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1 JIN ドクターとして 長 くサッカー 選 手 を 診 てこら れた 仁 賀 先 生 は サッカーで 多 く 生 じ 問 題 となる 鼠 径 部 の 痛 みに 正 面 から 取 り 組 んでこ られた 鼠 径 周 辺 部 痛 は まだ 世 界 的 に 未 解 決 とされる 問 題 であるが 仁 賀 先 生 は 恥 骨 結 合 炎 と 言 われていた 時 代 に スポー ツヘルニア の 概 念 を 日 本 に 導 入 して 手 術 療 法 に 取 り 組 み やがて 選 手 やトレーナーとの 共 同 作 業 で 器 質 的 疾 患 が 認 められない 鼠 径 部 の 痛 みについては 保 存 療 法 アスレティッ クリハビリテーションで 治 療 するという 方 針 をとり それを 鼠 径 部 痛 症 候 群 と 呼 んで おられる この 特 集 では 仁 賀 先 生 にその 長 い 治 療 歴 を 詳 細 に 紹 介 していただき 将 来 展 望 まで 語 っていただいた なお 仁 賀 先 生 は 8 年 間 浦 和 レッズの 専 任 チームドクターを 務 められたのち 浦 和 レッズのメディカルディ レクターを 兼 務 されながらいったんは 病 院 勤 務 に 戻 られたが 自 身 の 目 指 す 医 療 を 実 現 す るために 2013 年 さいたま 市 中 央 区 で JIN 整 形 外 科 スポーツクリニック を 開 業 され アスリートのみならず 子 どもからお 年 寄 りま で 幅 広 い 患 者 さんにこれまで 培 ってきた 運 動 療 法 のノウハウを 還 元 する 医 療 をはじめてい る(P.24 参 照 ) 今 日 お 話 しするのは 浦 和 レッズの 野 崎 信 行 トレーナーと 主 としてプロサッカー 選 手 を 対 象 に 長 く 一 緒 にやってきた 仕 事 です が その 後 プロサッカー 以 外 の 競 技 の 選 手 を 畑 中 仁 堂 先 生 (P.17 参 照 )にお 願 いす るようになりました 今 でもプロサッカー 選 手 については 野 崎 トレーナーにお 願 いす ることもありますが チーム 事 情 もあり プロサッカー 選 手 以 外 を 野 崎 トレーナーに お 願 いすることは 難 しい 状 況 です 畑 中 先 生 にはサッカー バレーボール ラグビー 柔 道 野 球 などあらゆる 競 技 の 選 手 をみて もらっています 野 崎 トレーナー 畑 中 先 生 が 実 際 の 選 手 へのリハビリで 私 の 診 断 治 療 予 防 のコンセプトを 実 現 し 進 化 させてくれています そして 現 在 では 私 が 開 設 したクリニックに 集 まった 優 秀 な リハビリスタッフが 野 崎 トレーナー 畑 中 先 生 のリハビリコンセプトを 受 け 継 ぎ 選 手 のリハビリ 復 帰 を 可 能 にしてくれて います 野 崎 トレーナー 畑 中 先 生 をはじ めとした 現 場 のトレーナーさんや 選 手 たち から 学 び 積 み 重 ねてきたことが 本 日 の 話 になります もともと 私 は J リーグ 発 足 (1993 年 ) の 前 1985 年 から 日 本 サッカーリーグの 東 芝 サッカー 部 ( 現 在 のコンサドーレ 札 幌 ) のチームドクターを 東 邦 大 学 の 土 谷 先 生 と ともに 務 めていました チームドクターは 選 手 の 信 頼 を 得 なければ 務 まりません 信 頼 を 得 るのは 一 朝 一 夕 ではできることでは なく まさに 結 果 の 積 み 重 ねです 信 頼 を 築 くのには 長 い 時 間 と 努 力 が 必 要 ですが 築 いてきた 信 頼 を 失 うのは 一 瞬 です そし て その 信 頼 を 回 復 するのは 大 変 なことで す Groin pain( 鼠 径 周 辺 部 痛 )について は 一 度 失 った 信 頼 を 取 り 戻 すために 今 も 戦 い 続 けていると 言 ってもよいのです にが さだお 先 生 2003 2011 8 2013 5 JIN P.24 MR CT X 2001 私 は 1988 年 のアジアカップの 日 本 代 表 チームに 帯 同 しました 93 年 に J リー グが 発 足 しましたが 94 年 からは 普 段 は 何 かあれば 病 院 で 選 手 の 診 療 を 引 き 受 け 合 宿 に 帯 同 したり 試 合 帯 同 は 東 京 慈 恵 会 医 科 大 学 の 先 生 たち 数 人 と 交 代 で 担 当 していました しかし 交 代 で 選 手 を 診 療 する 体 制 でプロ 選 手 の 健 康 管 理 を 行 うのは 難 しいことです J リーグ 発 足 当 時 から 専 任 ドクターを 雇 っているチームがいくつか 2 Sportsmedicine 2014 NO.157

