船 舶 海 洋 特 集 技 術 論 文 50 客 船 の 安 全 性 に 関 する 最 新 規 則 動 向 と 安 全 設 計 について Latest Rule Trend About the Safety of the Passenger Ship and Safety Design *1 佐 藤 功 *1 小 佐 古 修 士 Isao Sato Osao Kosako 末 永 一 夫 *1 Kazuo Suenaga 1970 年 代 初 頭 に 登 場 したクルーズ 客 船 は,その 後 右 肩 上 がりに 乗 客 を 増 やし, 投 入 される 船 型 の 大 型 化 も 著 しい. 当 社 で 2004 年 に 建 造 されたダイヤモンド プリンセスのシリーズ 船 は 11 万 6 千 総 トンであり, 当 時 は 世 界 最 大 クラスの 客 船 であったが,2009 年 末 には 22 万 総 トン, 乗 客 乗 員 合 わせて8 千 人 以 上 の 搭 載 人 員 を 誇 る 超 大 型 船 も 登 場 している.これほど 多 数 の 乗 船 者 を 守 るた めに 要 求 される 安 全 性 は, 一 般 商 船 とは 別 の 基 準 による 高 度 なものとなっている.ここでは, 大 型 の 外 航 クルーズ 客 船 を 対 象 に,その 安 全 設 計 の 基 本 となる 海 上 人 命 安 全 条 約 (SOLAS 条 約 )に 沿 って, 特 に 設 計 に 大 きな 影 響 を 及 ぼす 区 画 復 原 性, 防 火 脱 出 及 び 救 命 設 備 に 対 する 安 全 基 準 の 概 要 と, 現 在, 国 際 海 事 機 関 (IMO)で 議 論 されている 火 災 事 故 後 の 安 全 確 保 などを 含 む 追 加 規 則 について,その 背 景 や 実 際 の 適 用 例 を 挙 げて 紹 介 する. 1. はじめに 船 舶 の 基 本 的 な 安 全 要 求 を 定 めている SOLAS 条 約 は,1912 年, 北 大 西 洋 のニューファウンド ランド 沖 で 発 生 した 英 国 籍 旅 客 船 タイタニック 号 の 氷 山 との 衝 突 沈 没 事 故 を 契 機 に, 国 際 会 議 が 開 催 されて 採 択 されたことに 始 まる.その 後 1974 年 に 全 面 改 正 がなされた 後 は, 海 難 事 故 への 対 応 に 合 わせた 内 容 の 充 実, 技 術 の 進 歩 による 規 則 の 高 度 化 等 によって 順 次 改 正 がなされてい る. 一 方, 最 近 採 択 された 客 船 特 有 の SOLAS 条 約 改 正 の 中 で 特 記 すべき 事 項 には, 確 率 論 的 な 新 しい 損 傷 時 復 原 性 規 則, 居 室 のバルコニーの 防 火 措 置 の 追 加,Passenger Ship Safety の 考 え 方 (1) に 基 づいた 自 力 航 行 で 帰 港 できるシステム の 追 加 などがあるが, 本 稿 ではこれらの 最 新 情 報 を 含 めながら 各 規 則 の 安 全 基 準 の 概 要 と, 設 計 面 へのインパクトを 紹 介 する. 図 1 ダイヤモンド プリンセスとサファイヤ プリンセス *1 船 舶 海 洋 事 業 本 部 船 舶 海 洋 技 術 部 主 席 技 師
51 2. 区 画 及 び 復 原 性 規 定 2.1 損 傷 時 の 復 原 性 乗 客 乗 員 の 生 命 を 守 るためには, 損 傷 時 の 復 原 性 が 重 要 なことはタイタニック 号 の 例 を 待 たず とも 明 らかである.これまでの 客 船 の 損 傷 時 復 原 性 の 考 え 方 は, 船 の 長 さ 旅 客 定 員 客 船 らしさ を 表 す 数 値 などの 諸 量 から 浸 水 する 区 画 の 数 が 定 められ,これに 耐 えうる 復 原 性 能 を 有 するとい う,いわゆる 決 定 論 的 な 手 法 で 水 密 隔 壁 の 配 置 が 決 められてきた.すなわち, 大 型 の 客 船 では, 通 常,2 区 画 もしくは3 区 画 の 浸 水 に 対 して,その 浸 水 の 中 間 段 階 及 び 浸 水 最 終 平 衡 状 態 で, 規 則 に 規 定 された 十 分 な 残 存 復 原 性 を 有 することが 求 められ,これを 満 足 するように 重 心 位 置 を 確 保 し, 水 密 隔 壁 の 位 置, 隔 壁 甲 板 高 さなどが 決 められる.