みずほインサイト 政 策 2014 年 9 月 25 日 女 性 活 躍 推 進 の 真 の 課 題 長 時 間 労 働 是 正 と 柔 軟 な 勤 務 形 態 の 普 及 を 急 げ 政 策 調 査 部 主 任 研 究 員 大 嶋 寧 子 03-3591-1328 yasuko.oshima@mizuho-ri.co.jp 女 性 の 就 業 キャリア 形 成 にはいまだ 多 くの 壁 が 残 されている 特 に 職 場 の 長 時 間 労 働 と 柔 軟 な 勤 務 形 態 の 普 及 の 遅 れは 様 々な 場 面 で 女 性 の 活 躍 を 阻 んでいる 安 倍 政 権 は 女 性 の 活 躍 推 進 に 積 極 的 に 取 り 組 んでいるものの 長 時 間 労 働 是 正 や 柔 軟 な 勤 務 形 態 の 普 及 に 向 けた 実 効 性 のある 手 段 を 十 分 打 ち 出 していない 点 に 大 きな 課 題 がある 国 は 労 働 時 間 短 縮 等 に 取 り 組 む 企 業 への 支 援 強 化 労 働 時 間 の 量 的 上 限 規 制 導 入 柔 軟 な 勤 務 形 態 の 普 及 推 進 により 働 き 方 に 対 する 労 働 者 の 多 様 な 希 望 を 生 かせる 社 会 への 転 換 を 急 ぐべきだ 1. 女 性 の 活 躍 推 進 に 向 けた 安 倍 政 権 の 取 り 組 み 安 倍 政 権 は 成 長 戦 略 の 柱 の 一 つに 女 性 の 活 躍 推 進 を 掲 げ 様 々な 取 り 組 みを 打 ち 出 している( 図 表 1) 2013 年 6 月 14 日 に 閣 議 決 定 された 日 本 再 興 戦 略 -JAPAN is BACK- では 2017 年 度 末 までに40 万 人 分 の 追 加 的 な 保 育 の 受 け 皿 を 確 保 する 待 機 児 童 解 消 加 速 化 プラン が 打 ち 出 された また 同 戦 略 に 基 づき 女 性 の 活 躍 に 取 り 組 む 企 業 への 支 援 の 充 実 ( 育 休 中 復 職 後 の 能 力 形 成 を 行 う 企 業 へ の 助 成 金 創 設 や 企 業 における 女 性 活 躍 状 況 の 情 報 開 示 促 進 ) 再 就 職 を 目 指 す 女 性 への 就 労 支 援 の 強 化 (トライアル 雇 用 奨 励 金 について 再 就 職 を 目 指 す 女 性 を 対 象 に 組 み 入 れ 等 )も 行 われている さらに2014 年 6 月 24 日 に 閣 議 決 定 された 日 本 再 興 戦 略 改 訂 2014 に 基 づき 女 性 の 活 躍 を 後 押 しする 更 なる 取 り 組 みが 進 められている 例 えば 国 は2019 年 度 末 までに 放 課 後 児 童 クラブの 受 け 皿 を30 万 人 分 拡 大 することを 目 指 す 放 課 後 子 ども 総 合 プラン を2014 年 7 月 31 日 に 策 定 しており 年 度 内 に 地 方 自 治 体 に 行 動 計 画 の 策 定 を 求 める 方 針 だ また 国 地 方 自 治 体 民 間 企 業 に 女 性 活 躍 推 進 に 向 けた 行 動 計 画 の 策 定 を 求 める 新 たな 法 的 枠 組 みの 構 築 に 向 け 今 年 8 月 より 労 働 政 策 審 議 会 で 検 討 が 開 始 されている さらに 同 月 5 日 の 男 女 共 同 参 画 推 進 本 部 ( 本 部 長 : 内 閣 総 理 大 臣 )は 男 女 共 同 参 画 ワークライフバランス 関 連 の 公 共 調 達 で 事 業 者 の 男 女 共 同 参 画 への 取 り 組 み 状 況 を 考 慮 する 方 針 等 を 盛 り 込 んだ 指 針 を 決 定 した 2. 女 性 就 業 を 巡 る 環 境 をどうみるか (1) 女 性 の 就 業 率 は 大 きく 上 昇 15-64 歳 の 女 性 の 就 業 率 は 1980 年 の51%から2013 年 の62%へと 上 昇 している これを 年 齢 階 級 別 1
時 期 別 に 見 ると 25-39 歳 を 中 心 に 主 に2000 年 代 以 降 に 上 昇 している( 図 表 2) このように 女 性 の 就 業 率 が 上 昇 している 最 大 の 要 因 は 配 偶 者 のいる 女 性 ( 以 下 有 配 偶 女 性 )の 就 業 率 上 昇 である 例 えば 2002 年 から2013 年 の 期 間 における 25-34 歳 女 性 の 就 業 率 の 変 化 (61%から71%へと 上 昇 ) のうち 有 配 偶 女 性 の 就 業 率 上 昇 による 寄 与 は 約 7 割 であったのに 対 し 配 偶 者 のいない 女 性 の 就 業 率 保 育 等 充 実 企 業 に おける 取 組 推 進 働 き 方 の 見 直 し 再 就 職 希 望 女 性 への 支 援 税 制 社 会 保 障 制 度 見 直 し 図 表 1 成 長 戦 略 に 盛 り 込 まれた 安 倍 政 権 の 女 性 活 躍 推 進 策 日 本 再 興 戦 略 JAPAN IS BACK- 日 本 再 興 戦 略 改 訂 2014 指 導 的 地 位 に 占 める 女 性 の 割 合 を 2020 年 までに 少 なくとも 30% 程 度 へ (2013 年 度 課 長 相 当 職 以 上 の 管 理 職 における 女 性 比 率 の 実 績 =6.6%) 2020 年 に 25-44 歳 女 性 の 就 業 率 を 73%まで 引 き 上 げ(2013 年 実 績 =69.5%) 待 機 児 童 解 消 加 速 化 プラン - 2017 年 度 末 までに 約 40 万 人 分 の 保 育 受 け 皿 を 新 規 に 確 保 ベビーシッターの 負 担 軽 減 策 の 検 討 女 性 活 躍 に 取 り 組 む 企 業 への 支 援 - 育 休 中 復 職 後 の 能 力 形 成 を 行 う 企 業 への 助 成 金 創 設 ( キャリア 形 成 促 進 助 成 金 の 育 休 中 復 職 後 等 能 力 アップコース) 女 性 登 用 促 進 ( 社 外 役 員 候 補 のデータ ベース 化 等 ) 企 業 における 女 性 活 躍 状 況 の 開 示 ( 行 政 ウェブサイト 上 での 情 報 開 示 ) 次 世 代 育 成 支 援 対 策 推 進 法 の 延 長 及 び 強 化 テレワーク 普 及 に 向 けた 実 証 労 働 時 間 法 制 見 直 しに 向 けた 検 討 男 性 の 育 児 家 事 参 加 