2012 年 度 春 学 期 刑 法 II( 各 論 ) 講 義 資 料 2012 年 度 春 学 期 刑 法 II( 各 論 ) 講 義 2012 年 5 月 25 日 第 7 回 詐 欺 および 恐 喝 の 罪 (その 1) 1 詐 欺 罪 [246 条 ] 山 口 刑 法 pp. 311-322 / 西 田 各 論 pp. 189-214 山 口 各 論 pp. 244-274 1-1 総 説 1-1-1 基 本 構 造 交 付 罪 である 占 有 者 の 意 思 に 基 づく 占 有 の 移 転 が 必 要 この 点 で 同 じく 移 転 罪 であるが 占 有 者 の 意 思 に 反 する 占 有 の 移 転 を 要 件 とする 盗 取 罪 ( 窃 盗 罪 不 動 産 侵 奪 罪 強 盗 罪 )とは 異 なる ただし 意 思 に 基 づく 占 有 の 移 転 といっても 占 有 の 移 転 が 完 全 な 意 思 に 基 づくものでは なく 瑕 疵 ある 意 思 に 基 づくことが 必 要 詐 欺 罪 においては 同 罪 (の 既 遂 罪 )の 成 立 には 以 下 の 因 果 の 経 過 を 経 る 必 要 がある i) 欺 罔 行 為 ( 詐 欺 行 為 欺 く 行 為 ) ii) 錯 誤 iii) 処 分 行 為 ( 交 付 行 為 ) iv) 財 物 または 財 産 上 の 利 益 の 移 転 第 9 回 4 にて 検 討 する 予 定 の 恐 喝 罪 [249 条 ] 詐 欺 罪 恐 喝 罪 においては 上 記 i)が 恐 喝 行 為 (= 暴 行 脅 迫 )に 欺 罔 行 為 恐 喝 行 為 ii)が 畏 怖 に 置 き 換 わるだけで 構 造 的 には 詐 欺 罪 の 場 合 と 同 様 である 両 罪 は 同 じく 交 付 罪 であり その 錯 誤 畏 怖 手 段 の 相 違 によって 区 別 されることとなる( 右 図 の 通 り である) 処 分 行 為 財 物 または 財 産 上 の 利 益 の 移 転 1-1-2 保 護 法 益 詐 欺 罪 は 財 産 罪 であり その 保 護 するのは 個 人 の 財 産 であって 取 引 における 信 義 誠 実 は 直 接 の 保 護 法 益 ではないと 解 される 詐 欺 罪 が 財 産 罪 である 以 上 その 成 立 のためには 財 産 的 損 害 が 必 要 であるとされる - 1 -
~ 個 人 の 学 習 目 的 での 利 用 以 外 の 使 用 禁 止 ~ ただし そこでいう 財 産 的 損 害 とは 財 物 財 産 上 の 利 益 の 交 付 (= 財 物 等 の 喪 失 ) 自 体 であ ると 解 されている ( 個 別 財 産 に 対 する 罪 との 理 解 ) 実 質 的 には 財 産 的 損 害 を 不 要 とする 立 場 と 変 わりがない しかし 詐 欺 罪 が 財 産 罪 である 以 上 何 らかの 意 味 での 財 産 上 の 損 害 が 要 求 されるべきでは? (この 点 詳 細 は 後 掲 1-5 にて 取 り 扱 う ) * 国 家 的 法 益 と 詐 欺 罪 の 成 否 について 国 地 方 公 共 団 体 が 所 有 する 財 産 についても 詐 欺 罪 は 当 然 成 立 し 得 る(この 場 合 は 国 地 方 公 共 団 体 は 財 産 権 の 主 体 として 問 題 となっているに 過 ぎない)が 本 来 の 国 家 的 法 益 に 対 して 向 けられた 詐 欺 的 行 為 について 詐 欺 罪 の 成 否 が 問 題 となる a) 脱 税 の 場 合 判 例 は 詐 欺 罪 の 成 立 を 否 定 ( 大 判 明 治 44 年 5 月 25 日 刑 録 17 輯 959 頁 ) ほ しかし この 場 合 は 各 種 税 法 の 租 税 逋 脱 罪 の 規 定 が 詐 欺 罪 の 特 別 法 として 適 用 されている(そのために 詐 欺 罪 の 適 用 が 排 除 されている)に 過 ぎない b) 各 種 証 明 書 の 不 正 取 得 の 場 合 旅 券 印 鑑 証 明 書 の 交 付 の 場 合 について 詐 欺 罪 の 成 立 を 否 定 した 判 例 あり ( 前 者 について(328) 後 者 について(327)を 参 照 ) しかし これらの 場 合 に 詐 欺 罪 が 成 立 しないのは 別 個 の 理 由 ( 例 えば 財 物 性 あるいは 財 産 上 の 利 益 がない など)があるからと 解 すべきであり 詐 欺 的 手 段 によって 封 鎖 預 金 の 払 い 戻 しを 受 ける 行 為 ( 判 例 (324)) 配 給 食 料 を 不 正 に 受 給 する 行 為 ( 最 判 昭 和 23 年 11 月 4 日 刑 集 2 巻 12 号 1446 頁 ) 営 農 意 思 を 偽 って 国 有 地 を 買 い 受 ける 行 為 ( 判 例 (321))について 詐 欺 罪 の 成 立 を 認 めうるで あろう (この 点 についても 詳 細 は 財 産 的 損 害 との 関 連 で 後 掲 1-5 にて 取 り 扱 う ) 1-2 客 体 1-2-1 財 物 財 物 [246 条 1 項 ]: 他 人 の 占 有 する 他 人 の 財 物 財 物 の 意 義 については 第 2 回 2 を 参 照 電 気 についての 特 例 [245 条 ] 自 己 の 財 物 についての 特 例 [242 条 ] 親 族 相 盗 例 [244 条 ] が 251 条 によりそれぞれ 準 用 される 窃 盗 罪 の 場 合 と 異 なり 不 動 産 も 財 物 に 含 まれる 1-2-2 財 産 上 の 利 益 財 産 上 不 法 の 利 益 [246 条 2 項 ]とは 不 法 に 財 産 上 の 利 益 を 得 ることをいい 利 益 自 体 が 不 法 性 を 有 する 必 要 はない 財 物 以 外 の 財 産 的 利 益 一 切 をいい 債 権 担 保 権 の 取 得 労 務 サーヴィスを 提 供 させるな どの 積 極 的 利 得 のほか 債 務 免 除 や 支 払 猶 予 を 得 るなどの 消 極 的 利 得 をも 含 む ただし 以 下 の 各 点 には 注 意 が 必 要 1. 移 転 性 のある 利 益 に 限 定 される 詐 欺 罪 が 移 転 罪 であることより 従 って 情 報 サーヴィスなどについては 一 般 的 に 詐 欺 罪 を 肯 定 することができな い - 2 -
