( 社 ) 北 陸 建 設 弘 済 会 第 16 回 北 陸 地 域 の 活 性 化 に 関 する 研 究 助 成 事 業 新 たな 屋 根 雪 下 ろし 装 置 の 開 発 およびその 性 能 評 価 に 関 する 事 業 工 博 福 井 大 学 研 究 機 関 研 究 員 寺 崎 寛 章 1. 事 業 背 景 近 年, 世 界 各 地 で 発 生 している 自 然 災 害 が 人 々に 大 き な 被 害 をもたらしている.2011 年 だけでも,2 月 のアメ リカ 中 西 部 (シカゴなど) 豪 雪,4 月 のタイの 大 洪 水,8 月 のアメリカ 南 部 の 大 干 ばつなどが 記 憶 に 新 しい. 日 本 でもゲリラ 豪 雨 や 豪 雪 などが 年 々 頻 発 しており, これらの 被 害 は 深 刻 である. 一 般 的 に 地 震 や 風 水 害 にの み 注 目 されがちだが, 雪 害 も 大 きな 被 害 をもたらしてい る. 事 実, 平 成 13 年 ~ 平 成 22 年 の 雪 害 による 犠 牲 者 の 数 は 全 自 然 災 害 の 犠 牲 者 の3 割 を 超 え, 雪 害 は 風 水 害 に 次 ぐ 第 二 の 自 然 災 害 となった. 特 に56 豪 雪,18 年 豪 雪 および 平 成 22 年 度 の 大 雪 では 大 きな 物 的 人 的 被 害 が 生 じた. 例 えば, 平 成 22 年 度 冬 期 の 大 雪 では, 鳥 取 県 内 の 国 道 9 号, 福 島 県 内 の 国 道 49 号 および 福 井 県 内 の 国 道 8 号 において, 大 型 車 両 が 走 行 不 能 となったため, 長 時 間 に 亘 り150 台 以 上 の 車 両 が 道 路 上 に 滞 留 した.また, 鉄 道 では 北 陸 線 が 運 転 を 休 止 し, 車 両 内 に 乗 客 が 閉 じ 込 められるなどの 被 害 が 相 次 いだ. さらに 東 北 電 力, 中 部 電 力, 北 陸 電 力, 関 西 電 力 および 中 国 電 力 で 延 べ 約 56 万 5 千 戸 が 停 電 になったほか, 上 水 道 は 長 崎 県 等 で 約 1 万 戸 が 断 水 し, 通 信 関 係 では 固 定 電 話 で 障 害 が 発 生 し, 携 帯 電 話 の 基 地 局 が 停 波 するなど, その 被 害 は 多 方 面 に 亘 った. また, 家 屋 に 関 する 被 害 も 多 く, 秋 田 県, 島 根 県 等 の 21 道 府 県 で 全 壊 9 棟, 半 壊 14 棟, 一 部 損 壊 623 棟, 床 上 浸 水 6 棟 および 床 下 浸 水 62 棟 が 報 告 された.また, 空 き 家 から 屋 根 雪 放 置 による 倒 壊, 落 雪 による 物 的 人 的 被 害 も 深 刻 である. 平 成 10 年 度 ~ 平 成 20 年 度 の10 年 間 に, 空 き 家 は181 万 戸 増 加 しており, 今 後, 空 き 家 に 関 連 する 雪 害 は 更 に 増 加 する 懸 念 がある. 一 方, 雪 害 による 物 的 被 害 だけではなく, 人 的 被 害 も 著 しい. 図 -1は 平 成 16 年 度 ~ 平 成 22 年 度 における 福 井 県, 山 形 県 および 新 潟 県 の 雪 害 関 連 の 死 傷 者 数 を 示 す. 図 -1 より, 平 成 18 年 度 ~ 平 成 20 年 度 の3 県 の 死 傷 者 数 は 非 常 に 少 ないものの, 平 成 17 年 度 および 平 成 22 年 度 の 死 傷 者 数 は 著 しく 多 いことが 分 かる.また, 図 -2は 同 3 県 の 平 成 16 年 度 ~ 平 成 22 年 度 における 降 雪 量 と 雪 害 関 連 の 死 傷 者 数 の 関 係 を 示 す. 