ありましたが 私 は 2003 年 から 病 院 を 辞 め 浦 和 レッズの 専 任 ドクターになりまし た それまでの 約 10 年 間 は 専 任 ではない 立 場 で 選 手 を 診 ていたということです J リーグが 誕 生 し 日 本 のサッカー 選 手 も 世 界 を 目 指 すようになります サッカー 自 体 が 世 界 的 ですから 監 督 コーチ 選 手 に 多 くの 外 国 人 が 加 わるようになりまし た そしてそこに 携 わる 医 師 も 世 界 の 医 療 と 比 較 されるようになります J リーグ 発 足 前 は 仮 に 恥 骨 結 合 炎 になって 長 い 期 間 休 み 復 帰 してまた 再 発 したとしても それほど 大 きな 問 題 とはされませんでし た そういう 時 代 でした しかし J リー グが 発 足 すると 海 外 から 監 督 も 選 手 もや ってきます チームも 選 手 も 経 済 的 には 恵 まれるようになったので ケガをしたら アメリカ オランダ ドイツなどどこの 国 の 医 療 機 関 でも そこがよいと 思 えばそこ で 治 療 する そういう 時 代 になったのです 当 時 も 今 でも 世 界 中 で 恥 骨 結 合 炎 とい う 名 称 が 使 われています また 内 転 筋 の 付 け 根 に 痛 みがあれば 内 転 筋 付 着 部 炎 腹 直 筋 の 付 着 部 であれば 腹 直 筋 付 着 部 炎 とい う 診 断 がつけられることも 多 いですが 休 んでいても 反 対 の 下 肢 の 付 け 根 や 恥 骨 のあ たりに 痛 みが 生 じたり 休 んでいてもなか なか 治 らない 無 理 をしてプレーしている と 坐 骨 にも 痛 みが 出 てくることがありま す こうなると 単 なる 単 独 の 筋 肉 の 付 着 部 炎 という 診 断 では 説 明 できません このよ うな 場 合 さまざまなところに 痛 みを 生 じ る 病 態 を 説 明 する 診 断 として 恥 骨 結 合 炎 が 用 いられてきました アメリカも 日 本 も 世 界 的 にはサッカー 後 進 国 で この 下 肢 の 付 け 根 の 痛 みはあまり 注 目 されていなく て 診 断 治 療 に 難 渋 する 症 例 は 多 くの 場 合 恥 骨 結 合 炎 ということですまされて きたのです 一 方 ヨーロッパではすでに 100 年 以 上 のプロサッカーの 歴 史 がありました ま た 文 化 の 問 題 ですが ヨーロッパの 人 は 選 手 も 医 師 も 日 本 人 に 比 べると 手 術 を 好 む 傾 向 があると 思 います 南 米 はまた 違 う 面 が あると 感 じますが ヨーロッパでは 医 師 も 患 者 も 手 術 に 対 する 抵 抗 が 少 なく 早 く 手 術 を 選 択 し しかも 復 帰 も 早 い 印 象 があり ます 私 が 見 てきたプロサッカー 選 手 たち の 印 象 では 同 じケガをしても 海 外 の 選 手 は 日 本 人 より 明 らかに 復 帰 が 早 いと 思 いま す 鼠 径 部 の 痛 みについては イギリス オーストラリア スウェーデン ドイツで は 筋 腱 の 付 着 部 を 切 ったり 閉 鎖 神 経 を 剥 離 したり 潜 在 すると 考 えるヘルニアの 手 術 をして 復 帰 させる 治 療 方 法 などが 試 みら れていました しかし アメリカや 日 本 で は J リーグ 発 足 当 時 そういうことは 知 られ ていなかった 当 時 鼠 径 周 辺 部 の 痛 みを 訴 えている 浦 和 レッズの 2 人 の 選 手 がいたのですが ド イツでは 手 術 して 早 期 に 復 帰 していること が 紹 介 され ドイツに 手 術 を 受 けに 行 きま した 実 際 には 外 国 人 選 手 は 体 幹 が 強 くし っかりしているので 早 い 復 帰 も 可 能 です が その 後 ドイツで 手 術 を 受 けた 日 本 人 選 手 たちは 海 外 の 選 手 のように 早 く 復 帰 する ことはできず 多 くの 場 合 復 帰 まで 少 な くとも 1 カ 月 場 合 によっては 2 ~ 3 カ 月 かかりました それでも 足 の 付 け 根 の 痛 みは 手 術 すれば 2 ~ 3 カ 月 で 復 帰 できる 可 能 性 があるということになりました この 話 はいわゆる 皮 下 に 隆 起 がはっきり 出 る 脱 腸 とは 異 なり 内 部 に 隠 れている 潜 在 性 の 初 期 のヘルニアが 痛 みの 原 因 である という 考 え 方 と 手 術 治 療 です ところが ある 雑 誌 の 記 事 で ドイツで 手 術 を 受 けた サッカー 選 手 について 日 本 のどの 医 師 で も 診 断 と 治 療 が 容 易 にできる 脱 腸 (ヘルニ ア)を このチームのドクターは 見 逃 した というようなことを 書 かれました 手 術 を 受 けた 選 手 からも 先 生 たちは 勉 強 が 足 り ない と 言 われました 当 時 私 は 膝 の 専 門 医 として 実 績 を 積 んで 選 手 からの 信 頼 も 得 つつありました もちろん 膝 だけでなく スポーツ 整 形 外 科 医 として 診 るべき 疾 患 に 対 応 してきました 今 は 日 本 で 多 くの 治 療 がなされています が 当 時 日 本 のプロ 野 球 選 手 はアメリカで 手 術 をすることが 多 くありました 先 ほど の 2 人 の 選 手 がドイツで 手 術 を 受 けたこと をきっかけに その 後 鼠 径 周 辺 部 痛 でドイ ツに 行 って 手 術 を 受 ける 選 手 が 増 えまし た 私 にとって 脱 腸 はまったく 専 門 外 でし た しかし 選 手 のなかには 膝 も 海 外 で 手 術 したほうがよいのではないか と 言 う 人 も 出 てきました このままだと 野 球 選 手 がアメリカで 手 術 をするのと 同 じよう に サッカー 選 手 はヨーロッパに 