2007年4月10日



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関 西 大 学 法 科 大 学 院 法 と 社 会 2 法 とメディア 第 2 回 2009 年 10 月 1 日 メディアと 名 誉 プライバシー(その1) 弁 護 士 弁 理 士 近 藤 剛 史 tsuyoshi@kondolaw.jp Ⅰ. 名 誉 に 関 する 法 的 保 護 1 社 会 的 名 誉 民 法 703 条 にいう 名 誉 とは 人 がその 品 性 徳 行 名 声 信 用 等 の 人 格 的 価 値 につ いて 社 会 から 受 ける 客 観 的 な 評 価 すなわち 社 会 的 名 誉 を 指 すものであって 人 が 自 己 自 身 の 人 格 的 価 値 について 有 する 主 観 的 な 評 価 すなわち 名 誉 感 情 は 含 まれないも のと 解 すべきである ( 最 判 昭 和 45 年 12 月 18 日 民 集 24 巻 13 号 215 頁 ) 2 虚 名 の 保 護 社 会 が 人 に 与 える 評 価 は 人 が 客 観 的 に 有 する 真 実 の 価 値 いわゆる 内 部 的 名 誉 と 一 致 するとは 限 らないが 法 は 実 のそわない 名 聞 という 虚 名 をも 保 護 している な ぜなら 虚 名 であるとして 名 誉 が 否 定 されるならば 覆 される 当 人 の 生 活 に 大 きな 影 響 を 与 えるだけでなく 社 会 的 安 定 を 害 する 危 険 性 があるから 犯 罪 者 であっても その 者 が 犯 した 罪 と 直 接 関 係 のない 人 格 の 評 価 に 関 しては 名 誉 が 認 められる 3 判 例 理 論 最 判 昭 和 41 年 6 月 23 日 ( 民 集 20 巻 5 号 1118 頁 ) 名 誉 毀 損 については 当 該 行 為 が 公 共 の 利 害 に 関 することにかかり もっぱら 公 益 を 図 る 目 的 に 出 た 場 合 においては 摘 示 された 事 実 が 真 実 であることが 証 明 され たときは その 行 為 は 違 法 性 を 欠 いて 不 法 行 為 にはならないものと 解 すべきであ る 最 判 昭 和 44 年 6 月 25 日 ( 刑 集 23 巻 7 号 975 頁 ) 夕 刊 和 歌 山 時 事 による 名 誉 毀 損 罪 の 成 立 が 争 われた 事 件 につき 最 高 裁 は 刑 法 230 条 の 2 の 規 定 は 人 格 権 としての 個 人 の 名 誉 の 保 護 と 憲 法 21 条 によ る 正 当 な 言 論 の 保 障 との 調 和 を 図 ったものというべきであり これら 両 者 間 の 調 和 と 均 衡 を 考 慮 するならば たとえ 刑 法 230 条 の 2 第 1 項 にいう 事 実 が 真 実 である との 証 明 がない 場 合 でも 行 為 者 がその 事 実 を 真 実 であると 誤 信 し その 誤 信 した ことについて 確 実 な 資 料 証 拠 に 照 らし 相 当 の 理 由 があるときは 犯 罪 の 故 意 が なく 名 誉 毀 損 の 罪 は 成 立 しないものと 解 するものが 相 当 である とした 1

Ⅱ.プライバシーに 関 する 法 的 保 護 1 米 国 ひとりでほっておいてもらう 権 利 (Right to be let alone)(1890 年 ウォーレン ブ ランダイズ 著 プライバシーの 権 利 ) 2 日 本 小 説 宴 のあと 事 件 ( 東 京 地 裁 昭 和 39 年 9 月 28 日 判 時 385 号 12 頁 ) 元 外 務 大 臣 がプライバシー 侵 害 を 理 由 に 謝 罪 広 告 および 損 害 賠 償 を 請 求 する 訴 訟 を 提 起 した 事 件 (80 万 円 の 損 害 賠 償 を 認 容 ) 私 生 活 をみだりに 公 開 されないという 法 的 保 障 ないし 権 利 と 定 義 し 法 的 救 済 を 与 えるための 要 件 を 次 の3つであるとした 1 私 生 活 上 の 事 実 または 私 生 活 上 の 事 