の 促 進 (イクメン 企 業 アワードの 創 設 育 児 休 業 給 付 の 拡 充 ) トライアル 雇 用 助 成 金 の 拡 充 ( 再 就 職 を 目 指 す 女 性 も 対 象 に 組 み 入 れ) 女 性 の 就 業 に 中 立 的 な 税 制 社 会 保 障 への 見 直 し 検 討 (2014 年 3 月 より 政 府 税 制 調 査 会 で 検 討 ) 保 育 士 確 保 プラン の 策 定 子 育 て 支 援 員 ( 仮 称 ) の 創 設 安 価 で 安 心 な 家 事 支 援 サービスの 推 進 に 向 けた 具 体 策 の 検 討 (2014 年 度 内 に 結 論 ) 放 課 後 子 ども 対 策 の 強 化 - 放 課 後 子 ども 総 合 プラン の 策 定 - 次 世 代 育 成 支 援 対 策 推 進 法 の 行 動 計 画 策 定 指 針 改 正 に 基 づいた 自 治 体 の 計 画 策 定 復 職 後 の 環 境 整 備 等 を 行 う 事 業 主 への 助 成 金 の 拡 充 次 世 代 育 成 支 援 対 策 推 進 法 に 基 づく 特 例 認 定 を 受 ける 事 業 主 へのインセンティブ 検 討 女 性 活 躍 推 進 に 向 けた 新 法 の 整 備 女 性 活 躍 企 業 の 公 共 調 達 等 における 優 遇 企 業 における 女 性 登 用 状 況 の 見 える 化 - 有 価 証 券 報 告 書 における 女 性 役 員 比 率 の 記 載 義 務 付 け - コーポレートガバナンス 報 告 書 での 女 性 の 登 用 状 況 や 登 用 促 進 への 取 り 組 みの 記 載 ( 金 融 証 券 取 引 所 に 要 請 ) テレワーク 推 進 に 向 けた 導 入 ノウハウの 提 供 等 フレックスタイム 制 の 見 直 し(2015 年 通 常 国 会 を 目 途 に 法 制 上 の 措 置 ) 男 性 の 育 児 参 加 に 取 り 組 む 企 業 への 支 援 拡 充 朝 方 の 働 き 方 の 普 及 女 性 活 躍 応 援 プラン( 仮 称 ) 策 定 - マザーズハローワーク トライアル 雇 用 等 に よる 女 性 活 躍 支 援 女 性 の 就 業 に 中 立 的 な 税 制 社 会 保 障 への 見 直 し 検 討 ( 経 済 財 政 諮 問 会 議 で 年 末 まで 検 討 ) キャリア 教 育 キャリア 教 育 プログラム 情 報 の 集 約 発 信 ( 資 料 ) 日 本 再 興 戦 略 JAPAN IS BACK- (2013 年 6 月 14 日 閣 議 決 定 ) 日 本 再 興 戦 略 改 訂 2014 (2014 年 6 月 24 日 閣 議 決 定 ) 内 閣 府 総 務 省 厚 生 労 働 省 経 済 産 業 省 文 部 科 学 省 女 性 が 働 きやすい 環 境 を 整 え 社 会 に 活 力 を 取 り 戻 す 日 本 再 興 戦 略 における 女 性 の 活 躍 推 進 H25 補 正 H26 予 算 2014 年 2 月 等 より みずほ 総 合 研 究 所 作 成 2
上 昇 と 同 女 性 が 人 口 に 占 める 割 合 上 昇 による 寄 与 は3 割 程 度 に 止 まった (2) 小 さな 子 どものいる 女 性 の 就 業 やキャリア 形 成 は 依 然 困 難 しかし 小 さな 子 どものいる 女 性 の 就 業 やキャリア 形 成 が 難 しい 状 況 は 変 わっていない 図 表 3は 夫 婦 と 子 どもからなる 核 家 族 で 妻 が45 歳 未 満 の 世 帯 ( 合 計 727 万 世 帯 )について 末 子 の 年 齢 別 に 妻 の 就 業 状 態 を 整 理 している これによると 末 子 が6 歳 未 満 の412 万 世 帯 のうち66%(273 万 世 帯 )で 妻 は 働 いていないが その 約 6 割 (166 万 世 帯 )で 妻 は 就 業 希 望 を 持 っている また 同 じ 家 族 構 成 で 妻 が 雇 用 者 として 働 く120 万 世 帯 のうち 半 数 以 上 は 妻 がパート 等 の 非 正 社 員 として 働 いている 同 じ 図 表 からは 子 どもが 大 きくなると 妻 の 就 業 率 は 上 昇 するが 多 くがパート 等 の 非 正 社 員 であ る 様 子 も 見 て 取 れる 夫 婦 と 子 どもで 構 成 される 末 子 が6 歳 以 上 の 世 帯 (315 万 世 帯 )のうち 妻 が 働 いていない 世 帯 の 割 合 は36%(114 万 世 帯 うち73 万 世 帯 で 妻 に 就 業 希 望 あり)に 止 まる 同 じ 家 族 構 成 で 妻 が 雇 用 者 として 働 く 世 帯 は179 万 世 帯 であるが その 約 4 分 の3(132 万 世 帯 )で 妻 が 非 正 社 員 と して 働 いている このように 育 児 をしながら 非 正 社 員 として 働 く 妻 の 中 には 育 児 と 仕 事 の 両 立 が 容 易 であれば 正 社 員 等 キャリアの 展 望 を 持 ちやすい 雇 用 形 態 を 希 望 する 人 が 含 まれると 考 えられる 総 務 省 労 働 力 調 査 (2013 年 )によれば 配 偶 者 のいる 非 正 社 員 女 性 ( 子 どもがいる 人 いない 人 双 方 を 含 む) のうち 非 正 社 員 を 選 んだ 理 由 ( 最 大 または 二 番 目 の 理 由 )として 育 児 家 事 介 護 と 両 立 しやす いこと を 挙 げた 人 は45%に 上 る 子 どもがいる 人 に 限 定 すれば より 多 くの 人 が 育 児 や 家 事 等 との 両 立 を 理 由 に 非 正 社 員 を 選 択 していると 推 察 される 図 表 2 年 齢 階 級 別 にみた 女 性 就 業 率 の 変 化 図 表 3 核 家 族 世 帯 の 妻 の 就 業 状 況 80 75 70 65 60 55 (%) 世 帯 数 ( 万 世 帯 ) 末 子 6 歳 未 満 夫 婦 と 子 の 世 帯 構 成 比 (%) 世 帯 数 ( 万 世 帯 ) 末 子 6 歳 以 上 構 成 比 (%) 総 数 412 100 315 100 有 業 者 139 34 201 64 50 45 40 35 30 20 ~24 25 ~29 30 ~34 35 ~39 40 ~44 1980 年 1990 年 2000 年 2013 年 45 ~49 50 ~54 55 ~59 ( 注 ) 就 業 率 = 就 業 者 数 / 人 口 ( 資 料 ) 総 務 省 労 働 力 調 査 より みずほ 総 合 研 究 所 作 成 60 ~64 ( 歳 ) 自 営 業 19 5 22 7 雇 用 者 120 29 179 57 正 社 員 55 13 47 15 非 正 社 員 65 16 132 42 無 業 者 273 66 114 36 就 業 希 望 者 166 40 73 23 非 就 業 希 望 者 107 26 41 13 ( 注 ) 妻 の 年 齢 は 45 歳 未 満 構 成 比 (%)はそれぞれの 世 帯 総 数 に 占 め る 割 合 であり 本 文 中 で 言 及 する 割 合 と 異 なる 場 合 がある ( 資 料 ) 総 務 省 就 業 構 造 基 本 調 査 (2012 年 )より みずほ 総 合 研 究 所 作 成 3