手 術 をし に 行 くようになるかもしれないと 思 いまし た でも それは 選 手 にとって 幸 せなこと かと 考 えると 決 してそうではない 私 の 基 本 的 な 考 えは 選 手 も 患 者 さんも 幸 せ になるにはどうすればよいか ですから 必 要 なら 手 術 をするし 必 要 でなければ 手 術 はしないし どこのチームであっても なるべくはそれぞれの 選 手 自 身 が 所 属 する チームのドクターのところで 治 るようにな るのが 選 手 にとっても 幸 せなことだと 思 い ます 遠 く 離 れた 海 外 のドクターでは 何 かあってもすぐに 対 応 できません もちろ ん 海 外 でなければできない 手 術 治 療 を 海 外 で 受 けるのは 必 要 なことです しかし 日 本 でできることは 日 本 でできることが 選 手 のためによいと 思 います 私 はチームドクターを 始 めたときから 選 手 の 信 頼 を 失 ったらチームドクターを 辞 めようと 考 えていましたから このとき 辞 めるつもりでいました しかし そこで 辞 めて 日 本 の 選 手 やドクターたちみんなが 幸 せになるとは 思 えなかったので どうして も 鼠 径 周 辺 部 痛 に 取 り 組 まざるを 得 なかっ たのです そこでまったく 専 門 外 の 潜 在 ヘ ルニアを 含 め この 鼠 径 周 辺 部 痛 (groin pain)に 一 から 取 り 組 むことにしました 当 時 ヨーロッパで 行 われていたのは 本 当 の 脱 腸 ではないのですが 脱 腸 と 同 じ 理 屈 で 内 部 で 初 期 のヘルニアが 潜 在 していて 脱 腸 と 同 じように 手 術 を 行 えば 復 帰 できる という 考 え 方 です サッカーが 盛 んなイギ Sportsmedicine 2014 NO.157 3

リスやドイツ スウェーデン オーストラ リア(オーストラリアンラグビーというサ ッカーとラグビーを 合 わせた 競 技 が 盛 んで す)などでこの 考 え 方 で 手 術 が 行 われてい ました 海 外 の 文 献 では Sportsman he rnia や Sports hernia という 俗 称 が 使 われていましたが 女 子 にも 発 生 例 があ ることから この 概 念 を 日 本 語 で スポー ツヘルニア と 呼 ぶことにして 日 本 で 紹 介 したのも 私 です その 手 術 を 日 本 で 最 初 に やり 始 め その 結 果 を 出 しました この 手 術 はヨーロッパでは 今 でも 行 われていま す 同 じ 病 院 の 大 和 先 生 という 消 化 器 外 科 の 先 生 の 協 力 を 得 て 私 がスポーツヘルニア の 概 念 で 診 断 手 術 を 始 めて 他 チームを 含 めて 多 くの J リーグ 選 手 はこの 手 術 で 復 帰 しましたが 当 時 それが 本 当 に 正 しい 診 断 と 治 療 方 法 なのか 海 外 の 文 献 でも 信 頼 できる 証 拠 は 提 示 されていませんでした し 私 自 身 も 多 くの 手 術 を 行 い 超 音 波 検 査 やヘルニア 造 影 検 査 を 行 いましたが こ の 概 念 が 正 しいことを 示 す 証 拠 を 見 出 すこ とはできませんでした 今 私 が 器 質 的 疾 患 のない 鼠 径 周 辺 部 痛 を 鼠 径 部 痛 症 候 群 と 呼 び 行 っている 治 療 も 今 のところ 成 績 はよいのですが それが 本 当 に 正 しいかど うかはわかりません 今 後 もさらに 検 証 し ていく 必 要 があると 思 っています 医 学 の 進 歩 により 50 年 100 年 たてば 間 違 っ ていたということになるかもしれません 話 を 戻 しますが このスポーツヘルニア の 手 術 で 多 くの 選 手 は 復 帰 したのですが たとえ 100 人 のうち 1 人 でも 復 帰 できな ければ それは 問 題 です 計 90 例 132 側 に 手 術 しましたが なかには 術 後 復 帰 でき ない 選 手 や 復 帰 が 長 引 いた 選 手 がいまし た 手 術 は 最 後 の 手 段 ですから 手 術 して 復 帰 できないとなると 選 手 は 絶 望 的 になり ます 手 術 して 復 帰 できないからとあきら めることはできないので どうしても 復 帰 できるようあらゆる 可 能 性 を 探 して 努 力 し なければなりません そのときに 選 手 や トレーナーの 試 行 錯 誤 から 教 わったのは 腰 痛 がよくなったら 治 りました とか こ ういう 筋 力 トレーニングをしたらよくなり ました こういうからだの 使 い 方 をする とよくなりました というさまざまなヒン トでした そういう 例 を 一 つ 一 つ 積 み 重 ね て 検 証 してきました それで なぜそうな のかをいろいろ 検 討 しながら のちに 紹 介 するリハビリテーションの 運 動 を 手 術 前 に 行 うようにしました すると だんだん 手 術 が 減 り 2001 年 以 降 は 1 人 も 手 術 せず 全 例 保 存 療 法 を 行 っています もちろん 手 術 と 同 様 に 保 存 療 法 で 復 帰 できない 選 手 や 復 帰 が 長 引 く 選 手 もいますから これで この 問 題 が 解 決 したというわけではありま せん 私 は 当 初 は 日 本 のサッカー 選 手 が 幸 