図 -2より,3 県 の 死 傷 者 数 は 年 降 雪 深 の 増 加 に 伴 い, 指 数 関 数 的 に 増 加 する.また, 山 形 県 の 死 傷 者 数 は, 新 潟 県 のそれよりも 増 加 傾 向 は 緩 やかな ものの, 年 降 雪 深 が 約 320cmで 死 傷 者 数 は100 人 を 超 え る.なお, 福 井 県 ではデータが 少 ないものの, 山 形 県 と 同 様 の 傾 向 が 見 られる.このように, 豪 雪 で 多 数 の 死 傷 者 が 報 告 されたにも 関 わらず, 毎 年 の 降 雪 量 が 一 定 では ないため, 雪 害 の 社 会 的 関 心 は 希 薄 になりがちである. 図 -3は 平 成 22 年 度 の 山 形 県 の 原 因 別 の 死 傷 者 数 の 割 合 を 示 す. 上 述 の 人 的 被 害 は,136 人 が 屋 根 からの 転 落 (61%),27 人 が 屋 根 からの 落 雪 (12%),22 人 が 除 雪 機 に よる 事 故 (10%)および21 人 が 転 倒 (9%)であり, 人 的 被 害 の 約 73%が 屋 根 雪 に 関 連 していることが 分 かる. 従 って, 屋 根 雪 対 策 の 強 化 が 雪 害 防 止 の 根 幹 となる. 雪 害 は 社 会 構 造 とも 関 連 がある. 特 に, 中 山 間 部 では 過 疎 高 齢 化 が 急 速 に 進 んでおり, 高 齢 者 世 帯 での 屋 根 雪 処 理 が 大 きな 問 題 となっている. 平 成 22 年 度 の 大 雪 では 死 者 131 名 中,65 歳 以 上 74 歳 以 下 が 全 体 の27%,75 歳 図 -1 過 去 7 年 間 の 雪 害 関 連 の 死 傷 者 数 図 -2 年 降 雪 深 と 雪 害 関 連 の 死 傷 者 数 の 関 係
その 他 19 人 8% スリップ 21 人 9% 75 歳 ~ 54 人 39% ~54 歳 21 人 16% 除 雪 22 人 10% 合 計 225 名 合 計 131 名 55 歳 ~64 歳 24 人 18% 屋 根 からの 滑 雪 落 雪 27 人 12% 屋 根 からの 落 下 136 人 61% 65 歳 ~74 歳 36 人 27% 図 -3 平 成 22 年 度 の 山 形 県 の 雪 害 関 連 の 原 因 別 死 傷 者 数 図 -4 平 成 22 年 度 の 全 国 の 雪 害 関 連 の 死 者 年 齢 別 構 成 表 -1 従 来 の 屋 根 雪 処 理 方 式 方 式 細 目 内 容 機 材 課 題 点 人 力 スコップ スノーダンプ 危 険 除 排 雪 機 械 滑 落 除 雪 板 シート 滑 落 のタイミング 不 明 装 置 発 熱 切 断 コスト 増 加 荷 重 増 加 自 然 急 勾 配 滑 落 のタイミング 不 明 放 置 耐 雪 M 型 屋 根 初 期 コスト 増 加 散 水 水 道 水 地 下 水 水 量 の 確 保 難 凍 結 の 恐 れ 消 融 雪 滑 落 発 熱 体 ( 面 状 線 状 ) コスト 増 加 無 散 水 装 置 放 熱 パイプ( 温 水 温 風 ) コスト 増 加 電 熱 式 融 雪 凍 着 状 態 滑 面 状 態 ( 滑 雪 抵 抗 減 少 ) 雪 割 機 構 発 熱 切 断 機 械 除 雪 雪 同 士 の 固 着 状 態 分 断 ( 固 着 解 消 ) 図 -5 新 たな 雪 下 ろし 装 置 のコンセプト 電 熱 式 滑 雪 傾 斜 板 雪 割 型 電 熱 式 滑 雪 傾 斜 板 以 上 が 全 体 の39%であり,65 歳 以 上 の 高 齢 者 が 全 体 の 約 66%を 占 める( 図 -4を 参 照 ).