(3) 正 社 員 として 働 く 場 合 もキャリア 形 成 は 困 難 さらに 正 社 員 として 働 く 場 合 も 女 性 が 昇 進 等 の 形 でキャリアを 形 成 していくことは 簡 単 ではない 厚 生 労 働 省 雇 用 均 等 基 本 調 査 によれば 常 用 雇 用 者 10 人 以 上 の 企 業 の 管 理 職 ( 課 長 相 当 職 以 上 役 員 を 含 む)に 占 める 女 性 の 割 合 は 低 水 準 で 推 移 しており 2013 年 度 は6.6%( 前 年 度 対 比 で 0.2% ポイント)となった 同 じ 調 査 で 女 性 管 理 職 が1 割 未 満 あるいは 女 性 管 理 職 が1 人 もいない 役 職 がある 企 業 にその 理 由 を 尋 ねた 結 果 を 見 ると 現 時 点 では 必 要 な 知 識 や 経 験 判 断 力 等 を 有 する 女 性 がいない (58%) 女 性 が 希 望 しない (21%) 等 の 回 答 が 多 い この 調 査 からは 管 理 職 への 昇 進 機 会 が 開 かれたコ ース(いわゆる 総 合 職 等 )の 新 卒 採 用 が 男 性 中 心 であった 影 響 や 出 産 前 後 で 離 職 する 女 性 の 多 さ 企 業 による 女 性 社 員 の 育 成 の 遅 れによって 管 理 職 候 補 の 女 性 が 少 ない 現 状 や 管 理 職 になることで 家 事 育 児 と 仕 事 の 両 立 が 難 しくなることへの 女 性 の 懸 念 の 大 きさがうかがえる 3. 女 性 の 就 業 を 阻 む 壁 (1) 女 性 の 置 かれる 状 況 の 多 様 性 それでは どのような 要 因 が 女 性 の 就 業 やキャリア 形 成 を 阻 んでいるのだろうか これを 考 えるた め 女 性 の 勤 め 先 の 規 模 や 初 職 の 雇 用 形 態 出 産 前 後 に 就 業 継 続 しているかどうか 等 女 性 の 多 様 な 選 択 を 考 慮 しつつ 女 性 の 職 業 生 活 の 様 々な 局 面 で 生 じている 壁 を 整 理 したものが 図 表 4である a. 第 一 の 局 面 : 学 校 から 職 業 への 移 行 期 女 性 の 就 業 やキャリア 形 成 を 阻 む 最 初 の 壁 が 現 れるのは 学 校 から 職 業 への 移 行 期 である 1990 年 代 後 半 以 降 学 校 卒 業 後 に 正 社 員 として 就 職 することがより 難 しくなっている 雇 用 者 として 働 く 未 図 表 4 女 性 の 就 業 を 阻 む 壁 が 現 れる 局 面 学 校 労 働 市 場 第 三 の 局 ( 両 活 の 継 続 期 ) 第 の 局 ( 学 校 から 職 業 への 移 期 ) 企 業 正 社 員 中 企 業 正 社 員 第 の 局 ( 出 産 前 後 ) 出 産 第 四 の 局 ( 出 産 で 離 職 した 性 の 再 就 職 時 ) 第 五 の 局 ( 性 の 職 業 活 全 般 ) 正 社 員 出 産 ( 資 料 )みずほ 総 合 研 究 所 作 成 4
婚 女 性 ( 学 生 を 除 く)のうち 非 正 社 員 の 割 合 を1997 年 と2012 年 で 比 較 すると 高 卒 女 性 で23%から36% へ 短 大 高 専 卒 女 性 で17%から32%へ 大 卒 大 学 院 卒 女 性 で17%から20%へ 上 昇 した 背 景 には 1990 年 代 後 半 以 降 1 女 性 の 主 な 正 社 員 就 職 先 であった 職 業 ( 事 務 職 製 造 作 業 職 販 売 職 )で 正 社 員 から 非 正 社 員 への 置 き 換 えが 進 んできたこと 2 雇 用 が 拡 大 している 職 業 ( 専 門 技 術 職 やサービ ス 職 )でその 中 身 が 非 正 社 員 中 心 だったことがある 1 学 校 卒 業 直 後 から 非 正 社 員 として 働 く 場 合 その 後 に 職 業 能 力 を 高 め キャリア 形 成 を 行 う 可 能 性 は 大 きく 制 約 される 正 社 員 と 比 べて 非 正 社 員 に 訓 練 を 行 う 企 業 が 少 ないことに 加 え 女 性 であるこ とが 正 社 員 への 移 行 に 不 利 に 影 響 することが 複 数 の 研 究 で 明 らかにされている 2 b. 第 二 の 局 面 : 出 産 前 後 第 二 の 局 面 は 出 産 前 後 である この 局 面 では 育 児 休 業 からの 復 職 後 に 仕 事 と 育 児 を 両 立 する 見 通 しの 立 ちにくさ 育 児 休 業 の 取 得 しづらさ 両 立 を 歓 迎 しない 職 場 の 雰 囲 気 大 都 市 圏 を 中 心 とし た 保 育 所 確 保 の 難 しさが 女 性 の 不 本 意 な 離 職 の 原 因 となっている 厚 生 労 働 省 両 立 支 援 に 係 る 諸 問 題 に 関 する 総 合 的 調 査 研 究 (2008 年 )によれば 妊 娠 出 産 前 後 に 離 職 した 正 社 員 女 性 の 約 3 割 は 仕 事 を 続 けたかったが 仕 事 と 育 児 の 両 立 の 難 しさで 辞 めた と 回 答 している その 理 由 を 複 数 回 答 で 尋 ねた 結 果 によれば 勤 務 時 間 が 合 いそうもなかった (65%) 体 力 がもたなそうだった (46%) 等 の 問 題 に 加 え 職 場 に 両 立 支 援 の 雰 囲 気 がなかった (50%) 育 児 休 業 をとれそう もなかった (25%) 等 時 間 的 制 約 のある 社 員 を 受 け 入 れない 職 場 の 慣 行 や 雰 囲 気 が 指 摘 された なお 先 に 述 べたような 非 正 社 員 として 働 く 未 婚 女 性 の 増 加 は 女 性 が 出 産 前 後 に 仕 事 を 続 けにく い 一 因 となっている 育 児 介 護 休 業 法 の 改 正 により 2005 年 4 月 以 降 一 定 の 要 件 を 満 たす 有 期 社 員 も 育 児 休 業 を 取 得 可 能 である しかし 2013 年 度 の 育 児 休 業 取 得 率 をみると 正 社 員 女 性 の83%に 対 し 有 期 社 員 の 女 性 は70%と 格 差 がある こうした 背 景 には 有 期 社 員 でより 育 児 休 業 を 取 得 しづら い 職 場 の 状 況 があると 考 えられる c. 