笑 顔 でつなぐ 地 域 と 未 来 鴨 川 市 漁 業 協 同 組 合 女 性 部 部 長 橋 本 みつ 子 1. 地 域 の 概 要 私 たちの 住 む 鴨 川 市 は 太 平 洋 に 面 する 房 総 半 島 南 部 に 位 置 し 岩 礁 域 と 砂 浜 域 とで 構 成 される 美 し い 海 岸 線 から 山 間 部 に 至 るまで 自 然 は 変 化 に 富 ん でいる( 図 1) そして 主 な 産 業 は 農 業 漁 業 観 光 業 である 農 業 では 稲 作 が 盛 んで 長 狭 米 とい うブランド 米 山 間 部 には 棚 田 大 山 千 枚 田 ( 千 葉 県 の 指 定 名 勝 )がある 観 光 では 全 国 的 に 有 名 な 鴨 川 シーワールド 日 蓮 上 人 ゆかりの 誕 生 寺 な どがある 温 暖 な 気 候 と 豊 かな 自 然 に 恵 まれ 文 化 人 を 含 む 都 会 からの 移 住 者 も 多 い 図 1 鴨 川 市 の 位 置 2. 漁 業 の 概 要 漁 業 は 鴨 川 市 の 基 幹 産 業 の 一 つである 生 産 量 の 多 い 魚 種 は カタクチイワシ サバ 類 ブリ 類 マアジなど また イセエビ アワビ ヒジキなどの 磯 根 資 源 も 豊 富 である 私 達 が 所 属 する 鴨 川 市 漁 業 協 同 組 合 は 組 合 員 数 1354 名 ( 平 成 22 年 度 末 ) 県 内 でも 規 模 が 大 きい 漁 協 であり 女 性 が 組 合 長 を 務 める 全 国 で 唯 一 の 漁 協 である 主 な 漁 業 種 類 は まき 網 定 置 網 小 型 船 による 一 本 釣 り さし 網 採 貝 漁 業 である 平 成 22 年 度 の 水 揚 量 は 1 万 トン 水 揚 金 額 は 23 億 円 であった 3. 研 究 グループの 組 織 と 運 営 鴨 川 市 漁 協 女 性 部 ( 前 婦 人 部 )は 昭 和 32 年 に 部 員 数 30 名 で 発 足 した 現 在 の 部 員 数 は 73 名 役 員 は 部 長 1 名 副 部 長 1 名 会 計 1 名 である 女 性 部 活 動 の 重 要 性 について は 地 元 でも 十 分 な 理 解 を 得 ており 活 動 資 金 を 含 め 組 合 から 支 援 を 受 け 部 員 間 の 話 し 合 いを 大 切 にしながら 運 営 を 続 けてきてい る これまでの 主 な 活 動 は 女 性 部 員 同 士 の 親 睦 を 図 ること 共 済 加 入 や 貯 蓄 の 推 進 農 業 者 との 交 流 魚 食 普 及 や 水 産 物 の 消 費 拡 大 PRなどである( 図 2) なかでも 料 理 講 習 会 やメニュー 開 発 等 を 通 じた 魚 食 普 及 と 産 業 祭 等 での 鴨 川 の 海 の 幸 の PRにつ いては 長 年 に 渡 って 取 り 組 んでいる 図 2 農 漁 家 交 流 会 1
4. 研 究 実 践 活 動 の 取 組 課 題 選 定 の 動 機 鴨 川 市 漁 協 では 実 に 様 々な 種 類 の 魚 が 水 揚 げされる また 種 類 が 豊 富 なだけで なく 定 置 網 や 巻 き 網 に 入 るサバやブリな どは 量 的 にも 多 い( 図 3) さらに 小 型 船 では 冬 にはサバ 春 先 にはカツオ 夏 ~ 秋 はイカなど その 季 節 ならではの 魚 が 水 揚 げされる( 図 4) 最 近 は 魚 の 消 費 量 が 減 り 若 い 人 が 魚 を 食 べない と 耳 にすることが 多 い マグ ロの 刺 身 やサケの 切 り 身 などは 良 く 売 れてい るようだが 調 理 に 一 手 間 かかる 丸 のまま のアジやサバなどは 以 前 ほど 売 れなくなっ ているらしい 食 糧 自 給 率 という 言 葉 が 頭 