また, 浸 水 後 の 横 傾 斜 を 防 ぐために, 非 対 称 浸 水 を 極 力 避 けるような 諸 室 配 置 や 横 傾 斜 を 戻 すクロス フラッディング 装 置 などの 設 備, 浸 水 を 拡 大 させないための 通 路 配 置 や 部 分 水 密 隔 壁 戸 の 配 置 など, 海 面 近 くの 水 密 区 画 の 配 置 設 計 については 損 傷 後 の 浸 水 状 況 を 十 分 考 慮 する 必 要 がある. 2009 年 1 月 1 日 より 適 用 されることになった 損 傷 時 復 原 性 規 則 の 全 面 改 正 で, 損 傷 と 残 存 の 確 率 論 的 な 考 え 方 が 客 船 にも 導 入 された.これはそれまでの 決 定 論 的 な 旅 客 船 基 準 と,それと 同 等 とされる 従 来 の 確 率 論 的 な 旅 客 船 用 の 基 準,そして 先 に 改 正 された 乾 貨 物 船 用 の 確 率 論 的 な 基 準 を 調 和 させて 作 られたものである.この 客 船 の 新 基 準 が 要 求 する 本 船 が 満 足 すべき 値 には, 本 船 に 搭 載 される 救 命 艇 の 搭 載 人 員 が 織 り 込 まれており 救 命 艇 の 数 を 増 やせば 要 求 値 が 小 さく なることになっている. 一 方, 確 率 論 的 な 基 準 により, 区 画 配 置 の 自 由 度 が 増 したものの, 浸 水 後 の 生 存 確 率 ( 到 達 区 画 指 数 )を 得 るための 配 置 的 な 制 約 や, 自 力 航 行 で 帰 港 できるシステム へ の 対 応 で, 機 器 室 を 冗 長 性 の 面 から 左 右 舷 に 分 割 することで 生 じる 非 対 称 浸 水 への 対 策 など, 客 船 の 下 層 部 の 配 置 設 計 には,これまで 以 上 に 工 夫 と 改 善 が 必 要 になっている. 2.2 非 損 傷 時 の 復 原 性 非 損 傷 時 復 原 性 については, 上 記 の 損 傷 後 の 復 原 力 を 担 保 するために 十 分 な 初 期 復 原 力 を あらゆる 運 航 状 態 で 有 しておく 必 要 があることに 加 え,IMO では 風 浪 の 影 響 を 考 慮 したいわゆる Weather Criterion の 考 え 方 を 織 り 込 んだ 非 損 傷 時 復 原 性 基 準 (2008 IS Code)が 現 在 も 協 議 され ている.その 一 部 であるPart Aの 強 制 化 は,2008 年 12 月 の IMO で 採 択 され,2010 年 7 月 1 日 以 降 に 建 造 される, 長 さ 24m 以 上 の 旅 客 船 貨 物 船 に 適 用 となる. この 非 損 傷 時 復 原 性 の 基 準 は, 喫 水 線 上 を 含 む 主 船 体 の 形 状 によって 大 方 が 決 定 されてしま う 傾 向 であり, 初 期 設 計 時 の 喫 水 線 上 の 外 観 形 状 にも 十 分 な 配 慮 が 必 要 となる. なお, 風 や 波 による 横 揺 れ 横 傾 斜 を 考 慮 したこの 考 え 方 は,わが 国 の 研 究 成 果 を 基 に 基 準 化 されたものだが, 最 近 のパラメトリック 横 揺 れなどの 復 原 力 変 動 に 関 する 最 新 研 究 成 果 の 基 準 化 に 向 け, 引 き 続 き IMO の 復 原 性 満 載 喫 水 線 漁 船 安 全 小 委 員 会 (SLF)にて 検 討 中 であり,こ の 動 向 にも 注 意 が 必 要 である. 3. 防 火 及 び 脱 出 規 定 並 びに 救 命 設 備 3.1 防 火 要 件 SOLAS 規 定 により 旅 客 数 が 36 人 を 超 える 客 船 は, 船 体 船 楼 甲 板 室 がA-60 級 の 防 火 構 造 により 長 さ 40m 以 内 の 主 垂 直 区 域 に 分 割 されている. 通 路 上 で 防 火 仕 切 となる 箇 所 などには 多 く の 大 型 の 防 火 扉 が 設 置 されており, 火 災 の 際 には 自 動 的 に 閉 鎖 され, 火 災 を1つの 防 火 区 画 内 にとどめ, 人 員 はこの 区 画 から 速 やかに 避 難 するという 思 想 で 規 則 化 されている. また,この 隣 接 区 画 との 境 界 となる 防 火 隔 壁 は, 隔 壁 甲 板 下 の 水 密 隔 壁 と 極 力 同 一 線 上 とする 必 要 がある. 区 画 長 さは,いくつかの 条 件 の 下, 水 密 隔 壁 と 一 致 させるため 48mまで 広 げることが できるが,ひとつの 甲 板 における 主 垂 直 区 画 の 総 面 積 は,1600m 2 以 下 でなければならない.し たがって, 最 大 区 画 長 さは, 船 幅 にも 大 いに 影 響 されることとなり, 船 幅 が 拡 大 すればその 分 許 容 最 大 区 画 長 さは 減 少 する.
