 指 定 暴 力 団 等 として 指 定 し その 所 属 する 指 定 暴 力 団 員 が 警 戒 区 域 内 において 暴 力 団 の 事 務 所 を 新 たに 設

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 27 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 2,142 ( 地 域 手 当 ) 17,205 11,580 3,311 4 月 1


スライド 1

(5) 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しの 実 施 状 況 について 概 要 の 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しにおいては 俸 給 表 の 水 準 の 平 均 2の 引 き 下 げ 及 び 地 域 手 当 の 支 給 割 合 の 見 直 し 等 に 取 り 組 むとされている

●電力自由化推進法案

った 場 合 など 監 事 の 任 務 懈 怠 の 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 減 算 する (8) 役 員 の 法 人 に 対 する 特 段 の 貢 献 が 認 められる 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 加 算 することができる

弁護士報酬規定(抜粋)

18 国立高等専門学校機構

公表表紙

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m07 北見工業大学 様式①

市街化調整区域における地区計画の

社会保険加入促進計画に盛込むべき内容

セルフメディケーション推進のための一般用医薬品等に関する所得控除制度の創設(個別要望事項:HP掲載用)

平成25年度 独立行政法人日本学生支援機構の役職員の報酬・給与等について

災害時の賃貸住宅居住者の居住の安定確保について

39_1

損 益 計 算 書 自. 平 成 26 年 4 月 1 日 至. 平 成 27 年 3 月 31 日 科 目 内 訳 金 額 千 円 千 円 営 業 収 益 6,167,402 委 託 者 報 酬 4,328,295 運 用 受 託 報 酬 1,839,106 営 業 費 用 3,911,389 一

平成16年年金制度改正 ~年金の昔・今・未来を考える~

共 通 認 識 1 官 民 較 差 調 整 後 は 退 職 給 付 全 体 でみて 民 間 企 業 の 事 業 主 負 担 と 均 衡 する 水 準 で あれば 最 終 的 な 税 負 担 は 変 わらず 公 務 員 を 優 遇 するものとはならないものであ ること 2 民 間 の 実 態 を 考

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就 業 規 則 ( 福 利 厚 生 ) 第 章 福 利 厚 生 ( 死 亡 弔 慰 金 等 ) 第 条 法 人 が 群 馬 県 社 会 福 祉 協 議 会 民 間 社 会 福 祉 施 設 等 職 員 共 済 規 程 に 基 づき 群 馬 県 社 会 福 祉 協 議 会 との 間 において 締 結 す

経 常 収 支 差 引 額 等 の 状 況 平 成 26 年 度 予 算 早 期 集 計 平 成 25 年 度 予 算 対 前 年 度 比 較 経 常 収 支 差 引 額 3,689 億 円 4,597 億 円 908 億 円 減 少 赤 字 組 合 数 1,114 組 合 1,180 組 合 66

第4回税制調査会 総4-1

 

Taro-08国立大学法人宮崎大学授業

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平成16年度

ていることから それに 先 行 する 形 で 下 請 業 者 についても 対 策 を 講 じることとしまし た 本 県 としましては それまでの 間 に 未 加 入 の 建 設 業 者 に 加 入 していただきますよう 28 年 4 月 から 実 施 することとしました 問 6 公 共 工 事 の

情 報 通 信 機 器 等 に 係 る 繰 越 税 額 控 除 限 度 超 過 額 の 計 算 上 控 除 される 金 額 に 関 する 明 細 書 ( 付 表 ) 政 党 等 寄 附 金 特 別 控 除 額 の 計 算 明 細 書 国 庫 補 助 金 等 の 総 収 入 金 額 不 算 入 に 関

預 金 を 確 保 しつつ 資 金 調 達 手 段 も 確 保 する 収 益 性 を 示 す 指 標 として 営 業 利 益 率 を 採 用 し 営 業 利 益 率 の 目 安 となる 数 値 を 公 表 する 株 主 の 皆 様 への 還 元 については 持 続 的 な 成 長 による 配 当 可

01.活性化計画(上大久保)

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平成24年度税制改正要望 公募結果 153. 不動産取得税

47 高 校 講 座 モ オ モ 圏 比 較 危 述 覚 普 第 章 : 活

2. ど の 様 な 経 緯 で 発 覚 し た の か ま た 遡 っ た の を 昨 年 4 月 ま で と し た の は 何 故 か 明 ら か に す る こ と 回 答 3 月 17 日 に 実 施 し た ダ イ ヤ 改 正 で 静 岡 車 両 区 の 構 内 運 転 が 静 岡 運

社 会 保 障 税 一 体 改 革 ( 年 金 分 野 )の 経 緯 社 会 保 障 税 一 体 改 革 大 綱 (2 月 17 日 閣 議 決 定 ) 国 年 法 等 改 正 法 案 (2 月 10 日 提 出 ) 法 案 を 提 出 する または 法 案 提 出 を 検 討 する と された 事

公 的 年 金 制 度 について 制 度 の 持 続 可 能 性 を 高 め 将 来 の 世 代 の 給 付 水 準 の 確 保 等 を 図 るため 持 続 可 能 な 社 会 保 障 制 度 の 確 立 を 図 るための 改 革 の 推 進 に 関 する 法 律 に 基 づく 社 会 経 済 情

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - ★HP版平成27年度検査の結果

国 家 公 務 員 の 年 金 払 い 退 職 給 付 の 創 設 について 検 討 を 進 めるものとする 平 成 19 年 法 案 をベースに 一 元 化 の 具 体 的 内 容 について 検 討 する 関 係 省 庁 間 で 調 整 の 上 平 成 24 年 通 常 国 会 への 法 案 提

第5回法人課税ディスカッショングループ 法D5-4

3 体 制 整 備 等 (1) 全 ての 特 定 事 業 主 が 共 同 して 取 組 むものとする () 総 務 部 人 事 管 理 室 人 事 課 を 計 画 推 進 の 主 管 課 とし 全 ての 市 職 員 により 推 進 する (3) 実 施 状 況 を 把 握 し 計 画 期 間 中 で

注 記 事 項 (1) 当 四 半 期 連 結 累 計 期 間 における 重 要 な 子 会 社 の 異 動 : 無 (2) 四 半 期 連 結 財 務 諸 表 の 作 成 に 特 有 の 会 計 処 理 の 適 用 : 有 ( 注 ) 詳 細 は 添 付 資 料 4ページ 2.サマリー 情 報 (

Microsoft Word - 通達(参考).doc

能勢町市街化調整区域における地区計画のガイドライン

別 表 1 土 地 建 物 提 案 型 の 供 給 計 画 に 関 する 評 価 項 目 と 評 価 点 数 表 項 目 区 分 評 価 内 容 と 点 数 一 般 評 価 項 目 立 地 条 件 (1) 交 通 利 便 性 ( 徒 歩 =80m/1 分 ) 25 (2) 生 活 利 便

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岡山県警察用航空機の運用等に関する訓令

養 老 保 険 の 減 額 払 済 保 険 への 変 更 1. 設 例 会 社 が 役 員 を 被 保 険 者 とし 死 亡 保 険 金 及 び 満 期 保 険 金 のいずれも 会 社 を 受 取 人 とする 養 老 保 険 に 加 入 してい る 場 合 を 解 説 します 資 金 繰 りの 都

Microsoft Word )40期決算公開用.doc

Microsoft PowerPoint - 基金制度

Microsoft Word - 目次.doc

定款  変更

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Microsoft Word - 交野市産業振興基本計画 doc

スライド 1

Speed突破!Premium問題集 基本書サンプル

(1) 率 等 一 覧 ( 平 成 26 年 度 ) 目 課 客 体 及 び 納 義 務 者 課 標 準 及 び 率 法 内 に 住 所 を 有 する ( 均 等 割 所 得 割 ) 内 に 事 務 所 事 業 所 又 は 家 屋 敷 を 有 する で 内 に 住 所 を 有 し ないもの( 均 等

(4) ラスパイレス 指 数 の 状 況 ( 各 年 4 月 1 日 現 在 ) ( 例 ) ( 例 ) 15 (H2) (H2) (H24) (H24) (H25.4.1) (H25.4.1) (H24) (H24)

定款

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課 税 ベ ー ス の 拡 大 等 : - 租 税 特 別 措 置 の 見 直 し ( 後 掲 ) - 減 価 償 却 の 見 直 し ( 建 物 附 属 設 備 構 築 物 の 償 却 方 法 を 定 額 法 に 一 本 化 ) - 欠 損 金 繰 越 控 除 の 更 な る 見 直 し ( 大

1. 決 算 の 概 要 法 人 全 体 として 2,459 億 円 の 当 期 総 利 益 を 計 上 し 末 をもって 繰 越 欠 損 金 を 解 消 しています ( : 当 期 総 利 益 2,092 億 円 ) 中 期 計 画 における 収 支 改 善 項 目 に 関 して ( : 繰 越

6. 概 要 コメント 本 法 は 社 会 保 険 関 係 を 規 範 化 し 公 民 の 社 会 保 険 への 参 加 社 会 保 険 待 遇 を 享 受 す る 権 益 を 保 護 し 公 民 に 国 家 発 展 の 成 果 を 共 同 で 享 受 させ 社 会 の 調 和 と 安 定 を 促

文化政策情報システムの運用等

技 能 労 務 職 公 務 員 民 間 参 考 区 分 平 均 年 齢 職 員 数 平 均 給 与 月 額 平 均 給 与 月 額 平 均 給 料 月 額 (A) ( 国 ベース) 平 均 年 齢 平 均 給 与 月 額 対 応 する 民 間 の 類 似 職 種 東 庄 町 51.3 歳 18 77

Microsoft Word - 佐野市生活排水処理構想(案).doc

根 本 確 根 本 確 民 主 率 運 民 主 率 運 確 施 保 障 確 施 保 障 自 治 本 旨 現 資 自 治 本 旨 現 資 挙 管 挙 管 代 表 監 査 教 育 代 表 監 査 教 育 警 視 総 監 道 府 県 警 察 本 部 市 町 村 警 視 総 監 道 府 県 警 察 本 部

経 常 収 支 差 引 額 の 状 況 平 成 22 年 度 平 成 21 年 度 対 前 年 度 比 較 経 常 収 支 差 引 額 4,154 億 円 5,234 億 円 1,080 億 円 改 善 赤 字 組 合 の 赤 字 総 額 4,836 億 円 5,636 億 円 800 億 円 減

二 資本金の管理

学校教育法等の一部を改正する法律の施行に伴う文部科学省関係省令の整備に関する省令等について(通知)

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目 次 高 山 市 連 結 財 務 諸 表 について 1 連 結 貸 借 対 照 表 2 連 結 行 政 コスト 計 算 書 4 連 結 純 資 産 変 動 計 算 書 6 連 結 資 金 収 支 計 算 書 7

スライド 1

2 職 員 の 平 均 給 与 月 額 初 任 給 等 の 状 況 (1) 職 員 の 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 及 び 平 均 給 与 月 額 の 状 況 ( 平 成 22 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 一 般 行 政 職 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 平 均 給 与

(4) 武 力 攻 撃 原 子 力 災 害 合 同 対 策 協 議 会 との 連 携 1 市 は 国 の 現 地 対 策 本 部 長 が 運 営 する 武 力 攻 撃 原 子 力 災 害 合 同 対 策 協 議 会 に 職 員 を 派 遣 するなど 同 協 議 会 と 必 要 な 連 携 を 図 る

4. その 他 (1) 期 中 における 重 要 な 子 会 社 の 異 動 ( 連 結 範 囲 の 変 更 を 伴 う 特 定 子 会 社 の 異 動 ) 無 (2) 簡 便 な 会 計 処 理 及 び 四 半 期 連 結 財 務 諸 表 の 作 成 に 特 有 の 会 計 処 理 の 適 用 有

(6) 事 務 局 職 場 積 立 NISAの 運 営 に 係 る 以 下 の 事 務 等 を 担 当 する 事 業 主 等 の 組 織 ( 当 該 事 務 を 代 行 する 組 織 を 含 む )をいう イ 利 用 者 からの 諸 届 出 受 付 事 務 ロ 利 用 者 への 諸 連 絡 事 務

1 予 算 の 姿 ( 平 成 25 当 初 予 算 ) 長 野 県 財 政 の 状 況 H 現 在 長 野 県 の 予 算 を 歳 入 面 から 見 ると 自 主 財 源 の 根 幹 である 県 税 が 全 体 の5 分 の1 程 度 しかなく 地 方 交 付 税 や 国 庫 支

法 人 等 に 対 する 課 税 際 課 税 原 則 の 帰 属 主 義 への 見 直 しのポイント 総 合 主 義 から 帰 属 主 義 への 移 行 法 人 及 び 非 居 住 者 ( 法 人 等 )に 対 する 課 税 原 則 について 従 来 のいわゆる 総 合 主 義 を 改 め OECD