2012 年 度 春 学 期 刑 法 II( 各 論 ) 講 義 資 料 ただ 対 価 を 支 払 うべき 有 償 のサーヴィスについて 請 求 しうる 料 金 の 免 脱 という 財 産 上 の 損 害 があり 行 為 者 にはサーヴィスを 不 正 に 取 得 することによって 料 金 に 対 応 す る 財 産 上 の 利 益 を 取 得 したと 観 念 する 余 地 があり この 限 度 で 2 項 詐 欺 罪 を 肯 定 しう る 2. 不 法 な 利 益 も 本 罪 の 客 体 たり 得 るか? 財 産 罪 の 保 護 法 益 の 問 題 と 同 質 の 問 題 [ 例 ](1) 欺 罔 により 売 春 行 為 や 犯 罪 行 為 を 行 わせた 場 合 (2) 欺 罔 により 売 春 代 金 を 免 脱 した 場 合 (2)については 裁 判 例 は 肯 定 説 ( 判 例 (337))と 否 定 説 ( 判 例 (338))にわかれている 3. 物 の 請 求 権 の 取 得 について 財 物 詐 取 を 目 的 として 欺 罔 行 為 を 行 い 被 害 者 に 財 物 交 付 の 約 束 をさせた 場 合 に こ れを 物 の 引 渡 請 求 権 の 取 得 とみて 2 項 詐 欺 罪 の 成 立 を 認 めてよいか? 引 渡 請 求 権 の 取 得 に 独 自 の 価 値 意 義 があるような 例 外 的 場 合 を 除 き 1 項 詐 欺 罪 の 未 遂 罪 の 成 立 にとどめるべき 判 例 について 不 動 産 詐 取 の 事 案 において 1 項 詐 欺 罪 の 既 遂 には 所 有 権 移 転 の 意 思 表 示 があっただけでは 足 りず 占 有 または 登 記 の 移 転 が 必 要 とするもの( 判 例 (296))は この 意 味 で 理 解 できるが 詐 欺 賭 博 の 事 案 において 客 に 債 務 を 負 担 させた 段 階 で 2 項 詐 欺 罪 の 既 遂 の 成 立 を 認 めたもの( 判 例 (297))は 疑 問 である 4. 債 務 履 行 の 一 時 猶 予 判 例 によれば 債 務 履 行 や 弁 済 の 一 時 猶 予 も 財 産 上 の 利 益 にあたり 2 項 詐 欺 罪 が 成 立 しうるとされる( 判 例 (295)) しかし 2 項 詐 欺 罪 の 成 立 を 認 めるうえで 財 産 上 の 利 益 を 得 たというためには 財 物 の 移 転 と 同 視 しうるだけの 具 体 性 確 実 性 が 必 要 であるとされる 債 務 履 行 の 一 時 猶 予 の 場 合 には これにより 債 権 の 財 産 的 価 値 が 減 少 したこと が 必 要 (なお 判 例 (294) 参 照 ) 1-3 欺 罔 行 為 ( 詐 欺 行 為 ) 1-3-1 総 説 欺 罔 行 為 とは? 人 (= 処 分 行 為 者 )の 錯 誤 を 惹 起 する 行 為 人 に 向 けられたものである 必 要 a) 機 械 は 錯 誤 に 陥 らない から * 通 貨 類 似 の 金 属 片 を 自 動 販 売 機 に 入 れて 商 品 等 を 不 正 に 取 得 する 行 為 は 詐 欺 罪 で はなく 窃 盗 罪 となる * 偽 造 キャッシュカードまたは 拾 得 したキャッシュカードにより 現 金 自 動 支 払 機 (CD)から 金 銭 を 引 き 出 す 行 為 も 詐 欺 罪 ではなく 窃 盗 罪 である( 判 例 (291) 参 照 ) * 通 貨 類 似 の 金 属 片 を 利 用 して 公 衆 電 話 機 コインロッカー ゲームセンターのゲ ーム 機 等 を 不 正 に 利 用 しても 利 益 窃 盗 に 過 ぎず 現 行 法 上 は 不 可 罰 である b) 欺 罔 行 為 は 財 物 財 産 上 の 利 益 の 処 分 行 為 に 向 けられたものでなければならない * 買 い 物 客 を 装 って 洋 服 を 試 着 中 に 逃 走 する 行 為 * 偽 電 話 により 家 人 を 外 出 させた 間 に 家 に 侵 入 して 財 物 を 領 得 する 行 為 - 3 -
~ 個 人 の 学 習 目 的 での 利 用 以 外 の 使 用 禁 止 ~ などは 偽 計 的 手 段 を 用 いてはいるが それ 自 体 は 処 分 行 為 を 目 的 としたものではないか ら 詐 欺 罪 は 成 立 せず( 未 遂 にもならない) 窃 盗 罪 が 成 立 する 1-3-2 欺 罔 の 対 象 程 度 取 引 の 相 手 方 が 真 実 を 知 っていれば 財 産 的 処 分 行 為 を 行 わないような 重 要 な 事 実 を 偽 るこ と 従 って * 品 物 の 名 称 を 偽 っても その 品 質 価 格 に 変 わりがなく 買 い 主 も 名 称 にこだわらず 自 己 の 鑑 識 をもって 購 入 した 場 合 ( 大 判 大 正 8 年 3 月 27 日 刑 録 25 輯 396 頁 ) * 担 保 物 である 絵 画 が 偽 物 であっても 十 分 な 担 保 価 値 を 有 する 場 合 ( 大 判 大 正 4 年 10 月 25 日 法 律 新 聞 1049 号 34 頁 ) には 詐 欺 罪 にはあたらないとされる また 談 合 入 札 についても 予 定 価 格 以 下 の 受 注 である 以 上 は 注 文 者 には 価 格 の 点 につい ての 錯 誤 が 欠 けると 解 されていた( 大 判 大 正 8 年 2 月 27 日 刑 録 25 輯 252 頁 ) なお この 問 題 は 1941( 昭 和 16) 年 の 改 正 による 談 合 罪 規 定 (96 条 の 6 第 2 項 )の 新 設 により 解 決 された 一 般 の 取 引 において 多 少 の 駆 け 引 きや 誇 張 は 許 容 