また, 死 傷 者 の 約 半 数 が 1 人 での 除 雪 作 業 中 に 事 故 が 発 生 しており, 除 雪 作 業 に 対 する 高 齢 者 の 負 担 増 加 や 油 断 等 が 事 故 の 原 因 であると 思 われる.このように, 高 齢 者 世 帯 の 屋 根 雪 下 ろしが 重 要 課 題 である. 2. 従 来 の 屋 根 雪 対 策 従 来 の 屋 根 雪 処 理 方 式 ( 表 -1を 参 照 )は,(I) 除 排 雪, (II) 放 置 および(III) 消 融 雪 に 分 けられる.(I)の 人 力 によ る 除 排 雪 は 最 も 一 般 的 だが, 先 述 の 様 に 危 険 性 を 伴 い, 機 械 除 雪 ではコストの 増 加 や 屋 根 荷 重 が 増 加 する.ま た 急 勾 配 屋 根 は, 滑 雪 時 期 の 予 測 が 困 難 であり, 滑 雪 および 落 雪 による 危 険 性 が 高 い.(II)M 型 屋 根 を 代 表 と する 耐 雪 では, 雪 下 ろしを 行 う 必 要 はないが,イニ シャルコストが 高 く, 既 存 の 建 物 に 適 応 し 難 い.(III) 温 水 や 電 熱 を 使 用 する 消 融 雪 では, 屋 根 雪 処 理 能 力 は 高 いが,ライフサイクルコストが 高 く, 漏 電 やパイプ 内 流 体 の 凍 結 などの 問 題 がある. 上 述 のようにいずれの 屋 根 雪 処 理 方 式 も(1) 高 コスト ( 経 済 性 ),(2) 耐 久 性,(3) 重 量 および(4) 滑 雪 時 期 の 予 測 ( 安 全 性 )などにそれぞれ 固 有 の 課 題 を 残 している. 3. 事 業 目 的 本 研 究 では,まず 電 熱 式 融 雪 および 発 熱 切 断 機 械 除 雪 に 着 目 した. 従 来 の 電 熱 式 融 雪 では 屋 根 雪 を 融 雪 す るために 膨 大 なエネルギーを 必 要 とし,コストの 増 加 や 装 置 停 止 後 は 再 凍 結 等 の 課 題 が 生 じている.しかし ながら, 滑 面 状 態 を 作 り 出 し, 付 着 力 を 低 下 させるだ けならばエネルギーを 最 小 限 に 抑 えることができる. また 発 熱 切 断 機 械 除 雪 では, 屋 根 上 の 雪 を 切 断 して も 周 囲 との 雪 を 分 断 しない 限 り, 滑 雪 し 難 いことが 既 に 明 らかとなっている.すなわち 装 置 周 辺 の 雪 と 縁 を 切 断 する 工 夫 ( 雪 割 機 構 )が 必 要 である. そこで 本 事 業 では, 図 -5に 示 すように 滑 面 状 態 を 作 り 出 す 電 熱 式 滑 雪 傾 斜 板 に 雪 割 機 構 を 付 属 した 新 たな 屋 根 雪 下 ろし 装 置 ( 雪 割 型 電 熱 式 滑 雪 傾 斜 板 )を 提 案 し, その 効 果 を 検 証 することを 目 的 とする.
F s F 滑 雪 抵 抗 力 :F s 静 摩 擦 力 :F sf = μmgcosθ 雪 氷 付 着 力 :F = f A s F sf F sf +F 雪 氷 F s : 滑 雪 抵 抗 力 F sf : 静 摩 擦 力 F : 付 着 力 屋 根 面 滑 雪 力 :F s =mgsinθ θ 図 -6 平 板 上 の 滑 雪 運 動 モデルの 概 要 図 -7 斜 面 上 の 滑 雪 運 動 モデルの 概 要 デジタルフォースゲージ 雪 氷 サンプル データロガー デジタルフォースゲージ コンバータ 電 動 モーター コンバータ 電 動 モーター 塩 ビシート 断 熱 材 図 -8 室 内 凍 着 実 験 概 要 図 -9 滑 雪 抵 抗 試 験 装 置 概 要 4. 