実 らしく 受 け 取 られるおそれのあることが ら 2 一 般 人 の 感 受 性 を 基 準 にして 当 該 私 人 の 立 場 に 立 った 場 合 公 開 を 欲 しないで あると 認 められることがら 3 一 般 の 人 々に まだ 知 られていないことがら プライバシーという 表 現 は 用 いていないが 前 科 及 び 犯 罪 経 歴 は 人 の 名 誉 信 用 に 直 接 かかわる 事 項 であり 前 科 等 のある 者 もこれをみだりに 公 開 されないと いう 法 律 上 の 保 護 に 値 する 利 益 を 有 する と 判 示 しており ここにいうみだりに 公 開 されない 法 律 上 の 利 益 は 従 来 の 名 誉 信 用 の 法 概 念 とは 別 個 の 法 律 上 の 利 益 であり 少 なくともプライバシーの 一 部 を 不 法 行 為 法 の 保 護 法 益 として 容 認 し たものと 言 える 3 現 代 のプライバシー 概 念 ことに 社 会 がコンピュータ 時 代 に 入 り そこに 収 集 される 自 己 に 関 する 情 報 につ いて 個 人 がどのような 権 利 をもち 得 るかがプライバシー 保 護 の 主 要 な 関 心 事 とな り アメリカをはじめとする 諸 外 国 でプライバシー 保 護 立 法 が 制 定 されつつある 現 在 であれは プライバシーの 権 利 は ひとりにしておいてもらう 権 利 という 消 極 的 定 義 にとどまらず 同 時 に 自 己 に 関 する 情 報 の 流 れをコントロールする 権 利 という 積 極 的 な 定 義 を 必 要 とすると 解 されている ( 竹 田 稔 名 誉 プライバシー 侵 害 に 関 する 民 事 責 任 の 研 究 5 頁 ) 4 社 会 的 評 価 との 関 係 私 生 活 などをみだりに 公 開 されないという 点 に 重 点 を 置 き 社 会 的 評 価 の 低 下 があ ったか 否 かは 問 われない 5 各 法 令 におけるプライバシー 保 護 信 書 開 披 罪 秘 密 漏 泄 罪 住 居 侵 入 罪 軽 犯 罪 法 違 反 郵 便 法 電 気 通 信 事 業 法 ストーカー 行 為 規 制 法 個 人 情 報 保 護 法 etc. 2

Ⅲ. 犯 罪 報 道 と 名 誉 毀 損 名 誉 の 保 護 不 法 行 為 に 基 づく 差 止 め 損 害 賠 償 請 求 名 誉 回 復 処 分 表 現 の 自 由 報 道 の 自 由 真 実 性 の 抗 弁 ( 真 実 性 の 証 明 ) 相 当 性 の 抗 弁 ( 判 例 理 論 ) 1 犯 罪 報 道 報 道 機 関 が 読 者 に 情 報 を 提 供 する 目 的 で 行 う 報 道 は 通 常 公 共 の 利 益 をかかるため と 認 められ 犯 罪 に 関 する 報 道 は 社 会 一 般 の 多 数 人 の 利 害 に 関 する 事 実 すなわち 公 共 の 利 害 に 関 する 事 実 の 報 道 であるから 真 実 証 明 の 理 論 又 は 相 当 性 の 理 論 によって 報 道 した 事 実 が 真 実 と 証 明 されるか 証 明 されなくとも 報 道 機 関 において 真 実 と 信 ず るにつき 相 当 の 理 由 があれば 名 誉 毀 損 の 違 法 性 が 阻 却 される 2 報 道 の 取 材 源 による 分 類 1) 捜 査 当 局 の 公 表 に 基 づく 報 道 職 務 上 捜 査 に 関 係 のある 者 は 被 疑 者 その 他 の 者 の 名 誉 を 害 しないよう 注 意 すべき 義 務 があり( 刑 訴 法 196 条 ) 真 犯 人 であることを 裏 付 ける 特 段 の 証 拠 もないのに 真 犯 人 と 速 断 して 断 定 的 な 公 表 をした 場 合 には 捜 査 当 局 は 名 誉 毀 損 による 不 法 行 為 責 任 を 負 うが 報 道 機 関 は 捜 査 当 局 の 公 表 という 理 由 だけで 当 然 に 免 責 されるのか ( 責 任 否 定 ) 大 阪 地 判 昭 和 55 年 7 月 18 日 ( 判 時 987 号 84 頁 ) 捜 査 担 