されることより 欺 罔 行 為 であるというた めには 取 引 の 相 手 方 の 知 識 経 験 を 基 準 とした 場 合 に 一 般 人 を 錯 誤 に 陥 らせるに 足 る 程 度 の 事 実 の 虚 構 等 が 必 要 であり その 程 度 に 至 らない 場 合 には 不 可 罰 か せいぜい 軽 犯 罪 法 上 の 虚 偽 広 告 の 罪 ( 同 法 1 条 34 号 )が 成 立 し 得 るにとどまる 1-3-3 不 作 為 による 欺 罔 欺 罔 行 為 は 不 作 為 による 場 合 (=すでに 相 手 方 が 錯 誤 に 陥 っていること または 錯 誤 に 陥 ろ うとしていることを 知 りながら 真 実 を 告 知 して 錯 誤 を 解 消 しようとしないこと)も 可 能 である この 場 合 不 真 正 不 作 為 犯 であるので 作 為 義 務 として 告 知 義 務 (= 真 実 を 告 げる 義 務 )が 要 求 される( 大 判 大 正 6 年 11 月 29 日 刑 録 23 輯 1449 頁 ) [ 具 体 例 ] * 生 命 保 険 契 約 の 締 結 に 際 して 既 往 症 を 告 知 しなかった 場 合 ( 判 例 (286)) 法 令 上 告 知 義 務 がある 場 合 である( 保 険 法 37 条 参 照 (ただし 同 法 施 行 日 前 に 締 結 の 保 険 契 約 につ いては 保 険 法 施 行 に 伴 い 削 除 された 商 法 678 条 の 規 定 が 適 用 される ( 保 険 法 の 施 行 に 伴 う 関 係 法 律 の 整 備 に 関 する 法 律 [ 平 成 20 年 法 律 57 号 ]2 条 )) * 準 禁 治 産 者 ( 現 在 の 被 保 佐 人 にあたる)がそのことを 秘 して 金 銭 を 借 り 受 けた 場 合 ( 判 例 (284)) * 抵 当 権 が 設 定 登 記 済 であることを 秘 して 不 動 産 を 売 却 した 場 合 ( 判 例 (285)) など 信 義 誠 実 の 原 則 に 基 づき かなり 広 い 範 囲 で 告 知 義 務 を 認 めている しかし そのような 場 合 であっても 個 別 的 な 取 引 の 内 容 に 関 する 重 要 な 事 実 か 否 か 相 手 方 の 知 識 経 験 調 査 能 力 等 の 諸 事 情 を 考 慮 して 告 知 義 務 の 存 否 を 判 断 すべきであろう( 判 例 (288) 参 照 ) ただし 個 別 的 な 契 約 の 履 行 意 思 や 履 行 能 力 とは 異 なり 一 般 的 な 営 業 状 態 や 信 用 状 態 につ いては 告 知 義 務 が 認 められないと 解 すべきである( 判 例 (287) 参 照 ) 挙 動 による 欺 罔 について [ 具 体 例 ] - 4 -
2012 年 度 春 学 期 刑 法 II( 各 論 ) 講 義 資 料 * 最 初 から 代 金 支 払 意 思 がないのに 食 堂 で 注 文 して 飲 食 する 場 合 (いわゆる 無 銭 飲 食 ) * 最 初 から 代 金 支 払 意 思 がないのに 商 品 を 発 注 して 納 入 させる 場 合 (いわゆる 取 込 詐 欺 ) これらは 不 作 為 による 欺 罔 があるようにも 見 えるが 支 払 意 思 があるかのよ うに 装 って 注 文 する という 作 為 による 欺 罔 と 解 すべきである( 無 銭 宿 泊 飲 食 の 事 案 について 判 例 (301) 参 照 ) [ 問 ]いわゆる 釣 銭 詐 欺 の 場 合 はどうか? 1000 円 の 商 品 を 購 入 するに 際 し 5000 円 札 を 渡 したところ 売 主 が 1 万 円 札 と 勘 違 い して 9000 円 の 釣 銭 を 買 主 に 渡 した 場 合 (1) 釣 銭 受 領 後 売 主 の 間 違 いに 気 付 きながらその 場 を 離 れた 場 合 占 有 離 脱 物 横 領 罪 [254 条 ] (2) 売 主 が 釣 銭 を 渡 そうとする 際 に 間 違 いに 気 付 いたが そのまま 受 領 した 場 合 学 説 はこの 場 合 に 買 主 に 告 知 義 務 を 認 め 不 作 為 による 詐 欺 罪 の 成 立 を 認 める ものが 多 数 しかし そうだとすると 相 手 方 の 財 産 の 保 護 義 務 を 肯 定 することになりはし ないか? (3) 釣 銭 を 渡 した 後 に 売 主 が 余 分 に 渡 したのではないかと 尋 ねたのに 対 し 買 主 がこれ を 否 定 した 場 合 この 場 合 の 欺 罔 は 横 領 の 手 段 に 過 ぎず 2 項 詐 欺 罪 は 成 立 しない( 占 有 離 脱 物 横 領 罪 のみが 成 立 する) 1-4 処 分 行 為 ( 交 付 行 為 ) 詐 欺 罪 が 成 立 するためには 欺 罔 により 錯 誤 を 生 ぜしめ その 錯 誤 による 瑕 疵 ある 意 思 に 基 づ いて 財 物 財 産 上 の 利 益 を 相 手 方 に 移 転 させる 行 為 (= 処 分 行 為 )が 必 要 従 って 処 分 行 為 に 向 けられた 欺 罔 はあるが 相 手 方 が 錯 誤 に 陥 らずに 別 の 理 由 ( 例 えば 憐 憫 の 気 持 ち から) 財 物 を 交 付 した 場 合 には 詐 欺 罪 の 予 定 する 因 果 関 係 が 切 れるため 未 遂 犯 が 成 立 するにとどまるこ とになる 交 付 の 相 手 方 は 欺 罔 行 為 者 以 外 の 第 三 者 でもよいとされるが(2 項 詐 欺 については 246 条 2 項 において 明 文 で 規 定 されている) 全 く 無 関 係 の 第 三 者 に 交 付 させる 場 合 は 除 外 されるべきであ り (i) 第 三 者 に 交 付 することによって 欺 罔 行 為 者 が 交 付 を 受 けたと 同 視 しうる 場 合 (ii) 欺 罔 行 為 者 が 第 三 者 に 取 得 させることを 目 的 としていた 場 合 ( 大 判 大 正 5 年 9 月 28 日 刑 録 22 輯 1467 頁 参 照 ) などといった 特 別 の 関 係 を 有 する 第 三 者 の 場 合 に 限 定 されるべきである( 判 例 (315) 参 照 ) [ 問 ] 欺 罔 行 為 により 一 旦 財 物 を 放 棄 させ その 後 取 得 する 行 為 の 罪 責 如 何? ( 例 えば 当 せんした 宝 くじを 外 れたものと 騙 して 捨 てさせ その 後 取 得 するような 場 合 ) A. 