平 成 22 年 度 実 用 型 ホタテ 貝 殻 礁 の 浄 化 効 果 と 活 用 方 法 について 寒 地 土 木 研 究 所 水 産 土 木 チーム 寒 地 土 木 研 究 所 道 南 支 所 函 館 開 発 建 設 部 築 港 課 岡 本 健 太 郎 片 山 勝 山 田 文 人 これまで 大 規 模 に 設 置 したホタテ 貝 殻 礁 の 効 果 を 検 証 したが 蝟 集 生 物 が 減 少 し 浄 化 能 力 も 低 下 した そこで 通 水 孔 を 設 けた 実 用 型 ホタテ 貝 殻 礁 を 考 案 して 江 良 漁 港 に 設 置 した 貝 殻 礁 には 約 160 種 類 の 蝟 集 生 物 が 確 認 され さらに 数 カ 所 の 魚 卵 を 発 見 することでき 貝 殻 礁 が 新 たな 生 息 場 になる 以 外 に 産 卵 場 にも 適 用 することが 確 認 された 蝟 集 生 物 の 安 定 同 位 体 比 分 析 では 貝 殻 礁 の 食 物 連 鎖 網 はナマコ ウニ 魚 類 を 頂 点 とする3つ 系 統 に 概 ね 示 すこと ができた 貝 殻 礁 の 炭 素 窒 素 循 環 は 蝟 集 生 物 及 び 魚 類 の 摂 餌 行 動 で 貝 殻 礁 に 負 荷 される 炭 素 の 51.9% 窒 素 の 87.7%が 消 費 されることが 示 され 物 資 循 環 が 効 率 的 に 機 能 していることが わかる また 蓄 養 施 設 内 でナマコを 放 流 した 場 合 でも 貝 殻 礁 に 負 荷 される 炭 素 の 52.5% 窒 素 の 73.6%が 消 費 されることが 示 され 蓄 養 施 設 でも 貝 殻 礁 周 辺 の 物 質 循 環 が 十 分 機 能 され ていることがわかった キーワード: 実 用 型 ホタテ 貝 殻 礁 蝟 集 生 物 物 質 循 環 1. 概 要 北 海 道 の 漁 業 生 産 量 は 全 国 の 約 1/4を 占 めており 国 民 に 豊 富 な 水 産 物 を 常 に 供 給 している また 水 産 物 が 安 定 供 給 できるように 港 内 では 水 産 物 の 蓄 養 が 行 わ れている しかし 蓄 養 魚 から 発 生 する 排 泄 物 が 海 底 に 堆 積 すると 徐 々に 底 質 が 悪 化 することが 懸 念 される 一 方 水 産 物 の 豊 富 な 北 海 道 では 魚 類 以 外 にも ホタ テやホッキ 等 の 貝 類 の 水 揚 量 も 多 く 特 にホタテは 年 間 40 万 tで 全 国 の 約 80%を 占 めている しかし 大 量 に 水 揚 げされたホタテを 加 工 することで 年 間 約 20 万 tの 貝 殻 が 発 生 し その 廃 棄 処 理 に 苦 慮 している このような 背 景 から 当 研 究 所 では 水 産 廃 棄 物 のホタ テ 貝 殻 を 利 用 したホタテ 貝 殻 礁 を 考 案 し 底 質 改 善 に 有 効 であるか 検 証 した これまで 落 石 漁 港 にホタテ 貝 殻 礁 の 試 験 礁 ( 以 下 試 験 礁 )を 設 置 し 生 物 蝟 集 効 果 や 摂 餌 行 動 による 浄 化 効 果 が 確 認 され 設 置 から3 年 経 過 しても 効 果 が 持 続 することがわかった そこで さらな る 効 果 を 期 待 するために 大 規 模 に 設 置 した 貝 殻 礁 につ いて 効 果 を 検 証 したが 試 験 礁 と 比 較 して 蝟 集 量 が1 割 程 度 しか 確 認 されず 浄 化 効 果 も 大 幅 に 減 少 した この 原 