膝 関 節 内 注 射 が 効 かない 変 形 性 膝 関 節 症 のブロック 治 療 < 要 旨 > 変 形 性 膝 関 節 症 という 診 断 の 元 に 膝 関 節 内 注 射 を 定 期 的 に 行 っている 患 者 は 少 なくない しかし 膝 関 節 内 注 射 が 特 に 治 療 効 果 を 発 揮 していないにもかかわらず 延 々と 外 来 で 注 射 をし 続 ける 患 者 が 全 国 のどの 施 設 にも 目 立 つ 今 回 一 日 に 私 の 外 来 に 訪 れる 膝 関 節 内 注 射 施 行 患 者 の 症 状 と 治 療 効 果 を 徹 底 的 に 調 査 を 行 った その 結 果 注 射 治 療 を 行 っている 患 者 の 半 数 が 神 経 痛 ( 腰 由 来 の 神 経 根 症 )を 合 併 していることが 判 明 しかし そのほとんどは 神 経 痛 に 対 する 治 療 がなされていなか った 神 経 痛 を 合 併 している 膝 関 節 症 患 者 は 膝 関 節 内 注 射 が 著 効 することはなく これらの 患 者 に 腰 椎 神 経 根 ブロックを 行 ったところ ほぼ 全 員 が 著 効 し 満 足 のいく 治 療 効 果 が 得 ら れた 本 レポートは 難 治 性 と 思 われる 膝 痛 の 症 状 の 約 半 数 が 膝 が 原 因 ではなく 腰 椎 由 来 の 神 経 痛 ( 中 枢 感 作 )であったということを 知 らしめるためのものである <2011.2.19 の 外 来 に 訪 れた 全 膝 関 節 内 注 射 施 行 患 者 の 疼 痛 精 密 調 査 > 患 者 自 覚 症 状 自 覚 症 状 下 肢 痛 殿 部 関 注 ブロック 最 終 判 断 ( 右 膝 ) ( 左 膝 ) 痛 効 果 治 療 効 果 77 女 POP MJS わずか Epi 著 効 膝 痛 は 腰 神 経 根 に 依 存 58 男 MEC MJS 左 右 無 効 Epi 著 効 膝 痛 は 腰 神 経 に 起 因 71 女 POP 右 まあまあ L5RB 著 効 膝 痛 に 腰 神 経 痛 が 重 なる 66 女 LJS 左 下 腿 外 左 わずか L5RB 著 効 膝 痛 は 腰 神 経 に 依 存 85 女 MJS MJS 著 効 L5RB 著 効 膝 痛 に 腰 神 経 痛 が 重 なる 85 女 LJS 左 下 肢 外 左 わずか Epi 著 効 膝 痛 は 腰 神 経 に 依 存 63 女 MJS MJS SP 左 わずか L5RB 著 効 膝 痛 は 腰 神 経 に 依 存 72 女 LJS SP 無 効 L3RB 著 効 膝 痛 は 腰 神 経 に 起 因 82 女 MJS 左 下 腿 内 無 効 L4RB 著 効 膝 痛 は 腰 神 経 に 起 因 83 女 MEC MEC 無 効 Epi 著 効 膝 痛 は 腰 神 経 に 起 因 86 女 MEC 無 効 L4RB 著 効 膝 痛 は 腰 神 経 に 起 因 78 女 MEC LEC わずか L5RB 有 効 膝 痛 は 腰 神 経 に 依 存 84 女 LJS LJS わずか L5RB 著 効 膝 痛 は 腰 神 経 に 依 存 69 女 MJS MJS 左 下 腿 外 著 効 膝 痛 に 腰 神 経 痛 が 重 なる 73 女 MJS MJS 著 効 膝 単 独 痛 79 女 MJS MJS 著 効 膝 単 独 痛 66 女 MJS 左 下 肢 後 著 効 膝 痛 と 独 立 腰 神 経 痛
59 女 LJS LJS 左 右 著 効 膝 単 独 痛 78 女 MJS 右 著 効 L3RB 著 効 膝 痛 と 独 立 腰 神 経 痛 82 女 MJS 著 効 膝 単 独 痛 84 女 LJS 著 効 膝 単 独 痛 71 女 全 体 右 下 肢 外 著 効 L5RB 有 効 膝 痛 に 腰 神 経 痛 が 重 なる 66 女 MJS MJS 著 効 膝 単 独 痛 72 女 LJS MJS 著 効 膝 単 独 痛 89 女 MJS 右 下 腿 後 著 効 膝 痛 と 独 立 腰 神 経 痛 62 女 POP MJS 右 大 腿 前 著 効 L45RB 著 効 膝 痛 