をかすめるが それよりも なんてもっ たいない 地 元 であがる 新 鮮 な 季 節 の 魚 を 食 べないなんて と 思 う 女 性 部 のメンバーは 旬 の 魚 はもちろん 季 節 外 れで 脂 ののりが 今 ひとつな 魚 であっ ても 工 夫 し おいしく 食 べる 術 を 持 って 図 3 定 置 網 のサバ いる 図 4 小 型 船 ( 一 本 釣 り)のカツオ 私 達 の 調 理 指 導 はささやかではあるが 若 い 人 がおいしく 魚 を 食 べられるように そして 漁 師 が 魚 を 獲 り 続 けていけるように 縁 の 下 で 支 える 力 になりたいと 思 っている 5. 研 究 実 践 活 動 の 状 況 及 び 成 果 と 波 及 効 果 鴨 川 の 素 晴 らしい 海 の 幸 を 若 い 人 や 都 市 部 の 人 にもっと 知 ってもらいたい たくさん 食 べてもらいたい そう 思 って 子 供 達 への 魚 の 調 理 指 導 やイベントへの 参 加 などの 活 動 を 長 いものは 25 年 にわたって 地 道 に 続 けてきた 長 年 継 続 していく 中 で 部 員 も 年 を 重 ね 活 動 に 参 加 できるメンバーが 固 定 的 になって きたが それぞれが 持 ち 味 を 活 かして チームワーク 良 く 取 り 組 んでいる 今 や 私 達 は 鴨 川 市 漁 協 の 顔 であり 地 域 のいわば 交 流 大 使 として 組 合 から も 鴨 川 市 からも 頼 りにされていると 自 負 している (1) 長 年 行 ってきた 都 市 部 との 交 流 鴨 川 市 は 姉 妹 都 市 の 東 京 都 荒 川 区 と 交 流 が 長 年 続 いており 交 流 行 事 の 一 端 を 女 性 部 が 担 ってきた 荒 川 区 で 実 施 される 川 の 手 まつり には 昭 和 62 年 から 参 加 し 鴨 川 で 獲 れた 魚 の 干 物 などを 販 売 し 毎 回 好 評 である 2
平 成 2 年 平 成 21 年 3 子 供 達 の 体 験 学 習 自 然 まるかじり 体 験 塾 も 今 年 で 25 回 となった これは 夏 休 みに 荒 川 区 の 小 学 校 4 年 生 以 上 の 子 供 達 が 数 十 人 鴨 川 に 来 て 市 内 の 農 家 に2 泊 して 農 業 や 農 村 生 活 の 体 験 をし 最 終 日 に 漁 船 乗 船 体 験 や 魚 調 理 体 験 などを 行 うもの である 最 終 日 の 会 場 は 漁 協 の 市 場 なので 水 揚 げの 様 子 や 選 別 された 魚 も 見 ることが できる この 中 で 私 達 は イカの 塩 辛 作 りや アジのたたき 作 りなどの 指 導 と 昼 食 の 用 意 を 担 当 している 調 理 指 導 では 魚 に 触 るのは 初 めてという 子 が 多 いが どの 子 も 興 味 津 々で 熱 心 に 取 り 組 み 皮 がむきづらい ( 食 べられるところ が) 小 さくなっちゃった などと 言 いながら も 丸 のままのイカやアジを 上 手 におろせる ようになっていく( 図 5) 昼 食 は 前 日 に 下 ごしらえしたサバの 竜 田 揚 げや アジのたたき イカご 飯 やワカ メご 飯 などをふるまう 海 を 眺 めながら 友 達 と 一 緒 に 食 べるご 飯 は 食 が 進 むようで 何 度 もおかわりに 来 る 子 もいる どの 子 も 魚 をおいしそうに 食 べてくれる 調 理 指 導 や 食 事 の 折 に 子 供 達 に 話 しかけ ると 楽 しかった 家 でつくってみたい 平 成 21 年 嫌 いだったけど 食 べてみたらおいしか 図 5 自 然 まるかじり 体 験 塾 今 昔 った などの 声 が 聞 かれる また 前 年 に 参 加 して 楽 しかったから また 来 た