窃 盗 罪 と 解 する 見 解 B. 占 有 離 脱 物 横 領 罪 と 解 する 見 解 C. 詐 欺 罪 の 成 立 を 肯 定 する 見 解 学 説 上 は C 説 が 多 数 を 占 めているが 詐 欺 罪 の 成 立 が 認 められるのは 被 欺 罔 者 の 放 棄 と 欺 罔 行 為 者 による 取 得 との 関 係 から 被 欺 罔 者 の 放 棄 により 占 有 を 取 得 したと 解 しうるような 場 合 ( 第 三 者 にはわからない 場 所 に 投 棄 させ のちにこれを 回 収 するような 場 合 )に 限 定 され - 5 -
~ 個 人 の 学 習 目 的 での 利 用 以 外 の 使 用 禁 止 ~ るべきではないか? 処 分 行 為 は 財 物 財 産 上 の 利 益 を 相 手 方 に 移 転 させる 行 為 であるから 処 分 行 為 により 直 接 移 転 する ことが 必 要 であり(これを 直 接 性 の 要 件 と 呼 ぶ) 占 有 取 得 のために 相 手 方 がさらに 占 有 移 転 行 為 を 行 う ことが 必 要 となる 場 合 では 足 りない(このような 場 合 には 占 有 の 弛 緩 が 生 じているに 過 ぎず その 後 の 占 有 移 転 行 為 が 被 欺 罔 者 の 意 思 に 反 している 場 合 には 詐 欺 罪 ではなく 窃 盗 罪 が 成 立 することになる)こ とからみて 上 記 のように 考 えられるべきではないか なお 財 物 財 産 上 の 利 益 の 移 転 の 際 に 第 三 者 の 行 為 が 介 入 することは 上 記 の 直 接 性 の 要 件 との 関 係 では 問 題 とならない 欺 罔 行 為 により 被 欺 罔 者 に 信 販 業 者 とクレジット 契 約 を 締 結 させて 信 販 業 者 から 欺 罔 行 為 者 宛 に 立 替 払 いをさせた 事 案 においては 被 欺 罔 者 が 信 販 業 者 に 財 産 を 交 付 させたことを もって 処 分 行 為 と 評 価 し ( 欺 罔 行 為 者 との 関 係 で) 被 欺 罔 者 自 ら 被 害 を 受 けたと 解 することができる 判 例 (314) 参 照 処 分 意 思 処 分 行 為 の 有 無 は 被 欺 罔 者 による ( 瑕 疵 ある) 意 思 に 基 づく 占 有 の 移 転 の 有 無 によって 決 することになる もし 処 分 行 為 によらずに 財 物 財 産 上 の 利 益 の 移 転 が 発 生 した 場 合 財 物 については 窃 盗 罪 が 成 立 し 財 産 上 の 利 益 については 利 益 窃 盗 となり 不 可 罰 となる 従 って 特 に 後 者 については 処 分 行 為 の 有 無 は 可 罰 性 の 限 界 を 画 する 重 要 な 意 義 を 有 することになる そこで 問 題 は 被 欺 罔 者 にいかなる 意 思 内 容 が 認 められるときに 処 分 行 為 があるといえる か? 処 分 意 思 の 問 題 まず 被 欺 罔 者 の 瑕 疵 ある 意 思 に 基 づいて 財 物 等 の 占 有 が 終 局 的 に 移 転 したことが 必 要 従 って * 自 動 車 の 試 乗 のため 一 定 時 間 の 単 独 走 行 をさせたところ 乗 り 逃 げした 場 合 については 単 独 走 行 をさせた 時 点 で 処 分 行 為 が 認 められ 詐 欺 罪 が 成 立 する( 判 例 (300)) 他 方 * 洋 服 の 試 着 を 許 された 者 が 店 員 の 隙 を 見 て 逃 走 した 場 合 * 老 人 が 銀 行 で 預 金 の 払 い 戻 しを 受 ける 際 付 添 のように 装 って 現 金 を 受 け 取 り 銀 行 か ら 逃 走 した 場 合 については いずれも 意 思 に 基 づく 占 有 の 終 局 的 移 転 が 否 定 される ( 占 有 の 弛 緩 では 足 り ない 前 者 について 広 島 高 判 昭 和 30 年 9 月 6 日 高 刑 集 8 巻 8 号 1021 頁 後 者 について 判 例 (299) 後 者 については 現 金 の 占 有 は 銀 行 にあるとされた ) * 詐 欺 目 的 で 被 欺 罔 者 に 金 銭 を 用 意 させたところ 現 金 を 玄 関 に 置 いたまま 便 所 に 行 っ たのでその 隙 にこれを 持 ち 逃 げした 場 合 については 判 例 は 詐 欺 罪 の 成 立 を 肯 定 している( 判 例 (298))が この 段 階 では 占 有 はなお 被 欺 罔 者 に 残 っており 未 だ 意 思 に 基 づく 占 有 の 終 局 的 移 転 があったとはいえないのではない か? 問 題 は 移 転 する 財 物 財 産 上 の 利 益 自 体 についての 認 識 がない 場 合 について 例 えば 本 に 1 万 円 札 がはさまっていることに 気 付 きながらその 本 を 500 円 で 買 い 取 る 場 合 や 10kg 入 の 魚 箱 に 実 は 15kg の 魚 が 入 っていることを 知 りながら 10kg 入 として 買 い 取 る 場 合 がこれ にあたる なお 告 知 義 務 の 存 在 を 前 提 とする A. 意 識 的 処 分 行 為 説 ( 処 分 意 思 必 要 説 ) ある 特 定 の 財 物 財 産 上 の 利 益 を 相 手 方 に 移 転 させるという 被 欺 罔 者 の 認 識 を 処 分 行 為 の 要 件 とする - 6 -