因 は ホタテ 貝 殻 を 隙 間 無 く 大 規 模 に 設 置 したこと で 貝 殻 礁 の 中 心 部 まで 生 物 蝟 集 が 十 分 に 進 行 しなかっ たと 思 われた 1) そこで 貝 殻 礁 の 問 題 点 を 解 決 するために 通 水 孔 を 設 けたホタテ 貝 殻 礁 を 考 案 し 図 -1に 示 すように 2009 年 8 月 に 江 良 漁 港 に 設 置 した ホタテ 貝 殻 礁 の 資 材 は 港 湾 漁 港 工 事 で 通 常 使 用 される 石 かご 用 金 網 を 使 用 し 実 用 化 の 想 定 も 考 慮 した 本 研 究 では 江 良 漁 港 で 設 置 した 実 用 型 ホタテ 貝 殻 礁 ( 以 下 貝 殻 礁 )の 効 果 を 検 証 するため 生 物 蝟 集 状 況 を 調 査 し 蝟 集 生 物 については 安 定 同 位 体 比 の 分 析 による 貝 殻 礁 での 食 物 連 鎖 網 について 検 証 した ま た 系 外 からの 貝 殻 礁 への 懸 濁 物 負 荷 蝟 集 生 物 の 摂 餌 行 動 自 然 死 亡 高 次 生 物 による 摂 餌 行 動 等 を 考 慮 した 炭 素 窒 素 の 物 質 循 環 構 造 を 解 明 し これらの 知 見 から 今 後 の 貝 殻 礁 の 活 用 方 法 について 提 案 した サンプル 用 貝 殻 礁 L : 0.5m W :0.5m H :0.5m 設 置 位 置 設 置 地 点 江 良 漁 港 全 景 図 -1 実 用 型 貝 殻 礁 L : 3.0m W :2.0m H :0.5m 突 堤 旧 西 防 波 堤 貝 殻 礁 の 設 置 地 点 詳 細 図
2. 実 用 型 ホタテ 貝 殻 礁 の 生 物 蝟 集 状 況 実 用 型 ホタテ 貝 殻 礁 の 生 物 蝟 集 状 況 を 確 認 するため 調 査 地 点 の 中 心 付 近 に 設 置 したサンプル 用 貝 殻 礁 を 回 収 して 蝟 集 状 況 を 調 査 した 貝 殻 礁 の 回 収 日 は 表 -1に 示 したとおりでこれまで5 度 回 収 した 貝 殻 礁 の 回 収 方 法 は 写 真 -1に 示 すように 潜 水 士 が 水 中 でプランクトン ネット(58GG 目 合 い0.3mm)を 貝 殻 礁 にゆっくりかぶ せ 蝟 集 生 物 が 流 失 しないように 慎 重 に 回 収 した 得 ら れた 試 料 は 0.3mm 目 合 いのふるいを 用 いて 選 別 し ふ るい 上 に 残 った 生 物 をホルマリンで 固 定 して 蝟 集 生 物 と 見 なし その 後 実 験 室 で 種 の 同 定 種 別 個 体 数 の 計 数 および 湿 重 量 の 測 定 を 行 った 表 -1 現 地 調 査 日 貝 殻 礁 回 収 日 設 置 期 間 2009 年 8 月 10 日 貝 殻 礁 設 置 2009 年 9 月 30 日 設 置 後 50 日 2009 年 11 月 5 日 設 置 後 85 日 2010 年 7 月 27 日 設 置 後 351 日 2010 年 9 月 9 日 設 置 後 393 日 2010 年 10 月 21 日 設 置 後 435 日 した 個 体 数 については 2009 年 11 月 では8 万 個 体 の 生 物 の 蝟 集 が 確 認 されたが 2010 年 9 月 では2 万 個 体 ま で 減 少 した 特 に 節 足 動 物 と 環 形 動 物 の 個 体 数 はピー ク 値 よりそれぞれ1 割 及 び3 割 に 減 少 し この 原 因 とし ては 海 水 温 の 上 