職 員 の 平 均 給 与 月 額 初 任 給 等 の 状 況 (1) 職 員 の 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 及 び 平 均 給 与 月 額 の 状 況 ( 平 成 年 月 1 日 現 在 ) 1 一 般 行 政 職 福 岡 県 技 能 労 務 職 歳 1,19,98 9,9 歳 8,

( 補 助 金 等 交 付 決 定 通 知 に 加 える 条 件 ) 第 7 条 市 長 は 交 付 規 則 第 11 条 に 規 定 するところにより 補 助 金 の 交 付 決 定 に 際 し 次 に 掲 げる 条 件 を 付 するものとする (1) 事 業 完 了 後 に 消 費 税 及 び

Taro-01 議案概要.jtd

Microsoft Word 第1章 定款.doc

Transcription:

エグゼクティブ サマリー 国 家 という 枠 組 みについては 昨 今 その 存 在 意 義 や 果 たすべき 役 割 について さま ざまな 議 論 が 呈 されている 本 書 は 東 京 財 団 国 家 論 研 究 プロジェクトの 研 究 報 告 書 として その 国 家 という 枠 組 みについて 考 える 際 のひとつの 材 料 を 提 供 することを 目 的 に 古 今 東 西 の 国 家 の 特 徴 を 抽 出 したものである 目 的 世 界 各 地 域 の 発 展 段 階 は 異 なるが 一 方 ではグローバリゼーションが 深 化 し 他 方 では 地 方 分 権 や 地 域 主 義 の 勃 興 が 起 こるなか イラク 戦 争 で 顕 著 になった 米 国 先 行 や 欧 米 的 な 価 値 観 の 一 層 の 浸 透 といった 要 素 も 加 わり 国 家 や 社 会 のあり 方 について 各 地 で 議 論 が 巻 き 起 こっている だが こうした 議 論 の 多 くは 冷 戦 の 終 結 やグローバリゼーションの 進 展 などといった 現 代 的 な 事 象 との 対 比 のなかで 西 欧 的 な 視 点 に 立 って 国 民 国 家 という 枠 組 みを 捉 え その 是 非 を 語 るものが 多 い 日 本 でも 近 年 国 家 論 が 盛 んであるが 国 家 を 論 ずるのであれば 古 今 東 西 これまで 存 在 した 国 家 のあり 方 を 渉 猟 して 歴 史 的 全 般 的 視 点 を 得 た 上 で 現 在 の 日 本 国 家 の 諸 機 能 を 再 点 検 していかなければならないと 考 える そこで 東 京 財 団 国 家 論 研 究 プロジェクトでは こうした 問 題 意 識 に 立 って 古 今 東 西 の 国 家 の 特 徴 を 抽 出 し 国 家 が 果 たすべき 役 割 や 具 体 的 な 政 策 を 考 える 際 の 基 礎 的 材 料 を 提 供 することを 目 指 した 概 要 西 欧 アメリカ 中 国 アジア イスラムそして 日 本 での 国 民 国 家 の 成 り 立 ちを 確 認 してくると そこには 一 つの 共 通 点 が 浮 かび 上 がる すなわち 国 民 国 家 は 強 烈 な ナショナル プライドのもとで 国 富 を 集 中 運 用 することを 可 能 とするものだと 言 える そして 国 民 国 家 成 立 の 最 初 の 目 的 は それが 領 土 や 植 民 地 の 拡 大 という 侵 略 的 性 格 であれ はたまた 大 国 からの 独 立 や 安 全 保 障 という 自 衛 的 性 格 であれ いずれにせよ 戦 争 遂 行 のために 国 富 と 国 民 を 集 中 運 用 することにあった しかし そのような 戦 争 マシーン としての 性 格 を 強 く 有 する 国 民 国 家 は 今 日 の 先 進 世 界 においては 時 代 遅 れの 存 在 ではないか 事 実 世 界 のあちこちでは 本 来 なら 対 立 の 理 由 はないにもかかわらず 国 民 国 家 形 成 のために 人 工 的 に 作 り 上 げた 民 族 感 情 が 不 要 な 摩 擦 を 引 き 起 こしている では 一 国 が 先 んじて 国 民 国 家 であることをやめてしまえば 紛 争 は 起 こらないかと 言 う と そんなことはない 1

その 国 の 国 民 企 業 の 所 有 権 と 諸 権 利 を 保 証 し 擁 護 してくれる 国 際 的 な 枠 組 みがしっ かりしていない 限 り 保 護 者 を 失 った 国 家 の 国 民 経 済 は 列 国 の 草 刈 場 になってしまう それだけではない 一 国 が 力 の 真 空 地 帯 と 化 せば 周 辺 の 列 国 は 我 先 にと 武 力 による 制 圧 さえ 試 みることだろう すなわち 重 要 なのは 国 民 国 家 という 枠 組 みを 放 棄 することではなく 軍 事 バラン スの 維 持 に 意 を 用 い 軍 備 が 過 大 になれば 交 渉 の 結 果 相 互 に 軍 縮 を 行 うことである ま た 歴 史 問 題 が 感 情 的 対 立 を 煽 って 武 力 対 決 に 至 ることがないよう 様 々の 方 法 を 講 じてお かなければならない ひるがえって 日 本 は 米 国 やBRICsのような 大 型 国 家 あるいはEUのような 連 合 体 が 主 流 を 占 める 世 界 の 中 で その 規 模 では 大 きく 劣 る また もともと 食 料 や 資 源 エネル ギーを 海 外 に 大 きく 依 存 してきた 日 本 であるが 国 内 市 場 が 相 対 的 に 縮 小 しつつある 今 日 巨 大 市 場 たる 大 型 国 家 への 対 処 は 今 後 ますます 重 要 になる したがって 現 在 世 界 で 行 われている 新 しい 国 家 像 を 模 索 する 動 きをどう 評 価 し 日 本 としてどう 対 応 していくか また 日 本 という 国 家 を 現 代 のニーズに 合 わせてどのよ うに 変 えていくべきかは 今 後 の 日 本 にとって 重 要 な 課 題 である 本 報 告 書 は こうした 大 きな 課 題 に 向 けた 序 論 である 2

現 実 的 な 国 家 論 序 説 国 家 を 論 ずるための 交 通 整 理 目 次 エグゼクティブ サマリー... 1 まえがき... 4 第 1 章 西 欧 における 国 民 国 家 形 成 変 質 の 過 程... 8 1. 清 教 徒 革 命 規 制 緩 和 通 商... 8 2. 戦 争 マシンとしての 国 民 国 家 の 成 立... 9 3.フランス オスマン トルコの 場 合... 11 4. 社 会 保 障 国 家 の 誕 生... 12 5. 市 民 社 会 的 価 値 観 の 溶 解... 12 6. 西 欧 諸 国 の 多 民 族 国 家 化... 13 第 2 章 アメリカ 国 家 の 原 理... 14 1.アメリカ 的 国 民 国 家 の 成 り 立 ち... 14 2. 国 内 では 価 値 の 相 対 化 国 外 では 絶 対 的 価 値 観 を 奉 じて... 15 第 3 章 中 国 の 国 家 制 度... 16 1. 多 民 族 性 清 の 連 邦 性... 16 2. 中 国 の 国 家 制 度... 18 3. 国 家 への 情 念 官 僚 絶 対 主 義 の 延 長 線 上 にある 政 党 国 家... 18 第 4 章 イスラム 帝 国 アジアの 港 市 国 家... 20 第 5 章 日 本 の 国 家 の 特 徴... 21 1. 日 本 での 国 家 形 成... 21 2. 権 力 の 相 対 性... 22 3. 日 本 が 抱 える 特 殊 な 問 題... 22 第 6 章 提 言 にかえて... 24 1. 国 民 国 家 の 変 質 と 当 面 の 課 題... 24 2. 日 本 にとっての 課 題... 25 参 考 文 献... 26 3

まえがき 19 世 紀 西 欧 パラダイムの 転 換 点 言 い 古 されたことであるが 現 代 の 世 界 においてはパラダイムの 転 換 が 進 行 している いわゆる 近 代 以 降 主 として 西 欧 で 発 展 してきた 国 民 国 家 建 設 1により 力 を 蓄 え 植 民 地 を 獲 得 して 商 品 を 売 りつけ それによって 産 業 革 命 を 達 成 することで 加 速 度 的 発 展 を 実 現 する という 発 展 モデルが 変 革 を 迫 られているのである 戦 後 植 民 地 主 義 が 終 わり グローバルな 自 由 貿 易 が 可 能 となったために 戦 争 の 必 要 性 が 大 きく 低 下 した 戦 争 のための 装 置 ( 税 金 と 兵 士 を 集 める)としてまず 発 展 した 国 民 国 家 は 見 直 しを 迫 られることになった またグローバルな 経 済 活 動 の 規 模 比 重 が 飛 躍 的 に 増 大 したことに 合 わせ 国 家 レベルの 諸 制 度 規 制 も 変 更 が 必 要 となっている そして 19 世 紀 の 産 業 革 命 以 来 世 界 経 済 の 拡 大 と 文 明 の 進 歩 とを 支 えてきた 工 業 文 明 も 市 場 と 資 源 の 限 界 にぶち 当 たり 新 たな 発 展 モデル あるいは 文 明 進 歩 という 概 念 の 再 検 討 が 必 要 とされている また 人 間 はかつては 国 家 から 搾 り 取 られる ( 税 金 兵 役 ) 存 在 であったが 現 在 では 政 府 に 種 々のサービス 提 供 を 厳 しく 迫 る 存 在 になっている つまり 国 民 国 家 建 設 植 民 地 獲 得 産 業 革 命 実 現 という 西 欧 文 明 三 点 セットのうち 植 民 地 は 表 向 き 既 に 廃 止 されているので( 国 内 外 での 低 賃 金 労 働 の 利 用 は 隠 れた 形 で の 植 民 地 主 義 であるとは 言 えようが) 工 業 文 明 = 産 業 革 命 に 代 わるもの 現 代 の 政 治 軍 事 経 済 社 会 のニーズに 合 わせての 国 民 国 家 の 改 組 この 二 つが 必 要 になっている のである この1 年 間 の 研 究 そして 本 報 告 書 においては 上 記 のうち 国 民 国 家 の 変 化 に 焦 点 をあ てた 国 家 論 は 時 には 抽 象 的 になりすぎ また 時 には 技 術 論 に 陥 りがちであるが 理 念 と 現 実 の 双 方 を 見 据 えた 現 実 的 な 議 論 を 心 がけた 世 界 中 で 進 む 国 家 のあり 方 についての 議 論 世 界 各 地 域 の 発 展 段 階 は 異 なるが 経 済 面 でのグローバリゼーション 深 化 イラク 戦 争 で 顕 著 になった 軍 事 面 での 米 国 先 行 欧 米 的 な 価 値 観 の 一 層 の 浸 透 が 国 家 社 会 のあ り 方 について 各 地 で 議 論 を 巻 き 起 こしている 米 国 は9.11 事 件 以 降 は 国 内 の 民 主 主 義 体 制 を 絶 対 視 する 姿 勢 をとみに 強 め それを 守 り 広 げることに 熱 中 している EU は 拡 大 集 権 化 がもたらす 摩 擦 の 中 で 足 踏 みし 中 1 この 報 告 書 における 国 民 国 家 は 17 世 紀 以 降 の 西 欧 で 発 展 した 統 治 モデル 即 ち ローマ 教 会 ハプスブルク 家 のような 領 域 横 断 的 なものではなく 人 種 言 語 等 におい てかなりな 同 一 性 を 備 えた 人 間 が 集 住 する 明 確 な 国 境 線 で 囲 まれた 領 域 を 有 し 単 一 の 政 府 発 達 した 官 僚 機 構 常 備 軍 を 有 する 国 家 を 意 味 する その 他 の 国 家 は ただ 国 家 と 称 するものとする 4