2012 年 度 春 学 期 刑 法 II( 各 論 ) 講 義 資 料 B. 無 意 識 的 処 分 行 為 説 ( 処 分 意 思 不 要 説 ) 被 欺 罔 者 の 認 識 が 個 々の 財 物 財 産 上 の 利 益 の 移 転 についてまで 及 んでいる 必 要 がない とする (= 無 意 識 の 処 分 行 為 を 認 める) B 説 は * 財 物 財 産 上 の 利 益 の 占 有 が 被 欺 罔 者 の 意 思 に 基 づいて 相 手 方 に 移 転 したといえれば 詐 欺 罪 の 成 立 を 認 めてよい * 相 手 方 に 移 転 する 客 体 を 認 識 させないという 最 も 典 型 的 な 類 型 を 詐 欺 罪 から 除 外 す るのは 妥 当 でない ことを 理 由 とする 一 方 A 説 からは とりわけ 処 分 行 為 を 無 意 識 で(= 無 意 識 の 処 分 行 為 )かつ 不 作 為 のもの (= 不 作 為 による 処 分 行 為 )で 足 りるとした 場 合 には 利 益 窃 盗 との 区 別 が 曖 昧 になる 点 が 指 摘 されている [ 判 例 ] * 判 例 (301) 旅 館 の 宿 泊 客 である 被 告 人 が 自 動 車 で 帰 る 知 人 を 見 送 ると 欺 いて 逃 走 して 宿 泊 代 金 の 支 払 を 免 れた 事 案 について 相 手 方 の 債 務 免 除 の 意 思 が 必 要 であるとして 処 分 行 為 の 存 在 を 否 定 している ただし 当 初 より 所 持 金 支 払 意 思 のないことを 秘 して 宿 泊 飲 食 した 点 で 本 件 について 詐 欺 罪 の 成 立 を 認 めている また 今 晩 必 ず 帰 ってくるから と 欺 いて 逃 走 した 場 合 には 詐 欺 罪 の 成 立 を 認 めている( 判 例 (303)) * 判 例 (294) すでに 履 行 期 限 が 過 ぎたリンゴ 売 渡 契 約 の 履 行 を 督 促 された 被 告 人 が すでに 発 送 手 続 を 完 了 しているように 見 せかけたところ 債 権 者 が 安 心 して 帰 宅 したという 事 案 について 安 心 して 帰 宅 した というだけでは 処 分 行 為 を 認 めることはできないとした ただし 必 ずしも 無 意 識 だから 処 分 行 為 がない としているわけではない 点 に 注 意 * 大 判 明 治 43 年 10 月 7 日 刑 録 16 輯 1647 頁 文 書 の 内 容 を 偽 って 債 務 証 書 に 署 名 させる 行 為 について 文 書 偽 造 であって 詐 欺 罪 は 成 立 しないとする * 判 例 (309) 電 気 計 量 器 の 針 を 逆 回 転 させて 料 金 の 支 払 を 免 れる 行 為 について (この 場 合 は 利 益 の 移 転 につき 認 識 のない 場 合 であるが) 詐 欺 罪 の 成 立 を 認 めている この 問 題 点 については とりわけ 無 銭 飲 食 宿 泊 の 事 案 やキセル 乗 車 の 事 案 において 問 題 となるが こ れらの 事 例 については 第 8 回 1-6 にて 取 り 扱 うこととする 1-5 財 産 的 損 害 詐 欺 罪 が 財 産 罪 である 以 上 その 成 立 のためには 何 らかの 財 産 上 の 損 害 が 必 要 であるとされる ただし そこでいう 損 害 とは 財 物 財 産 上 の 利 益 の 交 付 (= 財 物 等 の 喪 失 ) 自 体 であると 解 さ れている ( 個 別 財 産 に 対 する 罪 との 理 解 ) 実 質 的 には 財 産 上 の 損 害 を 不 要 とする 立 場 と 変 わりがない しかし 詐 欺 罪 が 財 産 罪 である 以 上 何 らかの 意 味 での 財 産 上 の 損 害 が 要 求 されるべき - 7 -
~ 個 人 の 学 習 目 的 での 利 用 以 外 の 使 用 禁 止 ~ 判 例 (336)は 本 来 受 領 する 権 限 を 有 する 工 事 の 請 負 代 金 を 詐 欺 的 手 段 によって 早 期 に 受 領 し た 場 合 について 欺 罔 手 段 を 用 いなかった 場 合 に 得 られたであろう 請 負 代 金 の 支 払 とは 社 会 通 念 上 別 個 の 支 払 に 当 たるといい 得 る 程 度 の 期 間 支 払 時 期 を 早 めたものであることを 要 する とする ただし 最 近 の 学 説 の 中 には 財 産 上 の 損 害 を 詐 欺 罪 の 成 立 要 件 とすることによりその 成 立 範 囲 を 限 定 しようとすることには 法 文 上 の 根 拠 を 欠 くので 妥 当 ではなく 法 益 侵 害 性 の 有 無 の 判 断 はむしろ 被 欺 罔 者 = 処 分 行 為 者 に 法 益 関 係 的 錯 誤 山 口 刑 法 p. 86 を 参 照 が 存 在 するか 否 かによって 判 断 すべきである とする 見 解 が 有 力 に 主 張 されている(この 見 解 による 場 合 には このレジュメの 以 下 の 各 問 題 については それぞれ 法 益 関 係 的 錯 誤 の 存 否 (さらには 法 益 関 係 的 錯 誤 を 生 じさせるような 欺 罔 行 為 の 存 否 )の 問 題 として 論 じられることになるので 十 分 に 注 意 されたい) この 問 題 は 結 局 のところは ともすれば 拡 張 しがちな 詐 欺 罪 の 成 立 範 囲 の 限 定 を 財 産 上 の 損 害 を 要 求 することにより 行 うのか 錯 誤 の 要 件 の 問 題 として 法 益 関 係 的 錯 誤 の 存 否 によって 判 断 するのか とい う 問 題 であるように 思 われる ただ いわゆる 法 益 関 係 的 錯 誤 説 自 体 について 議 論 のあるところであり 少 なくとも 法 益 関 係 的 錯 誤 説 は 判 例 の 採 用 するところとはなっていない( 判 例 (4) 参 照 ) そもそも 法 益 関 係 的 錯 誤 説 による 場 合 に どのような 場 合 に 法 益 関 係 的 錯 誤 があるといえるのか