第3章 物 直接の出題可能性は低いが 物権 債権などの基礎となる知識なので しっかりと理解しておくこと 前章までは 権利の主体 人 について解説してきた 本章は 権利の客体の話である 権利の客体は いくつかに分けることができる 物権の客体は 物 である 債権の客体は 債務者の行為 である 本章では 物 について解説する 1 物の意義 定義 第85条 この法律において 物 とは 有体物をいう 有体物とは 固体 液体 気体のような有形的存在を意味する 2 物の分類 物は いくつかの分類をすることができる このうち 不動産と動産 主 物と従物 元物と果実 という分類については 民法で規定されているが その他にも以下のような分類がある ⑴ 可分物と不可分物 可分物 その性質や価値を著しく損なわないで分割できる物 土地 金銭等 不可分物 上記のような分割ができない物 自動車等 57 C M Y K 民法1_057-064.indd p57 修正時間 2014年7月11日 22 00 23
第 3 章 物 ⑵ 特 定 物 と 不 特 定 物 特 定 物 当 事 者 が,その 物 の 個 性 に 着 目 し, 他 の 物 をもって 代 えること ができない 物 これしかない! という 物 中 古 車 野 球 の 選 手 が 第 1 号 ホームランを 打 ったとき のバット 野 球 のバットは 世 の 中 に 何 万 本 もあるが, 選 手 が 第 1 号 ホームランを 打 ったバットは 世 の 中 に1 本 しかない まさに その 物 の 個 性 に 着 目 し, 他 の 物 をもって 代 えることができない 物 といえる 不 特 定 物 同 種 の 他 の 物 をもって 代 えることができる 物 新 車 新 品 の 野 球 のバット 同 じメーカーの 同 じ 型 の 新 品 の 野 球 のバットは, 小 売 店 に 行 けば 何 本 も 置 いてある 買 う 側 にとっては,その 中 のどれか1 本 が 手 に 入 ればよい こ の1 本 しかない! というものではない 3 不 動 産 と 動 産 ( 不 動 産 及 び 動 産 ) 第 86 条 土 地 及 びその 定 着 物 は, 不 動 産 とする 2 不 動 産 以 外 の 物 は,すべて 動 産 とする 3 無 記 名 債 権 は, 動 産 とみなす ⑴ 不 動 産 不 動 産 とは, 土 地 およびその 定 着 物 をいう( 民 86Ⅰ) 1 土 地 土 地 はだだっ 広 いものであり,たとえば 日 本 の 本 州 で1 個 の 土 地 ともい えるが, 人 為 的 に 細 かく 区 分 されている 区 分 された1つの 区 画 を 1 筆 という 1 筆 の 土 地 について1つの 登 記 記 録 が 設 けられる( 不 登 25) 58
1 番 3 2 番 公 道 1 番 4 3 番 1 番 3,1 番 4,2 番,3 番 は,それぞれ1 筆 の 土 地 である 通 常 は,1 筆 単 位 で 土 地 の 売 買 がされるが,1 筆 の 土 地 の 一 部 (1 番 3の 土 地 の 東 側 の 一 部 30m2)を 取 引 の 対 象 とすることもできる 2 土 地 の 定 着 物 土 地 の 定 着 物 とは, 土 地 に 継 続 的 に 付 着 し,かつその 土 地 に 永 続 的 に 付 着 した 状 態 において 使 用 されることがその 物 の 取 引 上 の 性 質 であるものを いう( 最 判 昭 37.3.29) 建 物 や 樹 木 などがこれに 該 当 する 3 定 着 物 の 態 様 土 地 の 定 着 物 も,いくつかに 分 類 することができる 土 地 の 一 部 となり, 独 立 の 不 動 産 とは 認 められないもの 例 石 垣,( 取 外 しの 困 難 な) 庭 石,くつぬぎ 石 土 地 にがっちりと 固 着 された 石 垣 などは, 独 立 の 不 動 産 とはい