52 図 2に 示 すようなショーラウンジやダイニングなどの 大 型 公 室 も 防 火 区 画 をまたがるデザインは 難 しいため,この 制 限 内 で 計 画 しなければならない. 客 船 には 膨 大 な 空 調 用 ダクトが 船 内 に 張 り 巡 らされているが,これらのダクトを 介 して 火 災 が 他 の 防 火 区 画 に 伝 播 しないように, 空 調 システムの 給 排 気 系 は, 各 々の 主 垂 直 区 画 内 でクローズサ イクルを 形 づくるように 計 画 されるのが 一 般 的 である( 図 3). 各 部 屋 に 使 用 される 内 装 材 や 家 具 などにもその 場 所 の 防 火 カテゴリーに 従 い, 不 燃 材 の 要 求, 可 燃 材 の 総 量 規 制 などのきめ 細 かい 規 則 要 求 が 定 められている. 船 内 の 各 所 には 二 重 系 統 の 火 災 探 知 機 を 設 置 し, 異 常 発 生 時 には 乗 組 員 が 常 時 監 視 してい る 集 中 監 視 室 で, 即 座 に 火 災 場 所 を 特 定 できる 仕 組 みになっている. 消 火 装 置 としては, 客 室, 公 室 などには 自 動 スプリンクラーや 射 水 消 火 装 置 を 装 備 し, 火 災 時 に 自 動 的 に 初 期 消 火 ができるようになっている.また,3 層 以 上 の 吹 き 抜 けを 有 するアトリウム ( 図 4)などを 設 ける 場 合 は, 煙 探 知 機 の 装 備 や 排 煙 装 置 などの 防 火 のための 各 種 要 件 が 課 せら れる. 図 2 大 型 公 室 の 例 (ショーラウンジ) 図 4 吹 き 抜 けのアトリウム 図 3 主 垂 直 区 域 と 空 調 機 室 の 配 置 例 近 年 の 規 則 改 正 で 特 記 すべき 事 項 に, 居 室 バルコニーの 防 火 措 置 の 追 加 がある. 居 室 バルコ ニーにおいて, 床 材 等 を 難 燃 材 とし 可 燃 物 の 使 用 を 制 限 するか, 又 は 火 災 探 知 機 及 びスプリンク ラーなどの 消 火 設 備 を 設 置 するように 要 求 している. 3.2 脱 出 規 定 緊 急 時 に 乗 客, 乗 員 が 今 いる 場 所 から 安 全 に 救 命 艇 まで 避 難 できるよう, 脱 出 経 路 にも 客 船 特 有 の 規 定 がある. 各 場 所 から, 避 難 路 として 防 火 壁 で 囲 われた 階 段 室 を, 救 命 艇 に 乗 艇 するた めの 集 合 場 所 まで, 各 水 密 区 画, 防 火 区 画 ごとに 連 続 して 設 置 する 必 要 がある.この 階 段 室 は, タワー 状 の 防 火 トンネルを 形 づくっており, 乗 客 乗 員 が 一 度 階 段 室 に 避 難 すれば 外 に 出 ることな く 火 災 から 守 られて, 安 全 な 場 所 へ 到 達 できるようになっている.また, 当 該 場 所 からは 少 なくとも 二 系 統 の 避 難 経 路 を 設 置 しなければならない.さらに, 行 き 止 まり 通 路 の 設 置 禁 止 や 階 段 室 と 居 室 や 機 器 室 などが 直 接 ドアで 接 してはならないなど, 細 かく 要 件 が 規 定 されている.