第 三 の 局 面 : 両 立 生 活 の 継 続 期 第 三 の 局 面 は 育 児 休 業 から 仕 事 に 復 帰 して 一 定 期 間 が 過 ぎた 両 立 生 活 の 継 続 期 だ 育 児 介 護 休 業 法 の 改 正 により 2010 年 6 月 以 降 は 3 歳 未 満 の 子 どもを 育 てる 従 業 員 が 希 望 すれば 利 用 できる 短 時 間 勤 務 制 度 を 導 入 することが 企 業 に 義 務 付 けられており 同 制 度 を 導 入 済 みの 企 業 (62%)の 約 6 割 は 法 定 以 上 の 制 度 を 整 備 している( 厚 生 労 働 省 雇 用 均 等 基 本 調 査 2013 年 度 ) こうしたなか 大 企 業 の 正 社 員 女 性 を 中 心 に 短 時 間 勤 務 制 度 の 利 用 者 が 増 えているものの そうした 女 性 がフルタイ ムへの 復 帰 を 先 延 ばしにする 傾 向 や これが 女 性 のキャリア 形 成 を 難 しくする 問 題 が 浮 上 している 女 性 がフルタイム 復 帰 を 先 延 ばしにする 背 景 には 残 業 を 前 提 とした 職 場 で 短 時 間 勤 務 をやめた 途 端 に 長 時 間 労 働 をせざるを 得 なくなることへの 懸 念 や 配 偶 者 である 男 性 が 長 時 間 労 働 をしている ために 夫 婦 で 家 事 育 児 を 分 担 できず 女 性 が 短 時 間 勤 務 を 選 択 せざるを 得 ない 問 題 がある 実 際 厚 生 労 働 省 両 立 支 援 に 係 る 諸 問 題 に 関 する 総 合 的 調 査 研 究 (2008 年 )によれば 配 偶 者 男 性 の 労 働 時 間 が 長 いほど 有 業 の 妻 のうち 短 時 間 勤 務 を 希 望 する 人 の 割 合 が 高 まる 傾 向 がある( 図 表 5) 一 方 短 時 間 勤 務 の 延 長 は 女 性 のキャリア 形 成 にマイナスに 作 用 しやすい 背 景 には 武 石 (2013) 5
が 指 摘 するような 短 時 間 勤 務 者 に 配 分 される 仕 事 の 質 が 必 ずしも 高 いものでなく 経 験 する 仕 事 の 幅 や 深 さが 限 定 される 傾 向 や そうした 仕 事 を 配 分 される 結 果 として 短 時 間 勤 務 者 は 職 場 への 貢 献 が 少 ないと 評 価 される 状 況 がある 3 こうした 状 況 の 下 で 時 間 的 制 約 のある 女 性 が 働 く 意 欲 を 低 下 させる 問 題 もある 厚 生 労 働 省 育 児 休 業 制 度 等 に 関 する 実 態 把 握 のための 調 査 ( 労 働 者 アンケート 調 査 ) (2011 年 度 )によれば 正 社 員 女 性 のうち 昇 進 希 望 者 の 割 合 は 第 一 子 出 産 後 に 低 下 する 傾 向 にある 同 じ 調 査 で 出 産 後 に 昇 進 希 望 を 低 下 させた 女 性 ( 昇 進 や 専 門 性 の 向 上 には 興 味 がなく 仕 事 以 外 の 生 活 を 充 実 させたい 以 外 から 昇 進 や 専 門 性 の 向 上 には 興 味 がなく 仕 事 以 外 の 生 活 を 充 実 させたい へとキャリア 意 識 が 変 化 した 女 性 )にその 理 由 を 尋 ねた 結 果 によれば 子 育 てに 直 接 かかわる 理 由 を 除 くと 育 児 中 の 社 員 はやりがいのある 仕 事 ができない 残 業 など 長 時 間 働 くことができないと 評 価 を 得 られな い 所 定 外 労 働 の 免 除 や 短 時 間 勤 務 など 両 立 支 援 制 度 の 利 用 者 の 仕 事 の 評 価 が 低 い ことを 指 摘 する 人 が 多 かった d. 第 四 の 局 面 : 出 産 前 後 に 離 職 した 女 性 が 再 就 職 を 検 討 するタイミング 第 四 の 局 面 は 出 産 前 後 に 離 職 した 女 性 が 再 就 職 を 検 討 するタイミングだ 夫 婦 と 子 どもからなる 核 家 族 世 帯 の 場 合 夫 婦 ともに 週 35 時 間 以 上 の 共 働 きであっても 平 日 の 家 事 育 児 時 間 は 男 性 で1 日 27 分 女 性 で 同 3 時 間 29 分 と 女 性 に 負 担 が 集 中 している( 総 務 省 社 会 生 活 基 本 調 査 2011 年 ) 一 方 正 社 員 の 仕 事 は 残 業 を 前 提 としたものが 多 いため 再 就 職 を 希 望 する 女 性 の 選 択 肢 はパート 等 に 限 定 されやすい さらに 正 社 員 を 希 望 する 場 合 も 女 性 の 希 望 が 多 い 事 務 職 等 での 求 人 の 少 なさ 仕 事 の 中 断 による 技 能 や 知 識 の 低 下 子 どもの 病 気 で 休 む 可 能 性 や 残 業 への 対 応 の 難 しさを 採 用 側 が 敬 遠 する 傾 向 等 から 就 職 先 を 見 つけることが 難 しい このような 状 況 から 再 就 職 を 希 望 する 専 業 主 婦 の 女 性 は 仕 事 と 育 児 を 両 立 できるか 自 分 に 働 くための 知 識 や 技 術 があるか 就 職 再 就 職 活 動 を 上 手 くできるのか 等 の 様 々な 不 安 を 抱 える 状 況 にある( 日 本 女 子 大 学 現 代 女 性 キャリア 研 究 所 女 性 とキャリアに 関 する 調 査 2012 年 ) 図 表 5 配 偶 者 男 性 の 労 働 時 間 と 有 業 の 妻 の 希 望 する 働 き 方 e. 