滑 雪 モデル 滑 雪 の 抵 抗 力 には 摩 擦 力 と 付 着 力 があり, 平 板 上 の 滑 雪 運 動 方 程 式 は 式 (1)で 表 される( 図 -6を 参 照 ). F = F + F (1) s sf ここに,F s : 滑 雪 抵 抗 力 (N),F sf : 静 摩 擦 力 (N)および F : 付 着 力 (N)をそれぞれ 意 味 する.なお, 付 着 力 は 雪 氷 の 凍 着 力 や 雪 氷 界 面 における 水 の 摩 擦 力 を 意 味 する. 次 に, 斜 面 ( 屋 根 面 ) 上 の 滑 雪 運 動 方 程 式 (つり 合 い 方 程 式 )は 式 (2)~(4)を 用 いて, 式 (5)で 表 される( 図 -7を 参 照 ). F s = mg sinθ (2) F sf = μ mg cosθ (3) F = f A (4) s mg sinθ = μ mgcosθ+ f A s (5) ここに,m: 雪 氷 重 量 (kg),g: 重 力 加 速 度 (m/s 2 ),θ: ( 屋 根 ) 勾 配 ( ),μ: 静 摩 擦 係 数 (-),f : 単 位 面 積 当 たり の 付 着 力 (N/m 2 )および A s : 接 触 面 積 (m 2 )であり,μ お よび f は 質 量 含 水 率 θ w (%)の 変 数 と 考 えられる.なお, 式 (5)より, 雪 氷 の 滑 落 は F s >(F sf + F )になった 時 点 で 始 まる. 5. 室 内 および 野 外 滑 雪 実 験 (1) 室 内 凍 着 実 験 図 -8は 室 内 凍 着 実 験 の 概 要 を, 図 -9は 滑 雪 抵 抗 試 験 装 置 の 概 要 をそれぞれ 示 す. 実 験 は 雪 氷 片 を 作 製 するアイ ススライサー( 中 部 コーポレーション 製 ), 均 一 の 雪 氷 状 態 を 作 るための2mm 篩 い,さらに 付 着 力 を 測 定 するため のデジタルフォースゲージ(イマダ 製 ), 雪 氷 サンプルを 引 張 るための 電 動 モーター(タミヤ 製 ), 測 定 値 を 記 録 す るデータロガー(パナソニック 製 ), 試 料 ( 塩 ビシート)お よびコンバータ(カトー 製 )から 構 成 される. 次 に,μの 測 定 手 順 について 述 べる. 1) 低 温 実 験 室 (-5~-6 )にて 数 十 時 間 置 いた 氷 を アイススライサーによって 雪 氷 片 を 作 製 し,さら に 数 十 時 間 置 く. 2) 試 料 ( 縦 300 横 300mm) 上 に 断 熱 材 の 型 枠 ( 内 法 :150 150mm, 高 さ:50mm)を 設 置 し, 上 方 から 雪 氷 片 を 篩 いにかける. 3) 2)の 雪 氷 片 を 型 枠 内 で 成 型 し, 雪 氷 サンプルを 2 個 作 製 する. 4) 試 験 体 ( 雪 氷 サンプル, 試 料 および 断 熱 材 )ごと 恒 温 実 験 室 (25 )に 移 動 させる. 5) 任 意 の 時 間 経 過 後, 低 温 実 験 室 に 再 び 試 験 体 を 移 動 させ, 一 方 の 雪 氷 サンプル( 図 -10 を 参 照 )のθ w を 測 定 する.なお, 雪 氷 サンプルのθ w は 界 面 から 厚 さ 約 5mm まで( 図 -10 の 赤 色 部 )の 部 分 を 代 表 さ せる. 6) 型 枠 とデジタルフォースゲージをナイロン 製 の 紐 で 固 定 し, 雪 氷 サンプルが 試 料 上 を 移 動 する( 滑 り 出 す)までデジタルフォースゲージを 電 動 モーター で 水 平 に 引 張 る. 7) デジタルフォースゲージとデータロガーより, 測