せに なることを 考 えて 取 り 組 みましたが 結 果 的 にサッカー 選 手 だけということはなく 野 球 陸 上 ラグビー 柔 道 など 数 多 くの 競 技 の 選 手 について 鼠 径 部 痛 症 候 群 の 治 療 を 野 崎 トレーナー 畑 中 先 生 とともに 行 うようになりました あとで 述 べるように 現 在 ではとくにトレーナーがいるチームで はチーム 全 体 で 予 防 に 力 を 入 れ 予 防 トレ ーニングを 実 施 発 症 に 至 る 各 段 階 で 機 能 不 全 の 発 生 に 未 然 に 対 応 し それによって 鼠 径 部 痛 症 候 群 を 発 症 した 場 合 も 今 までよ り 早 期 に 復 帰 することが 可 能 になっていま す この 予 防 トレーニングについては IOC が 主 催 したスポーツ 障 害 予 防 学 会 (2008 年 ノルウェー 2011 年 モナコで 開 催 )で 畑 中 先 生 と 実 技 を 含 めて 講 演 した 際 に 英 語 版 DVD を 作 成 して 配 布 しました おそらくその DVD を 見 たのだと 思 います が 先 日 テレビでマンチェスター ユナイ テッドの 試 合 を 見 ていたら 試 合 前 にコー チの 指 示 で 野 崎 トレーナーと 私 が 考 案 した 予 防 運 動 をマンチェスター ユナイテッド の 選 手 たちが 準 備 運 動 のなかで 行 っていま した IOC の 学 会 で 講 演 することになっ たのは 早 稲 田 大 学 の 福 林 徹 教 授 の 導 き です 福 林 教 授 がドイツに 行 った 際 ドイ ツで 年 間 1000 例 とも 言 われるほどスポー ツヘルニアの 手 術 をしている 医 師 から 世 界 中 からヘルニアの 手 術 を 受 けにサッカー 選 手 が 来 る 韓 国 からも 中 国 からも 来 る しかし 日 本 からはただの 1 人 も 来 ない それはなぜだ? と 言 われたそうです そ のため 福 林 教 授 から 海 外 の 学 会 で 鼠 径 部 痛 症 候 群 の 講 演 をしなければならないと 言 われて IOC の 学 会 で 講 演 する 機 会 を 与 えてもらいました こうして 最 初 に 信 頼 を 失 った 2 人 の 選 手 の 信 頼 を 取 り 戻 し 日 本 の 選 手 たちが 日 本 で 治 療 を 受 けられるようにするために 始 めた 仕 事 が 海 外 のチームの 準 備 運 動 に 取 り 入 れられるようになるまで 19 年 間 かか りました 2 人 の 選 手 の 信 頼 を 取 り 戻 すこ とができたのかはわかりません あのとき 海 外 に 行 かなければ 治 療 できなかった 2 人 の 思 いを 取 り 戻 すことはできません これ からもその 思 いを 胸 に 刻 んで 仕 事 をしてい くのだと 思 います ここまでが 今 回 の 話 の 歴 史 的 な 概 要 で す では これから 鼠 径 部 痛 症 候 群 につい て 資 料 とともに 述 べることにします 鼠 径 周 辺 部 痛 (groin pain)については 今 でも 診 断 治 療 の 困 難 な 未 解 決 の 問 題 と して 世 界 的 に 知 られています 慢 性 化 しや すく サッカー 選 手 で 多 く 発 生 します 鼠 径 周 辺 部 痛 の 原 因 はさまざまです 鼠 径 周 辺 部 の 痛 みがあれば 器 質 的 な 疾 患 があっ てもなくても 症 状 を 示 す 言 葉 なのでみな 鼠 径 周 辺 部 痛 です そのなかには 肉 離 れもあ れば 剥 離 骨 折 もあれば 疲 労 骨 折 もある 稀 には 真 正 の 鼠 径 ヘルニア( 脱 腸 )もあり ます 原 因 は 何 であっても 鼠 径 周 辺 部 の 痛 みがあれば 鼠 径 周 辺 部 痛 (groin pain) で す 私 が 言 っている 鼠 径 部 痛 症 候 群 (groin pain syndrome)は 鼠 径 周 辺 部 痛 のな かで 器 質 的 疾 患 が 発 見 されなくて 機 能 的 な 痛 みと 診 断 されるもので 名 前 が 似 てい て 少 し 混 乱 するかもしれませんが 疾 患 の 概 念 は 異 なります 2001 年 以 前 私 が 大 和 先 生 とともにス 4 Sportsmedicine 2014 NO.157

図 1 鼠 径 周 辺 部 痛 の 原 因 (1994 ~ 2001:N=296) 図 2 当 初 の 治 療 方 法 の 選 択 図 3 スポーツヘルニア 手 術 の 有 効 性 図 4 術 後 成 績 不 良 例 に 対 する 治 療 経 験 ポーツヘルニアの 手 術 をしていたころは 内 転 筋 腱 付 着 部 炎 剥 離 骨 折 疲 労 骨 折 真 正 鼠 径 ヘルニアなど 器 質 的 疾 患 の 診 断 が ついたのは 15%で 残 りの 85%は 診 断 の つかない 鼠 径 周 辺 部 痛 でした( 図 1) 海 外 の 文 献 では 器 質 的 疾 患 が 見 つからない 診 断 のつかない 鼠 径 周 辺 部 痛 undiagnos ed groin pain であるということだけを 根 拠 に 世 界 中 でさまざまな 手 術 が 行 われて いました 日 本 やアメリカで 恥 骨 結 合 炎 の 病 名 で 安 静 を 主 とする 治 療 を 行 っていた 時 代 に ヨーロッパやオーストラリアでは 