という 子 もいて うれしくなる 自 分 で 作 ったイカの 塩 辛 は お 土 産 に 持 ち 帰 るので 家 で 待 っていた 家 族 と 一 緒 に 食 べ ながら 鴨 川 の 思 い 出 に 話 がはずむことだろう 都 会 の 子 供 達 は 普 段 の 生 活 の 中 で 食 物 の 生 産 現 場 を 知 る 機 会 は 少 ない 目 の 前 の 食 品 が 元 々はどんな 姿 で 生 きていたのか その 作 物 や 家 畜 や 魚 は どんな 人 がどうやって 作 っ たりとったりしているのか この 体 験 学 習 を 通 して そのつながりを 実 感 してもらいたい 都 会 の 生 活 も 農 山 漁 村 の 営 みが 支 えていること 食 料 生 産 の 大 切 さを 分 かってほしい そう 願 って この 交 流 に 長 年 携 わってきた 25 回 も 続 けてくると 子 供 の 頃 に 体 験 した 子 が 親 になり ちょうどその 子 供 達 が 参 加 してくる 頃 である 鴨 川 での 体 験 が 親 から 子 に 伝 わっていることを 願 っている そして 毎 年 毎 年 新 しい 出 会 いがあることを 楽 しみにしている
(2) 鴨 川 の 海 の 幸 の PR 活 動 毎 年 6 月 に 行 われる 地 元 鴨 川 の 産 業 祭 シーフェスタ in 鴨 川 には 昭 和 60 年 の 第 1 回 から 参 加 し 鮮 魚 などの 販 売 を 通 して 鴨 川 の 海 の 幸 の PR を 行 っている ( 図 6,7) 今 年 度 産 業 祭 は 震 災 のため 中 止 となったが 急 遽 地 元 で 企 画 された 6 月 の 東 日 本 復 興 チャリティー 元 気 鴨 川 2011 や 8 月 の 間 寛 平 アースマラソン 完 走 記 念 イベント in 鴨 川 に 参 加 した( 図 8) このように 地 元 でイベントがあればで 図 6 産 業 祭 ( 平 成 2 年 ) きるだけ 参 加 し 鴨 川 産 水 産 物 の 魅 力 と 浜 の 元 気 を 多 くの 人 に 伝 えたいとがんばっている 今 年 3 月 11 日 に 起 きた 東 日 本 大 震 災 では 千 葉 県 でも 津 波 や 液 状 化 により 大 きな 被 害 を 受 けた 追 い 打 ちをかけるように 福 島 第 一 原 発 事 故 の 影 響 で 千 葉 の 魚 が 売 れなくなったり 価 格 が 下 がったりした 鴨 川 では 観 光 客 の 姿 が 減 り まち 全 体 がなんとなく 元 気 がなくなり 漁 師 の 間 にも 不 安 が 広 がっていた そのなかで 女 性 部 員 は 鴨 川 の 漁 業 のため まち のために 自 分 たちでできることをなんでも 一 生 懸 命 にやりたいと 思 っていた そこで 千 葉 を 元 気 に 千 葉 から 日 本 を 元 気 に しようと 千 葉 県 が 行 っていた がんばろう! 千 葉 キ 図 7 シーフェスタ(H22) ャンペーンに 協 力 し 都 市 部 のスーパーで 鴨 川 産 の 鮮 魚 を PRした( 図 9) 当 日 は 新 鮮 な 鴨 川 産 のアジ サバ ワラサ(ブリ)が 鮮 魚 コーナーに 並 んだ 鴨 川 の 魚 を 目 当 てに 来 店 し 私 達 にエールを 送 って くれる 方 がいる 一 方 干 物 や 調 味 済 みの 切 身 ばかりを 手 に 取 る 方 も 多 く どうにかこの 機 会 に 鴨 川 の 魚 のお いしさを 知 ってもらいたいという 思 いが 強 くなった 浜 の 母 さんの 明 るい 声 と 笑 顔 で ブリの 刺 身 やアジ のたたきの 試 食 をすすめ 生 きの 良 い 鴨 川 の 魚 のおい しさを 実 感 してもらった さらに おいしい 食 べ 方 や 簡 単 な 料 理 法 を 紹 介 すると それなら 私 も 家 ででき る と 安 心 し 嬉 しそうに 購 入 してくれた 思 えば 昔 ながらの 魚 屋 さんは 今 晩 のおかず 何 にしようかしら と 悩 むお 客 さんに 対 し 本 日 のお 勧 め 品 と 好 みの 料 理 法 を 伝 えて 販 売 していた 魚 は 同 図 8 8 月 のイベント じ 種 類 でも 獲 れる 場 所 や 時 季 によって 味 が 異 なるの 4