雪 氷 サンプル 採 取 する 雪 氷 断 熱 材 湯 水 5mm 雪 氷 試 料 断 熱 材 サーミスタ 温 度 計 図 -10 試 験 体 図 -11 遠 藤 式 含 水 率 計 5400 通 常 滑 雪 板 設 置 箇 所 1800 雪 割 滑 雪 板 設 置 箇 所 三 寸 勾 配 900 単 位 (mm) 図 -12 野 外 滑 雪 実 験 現 場 位 置 図 定 間 隔 0.05 秒 毎 の 摩 擦 力 F f の 経 時 変 化 を 求 める. 8) F f の 最 大 値 を 静 摩 擦 力 F esf とし,6)および 7)の 手 順 を 3 回 行 い,F esf の 平 均 値 を 静 摩 擦 力 F sf とする. 9) 雪 氷 サンプルの 質 量 m を 測 定 した 後,F sf を 式 (3) に 代 入 し,μ を 求 める. 次 に, 付 着 力 の 測 定 手 順 について 述 べる. 1) 摩 擦 係 数 の 測 定 手 順 1)~5)に 従 い, 凍 着 前 の 雪 氷 の θ w を 求 める. 2) 他 方 の 雪 氷 サンプルを 完 全 に 凍 着 させるために 数 十 時 間 置 いた 後, 型 枠 とデジタルフォースゲージをナイ ロン 製 の 紐 で 固 定 し, 雪 氷 サンプルが 試 料 上 を 移 動 する( 滑 り 出 す)までデジタルフォースゲージを 手 動 で 水 平 に 引 張 る. 3) デジタルフォースゲージより F s の 経 時 変 化 を 求 める. 4) 滑 りだした 直 後 の F s (=F s の 最 大 値 F smx )を 求 める. 5) その 後, 再 度, 雪 氷 サンプルを 試 料 上 に 設 置 し, 摩 擦 係 数 の 測 定 手 順 6)~9)と 同 様 の 手 順 で F sf を 求 める. 6) F s および F sf を 式 (1)に 代 入 し,F を 求 める. 最 後 に,θ w の 測 定 方 法 について 述 べる. 雪 氷 のθ w 測 定 には, 遠 藤 式 含 水 率 計 を 用 いる( 図 -11 を 参 照 ). 遠 藤 式 含 水 率 計 は 湯 水 の 水 温 と 質 量, 雪 氷 を 加 えた 湯 水 の 平 衡 温 度 と 質 量 の 関 係 より, 雪 氷 のθ w を 求 める 方 法 であ る. 以 下 に 測 定 手 順 を 示 す. 1) 含 水 率 計 ( 質 量 M 1 )に 30~40 の 湯 水 を 60~100g 入 れる. 2) 湯 水 を 入 れた 含 水 率 計 の 質 量 M 2 を 測 定 する. 3) 湯 水 をよく 攪 拌 させてから 温 度 T 1 をサーミスタ 温 度 計 ( 佐 藤 計 量 器 製 作 所 製 )により 測 定 する. 4) 含 水 率 計 に 15~30g の 雪 氷 を 素 早 く 入 れる. 図 -13 模 擬 屋 根 の 製 作 状 況 5) 雪 氷 を 入 れた 含 水 率 計 の 質 量 M 3 を 測 定 する. 6) 含 水 率 計 内 の 雪 氷 が 完 全 に 融 け, 平 衡 状 態 に 達 した 時 の 水 温 T 2 を 測 定 する. 7) これらの 測 定 結 果 を 用 いてθ w は 式 (6)で 算 出 できる. ( M M )( T T ) 1 2 1 2 1 θ w = 100 1 (6) 79.6 M 3M 2 (2) 野 外 滑 雪 実 験 本 事 業 で 提 案 する 雪 割 型 電 熱 式 滑 雪 傾 斜 板 ( 以 下, 雪 割 滑 雪 板 )の 滑 雪 性 能 を 調 べるために, 平 成 24 年 1 月 13 日 ~2 月 14 日 に 亘 って 野 外 滑 雪 実 験 は 福 井 県 大 野 市 六 呂 師 高 原 スキー 場 ( 図 -12を 参 照 )にて 行 われた. 実 験 にはア ングル 材 で 縦 1800 横 1800mmの 骨 組 みユニットを6 基 製 作 し,それらを3 基 ずつ 繋 ぎ 合 わせた.