昇 などによる 季 節 的 な 変 動 によるものと 思 われる 湿 重 量 については 個 体 数 の 変 化 に 連 動 し 節 足 動 物 環 形 動 物 の 湿 重 量 もピーク 値 よりそれぞれ6 割 と3 割 に 減 少 した しかし 減 少 幅 は 個 体 数 より 小 さく 1 個 体 当 たりの 蝟 集 生 物 の 湿 重 量 は 重 くなる 傾 向 を 示 す ので 蝟 集 生 物 が 貝 殻 礁 で 摂 餌 行 動 して 成 長 することが 想 定 される また 2010 年 の 調 査 以 降 では その 他 の 生 物 に 分 類 されるホヤが 多 数 蝟 集 しているのを 確 認 された ホヤは 懸 濁 態 有 機 物 を 摂 餌 する 食 性 で 有 機 物 浄 化 に 貢 献 する 生 物 であるので 今 後 の 浄 化 効 果 が 期 待 される 種 類 数 については 約 160 種 類 の 生 物 の 蝟 集 が 確 認 され そ のうち 約 8 割 が 軟 体 動 物 節 足 動 物 環 形 動 物 で 占 めら れていた 種 類 数 及 び 生 物 の 構 成 は 貝 殻 礁 設 置 以 降 も 変 動 が 小 さく 多 種 多 様 の 生 物 が 早 くから 安 定 して 蝟 集 し ていることがいえる 1 貝 殻 礁 の 回 収 状 況 3 貝 殻 礁 に 蝟 集 した 生 物 2 回 収 したサンプル 用 貝 殻 礁 4ホルマリン 処 理 した 貝 殻 ( 個 体 数 ) 写 真 -2 貝 殻 礁 の 蝟 集 生 物 ( 左 側 :ナマコ 右 側 :カジカの 一 種 の 魚 卵 ) 100,000 80,000 60,000 40,000 20,000 その 他 節 足 動 物 環 形 動 物 軟 体 動 物 0 09/8/10 09/9/30 09/11/5 10/7/27 10/9/9 10/10/21 図 -2 蝟 集 生 物 の 個 体 数 変 動 5 生 物 分 類 作 業 6 分 類 したゴカイ 写 真 -1 貝 殻 礁 回 収 から 蝟 集 生 物 の 分 類 までの 作 業 回 収 した 貝 殻 礁 を 目 視 確 認 すると 写 真 -2に 示 すよ うに 水 産 有 用 種 であるナマコが 確 認 され さらに 貝 殻 の 隙 間 にはカジカの1 種 と 思 われる 魚 卵 が 確 認 され 貝 殻 礁 が 新 たな 生 物 の 生 息 場 を 提 供 することに 加 えて 産 卵 場 の 機 能 も 有 することが 確 認 された 貝 殻 礁 の 設 置 から 現 時 点 までの 生 物 蝟 集 状 況 について 図 -2から4に 整 理 ( 湿 重 量 g) 400 300 200 100 その 他 節 足 動 物 環 形 動 物 軟 体 動 物 0 09/8/10 09/9/30 09/11/5 10/7/27 10/9/9 10/10/21 図 -3 各 動 物 の 蝟 集 状 況 ( 湿 重 量 )
( 種 類 数 ) 200 150 100 軟 体 動 物 節 足 動 物 環 形 動 物 その 他 堆 積 物 45%が 貝 殻 礁 周 辺 の 堆 積 物 5%が 植 物 プラン クトンを 摂 餌 すると 算 出 された したがって 魚 類 はヨ コエビ 及 びゴカイを 経 由 して 最 終 的 に 堆 積 物 を 摂 餌 して いることになり 堆 積 物 に 含 まれる 有 機 物 の 浄 化 に 貢 献 していることがいえる 50 0 09/8/10 09/9/30 09/11/5 10/7/27 10/9/9 10/10/21 図 -4 各 動 物 の 蝟 集 状 況 ( 種 類 数 ) 3. 