国 は 経 済 成 長 と 過 去 の 栄 光 の 奪 還 に 汲 々とし 国 家 のあるべき 形 態 についての 議 論 にお いては 新 しいものが 見 られない ロシアは ソ 連 のような 強 大 な 帝 国 に 戻 りたいとの 想 念 に 駆 られ 現 代 の 世 界 社 会 に 自 らを 有 機 的 に 組 み 込 む 作 業 を 怠 っている 開 発 途 上 地 域 においては 経 済 のグローバル 化 や 欧 米 的 価 値 観 の 浸 透 が 一 層 進 むことによって 既 得 権 を 失 うことを 恐 れた 支 配 層 が 伝 統 なるものを 理 想 化 固 定 化 することによって 支 配 構 造 を 守 ろうとしている 日 本 がこれら 諸 国 との 関 係 を 進 める 上 では 上 記 のようなそれぞれの 国 家 としての 成 り 立 ちの 違 いを 考 慮 して 対 応 していかなければならない またこれら 諸 国 における 国 家 建 設 の 方 向 が 日 本 世 界 の 大 半 そしてこれら 諸 国 の 国 民 自 身 の 利 益 にかなったものとな るよう その 国 の 支 配 層 そして 国 民 一 般 に 直 接 語 りかけていかなければならない この 報 告 書 は そのための 知 識 視 座 を 提 供 するためのものでもある 日 本 における 国 家 論 の 整 理 を 日 本 でも 近 年 国 家 論 が 盛 んであるが それは 大 きく 言 って3つの 潮 流 に 分 けること ができよう 一 つは 近 年 の 経 済 活 動 のグローバル 化 の 一 層 の 進 展 EU における 超 国 家 的 連 合 の 形 成 2 そして 地 方 自 治 や NPO 活 動 の 進 展 などによって 中 央 政 府 の 地 位 役 割 が 下 が るのではないかとする 議 論 である 二 つめは ネグリ=ハートの 帝 国 論 が 掻 き 立 てた 国 家 論 であり これはイラク 戦 争 に 象 徴 される アメリカ 一 極 主 義 3 に 触 発 されたものであろうが より 基 本 的 にはマル クスの 人 間 疎 外 の 克 服 とプロレタリアートの 権 利 確 立 (ネグリは プロレタリアート に 代 わって マルチチュード という 新 語 によって 社 会 の 主 体 たるべき 人 間 集 団 を 表 現 している)という 思 想 を 現 代 的 に 改 造 したものと 思 われる 三 つめは 国 家 の 品 格 等 に 代 表 される 最 近 の 日 本 での 議 論 である それはバブル 崩 壊 後 の 生 活 水 準 の 相 対 的 低 下 中 国 台 頭 や 北 朝 鮮 の 核 拉 致 問 題 等 に 対 して 日 本 が 無 力 に 見 えることへの 抗 議 であり 建 設 的 な 提 案 というよりは 感 情 的 な 性 格 を 持 ち かつ 現 在 の 政 府 政 治 家 官 僚 を 全 面 否 定 しては これを 全 ての 問 題 の 犯 人 に 仕 立 てて 満 足 す ることで 終 わっている 気 味 がある これらに 共 通 していることは いずれも EU なら EU の 実 態 を アメリカ 一 極 主 義 な らアメリカとその 他 諸 国 の 間 の 相 互 依 存 関 係 を 十 分 調 べることなく 自 分 に 都 合 のいい 形 に 曲 解 して 自 分 の 意 見 をアピールする 材 料 として 利 用 していることである そしてそ こには 戦 後 の 学 生 運 動 の 流 れとも 思 われる 自 国 政 府 への 全 否 定 や 無 政 府 主 義 がある かと 思 えば 政 治 家 や 官 僚 が 駄 目 な 中 で 優 秀 で 英 明 なリーダー が 現 れることに 期 2 EU の 超 国 家 性 には 限 界 がある というのが 本 報 告 書 の 立 場 である 3 本 報 告 書 は 現 在 の 世 界 が アメリカ 一 極 であるとはみなしていない 5

待 し これに 擦 り 寄 ることで 自 分 のアイデアを 実 現 しようとする 独 裁 志 向 とも 取 られ かねない 風 潮 もある 国 家 とは 相 対 的 なものであり 4 無 政 府 から 独 裁 まで 様 々な 形 態 があるが 日 本 での 議 論 を 聞 いていると 国 家 という 言 葉 が 発 せられる 時 のその 絶 対 的 な 響 きが 気 にかかる 国 家 の 形 態 内 容 をきちんと 定 義 せず ただ 何 でもできる 何 でもやるべき 超 自 然 的 な 団 体 がどこかにあることを それらの 議 論 は 無 意 識 の 前 提 としているように 見 える からである そこでは 国 家 は あるときは 安 全 保 障 を あるときは 年 金 を またあるときは 建 築 物 の 安 全 基 準 を 常 に 完 璧 に 管 理 しているべき 全 知 全 能 の 巨 人 のような 存 在 なのだ こ の 巨 人 は 村 落 共 同 体 が 消 滅 しばらばらになってしまった 個 々の 日 本 人 の 生 活 を 共 同 体 に 代 わって 面 倒 見 てくれる 奴 隷 のような 存 在 である 奴 隷 と 言 うのは 誰 も 彼 らの 作 業 を 自 分 でやろうとする 者 も 彼 らの 生 活 ぶりに 関 心 を 払 おうとする 者 もいないからで ある 実 際 には 彼 らは 奴 隷 ではなく 官 僚 である 彼 らにはその 作 業 の 成 果 と 能 力 に 見 合 った 報 酬 を 払 わなければならない また 社 会 や 経 済 活 動 において 個 人 の 責 任 よりも 政 府 による 規 制 に 多 くを 期 待 するとい う 発 想 は 非 常 に 危 険 である 官 僚 は 規 制 を 強 化 することによって 問 題 が 生 じて 批 判 されることを 防 ごうとする こうして 規 制 が 強 化 されれば 昨 年 マンション 建 築 が 大 き く 止 まったようなことが 無 数 に 繰 り 返 され 過 剰 な 手 続 きのために 経 済 活 動 は 窒 息 し 国 民 の 生 活 水 準 は 下 がる いや それどころではない 人 間 の 自 由 が 阻 害 されることだ ってあるだろう 国 家 を 論 ずるのであれば 古 今 東 西 これまで 存 在 した 国 家 のあり 方 を 渉 猟 して 歴 史 的 全 般 的 視 点 を 得 た 上 で 現 在 の 日 本 国 家 の 諸 機 能 を 再 点 検 し その 中 で 必 要 なもの だけを 残 し かつ 現 代 の 需 要 に 合 わせて 作 り 変 えていかなければならないと 思 う 理 念 と 感 情 と 技 術 論 は うまくバランスしているべきなのだ この 報 告 書 は 以 上 3つの 視 座 即 ち1 文 明 史 上 国 民 国 家 をどう 位 置 づけるか 2 現 在 世 界 で 行 われている 新 しい 国 家 像 を 模 索 する 動 きをどう 評 価 し 日 本 としてどう 対 応 して いくか 3 日 本 国 家 を 現 代 のニーズに 合 わせてどのように 変 えていくべきかの 諸 論 点 を 意 識 しつつ 古 今 東 西 の 国 家 の 特 徴 を 抽 出 し それに 基 づいて 言 える 今 後 の 行 動 の 指 針 を 提 言 として 並 べたものである テーマは 世 界 全 体 を 把 握 するという 壮 大 に 過 ぎるもので あるので この 報 告 書 はまったくの 序 論 に 過 ぎない 4 国 家 の 本 質 は 特 定 地 域 における 富 の 生 産 分 配 構 造 でしかない 現 在 は 生 産 力 が 高 くなり 個 人 が 昔 より 豊 かに かつ 自 由 になった これに 合 わせて 国 家 の 形 も 変 わっていくのである 6

プロジェクト メンバー 国 家 論 研 究 プロジェクトのコア メンバーは 次 の 通 りであった その 他 マスコミ 学 界 学 生 等 にも 声 をかけ 発 言 権 も 与 えた 上 で 参 加 してもらった 宇 山 智 彦 北 海 道 大 学 助 教 授 ( 中 央 アジア): 河 東 哲 夫 早 稲 田 大 学 客 員 教 授 ( 司 会 旧 ソ 連 ) 高 原 明 生 東 京 大 学 教 授 ( 中 国 ): 羽 田 正 東 京 大 学 教 授 ( 中 近 東 ): 山 下 範 久 北 海 道 大 学 教 授 ( 文 明 論 国 家 論 ): 渡 辺 靖 慶 応 大 学 教 授 (アメリカ): 7

第 1 章 西 欧 における 国 民 国 家 形 成 変 質 の 過 程 中 世 の 西 欧 ではフランク 王 国 が 分 解 してスペイン フランス イタリア ドイツがすぐ できたように 言 われてきたが 実 際 は 国 ができたのではなく 各 王 家 に 分 かれただけで あり その 領 土 には 飛 び 地 も 多 く 相 互 に 複 雑 に 入 り 組 んでいた イギリスとフランスの 間 の 飛 び 地 (ウィキペディアより) 中 世 西 欧 は 国 民 国 家 ではなく 国 王 の 家 産 国 家 であり 国 王 はよく 所 領 を 巡 回 して 諸 侯 の 服 属 を 確 認 していたらしい 首 都 に 宮 廷 を 置 き 諸 侯 を 貴 族 として 侍 らせるようにな る 絶 対 主 義 時 代 とは 異 なる イギリスはフランスにおける 飛 び 地 をめぐってフランス 王 家 と100 年 戦 争 を 繰 り 広 げ た 後 1455 年 からは 内 戦 即 ちバラ 戦 争 に 入 った これが1485 年 に 終 結 したと ころで ヘンリー7 世 がチューダー 朝 を 開 く 国 内 が 平 和 になったことが 国 王 の 権 力 を 突 出 させるに 至 ったためか それとも 内 戦 中 功 績 を 挙 げた 諸 侯 への 恩 賞 とするためかはわからないが ヘンリー8 世 はローマ 教 会 と 殊 更 にことを 構 え 1534 年 にイギリス 教 会 の 独 立 を 宣 言 するやカトリック 教 会 の 資 産 を 没 収 後 のジェントリー 階 級 に 売 却 してしまうのである ローマ 教 会 は 西 ローマ 帝 国 なきあとも 残 った 広 域 行 政 のスケルトンのようなものであ るとも 言 えるので 5 これから 独 立 したということは 主 権 国 家 として 独 立 するための 基 盤 を 作 ったことになる そして 新 たに 創 出 されたジェントリーからは 後 の 資 本 家 企 業 家 が 生 まれていく 1. 清 教 徒 革 命 規 制 緩 和 通 商 イギリス 史 における 次 の 境 目 は 清 教 徒 革 命 (1642 年 )であろう 西 欧 史 では フランス 革 命 の 方 が 清 教 徒 革 命 よりはるかに 大 きな 扱 いを 受 けているが 5 ローマ 貴 族 の 中 には 教 会 後 には 各 王 朝 の 宮 廷 に 僧 職 あるいは 官 職 を 得 る 者 があった 8

絶 対 主 義 を 破 り 共 和 制 を 樹 立 したことでは 清 教 徒 革 命 も 同 じであり かつフランス 革 命 より 約 150 年 早 いのである 6 後 に 述 べるが フランスはイギリスに 比 し 税 制 の 整 備 国 家 体 制 の 整 備 が 遅 れたが 故 18 世 紀 末 まで 続 いたイギリスとの 一 連 の 戦 費 を 負 担 しきれず その 矛 盾 が 革 命 を 誘 発 したのである 清 教 徒 革 命 では フランス 革 命 におけるような 流 血 資 産 所 有 権 の 移 転 は 起 きなかっ たが 絶 対 主 義 時 代 の 特 権 利 権 が 廃 止 されたことは 大 きい 当 時 は Trade という 言 葉 が 流 行 し なにごとも 取 引 の 対 象 とする 企 業 家 精 神 に 満 ちた 雰 囲 気 になったという その 精 神 は 当 時 スペイン オランダと 海 上 交 通 の 覇 を 争 い 17 世 紀 後 半 には 三 角 貿 易 と 呼 ばれる 付 加 価 値 創 出 装 置 を 作 り 上 げていたことと 無 関 係 ではあるまい これはアフ リカの 土 侯 にイギリス 産 の 石 鹸 等 日 用 品 を 売 り 引 き 換 えに 奴 隷 を 得 て 7 これを 米 国 で 売 却 し 8 代 わりに 綿 花 砂 糖 を 購 入 して 本 国 に 持 ち 帰 り これを 加 工 して 再 びアフリカ 等 に 輸 出 するという 図 式 である 9 これにより17 世 紀 後 半 イギリスでは 日 用 品 生 産 のための 軽 工 業 が 急 速 に 発 展 し 生 活 水 準 が 上 昇 した 彼 らは 東 インド 会 社 がもたらす インドの 綿 織 物 茶 など 彼 らに とっては 全 く 新 しい 商 品 を 大 量 に 消 費 し 生 活 革 命 と 呼 ばれるように 生 活 スタイル を 一 新 させた 10 1648 年 30 年 戦 争 が 終 結 してウェストファリア 条 約 が 結 ばれ 主 権 国 家 が 誕 生 した しかしこれは 近 代 的 国 民 国 家 の 誕 生 というより 西 欧 の 政 治 単 位 としては 国 家 が 唯 一 のものとして 確 立 され カトリック 教 会 王 家 などのプレーヤーは 後 景 に 退 いたこ とを 意 味 している 11 近 代 国 民 国 家 は 同 時 期 のイギリスで 真 っ 先 に 形 成 されていく 2. 戦 争 マシンとしての 国 民 国 家 の 成 立 17 世 紀 後 半 イギリスは 戦 争 マシンとしての 国 民 国 家 体 制 を 着 々と 整 えていく 当 時 海 上 交 通 をめぐるオランダとの 覇 権 争 いにはほぼ 決 着 がついていて フランスと の 海 外 植 民 地 争 奪 戦 が 最 大 の 政 策 課 題 となっていた 当 時 の 政 策 決 定 過 程 そこにおける 議 論 資 本 を 運 用 する 存 在 としてのジェントリーが どのように 動 いたか 等 について 筆 者 は 未 だつまびらかにしない しかし17 世 紀 イギ リスで 起 きたことは 未 曾 有 の 金 融 税 制 体 制 の 整 備 であったことは 確 言 できる 6 但 し 清 教 徒 革 命 では 国 王 に 対 する 議 会 の 権 利 フランス 革 命 では 個 人 の 権 利 と 平 等 が 強 調 されたという 違 いがある 7 当 時 アフリカから 新 大 陸 へ 拉 致 された 黒 人 奴 隷 は1,200 万 人 うちイギリスは37 5 万 人 を 拉 致 したと 推 定 されている 8 一 種 の 生 産 手 段 であるから 高 額 に 売 れたはずである 9 フランス 初 め 他 の 西 欧 諸 国 も 程 度 の 差 はあれ 同 じことをやっていた 10 後 にこの 生 活 スタイル 特 に 喫 茶 の 風 習 が 労 働 者 階 級 にも 広 まることで 茶 の 輸 入 量 が 急 増 し アヘン 戦 争 の 原 因 となるのである 11 ルイ14 世 は 朕 は 国 家 なり と 言 っている 9