当 の 刑 事 課 長 という 信 頼 すべき 責 任 者 からの 公 式 発 表 とメモという 確 実 な 資 料 に 基 づき その 発 表 のまま 報 道 したものであるから 本 件 各 報 道 をするについて 真 実 と 信 ずるにつき 相 当 の 理 由 がある 神 戸 地 判 昭 和 55 年 9 月 16 日 ( 判 時 1008 号 176 頁 ) 本 件 記 事 は 捜 査 担 当 の 巡 査 が 上 司 の 指 示 に 基 づいて 発 表 した 信 頼 度 の 高 い 情 報 に 基 づくものであり 新 聞 報 道 の 迅 速 性 事 実 探 知 能 力 の 限 界 被 疑 者 が 逮 捕 され 直 接 取 材 不 能 等 の 事 情 を 考 慮 すると 取 材 記 者 が 真 実 と 誤 信 したにつき 相 当 の 理 由 がある 新 潟 地 裁 高 田 支 部 昭 和 56 年 4 月 23 日 ( 判 時 1020 号 111 頁 ) 本 件 各 記 事 は 県 警 本 部 長 の 公 式 発 表 に 基 づき 各 社 が 捜 査 担 当 者 および 右 発 表 によ り 被 害 者 とされた 者 に 対 する 裏 付 取 材 をしたうえで 掲 載 されたものであり 大 筋 にお いて 真 実 と 合 致 し その 余 の 部 分 については 真 実 と 信 ずるにつき 相 当 の 理 由 がある ( 責 任 肯 定 ) 3

東 京 地 判 昭 和 48 年 9 月 12 日 ( 判 時 742 号 80 頁 ) 取 材 記 者 は 警 察 署 から 余 罪 取 調 中 であるが 一 部 の 点 については 公 表 できないと いわれ 被 害 者 の 所 属 プロダクションも 被 害 事 実 を 否 定 しているのに 本 件 記 事 を 作 成 したものであって 他 の 新 聞 記 事 に 同 種 の 記 事 が 見 受 けられたとしても 相 当 事 由 があ るとはいえない 最 高 裁 昭 和 49 年 3 月 29 日 捜 査 機 関 の 広 報 担 当 者 が 発 表 した 被 疑 事 件 の 事 実 について 取 材 記 者 および 編 集 者 がこれを 被 疑 事 実 としてではなく 客 観 的 真 実 であるかのように 報 道 したことにより 他 人 の 名 誉 を 毀 損 したときは 相 当 事 由 ありと 言 えない 大 阪 地 判 昭 和 50 年 9 月 19 日 客 観 的 に 判 明 していた 事 実 を 超 えて 確 たる 根 拠 もなしに 貴 社 ないしはデスクの 憶 測 を 大 胆 にあらわにしたもので これにより 読 者 は 原 告 がゲリラの 背 後 にあって 事 件 を 画 策 し 指 示 した 者 と 理 解 することになり 原 告 の 名 誉 を 毀 損 する 違 法 な 行 為 である 2) 捜 査 当 局 からの 非 公 式 な 取 材 に 基 づく 報 道 最 高 裁 昭 和 47 年 11 月 16 日 ( 民 集 26 巻 9 号 1633 号 ) 捜 査 当 局 において 未 だ 家 族 の 事 情 聴 取 もすんでおらず 事 故 死 の 可 能 性 もあり 未 だ 公 の 発 表 をしていない 段 階 において 家 族 が 殺 害 したような 印 象 を 読 者 に 与 える 記 事 を 掲 載 する 以 上 家 族 を 再 度 たずねて 取 材 するなどさらに 慎 重 に 裏 付 け 取 材 すべき であった 長 崎 地 判 昭 和 52 年 3 月 18 日 新 聞 社 は 取 材 記 者 が 刑 事 課 長 から 事 件 送 致 を 確 認 し 送 致 事 件 の 大 半 が 通 常 犯 罪 を 肯 定 されていることから 犯 罪 として 報 道 した 旨 主 張 するが 送 致 されたことが 当 該 捜 査 事 件 を 肯 定 する 裏 付 けとなるものでなく 送 致 された 被 疑 事 実 が 真 実 であることと の 因 果 関 係 もない 送 致 という 事 実 だけで 被 疑 事 実 を 真 実 と 判 断 し 犯 罪 の 成 立 を 肯 定 するのは 大 衆 に 真 実 を 報 道 する 担 い 手 