で 物 だけを 売 るのでなく 調 理 法 等 おいしく 食 べるための 情 報 を 一 緒 に 売 ること が 大 切 であり 消 費 者 と 売 り 手 とのさりげないコミュニケーションを 通 じてお 互 いの 信 頼 が 深 められていると 実 感 した 今 後 情 報 を 添 えて 売 る 努 力 をはじめ 消 費 者 とのコミュ ニケーションをさらに 大 事 にしていきたいと 思 った また 震 災 の 影 響 で 沈 滞 した 地 域 経 済 を 盛 り 立 てるため 鴨 川 市 が 農 協 や 漁 協 観 光 サイドと 連 携 し て 企 画 した ばらま つり( 埼 玉 県 ) への 参 加 や 千 葉 県 庁 で の PR イベントにも 協 力 し 鴨 川 産 の 干 物 などを 販 売 した 干 物 は 大 変 好 評 で あっという 間 に 売 り 切 れた おすすめ 力 に 長 けた 部 員 のおかげでもある 図 9 がんばろう! 千 葉 6. 今 後 の 課 題 や 計 画 と 問 題 点 約 10 年 前 には90 名 程 いた 部 員 も 徐 々に 減 少 し 現 在 は73 名 平 均 年 齢 は71 歳 である また 部 員 は 水 揚 げの 手 伝 いや 漁 業 以 外 の 仕 事 で 家 計 を 支 えたり 子 ( 孫 ) 育 てや 介 護 などにも 忙 しく 活 動 に 参 加 するメンバーは 固 定 化 している 漁 業 者 の 減 少 高 齢 化 とともに 漁 協 女 性 部 員 の 減 少 は 多 くの 漁 村 地 域 での 共 通 の 悩 みではあるが 鴨 川 では 明 るい 兆 しも 見 られる まき 網 や 定 置 網 の 乗 り 子 として 若 者 が 多 数 就 業 するようになり 正 組 合 員 として 定 着 し ている 者 もいる 彼 らの 中 には 仕 事 が 終 わった 後 や 休 日 海 士 漁 などをする 者 も 多 く 年 配 の 漁 師 から 海 が 好 きで 良 く 働 く と 好 意 的 に 評 価 されている 彼 らの 存 在 が 同 年 代 の 仲 間 がいるという 安 心 感 につながり 地 元 漁 師 の 後 継 者 の 定 着 を 促 すように 働 くことを 期 待 している そして 女 性 部 にも 彼 らの 奥 さん 達 に 入 ってきてもらいたい 私 達 は 若 い 人 達 が 気 軽 に 話 しかけやすい 頼 れる お 母 さん でありたい 奥 さん 達 も 育 児 や 仕 事 で 忙 しいの で すぐにとはいかないだろうが 料 理 講 習 会 など 交 流 する 機 会 を 設 けることから 考 えて いきたい そこから 少 しずつ 女 性 部 の 活 動 に 加 わってくれたらと 願 っている 女 性 部 の 活 動 は 大 変 と 思 えば 大 変 かもしれないが 実 際 にやってみると 地 元 の 人 や 子 供 達 との 交 流 はとても 充 実 感 があるので 若 い 人 にもぜひ 味 わってもらいたい 鴨 川 は 千 葉 県 の 中 でも 都 会 と 田 舎 ( 農 村 漁 村 )と 観 光 地 がいい 形 で 融 和 している 所 である 昔 からの 伝 統 的 な 漁 村 でも 新 しい 形 の 漁 村 女 性 の 活 動 が 芽 生 えることを 期 待 しながら 私 達 らしい 活 動 を 続 けていきたい 5