1688 年 の 名 誉 革 命 でオランダのオレンジ 公 を 新 たな 国 王 として 招 いたイギリスに 対 しては フランスと 独 立 をかけて 戦 っていたオランダからその 資 本 が 大 量 に 注 ぎ 込 まれ た 1694 年 にはイギリスでイングランド 銀 行 が 設 立 されて 国 債 を 発 行 する 体 制 が 整 い 1698 年 にはロンドン 株 式 市 場 が 開 設 されて 内 外 の 資 本 を 集 めることが 可 能 にな った 1717 年 にはポンドが 金 にペッグされ 対 外 信 用 を 高 めたのである イギリス 経 済 は 貿 易 に 強 く 依 存 していたが イギリスは19 世 紀 の 米 連 邦 政 府 や 現 在 の ロシア 政 府 と 異 なり 輸 入 関 税 にその 歳 入 を 大 きく 依 存 することはせず 取 引 税 に 歳 入 の 多 くを 依 存 していた スチュアート 朝 時 代 には 税 負 担 はGDPの3~4%であったが 名 誉 革 命 後 のハノーヴァー 朝 時 代 には9%に 達 したと 推 定 され 当 時 西 欧 で 随 一 の 高 負 担 国 であった 18 世 紀 前 半 イギリスはフランスと 数 度 にわたる 植 民 地 争 奪 戦 争 を 行 い 大 きな 市 場 を 獲 得 していく 豊 かな 財 政 膨 張 する 行 政 需 要 を 背 景 に 公 務 員 の 数 も 膨 れ 上 がる イ ギリスの 築 いた 財 政 力 が 軍 事 力 12を 強 化 し 植 民 地 の 拡 大 をもたらし これが 市 場 となっ てイギリスの 富 を 更 に 拡 大 させるスパイラル つまり 国 民 国 家 植 民 地 産 業 革 命 の 三 位 一 体 が 成 立 していくのである 13 18 世 紀 イギリスでは 人 口 が 増 大 し 農 業 生 産 も 拡 大 していたが いわゆる 産 業 革 命 ( 綿 織 物 の 大 量 生 産 )は 未 だ 始 まっていなかった 18 世 紀 後 半 のイギリスの 主 要 輸 出 市 場 は 北 米 であった 北 米 植 民 地 からの 税 収 は 殆 どなかった 14 が イギリスの 輸 出 の20% 輸 入 の30%が 北 米 植 民 地 を 相 手 とする 貿 易 から 得 られていた イギリスはこれを 米 国 独 立 戦 争 のために 失 うのである その 打 撃 は 甚 大 だったに 違 い ない 現 在 の 日 本 で 言 えば 対 中 貿 易 が 突 如 失 われたに 等 しいのである そこで 意 識 的 な 転 換 が 今 度 はインドを 軸 として 行 われた イギリス インド 中 国 を 軸 とした 多 角 貿 易 が 盛 んになった インドは 北 米 植 民 地 と 異 なり イギリスの 全 輸 入 量 の40% 分 に 相 当 するような 税 home charge を 課 され しかも 本 来 は 綿 織 物 の 老 舗 であったのにイギリス 製 の 粗 悪 な 綿 織 物 を 大 量 に 買 わされるようになった 15 産 業 革 命 は この 時 に 発 生 している 綿 織 物 を 安 く 大 量 に 生 産 することで 利 潤 を 上 げようとする 資 本 家 達 がいたのだろうが 16 この 北 米 大 陸 からインドへの 対 象 シフト 綿 織 物 工 場 建 設 をめぐる 当 時 の 周 辺 事 情 につ いては 未 だ 適 当 な 研 究 成 果 に 遭 遇 していない 12 但 し 徴 兵 制 は 取 っていなかった 徴 兵 制 はナポレオンが 初 めて 採 用 する 13 財 政 = 軍 事 国 家 の 衝 撃 ジョン ブリュア 14 北 米 での 税 率 は 英 本 土 の20 分 の1だった 15 イギリスは 当 初 毛 織 物 を 売 りつけようとして 失 敗 した その 後 インド 産 綿 製 品 への 輸 入 関 税 を 上 げて 英 国 での 綿 生 産 を 有 利 にし その 製 品 をインド 市 場 に 押 し 込 んだ 16 貿 易 港 リバプールに 奴 隷 貿 易 で 財 を 成 した 資 本 家 が 後 背 地 のマンチェスターに 綿 織 物 工 場 を 建 設 し 両 者 を 世 界 初 の 鉄 道 で 結 び 汽 船 で 輸 出 しては 鉄 道 でインドの 全 土 に 売 りさばく これが 当 時 の 図 式 である 資 本 主 義 と 奴 隷 制 エリック ウィリアムズ 10

なお1697 年 ~1815 年 の 間 のイギリスの 工 業 生 産 増 加 の 半 分 は 輸 出 に 向 けられて いた 戦 後 日 本 ついで 中 国 は 輸 出 主 導 の 経 済 発 展 を 欧 米 から 非 難 されることになる が 以 前 はイギリス 自 身 が 同 様 の 発 展 モデルを 採 用 していたことになる この 間 イギリスにおいては 内 閣 制 が 整 備 され 首 相 職 が1715 年 に 成 立 し 政 党 政 治 も18 世 紀 から 始 まっている 17 イギリスは 活 力 に 満 ちた 民 主 主 義 国 として 欧 州 大 陸 諸 国 知 識 人 の 賞 賛 を 受 けた こうして 単 一 の 法 空 間 18 強 力 な 財 力 と 軍 事 力 警 察 外 交 機 関 を 備 え 国 王 ではなく 首 相 議 会 を 権 力 の 頂 点 に 据 えた 国 民 国 家 の 原 型 は イギリスで 初 めて 成 立 し 現 代 の 諸 国 家 は 多 かれ 少 なかれ 意 識 的 無 意 識 的 にここに 範 を 取 っているのである なお 指 摘 しておくべきことは 西 欧 の 国 民 国 家 は 英 国 における 囲 い 込 み を 大 規 模 に したようなもので 特 定 の 地 域 を 柵 で 囲 い 込 み その 内 部 における 占 有 権 を 主 張 するも の つまり 帝 国 や 部 族 国 家 のような 境 界 があいまいなものとは 異 なる 原 則 に 基 づくもの だということである 欧 米 文 明 に 強 い 私 的 所 有 権 の 発 想 がここにも 顔 を 出 しており 中 国 やアジアの 諸 国 家 とは 異 なった 国 家 原 理 なのである 3.フランス オスマン トルコの 場 合 税 制 の 整 備 が 遅 れたフランスは イギリスとの 戦 争 の 費 用 を 調 達 しようとして 三 部 会 を 久 しぶりに 招 集 したところ これに 革 命 を 起 こされてしまう フランスは 工 業 化 では イギリスに 遅 れてはいなかったが 国 家 体 制 で 大 きく 遅 れていたのである フランス 大 革 命 とそれに 先 立 つ 時 代 は ルソーの 社 会 契 約 論 権 利 の 請 願 等 国 家 に 対 する 個 人 の 権 利 を 確 立 したとされているが 国 民 国 家 の 体 制 整 備 はナポレオンを 待 た ねばならなかった ナポレオンはイギリスに 追 いつくため 国 民 国 家 としての 体 裁 を 強 権 的 に 整 えた 彼 は ローマ 法 典 をベース 19 にナポレオン 法 典 を 作 り 上 げ 大 陸 における 成 文 法 の 伝 統 を 形 作 っ た そして 徴 兵 制 を 敷 き これに 革 命 精 神 ( 自 由 平 等 博 愛 ) 愛 国 心 を 植 えつけるこ とで 国 民 国 家 の 姿 をほぼ 完 成 させる イギリスの 作 った 国 民 国 家 は 理 念 を 欠 いており フランスは 国 民 国 家 に 理 念 イデオロギーというものを 付 け 加 えたのである ロシアは 現 代 においても この 国 家 理 念 を 上 部 から 押 し 付 けることで 国 の 統 一 を 強 化 しよう 17 政 党 政 治 は 早 々に 腐 敗 を 招 いたので イギリスでは19 世 紀 初 頭 から 既 に 汚 職 撲 滅 運 動 が 起 きている 18 地 方 に 乱 立 していた 法 律 が common law として 統 一 されていく 19 ローマ 時 代 の 法 律 はイギリスのコモン ローに 似 て 法 典 の 形 になっていなかったが 5 29 年 東 ローマ 帝 国 のユスティニアヌス 皇 帝 がローマ 法 大 全 として 編 纂 したものを 発 布 した これの 注 釈 書 が12 世 紀 に 再 発 見 されたことが ローマ 法 が 西 欧 に 広 まる 原 因 となった といわれるが 所 有 権 の 保 護 公 法 と 民 法 の 区 別 等 ローマ 帝 国 に 発 し 現 在 の 西 欧 の 基 本 的 価 値 観 をなしている 概 念 は それまでもローマ カトリック 教 会 によって 継 承 普 及 されていたに 違 いない 11

としている 西 欧 は 国 民 国 家 という 一 種 の 戦 争 マシンが 動 員 する 血 ( 兵 士 )と 汗 ( 税 金 )の 力 で 東 方 を 圧 倒 し 植 民 地 主 義 時 代 を 築 く イギリスの 力 は 頂 点 に 達 し 1846 年 から19 32 年 にかけての 自 由 貿 易 時 代 を 可 能 とする ところで 西 欧 における 絶 対 主 義 国 民 国 家 建 設 を 論 ずるのであれば オスマン トル コを 忘 れるわけにはいかない オスマン トルコは17 世 紀 初 頭 までは 強 大 で 西 欧 に とってリアルな 脅 威 であった トルコのスルタンも 西 欧 を 自 分 の 潜 在 的 な 版 図 として 意 識 し そのための 冠 も 持 っていた 貴 族 ではなく スルタン 自 らが 選 任 したイェニチ ェリに 軍 行 政 を 委 ね 地 方 には 代 官 を 置 いていたオスマン トルコは 西 欧 諸 国 の 国 王 達 にとっては 絶 対 主 義 国 家 の 模 範 のような 存 在 であった 4. 社 会 保 障 国 家 の 誕 生 ドイツの 統 一 を 実 現 したビスマルクは 社 会 保 障 という 新 しい 要 素 を 国 民 国 家 に 持 ち 込 んだ 血 と 汗 を 国 民 から 搾 取 するのが 本 来 の 機 能 であった 国 民 国 家 に 国 民 に 恩 恵 を 与 える 社 会 保 障 が 持 ち 込 まれたのである もっとも ビスマルクが 始 めたのは 高 所 得 の 労 働 者 のための 医 療 保 険 という 限 定 的 な もので 当 時 熟 練 労 働 者 の 間 に 食 い 込 みつつあった 共 産 党 の 勢 力 を 除 去 するという 目 的 を 持 っていた しかも 保 障 といいながら 公 費 負 担 部 分 は 僅 かであった 社 会 保 障 は 後 に1942 年 のベバリッジ 報 告 ( 英 国 )で ゆりかごから 墓 場 まで という 全 面 的 総 合 的 な 展 開 を 見 せる それは 普 通 選 挙 制 の 当 然 の 帰 結 であったろう こうして 現 代 では 戦 争 遂 行 のために 国 民 の 血 と 汗 を 搾 り 取 る 装 置 としての 国 民 国 家 は 後 景 に 退 き 社 会 保 障 という 恩 恵 の 部 分 のみが 過 大 の 関 心 を 受 けるに 至 っている これ は 国 の 権 力 基 盤 が 大 衆 に 広 がってきたためであるが どこでも 国 家 の 負 担 能 力 に 限 界 があるという 問 題 に 突 き 当 たっている 5. 市 民 社 会 的 価 値 観 の 溶 解 日 本 世 界 の 各 国 が 国 家 をこれからさらに 形 作 っていく 上 で 懸 念 材 料 なのが 西 欧 にお ける 市 民 社 会 の 価 値 観 が 揺 らいでいるということである 市 民 社 会 とは 他 人 の 権 利 最 小 限 の 公 共 の 秩 序 を 重 んじつつも 個 人 の 自 由 権 利 欲 求 を 最 大 限 に 発 揮 するこ とを 可 能 にする 個 人 主 義 合 理 主 義 などの 価 値 観 の 集 成 を 意 味 する 西 欧 諸 国 家 は 国 民 国 家 を 築 く 過 程 で そのイデオロギー 上 の 淵 源 をギリシャ ローマ 文 明 に 求 めた 学 校 ではラテン 語 を 教 え ギリシャ ローマの 古 典 は 西 欧 諸 国 の 間 では 共 通 の 教 養 となった ところが 現 在 教 育 水 準 の 低 下 悪 い 意 味 での 価 値 観 のアメリカ 化 ( 歴 史 を 掘 り 下 げる より 現 状 を 無 批 判 に 受 け 入 れ その 中 で 生 きていくための ハウ ツー もの 的 なプ ラグマチズムだけで 十 分 とするもの)が 右 のような 西 欧 文 明 を 空 洞 化 させている そ 12