その 後,その 骨 組 みユニットに 垂 木 を 打 ちつけ,その 上 に 厚 み3mmのベ ニヤ 板 を 貼 り 付 け,さらに 高 さ900mmの 架 台 に 取 り 付 け ることで 三 寸 勾 配 の 模 擬 屋 根 ( 拝 み 勾 配 )を 製 作 した( 図 - 13を 参 照 ). ) 実 験 装 置 次 に, 電 熱 式 滑 雪 傾 斜 板 ( 以 下, 通 常 滑 雪 板 )および 雪 割 滑 雪 板 について 説 明 する( 図 -14を 参 照 ). 通 常 滑 雪 板 は, 縦 1800 横 1800 厚 み20mmの 断 熱 材 の 上 に, 毛 織 物 で 上 下 を 挟 んだ 直 列 配 線 方 式 の 発 熱 線 ( 消 費 電 力 500W, 消 費 電 力 量 310Wh)を 配 置 した 後, 厚 み0.5mmのステン レス 板 を 表 面 に 貼 り 付 けることで 製 作 された.その 後, 雨 水 浸 入 防 止 のために 断 面 部 および 接 合 部 は 防 水 加 工 を 施 した.
図 -14 雪 割 型 電 熱 式 滑 雪 傾 斜 板 概 要 図 -15 静 摩 擦 係 数 と 質 量 含 水 率 の 関 係 雪 割 滑 雪 板 は, 図 -14に 示 すように 通 常 滑 雪 板 の 屋 根 頂 部 および 両 端 に 雪 割 装 置 を 備 えたものである. 雪 割 装 置 は, 高 さ150mm 底 辺 150mmの 三 角 形 状 にステンレ ス 板 を 曲 げ 加 工 し,その 内 部 に 滑 雪 板 と 同 様 に 毛 織 物 で 上 下 を 挟 んだ 発 熱 線 をステンレス 板 に 張 り 付 け, 断 熱 加 工 して 製 作 された. その 後, 雪 割 滑 雪 板 および 通 常 滑 雪 板 は 図 -13に 示 す 位 置 にそれぞれ 設 置 し,これを 初 期 状 態 とした. 野 外 滑 雪 実 験 ではまず, 微 気 象 観 測 を 行 った. 滑 雪 実 験 時 における 外 気 温 および 相 対 湿 度 は 温 度 湿 度 セン サー(Visl 製 )により, 日 降 雪 深 および 時 間 降 雪 深 は 降 雪 板 により, 風 速 は 三 杯 式 風 速 計 ( 牧 野 応 用 測 器 製 )によ り,それぞれ 測 定 される. また, 滑 雪 実 験 で 使 用 した 雪 塊 の 基 本 雪 氷 物 性 として, 雪 氷 サンプラーおよび 電 子 重 量 計 (Mettler Toledo 製 )によ り 雪 密 度 ρ(kg/m 3 )を,サーミスタ 温 度 計 および 熱 電 対 により 滑 雪 板 と 雪 氷 との 界 面 温 度 を, 遠 藤 式 含 水 率 計 に よりθ w を,それぞれ 測 定 した. 微 気 象 観 測 および 雪 氷 物 性 を 調 べた 後, 雪 割 滑 雪 板 お よび 通 常 滑 雪 板 の 雪 をそれぞれ 分 断 するために, 図 -13 に 示 す 屋 根 頂 部 を 切 断 した. 切 断 後, 両 滑 雪 板 の 発 熱 線 の 通 電 スイッチを 入 れ, 実 験 を 開 始 した. なお, 滑 雪 時 の 状 況 をより 詳 細 に 調 べるために,3 台 図 -16 付 着 力 および 静 摩 擦 力 と 質 量 含 水 率 の 関 係 の 高 解 像 度 ビデオカメラ(Sony 製 )を 用 いて 滑 雪 速 度 およ び 滑 雪 時 間 をそれぞれ 調 べた. 5. 