としては 余 りに 軽 率 な 態 度 といわざるを 得 な い 大 阪 地 判 昭 和 54 年 9 月 29 日 ( 判 時 956 号 86 号 ) 本 件 各 見 出 し 記 事 内 容 は 独 立 して 個 々 的 に 観 察 する 限 り 真 実 に 反 する 報 道 ではな いが 総 合 的 にみるとX 自 身 が 赤 軍 組 織 の 背 後 にあって 自 己 の 公 文 書 偽 造 容 疑 で 捜 索 を 受 けた 印 象 を 与 えるもので 赤 軍 コマンド 国 外 送 り 出 し 組 織 とXとのかかわりについ て 立 証 がない 以 上 真 実 と 信 ずるについて 相 当 の 理 由 があったものということはできな い 3) 報 道 機 関 の 独 自 取 材 に 基 づく 報 道 大 阪 地 判 昭 和 47 年 2 月 10 日 ( 判 時 679 号 47 頁 ) 本 件 記 事 は X1 会 社 と 利 害 の 対 立 する 情 報 提 供 者 からの 不 確 実 な 情 報 からの 憶 測 に より X1 X2 社 長 らに 対 する 裏 付 け 取 材 も 行 わないまま 記 事 内 容 を 誇 張 し 興 味 本 位 に 4

見 出 しをつけて 作 成 されたものであり 取 材 記 者 整 理 部 担 当 者 が 真 実 と 信 じていた としても これを 相 当 とする 事 情 が 認 められない 名 古 屋 地 判 昭 和 56 年 2 月 23 日 ( 判 時 1020 号 83 頁 ) 本 件 記 事 は 事 件 関 係 者 某 の 指 摘 通 報 を 契 機 に 取 材 を 開 始 したものであるが 事 件 は 告 訴 の 取 下 げないし 不 起 訴 処 分 で 終 了 し 捜 査 当 局 の 公 式 発 表 もなかったから と くに 慎 重 な 裏 付 け 取 材 を 必 要 とし 反 対 当 事 者 であるPに 対 する 取 材 は 必 要 不 可 欠 で あったのに これを 行 わなかったことは 真 実 であると 信 ずるについて 相 当 の 理 由 が あったとはいえない 3 刑 事 事 件 の 進 行 状 況 による 分 類 犯 罪 の 嫌 疑 発 生 から 1 捜 査 着 手 前 2 任 意 捜 査 3 強 制 捜 査 4 起 訴 5 判 決 言 渡 6 判 決 確 定 の 各 段 階 があるが 報 道 機 関 がどの 段 階 で 容 疑 者 の 氏 名 を 明 らかにし て 報 道 しても 一 般 的 に 公 益 目 的 が 認 められる 以 上 真 実 証 明 又 は 相 当 性 の 証 明 が できるかどうかによって 責 任 の 有 無 が 決 せられる 1) 捜 査 段 階 での 報 道 現 在 の 犯 罪 報 道 は 捜 査 段 階 での 報 道 に 集 中 して 行 われ かつ 情 報 源 が 捜 査 機 関 からの 情 報 に 過 度 に 依 拠 している 実 情 がある 犯 人 視 報 道 を 避 けるために 匿 名 報 道 が 行 われる 場 合 もある Q 起 訴 前 弁 護 を 担 当 する 弁 護 士 において 被 疑 者 側 の 情 報 を 積 極 的 にマスメデ ィアに 伝 えるべきかどうか? 2) 公 判 段 階 での 報 道 東 京 高 判 平 成 7 年 7 月 10 日 ( 判 タ 903 号 159 頁 ) 犯 罪 事 実 の 存 否 については 国 家 刑 罰 権 の 行 使 のため 慎 重 な 手 続 により いわ ゆる 厳 格 な 証 明 によってこれを 確 定 する 公 的 制 度 として 刑 事 裁 判 制 度 が 存 し 有 罪 判 決 は 特 に 高 度 の 心 証 に 基 づいてされることが 要 請 されている このような 刑 事 裁 判 制 度 の 性 格 に 照 らせば 報 道 された 犯 罪 につき 有 罪 判 決 が 言 い 渡 された 場 合 には 右 判 決 の 確 定 を 待 つことなく 報 道 機 関 においてその 内 容 が 真 実 であると 信 ずるに つき 相 当 な 理 由 があったことが 推 定 される として 新 聞 掲 載 後 に 有 罪 判 決 があっ たことにより 相 当 の 理 由 の 存 在 が 推 定 されるとした Q 相 当 性 判 断 の 基 準 時 から 考 えて 問 題 ないだろうか? 