53 階 段 室 の 幅 や 広 さについても, 乗 客, 乗 員 ごとの 避 難 人 数 を 基 に 決 定 規 準 が 定 められており, 人 が 昼 間 あるいは 夜 間 にどこに 何 人 いるのかを 想 定 して, 階 段 室 サイズが 決 められるので, 初 期 配 置 計 画 時 から 階 段 室 については 十 分 検 討 しておかなければならない. フェリーのようなRORO 旅 客 船 では 設 計 の 初 期 段 階 で 避 難 解 析 を 実 施 し, 実 行 可 能 な 限 り 混 雑 が 排 除 され, 避 難 経 路 配 置 が 柔 軟 性 を 有 していることを 示 すことが 求 められている. 一 般 の 客 船 においても, 設 計 の 段 階 で 時 間 領 域 数 値 シミュレーションによる 避 難 解 析 を 実 施 することが 安 全 性 の 検 証 の 高 度 化 として 望 まれる.IMO から 暫 定 避 難 解 析 指 針 が 出 されており,この 避 難 解 析 に 対 応 するいくつかのシミュレーションプログラムも 開 発 されている. 我 が 国 では( 独 ) 海 上 技 術 安 全 研 究 所 により 避 難 解 析 プログラムが 開 発 されているが,これを 用 いて 4000 人 以 上 の 乗 船 者 を 有 する 大 型 クルーズ 客 船 での 試 算 が 実 施 された.このシミュレーション 結 果 では, 対 象 船 は 避 難 解 析 指 針 に 示 される 総 避 難 時 間 の 規 定 を 十 分 満 足 することが 示 されている (2). 3.3 救 命 設 備 基 本 的 には 復 原 性 防 火 規 則 を 十 分 に 満 足 させた 大 型 客 船 は, 船 自 体 の 安 全 性 が 確 保 され ていることになるが, 万 一, 退 船 を 余 儀 なくされた 場 合 に 備 え, 乗 客 乗 員 を 合 わせた 総 乗 船 人 員 に 応 じた 救 命 艇 あるいは 救 命 いかだが 両 舷 に 搭 載 されている.SOLAS 規 定 では, 救 命 艇 で 人 員 の 75% 以 上, 救 命 いかだで 50% 以 上, 両 方 を 足 すと 総 乗 船 人 員 の 125% 分 以 上 の 人 員 搭 載 能 力 を 要 求 している. 現 行 規 則 では 後 で 述 べる 代 替 設 計 の 場 合 を 除 き, 救 命 艇 の1 隻 当 たりの 最 大 搭 載 人 員 は 150 人 と 定 めており, 例 えば, 総 乗 船 人 員 4000 人 の 大 型 クルーズ 客 船 の 場 合, 少 なくとも 片 舷 に 10 隻 もの 救 命 艇 を 搭 載 することになる.それに 加 えて 救 助 艇 や 救 命 いかだ, 海 上 脱 出 装 置 などを 各 舷 に 装 備 することになるので, 舷 側 の 装 置 配 置 や 外 観 にも 大 きな 影 響 を 及 ぼすことになる. 図 5に 救 命 艇 の 配 置 の 例 を 示 す. 図 5 大 型 客 船 の 外 観 と 救 命 艇 の 配 置 救 命 艇 の 積 付 け 高 さについても 規 定 にあり, 最 小 航 海 喫 水 にて 海 面 から 救 命 艇 の 進 水 装 置 の 上 端 までの 距 離 は, 実 行 可 能 な 限 り 15m 以 下 とすることになっている.ただし,この 規 定 は, 船 の 大 型 化 や 救 命 艇 の 波 浪 影 響 などを 考 えると 必 ずしも 合 理 的 な 数 値 とは 言 えず, 実 際 の 設 計 では 個 船 ごとに 承 認 機 関 との 協 議 となる 場 合 が 多 い. 一 方, 救 命 設 備 に 関 しては, 最 近 の 規 則 改 正 により, 安 全 性 を 確 保 した 上 での 代 替 設 計 要 件 が 追 加 された. 代 替 設 計 の 評 価 方 法 は 未 だ 確 立 されていないが, 前 述 の 救 命 艇 の 最 大 搭 載 人 員 の 増 加 なども 認 められる 方 向 であり, 今 後 の 客 船 設 計 に 大 きな 影 響 を 与 える 可 能 性 がある.