えず, 土 地 の 一 部 といえる 取 引 上 も, 土 地 が 譲 渡 されたときは 石 垣 等 も 土 地 に 従 って 譲 渡 されたことになる 土 地 とは 独 立 した 不 動 産 といえるもの 例 建 物, 立 木 法 による 登 記 がされた 立 木 建 物 は, 土 地 から 独 立 した 不 動 産 取 引 上 も, 土 地 と 建 物 を 別 々 に 譲 渡 することができる 建 物 とは, 屋 根 および 周 壁 またはこれらに 類 するものを 有 し( 雨 風 がしの げる), 土 地 に 定 着 した 建 造 物 であって,その 目 的 とする 用 途 に 供 し 得 る 状 態 ( 住 もうと 思 ったら 住 める 状 態 )にあるもの( 不 登 規 111) 59
第 3 章 物 ( 立 木 法 の 登 記 をしていない) 樹 木 について 基 本 的 には 土 地 の 構 成 部 分 ( 土 地 の 一 部 )であり, 土 地 の 所 有 権 と 一 体 となるもの 特 別 の 合 意 をしなければ, 土 地 に 抵 当 権 を 設 定 したときは, 立 木 に も 抵 当 権 の 効 力 が 及 ぶ( 民 370) しかし, 土 地 とは 別 個 の 物 として 取 引 をすることもあり,この 場 合 に は 明 認 方 法 をしておけば, 立 木 のみの 処 分 を 第 三 者 に 対 抗 することがで きる( 大 判 大 5.3.11) 用 語 説 明 明 認 方 法 立 木 の 所 有 者 の 氏 名 を 書 いた 標 木 ( 木 で 作 った 立 て 看 板 )を 立 て たり,あるいは 立 木 の 樹 皮 を 削 って 所 有 者 の 氏 名 を 書 いておくこと ⑵ 動 産 不 動 産 以 外 の 物 は,すべて 動 産 である( 民 86Ⅱ) 例 テレビ, 自 動 車, 書 籍 など 自 動 車 も 動 産 であるが, 自 動 車 には 登 録 制 度 があるので, 一 般 の 動 産 とは 少 し 扱 いが 異 なる 場 合 もある 1 無 記 名 債 権 について 商 品 券, 乗 車 券 やコンサートチケットのように, 証 券 に 債 権 者 が 表 示 さ れておらず, 債 権 の 成 立, 存 続, 行 使 がすべて 証 券 によってされるものを 無 記 名 債 権 という 例 コンサートチケットには, 債 権 者 ( 買 った 人 )の 名 前 など 書 かれて おらず,チケットを 入 場 口 で 提 示 して(もぎってもらって),コンサ ートを 観 ることができる このような 無 記 名 債 権 は, 動 産 とみなされる( 民 86Ⅲ) 2 貨 幣 ( 金 銭 )について 貨 幣 は 動 産 の 一 種 ではあるが, 貨 幣 という 物 ( 円 形 の 物 体 や 紙 )に 意 味 60
があるのではなく, 貨 幣 によって 他 の 物 と 交 換 することができる(100 円 を 出 せばガムが 買 える)ということに 意 味 がある 物 ではなく 価 値 に 意 味 がある そのため, 通 常 の 動 産 とは 扱 いが 異 なる 場 面 がある 即 時 取 得 ( 民 192)の 適 用 はない( 最 判 昭 39.1.24) 参 考 不 動 産 と 動 産 の 比 較 不 動 産 動 産 公 示 方 法 登 記 ( 民 177) 引 渡 し( 民 178) 公 信 力 無 主 物 先 占 なし 認 められない( 国 庫 に 帰 属 ; 民 239Ⅱ) あり( 即 時 取 得 ; 民 192) 認 められる( 先 占 者 が 取 得 ; 民 239Ⅰ) 4 主 物 と 従 物 ⑴ 主 物 従 物 の 意 義 ( 主 物 及 び 従 物 ) 第 87 条 物 の 所 有 者 が,その 物 の 常 用 に 供 するため, 自 己 の 所 有 に 属 する 他 の 物 をこれに 附 属 