その 理 解 によって 判 断 が 左 右 されることになり この 点 は 詐 欺 罪 との 関 係 においても 同 様 であるが 学 説 の 中 には 財 産 は 交 換 手 段 あるいは 目 的 達 成 の 手 段 として 保 護 されているのであるから 財 産 交 換 目 的 達 成 の 点 にお いて 錯 誤 がある 場 合 には 法 益 関 係 的 錯 誤 があり 詐 欺 罪 の 構 成 要 件 としての 錯 誤 が 認 められるので それの 基 づく 処 分 行 為 による 財 物 財 産 上 の 利 益 の 移 転 について 法 益 侵 害 性 が 肯 定 されて 詐 欺 罪 が 成 立 す ることとなり 財 産 交 換 目 的 達 成 とは 直 接 関 係 しない 付 随 的 事 情 について 錯 誤 があるにすぎない 場 合 には 法 益 関 係 的 錯 誤 が 否 定 されるので 詐 欺 罪 は 成 立 しない とするものがある( 以 上 の 見 解 につい ては 山 口 各 論 pp. 267-268 のほか 下 記 の 参 考 文 献 に 掲 げた 山 口 教 授 の 各 論 稿 を 参 照 されたい) しかし このような 理 解 に 従 うならば 目 的 をどのようなものとして 設 定 するかにもよるが 以 下 で 採 り 上 げる 各 判 例 の 結 論 をおおむね 支 持 することとなる 結 果 詐 欺 罪 の 成 立 範 囲 の 角 の 拡 張 により 財 産 罪 と しての 性 格 が 変 容 してしまう( 失 われる)のではないか との 批 判 がなされている また これとは 別 の 問 題 として 構 造 的 には 同 様 の 犯 罪 である 恐 喝 罪 については 結 論 に 差 を 生 ずることになるとの 指 摘 もなさ れている 以 上 より 詐 欺 罪 の 法 益 侵 害 性 の 判 断 を 法 益 関 係 的 錯 誤 の 有 無 によって 決 する 見 解 の 当 否 については 慎 重 な 検 討 が 必 要 であると 思 われる 従 って この 講 義 においては さしあたり 従 来 の 議 論 の 通 り 財 産 上 の 損 害 の 問 題 として 以 下 の 各 問 題 を 取 り 扱 う 1-5-1 相 当 対 価 の 給 付 問 題 となるのは 価 格 相 当 の 商 品 を 提 供 してもなお 詐 欺 罪 が 成 立 するか? という 点 につい て [ 判 例 ] 判 例 (320)は たとえ 価 格 相 当 の 商 品 を 提 供 したとしても 事 実 を 告 知 するときは 相 手 方 が 金 員 を 交 付 しないような 場 合 には 詐 欺 罪 が 成 立 するとする 財 産 的 損 害 が 詐 欺 罪 の 要 件 でないことから 正 当 であると 理 解 されてきた 他 方 判 例 (319)は ある 薬 を 相 当 価 格 で 売 る 場 合 に 自 分 が 医 者 であると 詐 称 した 事 案 について 被 害 者 に 財 産 上 の 損 害 がないことを 理 由 に 詐 欺 罪 の 成 立 を 否 定 した 一 見 すると 矛 盾 するように 見 えるが 判 例 (320)の 事 案 においては 被 害 者 は 購 入 価 格 以 上 の 価 値 を 獲 得 しようとしていた(そこ - 8 -
2012 年 度 春 学 期 刑 法 II( 各 論 ) 講 義 資 料 に 財 産 上 の 損 害 があった)のに 対 して 判 例 (319)の 事 案 においては 被 害 者 はまさにその 薬 を 得 ようとしていた( 医 者 と 詐 称 した ことは 財 産 上 の 損 害 を 基 礎 づける 要 因 ではない) 点 で 異 なる 即 ち 被 害 者 が 獲 得 しようとして 失 敗 したものが 経 済 的 に 評 価 して 損 害 といいうるものか どうかにより 財 産 上 の 損 害 の 有 無 を 決 すべき ( 損 害 の 概 念 をこのように 考 えるならば 詐 欺 罪 も 財 産 上 の 損 害 を 要 件 とすると 解 すべき ) なお 近 時 の 判 例 として 住 宅 金 融 債 権 管 理 機 構 を 欺 き 根 抵 当 権 等 が 付 された 不 動 産 を 第 三 者 に 売 却 するものと 誤 信 させて 債 務 の 一 部 弁 済 を 受 けて 根 抵 当 権 等 を 放 棄 させた 事 案 について 根 抵 当 権 等 の 放 棄 は 同 機 構 の 方 針 に 反 する 以 上 同 機 構 に 支 払 われた 金 員 が 同 機 構 により 相 当 と 認 められた 金 額 であっても 詐 欺 罪 の 成 立 を 肯 定 することができるとした 判 例 (323)がある このように 考 えるならば 国 家 的 法 益 との 関 係 で 問 題 になるとされる 配 給 詐 欺 ( 判 例 (322) 参 照 ) 国 有 地 の 不 正 取 得 ( 判 例 (321) 参 照 )の 場 合 についても 公 定 価 格 が 本 来 より 低 く 設 定 されている 点 や 限 られた 資 源 を 国 家 政 策 により 公 平 または 効 率 的 に 分 配 するという 利 益 も 経 済 的 価 値 を 有 する 点 から 詐 欺 罪 の 成 立 を 認 めうることになろう 同 様 に 地 方 公 共 団 体 からの 水 道 工 事 の 請 負 人 が 下 請 け 代 金 分 として 自 己 の 口 座 に 振 り 込 まれ た 前 払 金 につき 下 請 け 業 者 に 無 断 で 同 人 の 口 座 を 開 設 し 銀 行 係 員 を 欺 罔 して 振 り 込 み 入 金 させ る 行 為 についても 詐 欺 罪 の 成 立 を 認 めることになる( 最 決 平 成 19 年 7 月 10 日 刑 集 61 巻 5 号 405 頁 参 照 ) 学 説 において これらの 場 合 に 詐 欺 罪 の 成 立 を 否 定 する 見 解 は 行 政 的 規 制 に 反 した 点 が 問 題 であるに 過 ぎず 詐 欺 罪 の 定 型 性 に 欠 けることをその 