第 五 の 局 面 : 女 性 の 職 業 生 活 全 般 通 常 勤 務 フレックスタイム 短 時 間 勤 務 その 他 最 後 に 女 性 の 職 業 生 活 全 般 に 係 る 問 裁 量 労 働 不 明 題 として 育 成 の 機 会 が 男 女 で 平 等 に 配 70 時 間 以 上 44 分 されていない 傾 向 や 女 性 が 昇 進 の 機 60~70 時 間 未 満 44 会 を 得 るためには 長 時 間 労 働 等 により 50~60 時 間 未 満 38 男 性 同 様 の 働 き 方 ができることをアピ 40~50 時 間 未 満 35 ールしなければならない 状 況 がある 35~40 時 間 未 満 25 これに 関 し ホワイトカラー 正 社 員 の 35 時 間 未 満 22 昇 進 における 男 女 間 格 差 を 取 り 上 げた ( 配 偶 者 男 性 の 0% 20% 40% 60% 80% 100% 山 口 (2013)は 課 長 職 以 上 の 役 職 者 割 週 労 働 時 間 ) 合 における 男 女 間 格 差 のうち 教 育 や 年 齢 勤 続 年 数 就 業 時 間 の 差 で 説 明 でき ( 注 ) 配 偶 者 男 性 の 週 労 働 時 間 別 に 有 業 の 妻 について 希 望 する 勤 務 形 態 別 の 構 成 比 (%)を 示 したもの ( 資 料 ) 厚 生 労 働 省 両 立 支 援 に 係 る 諸 問 題 に 関 する 総 合 的 調 査 研 究 2008 年 より みずほ 総 合 研 究 所 作 成 6
る 部 分 は4 割 程 度 に 止 まることを 明 らかにしている 4 また 製 造 業 企 業 の 人 事 データを 用 いた 加 藤 川 口 大 湾 (2013)では 年 間 労 働 時 間 と 昇 進 率 の 間 には 女 性 についてのみ 統 計 的 に 有 意 な 正 の 関 係 が 観 測 できることが 指 摘 されている 5 これらの 分 析 結 果 は 固 定 的 な 性 別 役 割 分 業 意 識 や 育 児 の 負 担 への 必 要 以 上 の 配 慮 から 女 性 に 仕 事 を 通 じた 育 成 の 機 会 が 十 分 に 配 分 されていない 可 能 性 や 女 性 が 昇 進 等 につながる 機 会 を 確 保 するためには 長 時 間 労 働 等 により 男 性 並 みの 働 き 方 ができることを アピールする 必 要 がある 状 況 を 示 唆 していると 考 えられる (2) 女 性 就 業 の 壁 からみた 女 性 活 躍 推 進 策 の 優 先 課 題 以 上 にみてきたように 女 性 の 就 業 やキャリア 形 成 には 様 々な 壁 が 残 されており 女 性 の 活 躍 を 実 現 するための 政 策 的 な 課 題 は 多 い 例 えば 学 校 から 職 業 への 移 行 期 には 女 子 学 生 に 対 するキャリ ア 教 育 やリーダーシップ 育 成 の 機 会 を 充 実 させ 中 長 期 的 なキャリアを 視 野 に 入 れた 職 業 選 択 をサポ ートしていく 必 要 がある 一 方 出 産 前 後 の 不 本 意 な 離 職 の 防 止 には 保 育 所 の 拡 充 育 児 休 業 を 利 用 しやすい 職 場 の 雰 囲 気 の 醸 成 仕 事 と 育 児 を 両 立 できる 働 き 方 の 推 進 等 が 必 要 である 仕 事 と 育 児 の 両 立 生 活 の 継 続 期 には 短 時 間 勤 務 者 が 意 欲 を 高 め 早 期 にフルタイムに 復 帰 できる ような 職 場 の 環 境 整 備 が 課 題 となる 具 体 的 には 管 理 職 と 短 時 間 勤 務 者 のコミュニケーションの 強 化 や 短 時 間 勤 務 者 への 仕 事 の 配 分 方 法 の 見 直 しを 推 進 するほか 長 時 間 労 働 の 是 正 や 柔 軟 な 勤 務 形 態 の 普 及 に 取 り 組 む 企 業 を 先 進 事 例 の 紹 介 や 助 成 金 の 支 給 等 の 形 で 支 援 していくことが 考 えられる このほか 出 産 を 機 に 離 職 した 女 性 の 再 就 職 に 向 けては 再 就 職 を 希 望 する 女 性 の 多 様 な 不 安 に 多 面 的 に 対 応 していく 必 要 がある そのためには 国 や 地 方 自 治 体 が キャリアや 就 職 に 役 立 つスキル 就 業 後 の 仕 事 と 生 活 の 両 立 に 関 するカウンセリングやアドバイスの 充 実 求 人 企 業 とのマッチングの 強 化 を 行 っていくことが 重 要 であろう なかでも 今 後 の 最 優 先 課 題 は 長 時 間 労 働 の 是 正 と 柔 軟 な 勤 務 形 態 の 普 及 であろう 本 稿 の2.で みたとおり 長 時 間 労 働 が 前 提 の 職 場 や 育 児 以 外 の 理 由 で 柔 軟 な 働 き 方 を 選 択 する 人 がいない 職 場 で は 短 時 間 勤 務 者 がフルタイムへの 復 帰 を 先 延 ばしする 問 題 や 短 時 間 勤 務 者 のキャリア 形 成 の 可 能 性 が 制 約 される 問 題 が 発 生 しやすい さらにこうした 状 況 が 先 に 見 えている 限 り いくら 国 が 保 育 所 等 の 整 備 を 行 い 企 業 が 女 性 社 員 を 幹 部 候 補 として 育 成 しようとしても 女 性 がキャリアの 展 望 のあ る 仕 事 を 選 択 しない 問 題 や 出 産 を 機 に 離 職 する 問 題 管 理 職 を 希 望 しにくい 問 題 を 克 服 することは 難 しい 長 時 間 労 働 や 柔 軟 な 勤 務 形 態 の 普 及 の 遅 れは 女 性 の 就 業 に 立 ちはだかる 最 大 の 壁 と 言 える 4. 女 性 活 躍 に 向 けた 今 後 の 最 優 先 課 題 は 何 か (1) 安 倍 政 権 の 女 性 活 躍 推 進 策 に 残 された 課 題 1.で 見 たように 安 倍 政 権 は 女 性 の 活 躍 推 進 に 向 けて 様 々な 取 り 組 みを 行 っている 保 育 所 や 放 課 後 児 童 クラブの 拡 充 再 就 職 を 目 指 す 女 性 への 支 援 に 加 え 国 や 地 方 自 治 体 民 間 企 業 に 女 性 活 躍 推 進 に 向 けた 行 動 計 画 の 策 定 を 求 める 新 法 の 制 定 や 女 性 が 活 躍 する 企 業 を 優 遇 する 方 針 は 出 産 後 も 働 き 続 けやすい 職 場 づくりや 女 性 社 員 の 育 成 に 向 けた 企 業 の 努 力 を 後 押 しするだろう 一 方 で 安 倍 政 権 の 女 性 活 躍 推 進 策 には 長 時 間 労 働 の 是 正 や 柔 軟 な 勤 務 形 態 の 普 及 に 向 けた 取 り 組 みが 十 分 7