実 用 型 貝 殻 礁 での 食 物 連 鎖 網 について 貝 殻 礁 では 多 種 多 様 の 蝟 集 生 物 が 確 認 され 各 生 物 は 生 態 や 食 性 が 異 なり 複 雑 な 生 息 環 境 を 形 成 している そ こで 貝 殻 礁 の 蝟 集 生 物 について 安 定 同 位 体 比 の 分 析 を 行 い 貝 殻 礁 での 食 物 連 鎖 網 について 検 証 した 食 物 連 鎖 での 食 う- 食 われる の 関 係 は 食 う 側 の 炭 素 (δ 13 C) 及 び 窒 素 (δ 15 N) 安 定 同 位 体 比 はそれぞれ 食 われる 側 の 値 よりも1 及 び3 高 くなる 性 質 が ある 2) この 性 質 を 利 用 して 貝 殻 礁 の 蝟 集 生 物 と 蝟 集 生 物 の 摂 餌 対 象 物 の 安 定 同 位 体 比 を 分 析 し 貝 殻 礁 での 食 物 連 鎖 網 について 検 証 した 分 析 試 料 は 2010 年 7 月 に 回 収 したサンプル 用 貝 殻 礁 から 採 取 し 蝟 集 生 物 はマ ボヤ イチョウガニ テッポウエビ メリタヨコエビ フサゴカイ ムラサキウニ マナマコ ムスジカジ( 魚 類 )とし 蝟 集 生 物 の 摂 餌 対 象 物 は 貝 殻 礁 内 の 堆 積 物 貝 殻 礁 周 辺 の 堆 積 物 植 物 プランクトン 動 物 プランク トン 海 藻 とした 安 定 同 位 体 比 の 分 析 結 果 について 図 -5にδC-Nマップとして 示 した 図 -5から 貝 殻 礁 での 食 物 連 鎖 網 は1ナマコ 2ウニ 3 魚 類 を 頂 点 とす る3つの 系 統 に 概 ね 示 すことができた ナマコは 分 析 結 果 から 貝 殻 礁 周 辺 の 主 に 堆 積 物 を 摂 餌 する 関 係 が 確 認 され 貝 殻 礁 に 蝟 集 したナマコは 摂 餌 行 動 時 に 貝 殻 礁 の 外 側 に 移 動 して 周 辺 の 堆 積 物 を 摂 餌 す ることが 想 定 された ウニは 主 に 海 藻 を 摂 餌 する 関 係 が 確 認 された しかしながら ナマコと 堆 積 物 の 食 う- 食 われる の 関 係 より 明 確 ではなく 海 藻 以 外 にも 植 物 プランクトンを 摂 餌 すると 想 定 された 魚 類 は 分 析 結 果 からゴカイとヨコエビを 摂 餌 する 関 係 が 確 認 された また 摂 餌 対 象 物 であるゴカイとヨコエ ビは 堆 積 物 に 含 まれる 有 機 物 を 摂 餌 することが 室 内 試 験 で 確 認 されている 3) そこで 魚 類 を 頂 点 とした 食 物 連 鎖 網 と 摂 餌 対 象 物 の 比 率 を 図 -6に 示 した 摂 餌 対 象 物 の 比 率 の 算 出 は 櫻 井 らの 文 献 4) で 得 た 関 係 式 を 準 用 した その 結 果 魚 類 は 67%がヨコエビを 33%がゴカイを 摂 餌 すると 算 出 された また 摂 餌 対 象 物 のゴカイは 32%が 貝 殻 礁 内 の 堆 積 物 を 68%が 貝 殻 礁 周 辺 の 堆 積 物 を 摂 餌 すると 算 出 され ヨコエビは 50%が 貝 殻 礁 内 の 図 -5 蝟 集 生 物 と 摂 餌 物 のδC-Nマップ 図 -6 魚 類 を 頂 点 とした 食 物 連 鎖 網 4. 