こに 移 民 の 中 近 東 文 化 が 入 り 込 んできたため 西 欧 の 都 市 はその 外 観 さえ 変 えつつある 6. 西 欧 諸 国 の 多 民 族 国 家 化 今 日 西 欧 の 国 民 国 家 は 多 民 族 主 権 国 家 となった 民 族 的 同 一 性 の 高 い 北 欧 でさえ トルコ 人 が 人 口 の10% 程 度 を 占 めつつある 国 民 国 家 を 規 定 するものから 単 一 民 族 が 抜 け 落 ち 現 在 では 国 境 と 言 語 のみしか 残 っていないということである そしてその 言 語 も 次 第 に 多 民 族 化 が 侵 食 しつつある こうして 国 の 政 府 は 一 つの 領 域 に 生 活 する 企 業 個 人 の 利 益 を 代 弁 する 顧 問 弁 護 士 のようなものに 化 しつつある 現 代 は BRICsの 台 頭 原 油 原 材 料 価 格 の 高 騰 が 象 徴 する 南 北 間 交 易 条 件 の 根 本 的 変 革 に 見 られるように グローバル 規 模 での 利 益 の 熾 烈 な 再 配 分 の 時 期 である 個 人 の 解 放 自 由 をうたった60 年 代 のロマンチック リベラリズムはしばらく 前 景 から 退 かざるを 得 まい 当 時 も 自 由 を 謳 うことのできる 青 年 は 先 進 国 の 一 部 に 限 られてい た 今 は 世 界 中 の 青 年 が 富 と 自 由 を 享 受 したいとあい 争 う 中 で 西 欧 諸 国 の 青 年 の 一 部 はナショナリズムに 煽 られて 集 団 主 義 化 しつつある 自 由 を 求 めるリベラル インテ リの 利 益 が 最 大 多 数 の 最 大 幸 福 と 一 致 していた 幸 せな 時 代 は 終 わったのである そして9.11の 集 団 テロ 事 件 以 後 実 質 的 には 戦 争 状 態 にあるアメリカは 自 国 の 安 全 保 障 を 実 現 しようとするあまり 自 由 民 主 主 義 個 人 主 義 という 市 民 社 会 的 な 価 値 観 の 遵 守 を 二 の 次 に 置 いた 世 界 にはアジア 諸 国 等 これから 経 済 社 会 の 飛 躍 的 発 展 を 経 験 するであろう 国 々が 多 数 ある 日 本 人 ( 少 なくとも 知 識 人 の 大 勢 )は 明 治 以 降 の 発 展 において その 理 念 的 な 目 標 を 自 由 で 民 主 的 な 社 会 の 建 設 においてきたと 思 うが 現 在 のアジア 諸 国 にとってそ うした 理 念 は 相 対 化 してしまっているということである 13

第 2 章 アメリカ 国 家 の 原 理 1.アメリカ 的 国 民 国 家 の 成 り 立 ち アメリカというのは 不 思 議 な 国 だ テレビがあるからあの 広 い 国 全 体 で 一 つの 話 題 を 共 有 して 盛 り 上 がっていられるんだと 言 う 者 もいるが 自 分 としては アメリカは 一 度 で きてしまったからまだあるのだ という 一 見 ごく 当 たり 前 の 説 明 を 自 分 にしている 国 家 というのは 一 つの 利 益 配 分 既 得 権 益 保 持 機 構 であって 一 度 作 ってしまうと 皆 こ れがあることを 前 提 として 生 活 を 組 み 立 てるので なかなかなくならない 国 家 とは 利 権 とコネが 作 り 出 す 一 種 の 惰 性 なのだ ソ 連 でさえ ゴルバチョフ 末 期 に 商 店 からモノが 消 え インフレになったと 言 っても エリツィンとその 側 近 がソ 連 邦 の 解 散 を 一 方 的 に 宣 言 するというクーデター 的 動 きに 出 なければ 20 国 家 がなくなるところまでは 行 かなかったのだ 北 朝 鮮 が 容 易 に 崩 壊 しない のも 同 じ 理 屈 である アメリカは 世 界 の 中 でも 非 常 に 特 異 な 国 家 だ 地 縁 も 血 縁 もない 赤 の 他 人 同 士 が 共 同 体 を 作 り やがては 国 民 国 家 を 作 ってしまったところなど 他 に 世 界 のどこにもありは しない 他 の 国 では 必 ずある 地 縁 血 縁 は アメリカでは 最 初 から 欠 落 していたのであ り その 分 最 初 から 自 由 だったのだ そしてアメリカは 誰 か 英 雄 が 大 変 な 流 血 のあとに 統 一 した 国 ではない 植 民 地 がいく つか 集 まり 話 し 合 いと 契 約 ( 憲 法 )によって 作 り 上 げた 共 和 制 国 家 だ それは 当 初 13しかなかった 州 が49になり 最 近 ではハワイを 州 として 加 えたように 自 由 平 等 を 維 持 したまま 果 てしなく 拡 張 できる 極 端 に 言 えば 世 界 国 家 的 存 在 にさえ なることのできるモジュール 構 造 的 な 組 成 原 理 を 持 っている 国 民 国 家 は 国 境 と 国 民 の 存 在 を 前 提 としているが アメリカにとって 国 境 は 常 に 可 変 のもので アメリカ 人 という 概 念 も 明 確 ではなかった 強 いて 言 えば 21 このあたり に 数 年 住 んでいて 英 語 をしゃべる のであるなら アメリカ 人 なのである これは 中 国 における 漢 民 族 の 定 義 イスラム 帝 国 におけるモスレムの 定 義 によく 似 ている 国 民 国 家 を 構 成 する 一 つの 要 件 であるところの 特 定 のナショナル プライドを 共 有 す る 国 民 これはアメリカや 中 国 だけでなく 西 欧 の 典 型 的 な 国 民 国 家 においてさえ 実 は フィクション 的 な 性 格 が 強 い 英 仏 独 伊 西 といった 大 国 についてはもちろん 北 欧 諸 国 のような 人 口 の 小 さな 国 においてさえ 国 民 は 単 一 の 民 族 ではない アングロ サク ソンの 国 と 言 われるイギリスでは アングロ サクソンは 実 はとうの 昔 にノルマンによ って 辺 境 地 帯 に 追 いやられてしまっている 20 1991 年 12 月 8 日 ベロヴェーシ 合 意 のこと 21 厳 密 な 法 的 議 論 をしているのではない 感 覚 的 な 理 解 のしかたを 論 じている 14

2. 国 内 では 価 値 の 相 対 化 国 外 では 絶 対 的 価 値 観 を 奉 じて 米 国 は 全 てをゼロから 作 り 上 げたいわば 人 工 国 家 なので 法 制 機 構 が 現 実 の 社 会 に 合 わなくなればいつでも 前 者 の 方 を 変 えようとする 気 風 が 強 い 日 本 はその 逆 だ アメリ カ 人 は 社 会 をいわばエンジニアリングの 対 象 であるかのように 考 え それを 世 界 にもあ てはめて 考 える 指 導 者 が 悪 ければ 制 度 が 悪 ければ 替 えればいい というわけだ ところが 最 近 のアメリカ 社 会 は 細 分 化 分 裂 傾 向 を 強 めている 多 民 族 化 の 程 度 は 30 年 前 と 比 べても 比 べ 物 にならない 白 人 は 相 対 的 な 存 在 となった 民 族 宗 教 ゲイ レスビアン その 他 種 々の 特 色 に 基 づく 社 会 グループが 形 成 され その 同 権 性 が 強 く 主 張 されるがゆえに 皆 が 発 言 に 注 意 している アメリカ 人 にはかつての 自 由 闊 達 さ 寛 容 性 がもうあまり 見 られない そして 政 治 家 はこれら 相 反 する 利 害 を 抱 えた 雑 多 なグループを 数 多 く 味 方 につけなけれ ばならず そのためにその 政 策 は 小 回 りがきかなくなっている 国 内 がこのように 多 民 族 化 クラスター 化 してガバナンスの 危 機 とも 言 える 状 況 を 呈 し ている 中 で アメリカは 世 界 においてはその 軍 事 力 をバックに 相 変 わらずダイナミック に 振 る 舞 い 続 ける いや クリントンの 時 代 は 対 外 軍 事 行 動 はむしろご 法 度 だったの が 9 月 11 日 事 件 以 後 は 民 主 主 義 を 広 めるのに 非 民 主 的 手 段 を 使 うのをためらわない 原 理 主 義 的 輩 によってアメリカの 中 近 東 政 策 は 一 時 牛 耳 られてしまった 15

第 3 章 中 国 の 国 家 制 度 1. 多 民 族 性 清 の 連 邦 性 現 在 の 中 国 はアヘン 戦 争 以 来 欧 米 日 本 に 辱 められたことがトラウマとなっている 日 本 では 中 国 は 日 本 には 厳 しいが 欧 米 には 甘 いとされている しかし 反 日 のことばか りが 喧 伝 されているが 北 京 の 頤 和 園 に 行 ってみると 入 場 券 売 り 場 の 上 に 英 仏 連 合 による 破 壊 から 復 興 された と 大 書 してある そしてそのように 辱 められたのは 中 国 の 国 家 体 制 がしっかりしていなかったためだとして 強 い 欧 米 にならった 近 代 国 民 国 家 を 作 る 努 力 が 続 けられている 史 上 の 中 国 は 西 欧 的 な 近 代 国 家 とは 異 なる 原 理 によって 維 持 されてきた そして 中 国 は 漢 民 族 だけのための 国 ではなく 古 来 から 西 方 の 諸 民 族 遊 牧 民 族 が 共 に 作 り 上 げ てきた 国 家 である ユーラシアは 一 つにつながっており その 上 を 馬 で 移 動 することは 気 の 遠 くなるほどの 時 間 がかかることではない 古 来 青 銅 器 文 明 鉄 器 文 明 の 生 起 がエジプト メソポタ ミア 中 国 と 時 期 的 にほぼ 一 致 していることから 判 断 すると ここにはスキタイのよ うに 文 明 を 媒 介 してまわる 遊 牧 民 族 や 商 人 の 介 在 があったと 思 うのが 自 然 だろう 中 国 文 明 にしても そのオリエント 起 源 説 が 一 部 で 提 唱 されているのである そして 中 国 を 初 めて 統 一 したことになっている( 中 国 は 古 いと 言 うが この 統 一 は 実 はペルシアのアケメネス 朝 成 立 22から 下 ること 実 に 約 340 年 後 のことなのだ) 秦 の 始 皇 帝 の 家 柄 は 西 戎 だということになっている そして 秦 の 国 制 がアケメネス 朝 ペルシアの それに 似 ていることを 指 摘 する 者 もいる その 後 漢 民 族 23が 樹 立 したと 言 って 差 し 支 えない 王 朝 ( 但 し 長 期 間 続 いたもののみ)は 漢 宋 明 程 度 のものである 唐 の 開 祖 李 淵 の 家 柄 は 辺 境 地 方 の 防 衛 をあずかる 武 人 で 周 辺 の 鮮 卑 族 と 長 年 にわたる 婚 姻 関 係 を 結 んでいたし 李 の 配 下 で 後 に 唐 王 朝 の 貴 族 と なる 武 人 達 の 家 柄 も 同 様 であった 唐 の 中 期 安 禄 山 の 反 乱 が 起 こるが 彼 は 突 厥 系 の 母 ソグド 系 の 父 の 間 に 生 まれている そして 長 安 の 朝 廷 では ソグド 人 24が 経 済 関 係 の 22 642 年 ササン 朝 ペルシアがイスラム 勢 力 に 滅 ぼされたとき その 王 子 は 唐 の 首 都 長 安 に 亡 命 してきたと 伝 えられる それだけ 往 来 があったのだ 23 漢 民 族 というのは 相 対 的 な 概 念 であり この 地 方 に 住 んでいて 中 国 語 漢 字 を 知 ってい る 者 程 度 の 意 味 である 後 のイスラム 帝 国 におけるモスレムの 概 念 に 似 ている 西 欧 の 近 代 国 民 国 家 とは 異 なり 国 民 は 人 種 よりも 領 域 文 化 によって 決 せられていたらし い 24 現 在 のウズベキスタン タジキスタンのあたりに 居 住 し 強 力 が 商 業 農 業 王 国 を 作 り 上 げた 民 族 彼 らの 作 り 上 げたホラズム 王 国 はチンギスハンに 滅 ぼされ その 首 都 サマ ルカンドは 蹂 躙 されたが ソグド 人 は 絶 滅 したわけではない 康 安 何 石 曹 の 姓 は 古 くはソグド 出 身 であることを 意 味 した 16

