母 豚 のボディコンディションの 適 正 化 による 生 産 性 向 上 への 取 り 組 み 中 央 家 畜 保 健 衛 生 所 村 山 修 吾 権 田 寛 子 堀 江 香 会 丸 山 幹 夫 石 田 秀 史 はじめに これまで 家 畜 保 健 衛 生 所 が 行 う 生 産 性 向 上 対 策 は 疾 病 コントロールが 主 体 であったが そも そも 繁 殖 成 績 が 悪 く 生 産 頭 数 が 少 ない 農 場 も 存 在 し 繁 殖 成 績 を 高 いレベルで 安 定 させること が 必 要 である 母 豚 の 繁 殖 成 績 の 良 否 は いかにボディコン ディションを 適 正 に 保 つかが 重 要 となることか ら 平 成 25 年 度 から 新 潟 県 畜 産 安 心 ブランド ク リーンポーク 生 産 農 場 をモデル 農 場 として 母 豚 のボディコンディション 管 理 による 繁 殖 成 績 の 向 上 改 善 指 導 を 開 始 し その 有 用 性 が 認 められたことから 報 告 する ボディコンディションとP2 点 背 脂 肪 厚 測 定 まずボディコンディションとは 母 豚 に 蓄 積 されている 脂 肪 量 から 痩 せか 太 っているかを 判 断 し その 尺 度 として ボディコンディション スコア(BCS) が 示 されている 従 来 は 全 体 的 な 外 観 や 腰 骨 の 触 知 で 判 断 され 管 理 者 の 経 験 と 感 覚 に 大 きく 左 右 されるが P2 点 背 脂 肪 厚 は 客 観 的 に 数 値 で 判 断 することがで きる BCSはP2 点 背 脂 肪 厚 によって1.0~5.0まで7 段 階 で 分 けられ[1] 品 種 や 育 種 等 から 各 農 場 に 適 した 適 正 範 囲 を 定 めることが 必 要 であるが 今 回 はBCSで2.5~3.5 P2 点 背 脂 肪 厚 で15~20mm を 適 正 範 囲 と 設 定 し 取 り 組 みを 開 始 した( 表 1) る 脊 椎 の 中 心 から5~6cm 横 となる( 図 1) 当 所 ではP2 点 を 決 めたら 一 般 のハサミで 毛 を 刈 り 食 用 油 を 滴 下 して 測 定 を 実 施 している 測 定 には エニースキャンBF (Songkang 社 ) を 用 いた 本 製 品 はコンパクトで 電 源 を 入 れれ ば 片 手 でも 測 定 が 可 能 であり 測 定 労 力 の 省 力 化 を 期 待 し 機 種 選 定 した さらに 複 数 の 農 場 で 使 用 することを 想 定 し 測 定 時 は 接 続 部 分 にビニールテープを 巻 き 本 体 をビニール 袋 に 入 れて 測 定 することで でき る 限 り 豚 舎 環 境 中 への 露 出 を 抑 え 必 要 に 応 じ て 消 毒 できるよう 工 夫 した( 図 2) 測 定 は 容 易 で 慣 れれば 最 後 肋 骨 の 確 認 から 毛 刈 りも 含 め 1 頭 あたり30~40 秒 程 度 で 測 定 が 可 能 であり 繁 殖 ストールに 限 らず 分 娩 柵 にいる 授 乳 中 母 豚 や 群 飼 での 測 定 もストレスなく 実 施 できる 最 後 肋 骨 を 確 認 脊 椎 に 対 して 垂 直 表 1 BCS 表 BCS 1.0 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 5.0 著 しく 痩 せすぎ 痩 せすぎ 細 め 正 常 やや 太 め 太 め 太 り 過 ぎ P2 点 背 脂 肪 厚 (mm) 10~12 12~14 15~16 17~18 18~20 21~24 25 以 上 設 定 適 正 範 囲 P2 点 の 位 置 は 母 豚 の 脇 腹 で 最 後 肋 骨 を 確 認 し 脊 椎 に 対 して 垂 直 のラインを 引 き 交 差 す 図 1 P2 点 の 位 置 脊 椎 の 中 心 から 5~6cmの 位 置 ( 指 3 本 程 度 )