実 用 型 貝 殻 礁 での 物 資 循 環 構 造 (1) 生 態 系 モデルの 概 要 貝 殻 礁 を 設 置 することで 多 種 多 様 の 生 物 が 蝟 集 するこ とが 確 認 され 特 に 優 占 種 であるゴカイ ヨコエビは 摂 餌 行 動 で 有 機 物 を 浄 化 することが 確 認 されている そこ で 貝 殻 礁 での 物 質 循 環 構 造 について 検 証 した 物 質 循 環 の 対 象 物 は 炭 素 窒 素 とし 検 証 には 中 田 による 生 態 系 モデル 5) を 準 用 し 図 -7に 示 すように 通 常 の 低 次 生 態 系 モデルにホタテ 貝 殻 礁 のサブモデルを 追 加 する 構 成 とした 算 出 方 法 の 詳 細 は 過 年 度 の 文 献 6) を 参 照 され
たい サブモデルでは 図 -8に 示 すように 貝 殻 礁 への 負 荷 として 系 外 からの 流 入 沈 降 蝟 集 生 物 の 排 泄 自 然 死 亡 があり 貝 殻 礁 での 消 費 として 蝟 集 生 物 高 次 生 物 の 摂 餌 行 動 がある 消 費 量 と 負 荷 量 の 差 異 が 少 ない 場 合 不 要 な 炭 素 窒 素 の 滞 留 を 抑 えることができ 物 質 循 環 がうまく 機 能 して 炭 素 窒 素 を 効 率 的 に 浄 化 することが できる 一 方 消 費 量 と 負 荷 量 の 差 異 が 大 きい 場 合 物 質 循 環 機 能 が 次 第 に 低 下 し 周 辺 環 境 の 底 質 悪 化 が 懸 念 される 餌 量 と 蝟 集 量 を 乗 した 値 とした 高 次 生 物 の 摂 餌 行 動 は 安 定 同 位 体 比 分 析 で 概 ねゴカイ ヨコエビを 摂 餌 してい る 魚 類 を 対 象 とし 摂 餌 量 は 文 献 2) から 魚 類 の 湿 重 量 の 8.71%/dayとし これにゴカイ ヨコエビの 分 析 値 を 乗 した 値 とした 以 上 から 貝 殻 礁 を 設 置 しない 場 合 図 -9 10に 示 すよ うに 負 荷 量 について 炭 素 は2,241.9mg-C/m 2 /day 窒 素 は 265.4mg-N/m 2 /dayと 算 出 された 一 方 消 費 量 について プランクトンネットや 採 泥 で 確 認 された 動 物 プランクト ン 及 びゴカイの 摂 餌 行 動 で 炭 素 で0.248mg-C/m 2 /day 窒 素 で0.019mg-N/m 2 /dayと 算 出 され 負 荷 された 炭 素 窒 素 がほとんど 消 化 せず 物 質 循 環 が 機 能 していないことが いえる 図 -7 ホタテ 貝 殻 礁 を 取 り 巻 く 生 態 系 モデル 図 -9 貝 殻 礁 を 設 置 しない 場 合 の 炭 素 循 環 図 -8 ホタテ 貝 殻 礁 のサブモデル (2) 実 用 型 貝 殻 礁 での 炭 素 窒 素 循 環 構 造 物 質 循 環 の 算 出 方 法 について 系 外 からの 流 入 は 貝 殻 礁 近 傍 にセジメントトラップを 設 置 し 堆 積 物 の 湿 重 量 と 炭 素 窒 素 の 含 有 量 を 分 析 して 懸 濁 物 の 負 荷 量 を 算 出 した 蝟 集 生 物 の 自 然 死 亡 については 文 献 7) から 蝟 集 生 物 の 優 占 種 のゴカイ ヨコエビの 寿 命 を1 年 とし 斃 死 した 生 物 は 全 て 懸 濁 物 になるとした また ゴカイ ヨ コエビの 分 析 結 果 ゴカイのTOC 値 は384.8mg-C/g(d) T- N 値 は87.8mg-N/g(d) ヨコエビのTOC 値 は303.5mg-C/g(d) T-N 値 は73.3mg-N/g(d)と 