重 職 に 取 り 立 てられていたことが 最 近 西 安 周 辺 で 続 々と 発 掘 されている 彼 らの 墳 墓 か ら 明 らかになりつつある 元 王 朝 にいたっては 西 域 とのかかわりはもっと 明 白 だったし 経 済 通 商 行 政 はペル シア 人 ソグド 人 に 委 ねられていた 明 の 時 代 計 2 万 名 もの 大 艦 隊 を 率 いてアフリカ まで 航 海 した 鄭 和 は 中 国 南 部 に 移 住 していた 色 目 人 (イスラム)の 子 孫 だった そして 清 の 時 代 に 至 って 中 国 の 多 民 族 性 は 頂 点 に 達 する 清 とは 満 州 の 女 真 族 がモ ンゴル チベットと 同 盟 して 漢 民 族 を 制 圧 した 征 服 国 家 であり 漢 民 族 にとっては 元 朝 に 次 ぐ 悪 夢 の 再 来 だった 清 王 朝 は 漢 民 族 にも 辮 髪 を 強 制 することで 彼 らの 誇 りも 砕 いたのである だが 清 は 一 貫 して 漢 民 族 の 慰 撫 にも 努 めた その 際 用 いたのが 連 邦 国 家 的 な 概 念 で ある 清 の 征 服 王 朝 性 を 批 判 した 漢 人 の 朱 子 学 者 曾 静 を 雍 正 帝 が 故 宮 によんでディベ ートをした 時 の 記 録 大 義 覚 迷 録 は1 中 華 世 界 は 漢 人 だけのものにあらず 2 君 主 は 漢 人 に 限 らず どの 民 族 でも 良 い 3 漢 人 が 聖 人 とする 舜 は 東 夷 文 王 は 西 夷 だった とする 堂 々たる 多 民 族 主 義 で 当 時 津 々 浦 々に 宣 伝 された 25 清 王 朝 は 多 民 族 国 家 であることを 越 え 女 真 族 漢 民 族 モンゴル チベットの 連 邦 (Confederation) 的 性 格 を 持 っていた 清 の 皇 帝 はモンゴルの 汗 も 兼 ね 北 京 入 城 後 間 も ない 順 治 帝 は 故 宮 の 裏 の 北 海 の 島 にチベット 様 式 の 白 い 仏 塔 を 建 て その 脚 部 に 建 つ 仏 殿 には 釈 迦 牟 尼 仏 の 隣 にダライラマ5 世 像 を 安 置 した チベットは 当 時 まで 強 国 であ り 新 疆 地 方 を 従 えていたから 清 王 朝 の 時 代 に 初 めて 新 疆 地 方 全 体 が 領 土 となった のである 当 初 征 服 者 の 清 王 朝 に 反 抗 的 だった 儒 学 者 も 王 朝 中 期 になると 清 を 讃 え 清 の 版 図 を 自 分 のものとして 考 え 始 めた そこに 西 側 が 侵 略 して 初 めて 中 国 という 概 念 が 成 立 したのだという ナショナル プライドの 萌 芽 である つまり 中 国 が 現 在 の 領 土 を 確 立 したのは 比 較 的 新 しいことであ り 中 国 中 華 という 呼 称 も 新 しいもの ということになる それまでの 中 国 は 漢 民 族 にとっては 天 下 でしかなく 具 体 的 な 名 称 はその 時 の 王 朝 の 名 を 用 いていたらしい 現 在 のユーラシアに 存 在 する 二 つの 大 国 中 国 とロシアはいずれも かつて 遊 牧 民 族 が 自 分 達 を 征 服 して 樹 立 した 大 帝 国 をいわば 裏 返 して 自 らのものとした 特 異 な 領 域 国 家 なのだ 遊 牧 民 族 はその 軍 事 的 機 動 性 をもって 通 商 圏 を 限 りなく 押 し 広 げ 特 定 の 土 地 にしがみつく 農 耕 民 族 とは 異 なる 支 配 体 制 を 作 り 上 げる 農 耕 社 会 を 基 礎 にしてで きた 国 家 は 民 族 的 文 化 的 な 同 一 性 の 強 い 近 代 国 民 国 家 に 転 化 しやすいが 遊 牧 民 が 征 服 した 領 域 を 基 礎 にしてできた 国 家 は 今 でもガバナンスに 苦 しんでいる 25 しかし 乾 隆 帝 が 差 別 用 語 を 含 む 全 ての 書 籍 を 燃 やした 時 大 義 覚 迷 録 も 焚 書 にあっ てしまった 17

2. 中 国 の 国 家 制 度 中 国 の 国 家 制 度 はどのようなものか? 西 欧 は 1100 年 くらいから 農 業 生 産 性 を 飛 躍 的 に 向 上 させて 封 建 制 絶 対 主 義 と 歴 史 を 展 開 させていった 中 国 はそれより 300 年 は 早 い 900 年 頃 には 既 に 絶 対 主 義 26 的 性 格 の 強 い 政 体 を 樹 立 している 唐 の 時 代 までは 地 方 の 代 官 (あるいは 節 度 使 )は 領 主 的 存 在 となって 国 を 分 裂 させたが 唐 崩 壊 の 後 約 70 年 続 いた 五 代 十 国 の 大 乱 の 間 に 彼 らの 力 は 後 退 したものらしい 97 9 年 成 立 した 宋 の 皇 帝 は 唐 の 時 代 にも 存 在 していた 科 挙 を 充 実 させ 高 級 官 僚 は 貴 族 からではなく 全 て 科 挙 合 格 者 から 採 用 し 自 らが 任 命 することとした これは 皇 帝 の 支 配 権 を 強 力 なものとしただろう 27 中 国 では いずれの 王 朝 においても 中 央 の 権 力 は 強 く その 点 では 西 欧 の 絶 対 主 義 に 近 いとも 言 える 政 体 が 取 られていた 但 し 西 欧 の 国 王 とは 異 なり 中 国 の 皇 帝 は 多 くの 場 合 下 から 祭 り 上 げられる 存 在 で 実 権 は 高 級 官 僚 が 握 っていることが 多 かった こ れはいわば 官 僚 絶 対 主 義 とも 言 える 政 体 で 江 戸 時 代 以 来 の 日 本 もそうした 伝 統 を 継 いでいるとも 言 える 3. 国 家 への 情 念 官 僚 絶 対 主 義 の 延 長 線 上 にある 政 党 国 家 中 国 は 亡 国 の 瀬 戸 際 まで 行 ったことのある 国 であり それだけに 国 家 のあり 方 に 対 す る 思 い 入 れ 議 論 が 激 しい 清 時 代 末 期 漢 人 インテリにとって 清 王 朝 = 国 家 は 打 倒 するべき 対 象 であった それは 第 一 に 征 服 王 朝 であり 第 二 に 近 代 化 を 妨 げ 欧 米 列 強 に 領 土 を 分 け 与 える 危 険 な 存 在 だ ったのである それは 中 国 が 前 近 代 的 な 絶 対 主 義 体 制 から 近 代 的 な 国 民 国 家 へと 移 り 変 わるプロセスであったともいえよう 清 王 朝 が 倒 れた 時 中 華 民 国 のイデオローグだった 孫 文 は 政 党 国 家 の 概 念 を 提 起 し た これは 当 時 国 民 党 に 熱 心 に 近 づいていたヨッフェを 通 じての ソ 連 の 影 響 である ボリシェビキから 発 したソ 連 共 産 党 は 立 法 権 行 政 権 司 法 権 そしてイデオロギーま でを 一 手 に しかも 恒 久 的 に 握 っており 28 孫 文 達 にとっては 至 極 有 効 なものに 思 えたの だろう 彼 にとっては 民 主 主 義 などより 欧 米 日 から 国 を 守 るため 国 力 を 充 実 させるこ との 方 が はるかに 大 きな 課 題 だったのだから 26 封 建 国 家 においては 国 王 と 民 の 間 に 封 建 領 主 という 中 間 集 団 が 介 在 する 絶 対 主 義 は 封 建 領 主 から 地 方 支 配 権 を 取 り 上 げて 中 央 の 貴 族 とし 国 王 が 全 国 に 直 接 権 力 ( 徴 税 徴 兵 司 法 等 )をふるう 建 前 である これは 国 王 が 同 じく 絶 対 的 権 力 を 有 して いたペルシア 等 の 古 代 国 家 に 似 ているが 古 代 国 家 は 線 と 点 しか 支 配 していなかったと すれば 絶 対 主 義 は 面 の 支 配 を 実 現 している 点 が 異 なる 27 これ 以 降 元 清 という 二 つの 征 服 王 朝 においても 科 挙 は 続 けられはしたものの 合 格 者 は 重 用 されず 権 力 は 征 服 民 族 が 握 った なお 宋 は 軍 事 的 には 弱 かった 宋 は 経 済 文 化 的 に 中 国 史 における 一 つの 頂 点 を 築 く 鎌 倉 室 町 期 日 本 は 宋 の 士 大 夫 文 化 から 多 くを 学 び 室 町 文 化 の 基 礎 とする 28 プロレタリアート 独 裁 の 名 の 下 で 18

この 政 党 国 家 の 思 想 は 後 の 中 国 共 産 党 はもちろんのこと 台 湾 に 渡 った 国 民 党 に よっても 忠 実 に 実 践 された 台 湾 の 国 民 党 政 府 は 強 い 警 察 力 をもって 反 対 派 を 抑 圧 し 経 済 では 国 営 企 業 を 宗 としてそこに 国 民 党 の 利 権 をはりめぐらせた 従 って 1999 年 政 権 についた 民 進 党 が 企 業 の 民 営 化 を 進 めたのは 国 民 党 勢 力 からの 利 権 奪 取 という 政 治 的 な 意 味 合 いも 持 っていたのである そしてこの 今 でも 中 国 で 生 きている 政 党 国 家 を 見 ると 一 つのことに 気 がつく そ れは 宋 以 来 の 官 僚 絶 対 主 義 の 伝 統 に 見 事 に 叶 ったものである ということだ 三 権 そしてイデオロギーまでを 厳 しく 淘 汰 された 高 級 ( 党 ) 官 僚 が 独 占 する 民 営 化 された 大 企 業 にも 党 の 力 が 強 く 及 ぶ これは 現 代 中 国 の 強 みでもあり( 特 に 外 交 では) また 弱 みに もなるだろう これこそ 中 国 的 国 民 国 家 の 特 徴 である 19