( 使 用 時 ) 図 2 使 用 機 器 エニースキャンBF 図 3は 左 右 ともP2 点 背 脂 肪 厚 が18mmで 同 じBCS の 母 豚 である しかしながら 見 た 目 では 左 側 の 母 豚 が 痩 せているようにみえることから 給 餌 量 を 増 やし 過 肥 にさせるリスクがある また 図 4 のように 一 見 右 側 の 母 豚 が 過 肥 で 左 側 が 痩 せて いるようにみえるが 実 際 は 痩 せてみえる 左 側 のP2 点 背 脂 肪 厚 は3mm 多 い よって 見 た 目 だけ で 判 断 するとさらにBCSを 崩 してしまう 恐 れがあ るものの 多 くの 農 場 では 見 た 目 の 判 断 が 行 わ れているのが 現 状 ある 18mm 18mm 図 3 見 た 目 によるBCSの 判 断 事 例 (1) 20mm 17mm A 農 場 での 取 り 組 み 1 取 り 組 み 開 始 前 の 概 要 A 農 場 は 母 豚 150 頭 規 模 の 一 貫 経 営 で 種 豚 は 全 て 自 家 育 成 であり 肉 豚 出 荷 に 加 え 月 120 頭 の 子 豚 出 荷 をしていた 巡 回 時 等 の 聞 き 取 りの 中 で 1 出 荷 頭 数 が 少 ない 2 産 子 数 が 少 なく さらに 圧 死 と 下 痢 に よる 死 亡 が 多 いことから 離 乳 頭 数 が 伸 びない 3 離 乳 から 種 付 まで 平 均 10.33 日 と 空 胎 日 数 が 長 い 4 母 豚 の 廃 用 サイクルが 短 く 3 産 での 廃 用 が 多 い 5 後 継 豚 作 出 のため 純 粋 豚 が 全 体 の40 %を 占 め さらに 成 績 を 不 安 定 にさせている などの 問 題 点 が 挙 げられた 実 際 に 立 ち 入 りを 行 った 際 経 産 豚 は 全 体 的 に 痩 せており 逆 に 育 成 豚 や 未 経 産 豚 は 過 肥 が 目 立 ち 授 乳 中 の 母 豚 は 乳 房 の 張 りが 弱 く 泌 乳 量 が 少 ないようにみえたことから まずはP2 点 背 脂 肪 厚 測 定 を 提 案 したところ 生 産 者 から も 実 施 の 要 望 があり 取 り 組 みを 開 始 することと なった 初 回 は 平 成 25 年 10 月 30 日 に 母 豚 155 頭 を 測 定 し た 適 正 範 囲 の 母 豚 は28.4%と 少 なく P2 点 背 脂 肪 厚 の 平 均 は16.6±6.69mmで 非 常 にばらつい ていた( 図 5) 図 5は 種 付 け 日 を 基 準 として 種 付 後 日 数 毎 に プロットしたものだが 離 乳 以 降 に 著 しくP2 点 背 脂 肪 厚 が 少 ないことがわかり さらに 種 付 け ができていない 母 豚 が 多 いことがわかる また 図 6は 測 定 した 母 豚 を 産 歴 毎 にプロット すると 産 歴 を 重 ねるごとに 著 しく 背 脂 肪 が 薄 くなる 傾 向 がわかり これだけでも 農 場 が 抱 え る 多 くの 問 題 点 がみえてくることから まずは 全 頭 測 定 が 重 要 である A 農 場 の 産 歴 構 成 をみると2 産 目 までの 割 合 が 高 く 3 産 目 以 降 の 廃 用 が 多 いことから 乳 房 炎 対 策 として 分 娩 から10 日 間 給 餌 量 を 制 限 してい た 飼 養 管 理 によって 3 産 目 で 母 豚 の 消 耗 が 激 し く 廃 用 が 多 いと 推 察 された( 図 7) 図 4 見 た 目 によるBCS 判 断 事 例 (2) 2 初 回 測 定 後 の 改 善 指 導 まず P2 点 背 脂 肪 厚 測 定 は 適 正 給 餌 量 の 把 握 や 改 善 効 果 の 確 認 のため 毎 月 定 期 的 に 実 施 す