させたときは,その 附 属 させた 物 を 従 物 とする 従 物 とは, 家 屋 と 畳 の 関 係 などのように, 独 立 の 物 でありながら 客 観 的 には 他 の 物 ( 主 物 )に 従 属 してその 効 用 を 高 めるものをいう 上 記 の 例 では, 建 物 が 主 物 で, 畳 が 従 物 他 の 例 母 屋 と 物 置,カバンと 鍵 独 立 した2 個 の 物 の 間 に 社 会 的, 経 済 的 な 主 従 の 関 係 がある 場 合 には,そ の 両 者 について 法 律 的 運 命 も 同 じくする 制 度 61
第 3 章 物 ⑵ 従 物 となるための 要 件 1 主 物 の 常 用 に 供 せられていること 2 特 定 の 主 物 に 付 属 すると 認 められる 程 度 の 場 所 的 関 係 にあること 3 主 物 から 独 立 した 物 であること 4 主 物 と 同 一 の 所 有 者 に 属 すること( 大 判 昭 10.2.20) 1 主 物 の 常 用 に 供 せられていること 主 物 の 経 済 的 な 効 用 を 継 続 的 に 助 けるような 物 2 特 定 の 主 物 に 付 属 すると 認 められる 程 度 の 場 所 的 関 係 にあること 場 所 的 に 主 物 とあまり 離 れていてはいけない 3 主 物 から 独 立 した 物 であること 主 物 の 構 成 部 分 となっているものは 主 物 の 一 部 であって, 従 物 とはな らない 主 物 従 物 とは,2 個 の 独 立 した 物 の 間 に 主 従 の 関 係 がある 場 合 の 制 度 例 土 地 に 置 かれた 石 灯 籠 や( 取 外 しが 容 易 な) 庭 石 は, 独 立 した 物 で あって 土 地 の 従 物 といえる 一 方, 庭 に 敷 かれた 砂 利 などは, 土 地 の 構 成 部 分 ( 土 地 の 一 部 )と なっていると 考 えられ, 従 物 ではない 4 主 物 と 同 一 の 所 有 者 に 属 すること 従 物 は, 主 物 に 従 うものである( 法 律 的 運 命 を 同 じくするものである) そのため, 第 三 者 の 所 有 する 物 を 従 物 として, 主 物 に 従 わせるとすると, 第 三 者 の 権 利 を 不 当 に 害 することになる したがって, 従 物 となるためには, 主 物 と 所 有 者 が 同 一 であることが 要 求 されている ⑶ 効 果 ( 主 物 及 び 従 物 ) 第 87 条 2 従 物 は, 主 物 の 処 分 に 従 う 62
処 分 とは, 広 く 主 物 に 関 する 権 利 義 務 を 変 動 させる 法 律 行 為 を 意 味 する 売 買, 賃 貸 借 などの 債 権 行 為, 所 有 権 の 譲 渡, 地 上 権 の 設 定 などの 物 権 行 為 の 双 方 を 含 む 例 家 屋 の 売 買 契 約 がされたら, 当 然 に 家 屋 内 の 畳 にもその 売 買 の 効 力 が 及 ぶ( 畳 も 買 主 のものとなる) 建 物 の 売 買 契 約 の 他 に, 畳 の 売 買 契 約 をする 必 要 はない 例 ガソリンスタンドの 店 舗 建 物 に 抵 当 権 を 設 定 したら,その 店 舗 の 地 下 タンクにも 抵 当 権 の 効 力 が 及 ぶ( 最 判 平 2.4.19) 地 下 タンクは 店 舗 建 物 の 従 物 といえる 当 事 者 間 で 別 段 の 定 めをすることは 可 能 主 物 と 切 り 離 して, 従 物 だけを 処 分 することも 可 ⑷ 従 たる 権 利 主 物 従 物 の 関 係 は, 物 についてだけでなく, 権 利 についても 生 じ 得 る 例 Aの 所 有 する 土 地 にBが 賃 借 権 ( 借 地 権 )の 設 定 を 受 け,Bが 建 物 を 建 てた そして,Bはこの 建 物 をCに 