診 断 がつかない 鼠 径 周 辺 部 痛 で 症 状 が 長 引 いている 症 例 にさまざまな 診 断 のもと にさまざまな 手 術 が 行 われていたのです 閉 鎖 神 経 の 絞 扼 が 原 因 であるとして 閉 鎖 神 経 を 剥 離 したり 内 転 筋 や 腹 直 筋 の 拘 縮 が 原 因 であるとして 内 転 筋 や 腹 直 筋 を 切 った りすることも 行 われていました ヘルニア の 手 術 もその 一 つです ヨーロッパではこ のようにさまざまな 診 断 のもとにさまざま な 手 術 をしていたわけですが 閉 鎖 神 経 の 手 術 をした 人 も 内 転 筋 の 手 術 をした 人 も みな 同 じような 訴 えで 同 じような 手 術 成 績 だったのです 当 時 のバルセロナのチー ムドクターが 発 表 した 文 献 では ヘルニア の 手 術 で 治 らなかったので 内 転 筋 を 切 っ た あるいは 内 転 筋 を 切 ったけれども 治 ら なかったのでヘルニアの 手 術 をした ある いは 内 転 筋 とヘルニアの 両 方 とも 手 術 をし たという 内 容 でした いずれも 明 らかな 根 拠 が 示 されておらず よくわからない 話 で す 私 自 身 は 当 時 外 科 の 先 生 に 協 力 しても らい スポーツヘルニアに 対 してヨーロッ パと 同 じ 手 術 ができるようにしました 90 例 132 側 に 手 術 を 行 いました( 図 2) そ れが 正 しいかどうか 検 証 した 結 果 図 3 に 示 すように イギリス(Smedberg) オ ーストラリア(Malycha) スウェーデン (Hackney)の 報 告 でも 7 ~ 8 割 はよくな る 私 の 結 果 も 同 様 でした さらに 言 えば 他 の 種 目 に 比 べてサッカーのほうが 成 績 が よく 女 子 よりも 男 子 はよい 結 果 が 得 られ ました ではなぜ サッカー 以 外 は 悪 く 女 子 は 悪 いのか 当 時 はわかりませんでし た 今 ではなぜかわかる 気 がします おそ らく 種 目 によって 発 生 の 原 因 も 違 うし 違 うアプローチが 必 要 なのです 女 子 は 男 子 に 比 べて 体 幹 の 軸 が 弱 い 影 響 があると 思 い ます 手 術 をしてもよくならなかった 症 例 について 図 4 のように 腰 痛 合 併 例 の 治 療 や 股 関 節 周 辺 の 拘 縮 の 治 療 あるいは 体 幹 から 股 関 節 周 囲 の 筋 力 強 化 上 半 身 と 下 半 身 を 連 動 させ 協 調 運 動 を 行 うことでよく なる 例 がありました そういうことを 選 手 さん 自 身 やトレーナーから 教 わりました そこから 学 び 徐 々にリハビリ 方 法 の 改 善 を 積 み 重 ねてきた 結 果 先 ほど 述 べたよう に 手 術 は 減 っていきました( 図 5) 2001 Sportsmedicine 2014 NO.157 5

図 5 スポーツヘルニア 手 術 と 保 存 療 法 の 割 合 の 変 遷 図 6 超 音 波 検 査 (188 例 ) 図 7 ヘルニア 造 影 (119 例 ) 年 以 降 は 手 術 を 行 っていません 野 崎 信 行 トレーナー 畑 中 仁 堂 先 生 に 助 けていただ き 多 くの 選 手 の 治 療 にあたってきました また 前 述 のとおり 現 在 では 私 が 今 年 5 月 に 開 業 した JIN 整 形 外 科 スポーツクリニ ックのリハビリスタッフが 選 手 のリハビ リ 復 帰 を 可 能 にしてくれています ドイツでスポーツヘルニアの 手 術 をして いる 先 生 は 超 音 波 検 査 をされているという ことで 私 も 同 様 に 行 いました 超 音 波 検 査 では 動 的 な 画 像 の 様 子 を 見 ながら 判 断 しま す また 超 音 波 検 査 を 行 うときにはどちら 側 が 痛 いかわかっていて 行 います したが って 超 音 波 中 施 行 中 の 判 断 には 主 観 が 含 ま れます 図 6 はその 動 的 画 像 のある 瞬 間 の 静 止 画 像 ですが 腹 部 加 圧 時 に 腸 が 膨 隆 し ていることを 示 しています この 検 査 での 主 観 を 含 めた 判 断 結 果 の(+)の 比 較 では 手 術 側 と 非 手 術 側 で 有 意 差 があるのです が (±)を 含 める と 有 意 差 はありませ ん この 図 の 超 音 波 の 膨 隆 所 見 はわかり やすいのでよく 用 い るものですが 実 際 には 痛 みはなかった 側 の 膨 隆 側 を 紹 介 し ています 図 7 はヘ ルニア 造 影 で 造 影 剤 を 注 入 した 結 果 の 静 止 画 像 で 判 断 します 外 科 の 先 生 に 後 でどちらが 疼 痛 側 かわからない 状 態 で 主 観 を 含 めないで 再 度 判 断 してもらいました その 結 果 疼 痛 側 と 非 疼 痛 側 でヘルニア 造 影 検 査 の 陽 性 率 に 有 意 差 はありませんでし た 図 7 上 の 例 は 潜 在 性 の 腸 の 膨 隆 が 認 め られた 側 を 手 術 して 復 帰 したプロサッカー 男 子 選 手 です 図 7 下 の 例 は 両 側 にこれだ け 膨 隆 があり 両 側 を 手 術 したけれども 痛 みが 改 善 せず 復 帰 できなかった 