に 腰 神 経 痛 が 重 なる 74 女 MJS MJS 著 効 膝 単 独 痛 POP: 膝 窩 MJS: 内 側 関 節 裂 隙 LJS: 外 側 関 節 裂 隙 MEC: 内 側 上 顆 LEC: 外 側 上 顆 SP: 膝 蓋 骨 上 部 Epi: 腰 部 硬 膜 外 ブロック RB: 神 経 根 ブロック 27 人 の 患 者 に 膝 痛 出 現 場 所 の 正 確 な 場 所 とききとり 膝 関 節 注 射 を 行 い その 効 果 を 調 査 した 膝 関 節 内 注 射 が 無 効 またはわずかしか 効 果 がない 者 には 腰 部 硬 膜 外 ブロック(Epi) や 腰 部 神 経 根 ブロック(RB)を 行 い その 効 果 を 調 査 した ここでいう 著 効 とは 疼 痛 が 3 割 以 下 である 状 態 が 1 週 間 以 上 続 いている 状 態 をいう また 膝 痛 以 外 に 自 覚 症 状 があれ ばそれも 記 載 した ちなみに 私 の 外 来 にはリハビリのみ 経 口 薬 のみを 希 望 して 受 診 した 者 はこの 日 一 人 もおらず 全 員 が 何 らかの 注 射 療 法 を 受 けている < 結 果 > 膝 の 痛 みを 訴 え 関 節 内 注 射 を 行 った 外 来 患 者 27 人 のうち その 効 果 がない またはわ ずかしかないという 患 者 は 11 名 (40.7%)だった 膝 の 痛 みをわずらう 患 者 のうち 13 名 は(48.1%) 腰 由 来 の 神 経 痛 を 推 測 させるような 殿 部 痛 や 下 肢 痛 を 合 併 し 自 覚 していた 膝 の 痛 みが 膝 関 節 内 注 射 で 効 果 がなく 腰 へのブロック 注 射 でのみ 治 療 効 果 が 上 がった 患 者 が 11 名 (40.7%)であったわけだが 11 名 全 員 が 膝 関 節 内 注 射 を 何 度 も 繰 り 返 し 受 け ており 膝 関 節 疾 患 による 痛 みではないにもかかわらず 膝 関 節 症 による 痛 みと 誤 診 され 不 適 切 な 処 置 が 続 けられていたことが 判 明 した 患 者 の 訴 える 痛 みの 部 位 別 にみると MJS( 内 側 関 節 裂 隙 )に 痛 みを 訴 えた 患 者 は 16 名 で このうち 5 名 (31.3%)は 膝 関 節 内 注 射 がほとんど 効 果 なく 神 経 ブロックしか 効 果 が なかった POP( 膝 窩 部 )に 痛 みを 訴 えた 患 者 は 3 名 で そのうち 2 名 (66.7%)は 膝 関 節 内 注 射 が 効 果 が 乏 しく 神 経 ブロックが 有 効 だった LJS( 外 側 関 節 裂 隙 )に 痛 みを 訴 えた 患 者 は 7 名 で そのうち 4 名 (57.1%)は 膝 関 節 内 注 射 がほとんど 効 果 なく 神 経 ブロックしか 効 果 がなかった 特 筆 すべきは MEC( 内 側 上 顆 ) LEC( 外 側 上 顆 ) SP( 膝 蓋 骨 上 部 )に 痛 みを 訴 えた
患 者 で これらの 患 者 は 全 員 (100%)が 膝 関 節 内 注 射 が 効 果 なく 神 経 ブロックのみが 効 果 があった つまり MEC LEC SP の 膝 の 痛 みは 膝 の 疾 患 に 起 因 していなかったわけで これらの 部 位 に 疼 痛 を 訴 える 患 者 は 膝 疾 患 が 原 因 ではなかった < 考 察 > 患 者 が 膝 の 痛 みを 訴 えるとき それが 純 粋 に 膝 関 節 の 疾 患 である 可 能 性 は 60% 程 度 であ った すなわち 痛 みの 原 因 が 膝 疾 患 でないにもかかわらず 膝 関 節 内 注 射 のみで 治 療 されて いる 患 者 は 今 回 の 抜 きうち 調 査 で 40%にものぼる この 調 査 を 個 人 的 な 偏 りのあるデータ であると 不 信 感 を 持 って 拒 絶 するのではなく 全 国 全 年 代 全 男 女 に 40%( 誤 診 率 ) 程 度 存 在 する 可 能 性 があると 真 摯 に 受 け 止 めたほうがいい 変 