理 由 とする また 詐 欺 罪 の 成 立 を 肯 定 する 見 解 も 財 物 の 交 付 自 体 が 損 害 であることを 理 由 とするものであった(しかし この 理 由 による ならば 18 歳 未 満 の 者 の 購 入 が 禁 止 されている 書 籍 を 16 歳 の 者 が 年 齢 を 偽 って 購 入 した 場 合 に 詐 欺 罪 が 成 立 することになり 不 当 であろう) 1-5-2 証 明 書 等 の 詐 取 財 産 的 損 害 の 要 件 との 関 連 で 虚 偽 の 申 し 立 てにより 各 種 証 明 書 の 交 付 を 受 ける 行 為 が 問 題 となる [ 判 例 ] 以 下 の 各 場 合 については 詐 欺 罪 の 成 立 を 否 定 する * 建 物 所 有 証 明 書 ( 大 判 大 正 3 年 6 月 11 日 刑 録 20 輯 1171 頁 ) * 印 鑑 証 明 書 ( 判 例 (327)) * 旅 券 ( 判 例 (328)) 学 説 は その 理 由 として (1) 行 政 的 規 制 の 潜 脱 であって 詐 欺 罪 の 定 型 性 を 欠 く とする ものもあるが むしろ(2) 財 物 性 財 産 上 の 利 益 が 欠 如 するため とするものが 有 力 である ただし 157 条 2 項 ( 免 状 等 不 実 記 載 罪 )の 存 在 が 考 慮 されるべき 免 状 鑑 札 旅 券 の 間 接 無 形 偽 造 には 当 然 に 内 容 虚 偽 の 証 明 書 の 受 交 付 という 詐 欺 罪 の 類 型 まで 処 罰 されている( 従 って 別 罪 を 構 成 しない)との 理 解 であれば 他 の 証 明 書 の 詐 取 についても 刑 の 均 衡 の 観 点 から 詐 欺 罪 での 処 罰 は 許 されな いと 解 すべき しかし 157 条 2 項 は それ 自 体 としては 経 済 的 価 値 の 低 い 事 実 証 明 についての 公 文 書 の 間 接 無 形 偽 造 を 処 罰 するものであるから 同 条 項 の 対 象 外 の 公 的 文 書 であって 社 会 生 活 上 重 要 な 経 済 的 価 値 を 有 するものである 場 合 ( 特 に 一 定 の 給 付 を 内 容 とする 文 書 )は 詐 欺 罪 の - 9 -
~ 個 人 の 学 習 目 的 での 利 用 以 外 の 使 用 禁 止 ~ 成 立 を 認 めてよい [ 判 例 ] 以 下 の 各 場 合 については 詐 欺 罪 の 成 立 を 肯 定 している * 米 穀 通 帳 ( 最 判 昭 和 24 年 11 月 17 日 刑 集 3 巻 11 号 1808 頁 ) * 輸 出 証 明 書 ( 大 阪 高 判 昭 和 42 年 11 月 29 日 判 時 518 号 83 頁 ) * 健 康 保 険 証 ( 判 例 (329)(333)) ただし 下 級 審 レヴェルではあるが 詐 欺 罪 の 成 立 を 否 定 したものとして 判 例 (330)(331) がある * 簡 易 生 命 保 険 証 書 ( 判 例 (332)) また 以 上 のことは 私 文 書 についても 妥 当 する 他 人 名 義 で 銀 行 預 金 口 座 を 開 設 し 預 金 通 帳 の 交 付 を 受 けた 事 案 については 判 例 (334)を 預 金 通 帳 等 を 第 三 者 に 譲 渡 する 意 図 であ ったのにそれを 秘 して 自 己 名 義 の 銀 行 預 金 口 座 を 開 設 し 預 金 通 帳 等 の 交 付 を 受 けた 事 案 につ いては 判 例 (335)をそれぞれ 参 照 のこと また 最 近 の 判 例 として 国 際 線 搭 乗 手 続 にお いて 他 人 を 搭 乗 させる 意 思 を 秘 して 自 己 の 航 空 機 搭 乗 券 を 交 付 させた 事 案 について 詐 欺 罪 の 成 立 を 認 めているものがある 最 決 平 成 22 年 7 月 29 日 刑 集 64 巻 5 号 829 頁 参 照 1-5-3 不 法 原 因 給 付 と 詐 欺 罪 民 法 708 条 不 法 な 原 因 のために 給 付 をした 者 は その 給 付 したものの 返 還 を 請 求 す ることができない ただし 不 法 な 原 因 が 受 益 者 についてのみ 存 したときは この 限 り でない 不 法 原 因 給 付 物 については 返 還 請 求 できないのであるから これを 詐 取 しても 詐 欺 罪 は 成 立 しないのではないか? [ 例 ] 麻 薬 を 売 ってやると 欺 いて 代 金 を 詐 取 した 場 合 給 付 者 は 代 金 の 返 還 を 請 求 できないか [ 判 例 ] ら 詐 欺 罪 は 成 立 しないのでは? 判 例 は 一 貫 して 詐 欺 罪 の 成 立 を 肯 定 している * 通 貨 偽 造 の 資 金 と 欺 いて 金 銭 を 詐 取 した 場 合 ( 大 判 明 治 43 年 5 月 23 日 刑 録 16 輯 906 頁 ) * ヤミ 米 を 買 ってやると 欺 いて 金 銭 を 詐 取 した 場 合 ( 判 例 (339)) * 売 春 をすると 偽 って 前 借 金 を 詐 取 した 場 合 ( 最 決 昭 和 33 年 9 月 1 日 刑 集 12 巻 13 号 2833 頁 ) * 詐 欺 賭 博 の 場 合 ( 判 例 (297)) 以 上 は 欺 罔 手 段 によって 相 手 方 の 財 物 に 対 する 支 配 権 を 侵 害 した 以 上 たとい 相 手 方 の 財 物 交 付 が 不 法 の 原 因 に 基 いたものであって 民 法 上 其 返 還 又 は 損 害 賠 償 を 請 求 することができな い 場 合 であっても 詐 欺 罪 の 成 立 をさまたげるものではないからである ( 統 制 物 資 の 詐 取 の 事 案 (#) についての 最 判 昭 和 25 年 7 月 4 日 刑 集 4 巻 7 号 1168 頁 )という 点 をその 理 由 とする [ 学 説 ] A. 否 定 説 民 法 708 条 本 文 により 返 還 請 求 が 認 められない 以 上 財 産 上 の 損 害 がないことを 理 由 と - 10 -