譲 渡 した 建 物 だけでなく, 借 地 権 もCに 譲 渡 されたことになる( 最 判 昭 47.3.9) この 場 合 の 借 地 権 は, 従 たる 権 利 といえる 例 利 息 付 きの 債 権 が 譲 渡 されたら,その 譲 渡 の 効 力 は 利 息 債 権 について も 及 ぶ( 大 判 大 10.11.15) 5 元 物 と 果 実 ⑴ 果 実 とは 果 実 とは, 物 から 生 じる 経 済 的 な 収 益 をいう 果 実 を 生 み 出 すものを 元 物 という そして, 果 実 には2つの 種 類 がある 63
第 3 章 物 ( 天 然 果 実 及 び 法 定 果 実 ) 第 88 条 物 の 用 法 に 従 い 収 取 する 産 出 物 を 天 然 果 実 とする 2 物 の 使 用 の 対 価 として 受 けるべき 金 銭 その 他 の 物 を 法 定 果 実 とする 1 天 然 果 実 まさに 天 然 の 果 実 果 樹 から 取 れる 果 実 (ミカンなど) 例 牛 の 乳 鉱 山 からとれる 鉱 物 ( 石 炭 など) 2 法 定 果 実 ある 物 を 使 用 させ,その 対 価 として 受 け 取 る 金 銭 等 例 家 屋 の 使 用 の 対 価 である 家 賃 元 本 から 発 生 する 利 息 ⑵ 果 実 の 帰 属 ( 果 実 の 帰 属 ) 第 89 条 天 然 果 実 は,その 元 物 から 分 離 する 時 に,これを 収 取 する 権 利 を 有 す る 者 に 帰 属 する 2 法 定 果 実 は,これを 収 取 する 権 利 の 存 続 期 間 に 応 じて, 日 割 計 算 によりこ れを 取 得 する 1 天 然 果 実 ミカンなどを 収 穫 するときに,これを 収 取 する 権 利 を 有 する 者 に 帰 属 す る 2 法 定 果 実 家 屋 を 賃 貸 している 間 に, 家 屋 の 所 有 者 が 変 わった 場 合 は, 家 賃 は 日 割 り 計 算 をして 前 の 所 有 者 と 後 の 所 有 者 で 分 ける 理 由 ミカンなどの 天 然 果 実 は1 回 収 穫 するだけなので,その 収 穫 の 時 (ミカンを 木 からもぎ 取 った 時, 牛 の 乳 を 搾 った 時 )の 権 利 者 が 取 得 する 一 方, 法 定 果 実 は, 一 定 期 間 の 使 用 の 対 価 という 意 味 がある ので, 家 賃 が 支 払 われる 時 の 所 有 者 にすべて 帰 属 するのではな く, 所 有 している 期 間 に 応 じた 日 割 り 計 算 で 分 配 する 64
第 4 章 法 律 行 為 この 章 は, 初 学 者 の 方 にとっては 少 し 分 かりにくいかもしれない し かし, 契 約 等 の 具 体 的 な 話 を 考 える 上 で 是 非 とも 知 っておかなければ ならない 事 項 なので, 何 とか 頑 張 っていただきたい ケーススタディ AとBは,Aの 所 有 する 自 動 車 をBに100 万 円 で 売 る 契 約 をした この 契 約 によって,どのような 法 律 的 な 効 果 が 生 ずるか A 売 る 買 う B 1 法 律 効 果, 法 律 要 件, 法 律 事 実 売 買 契 約 がされると,その 物 の 所 有 権 は 売 主 から 買 主 に 移 転 する( 買 主 が 所 有 者 となる) また, 買 主 は 売 主 に 対 して 物 を 引 き 渡 してくれ と 請 求 することができ, 反 対 に 売 主 は 買 主 に 対 して 代 金 を 払 ってくれ と 請 求 することができる 少 し 言 いかえると, 売 買 契 約 という 要 件 ( 法 律 要 件 )が 整 えば, 引 渡 しを 請 求 できる 代 金 を 請 求 できるという 効 果 ( 法 律 効 果 )が 発 生 する そして, 売 買 という 法 律 要 件 をもう 少 し 分 解 すると ( 売 買 ) 第 555 条 売 買 は, 当 事 者 の 一 方 がある 財 産 権 を 相 手 方 に 移 転 することを 約 し, 相 手 方 がこれに 対 してその 代 金 を 支 払 うことを 約 することによって,その 効 力 を 生 ずる 65
