No.33 羅城門橋から朱雀門 大極殿への眺望 1 眺望景観の概要 ①眺望景観の構成 類型 Ⅱ 広がり型眺望景観 視点場 主要な視点場 羅城門橋 主 要 な視 点 場 と 一 体 羅城門橋の周辺区域 今後 と な って 価 値 を 形 成 大和郡山市との連携により する区域 設定 視対象 主要な視対象 朱雀門 大極殿 主 要 な視 対 象 と 一 体 平城宮跡および朱雀大路跡 と な って 価 値 を 形 成 史跡指定地 する区域 眺 望 近景域 佐保川 農地 朱雀大路 空 間 中景域 市街地 朱雀大路 遠景域 大極殿 朱雀門 北部山並み 主要な視点場と主要な視対象である朱雀門及び大極 殿を結ぶ直線を中心に左右 30 度 合計 60 度 の区 域であり かつ ならやま大通りまでの区域とする 眺望景観の構成図 244
第 三 部 重 点 眺 望 景 観 の 保 全 活 用 2 奈 良 らしさ ⅰ) 目 に 見 える 景 観 の 特 性 佐 保 川 や 近 景 域 の 農 地 等 の 広 がりの 先 に うっすらと 朱 雀 門 大 極 殿 を 望 むことができる 眺 望 空 間 には 大 規 模 な 建 築 物 等 が 多 くみられ それらに 埋 もれているため よく 探 さなけれ ば 見 つからない ⅱ) 心 で 感 じる 景 観 の 特 性 歴 史 的 背 景 羅 城 門 は 平 城 京 の 中 央 を 南 北 に 通 り 朱 雀 大 路 ( 道 幅 約 75m)の 南 端 にあり 都 の 玄 関 口 となった 京 の 正 門 である 昭 和 44~45 年 (1969~1970)にかけて 発 掘 調 査 が 行 われた ま た 昭 和 47 年 (1972)には 門 の 基 壇 の 西 端 部 が 検 出 され 門 の 本 体 は 佐 保 川 の 西 側 堤 防 の 真 下 に 位 置 することが 判 明 した 門 の 規 模 は 桁 行 5 間 ( 約 25m) 梁 間 2 間 ( 約 10m)で 平 城 宮 の 正 門 である 朱 雀 門 とほぼ 同 じ 重 層 入 母 屋 造 り 瓦 葺 の 建 物 とされてきたが 最 近 では 門 の 正 面 が 7 間 ( 約 35m)の 京 内 最 大 の 門 であったという 説 も 出 されている 平 城 宮 には 12 の 門 が 設 けられており 朱 雀 門 は 最 も 重 要 な 門 であった 朱 雀 門 は 平 成 10 年 (1998)に 復 元 され 大 極 殿 から 眺 めると 朱 雀 門 の 向 こうに 羅 城 門 へと 伸 びた 朱 雀 大 路 を 感 じることができる 天 平 12 年 (740) 恭 仁 京 に 遷 都 し 難 波 京 紫 香 楽 宮 を 経 て 天 平 17 年 (745)に 平 城 京 に 戻 った 際 別 の 場 所 に 第 二 次 大 極 殿 が 建 てられた 現 在 第 一 次 大 極 殿 が 復 元 されている 民 俗 文 化 生 活 文 化 / 文 学 芸 術 作 品 / 説 話 伝 承 羅 城 門 は 続 日 本 紀 によれば 門 では 雨 乞 いが 行 われ また 唐 や 新 羅 の 施 設 を 歓 迎 するなど 宗 教 的 な 場 外 交 儀 礼 の 場 でもあったことがわかる 最 近 の 発 掘 調 査 の 結 果 羅 城 門 は 海 外 からの 使 者 を 迎 える 正 門 であるため 当 時 の 首 都 の 威 厳 を 示 すため 門 の 近 くは 瓦 ぶきの 立 派 な 築 地 塀 にし 離 れた 場 所 は 板 塀 にした 可 能 性 もあるとされている 郡 山 城 天 守 閣 の 石 垣 東 北 隅 には 羅 城 門 礎 石 を 伝 承 する 石 が3 個 ある 羅 城 門 から 朱 雀 門 大 極 殿 への 直 線 から かつての 朱 雀 大 路 を 想 起 できる 万 葉 集 で は 以 下 の 歌 が 歌 われている 都 の 大 路 には 柳 が 街 路 樹 として 植 えられていたことがわかる 春 の 日 に 萌 れる 柳 を 取 り 持 ちて 見 れば 都 の 大 路 し 思 ほゆ ( 万 葉 集 19-4142 大 伴 家 持 ) 平 城 宮 跡 平 城 京 については 万 葉 集 にも 多 く 詠 まれている あをによし 奈 良 の 都 は 咲 く 花 の にほふがごとく 今 盛 りなり ( 万 葉 集 3-328 小 野 老 ) たち 変 り 古 き 都 と なりぬれば 道 の 芝 草 長 く 生 