54 4. 客 船 規 則 の 最 近 の 動 き 防 火 関 係 規 則 の SOLAS 第 II-2 章 に 客 船 に 関 する 新 しい 要 件 として 第 21~23 規 則 が 追 加 さ れ,2010 年 7 月 1 日 以 降 に 建 造 される 全 ての 客 船 に 適 用 されることとなった.その 中 でも 以 下 に 示 す 第 21~22 規 則 については 船 長 120m 以 上, 又 は3 以 上 の 主 垂 直 区 域 を 有 する 客 船 への 適 用 が 義 務 付 けられ, 設 計 面 での 影 響 が 大 きいが,その 要 件 は 次 のとおりである. 第 21 規 則 : 所 定 の 被 害 範 囲 (Casualty Threshold)までの 火 災 事 故 であれば, 船 舶 は 自 力 で 最 寄 りの 港 まで 帰 航 できる 各 種 機 能 の 冗 長 性 を 備 えること 及 び 乗 客 の 安 全 場 所 (Safe Area)を 確 保 すること 第 22 規 則 : 所 定 の 被 害 範 囲 を 超 える 火 災 事 故 が 発 生 した 場 合 も 避 難 及 び 退 船 に 必 要 な 装 置 は 機 能 すること 同 時 に 第 II-1 章 8.3 で 規 定 される 一 つの 水 密 区 画 の 浸 水 被 害 においても 冗 長 性 を 備 えること を 考 慮 しておく 必 要 がある. 当 社 が 建 造 したダイヤモンド プリンセスも 含 め, 昨 今 建 造 された 大 型 客 船 の 設 計 思 想 は 被 災 時 に 想 定 される 甚 大 な 被 害 への 対 策 として,ルール 要 件 以 上 の 安 全 設 備 の 装 備 や 機 能 の 冗 長 性 を 担 保 しているのが 現 状 である.しかしながら, 新 規 則 の 出 現 によりこれまでは 自 主 的 に 運 用 さ れてきた 安 全 強 化 策 は 配 置 設 計 と 機 能 設 計 の 両 面 で 抜 本 的 に 見 直 すことになり,ルールの 解 釈 次 第 では 船 主 や 造 船 所 の 双 方 にとって 新 造 船 建 造 への 経 済 的 な 負 担 が 増 大 する.IMO 防 火 委 員 会 の 場 でクルーズ 業 界 団 体 と 各 国 代 表 の 間 で 議 論 が 交 わされた 結 果, 最 終 解 釈 は 大 手 船 社 の 最 新 鋭 客 船 の 安 全 強 化 思 想 をベースとし, 配 置 設 計 の 面 では 機 器 の 配 置 等 への 工 夫 が 必 要 となるが, 冗 長 性 のための 予 備 機 器 の 装 備 については, 現 状 の 設 計 思 想 から 大 きく 逸 脱 するとい う 心 配 は 避 けられた. 以 下, 特 に 適 用 に 際 し 複 雑 といわれている 第 21 規 則 について, 設 計 上 の 評 価 ポイントのいくつかを 述 べる. (1) Casualty Threshold について 火 災 被 害 については 固 定 消 火 設 備 ( 自 動 スプリンクラー 消 火 装 置, 又 はガス 消 火 装 置 )を 装 備 する 大 半 の 区 画 において 発 生 する 火 災 は, 発 生 区 画 を 囲 うA 級 鋼 壁 内 に 限 定 されることとし て 扱 うために 被 災 範 囲 が 小 規 模 に 限 定 される.しかし, 固 定 消 火 装 置 の 設 置 が 義 務 化 されて いない 防 火 カテゴリー10 で 定 義 される 空 調 機 室 等 の 火 災 発 生 を 想 定 する 場 合 には,その 区 画 を 囲 う 最 も 近 くのA 級 隔 壁 までを 損 傷 範 囲 として 想 定 することになり, 具 体 的 には 火 災 発 生 区 画 の 前 後 左 右 上 方 向 に 配 置 される 区 画 までもが 被 災 区 画 として 各 装 置 ( 含 む 配 線 類 )が 損 傷 するものとして 扱 う. 空 調 機 器 室 は 背 高 機 器 を 配 置 する 都 合 上, 複 数 デッキを 貫 いて 区 画 が 形 成 され, 更 に 通 風 ダクトを 介 して 上 下 の 複 数 デッキと 連 結 している.