ることとし 初 回 成 績 から 授 乳 ステージは 給 餌 量 を 分 娩 翌 日 から 徐 々に 増 加 し7 日 目 で6kg 分 娩 10 日 目 以 降 は8kgを 目 標 とした 妊 娠 ステージ は 基 本 給 餌 量 である2.4kg/ 日 を 維 持 し 育 成 時 は 制 限 給 餌 に 変 更 して 初 回 種 付 け 時 18mm 前 後 を 目 標 とした また 適 正 外 母 豚 には 基 本 給 餌 量 に 対 して ±0.5~1.0kgの 増 減 を 種 付 け8 日 目 ~37 日 目 ま で さらに 必 要 に 応 じて75 日 目 まで 実 施 し 分 娩 2 週 前 からの 餌 増 (フラッシング)を 確 実 に 行 うよう 指 導 した さらに 繁 殖 成 績 が 悪 い 母 豚 は 順 次 廃 用 するこ ととし 強 健 性 や 繁 殖 能 力 に 勝 るF1を 今 後 増 頭 することに 加 え 子 豚 育 成 率 の 改 善 を 目 的 に 泌 乳 量 に 係 わらず 代 用 乳 の 給 与 と 離 乳 後 の 強 い 発 情 回 帰 を 目 的 に 砂 糖 給 与 や 設 置 されてなかっ た 保 温 箱 を 低 コストで 自 作 し さらなる 育 成 率 アップを 目 指 した 毎 月 の 測 定 後 はデータを 分 析 して 成 績 書 を 作 成 し 農 場 の 改 善 状 況 や 次 回 までの 指 導 事 項 を 生 産 者 に 還 元 することで 切 れ 間 のないアフタ ーフォローに 取 り 組 んだ 3 取 り 組 みの 効 果 取 り 組 みを 開 始 してから1 年 が 経 過 した 平 成 26 年 10 月 30 日 に 母 豚 156 頭 を 測 定 した P2 点 背 脂 肪 図 5 H25.10.30 母 豚 群 P2 点 背 脂 肪 厚 ( 種 付 ) 図 8 H26.10.30 母 豚 群 P2 点 背 脂 肪 厚 ( 種 付 ) 図 6 H25.10.30 母 豚 群 P2 点 背 脂 肪 厚 ( 産 歴 ) 図 9 H26.10.30 母 豚 群 P2 点 背 脂 肪 厚 ( 産 歴 ) 図 7 H25.10.30 A 農 場 産 歴 構 成 図 10 H26.10.30 A 農 場 産 歴 構 成
厚 が 適 正 範 囲 の 母 豚 割 合 は60.3%と 大 きく 改 善 し 平 均 で16.6±3.48mmとばらつきも 改 善 され 離 乳 後 10mm 以 下 の 痩 せ 過 ぎも 解 消 し 種 付 けで きない 個 体 も 減 少 した( 図 8) 産 歴 毎 のP2 点 背 脂 肪 厚 も 産 歴 を 重 ねるごとの 低 下 が 緩 やかに 改 善 され 産 歴 構 成 は1 産 目 の 割 合 いが 突 出 して 多 いが これは 積 極 的 な 廃 用 更 新 に 伴 うF1 増 頭 の 移 行 期 のためで 概 ね 良 好 な 産 歴 構 成 に 近 づいてきている( 図 9 10) 取 り 組 み 後 の 改 善 効 果 を 表 2にまとめた これ は 平 成 25 年 10 月 時 点 と26 年 10 月 時 点 の 飼 養 母 豚 における 直 近 成 績 で 比 較 している 表 2に 示 した 主 要 項 目 全 てで 改 善 がみられ 特 に 平 均 離 乳 頭 数 は0.83 頭 増 と 著 しく 改 善 した これらをもとに 年 間 の 離 乳 頭 数 を 算 出 すると 年 間 300 頭 の 増 加 となり 実 際 に 農 場 では 離 乳 舎 が 詰 まる 傾 向 になってきたことから 簡 易 離 乳 舎 を4 基 増 設 して 平 成 26 年 10 月 から 稼 働 している 簡 易 離 乳 舎 は 平 成 27 年 中 にさらに2 基 を 増 設 予 定 で 新 たに120 頭 規 模 の 子 豚 舎 を 現 在 増 築 中 であ る また 参 考 ではあるが 平 成 25 年 と26 年 の 出 荷 頭 数 で 比 較 すると 子 豚 出 荷 と 肉 豚 出 荷 を 合 わ せて748 頭 増 加 し 豚 価 が 高 値 で 推 移 したことも 後 押 しして 年 間 で 約 2,000 万 円 の 収 入 増 となっ た 表 2 A 農 場 における 主 要 項 目 の 改 善 H25.10.30 時 点 H26.10.30 時 点 比 較 平 均 産 子 数 11.48 頭 11.88 頭 +0.5 頭 平 均 離 乳 頭 数 9.40 頭 10.23 頭 +0.83 頭 死 産 率 11.5 % 9.0 % -2.5 % 哺 乳 中 事 故 率 10.5 % 7.2 % -3.3 % 経 産 豚 空 胎 日 数 10.33 