第 4 章 イスラム 帝 国 アジアの 港 市 国 家 イスラムが 形 成 した 数 々の 帝 国 は 時 に 中 央 政 府 からの 締 め 付 けが 緩 くとも 治 まってい た 例 として 政 府 というものを 嫌 う 論 者 から 肯 定 的 に 紹 介 されることがある 例 えば アッバース 朝 が 衰 えた 後 でも 地 方 の 諸 王 朝 はカリフの 宗 主 権 を 認 めていた 例 などであ る 地 方 の 諸 王 朝 は イスラムの 権 威 を 必 要 としていたのだろう それはローマ 帝 国 崩 壊 後 のカトリック 教 会 組 織 に 似 て イスラム 法 を 司 るイスラム 法 学 者 が 統 治 に 参 加 した のである 29 司 法 優 位 の 統 治 形 態 と 言 える 今 日 EUは 経 済 における 諸 規 制 基 準 が 域 内 で 統 一 されているため 規 制 (を 共 にする) 帝 国 と 呼 ばれることがある これはイ スラム 法 学 者 がコーラン ハディース シャリーアの 一 大 体 系 に 基 づいて 単 一 の 法 空 間 を 作 り 出 しているイスラム 帝 国 に 似 たところがある 東 アフリカや 東 南 アジアなどでは 軍 事 的 な 征 服 がなくとも 商 業 ネットワークに 沿 っ てイスラムが 浸 透 している 多 様 な 人 々 集 団 から 成 るこの 地 域 の 社 会 を 統 治 する 者 に とって イスラム 教 は 自 らの 統 治 の 正 当 性 を 保 証 するためにうってつけの 宗 教 だったと 言 える アッラーは 地 縁 血 縁 職 業 エスニシティーなどのあらゆる 属 性 を 超 越 し 普 遍 的 な 性 格 を 持 った 唯 一 神 だから 30 東 南 アジアもまた 独 特 の 国 家 原 理 を 見 せる それは マンダラ 国 家 と 言 われるよう に 権 力 の 核 が 単 一 ではなく 複 数 の 権 力 核 の 勢 力 範 囲 は 支 配 者 の 個 人 的 資 質 に 従 って 大 きく 伸 縮 するのである 東 南 アジアの 国 々も 戦 争 はしたが 戦 争 の 目 的 は 領 地 ではな く 人 間 を 獲 得 することにあった 従 って 戦 闘 で 人 員 を 損 耗 するのを 忌 避 するという 欧 米 から 見 れば 奇 異 な 行 動 を 取 ったらしい なお 羽 田 正 氏 は 後 出 資 料 2で 国 家 による 貿 易 管 理 が 確 立 し 内 と 外 の 区 別 が 厳 格 で ある 近 世 東 アジア 世 界 に 比 べて インド 洋 沿 岸 の 港 市 都 市 では 内 と 外 の 区 別 が 曖 昧 であ ることに 注 目 している これは 日 本 の 堺 イタリアのヴェネツィアなどと 同 じく 経 済 的 基 盤 が 強 い 港 市 都 市 においてはリベラルで 開 放 的 な 制 度 を 取 り 得 ることの 証 左 なのか もしれない しかしイスラム 諸 国 家 にせよ アジアの 港 市 国 家 にせよ その 統 治 の 実 態 については 史 料 が 乏 しい イスラム 国 家 でもオスマン 帝 国 のように 厳 格 な 絶 対 主 義 が 敷 かれていた 例 もある また 中 央 アジアは 現 代 でも 権 威 主 義 が 目 立 つところである 政 府 による 統 治 が 緩 くても 治 まっていた というような 理 想 像 を これら 地 域 に 探 すことは 非 現 実 的 だろ う 29 イランでは 現 在 でも イスラム 法 学 者 が 統 治 機 構 の 重 要 な 一 部 となっている 30 東 インド 会 社 とアジアの 海 356ページ 羽 田 正 20

第 5 章 日 本 の 国 家 の 特 徴 1. 日 本 での 国 家 形 成 日 本 は 江 戸 時 代 も 含 め 一 貫 して 中 国 が 投 げかける 強 い 影 の 中 で 生 きてきた ところが その 国 家 体 制 は 当 初 中 国 の 律 令 制 を 模 したものであるにもかかわらず 中 国 とも 西 欧 と も 異 なる 一 種 独 特 のものである 前 記 の 如 く 日 本 は 五 胡 十 六 国 南 北 朝 時 代 273 年 間 を 経 て 隋 唐 という 大 国 が 成 立 し たのにあわせて 中 央 集 権 化 を 進 めた 観 があり 701 年 には 大 宝 律 令 によって 中 国 の 律 令 国 家 つまり 法 治 体 制 を 取 りいれ 経 済 面 では 班 田 収 受 制 を 採 用 した だが 唐 においてでさえ 律 令 制 と 言 っても 朝 廷 における 貴 族 の 力 は 科 挙 官 僚 の 力 をはる かに 上 回 り 31 地 方 では 節 度 使 の 権 力 が 高 まる 一 方 だった 日 本 の 平 城 平 安 時 代 も 法 治 国 家 と 言 うよりは 貴 族 制 であり 班 田 収 受 制 も 農 民 に 田 の 所 有 権 を 実 際 与 えたもので はなく むしろロシアの 農 奴 制 に 近 い 耕 作 地 に 特 定 の 農 民 を 強 制 的 に 貼 り 付 け 年 貢 を 取 り 立 てるための 道 具 であったろうし またどのくらい 有 効 に 実 施 されていたかについ ての 記 録 もない 32 その 後 平 安 鎌 倉 南 北 朝 時 代 を 通 じて 公 家 侍 の 間 で 土 地 支 配 をめぐる 争 いが 激 し くなり 戦 国 時 代 の 背 景 をなす 土 地 所 有 をめぐる 争 いにけりをつけたのは 豊 臣 秀 吉 で あり 彼 は 刀 狩 と 検 地 を 通 じて 日 本 の 絶 対 主 義 時 代 の 扉 を 開 く 彼 は 検 地 によって 大 名 や 侍 から 土 地 所 有 権 を 取 り 上 げ そこを 耕 作 している 百 姓 に 擬 似 所 有 権 を 与 えた 33 大 名 侍 は 知 行 地 に 任 命 されたという 点 では 絶 対 主 義 下 あるいは 古 代 国 家 の 代 官 と 変 わらなくなったが 農 民 からの 年 貢 は 自 分 のものとなった 34 彼 らは 江 戸 時 代 を 通 じ てお 家 取 り 潰 し 改 易 を 恐 れていた 江 戸 時 代 は 君 主 が 諸 侯 と 契 約 を 結 び 君 主 は 諸 侯 の 領 地 所 有 権 を 安 堵 する 代 わりに 諸 侯 は 有 事 の 出 兵 義 務 を 誓 う というような 西 欧 型 の 封 建 制 ではなく むしろ 絶 対 主 義 に 近 い 政 体 だったのである でなければ 近 代 国 民 国 家 への 転 換 はあれほどたやすくはいかなかったであろう なお 日 本 は 侍 という 武 装 勢 力 のエートスが 立 法 行 政 司 法 権 を 支 配 した 点 で 35 中 国 と 大 きく 異 なる 中 国 は 春 秋 五 胡 十 六 国 五 代 十 国 という 大 乱 の 時 代 を 経 て 利 権 土 31 貴 族 が 五 代 十 国 の 大 乱 を 経 て 衰 退 し 科 挙 官 僚 がそれに 代 わるエリートとしての 地 位 に つくのは 宋 時 代 である 32 中 国 についてもそれは 同 様 で 班 田 収 受 は 北 魏 にほぼ 限 られている 33 土 地 の 売 買 は 明 治 の 地 租 改 正 まで 表 向 き 禁 じられていたから 実 際 には 所 有 権 と 言 うよ り 使 用 権 であった 農 民 の 権 利 が 確 立 されたと 見 るべきなのか それとも 農 民 が 耕 地 に 縛 り 付 けられ 納 税 を 義 務 付 けられたと 見 るべきなのか 筆 者 には 未 だわからない 但 し 長 子 相 続 が 法 制 化 され 土 地 は 代 々 特 定 の 農 家 の 担 当 となったから そこには 当 然 所 有 権 に 似 た 感 情 が 生 まれていただろう 34 このあたりの 経 緯 に 詳 しいのは 封 建 制 の 再 編 と 日 本 的 社 会 の 確 立 水 林 彪 山 川 出 版 社 である 35 当 時 の 侍 は 外 国 と 戦 う 軍 人 と 言 うより 貴 族 の 所 領 を 守 る 用 心 棒 的 な 存 在 だった 21

地 所 有 権 を 整 理 し 早 々に 絶 対 主 義 を 確 立 してしまったのかもしれない 2. 権 力 の 相 対 性 これら 期 間 を 通 じて 日 本 の 国 家 に 特 徴 的 であるのは 国 家 体 制 に 常 に( 但 し 信 長 秀 吉 を 除 く) 曖 昧 さがつきまとい 権 力 の 形 行 使 の 仕 方 がアメーバのように 変 幻 を 続 ける 感 がすることである 真 の 権 力 のありかは 天 皇 関 白 将 軍 などという 公 的 ポストに 常 にあるとは 限 らなかっ た 他 方 その 真 の 権 力 者 も 法 制 上 の 権 力 者 が 並 存 していなければ 権 威 の 裏 づけを 失 うと いう 事 情 があって 絶 対 的 権 力 は 振 るいにくい 立 場 にあった これが 権 力 のDualityとして 外 国 研 究 者 にも 指 摘 される 日 本 国 家 の 特 徴 であり それは 中 国 西 欧 のような 唯 一 絶 対 の 価 値 観 を 前 提 とした 強 力 な 指 導 力 を 生 み 出 すもの ではなく むしろタイのような マイペンライ 的 な 四 方 を 見 てコンセンサスを 探 求 するあり 方 なのである 明 治 に 至 り 日 本 は 植 民 地 とされるのを 避 けるために 西 欧 型 近 代 国 民 国 家 の 建 設 に 邁 進 する 1873 年 には 1 義 務 教 育 ( 国 民 国 というイデオロギーを 吹 き 込 む) 2 徴 兵 3 地 租 改 正 という まさに 国 民 国 家 の 三 種 の 神 器 とも 称 すべき 措 置 が 発 布 されたことは 象 徴 的 なことである 日 本 は 大 正 期 に 至 り 民 主 的 な 政 党 政 治 を 確 立 するのだが 総 理 大 臣 についての 規 定 が 憲 法 に 欠 けていたことが 軍 部 の 専 横 を 呼 ぶ 軍 の 一 部 は 超 国 家 主 義 皇 国 史 観 を 唯 一 絶 対 の 価 値 観 として 強 力 に 打 ち 出 し 天 皇 の 権 威 を 背 景 に 国 の 実 権 を 握 った ここに 日 本 は 国 民 国 家 という 強 力 な 戦 争 マシンの 扱 いに 失 敗 する 途 へと 歩 みだす 本 来 はコンセンサス 国 家 の 日 本 は 絶 対 的 価 値 観 を 選 び 取 るのに 慣 れていないのであり あえて 選 べば 狂 信 に 陥 り 国 際 情 勢 を 見 るのに 疎 いことも 手 伝 って 太 平 洋 戦 争 のよう な 大 災 害 を 引 き 起 こすのである 現 在 の 日 本 国 家 の 装 置 制 度 の 多 くは 明 治 以 後 形 成 されてきたものである これを 絶 対 視 することは 適 当 であるまい 日 本 古 来 の 文 化 伝 統 と 見 なされているものの 中 に も 例 えば 古 今 集 における 美 意 識 のうち 相 当 部 分 が 中 国 の 漢 詩 からの 借 り 物 であったり する 場 合 もあるのであり 制 度 文 化 とも 作 り 変 えていっこうに 構 わないのである 3. 日 本 が 抱 える 特 殊 な 問 題 日 本 の 本 格 的 な 工 業 化 開 始 は 僅 か 百 数 十 年 前 のことで 西 欧 に 100 年 以 上 遅 れている それだけ 工 業 化 以 前 の 農 村 共 同 体 に 発 するモラル 人 間 関 係 が 色 濃 く 残 っている そ してそのことが 日 本 の 民 主 主 義 を 欧 米 とは 異 なるものとしている 英 国 における 囲 い 込 み が 典 型 的 に 示 すように 工 業 化 は 農 村 人 口 の 都 市 への 流 出 を 引 き 起 こし それによって 農 村 共 同 体 を 解 体 に 導 く つまり 人 間 を 地 縁 血 縁 から 切 り 離 し ばらばらの 存 在 とするのである だが 西 欧 の 都 市 住 民 の 場 合 市 民 社 会 (いわば 22

都 市 にヴァーチュアルな 共 同 体 を 作 り 上 げたのだ)の 道 徳 を 作 り 上 げ それに 従 って 生 きている 集 合 アパートにおいても 互 いの 迷 惑 とならないよう 夜 間 の 騒 音 を 控 える などの 暗 黙 のルールが 守 られている 日 本 の 都 市 住 民 の 多 くは まだばらばらである 隣 人 を 知 らないし 知 ろうともしない 経 済 が 伸 びていた 時 代 は あたかも 日 本 にも 個 人 主 義 が 広 がり プライベートな 生 活 に 干 渉 しない 美 風 が 確 立 したのかと 思 われた ところがそうでなかった 証 拠 に 経 済 が 右 肩 下 がりになってくると 何 か 悪 いことが 起 こると 犯 人 騒 ぎに 血 眼 になり 一 度 犯 人 と 思 われる 者 を 見 つければ 法 律 もプライベートな 生 活 もものかわ 集 団 リンチのように 有 無 を 言 わさず 血 祭 りに 上 げてしまう 36 これは 西 欧 的 な 市 民 社 会 とは 明 らかに 異 な る 農 村 社 会 の 倫 理 が 近 代 工 業 化 社 会 にそのまま 蘇 ってきたようなものだ 近 代 工 業 化 社 会 に 見 合 った 価 値 観 人 間 関 係 が 未 だ 成 立 していない 個 人 と 政 府 の 間 の 関 係 も 欧 米 とはかなり 異 なる 日 本 の 場 合 個 人 と 政 府 の 間 の 適 度 な 距 離 感 がまだ 確 立 していない 日 本 人 のある 者 にとって 政 府 は 未 だ お 上 公 儀 で あり 別 の 者 にとっては 下 僕 のようなものなのだ ルソーの 社 会 契 約 論 に 代 表 されるよ うな 政 府 に 対 するオーナーシップの 意 識 が 乏 しく あくまでも 他 者 なのである これからの 世 界 における 日 本 の 立 場 は 非 常 に 難 しい 世 界 は 米 国 やBRICsのよう な 大 型 国 家 自 分 は メガ 国 家 と 名 づける あるいはEUのような 連 合 体 が 主 流 を 占 める 時 代 になりつつあるが 日 本 はそれに 規 模 でかなり 劣 る 国 民 国 家 として 伍 していかなければならないからだ EUのようになろうとしても 東 アジアではそれ だけの 気 運 と 条 件 はまだない それに 外 国 人 と 渡 り 合 える 語 学 力 と 識 見 人 格 を 持 った 日 本 人 は 一 握 りしかいない 国 際 化 しなければ 日 本 は 生 きていけないと 言 っても 国 民 の 大 部 分 はそんなことは 日 常 感 じていないし 外 国 語 も 話 せはしない 日 本 は 実 は 世 界 最 大 の 国 民 国 家 ( 米 国 は 多 民 族 国 家 である)なのだが 日 本 に 残 され た 数 少 ない 自 慢 の 種 であるGDPは モノづくりに 大 きく 支 えられている モノづくり は 語 学 力 を 要 さない ところが 一 対 一 で 話 せる 外 国 語 が 必 要 となるサービスや 知 識 産 業 マスコミになると 日 本 は 競 争 力 を 持 たない 日 本 では 国 家 を 憎 み 政 府 を 嫌 う 者 が 多 いが 世 界 の 中 でも 珍 しいほどに 国 民 国 家 の 枠 から 出 ることができないのは 他 ならぬ 日 本 なのではないか 36 歴 史 は 蓄 積 と 分 配 の 時 期 を 繰 り 返 しがちのものだが バブル 崩 壊 後 の 日 本 は 分 配 の 時 期 に 当 たった 団 塊 世 代 が 引 退 することも 利 益 の 再 分 配 をめぐる 論 議 を 引 き 起 こしやす い 23