測 定 され 死 亡 生 物 の 乾 燥 重 量 と 分 析 値 を 乗 した 値 を 自 然 死 亡 による 負 荷 量 とした 一 方 消 費 要 因 である 蝟 集 生 物 の 摂 餌 行 動 は 貝 殻 礁 の 優 占 種 であるゴカイ ヨコエビの 室 内 試 験 3) で 得 た 摂 図 -10 貝 殻 礁 を 設 置 しない 場 合 の 窒 素 循 環 次 に 貝 殻 礁 を 設 置 した 場 合 図 -11 12に 示 すように 負 荷 量 について 炭 素 は2,273.9mg-C/m 2 /day 窒 素 は273.0mg- N/m 2 /dayと 算 出 され 貝 殻 礁 を 設 置 しない 場 合 と 比 較 し て 微 増 した これは 蝟 集 生 物 の 自 然 死 亡 によるものであ る 一 方 消 費 量 については 蝟 集 生 物 の 摂 餌 行 動 と 魚 類 の 摂 餌 行 動 で 炭 素 は1,179.4mg-C/m 2 /day 窒 素 は 239.5mg-N/m 2 /dayと 算 出 された これは 貝 殻 礁 に 負 荷 される 炭 素 の51.9% 窒 素 の87.7%が 貝 殻 礁 内 で 消 費 さ れることを 示 しており 貝 殻 礁 を 設 置 することで 炭 素 窒 素 の 物 資 循 環 が 機 能 して 効 率 的 に 炭 素 窒 素 が 浄 化 さ れることがいえる
図 -11 貝 殻 礁 を 設 置 した 場 合 の 炭 素 循 環 図 -12 貝 殻 礁 を 設 置 した 場 合 の 窒 素 循 環 貝 殻 礁 の 設 置 範 囲 は 蓄 養 施 設 の 南 側 と 東 側 に 全 長 42.0 m 幅 6.0m 高 さ0.5mで 設 置 するとした 蓄 養 対 象 魚 は 冬 期 に 港 内 で 蓄 養 が 実 施 されているホッケとし 生 け 簀 に 収 容 する 密 度 は 上 ノ 国 町 での 蓄 養 例 から 1m 3 当 たり8 個 体 収 容 するとした 生 け 簀 の 設 置 方 法 は 下 端 部 が 貝 殻 礁 と 接 触 させないために 下 端 部 の 設 置 水 深 は -2.0mとした ホッケ 排 泄 物 量 は 文 献 2) から0.507g(d)/ 個 体 /day 排 泄 物 のTOCは195mg-C/g(d) T-Nは69.1 mg-n/g(d)と し 1 日 当 たりのホッケの 排 糞 による 負 荷 量 は 炭 素 で 98.87mg-C/ 個 体 /day 窒 素 で35.03mg-N/ 個 体 /dayと 算 出 した ホッケを 蓄 養 した 場 合 貝 殻 礁 に 負 荷 される 炭 素 窒 素 量 は 図 -14 15に 示 すように 前 章 で 示 した 負 荷 要 因 に 加 え ホッケの 排 糞 による 負 荷 が 生 じて 炭 素 で 2,871.2mg-C/m 2 /day 窒 素 で484.6mg-N/m 2 /dayであると 算 出 された 一 方 貝 殻 礁 で 消 費 される 炭 素 窒 素 量 は 前 章 で 示 した 消 費 量 と 同 値 であり これは 貝 殻 礁 に 負 荷 され る 炭 素 の41.1% 窒 素 の49.4%に 相 当 し 蓄 養 を 実 施 し ない 場 合 と 比 較 して 炭 素 で10% 窒 素 で40% 減 少 した よって 蓄 養 が 長 期 間 実 施 された 場 合 物 質 循 環 されな い 負 荷 物 が 海 底 に 堆 積 していき 次 第 に 堆 積 物 の 酸 化 反 応 に 必 要 な 溶 存 酸 素 が 不 足 していき 遂 には 貧 酸 素 によ る 蝟 集 生 物 及 び 蓄 養 魚 の 斃 死 につながる 恐 れがある し たがって 負 荷 量 の 減 少 対 策 として 蓄 養 期 間 の 短 縮 など 適 正 な 管 理 手 法 や 物 質 循 環 の 機 能 を 高 めるために 消 費 要 因 を 新 たに 設 ける 必 要 がある 5. 