東 京 高 判 平 成 7 年 11 月 27 日 ( 判 タ 918 号 166 頁 ) 名 誉 毀 損 の 成 否 判 断 の 基 準 時 は 右 各 記 事 が 道 新 スポーツに 掲 載 された 昭 和 63 年 10 月 21 日 ないし 同 月 22 日 であるから 右 各 記 事 内 容 の 真 実 性 の 証 明 も 概 ね 右 当 時 に おいて 存 在 した 資 料 に 基 づきなされたものであることを 要 するものとしなければ 首 尾 一 貫 しないところ 銃 撃 事 件 について 右 有 罪 判 決 は 同 年 11 月 に 起 訴 されて 後 平 成 6 年 2 月 に 結 審 するまで5 年 余 りにわたる 審 理 を 経 て 収 集 された 証 拠 に 基 づき 下 されていることが 認 められるものであるから 右 有 罪 判 決 の 存 在 をもってしても 5

右 各 記 事 掲 載 当 時 においてその 真 実 性 の 証 明 がなされたことにはならない 実 質 的 にみても 人 の 名 誉 はその 時 々における 名 誉 の 保 護 が 図 られてしかるべきであり 本 件 記 事 が 掲 載 された 時 点 において Xの 名 誉 は 各 記 事 により 事 件 の 犯 人 であると の 印 象 を 社 会 に 与 えられることからは 保 護 されていたというべきである 最 高 裁 平 成 9 年 5 月 27 日 ( 判 時 1604 号 67 頁 ) 新 聞 の 発 行 によって 名 誉 毀 損 による 損 害 が 生 じた 後 に 被 害 者 が 有 罪 判 決 を 受 けた としても これによって 新 聞 発 行 の 時 点 において 被 害 者 の 客 観 的 な 社 会 的 評 価 が 低 下 したという 事 実 自 体 に 消 長 を 来 すわけではない から 既 に 生 じている 名 誉 毀 損 による 損 害 賠 償 請 求 権 を 消 滅 させるものではない しかし 名 誉 毀 損 による 損 害 が 生 じた 後 に 被 害 者 が 有 罪 判 決 を 受 けたという 事 実 を 斟 酌 して 慰 謝 料 の 額 を 算 定 す ることは 許 される もっとも 傍 論 において 当 該 記 事 が 摘 示 した 事 実 と 有 罪 判 決 の 理 由 とされた 事 実 との 間 に 同 一 性 がある 場 合 に 被 害 者 が 有 罪 判 決 を 受 けたという 事 実 を 名 誉 毀 損 行 為 の 違 法 性 又 は 行 為 者 の 故 意 もしくは 過 失 を 否 定 するための 事 情 として 斟 酌 す ることができるかどうかは 別 問 題 である としている 3) 第 一 審 有 罪 判 決 言 渡 後 の 論 評 東 京 地 判 平 成 5 年 7 月 23 日 ( 判 タ 840 号 167 頁 ) 社 会 的 評 価 を 低 下 させたか 否 かは 名 誉 を 毀 損 されたとする 当 時 の 当 該 人 物 の 享 受 していたそれを 基 準 とすることはいうまでもない したがって ある 事 実 につき 逮 捕 され 有 罪 判 決 が 出 た 場 合 には それぞれそれに 相 応 した 評 価 を 受 けるのはや むを 得 ないが それを 超 えて 有 罪 判 決 が 未 だ 確 定 していないのに 犯 人 であることを 前 提 とした 社 会 的 評 価 あるいは 逮 捕 被 疑 事 実 や 有 罪 判 決 中 の 罪 となるべき 事 実 と は 無 関 係 な 点 についての 負 の 社 会 的 評 価 に 甘 んじなければならないいわれはない Q 起 訴 事 件 の99% 以 上 が 有 罪 となっており 控 訴 審 において 逆 転 無 罪 となる ことが 稀 有 な 刑 事 司 法 の 現 状 において まだ 犯 人 と 決 まったわけではない と いう 社 会 的 評 価 が 現 実 問 題 として 認 められるであろうか? 