盛 り 込 まれていない 点 に 大 きな 問 題 がある 6 そこで 以 下 では これらの 実 現 に 向 けて 今 後 求 められ る 政 策 的 な 課 題 を 考 えたい (2) 長 時 間 労 働 是 正 と 柔 軟 な 勤 務 形 態 の 普 及 に 向 けた 国 の 課 題 a. 長 時 間 労 働 是 正 に 取 り 組 む 企 業 への 支 援 拡 充 1980 年 代 後 半 以 降 の 時 短 政 策 にもかかわらず 日 本 のフルタイム 労 働 者 の 労 働 時 間 は 過 去 20 年 間 ほとんど 変 わっていない( 黒 田 (2011)) 7 その 結 果 日 本 は 先 進 国 の 中 で 労 働 時 間 が 長 く フレッ クスタイム 等 の 柔 軟 な 働 き 方 を 選 択 している 人 が 少 ない 状 況 にある( 小 倉 (2008) 武 石 (2011)) 8 日 本 で 長 時 間 労 働 の 是 正 が 遅 れる 大 きな 理 由 として これが 日 本 型 の 雇 用 慣 行 と 深 く 結 びついてき たことがある 例 えば 長 期 雇 用 が 標 準 的 で 転 職 が 難 しい 労 働 市 場 は 労 働 者 の 発 言 力 を 弱 め 長 時 間 労 働 を 拒 否 しにくくしている また 正 社 員 の 仕 事 の 範 囲 が 不 明 瞭 で 自 分 だけ 仕 事 を 終 えて 帰 宅 し にくい 雰 囲 気 や 組 織 内 の 情 報 共 有 伝 達 や 意 見 調 整 を 重 視 しこれに 時 間 を 費 やす 傾 向 不 況 期 の 人 員 調 整 を 避 けるために 平 時 にバッファーとしての 残 業 を 織 り 込 む 慣 行 チームワークの 作 業 が 多 く 個 人 の 成 果 や 能 力 を 評 価 しにくいためにインプットとしての 労 働 時 間 を 重 視 する 傾 向 も 非 自 発 的 な 長 時 間 労 働 をもたらす 要 因 となってきたとされる 9 さらに 入 社 から10~15 年 程 度 は 昇 進 に 差 を 設 けず 誰 を 選 抜 するかの 情 報 を 開 示 しない 慣 行 ( 遅 い 昇 進 と 呼 ばれる)が 多 くの 男 性 社 員 に 長 時 間 労 働 等 で 過 剰 な 努 力 を 行 わせる 原 因 となっているとの 指 摘 もある 10 このような 状 況 を 踏 まえれば 長 時 間 労 働 の 是 正 には 正 社 員 の 職 務 や 評 価 昇 進 のあり 方 社 内 の 情 報 共 有 のあり 方 にまで 立 ち 入 った 企 業 レベルの 改 革 が 重 要 となる より 具 体 的 には 個 々 人 の 業 務 の 明 確 化 労 働 時 間 の 長 さではなく 成 果 に 応 じた 評 価 への 転 換 社 内 会 議 の 効 率 化 幹 部 候 補 の 早 期 選 抜 による 過 当 競 争 の 抑 制 管 理 職 の 評 価 項 目 の 見 直 し( 職 場 全 体 の 労 働 時 間 削 減 やワークライフバ ランス 満 足 度 を 評 価 軸 に 導 入 ) 等 の 改 革 を 個 々の 企 業 が 抱 える 問 題 に 即 して 実 施 する 必 要 がある さらに このような 改 革 の 成 否 は 職 場 での 運 用 が 鍵 を 握 るため 管 理 職 の 役 割 が 大 きなものとなる そのため 部 下 以 上 に 多 忙 になりやすい 管 理 職 のワークライフバランスに 目 配 りすることも 重 要 であ る 武 石 (2011)によれば 管 理 職 が 部 下 の 業 務 配 分 や 業 務 の 進 捗 育 成 家 庭 生 活 に 配 慮 したマネ ジメントを 行 うことは 部 下 のワークライフバランス 満 足 度 の 向 上 と 職 場 のパフォーマンス 改 善 にプラ スに 寄 与 するものの 労 働 時 間 規 制 が 適 用 除 外 される 管 理 監 督 者 が 多 忙 を 極 めており そうしたマネ ジメントが 難 しくなっている 11 こうした 状 況 を 放 置 したまま 部 下 の 労 働 時 間 削 減 目 標 だけを 掲 げた 場 合 かえってマネジメントの 質 や 職 場 のワークライフバランス 満 足 度 が 低 下 しかねない こうしたなかで 国 に 求 められるのは 女 性 の 活 躍 と 成 長 戦 略 の 実 現 には 長 時 間 労 働 の 是 正 等 の 働 き 方 の 見 直 しが 不 可 欠 との 認 識 を 明 らかにした 上 で 労 働 時 間 削 減 に 取 り 組 む 企 業 を 強 く 後 押 しして いくことである 前 述 のように 国 は 女 性 の 活 躍 推 進 に 向 けた 新 たな 法 的 枠 組 みの 構 築 を 予 定 してい るが これに 向 けた 労 働 政 策 審 議 会 の 議 論 では 事 業 主 による 行 動 計 画 策 定 時 の 参 考 となる 指 針 に 長 時 間 労 働 是 正 に 向 けた 取 り 組 み を 盛 り 込 むことが 検 討 されている しかし 働 き 方 の 見 直 しをより 効 果 的 に 進 めるためには 同 指 針 に 長 時 間 労 働 是 正 に 向 けた 取 り 組 み だけでなく 全 社 員 に 対 する 柔 軟 な 勤 務 形 態 の 導 入 状 況 を 盛 り 込 むことが 有 益 であろう また 国 は 女 性 が 活 躍 する 企 業 を 8