形 性 膝 関 節 症 に 特 有 とされる MJS( 内 側 関 節 裂 隙 )の 痛 みでさえ これが 変 形 性 膝 関 節 症 の 決 め 手 にはならないことを 肝 に 銘 じておく 必 要 がある さらに 関 節 裂 隙 からわずか 3cm 上 方 の 痛 みは 今 回 の 調 査 で 100% 膝 由 来 の 痛 みでは なかった これまでこのあたりの 痛 みはタナ 障 害 膝 蓋 大 腿 関 節 の 痛 みによると 信 じて 疑 われていなかった 背 景 があるため ほとんどの 整 形 外 科 医 が 誤 診 をする 土 壌 ができあがっ ている しかも 患 者 は 痛 みの 場 所 をピンポイントに 指 し 示 すことが 不 可 能 なため 何 度 も 何 度 もていねいに 訊 きださない 限 り 関 節 裂 隙 から3cm 上 方 の 痛 みを 同 定 することさえ できない つまり 誤 診 を 防 ぐには 患 者 とのコミュニケーションを 密 にして 精 密 に 痛 みの 箇 所 の 聞 き 取 りをしなくてはならず たやすくできることではない しかしこれらの 問 診 作 業 をていねいに 行 わないかぎり 腰 神 経 由 来 の 神 経 痛 の 存 在 を 確 認 することができない このため 誤 診 による 膝 痛 とエックス 線 の 評 価 のみで 手 術 の 適 応 を 決 めるなどの しなくてもいい 手 術 が 行 われている 可 能 性 がある そのため 手 術 後 も 膝 の 痛 みが 全 くとれないという 悲 惨 なことが 起 こりうる < 今 後 の 展 望 と 課 題 > 膝 の 痛 みには 想 像 を 絶 する 率 の 誤 診 が 潜 む 百 歩 譲 って 整 形 外 科 医 の 誤 診 を 認 めたとし ても その 展 望 は 決 して 明 るくない その 理 由 は たとえ 膝 の 痛 みが 腰 神 経 由 来 だと 推 測 できたとしても その 神 経 痛 を 治 療 するための 方 法 の 敷 居 が 高 いからである 腰 部 硬 膜 外 ブロック 腰 神 経 根 ブロックなど 神 経 痛 を 治 療 する 注 射 手 技 は 患 者 にかけ る 負 担 ( 苦 痛 )が 大 きく 膝 が 痛 い くらいの 症 状 では 患 者 に 神 経 ブロックを 受 けること を 納 得 させることができない したがってどれほど 著 効 する 治 療 であっても 神 経 ブロッ クを 受 けさせるためにはその 手 技 自 体 を 数 分 以 内 にできるもので 安 全 であまり 痛 みをと もなわないブロック 手 技 へと 改 良 を 加 えなければならない( 私 の 手 技 を 後 ほど 紹 介 する) さらに 患 者 は 膝 が 痛 い と 思 い 込 んでいるため 腰 に 対 して 治 療 をしようとすれば 患 者 が 医 者 に 対 して 不 信 感 を 持 つことが 少 なくない 膝 痛 にカムフラージュされた 神 経 痛 を 探 り 出 すためには 患 者 から 懇 切 丁 寧 に 主 訴 を 訊
きだし かつ 神 経 ブロック 注 射 を 受 けることを 説 得 するというとても 繁 雑 な 接 客 をしなけ ればならない そのうえ 説 得 がうまくいかない 場 合 は 患 者 に 不 信 感 を 持 たれるという 全 く 割 にあわない 役 柄 を 担 当 医 が 引 き 受 けなければならない さらには 神 経 ブロックの 経 験 を 積 み 安 全 に 無 痛 ですみやかにできるところにまで 修 行 をしなければ 患 者 は 神 経 ブロック 治 療 を 受 けることに 同 意 しないし 医 師 自 身 が 患 者 に 治 療 を 進 める 自 信 さえ 芽 生 えないだろう また どこの 場 所 の 痛 みがどの 神 経 根 由 来 であ るのか?