日 7.46 日 -2.87 日 経 産 豚 回 転 率 2.35 2.40 +0.05 まとめ 養 豚 場 における 生 産 性 向 上 対 策 は 疾 病 対 策 だ けでなく 繁 殖 成 績 の 改 善 も 必 要 であり 成 績 が 伸 び 悩 んでいる 農 場 ではまずP2 測 定 を 実 施 し ボディコンディションの 適 正 化 を 図 ることが 改 善 への 第 一 歩 である 適 正 化 を 図 ることで 日 常 の 母 豚 管 理 が 楽 になることはもちろん 数 字 的 にも 改 善 効 果 が 実 感 でき 収 入 アップに 繋 がる 可 能 性 が 高 い この 取 り 組 みは 現 在 までA 農 場 を 含 め6 農 場 で 実 施 しているが モデル 農 場 の 生 産 者 からは 1 分 娩 頭 数 離 乳 頭 数 の 増 加 2 離 乳 体 重 の 増 加 3 難 産 助 産 回 数 の 減 少 4 分 娩 後 の 発 熱 や 餌 の 食 い 止 まりの 減 少 5 乳 房 炎 や 蹄 病 など 母 豚 事 故 の 減 少 6 治 療 回 数 抗 生 剤 等 の 使 用 量 の 減 少 7 順 調 な 発 情 回 帰 とホルモン 剤 の 使 用 量 減 少 8 生 産 者 自 らに 母 豚 をみる 力 が 備 わった 等 の 効 果 や 感 想 を 聞 くことができた また A 農 場 では さらに 成 績 を 伸 ばしたい 毎 日 の 作 業 が 楽 しい という 声 も 聞 かれ パ ート 従 業 員 を 正 規 雇 用 するとともに 新 たな 取 り 組 みとしてPRRSのコントロール 対 策 や 国 の 農 場 HACCP 認 証 に 向 けた 取 り 組 みも 開 始 している 我 々 家 畜 保 健 衛 生 所 サイドからみると P2 点 背 脂 肪 厚 測 定 を 定 期 的 に 実 施 することで 生 産 者 とのコミュニケーション 家 畜 保 健 衛 生 所 との 繋 がりを 強 化 でき 結 果 農 場 に 存 在 する 問 題 点 を 見 つけやすく 生 産 者 の 改 善 意 欲 を 引 き 出 す 有 効 なツールとなる A 農 場 の 今 後 の 課 題 として 育 成 豚 が 群 飼 のた め 全 体 的 に 過 肥 の 傾 向 が 続 いていることから しっかりとした 後 継 豚 作 りと 授 乳 中 母 豚 の 消 耗 をさらに 抑 えるため 離 乳 時 12mm 以 上 を 目 標 に 餌 の 食 い 込 ませや 離 乳 日 齢 の 短 縮 などにも 取 り 組 む 必 要 ある 加 えてF1の 稼 働 母 豚 数 を70% 台 後 半 まで 増 頭 し 繁 殖 舎 の 自 動 給 餌 ライン 化 さらに 老 朽 化 が 目 立 つ 豚 舎 環 境 の 改 善 も 行 わな ければならない 特 に 育 成 段 階 から 初 回 種 付 け 時 におけるボディコンディションは 重 要 であり 全 ての 農 場 でこの 段 階 のBCSを 崩 すとその 後 の 繁 殖 成 績 は 伸 びない しかし 一 度 やる 気 を 引 き 出 せればこれらの 課 題 に 対 しても 前 向 きに 検 討 し てもらえる 環 境 がこの 取 り 組 みによって 出 来 上 がった P2 点 背 脂 肪 厚 測 定 は 慣 れれば 非 常 に 簡 単 にBCS が 把 握 でき 100 頭 規 模 の 全 頭 測 定 に 要 する 時 間 も1 時 間 程 度 であるものの P2 点 背 脂 肪 厚 測 定 が 各 農 場 に 定 着 するかが 我 々の 今 後 の 課 題 である まずは 適 正 化 の 効 果 を 実 感 させることが 重 要 で あり この 取 り 組 みが 事 業 化 できれば 生 産 者 か
らの 要 望 ニーズは 高 いと 思 われ 繁 殖 成 績 が 芳 しくない 農 場 では 積 極 的 に 実 施 するとともに モデル 的 に 実 施 したクリーンポーク 生 産 農 場 へ の 認 定 メリットの 一 つとして 事 業 化 することを 希 望 する 参 考 文 献 [1]チクサン 出 版 : 新 母 豚 全 書,14-20,(2008)