公 共 調 達 等 で 優 遇 する 方 針 であるが これに 加 え 働 き 方 の 見 直 しに 取 り 組 む 企 業 への 優 遇 策 も 検 討 すべきである b. 労 働 時 間 の 量 的 上 限 の 導 入 このように 企 業 の 取 り 組 みを 後 押 しする 以 外 にも 長 時 間 労 働 の 是 正 に 向 けて 国 が 取 り 組 むべき 課 題 が 存 在 する その 一 つが 労 働 時 間 の 量 的 上 限 規 制 の 導 入 だ 現 行 ルールでは 労 働 基 準 法 に 定 めら れたルール( 時 間 外 労 働 に 関 する 労 使 協 定 の 締 結 協 定 の 労 働 基 準 監 督 署 への 提 出 協 定 の 範 囲 内 で の 時 間 外 労 働 時 間 外 労 働 休 日 労 働 深 夜 労 働 への 割 増 賃 金 の 支 払 い 等 )を 守 れば 企 業 は 従 業 員 に 際 限 のない 長 時 間 労 働 をさせることが 可 能 である 12 こうしたなか 時 間 外 労 働 等 に 対 する 割 増 賃 金 の 支 払 いが 実 質 的 な 長 時 間 労 働 の 歯 止 めとなっているが 割 増 賃 金 は 労 働 者 が 残 業 時 間 を 延 ばすイ ンセンティブとしても 機 能 するため 有 効 な 長 時 間 労 働 の 抑 止 力 となっていない このような 状 況 により 労 使 双 方 が 労 働 時 間 を 有 限 の 資 源 とみなし 仕 事 の 取 捨 選 択 や 効 率 化 を 図 るという 意 識 が 育 ちにくくなっている 国 の 過 労 死 認 定 基 準 ( 月 の 時 間 外 休 日 労 働 が100 時 間 以 内 または 半 年 間 で 平 均 月 80 時 間 以 内 等 )を 参 考 に 時 間 外 休 日 労 働 の 上 限 を 設 けることは 長 時 間 労 働 の 是 正 に 向 けた 最 初 の 一 歩 となろう c. 多 様 な 勤 務 形 態 の 普 及 推 進 育 児 以 外 の 理 由 でも 柔 軟 な 勤 務 形 態 (フレックスタイム 制 在 宅 勤 務 育 児 介 護 以 外 の 短 時 間 勤 務 )を 利 用 しやすい 職 場 では 育 児 のための 短 時 間 勤 務 がマイナスに 評 価 されにくく 短 時 間 勤 務 か らフルタイムへの 復 帰 も 選 択 しやすいと 考 えられる しかし 企 業 は 育 児 介 護 以 外 を 理 由 とした 柔 軟 な 勤 務 形 態 の 導 入 に 必 ずしも 積 極 的 ではない( 黒 田 山 本 (2013)) 13 こうした 状 況 を 大 きく 変 えるためには 柔 軟 な 勤 務 形 態 の 普 及 に 係 る 思 い 切 った 施 策 ( 例 えば フレックスタイム 制 等 の 柔 軟 な 勤 務 形 態 の 導 入 の 原 則 義 務 化 労 働 者 が 労 働 時 間 の 変 更 を 請 求 できる 権 利 の 導 入 14 労 働 時 間 によ る 不 合 理 な 差 別 禁 止 のルール 化 )の 検 討 も 課 題 となろう また 残 業 時 間 を 仮 想 の 口 座 に 貯 め 後 日 休 日 として 使 用 できる 労 働 時 間 貯 蓄 制 度 の 導 入 も 残 業 代 が 長 時 間 労 働 を 誘 発 する 問 題 の 克 服 や 休 暇 の 取 得 促 進 に 有 効 であろう 5.おわりに 本 稿 では 安 倍 政 権 の 女 性 活 躍 推 進 策 を 取 り 上 げ 今 後 の 課 題 を 検 討 した 女 性 の 就 業 キャリア 形 成 には 長 時 間 労 働 が 可 能 な 人 だけが 活 躍 できる 社 会 から 残 業 はしないがフルタイムで 効 率 的 に 成 果 を 出 す 働 き 方 育 児 や 介 護 資 格 取 得 等 のために 一 時 的 に 短 時 間 勤 務 を 取 り 入 れる 働 き 方 等 労 働 者 の 働 き 方 に 対 する 多 様 な 希 望 を 生 かせる 社 会 への 転 換 が 必 要 である そのためには 最 優 先 課 題 と して 長 時 間 労 働 の 是 正 と 多 様 な 勤 務 形 態 の 普 及 を 実 現 する 必 要 がある これらに 向 けてどれだけ 実 効 的 な 手 段 を 提 示 できるかは 安 倍 政 権 の 女 性 活 躍 推 進 に 向 けた 本 気 度 を 測 る 試 金 石 といえよう 1 詳 しくは 大 嶋 寧 子 (2011) 不 安 家 族 働 けない 転 落 社 会 を 克 服 せよ ( 日 本 経 済 新 聞 出 版 社 ) 参 照 2 例 えば 山 本 (2011)は 初 職 が 非 正 社 員 の 人 を 対 象 にその 後 の 正 社 員 への 移 行 を 規 定 する 要 因 を 分 析 し 年 齢 中 学 3 年 次 の 成 績 離 学 前 の 最 高 学 歴 結 婚 離 婚 出 産 に 加 え 性 別 ( 女 性 は 男 性 に 比 べて 正 社 員 移 行 確 率 が 58% 低 い)が 正 社 員 への 移 行 9
確 率 に 影 響 することを 指 摘 している( 山 本 雄 三 (2011) 非 正 規 就 業 する 若 者 が 正 社 員 へ 移 行 するる 要 因 は 何 か- 継 続 期 間 デー ータ を 用 いた 規 定 要 因 分 析 小 杉 礼 子 原 ひろみ(2011) 非 正 規 雇 用 のキャリア 形 成 職 業 能 力 評 価 社 会 をめざして ( 勁 草 書 房 )) 武 石 恵 美 子 (2013) 短 時 間 勤 務 制 度 の 現 状 と 課 題 生 涯 学 習 とキャリアデザイン 法 政 大 学 キャリアデザイン 学 会 Vol.10 に よる 具 体 的 には 短 時 間 勤 務 者 に 配 分 される 仕 事 が 外 部 との 接 点 が 少 なく 社 内 や 部 門 内 で 完 結 する 業 務 ある 程 度 決 めら れた 手 順 で 単 独 で 進 められる 業 務 という 特 徴 を 持 つほか プロジェクト 案 件 に 参 加 する 場 合 も 調 整 先 が 少 ない 小 型 案 件 に 配 置 される 傾 向 があること 等 が 指 摘 されている 山 口 一 男 (2013) ホワイトカラー 正 社 員 の 管 理 職 割 合 の 男 女 格 差 の 決 定 要 因 女 性 であることのの 不 当 な 社 会 的 不 利 益 と その 解 消 施 策 について 経 済 産 業 研 究 所 RIETII Discussion Paper Series 13 J 069 による 加 藤 隆 夫 川 口 大 司 大 湾 秀 雄 (2013) ノンテクニカルサマリー 職 場 における 男 女 間 格 差 の 動 学 的 研 究 : 日 本 大 企 業 の 計 量 分 析 的 ケーススタディ 経 済 産 業 研 究 所 による 日 本 再 興 戦 略 改 訂 2014 には 長 時 間 労 働 の 是 正 策 として 労 働 基 準 監 督 署 による 監 督 指 導 の 強 化 が 挙 げられている しかし 現 行 ルールでは 労 働 時 間 の 絶 対 的 な 上 限 が 存 在 しない そのため 労 働 基 準 監 督 署 が 長 時 間 労 働 そのものについて 監 督 指 導 を 行 う 法 的 根 拠 が 欠 ける 状 況 にある 黒 田 (2010)は 週 法 定 労 