実 用 型 貝 殻 礁 の 活 用 方 法 江 良 漁 港 では 図 -13に 示 すように 蓄 養 施 設 の 計 画 があ り 漁 港 区 域 の 北 側 に-3.5m 岸 壁 を 施 工 し 岸 壁 に4m 四 方 の 生 け 簀 を 南 側 に6 基 東 側 に6 基 を 施 工 する 予 定 である また 岸 壁 前 面 から 内 部 まで 海 水 が 流 入 する 構 造 であり 岸 壁 は 鋼 管 で 支 えられている この 区 間 の 水 深 は-3.0mである 本 検 討 では 実 用 型 貝 殻 礁 の 活 用 例 と して-3.5m 岸 壁 下 に 貝 殻 礁 を 設 置 した 場 合 の 物 質 循 環 に ついて 検 証 した 図 -14 蓄 養 施 設 での 炭 素 循 環 図 -13 蓄 養 施 設 の 平 面 図 断 面 図 図 -15 蓄 養 施 設 での 窒 素 循 環
そこで 蓄 養 施 設 下 の 貝 殻 礁 にナマコを 放 流 した 場 合 について 検 証 した 江 良 漁 港 では 港 内 にナマコの 生 息 が 確 認 されており 貝 殻 礁 にもナマコが 蝟 集 することが 確 認 された ナマコの 放 流 密 度 は72 個 体 /m 2 平 均 湿 重 量 は12.4g/ 個 体 と 文 献 8) から 引 用 した 摂 餌 行 動 による 炭 素 窒 素 の 消 費 量 は 過 年 度 に 浮 泥 を 対 象 とした 摂 餌 試 験 9) で 得 た 値 を 引 用 し 炭 素 で4.56mg/ 個 体 /day 窒 素 で 1.62mg/ 個 体 /dayとした ナマコを 放 流 した 場 合 貝 殻 礁 に 負 荷 される 炭 素 窒 素 量 は 図 -16 17に 示 すように 前 述 のホッケを 蓄 養 した 場 合 と 同 値 を 示 し 一 方 貝 殻 礁 で 消 費 される 炭 素 窒 素 量 では 前 述 に 示 した 消 費 要 因 にナマコの 摂 餌 行 動 によ る 消 費 が 生 じて 炭 素 で1,507.8 mg-c/m 2 /day 窒 素 で356.5 mg-c/m 2 /dayと 算 出 された これは 貝 殻 礁 に 供 給 される 炭 素 の52.5% 窒 素 の73.6%に 相 当 し ナマコを 放 流 す ることで 炭 素 窒 素 の 物 質 循 環 の 機 能 を 引 き 上 げること が 確 認 された の 食 物 連 鎖 網 はナマコ ウニ 魚 類 を 頂 点 とする3つの 系 統 に 概 ね 示 すことができた また 魚 類 はヨコエビ 及 びゴカイを 経 由 して 最 終 的 に 堆 積 物 を 摂 餌 している 構 造 であることが 示 され 堆 積 物 に 含 まれる 有 機 物 の 浄 化 に 貢 献 していることがわかった ⅲ) 貝 殻 礁 を 設 置 した 場 合 蝟 集 生 物 及 び 魚 類 の 摂 餌 行 動 で 貝 殻 礁 に 負 荷 される 炭 素 の51.9% 窒 素 の87.7%が 貝 殻 礁 内 で 消 費 されることが 判 明 し 物 資 循 環 が 機 能 し て 効 率 的 に 炭 素 窒 素 が 浄 化 されていることがわかった