実 験 結 果 5.1 室 内 凍 着 実 験 結 果 (1) 静 摩 擦 係 数 図 -15は 静 摩 擦 係 数 μと 質 量 含 水 率 θ w の 関 係 を 示 す. μ θ w 関 係 は,θ w が0~50%の 間 で 概 ね 線 形 的 に 増 加 する. このθ w の 増 加 に 伴 うμの 増 加 は, 雪 氷 による 静 摩 擦 力 に 加 えて, 滑 雪 界 面 の 融 雪 水 による 抵 抗 力 ( 潤 滑 摩 擦 )が 増 加 することに 起 因 すると 推 察 される. なお,μ θ w 関 係 は 以 下 の 式 (7)により 表 される. μ = 0. 02 θ w + 0. 05 (7) (2) 付 着 力 および 静 摩 擦 力 図 -16はF -θ w 関 係 およびF sf -θ w 関 係 を 示 す.F はθ w の 増 加 に 伴 い 対 数 関 数 的 に 増 加 するが,F sf はθ w に 依 らず 一 定 であることが 分 かった. F 79 = 90 (8) 1+ 0. 3θ w F sf = 0.95 (9) これは,θ w が 大 きいほどA s に 対 する 融 雪 水 の 面 積 比, すなわち 凍 着 による 付 着 面 積 が 大 きくなるため,F は 増 加 すると 推 察 される.
1 2 3 4 5 固 着 滑 雪 試 験 開 始 亀 裂 発 生 (11 分 36 秒 ) 滑 雪 開 始 (11 分 37 秒 ) 滑 雪 終 了 (11 分 40 秒 ) ) 雪 割 型 滑 雪 板 1 固 着 2 3 5 4 滑 雪 試 験 開 始 亀 裂 発 生 (22 分 51 秒 ) 滑 雪 開 始 (22 分 53 秒 ) b) 通 常 滑 雪 板 図 -17 屋 根 雪 の 滑 落 状 況 滑 雪 終 了 (22 分 58 秒 ) なお,F とF sf の 比 率 とθ w の 関 係 から, 付 着 力 は 摩 擦 力 の 約 12~90 倍 となり, 滑 雪 に 及 ぼす 抵 抗 は 付 着 力 が 支 配 的 であることが 分 かった. 5.2 野 外 滑 雪 実 験 結 果 代 表 的 な 一 日 (2 月 4 日 )の 野 外 滑 雪 実 験 結 果 についての み 説 明 する. 実 験 開 始 時 ( 午 後 2 時 )の 気 温 は-1.6, 風 速 は0.3m/sであり, 滑 雪 板 上 には47.6mmの 積 雪 が 確 認 さ れた.また,ρ( 積 雪 重 量 124.7kg, 積 雪 面 積 3.24m 2 )は 80.9kg/m 3 であり, 遠 藤 式 含 水 率 計 による 測 定 の 結 果,θ w は5.28%であった. 図 -17は 野 外 滑 雪 実 験 における 屋 根 雪 ( 雪 塊 )の 滑 落 状 況 を 示 す() 雪 割 滑 雪 板,b) 通 常 滑 雪 板 ). 実 験 開 始 直 後 より, 両 滑 雪 板 の 表 面 温 度 は 上 昇 し, 屋 根 雪 と 滑 雪 板 の 界 面 は 滑 面 状 態 になっていることが 確 認 された.ここ で, 室 内 実 験 の 結 果 に 従 えば, 滑 雪 抵 抗 力 は 約 1/10~ 1/100 倍 となる. 雪 割 滑 雪 板 では, 実 験 開 始 より11 分 36 秒 後 に 屋 根 頂 部 においてクラック(ひび 割 れ)が 生 じ,その4 秒 後 に 雪 割 板 上 の 屋 根 雪 は 一 度 に 滑 落 した.これは, 屋 根 頂 部 におい て 雪 割 滑 雪 板 上 の 雪 と 装 置 周 辺 の 雪 を 雪 割 により 分 断 さ せることで 両 者 の 固 着 が 解 消 され, 屋 根 雪 の 滑 雪 が 生 じ たと 推 察 される( 図 -17 )5を 参 照 ). 一 方, 通 常 滑 雪 板 では 実 験 開 始 より22 分 51 秒 後 に 雪 割 傾 斜 板 と 同 様 にクラックが 生 じ,その7 秒 後 に 屋 根 雪 は 滑 落 した. 