第 4 章 法 律 行 為 売 主 の 財 産 権 を 相 手 方 に 移 転 することを 約 した という 事 実 ( 法 律 事 実 ) 買 主 の その 代 金 を 支 払 うことを 約 した という 事 実 ( 法 律 事 実 ) この 両 者 の 意 思 表 示 が 合 致 することによって 売 買 の 効 力 が 生 ずる 法 律 効 果 を 発 生 させる 法 律 要 件 は, 売 買 などの 契 約 が 一 般 的 であるが,そ れに 限 られるわけではない 例 人 が 死 亡 したら,その 相 続 人 が 被 相 続 人 の 権 利 義 務 を 承 継 する 人 の 死 亡 という 事 実 によって, 権 利 義 務 の 承 継 という 効 果 が 発 生 する 例 うっかりして 他 人 のパソコンを 壊 してしまったら, 損 害 の 賠 償 をしなけ ればならない 不 注 意 で 壊 した という 事 実 によって, 損 害 賠 償 請 求 権 が 発 生 する 2 法 律 行 為 法 律 行 為 とは, 意 思 表 示 を 要 素 とし, 人 が 一 定 の 法 律 効 果 を 発 生 させようと してなす 行 為 意 思 表 示 という 法 律 事 実 から 構 成 される 法 律 要 件 売 買, 贈 与, 賃 貸 借 などの 契 約 がその 典 型 である 例 売 買 契 約 は, 売 主 の 財 産 権 を 相 手 方 に 移 転 する( 売 る) という 意 思 表 示 と, 買 主 の その 代 金 を 支 払 う( 買 う) という 意 思 表 示 が 要 素 である そして, 売 主 については 代 金 の 支 払 いの 請 求, 買 主 については 物 の 引 渡 しの 請 求 という 法 律 効 果 を 発 生 させるための 行 為 である 重 要 法 律 要 件 には, 相 続 や 不 法 行 為 など, 当 事 者 の 意 思 表 示 を 要 件 としないものも あるが, 契 約 などの 当 事 者 の 意 思 表 示 に 基 づく 法 律 行 為 が 最 も 重 要 3 法 律 行 為 の 分 類 法 律 行 為 は,いくつかの 分 類 をすることができるが,その 中 でも 重 要 なのが, 単 独 行 為, 契 約, 合 同 行 為 の 区 別 である 66
⑴ 単 独 行 為 行 為 者 1 人 の 意 思 表 示 のみで 成 立 する 法 律 行 為 単 独 行 為 はさらに, 相 手 方 のある 単 独 行 為 と, 相 手 方 のない 単 独 行 為 に 分 けることができる 相 手 方 のある 単 独 行 為 債 務 の 免 除, 取 消 しや 解 除 など 相 手 方 のない 単 独 行 為 遺 言 など ⑵ 契 約 2 個 以 上 の 意 思 表 示 の 合 致 によって 成 立 する 法 律 行 為 売 買 や 贈 与 などの 契 約 である 例 売 買 契 約 は, この 自 転 車 を1 万 円 で 売 ります という 意 思 表 示 と, は い 買 います という2つの 意 思 表 示 の 合 致 によって 成 立 する ⑶ 合 同 行 為 同 じ 方 向 を 向 いた2 個 以 上 の 意 思 表 示 が 集 中 することによって 成 立 する 法 律 行 為 例 社 団 法 人 の 設 立 行 為 など 4 法 律 行 為 の 有 効 要 件 ケーススタディ 1 A 子 さんは, 婚 約 関 係 にあるB 男 君 に, 私 たちの 未 来 を 見 たいから,タ イムマシンで30 年 