ひにけり ( 万 葉 集 6-1048 田 辺 福 麻 呂 歌 集 ) 眺 望 景 観 の 構 成 要 素 の 関 係 羅 城 門 と 朱 雀 門 大 極 殿 は 平 城 宮 の 南 門 である 朱 雀 門 は 天 子 南 面 す というように 大 極 殿 から 平 城 京 を 睥 睨 (へいげい)する 最 も 重 要 な 門 である 羅 城 門 橋 からは 朱 雀 門 大 極 殿 を 一 直 線 に 眺 めることができ かつての 朱 雀 大 路 を 想 起 できるとともに 平 城 京 の 大 きさを 体 感 できる 朱 雀 門 大 極 殿 と 北 部 丘 陵 の 山 並 みを 一 望 することで 北 側 の 山 並 みに 抱 かれた 地 に 建 設 された 平 城 京 の 構 造 を 思 い 浮 かべることができる 245
2 眺望景観の保全 活用の現状と課題 ①守るための視点 朱雀門及び大極殿の位置する平城宮跡は 史跡として保護されており 視対象については 新たな保全施策は求められない 羅城門橋と朱雀門 大極殿の間に建築物等が建設されると 朱雀門及び大極殿が見えなくな ってしまうおそれがある 土地利用の制限などにより かつての朱雀大路が感じられる空間の 現行法による高さ規制の状況 現行法による高さ規制の状況 断面図 247
第 三 部 重 点 眺 望 景 観 の 保 全 活 用 保 全 が 求 められる 背 景 の 北 部 丘 陵 の 山 並 みと 朱 雀 門 大 極 殿 を 一 体 として 望 むことも 重 要 であり 山 並 みを 阻 害 しない 高 さの 建 築 物 とすることが 求 められる 朱 雀 門 及 び 大 極 殿 は 探 さなければ 分 からない 程 度 であるため 周 囲 の 建 築 物 等 の 色 彩 や 形 態 意 匠 に 配 慮 し 朱 雀 門 及 び 大 極 殿 が 周 囲 の 山 並 み 等 の 自 然 のなかに 浮 き 立 ってみえるよう 誘 導 していくことが 求 められる 2 整 えるための 視 点 周 囲 の 自 然 環 境 と 調 和 しない 規 模 形 態 意 匠 色 彩 の 工 場 や 商 業 施 設 電 柱 電 線 類 等 や 鉄 塔 などが 眺 望 景 観 のなかに 映 りこみ 眺 望 景 観 の 質 を 低 下 させている 可 能 な 限 り 修 景 していく ことが 求 められる 3 活 かすための 視 点 視 点 場 付 近 には 駐 車 スペースや 案 内 板 は 設 置 されているものの 十 分 に 情 報 化 されていな いため アクセスが 困 難 である より 積 極 的 な 情 報 発 信 が 求 められる 奈 良 市 内 の 観 光 資 源 の 集 積 する 区 域 から 離 れており 連 携 が 困 難 である 大 和 郡 山 市 ( 郡 山 城 跡 や 稗 田 環 濠 集 落 など)との 連 携 の 検 討 が 求 められる 248
第 三 部 重 点 眺 望 景 観 の 保 全 活 用 (3) 眺 望 景 観 の 保 全 活 用 の 目 標 と 方 針 1 眺 望 景 観 の 保 全 活 用 の 目 標 前 述 の 奈 良 らしさ の 整 理 より 羅 城 門 橋 から 朱 雀 門 大 極 殿 への 眺 望 の 主 題 (コンセプト) は 羅 城 門 から 朱 雀 門 大 極 殿 へ 続 くかつての 朱 雀 大 路 を 想 起 できる 眺 望 であること といえる そこで 眺 望 景 観 の 保 全 活 用 の 目 標 は 以 下 のとおりとする 眺 望 景 観 の 保 全 活 用 の 目 標 ~ 朱 雀 門 と 羅 城 門 を 結 ぶかつての 朱 雀 大 路 を 感 じられる 眺 望 景 観 づくり ~ 2 眺 望 景 観 の 保 全 活 用 の 方 針 眺 望 景 観 が 抱 える 課 題 を 解 決 していくため 眺 望 景 観 の 保 全 活 用 の 目 標 を 具 体 化 した 眺 望 景 観 の 保 全 活 用 の 方 針 を 以 下 のように 設 定 する 眺 望 景 観 の 保 全 活 用 の 方 針 守 るための 方 針 土 地 利 用 の 誘 導 や 建 築 物 の 形 態 意 匠 の 制 限 等 により 朱 雀 門 大 極 殿 の 前 景 とな るかつての 朱 雀 大 路 を 感 じられる 軸 線 を 保 全 する かつての 朱 雀 大 路 の 周 辺 に 広 がる 農 地 の 保 全 や 建 築 物 の 高 さや 規 模 形 態 意 