女 子 サッカ ー 選 手 です 今 から 思 えば 当 時 は 現 在 のよ うなリハビリができていなかったと 思 いま す 2001 年 以 降 は 明 らかな 器 質 的 疾 患 が 見 出 せない 鼠 径 周 辺 部 痛 については 鼠 径 部 痛 症 候 群 と 診 断 し 保 存 的 に 治 療 してい ます 恥 骨 結 合 炎 という 考 え 方 もスポーツ ヘルニアという 考 え 方 もしていません 超 音 波 検 査 もヘルニア 造 影 検 査 もしていませ ん 検 証 した 結 果 痛 みの 原 因 であるという 証 拠 は 示 されなかったからです 鼠 径 部 痛 症 候 群 の 定 義 は 股 関 節 周 辺 の 痛 みの 原 因 となる 器 質 的 疾 患 がなく 体 幹 ~ 下 肢 の 可 動 性 安 定 性 協 調 性 に 問 題 を 生 じた 結 果 骨 盤 周 辺 の 機 能 不 全 に 陥 り 運 動 時 に 鼠 径 部 周 辺 に 痛 みを 起 こす 症 候 群 です つまり 剥 離 骨 折 疲 労 骨 折 肉 離 れ 真 正 鼠 径 ヘルニアなどの 器 質 的 疾 患 がない 場 合 の 多 くは 機 能 的 問 題 を 見 出 す ことができる 機 能 的 障 害 と 考 えています たとえば 野 球 の 投 手 が 足 関 節 や 膝 をケガ して もし 下 半 身 を 使 わないで 投 げたら 肩 や 肘 に 痛 みが 生 じます それは 肩 肘 は 結 果 的 に 痛 みが 出 たりケガしているかもし れないけれど 肩 肘 に 原 因 があるのでは なく 肩 肘 だけを 診 ても 治 らない 原 因 となっている 足 関 節 や 膝 などを 治 さなけれ ばいけない 上 半 身 と 下 半 身 の 連 動 性 とい うことです 私 が 病 院 ( 川 口 工 業 総 合 病 院 ) 勤 務 して いたときに 受 診 された 鼠 径 周 辺 部 痛 症 例 (1994 ~ 2008 年 )では 図 8 に 示 したと おり サッカーが 多 く 70%で うちプロ サッカー 選 手 が 98 例 でした 鼠 径 周 辺 部 痛 の 鑑 別 診 断 は 徐 々に 器 質 的 疾 患 の 診 断 率 が 高 くなってきています 図 9 右 側 2003 ~ 2011 年 のデータですが とくに 股 関 節 インピンジメント(FAI ま たは 関 節 唇 損 傷 )の 概 念 が 示 されてからそ の 診 断 が 増 えています 現 在 は 股 関 節 イ ンピンジメントの 概 念 を 含 めても 器 質 的 疾 6 Sportsmedicine 2014 NO.157

2 138 Groin pain FAI JIN 138 近 年 関 心 の 高 い FAI(Femoroacetabular Impingement 大 腿 骨 寛 骨 臼 インピンジメ ント)あるいは 股 関 節 唇 損 傷 については 本 誌 118 号 特 集 の アスリートの 股 関 節 痛 と 最 新 の 股 関 節 鏡 視 下 手 術 で 内 田 宗 志 先 生 ( 産 業 医 科 大 学 若 松 病 院 )が 詳 しく 述 べ ておられますが そのリハビリテーション および 手 術 適 応 について 主 としてインピ ンジメントサイン 陽 性 例 のマネジメントの 観 点 からお 話 ししたいと 思 います 改 めて 仁 賀 先 生 による 鼠 径 周 辺 部 痛 (Groin pain)と 鼠 径 部 痛 症 候 群 (Groin pain syndrome)の 定 義 を 図 1( 次 頁 )に 掲 げます この 仁 賀 先 生 の 定 義 によれば 明 らかな 器 質 的 疾 患 がない 場 合 なんらかの 誘 因 により 体 幹 ~ 下 肢 の 可 動 性 安 定 性 協 調 性 が 失 われた 結 果 股 関 節 周 辺 が 機 能 不 全 に 陥 り 鼠 径 部 周 辺 にさまざまな 痛 み を 起 こす 症 候 群 ということができます 私 は さらに 股 関 節 インピンジメント(FAI 関 節 唇 損 傷 )が 疑 われる 場 合 はとくに 肩 甲 帯 胸 郭 ー 腰 椎 骨 盤 ー 体 幹 の 機 能 低 下 が 股 関 節 に 何 らかの 影 響 をおよぼしていると 考 えています FAI 関 節 唇 損 傷 の 診 断 については 図 2 ( 本 誌 118 号 P.6より)のようになります またその 臨 床 症 状 は 図 3( 同 前 )に 示 した とおりで 自 覚 症 状 としては 鼠 径 周 辺 部 の 痛 み 大 転 子 周 囲 の 痛 み 股 関 節 屈 曲 も しくは 屈 曲 時 に 内 外 側 に 痛 みがあり 片 側 性 で 軽 度 の 外 傷 後 に 症 状 が 出 ることが 多 く 若 い 患 者 さんに 起 こることが 多 いとさ れています 他 覚 症 状 は 股 関 節 90 屈 曲 内 転 内 旋 で 疼 痛 があり 関 節 唇 を 圧 迫 す ると 疼 痛 が 誘 発 されます 鼠 径 部 周 辺 に 痛 みがあり 器 質 的 疾 患 が 認 められない 場 合 つまり 仁 賀 先 生 が 提 唱 さ れている 鼠 径 部 痛 症 候 群 では リハビリテ ーションを 行 うことで 多 くが 競 技 復 帰 し ていますが 器 質 的 疾 患 が 存 在 する 症 例 の うち 股 関 節 インピンジメント(FAI あるい は 股 関 節 唇 損 傷 )のなかにはリハビリテー