第 6 章 提 言 にかえて 以 上 から 得 られる 結 論 を 当 面 の 課 題 および 提 言 も 交 えて 述 べてみたい 1. 国 民 国 家 の 変 質 と 当 面 の 課 題 (1) 国 民 国 家 が 紛 争 を 煽 る 国 民 国 家 はかつて 戦 争 マシンとも 呼 べる 存 在 であったが 現 代 では 先 進 国 同 士 が 武 力 で 争 う 事 態 はほぼ 考 えられなくなっている 東 アジア 諸 国 は 歴 史 について 時 に 激 しい 言 葉 を 交 し 合 うが 実 際 には 米 国 市 場 をはじめとした 世 界 各 国 との 自 由 貿 易 にその 発 展 を 米 国 の 軍 事 的 プレゼンスと 政 治 力 に 安 定 を 依 存 している こうして 本 来 なら 武 力 紛 争 など 起 こらないであろう 現 代 先 進 世 界 において 紛 争 状 況 を 作 り 出 しているのは 具 体 的 な 経 済 社 会 問 題 ではなく むしろ 国 民 国 家 という 仕 組 みが 内 包 するナショナル プライドと 見 栄 なのではないか 対 立 の 理 由 はないにもかかわら ず 国 民 国 家 形 成 のために 人 工 的 に 作 り 上 げた 民 族 感 情 が 一 人 歩 きして 不 要 な 摩 擦 を 引 き 起 こしている 現 在 の 中 国 は アヘン 戦 争 以 来 の 屈 辱 は 中 国 が 国 民 国 家 体 制 を 有 していなかったた めである との 認 識 の 下 に 国 家 体 制 就 中 軍 の 整 備 をはかっているが 日 本 は 世 界 レベルで 進 行 しつつある 国 民 国 家 の 変 質 に 中 国 の 目 を 向 けさせ 国 民 国 家 体 制 の 過 度 の 確 立 は 時 代 に 逆 行 し 不 要 であることについて 理 解 を 促 していくべきである (2) 感 情 的 対 立 の 抑 制 そしてバランスを 維 持 した 上 での 軍 縮 を では 一 国 が 先 んじて 国 民 国 家 であることをやめてしまえば 紛 争 は 起 こらないかと 言 う と そんなことはない その 国 の 国 民 企 業 の 所 有 権 と 諸 権 利 を 保 証 し 擁 護 してくれ る 国 際 的 な 枠 組 みがしっかりしていない 限 り 保 護 者 を 失 った 国 家 の 国 民 経 済 は 列 国 の 草 刈 場 になってしまう こうして 一 国 が 力 の 真 空 地 帯 と 化 せば 周 辺 の 列 国 は 争 いを 始 めて ついには 武 力 衝 突 にさえ 至 ることだろう 従 って 国 民 国 家 という 枠 組 みを 一 方 的 に 放 棄 するのは 適 当 ではない できることは 軍 事 バランスの 維 持 に 意 を 用 い 軍 備 が 過 大 になれば 交 渉 の 結 果 相 互 に 軍 縮 を 行 うこ とである また 歴 史 問 題 が 感 情 的 対 立 を 煽 って 武 力 対 決 に 至 ることがないよう 様 々の 方 法 を 講 じておかなければならない (3) 国 内 のガバナンスの 問 題 本 報 告 書 ではあまり 論 じなかったが 各 国 家 における 有 権 者 基 盤 の 拡 大 多 様 化 分 散 化 は ガバナンス あるいは 政 府 と 有 権 者 の 間 のつながりに 深 刻 な 問 題 をもたらしてい る 産 業 革 命 で 人 々の 生 活 水 準 が 上 昇 し 政 治 意 識 が 向 上 して 普 通 選 挙 が 実 現 したが 投 票 のベースが 広 がるにつれ 政 治 家 が 選 挙 民 の 一 人 々々と 対 話 している 時 間 はなくな 24

り テレビを 通 じてポピュリスト 的 手 法 を 弄 するしかなくなってきた 古 今 東 西 をみわたしても 権 力 者 と 国 民 の 間 に 独 裁 でもなく 無 政 府 でもない 理 想 的 な 関 係 をもたらした 政 体 は 存 在 しない 今 日 インターネットに 直 接 民 主 主 義 の 夢 を 見 る 者 がいる 北 欧 では 市 民 の 政 治 意 識 は 高 く 投 票 率 もいつも 高 い インターネットを 使 っ て 同 じようなことを 実 現 できないかとも 思 う だが 問 題 は 人 はいつもインターネット を 見 ているわけでなく いつも 政 治 に 参 加 したいわけでもない ということだ (4) 市 民 社 会 的 価 値 観 の 再 興 生 活 水 準 が 向 上 するにつれて 人 々は 血 縁 地 縁 に 対 する 依 存 から 離 れても 生 きていけ るようになる 現 代 社 会 は このように 共 同 体 から 離 れて 別 々に 存 在 する 個 人 から 成 り 彼 ら 相 互 の 関 係 を 律 するものは これまでの 共 同 体 的 な 集 団 主 義 の 価 値 観 とは 異 なる このとき 有 用 なのが 自 由 な 個 人 の 間 の 関 係 を 律 する 西 欧 の 市 民 社 会 的 価 値 観 であり これは 偽 善 的 なところがあるものの 他 人 の 権 利 に 配 慮 しつつ 自 分 の 自 由 と 権 利 を 最 大 限 確 保 できる 規 範 として 現 代 のアジアにおいても 有 効 なものである 9.11 事 件 以 後 相 対 化 されてしまった 感 のある 西 欧 的 な 市 民 社 会 の 諸 価 値 即 ち 健 全 な 個 人 主 義 合 理 主 義 人 道 主 義 の 復 活 をはかるべきである 2. 日 本 にとっての 課 題 (1) メガ 国 家 への 対 処 世 界 は 米 国 やBRICsのような 大 型 国 家 自 分 は メガ 国 家 と 名 づける あるいはEUのような 連 合 体 が 主 流 を 占 める 時 代 になりつつある 日 本 は 実 は 世 界 最 大 の 純 正 国 民 国 家 なのだが メガ 国 家 にはその 規 模 で 大 きく 劣 る これは 今 後 の 日 本 にとって 大 きな 問 題 である たとえEUのようになろうとしても 東 アジアではそれ だけの 気 運 と 条 件 はまだない こうした 状 況 の 中 で 日 本 は 何 とか 自 分 を 大 きく 見 せる 構 えと 自 分 の 声 を 世 界 に 聞 か せるための 仕 掛 けを 必 要 とする 例 えば 企 業 なら 海 外 支 社 なども 決 算 に 含 める 連 結 決 算 で 自 分 を 大 きく 見 せて 借 り 入 れ 能 力 買 収 防 衛 力 を 強 化 するが 同 じことを 国 につ いてもできると 思 うのだ 貿 易 黒 字 赤 字 も 国 単 位 で 論 ずることの 意 味 はあまりない のである (2) 国 際 業 務 を 担 当 できる 人 材 の 養 成 日 本 経 済 はモノづくりに 大 きく 支 えられている モノづくりは 語 学 力 を 要 さない とこ ろが 高 度 の 語 学 力 が 必 要 となるサービスや 知 識 産 業 マスコミになると 日 本 は 競 争 力 を 持 たない 今 話 題 のアニメ マンガなどにしても これまで 国 内 市 場 の 方 が 圧 倒 的 に 大 きかったが 故 に 国 外 でのマーケット リサーチ 営 業 などを 外 国 企 業 に 丸 投 げして きた 25

国 内 市 場 が 相 対 的 に 縮 小 しつつある 今 日 海 外 への 対 処 は 以 前 よりもはるかに 重 要 にな った 小 学 生 全 員 に 英 語 を 覚 えさせるなどは 不 可 能 だし 必 要 でもなかろうが 海 外 での 業 務 に 当 たる 人 員 は 数 水 準 とも 飛 躍 的 に 向 上 させる 必 要 がある 参 考 文 献 下 記 いずれも 東 京 財 団 ホームページ http://www.tkfd.or.jp/research/sub2.php?id=12 に 掲 載 資 料 1 国 家 論 の 系 譜 概 要 (2007 年 2 月 14 日 報 告 者 : 山 下 範 久 北 海 道 大 学 助 教 授 現 立 命 館 大 学 教 授 ) 資 料 2 イスラーム 世 界 新 しい 世 界 史 国 民 国 家 日 本 (2007 年 3 月 28 日 報 告 者 : 羽 田 正 東 京 大 学 教 授 ) 資 料 3 現 代 国 家 論 : 中 央 アジア 研 究 からの 視 点 (2007 年 5 月 8 日 報 告 者 : 宇 山 智 彦 北 海 道 大 学 スラブ 研 究 センター 助 教 授 ) 資 料 4 中 国 国 家 論 王 朝 国 家 の 性 格 とその 近 現 代 における 変 容 (2007 年 6 月 28 日 報 告 者 : 茂 木 (もてぎ) 敏 夫 東 京 女 子 大 学 現 代 文 化 学 部 教 授 ) 資 料 5 現 代 中 国 の 国 家 の 特 質 について (2007 年 11 月 27 日 報 告 者 : 高 原 明 生 東 京 大 学 法 学 部 教 授 ) 資 料 6 国 家 としてのアメリカの 特 質 (2007 年 9 月 28 日 報 告 者 : 渡 辺 靖 慶 應 大 学 教 授 ) 資 料 7 ロシア 国 家 の 特 質 (2006 年 12 月 報 告 者 : 河 東 ) 資 料 8 比 較 国 制 史 論 から 見 た 日 中 欧 米 (2008 年 2 月 18 日 報 告 者 : 水 林 彪 一 橋 大 学 教 授 大 学 院 法 学 研 究 科 教 授 ) 資 料 9 日 本 帝 国 におけるアジア 主 義 をめぐって (2006 年 12 月 13 日 報 告 者 : 松 浦 正 孝 北 海 道 大 学 法 学 部 教 授 ) 資 料 10 西 欧 国 民 国 家 の 生 成 からEUまで (2008 年 1 月 21 日 報 告 者 : 渡 邊 啓 貴 東 京 外 国 語 大 学 教 授 現 在 フランス 大 使 館 参 事 官 ) ロシア 出 張 報 告 北 京 出 張 報 告 EU 出 張 報 告 26

現 実 的 な 国 家 論 序 説 国 家 を 論 ずるための 交 通 整 理 2008 年 10 月 発 行 発 行 者 東 京 財 団 107-0052 東 京 都 港 区 赤 坂 1-2-2 日 本 財 団 ビル 3F Tel 03-6229-5504( 広 報 代 表 ) Fax 03-6229-5508 E-mail info@tkfd.or.jp URL http://www.tkfd.or.jp 無 断 転 載 複 製 および 転 訳 載 を 禁 止 します 引 用 の 際 は 本 書 が 出 典 であることを 必 ず 明 記 してください 東 京 財 団 は 日 本 財 団 および 競 艇 業 界 の 総 意 のもと 公 益 性 の 高 い 活 動 を 行 う 財 団 として 競 艇 事 業 の 収 益 金 から 出 捐 を 得 て 設 立 され 活 動 を 行 っています