匠 色 彩 の 誘 導 により 朱 雀 大 路 の 有 する 歴 史 性 に 相 応 しい 眺 めならびに 北 側 の 山 並 みの 稜 線 を 望 める 広 がりのある 眺 めを 保 全 する 朱 雀 門 大 極 殿 の 位 置 する 平 城 宮 跡 の 適 切 な 保 存 を 図 る 整 えるための 方 針 建 築 物 等 の 修 景 や 電 柱 電 線 類 等 の 美 装 化 により 朱 雀 大 路 の 有 する 歴 史 性 に 相 応 しい 眺 めを 形 成 するとともに 北 側 の 山 並 みの 稜 線 を 望 める 広 がりを 感 じられる 眺 めを 形 成 する 活 かすための 方 針 大 和 郡 山 市 との 連 携 により 観 光 資 源 としての 積 極 的 な 活 用 を 推 進 する 羅 城 門 朱 雀 大 路 朱 雀 門 大 極 殿 の 歴 史 や 相 互 の 関 係 などを 通 じてかつての 平 城 京 の 都 市 構 造 を 思 い 浮 かべられるとともに 眺 望 景 観 の 価 値 を 多 くの 人 々が 理 解 し 見 る 人 それぞれの 感 性 により 多 様 な 感 じ 方 ができるような 情 報 発 信 や 空 間 づくりを 推 進 する かつての 羅 城 門 の 位 置 した 場 所 としての 歴 史 性 が 感 じられる 視 点 場 の 整 備 を 推 進 する 平 城 宮 跡 の 史 跡 整 備 による 視 対 象 としての 魅 力 の 向 上 を 図 る 249
4 眺望景観の保全 活用の方策 ①守るための方策 対象区域 1 ①で設定した眺望空間全体を 眺望景観保全区域 とし 守るための方策の対象区域 とする 眺望景観保全区域 施策の方向性 建築行為や開発行為等に対する規制 誘導の手法に基づき 眺望景観保全区域を3つのゾー ンに区分し それぞれの以下の方向性に基づき施策を展開していくこととする ゾーンA 眺望景観の視点からの新たな規制 誘導策を講じる区域 羅城門跡から朱雀門への視線を確保するため かつての朱雀大路にあたる区域に係る建築行 為 開発行為等については 眺望景観の視点からの景観シミュレーションの義務付けを検討し 視線を遮らないよう誘導を図る 将来的には 地域住民との合意形成のもとに 関係部局等との連携を図り 各種法制度に位 置づけられたより厳格な土地利用の規制を検討する 近景域にあたる佐保川については 良好な護岸整備や沿川の景観づくりを進めるため 佐保 川沿川景観形成重点地区の指定の検討を行う ゾーンB 現行の法制度に基づく規制 誘導を基本とし 必要に応じて配慮を求める区域 250
大規模建築物や開発行為など 眺望景観を阻害するおそれのある行為にあたっての景観シミ ュレーションや景観審議会風致デザイン部会委員の意見聴取の義務付けを検討する 農地の市民農園等としての活用など 広がりのある農空間の保全のための方策を検討する ゾーンC 現行の法制度に基づき規制 誘導を図る区域 現行の歴史的風土特別保存地区や風致地区 史跡等の文化財の指定に基づき 歴史的建造物 の保存や建築物等の規模や高さ 形態意匠などの規制 山林等の適切な保存管理等を実施する 守るための施策の方向性に係る区域区分 ②整えるための方策 対象区域 眺望景観保全区域 を対象とする 施策の方向性 景観阻害要素の除去や修景のための助成制度の創設を検討し 所有者等との調整のもとに既 に景観を阻害している要素の修景を進める ③活かすための方策 対象区域 1 ①で設定した 主要な視対象と一体となって価値を形成する区域 を 視対象魅力向 251
上エリア に設定し 活かすための方策の対象区域とする なお 視点場魅力向上エリア については 今後 大和郡山市との連携のもとに 羅城門橋を含む周辺区域を設定していくこ ととする 視点場魅力向上エリア及び視対象魅力向上エリア 施策の方向性 視点場魅力向上エリア 羅城門橋の区域に関する事項 大和郡山市と連携した観光ルートの創設 観光マップの作成を検討する また より多くの 人々が 眺望景観から羅城門 朱雀大路 朱雀門 大極殿の歴史や相互の関係などを感じられ るよう 奈良市ホームページや情報誌等を通じて眺望景観に関する情報を積極的に発信する 視点場となる羅城門橋の魅力を向上するための空間づくりを進める 視対象魅力向上エリア 平城宮跡の魅力の維持 向上のため 史跡平城宮跡 史跡朱雀大路跡等としての適切な保存 管理を実施するとともに 視対象としての見え方に配慮した国営公園としての整備を進める 252