を 判 断 できる 経 験 や 知 識 がなければ 神 経 根 ブロック 自 体 が 無 駄 に 終 わる < 高 齢 化 社 会 における 膝 治 療 のポジション> 上 に 挙 げた 症 例 は 神 経 ブロックを 行 うことで 全 例 が 想 像 を 超 えた 劇 的 治 療 効 果 を 発 揮 し た 想 像 を 超 えた とは 具 体 的 に 言 うと 一 度 の 治 療 で 3 年 前 からの 膝 痛 がゼロになった 1 年 前 からできなかった 和 式 のトイレができるようになった あの 注 射 1 本 打 ってから 痛 みがずっと 全 然 ありません といった まるで 魔 法 にでもかかったかのような 効 果 を 発 揮 している これは 決 して 安 売 りの 誇 大 広 告 ではなく 患 者 自 身 が 自 らそのように 告 げたも のだ おそらくこれをお 読 みの 医 師 たちが 経 験 したことのない 治 療 効 果 であり 不 信 に 思 われてもしかたがない しかし 実 際 に 私 の 医 療 現 場 ではこのような 劇 的 な 治 療 が 行 わ れ 多 くの 患 者 に 役 立 っていることを 無 視 しないでいただきたい 重 要 なことは これらの 患 者 が 現 在 のままの 膝 の 治 療 のみを 継 続 していたら 将 来 的 にど うなっているか?を 想 像 することである 神 経 痛 から 来 る 痛 みは 軽 快 することはめったに なく 逆 に 加 齢 とともに 悪 化 することがたやすく 予 想 される 現 時 点 で 患 者 たちは 強 い 痛 みを 訴 えておらず 医 師 に 不 平 をもらすことなく 多 少 の 痛 みを 我 慢 して 生 活 している しか し これが 歩 行 困 難 なレベルの 強 い 神 経 痛 に 進 んだ 場 合 その 時 点 であなたがた 医 師 に 神 経 痛 の 治 療 を 適 切 に 行 えるだろうか? 患 者 の 年 齢 を 見 ればわかるように 彼 らは 高 齢 であり 脊 椎 は 極 度 に 変 形 している そして 長 年 放 置 されて 癒 着 を 起 こした 神 経 根 をすみやかに 治 療 できるだろうか?それは 熟 練 した ペインクリニックの 医 師 にさえ 難 しい 膝 が 少 し 痛 いががまんできないほどでもない という 程 度 の 痛 みのうちに 治 療 を 行 え ば 想 像 を 超 えた 劇 的 な 改 善 が 期 待 できる そうであるなら 誤 診 率 40%の 現 時 点 で 的 確 に 神 経 痛 の 治 療 を 行 うことが 高 齢 化 社 会 を 支 える 上 でいかに 重 要 なことかということが 理 解 で きるだろう 蛇 足 ではあるがこの 時 期 に 神 経 ブロックを 行 うことで 医 療 費 がどれほど 節 減 でき 国 の 財 政 を 助 けることができるか 想 像 してみてほしい 高 齢 者 の 膝 痛 患 者 の 4 割 は 治 療 が 無 効 で 将 来 的 に 神 経 痛 へと 推 移 していく 可 能 性 があ る これらの 患 者 が TKA( 膝 関 節 全 置 換 術 )を 行 ったところで 十 分 な 除 痛 も 期 待 できない 我 々 医 師 がこの 事 実 を 見 過 ごしていいレベルではない 膝 の 痛 みに 隠 された 神 経 痛 を 見 つけ 出 す 診 療 技 術 を 身 につけること そしてこれらの 神
経 痛 を 可 能 な 限 り 早 期 に 患 者 を 説 得 して 治 療 に 当 たることが 急 務 と 思 われる <まとめ> 高 齢 者 で 膝 の 痛 みを 訴 える 患 者 の 4 割 は 膝 関 節 内 注 射 が 無 効 である これらの 患 者 に 神 経 根 ブロック 注 射 を 適 切 におこなえば 劇 的 に 症 状 が 改 善 した 神 経 痛 由 来 の 膝 痛 に 特 徴 な 痛 点 は 内 側 上 顆 外 側 上 顆 膝 蓋 骨 上 部 であり ここを 痛 がる 患 者 の 場 合 変 形 性 膝 関 節 症 よりも 変 形 性 腰 椎 症 による 神 経 痛 を 第 一 に 考 えなければならない これらの 患 者 を 現 時 点 で 神 経 痛 治 療 することは 高 齢 化 社 会 において 極 めて 有 用 なことであり 医 師 の 各 自 が 今 よ りさらに 神 経 ブロックの 手 技 を 上 達 させることが 急 務 と 思 われた