最 高 裁 平 成 11 年 10 月 26 日 ( 判 時 1692 号 59 頁 ) 刑 法 学 者 の 記 事 につき 原 審 ( 東 京 高 判 平 成 8 年 10 月 30 日 )は 被 告 人 は 無 罪 の 推 定 を 受 けており 控 訴 審 で 争 われていることを 知 っていた 以 上 真 実 と 信 じる につき 相 当 な 理 由 があるとは 言 えないとしたが 最 高 裁 は 刑 事 事 件 第 一 審 の 判 決 において 罪 となるべき 事 実 として 示 された 犯 罪 事 実 量 刑 の 理 由 として 示 された 量 刑 に 関 する 事 実 その 他 判 決 理 由 中 において 認 定 された 事 実 について 行 為 者 が 右 資 料 として 右 認 定 事 実 と 同 一 性 のある 事 実 を 真 実 と 信 じて 指 摘 した 場 合 には 右 判 決 の 認 定 に 疑 いを 入 れるべき 特 段 の 事 情 のない 限 り 後 に 控 訴 審 においてこれと 異 な る 認 定 判 断 がなされたとしても 指 摘 した 事 実 を 真 実 と 信 じるについて 相 当 な 理 由 があるというべきである けだし 刑 事 判 決 の 理 由 中 に 認 定 された 事 実 は 刑 事 裁 6

判 における 慎 重 な 手 続 に 基 づき 裁 判 官 が 証 拠 によって 心 証 を 得 た 事 実 であるから 行 為 者 が 右 事 実 には 確 実 な 資 料 根 拠 があるものと 受 け 止 め 指 摘 した 事 実 を 真 実 と 信 じたとしても 無 理 からぬものがあるといえるからである と 判 示 した 4) 第 一 審 無 罪 判 決 言 渡 後 の 論 評 大 阪 地 判 平 成 4 年 7 月 24 日 ( 判 時 1440 号 113 頁 ) 本 件 記 事 は 一 般 読 者 に 対 し 本 来 有 罪 であるべきXが 誤 って 無 罪 になったとの 印 象 を 抱 かせるものであるとしてXの 名 誉 が 毀 損 されたと 認 定 した 上 で 主 要 な 点 にお いて 真 実 であることは 論 告 要 旨 弁 論 要 旨 判 決 謄 本 から 明 らかであるとして 違 法 性 阻 却 事 由 の 存 在 を 認 め Xの 請 求 を 棄 却 した 5) 無 罪 判 決 後 の 報 道 青 森 地 判 平 成 5 年 2 月 16 日 ( 判 時 1482 号 144 頁 ) 右 無 罪 判 決 の 事 実 認 定 を 覆 すに 足 りる 証 拠 が 存 在 することや 被 告 において 原 告 が 現 住 建 造 物 放 火 詐 欺 事 件 の 犯 人 であるとの 新 たな 資 料 を 入 手 したことを 認 めるに 足 りる 証 拠 はないから 右 談 話 部 分 ( 原 告 が 事 件 の 犯 人 であること)について 真 実 性 の 証 明 ないし 被 告 において 真 実 と 信 ずるについて 相 当 の 理 由 があったということ はできない 水 戸 地 判 平 成 元 年 10 月 27 日 ( 判 時 1327 号 34 頁 ) 裁 判 所 の 事 実 認 定 といえども 当 該 手 続 において 審 理 された 証 拠 に 基 づく 一 定 の 評 価 に 過 ぎないのであって 確 定 判 決 の 認 定 した 事 実 が 必 ずしも 客 観 的 真 実 と 一 致 す るとは 限 らないことは 多 言 を 要 しないところであるから 確 定 判 決 により 認 定 され た 事 実 と 異 なる 事 実 と 摘 示 して 名 誉 を 毀 損 したからといって 直 ちにこれが 真 実 で はないとはいえないし 真 実 と 信 じるについて 相 当 な 理 由 がないともいえない Ⅳ. 