しかし 貝 殻 礁 を 蓄 養 施 設 に 設 置 すると 蓄 養 対 象 物 の 排 泄 物 の 増 大 により 浄 化 率 が 低 下 するが ナマコの 放 流 で 貝 殻 礁 に 負 荷 される 炭 素 の53.0% 窒 素 の74.9%まで 浄 化 率 を 引 き 上 げることが 確 認 された しかし ナマコを 放 流 しても 物 質 循 環 が 完 全 とはいえ ず 今 後 の 手 法 としては 貝 殻 礁 の 蝟 集 生 物 を 増 加 させる 工 夫 新 たな 堆 積 物 食 者 の 放 流 負 荷 量 を 減 少 させる 工 夫 等 対 象 水 域 の 物 質 循 環 について 総 合 的 に 考 慮 する 必 要 がある 図 -16 ナマコを 放 流 した 場 合 での 炭 素 循 環 図 -17 ナマコを 放 流 した 場 合 での 窒 素 循 環 参 考 文 献 1) 岡 本 健 太 郎, 福 田 光 男, 山 本 潤 :ホタテ 貝 殻 礁 の 実 用 化 への 取 り 組 み, 寒 地 土 木 研 究 所 月 報 No683,pp.41-45 2) 平 野 敏 行 監 修 : 沿 岸 の 環 境 圏,フジ テクノシステム, pp.301-307,603.1998 3) 岡 本 健 太 郎, 山 本 潤, 三 森 繁 昭 :ホタテ 貝 殻 礁 に 蝟 集 し た 生 物 による 有 機 物 除 去 能 力 の 検 討, 平 成 20 年 度 土 木 学 会 全 国 大 会,2008. 4) 櫻 井 泉, 柳 井 清 治, 伊 藤 絹 子, 金 田 友 紀 : 河 川 域 に 堆 積 する 落 ち 葉 を 起 点 とした 食 物 連 鎖 の 定 量 評 価, 北 海 道 立 水 産 試 験 場 研 究 報 告 第 72 号,pp.37-45,2007. 5) 中 田 喜 三 郎 : 生 態 系 モデル- 定 式 化 と 未 知 のパラメータ 推 定 法 -,J.Adv.Mar.Tech.Conf.Vol.8,pp.99-138,1993 6) 岡 本 健 太 郎, 山 本 潤, 牧 野 昌 史 :ホタテ 貝 殻 礁 に 蝟 集 した 生 物 の 変 遷 と 浄 化 効 果 について, 海 洋 開 発 論 文 集 VOL.25,pp.419-424,2009. 7) 長 沢 和 也 :カイアシ 類 学 入 門 - 水 中 の 小 さな 巨 人 たちの 世 界, 東 海 大 学 出 版 会,pp65-66.2005 8) 岡 本 健 太 郎 山 本 潤 大 水 達 暁 :ホタテ 貝 殻 礁 による 効 果 の 持 続 性 とナマコ 中 間 育 成 場 としての 検 討, 平 成 21 年 度 北 海 道 開 発 局 技 術 研 究 発 表 会 環 -8 2010 9) 岡 本 健 太 郎 山 本 潤 上 平 大 介 : 底 質 が 汚 濁 した 港 内 で のナマコの 摂 餌 行 動 について 平 成 20 年 度 北 海 道 開 発 局 技 術 研 究 発 表 会 環 -32 2009 6. まとめ 本 研 究 で 得 た 知 見 を 要 約 すると 以 下 の 通 りである ⅰ) 実 用 型 貝 殻 礁 には 約 160 種 類 の 生 物 が 持 続 的 に 蝟 集 することが 確 認 され 貝 殻 礁 が 新 たな 生 物 の 生 息 場 して い 機 能 していることがわかった さらに 貝 殻 の 隙 間 に 魚 卵 を 確 認 することができ 産 卵 場 としても 機 能 している といえる ⅱ) 蝟 集 生 物 の 安 定 同 位 体 比 を 分 析 した 結 果 貝 殻 礁 で