ションで 改 善 する 場 合 と リハビリテーシ ョンでは 改 善 せず 股 関 節 鏡 手 術 を 必 要 と する 場 合 があります リハビリテーション に 反 応 するかどうかについては 橋 本 裕 介 先 生 ( 大 阪 市 立 大 学 大 学 院 医 学 研 究 所 整 形 外 科 )が 述 べておられるように 骨 盤 の 影 響 もありますが Anterior Impingement Test( 股 関 節 90 屈 曲 内 旋 内 転 )での 痛 みが 最 大 のポイントになります 当 院 での 器 質 的 疾 患 がない 鼠 径 部 痛 症 候 群 を 疑 わせるおもな 臨 床 症 状 は 図 4 に 示 し たとおりです 自 覚 症 状 は 痛 みで 日 常 生 活 では 痛 みが 少 ないのですが 運 動 時 に 中 等 度 以 上 の 痛 みが 生 じる つまり 普 段 の 生 活 では 問 題 がほとんどないのですが 運 動 すると 痛 い ただし 悪 化 すると 一 時 的 に 日 常 生 活 でも 痛 みが 出 る 場 合 がありま す 痛 むところは 鼠 径 部 内 転 筋 下 腹 部 恥 骨 周 囲 ( 睾 丸 後 方 ) 坐 骨 などさま ざまです 他 覚 症 状 は 図 に 示 したとおり 体 幹 から 股 関 節 の 可 動 性 安 定 性 協 調 性 の 機 能 不 全 があり 股 関 節 単 独 の 徒 手 スト レステストで 痛 みが 生 じ Anterior Impingement Test( 後 出 図 10)が 軽 度 であること また Trendelenburg sign( 図 5 左 ) 陽 性 Positive standing sign( 図 Sportsmedicine 2014 NO.157 17

Groin pain groin pain Groin pain syndrome 1 2 3 6 7 8 Anterior Impingement Test FABER Test Hip dial Test 2 FAI JIN 1 groin pain) 90 3 FAI 6 7 8 Anerior Impingement test sportmedicine118. p7 6, 7 ) Trendelenburg 1 Positive standing sing PSS 5 4 Groin pain syndrome 5 右 )として 遊 脚 での 痛 みが 挙 げられます Positive standing sign というのは 片 脚 立 位 で 前 屈 したときに 鼠 径 部 周 辺 に 痛 みが 出 る 場 合 で 遊 脚 のほうが 痛 むのが 鼠 径 部 痛 症 候 群 で 支 持 脚 が 痛 い 場 合 は 恥 骨 下 肢 疲 労 骨 折 が 疑 われます Trendelenburg sign Positive standing sign 次 に 当 院 での 股 関 節 インピンジメント (FAIまたは 股 関 節 唇 損 傷 )が 疑 われるおも な 臨 床 症 状 を 示 したのが 図 6 です 日 常 生 活 でも 中 等 度 以 上 の 痛 みがあります 鼠 径 部 から 大 転 子 にかけての 痛 みです 痛 みの 部 位 に 対 し C サインを 示 します( 後 述 図 7) また 座 位 からの 立 ち 上 がりで 痛 い! と 言 う 片 脚 立 位 で 支 持 脚 に 痛 みがありま す 他 覚 症 状 は Anterior Impingement Test が 90 で 内 旋 内 転 での 中 等 度 の 明 らかな 痛 みがあります また FABER Test( 後 出 図 11)で 健 側 との 差 が 著 明 で 圧 痛 が 腸 腰 筋 の 部 分 の 関 節 包 に 著 明 で 放 散 するような 痛 みがあります 5 FAI どこが 痛 いかと 聞 いたときに 患 者 さん が ここが 痛 い と 言 って 示 すその 示 し 方 に 特 徴 があります 股 関 節 インピンジメン トの 場 合 は 手 で C の 字 をつくり 鼠 径 部 と 大 転 子 のあたりを 押 さえます( 図 7 左 ) これが C サイン と 呼 ばれるもの です あるいは 関 節 部 腸 腰 筋 部 を 図 7 右 のように 押 さえます 一 方 鼠 径 部 痛 症 18 Sportsmedicine 2014 NO.157

C sportmedicine138. p10 10 15 C Anterior Impingement Test 90 FABER Test sportsmedicine118. p7 1/3 18cm 24cm 6FAI 7 C 8 Groin pain syndrome 90 100 90 Anterior Impingement Test 100 10 FABER Test 1/3 11 Anterior Impingement test Anterior Impingement test PM 12 13-14 Anterior Impingement test 15-16 Anterior Impingement test LPP 18 Anterior Impingement test sportsmedicine138. p23 19-20 Anterior Impingement test 9 10 Anterior Impingement test 候 群 の 患 者 さんは 自 発 痛 を 訴 える 場 