表 現 の 自 由 とプライバシーの 保 護 1 いわゆるモデル 小 説 (1) 裁 判 例 東 京 地 判 昭 和 62 年 11 月 20 日 ( 判 時 1258 号 22 頁 ) 被 告 が 陪 審 員 をしていた 経 験 に 基 づきノンフィクション 小 説 逆 転 を 書 いた 事 件 につき その 著 作 物 の 目 的 性 格 等 に 照 らした 実 名 仕 様 の 意 義 及 び 必 要 性 を 併 せて 判 断 し 右 に 前 科 等 にかかわる 事 実 を 公 表 されない 法 的 利 益 がこれを 公 表 する 理 由 に 優 越 するときは 右 の 者 は その 公 表 によって 被 った 精 神 的 苦 痛 の 賠 償 を 求 めることができ る として 慰 謝 料 50 万 円 を 認 めた 原 審 を 認 容 し 上 告 を 棄 却 した 東 京 地 判 平 成 7 年 5 月 19 日 ( 判 時 1550 号 49 頁 ) 小 説 名 もなき 道 を につき 一 般 読 者 をして 小 説 全 体 が 作 者 の 芸 術 的 創 造 力 の 生 み 出 した 創 作 であって 虚 構 であると 受 け 取 られるに 至 っている 場 合 には 名 誉 プラ イバシー 侵 害 とはならないとし 実 在 人 物 の 行 為 性 格 がそのまま 叙 述 されていて 7

真 実 であると 受 け 取 る 読 み 方 をすることはないと 考 えられる とした 大 阪 高 判 平 成 9 年 10 月 8 日 ( 判 時 1631 号 80 頁 ) 小 説 捜 査 一 課 長 につき 本 件 小 説 は 素 材 事 実 と 虚 構 事 実 が 渾 然 一 体 となり その 演 繹 的 事 実 として 一 般 読 者 に 対 し モデルとされた 者 が 甲 山 事 件 をモデル とする 本 件 小 説 の 殺 人 事 件 の 犯 人 であり ひいては 甲 山 事 件 の 犯 人 であるとの 印 象 を 与 え 右 事 実 をその 骨 格 的 要 素 として 摘 示 することにより モデルとされた 者 の 社 会 的 評 価 を 低 下 させ その 名 誉 を 侵 害 するものである として 約 80 万 円 の 損 害 賠 償 を 認 めた 東 京 地 判 平 成 11 年 6 月 22 日 ( 判 時 1691 号 91 頁 ) 最 高 裁 平 成 14 年 9 月 24 日 ( 判 時 1802 号 60 頁 ) 小 説 石 に 泳 ぐ 魚 につき 読 者 にとって 右 の 記 述 が モデルに 関 わる 現 実 の 事 実 であるか 作 者 が 創 作 した 虚 構 の 事 実 であるかを 截 然 と 区 別 することができない 場 合 においては 小 説 中 の 登 場 人 物 についての 記 述 がモデルの 名 誉 を 毀 損 し モデルのプラ イバシー 及 び 名 誉 感 情 を 侵 害 する 場 合 がある として 名 誉 毀 損 等 の 成 立 を 認 めた (2) 考 慮 要 素 a) 登 場 人 物 と 実 在 人 物 との 同 定 可 能 性 著 名 ではなくても 実 在 人 物 を 想 起 させる 表 現 がなされれば 必 ずその 人 物 の 周 囲 の 一 定 の 人 間 はその 人 物 を 想 起 するものであるから 同 定 可 能 性 の 要 件 は 満 た される b) 創 作 性 虚 構 性 と 社 会 的 評 価 の 低 下 一 般 的 に 社 会 的 評 価 の 低 下 があったか 否 かは 問 われない 2 プライバシー 侵 害 の 判 断 基 準 (1) 個 別 的 利 益 衡 量 説 (2) 区 別 説 プライバシー 侵 害 では 真 実 性 の 証 明 が 言 論 を 正 当 化 することにはならず 一 旦 侵 害 されたプライバシーの 回 復 が 不 可 能 であること プライバシー 侵 害 では 市 場 の 自 由 競 争 での 自 力 救 済 手 段 を 持 ち 得 ないこと 一 般 的 に 価 値 が 高 くない 性 質 の 言 論 で あることなどを 根 拠 に プライバシー 侵 害 を 名 誉 毀 損 の 言 論 よりも 厳 しく 制 限 すべ きとする 説 も 有 力 1 表 現 行 為 が 社 会 の 正 当 な 関 心 事 であること 2その 表 現 内 容 表 現 方 法 が 不 当 なも のでないことの 要 件 が 満 たされる 場 合 には 表 現 行 為 は 違 法 性 を 欠 き プライバ シー 侵 害 とはならない( 竹 田 稔 ) 以 上 8