働 時 間 が 48 時 間 から40 時 間 に 短 縮 される 以 前 の 1986 年 と 2006 年 の週 平 均 労 働 時 間 ( 有 業 者 雇 用 者 フルタイム 雇 用 者 フルタイム 男 性 雇 用 者 )が 統 計 的 に 有 意 に 変 化 していないことを 明 らかにしている( 黒 田 祥 子 (2010) 日 本 人 の 労 働 時 間 時 短 政 策 導 入 前 とその 20 年 後 の 比 較 を 中 心 に 鶴 光 太 郎 樋 口 美 雄 水 町 勇 一 郎 編 著 労 働 時 間 改 革 日 本 の 働 き 方 をいかに 変 えるか 日 本 評 論 社 ) 小 倉 (2008)は 先 進 国 の 中 で 日 本 の 長 時 間 労 働 者 の 割 合 が 高 く 途 上 国 と 比 較 してもその 割 合 は 低 くないことを 指 摘 している ( 小 倉 一 哉 (2008) 日 本 の 長 時 間 労 働 国 際 比 較 と 研 究 課 題 労 働 政 策 研 究 研 修 機 構 日 本 労 働 研 究 雑 誌 No.575) また 武 石 (2011)は 日 本 の 働 き 方 を 英 国 ドイツ 等 と 比 べ 日 本 の 働 き 方 の 特 徴 として 労 働 時 間 の 長 さに 加 え 勤 務 形 態 が 画 一 的 である 点 を 指 摘 している( 武 石 恵 美 子 (2011) 働 く 人 のワーク ライフ バランスを 実 現 するための 企 業 職 場 の 課 題 経 済 産 業 研 究 所 RIETI Discussion Paper Series 11 J 029) ここでの 記 述 は 鶴 光 太 郎 (2010) 労 働 時 間 改 革 鳥 瞰 図 としての 視 点 鶴 光 太 郎 樋 口 美 雄 水 町 勇 一 郎 編 著 労 働 時 間 改 革 日 本 の 働 き 方 をいかに 変 えるか 日 本 評 論 社 による 加 藤 大 湾 (2013)は 日 本 型 雇 用 の 一 環 である 遅 い 昇 進 ( 入 社 後 長 期 間 昇 進 に 差 をつけず 誰 を 幹 部 として 選 抜 するかを 開 示 しない 慣 行 ) の 下 多 くの 男 性 がコミットメント( 会 社 を 辞 めない 意 志 や 会 社 のために 自 分 の 余 暇 を 犠 牲 にする 用 意 )を 会 社 に 情 報 伝 達 するための 過 剰 な 努 力 を 続 ける ラットレース(rat race) 均 衡 にに 陥 っているとし これが 昇 進 を 希 望 する 女 性 が 長 時 間 労 働 等 を 行 ってコミットメントを 企 業 に 伝 える 背 景 になっ っていると 指 摘 している( 加 藤 隆 夫 大 湾 秀 雄 (2013) 国 際 シンポジウム 日 本 の 人 事 を 科 学 する グローバル 化 時 代 における 雇 用 システムを 考 える プレゼンテーション 資 料 ) 武 石 恵 美 子 (2011) 働 く 人 のワーク ライフ バランスを 実 現 するための 企 業 職 場 の 課 題 経 済 産 業 研 究 所 RIETI Discussion Paper Series 11 J 029 による 労 働 基 準 法 は 週 40 時 間 1 日 8 時 間 を 超 える 労 働 時 間 を 違 法 と 定 めている( 労 働 基 準 法 32 条 ) しかし 企 業 が 労 使 協 定 (い わゆる 36 協 定 )や 特 別 協 定 を 労 働 者 代 表 と 結 んで 労 働 基 準 監 督 署 に 提 出 すれば 労 働 時 間 の 延 長 が 可 能 である( 同 法 36 条 ) 時 間 外 労 働 に 対 する 割 増 賃 金 を 支 払 っている 場 合 時 間 外 労 働 に 関 する 協 定 の 範 囲 内 であれば 厚 生 労 働 省 が 定 める 時 間 外 労 働 の 基 準 (1 カ月 に 45 時 間 等 )や 労 災 保 険 で 過 労 死 との 関 連 性 が 高 いと 認 定 されるる 時 間 外 労 働 の 基 準 ( 発 症 前 1 カ 月 に 100 時 間 等 )を 超 えて 従 業 員 を 働 かせてもただちに 違 法 とはならない 黒 田 山 本 (2013)は 仮 に 柔 軟 な 勤 務 形 態 等 が 導 入 された 場 合 に いくらの 賃 下 げ( 負 の 賃 金 プレミアム) )が 必 要 かという 仮 想 質 問 への 回 答 を 利 用 した 分 析 を 行 い 従 業 員 側 は 賃 下 げは 受 け 入 れられない あるいは 10~20% 程 度 の 賃 下 げなら 受 け 入 れる という回 答 が 多 かっ ったが 企 業 側 は 導 入 は 一 切 考 えられない(マイナス 100%の 賃 金 プレミアム) という 回 答 が 圧 倒 的 に 多 いことを 明 らかにしている( 黒 田 祥 子 山 本 勲 (2013) ワークライフバランスに 対 する 賃 金 プレミアムの 検 証 経 済 産 業 研 究 所 RIETII Discussion Paper Seriess 13 J 004) ) オランダでは 第 一 次 石 油 危 機 後 の 深 刻 な 経 済 不 況 を 克 服 するために 1982 年 に 政 労 使 が 結 んだ ワッセナー 合 意 で 政 府 が 財 政 再 建 への 取 り 組 みに 労 働 者 が 賃 金 伸 び 率 の 抑 制 に 使 用 者 が 短 時 間 で 柔 軟 な 就 業 時 間 の 導 入 に 合 意 して 以 降 女 性 のパ ートタイム( 短 時 間 正 社 員 ) 就 業 が 拡 大 している さら らに 1996 年 の 労 働 時 間 差 別 禁 止 法 で 労 働 時 間 に 基 づく 差 別 が 禁 止 さ れたのに 続 き 2000 年 の 労 働 時 間 調 整 法 で 同 じ 企 業 に 1 年 以 上 勤 続 する 労 働 者 が 使 用 者 に 労 働 時 間 数 の 変 更 を 請 求 する パ ートタイム 労 働 の 権 利 が 認 められたこともあり 同 国 では 15-64 歳 の 女 性 の 就 業 率 が 1980 年 の 36%から 2013 年 の 75%へと 急 上 昇 している 2013 年 時 点 で 15-64 歳 の 女 性 雇 用 者 の 58% 男 性 雇 用 者 の 16% %がこの 働 き 方 を 選 択 している 3 武 4 山 5 加 6 7 黒 8 小 9 こ 10 加 11 武 12 労 13 黒 14 オ 10