後 に 連 れて 行 って とお 願 いし,B 男 君 は, 分 かった 僕 が 連 れていくよ とこれを 承 諾 した この 契 約 は 有 効 か? ケーススタディ 2 民 法 606 条 1 項 には, 賃 貸 人 は, 賃 貸 物 の 使 用 及 び 収 益 に 必 要 な 修 繕 をす る 義 務 を 負 う と 規 定 されているが, 賃 貸 人 Aと 賃 借 人 Bは, 建 物 の 賃 貸 借 契 約 において 賃 借 人 が 必 要 な 修 繕 をする という 特 約 をした この 特 約 は 有 効 か? 67
第 4 章 法 律 行 為 法 律 行 為 が 完 全 に 有 効 なものとしてその 意 味 を 持 つためには, 一 定 の 要 件 を 満 たしていなければならない これを, 法 律 行 為 の 有 効 要 件 という 法 律 行 為 の 有 効 要 件 は, 以 下 のとおりである 1 当 事 者 が 能 力 を 有 すること 2 内 容 を 確 定 させることができるものであること( 確 定 可 能 性 ) 3 実 現 することが 可 能 であること( 実 現 可 能 性 ) 4 目 的 が 適 法 であること( 適 法 性 ) 5 目 的 が 社 会 的 に 妥 当 であること( 社 会 的 妥 当 性 ) 6 意 思 表 示 につき, 意 思 と 表 示 が 一 致 し, 瑕 疵 がないこと * 1については, 第 2 章 で 解 説 した 6については,この 後 の 第 5 章 で 解 説 する ⑴ 確 定 可 能 性 法 律 行 為 の 内 容 が 不 明 確 であり, 確 定 させることができないものである 場 合 には,いったい 何 を 意 図 しているのか 分 からず,これに 法 的 な 保 護 を 与 え ることはできない つまり, 無 効 である ⑵ 実 現 可 能 性 実 現 する 可 能 性 のないことを 内 容 とする 法 律 行 為 は, 無 効 である 例 タイムマシンで 未 来 に 連 れていくというのはなかなか 夢 のある 話 であ るが, 現 在 の 科 学 技 術 では 到 底 不 可 能 なので,このような 契 約 は 無 効 で ある 婚 約 関 係 にある2 人 にとって, 未 来 は 見 ない 方 がいいかもしれない 例 Aの 所 有 する 建 物 をBに 売 り 渡 す 契 約 をしたが, 実 はこの 建 物 は 契 約 の 数 日 前 に 焼 失 していた この 場 合 は, 契 約 の 内 容 を 実 現 することは 物 理 的 に 不 可 能 なので, 契 約 は 無 効 である ⑶ 適 法 性 強 行 規 定 に 反 する 法 律 行 為 は, 無 効 である 68
強 行 規 定 公 の 秩 序 に 関 する 規 定 のこと( 民 91 参 照 ) 公 の 秩 序 に 反 するような 行 為 は,(ちょっと 大 げさにいえば) 社 会 に 対 する 挑 戦 ともいうべきものであり, 効 力 は 認 められな い 任 意 規 定 公 の 秩 序 に 関 しない 規 定 当 事 者 が, 公 の 秩 序 に 関 しない 規 定 と 異 なる 意 思 を 表 示 した ときは,その 意 思 に 従 う( 民 91) もう 少 し 詳 しく 民 法 をはじめ, 世 の 中 には 数 多 くの 法 律 があり,あらゆることを 規 定 して いる 例 ほんの 一 例 をあげると, 民 法 210 条 1 項 では, 他 の 土 地 に 囲 まれて 公 道 に 通 じない 土 地 の 所 有 者 は, 公 道 に 至 るため,その 土 地 を 囲 んでいる 他 の 土 地 を 通 行 することができる と 規 定 している また, 民 法 614 条 では, 賃 料 は, 動 産, 建 物 及 び 宅 地 については 毎 月 末 に,その 他 の 土 地 については 毎 年 末 に, 