2012 年 度 春 学 期 刑 法 II( 各 論 ) 講 義 資 料 する B. 肯 定 説 B-1. 被 害 者 は 欺 かれなければ 財 物 を 交 付 しなかったであろうことを 理 由 とする B-2. 交 付 する 財 物 財 産 上 の 利 益 そのものは 交 付 するまでは 不 法 性 あるものではなく むしろ 欺 罔 行 為 によって 被 害 者 の 適 法 な 財 産 状 態 を 侵 害 するものであることを 理 由 とす る [ 問 ] 代 金 を 支 払 うと 欺 いて 売 春 させたり 報 酬 を 支 払 うと 偽 って 犯 罪 行 為 を 行 わせたうえに 支 払 を 免 れた 場 合 にも 2 項 詐 欺 罪 が 成 立 するか? 売 春 の 事 案 について 判 例 は 肯 定 説 ( 判 例 (337) 詐 欺 罪 の 処 罰 根 拠 は 単 に 被 害 者 の 財 産 の 保 護 のみにあるのではなく かかる 違 法 な 手 段 による 行 為 は 社 会 秩 序 を 乱 すことにある と する)と 否 定 説 ( 判 例 (338) 売 春 行 為 は 公 序 良 俗 に 反 するから 契 約 は 無 効 であって 債 務 を 負 担 することはない とする)に 分 かれている 売 春 行 為 が 公 序 良 俗 に 反 する 以 上 それ 自 体 法 的 保 護 に 値 する 財 産 上 の 利 益 とはいえ ないので 欺 罔 により 代 金 の 支 払 を 免 れることも 財 産 上 の 損 害 を 生 ぜしめるものではな いと 解 すべき 参 考 文 献 1-2-2 について * 判 例 (294)について: 山 口 厚 基 本 判 例 に 学 ぶ 刑 法 各 論 pp. 112-114 1-4 について * 山 口 厚 詐 欺 罪 における 交 付 行 為 問 題 探 究 刑 法 各 論 pp. 146-160 のうち pp. 146-153 の 部 分 * 井 田 良 処 分 行 為 ( 交 付 行 為 )の 意 義 刑 法 の 争 点 pp. 182-183 * 判 例 (314)について: 山 口 厚 基 本 判 例 に 学 ぶ 刑 法 各 論 pp. 129-131 * 判 例 (298)について: 山 口 厚 基 本 判 例 に 学 ぶ 刑 法 各 論 pp. 115-117 * 判 例 (301)について: 山 口 厚 基 本 判 例 に 学 ぶ 刑 法 各 論 pp. 117-119 * 山 口 厚 詐 欺 罪 における 交 付 行 為 新 判 例 から 見 た 刑 法 [ 第 2 版 ] pp. 190-203( 検 討 の 素 材 は 判 例 (314)) * 林 幹 人 詐 欺 罪 の 新 動 向 判 例 刑 法 pp. 273-292 のうち pp. 273-280 の 部 分 ( 検 討 の 素 材 は 判 例 (314) および 第 8 回 1-7 で 取 り 扱 う 判 例 (292)) 1-5 全 体 について * 山 口 厚 詐 欺 罪 における 財 産 的 損 害 問 題 探 究 刑 法 各 論 pp. 161-175 のうち pp. 161-172 の 部 分 * 酒 井 安 行 詐 欺 罪 における 財 産 的 損 害 刑 法 の 争 点 pp. 190-191 1-5-1 および 1-5-2 について * 伊 藤 渉 不 正 受 給 と 詐 欺 刑 法 の 争 点 pp. 188-189 * 林 幹 人 詐 欺 罪 の 現 状 判 例 刑 法 pp. 293-302( 検 討 の 素 材 は 最 決 平 成 19 年 7 月 10 日 刑 集 61 巻 5 号 405 頁 判 例 (335)(323)) 1-5-1 について * 判 例 (320)について: 山 口 厚 基 本 判 例 に 学 ぶ 刑 法 各 論 pp. 133-134 * 判 例 (321)について: 山 口 厚 基 本 判 例 に 学 ぶ 刑 法 各 論 pp. 134-139 1-5-2 について * 判 例 (328)について: 山 口 厚 基 本 判 例 に 学 ぶ 刑 法 各 論 pp. 139-144 - 11 -
~ 個 人 の 学 習 目 的 での 利 用 以 外 の 使 用 禁 止 ~ * 判 例 (332)について: 山 口 厚 基 本 判 例 に 学 ぶ 刑 法 各 論 pp. 144-145 * 判 例 (335)について: 山 口 厚 基 本 判 例 に 学 ぶ 刑 法 各 論 pp. 145-147 * 山 口 厚 文 書 の 不 正 取 得 と 詐 欺 罪 の 成 否 新 判 例 から 見 た 刑 法 [ 第 2 版 ] pp. 218-235( 検 討 の 素 材 は 判 例 (334)(332)) * 林 幹 人 詐 欺 罪 の 新 動 向 判 例 刑 法 pp. 273-292 のうち pp. 280-291 の 部 分 ( 検 討 の 素 材 は 判 例 (334)(332) および 第 8 回 1-6-3-2 で 取 り 扱 う 判 例 (316)) 1-5-3 について * 豊 田 兼 彦 不 法 原 因 給 付 と 詐 欺 横 領 刑 法 の 争 点 pp. 192-193 最 判 昭 和 25 年 7 月 4 日 刑 集 4 巻 7 号 1168 頁 ( 項 目 1-5-3 の (#) 印 )は 判 例 刑 法 各 論 [ 第 5 版 ] には 未 登 載 であるが 刑 法 判 例 百 選 II 各 論 [ 第 6 版 ] に No. 44 の 判 例 として 登 載 されているので 必 要 があればこ ちらを 利 用 していただきたい 刑 法 各 論 の 思 考 方 法 [ 第 3 版 ] 参 照 箇 所 (1-3 および)1-4 について: 第 13 講 1-5-1 および 1-5-2 について: 第 14 講 のうち 特 に pp. 225-237 の 部 分 1-5-3 について: 第 6 講 のうち 特 に pp. 118-121 の 部 分 - 12 -