従 って, 通 常 滑 雪 板 の 滑 雪 に 要 する 時 間 は, 雪 割 滑 雪 板 のそれの 約 2 倍 長 くなった.なお, 実 験 の 都 合 上, 雪 割 滑 雪 板 と 通 常 滑 雪 板 を 分 断 するために 屋 根 頂 部 を 切 断 したため, 屋 根 頂 部 における 固 着 力 は 小 さく, 雪 割 による 固 着 が 解 消 しない 通 常 滑 雪 板 においても 滑 落 が 早 期 に 生 じたと 推 察 される( 図 -17 b)5を 参 照 ). 事 実, 同 図 には 示 さないが, 積 雪 量 が 多 く, 屋 根 頂 部 および 側 部 を 切 断 しない 場 合 においては, 通 常 滑 雪 板 で は 滑 落 が 生 じ 難 かったが, 雪 割 滑 雪 板 では 最 大 積 雪 深 が 70cm 程 度 においてはクラックが 生 じるまでに 約 10~30 分 の 時 間 は 要 するものの, 図 -17と 同 様 に 滑 落 させるこ とが 可 能 であった. なお, 一 旦, 屋 根 頂 部 における 固 着 が 解 消 された 後 の 両 滑 雪 板 の 屋 根 雪 は 自 重 により, 滑 面 状 態 の 滑 雪 板 上 を 約 0.26~0.45m/sで 滑 落 した. 以 上 の 結 果, 実 験 開 始 初 期 においても 屋 根 雪 と 滑 雪 傾 斜 板 の 界 面 は 滑 面 状 態 にあったにも 関 わらず, 屋 根 頂 部 においては 滑 雪 板 上 の 雪 と 外 周 の 雪 同 士 の 固 着 ( 一 体 化 ) 現 象 により, 滑 落 が 生 じ 難 いことが 分 かった.それに 対 して, 雪 割 機 構 がその 固 着 を 解 消 するために 有 効 である ことが 確 認 された. 6.まとめ 本 事 業 では, 基 本 的 な 屋 根 雪 の 滑 雪 メカニズムを 明 ら かにするとともに, 新 たな 屋 根 雪 処 理 装 置 ( 雪 割 型 電 熱 式 滑 雪 傾 斜 板 )を 提 案 し,その 滑 雪 性 能 を 明 らかにする ことを 目 的 として, 室 内 凍 着 実 験 および 野 外 滑 雪 実 験 を 行 った. その 結 果 を, 以 下 に 列 挙 する. (1) 質 量 含 水 率 が0~50%の 範 囲 においては, 質 量 含 水 率 の 増 加 に 伴 い, 静 摩 擦 係 数 は 線 形 的 に 増 加 する. (2) 完 全 な 凍 着 状 態 における 付 着 力 は, 摩 擦 力 の 約 12~ 90 倍 となり, 滑 雪 の 抵 抗 は 主 に 付 着 力 に 起 因 する. (3)たとえ, 屋 根 面 と 雪 氷 の 接 触 面 が 滑 面 状 態 であって も, 雪 割 をしなければ 滑 雪 し 難 い. (4) 本 実 験 の 範 囲 内 においては, 雪 割 型 電 熱 式 滑 雪 傾 斜 板 は 滑 雪 を 促 進 させる. 今 後 の 課 題 今 後 は, 更 に 安 価 かつ 軽 量 な 装 置 への 改 良 に 努 めると ともに, 本 装 置 のユニット 化 および 屋 根 面 への 取 り 付 け 方 法 を 詳 細 に 検 討 した 後, 実 証 試 験 ( 実 屋 根 面 への 施 工 後 の 滑 雪 性 能 試 験 )を 行 い, 本 装 置 の 実 用 化 を 行 う 予 定 である. 謝 辞 本 事 業 の 実 施 に 当 り, 貴 重 な 御 意 見 を 賜 るとともに, 本 屋 根 雪 下 ろし 装 置 の 開 発 のために 多 大 な 御 支 援 を 賜 っ た 社 団 法 人 北 陸 建 設 弘 済 会 および 北 陸 地 域 づくり 研 究 所 の 関 係 者 の 皆 様 に 厚 く 御 礼 申 し 上 げます.