支 払 わなければならない と 規 定 している そして,このような 法 の 規 定 のうち, 公 の 秩 序 に 関 するものとして, これと 異 なる 定 めをすることができないものが 強 行 規 定 であり, 公 の 秩 序 に 関 するものではないからこれと 異 なる 定 めをしてもよいとされているものが 任 意 規 定 である 民 法 でいうと, 物 権 編 の 規 定 は, 多 くが 強 行 規 定 である 理 由 物 権 は, 契 約 の 当 事 者 間 だけの 話 ではなく, 世 間 に 対 して 主 張 することができるという 性 質 のものである そのため,あま り 勝 手 なことをされると 社 会 が 混 乱 してしまう だから, 多 くを 強 行 規 定 にしておく 必 要 がある 一 方, 債 権 編 の 規 定 は, 多 くが 任 意 規 定 である 理 由 債 権 は,AとBの 間 の 契 約 関 係 といったように, 限 られた 当 事 者 間 についての 規 定 であるので,ある 程 度 は 当 事 者 の 自 由 が 69
第 4 章 法 律 行 為 認 められるべきである 民 法 で 一 応 規 定 はしておくけれど,これと 異 なる 定 めをして もいいですよ,ということ 例 賃 貸 物 の 修 繕 をすべき 者 を 賃 貸 人 ではなくて 賃 借 人 とする 合 意 は 有 効 例 賃 料 の 支 払 い 時 期 について, 毎 月 末 に 翌 月 分 を 支 払 うという 特 約 も 有 効 任 意 規 定 と 異 なる 慣 習 任 意 規 定 と 異 なる 慣 習 がある 場 合 に, 法 律 行 為 の 当 事 者 がその 慣 習 による 意 思 を 有 していると 認 められるときは,その 慣 習 に 従 う( 民 92) ⑷ 社 会 的 妥 当 性 ( 公 序 良 俗 ) 第 90 条 公 の 秩 序 又 は 善 良 の 風 俗 に 反 する 事 項 を 目 的 とする 法 律 行 為 は, 無 効 とする 1 意 義 法 律 行 為 の 目 的 が 反 社 会 的 といえるものである 場 合 は,その 行 為 は 無 効 となる 重 要 個 人 の 意 思 はなるべく 尊 重 されるべきであるが, 社 会 秩 序 や 一 般 の 道 徳 観 念 に 反 するような 行 為 について 法 律 的 に 認 めるわけにはいかない 用 語 説 明 公 の 秩 序 又 は 善 良 の 風 俗 は, 公 序 良 俗 といわれる 2 公 序 良 俗 違 反 の 具 体 例 不 倫 契 約 などの 人 倫 に 反 する 行 為 親 族 間 の 不 同 居 契 約 などの 家 族 的 な 秩 序 に 反 する 行 為 人 を 殺 すことを 依 頼 する 契 約 のように 刑 法 上 犯 罪 とされる 行 為 賭 博 も 同 様 等 々 70
3 動 機 の 不 法 について 法 律 行 為 自 体 は 特 に 問 題 なさそうに 見 えるが,その 動 機 が 不 法 ( 反 社 会 的 )である 場 合, 法 律 行 為 の 効 果 をどうすべきかが 問 題 となる 不 法 な 動 機 をもって 法 律 行 為 をした 者 を 保 護 する 必 要 はないが, 当 然 に 無 効 としてしまうと,そのような 動 機 を 知 らない 相 手 方 は 不 利 益 を 受 けることになる( 取 引 の 安 全 が 害 される) この 場 合, 相 手 方 が, 不 法 な 動 機 を 知 っていたような 場 合 は, 契 約 は 無 効 となるとされている( 大 判 昭 13.3.30) 例 Aは, 賭 博 場 にするため,Bから 家 屋 を 賃 借 する 契 約 をした この 場 合,Bが,Aの 不 法 な 動 機 ( 賭 博 場 を 開 くため)を 知 っていたら, 家 屋 の 賃 貸 借 契 約 は 無 効 となる 71