所 を でも すべてではありませんが 図 9 に 示 数 カ 所 親 指 や 第 2 ~ 4 指 の 指 先 で 押 すよ したように 当 院 では 自 覚 所 見 としては うにして 示 すことが 多 く それは 鼠 径 部 日 常 生 活 での 痛 みは 少 なく 運 動 時 の 痛 み 内 転 筋 恥 骨 腹 筋 坐 骨 の 部 位 になりま が 主 となるもので 先 ほどの C サインを す ( 図 8 ) 伴 わないもの また 他 覚 所 見 としては 図 に 股 関 節 インピンジメントが 疑 われる 場 合 示 した 症 例 では 保 存 療 法 で 復 帰 できるケー スが 多 くあります もちろん 手 術 が 必 要 な 例 もあります Anterior Impingement test が 軽 度 ( 股 関 節 100 以 上 屈 曲 内 旋 内 転 で 痛 みも あるがつまる 感 じが 強 い)FABER Test ( 図 11)が 軽 度 ( 左 右 差 が 1/3 以 下 )の 所 見 にはよく 反 応 しますし また 腸 腰 筋 の 拘 縮 や 内 転 筋 の 拘 縮 外 旋 外 転 筋 力 が 低 Sportsmedicine 2014 NO.157 19

18cm 24cm 1/3 6 cm FABER Test 11 FABER Test ASIS 12 13 14 下 していてそれらがリハビリで 改 善 し Anterior Impingement test が 軽 減 して いる 場 合 は 股 関 節 インピンジメント(FAI および 関 節 唇 損 傷 )が 疑 われてもリハビリ によく 反 応 いたします Pelvic mobility test 膝 屈 曲 (PM テ スト) というのは 藤 井 康 成 先 生 ( 鹿 屋 体 育 大 学 保 健 管 理 センター 所 長 )が 行 って いる 股 関 節 と 骨 盤 の 屈 曲 時 の 協 調 運 動 を 評 価 するテストで 図 12 のように 関 節 唇 損 傷 の 疑 われる Anterior Impingement test 陽 性 の 患 者 さんが PM テストも 陽 性 な 場 合 は 骨 盤 の 可 動 性 が 原 因 である 可 能 性 が 示 唆 され リハビリ 後 に PM テスト が 陰 性 に な り Anterior Impingement test も 軽 減 すれれば リハビリに 反 応 する インピンジメント(FAI および 関 節 唇 損 傷 )ということになります 骨 盤 の 可 動 性 を 高 めることは 股 関 節 に とっても 重 要 なことで インピンジメント を 軽 減 するうえでも 大 事 になります 図 13 は 骨 盤 の 可 動 性 を 高 めるもので 仰 臥 位 で 骨 盤 を 前 傾 後 傾 させたあと ドロー インして 骨 盤 をニュートラルにし 顎 を 引 く(チンイン)ことにより 体 幹 を 軸 とし た 頸 椎 から 骨 盤 の 代 償 動 作 をリセットする ことができ これにより 股 関 節 の 機 能 が 改 善 することが 多 くあります 図 14 は 四 つ 這 いでの 骨 盤 の 可 動 性 を 高 めるエクササイズで 同 じように 骨 盤 を 後 傾 前 傾 ニュートラルにすることで 股 関 節 の 機 能 改 善 が 図 れます 図 15 は 同 じことを 座 位 で 行 っている ものです 仰 臥 位 四 つ 這 い 座 位 という 流 れで 行 います 図 15 はとくに 大 腿 骨 頭 への 荷 重 と 腰 椎 - 骨 盤 - 股 関 節 の 協 調 運 動 を 促 しています 図 16 は 座 位 での 骨 盤 の 可 動 性 と 股 関 節 の 適 合 運 動 において 頸 部 と 胸 郭 に 問 題 があるケースで 骨 盤 を 前 傾 しようとする と 頸 椎 伸 展 胸 椎 後 弯 が 生 じる 場 合 顎 を 引 かせ 頭 が 斜 め 上 の 天 井 から 引 っ 張 ら れるイメージをもつだけでも 改 善 されま す それでも 胸 椎 が 後 弯 する 場 合 は 第 9 胸 椎 のあたりに 後 方 から 膝 を 当 てて 肩 を 支 えると 胸 椎 の 伸 展 が 出 て 改 善 されます 体 幹 トレーニングについては 図 17 の ようなトレーニングによって 腹 横 筋 腹 斜 筋 や 多 裂 筋 など 体 幹 と 骨 盤 をつなげるイ ンナーユニットが 刺 激 され 骨 盤 が 安 定 し 股 関 節 での 軸 がとれます また 腸 腰 筋 にもス トレスがかかりにくくなります 図 17 で は 肘 と 膝 がついた 位 置 から 手 を 伸 ばす 運 動 肘 をつま 先 で 支 えて 手 を 伸 ばす 運 動 を 紹 介 していますが 後 者 のほうが 強 度 が 高 くなります LPP 本 誌 138 号 (P.23 図 16)でも 紹 介 し ましたが LPP(Loose-packed position) の 位 置 は 関 節 包 関 節 靱 帯 がもっとも 弛 緩 する 肢 位 で 関 節 の 適 合 性 がもっともよいと されています その 位 置 から 頸 体 角 を 考 慮 し 大 腿 骨 頭 を 関 節 の 適 合 性 を 感 じながら できるだけ 軸 がぶれないように 圧 をかけつ つ 可 動 域 を 改 善 していきます 図 18 がそ の 実 際 です P.29 20 Sportsmedicine 2014 NO.157