すなわち, 固 定 消 火 設 備 が ないという 条 件 での 被 害 想 定 は, 当 該 区 画 を 大 きく 超 えて 隣 接 する 広 大 な 被 災 範 囲 を 想 定 す る 必 要 があり, 防 災 設 備 の 機 能 を 保 持 するためには 配 管 配 線 設 計 に 特 別 な 注 意 を 要 する. (2) 推 進 装 置 の 二 重 化 について 一 般 に 客 船 の 推 進 装 置 は 二 軸 以 上 の 仕 様 としており, 浸 水 火 災 損 傷 時 の 冗 長 性 を 満 足 さ せるためには 主 機 を 含 む 軸 系 及 び 燃 料 系 補 機 を 水 密 兼 耐 火 壁 で2の 区 画 に 仕 切 ることにな る. 電 気 推 進 装 置 やポッド 推 進 装 置 が 採 用 される 場 合 では, 機 器 ごとに 小 区 画 に 分 散 配 置 さ れているので, 各 区 画 を2 分 割 しても 損 傷 時 の 非 対 称 浸 水 による 復 原 性 能 への 影 響 は 比 較 的 に 軽 微 だが, 主 機 直 結 の 軸 推 進 システムを 採 用 する 配 置 では, 主 機 を 含 む 大 きな 区 画 を 分 割 することから 損 傷 時 の 復 原 性 能 確 保 の 対 策 が 重 要 となる.また, 推 進 機 器 仕 様 や 燃 料 タンク 容 量 は, 本 船 が 片 肺 で 最 寄 りの 港 へ Beaufort 8の 海 象 で 船 速 6kt 以 上 で 帰 港 できることが 条 件 となっており, 航 続 距 離 は 本 船 のサービス 海 域 から 判 断 し 船 主 と 契 約 条 件 の 一 部 として 合 意 し ておく 必 要 がある.
(3) Safe Area の 機 能 について 被 災 により 本 船 上 での 生 活 場 所 を 失 った 乗 客 に 対 して, 帰 港 するまでの 一 時 待 避 場 所 とし て Safe Area を 提 供 する 必 要 がある. 客 室 が 使 用 ができなくなった 乗 客 に 対 し, 公 室 を Safe Area として 開 放 することになるが,Safe Area の 床 面 積 の 基 準 は 最 低 でも1m2/ 人, 帰 港 までの 時 間 が 12 時 間 以 上 の 場 合 は2m2/ 人 が 必 要 となる.(1) 項 で 述 べた 広 大 な 被 災 範 囲 を 含 め 全 ての 被 災 ケースを 分 析 し 十 分 な 広 さ,もしくは 数 の 公 室 を 準 備 できることを 配 置 上 で 確 認 する 必 要 がある.Safe Area の 生 活 環 境 として, 最 低 限 の 照 明 通 風 の 機 能 はもとより, 医 療 設 備, 衛 生 設 備 (トイレは 50 人 / 個 ), 飲 料 水 (3 L/ 人 / 日 ), 食 糧 ( 非 常 食 も 可 )なども 提 供 できることが 具 体 的 な 要 件 である. 55 5. まとめ 客 船 の 安 全 に 関 する SOLAS 規 定 は, 近 年 大 きく 変 わってきており, 将 来 的 にも 更 に 強 化 されよ うとしている. 今 回 述 べたように, 客 船 の 安 全 に 関 する 規 則 や 設 備 要 件 は 多 岐 にわたっており 細 心 の 注 意 が 必 要 である. 特 に 大 型 クルーズ 客 船 の 設 計 への 影 響 は 大 きく, 今 後 とも 規 則 動 向 もふ まえ, 顧 客 のニーズと 調 和 させながら,より 安 全 で 魅 力 あるクルーズ 客 船 を 提 案 していきたいと 考 えている. 参 考 文 献 (1) 太 田 進 ほか, クルーズ 時 代 に 対 応 する 新 しい 客 船 安 全 基 準,KANRIN( 咸 臨 ) 17 号 (2008) p.7 ~12 (2) 宮 崎 恵 子 ほか,Application of and Consideration to the IMO guidelines for Evacuation Analysis for Passenger Ships,2nd International Maritime Conference on Design for Safety,2004 年 10 月